著者
保坂 毅 濱渦 亮子
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究代表者はこれまでに、リボソーム攻撃性抗生物質を活用した遺伝学的および生理学的に異なる二つのアプローチがバクテリアの潜在能力を引き出す手法として有効であることを明らかにしてきた。本研究において、その手法がバクテリアのみならずカビや酵母(真核微生物)の潜在能力活性化にも有効であることを実験的に証明した。加えて、ハイグロマイシン B 耐性変異および同抗生物質によるホルミシス効果でカビの潜在的二次代謝能が向上する現象に着目して、その仕組みについて詳しく解析したところ、リボソーム攻撃性抗生物質を用いた同じ手法でも、カビと細菌とでは異なる仕組みで潜在能力が引き出される可能性があることを見出した。
著者
竹本 幹夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

江戸初期以前に成立した非現行謡曲(番外曲)全曲245曲を翻刻・校訂し、それを踏まえ謡曲校訂の理論を確立し、モデルとなる校訂本文を作成するのが、本研究の目的である。曲ごとに複数の写本を翻刻したため、当初の245曲に67曲及ばず、ナ行までの178曲となった。未了分は今後も翻刻作業を継続する。この作業の過程で、謡曲本文の遡源的研究の可能性に想到した。これにより謡曲本文がどのように系統化したかのパターン分析の目安を得た。これは世阿弥自筆能本と現存謡本諸本との関係性の想定論に基づく理論であるが、世阿弥自筆本の存在しない非現行曲についても、ある程度の想定をすることが、曲ごとに可能となった。
著者
小松 英輔 松沢 和宏 下宮 忠雄
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

この研究の出発点は、言語学習ソシュールの残した自筆原稿や学生の講義ノートで研究者自身がマイクロフィルム撮影し、そこから研究することであった。この段階で我々が実証したことは、マイクロフィルムは専門の技術者にその作製をまかせるより、研究者が自分で影写した方がはるかに安価で上質のものができるということであった。次の段階でこれを全国の研究者に公開した。そのためにマイクロフィルムを長巻のままとせず、帰国して紙に定着させ、整理した上で、分類目録を発行して検索しやすくした。その結果、この資料集から多くの論文や著書が生れた。この研究に対して、日本国内から幾つかの反応があった。その一つは日本人が外国の文化に対してこういうことをやるのは、研究者として謙虚さに欠けるという批判、また、純粋に、資料を提供するという目的でやればいいのに、君の書いた英語版の序文は討論家気取りである等。自分自身の著わした著書は外国でも幾つかの書許の対象になったが、日本国内では、大学院の教科書にも使われるようになった(例、名古屋大学、大学院)同書の英訳版は補遺を伴って全三巻として英国のパ-ガモン書店より発行された(二巻まで既刊)。欧文研究誌FENESTRAはこれらの研究の成果を海外に発信するために企画された。ソシュールの『一般言語学講義』は言語学の「原論」であり、また他の多くの分野の人々に刺激を与えている。この研究誌の発行を通じて、多くの全国の研究者とネットワークを作った。
著者
林 文男 上村 佳孝
出版者
首都大学東京
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

昆虫類のオスの交尾器の多様性は顕著である.そうした多様性は,雌雄の交尾器の接合を通して進化してきたものである.しかし,交尾器のそれぞれの部分の機能については,その方法上の問題からほとんんど解明されていない.そこで,本研究では,新しい手法として,微細蛍光ビーズをオスの交尾器の各部に塗布し,交尾後にその蛍光ビーズがメスの腹部末端のどこに付着するのかを調べることによって,交尾器の接合部を明らかにした.大型昆虫であるカマキリ類を用いて,この手法を確立し,カマキリ類のオスの左右非対称な交尾器の機能が,メスの産卵弁を持ち上げることにあることを明らかにした.この手法は交尾器の機能解明に広く応用できる.
著者
五十嵐 学
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

インフルエンザの流行を効率よく制御するためには、抗原変異の機序を理解し、予測することが必要である。本研究では、インフルエンザウイルスの主要抗原であるヘマグルチニン(HA)とそのモノクローナル抗体(mAb)に焦点をあて、ウイルスがmAbからエスケープする際に起こるHA上のアミノ酸置換の特徴を明らかにすることを目的とした。具体的には、アミノ酸置換に伴うHA-mAb複合体の相互作用変化、およびHAの機能や構造安定性への影響を分子シミュレーション等の計算科学的手法により解析し、実際にエスケープ変異株で観測されるアミノ酸と比較した。
著者
津上 英輔
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

観光とは快のための旅である。ところが従来の観光研究において、個人を観光に駆り立てる快の本性については、論じられなかった。その結果、社会的行動としての観光の重視と個人的行為としての観光の蔑視との間の齟齬が解消されずにいる。本研究では、観光者の写真撮影、旅先での美食とショッピングについて観光学の成果を踏まえた美学的考察を行ない、観光の快が美的=感性的(aesthetic)なものであることを確かめた。
著者
水野 慎士 横井 茂樹
出版者
愛知工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,より進んだデジタルミュージアムの実現を目的として,工芸技法を仮想的に体験できるシステムや映像を対話的に生成したり制御したりするシステムを開発した.具体的には,沈金技法をCG空間で仮想体験できるシステムや,三次元CG空間で縄文土器の文様生成をシミュレーションするシステムなどを開発した.また多数のビデオ素材を同時に再生しながら対話的操作を行うシステム,運動視差立体視CGを用いたシステム,お絵描きをCGで拡張するシステムなどを開発した.また,ソーシャルメディアを用いて,ミュージアム所蔵品に関する様々な知識を共有できるオンラインミュージアムを提案した.
著者
児矢野 マリ 高村 ゆかり 久保 はるか 増沢 陽子 島村 健 鶴田 順 堀口 健夫 北村 喜宣 遠井 朗子 山下 竜一 佐古田 彰 藤谷 武史 坂田 雅夫 亘理 格 城山 英明 加藤 信行 郭 舜 小林 友彦 藤谷 武史 坂田 雅夫 及川 敬貴 梅村 悠 村上 裕一 伊藤 一頼
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

地球温暖化、海洋汚染、生物多様性の減少等、グローバル化した現代社会の環境問題に対処するためには、環境条約と各国の国内法・政策との連結と相互浸透が不可欠だが、その適正な確保は必ずしも容易ではない。本研究はこの問題に対処するため、国際法学、行政法学、行政学、環境法政策論を含む学際的研究として、地球温暖化、オゾン層の破壊、廃棄物・化学物質の規制、海洋汚染、生物多様性・自然保護、原子力安全規制を含む主要問題領域について、日本における多国間環境条約の国内実施及び環境条約の定立と発展に対する国内法・政策の作用の動態を実証分析し、その結果を統合して日本の特徴を解明するとともに、その課題と将来展望を探った。
著者
江原 靖人 中村 晴信 開發 邦宏
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

インフルエンザウイルス(IV)は現在、パンデミックが最も危惧されているウイルスである。このウイルスの表面はヘマグルチニン(HA)という3量体タンパク質によって覆われている。HAのシアル酸結合部位と高い親和性で結合する化合物は、あらゆる型のIVに対して予防、診断、治療が可能であると考えられる。本研究ではIV上のHAの3つの糖鎖結合部位に同時に結合するような3-way junction糖鎖修飾DNAを合成した。このDNAは、シアリルラクトース基単独に比べ、80,000倍親和性が向上した。この化合物は、高感度・迅速にインフルエンザ感染を診断するシステムや治療薬としての応用が可能であると期待される。
著者
南保 明日香
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

エボラウイルス侵入機構の分子基盤を解明するため、本研究においては、侵入過程に関与する宿主因子の網羅的同定を目的として検討を行った。その結果、エボラウイルス様粒子(VLP)の細胞表面への吸着、ならびに細胞への取込み、エンドソーム膜との膜融合における効果を定量的に評価することに成功した。現在、ハイコンテンツイメージング機器を用いた系の最適化とsiRNAスクリーニングを計画している。今後、同定された各種候補因子の機能解析を進めることで、エボラウイルス侵入機構の分子基盤の理解、ならびに抗エボラウイルス薬の開発に大きく貢献することが期待される。
著者
酒井 英行 畑中 吉治 青井 考 民井 淳 若狭 智嗣 岡村 弘之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、β^+型ガモフテラー(GT)遷移強度を、中間エネルギー(n, p)反応の微分散乱断面積及び偏極移行係数の精密測定から抽出し、池田の和則との比較から核内におけるクオーク自由度の関与を定量的に明らかにするのが目的である。1.(n, p)反応測定施設を全国共同利用研究センターRCNPに建設した。主要装置は、クリアリング電磁石、標的箱(MWDCと標的ラダー)、フロントエンドチェンバー、焦点面偏極度計からなる。2.300MeVに於いて^<27>Al,^<90>Zr(n,p)反応の微分散乱断面積ならびに偏極分解能の測定を行った。3.250MeVに於いてn+d弾性散乱の微分散乱断面横ならびに偏極分解能測定を行った。これは三体力の研究が目的である。4.^<90>Zr(n,p)反応の結果を多重極展開法で解析し、ガモフテラー遷移強度がβ^+=3.0±0.4と求まった。この値と以前に我々が求めたβ^-ガモフテラー遷移強度と組み合わせて、スピン和則値がQ=0.83±0.06と決められた。これから、核子・Δ粒子の結合定数(クオークスピン反転確率に比例する量)が、g'_<NΔ>=0.28-0.35と得られた。この様に、研究は順調に進み当初予定した成果を挙げることができた。尚、ここで実験的に得られたスピン和則値は最も信頼度が高いものであり、それから導かれたg'_<NΔ>は世界で最初の結果である。これから中性子星でのパイ中間子凝縮や通常核でのその前駆現象についての定量的な予測が可能になった。
著者
岡野 英之
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

■エボラ禍により渡航できず、代わりに北欧アフリカ研究所で客員研究員として滞在した■平成26年度はリベリア、シエラレオネがエボラ出血熱の災禍に巻き込まれたため渡航できず研究が十分に進まなかった。渡航予定であった期間、および、現地調査費用を流用する形で北欧アフリカ研究所(Nordic Africa Institute)で二か月間客員研究員をし、現地の研究者と交流を行った。■3つの口頭発表を行った■本年度の研究成果の口頭発表は三本ある。日本アフリカ学会での発表は、シエラレオネ人難民で内戦下のリベリアへと逃げざるを得なかった人々の経験を紹介することで、武装勢力の統治下で人々がいかなる暮らしをしているのかについて発表した。また、国際人類学民族誌学連合(International Union of Anthropology and Ethnographic Sciences: IUAES)の発表では、武装勢力の幹部がいかに人脈を用いて活動を展開しているのかを明らかにした。さらに、京都大学がカメルーンで12月に開催した国際会議では、元司令官が紛争後に部隊のコネクションを通じて新しいビジネスに乗り出していることを明らかにした。■本研究プロジェクトの成果の一部を書籍として発表した■2015年2月に昭和堂から『アフリカの内戦と武装勢力―シエラレオネにみる人脈ネットワークの生成と変容―』を上梓した。本書は、シエラレオネの内戦の動きを中心に、研究成果をまとめたものである。
著者
樋野 公宏 柴田 久 雨宮 護
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、地域住民が自発的に公園、通学路などの屋外環境を改善するためのプログラムを実践的に開発するものである。松山市久米地区では公園の環境改善を支援し、公園の利用状況や犯罪不安感に関するアンケートから子どもの移動自由性の高まりを確認した。福岡市の警固公園では「防犯と景観の両立」をコンセプトに改修デザインに協力し、園内での補導件数減少などの成果を上げた。また、足立区および東京都と協働して屋外環境改善プログラムを開発した。足立区では「防犯まちづくり推進地区認定制度」が創設され、東京都は「地域の危険箇所改善ガイドブック」等を作成、公開した。
著者
雨宮 護
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,2002年以降にわが国の大都市で活発に行われた防犯まちづくりの諸対策のうち,特に防犯カメラの設置事業に焦点をあて,犯罪への影響を検証した.具体的には,自治体による公共空間への防犯カメラ大規模設置事業の事例を対象に,同事業の取り組み実態を明らかにし,さらに,繁華街への防犯カメラの大規模設置事例を対象に,設置前後での犯罪情勢の変化を明らかにした.その結果,①事業の内容は自治体により大きく異なること,②特に防犯カメラ設置時における台数や箇所選定の決定過程や市民への説明の機会において課題があること,③繁華街に設置された事例では,財産犯に効果が見られたことなどを明らかとした.
著者
永井 康雄 池上 重康 月舘 敏栄 角 哲 崎山 俊雄 狩野 勝重 川向 正人 三辻 和弥 砂本 文彦 玉田 浩之 小俣 友輝
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

国・都道府県・市区町村による指定・登録文化財及び未指定・未登録の歴史的建造物39456件の基礎データを作成した。更に位置情報及び画像情報システムを構築し、東北6県における当該建物の情報を入力した。2008年7月24日の岩手県沿岸北部を震源とする地震の災害調査によって、本データベースの有用性を確認することができた。2011年3月11日に発生した東日本大震災による歴史的建造物の被害調査では、本データベースが基本台帳として活用されている。調査は、日本建築学会建築歴史・意匠委員会、文化庁、地方公共団体、建築関連諸団体が連携して進めている。
著者
片山 卓也 渡辺 治 佐伯 元司 米崎 直樹
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1986

属性文法にもとづくソフトウェア自動合成システムの講成法についての研究を行った。このようなシステムの構成には、適切な仕様記述言語とそれで書かれた仕様からソフトウェアを生成するためのシステムが存在しなければならないが、本研究では、それらのいずれをも属性文法にもとづく形式的体系で記述しようとしたものである。元来、属性文法はプログラム言語の意味記述のために導入された形式的体系であるが、その本質は木構造上の関数的計算であり、ソフトウェアやその構成プロセス、ソフトウェアオブジェクトベースの記述には有効な形式的体系である。本研究はこのような観点にたって、ソフトウェア自動合成システムの構成に属性文法にもとづく形式的体系を用いようとしたものである。本研究で得られた主な成果は次の通りである。1.属性文法にもとづく階層的関数型言語AGとそのプログラミング環境SAGEシステムの構成、2.階層的関数型ソフトウェアプロセスモデルHFSPの提案とそのSAGEシステム上での実働化、3.オブジェクト指向属性文法OAGの提案とその評価法、およびソフトウェアデータベース記述への応用。言語AGとその環境SAGEについては、言語の仕様決定、SAGEシステムの各構成要素の設計と構成を行ったが、現在SAGEシステムは一般公開が可能な状態になっている。ソフトウェアプロセスモデルHFSPは、属性文法にもとづく階層的関数型計算モデルをソフトウェアプロセスに適用したものであり、いくつかのソフトウェアプロセスの記述およびそのSAGE上でのプロトタイプ実現を通してその有効性を確かめることが出来た。OAGはオブジェクト指向的機構を用いて属性文法に状態や自己改変概念を導入したものである。OAGの形式化、評価法およびオブジェクトベースの代表的局面の記述を通して、OAGの有効性を確認することができた。
著者
山内 秀文 OLRANDO R. Pulido 馬 靈飛 佐々木 光 桜庭 弘視 楊 萍 MA Ling. Fei. PULIDO O. R. 木村 有一 土居 修一 田村 靖夫 徐 へん 馬 霊飛 菊地 與志也
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

スギ丸太の歩留まり向上と廃棄物低減を目指し、スギ樹皮を有効利用する方法として厚物成形ボードに転換する方法を検討した。さらに、このボードの持つ断熱性、成型性、耐久性、厚物化による載荷性などの性能を生かし、付加価値の高い利用法として床暖房基材とすることを考案し、これの基礎技術を確立する実験を行った。検討結果を以下のような四章にまとめた。1)スギ樹皮ボードの諸性質:スギ樹皮ボードの基礎的な性質を明らかにするために、小試験体により力学的性質、寸法安定性、断熱性、VOC吸着性及び遮音性能を測定した。樹皮ボードは力学的性能がやや劣るものの、優れた断熱性、VOC吸着性などを持つことが明らかになった。2)床暖房基材成型用金型の設計・試作及び実験用ボードの製造:既存の蒸気噴射プレス定盤に取り付けて用いる成形金型の設計を行った。金型の成形パターンは汎用性と施工性を考え正方格子状とした。この金型を用い、イソシアネート樹脂接着剤を用いて厚さ45mm、比重0.40の実験用ボードを1枚当たり4.5分で製造できた。3)床暖房モデルを用いた配管及び床構成の検討:先に試験製造したボードを用い、約1×2mの床暖房モデルを作製し、熱源を接続して配管パターン、配管直径、熱拡散材料の有無による暖房効果への影響を検討した。配管の差異による影響はほとんど見られなかったが、熱拡散材料、特に薄様の金属板の使用は暖房速度の向上及び暖房の均一化に効果的であった。4)実大試験住宅への床暖房の施工:最終的な施工方法の開発及び施工性の評価を目的として、実大の試験住宅内の一室に暖房床を施工した。この検討から、開発した方法が良好な施工性、高い自由度をもつことが明らかになった。
著者
高橋 康介
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究は可視化データ認知におけるバイアスの発生機序の解明、及びバイアス除去のための学習法の確立を目指し、以下の3 つのテーマについて実験研究を行うものである。(1)グラフ理解課題時の眼球運動測定を行い、視線パターンのダイナミクスを同定する。(2)高次データ変換法を用いた認知課題により、グラフ理解におけるノービスとエキスパートの認知モデルを明らかにする。(3)可視化データ認知におけるバイアス除去のための学習法を開発し、効果を検証する。初年度は当初計画通り(2)の高次データ変換法を用いた認知実験を行った。高次データ変換法とは3次元以上からなるデータに対して部分次元の関係を複数のグラフで呈示し、それらを統合することで高次元データの把握を求めるという新規な手法である。予備的実験として当初予定の実験内容(グラフ作成課題)を実施した結果、課題難易度が非常に高く、エキスパートの被験者にとっても課題遂行が困難であった。このため実験課題を一部変更し、部分的に情報が欠落したグラフを完成させる課題に変更した。課題変更の結果、ノービスの被験者であっても課題を遂行できる程度の難易度に調整することが可能であった。実験の結果、試行を重ねるにつれて課題遂行時間や正答率において向上が認められた。また呈示する部分グラフ次元の空間関係による効果も認められた。今後、学習進行に応じたバイアスの減少等の詳細な分析を行う予定である。
著者
三輪 敬之
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

都市生活空間において人間が自然環境の様々な変化をイメージできるような環境心理情報を創出する試みの一方法として、遠隔地の樹木個体(葉、幹など)が示す生体電位変化をリアルタイムで視聴覚的に表現するディスプレイシステムを昨年度、考案開発した。本年度は交付申請書に従い、富士山麓における樹木群を対象とし、樹木間の関係性の有無とその挙動を試作した16chからなる計測システムにより調べた。結果として、樹木の生体電位変化(DC成分)は日周性が認められるものもあるが、全体的には複雑な様相を呈する。すなわち、樹木群の電位分布は同種間、異種間ともに一様ではなく、時々刻々と変化しており、動的なネットワークを形成する。これは樹木相互間における情報の生成に関係していると考えられ、コミュニケーション(情報場)の存在を示唆するものである。さらに、データ転送系を工夫することにより、数km先まで計測範囲の広域化を図り、離れた場所における樹木群の電位変化を1箇所にて収集、解析できるようにした。また、水中電極を開発し、西表島にてマングローブの生体電位変化(AC成分)を計測した。一方、デイスプレイ情報には主としてAC成分を採用したが、電位変化の周波数帯域が10Hz以下であるため、昨年度の音表現方式とは別に、本年度は0.1Hzまでの超低周波音を発生できる環境槽を製作し、生体電位変化を直接入力した時の人間の脳波を調べた。また、試作ディスプレイ装置についてSD法による心理学的評価を行った。さらに、葉群が示す多様な生体電位変化挙動をシミュレーションした光ディスプレイ装置の開発を試みた。以上、本研究では、生態系における樹木群の生体電位計測装置を試作するとともに、計測データを生活空間に伝送し、ディスプレイ装置を介して樹木と人間がコミュニケーションできるシステムの開発を行い、自然環境を導入した環境心理空間の設計指針を得た。
著者
竹下 秀子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ボノボ(Pan paniscus)を対象とし、複数物体による道具の構成が必要とされる場面で、当該の道具使用に関して、ヒトによるモデル行動がある場合を設定し、実験を実施した。チンパンジーのヤシの種子割りにみられるような、ユニットメソッドによる道具の構成が可能かどうかを、明らかにすることを目的とした。11頭の飼育ボノボを対象とした第1実験の結果、3頭のおとなのボノボは、1本の棒をかき寄せ棒として使用した。1頭のおとなオスは1本の棒をプラスチックケースに投げつけた。1頭のおとなメスと8歳と4歳のオスは棒ではなくウッドウールをプラスチックケースにむけて差し出し、引き戻した。おとなのうち2頭は、棒を使用して、多様な対象操作をおこなった。第1実験でもっともアクティヴで多様な行動を示したおとなの2頭を対象として、集中的なモデル行動の提示をおこなう第2実験を実施した。その結果、1頭は、幾度か2本の棒をつなぎ合わせることができたが、そのたびに、即座に分解してしまい、できあがった長い棒を道具として使うことはなかった。もう1頭も、一貫してアクティブであり、1本の棒でなんとかプラスチックケースをかき寄せようとした。利き手である右手は、4本の指の協調で精緻な操作が可能であり、左手は常に補助的に有効に使用されていた。両手使用の対象操作技能は非常に高いレベルにある。また、1本の棒使用ではより長い棒を選択していた。使用していた棒をケージの外に手放してしまうと、それを取り戻すために、短い棒を使用し、それも手放した場合には、ウッドウールを利用するというように、複数物体を、順次利用する行動も出現した。しかし、両対象個体とも、90試行を経ても、2本の棒を組み立てて、新たな長い棒を構成し、刺激の食物をかき寄せる行動は出現しなかった。