著者
桐原 和大
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、測定対象の分子に強電界などのストレスをかけずにその伝導性や電子構造を知る新しい分子デバイスとして、有機分子の熱起電力を測定する素子を構築することを目的とする。ミクロンからサブミクロンに至るスケールの微小領域の熱起電力測定システムを開発し、その信頼性の評価として、ボロンナノベルト1本の熱起電力の測定に成功した。サブミクロンギャップの微細電極間に、有機分子を架橋するためのAuナノ粒子とAl_2O_3マトリクスのナノコンポジットを製膜した。その結果、約5nmの粒径のAuナノ粒子が最小2nm程度の粒子間隔で分散した薄膜を堆積出来た。しかしながら、測定ターゲットであるビピリジン誘導体を固定化しても、電流電圧特性に変化があるものの、再現性が見られなかった。ナノ粒子間隔をさらに小さくする必要があることを示している。
著者
堀畑 正臣
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

室町前期の古記録(中原師守『師守記』(記録1339~74)、三条公忠『後愚昧記』(記録1361~83)、伏見宮貞成親王『看聞日記』(記録1416~48)に於ける記録語・記録語法の調査と研究を行い、(1)記録語「計會」、「秘計」の意味の変遷をまとめ、(2)『看聞日記』の記録語「生涯」についての先学の記述の訂正と意味を論じ、(3)記録語法の「有御~(御~あり)」について『覚一本平家物語』と古記録資料の関係を究明し、(4)これらを収めた研究成果報告書を作成した。(5)また、多くの記録語・記録語法の用例をカードに取り、今後の研究に利用できるようにした
著者
松本 峰哲
出版者
種智院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は、『カーラチャクラ・タントラ』及び、『ウィマラフラバー』の翻訳研究と平行して、特に『カーラチャクラ・タントラ』の成立に重要な影響を与えたとされる『ナーマサンギーティ』の注釈書『アムリタカニカー』のテキスト再校訂及びコンピューター入力、そして翻訳研究を行った。再校訂作業が難航し、翻訳が進まなかったため、成果を外部に発表するまで至らなかった。しかし、従来指摘されてきた『カーラチャクラ・タントラ』と『ナーマサンギーティ』の関係について、特に本初仏に関する論議があまり行われていないなど、従来指摘されていた両教典の密接な関係性について、疑問を提示する箇所がいくつか見つかっており、この点に関しては、今後なるべく早い段階で発表したいと考えている。また、本年度は『ヴィマァプラバー』が、『カーラチャクラ・タントラ』の説かれた場所であると説明するインドのアマラヴァティーの遺跡を実際に調査し、許可を得て、博物館の収蔵物を写真撮影した。遺跡から発掘された遺品には、密教に関するもの非常に少なく、また、アマラヴァティーの遺跡自体も『ヴィマラプラバー』に説かれる仏塔のイメージとはかなり異なっていることから、なぜ『ヴィマラプラバー』に説かれるアマラバディーの異名とされるダーニヤタカタの仏塔が、現存するアマラバディーの仏塔と同一のものなのか、新たな疑問が浮かび上がった。
著者
湯川 恭敏 BESHA Ruth M 加賀谷 良平
出版者
東京外国語大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1988

今年度は、前年度の現地調査によって得られた以下のタンザニア諸言語(部族語)のデータについて、できる限り多くのものの整理と分析を目標とした。チャガ語マチャメ方言、同ヴンジョ方言、同キボソ方言、パレ語、ズィグア語、ザラモ語、ゴゴ語、ベナ語、マトゥンビ語、マコンデ語、マンダ語、ニャキュサ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ニャムウェズィ語、ハヤ語、サンダウェ語また、タンザニアからの参加者ルス・Mベシャは、シャンバラ語(サンバー語)についての研究を整理した。その結果、以下の諸言語に関してかなりの水準の分析ができた。チャガ語マチャメ方言、パレ語、ザラモ語、ゴゴ語、マコンデ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ハヤ語それらの分析結果の多くは、科学研究費補助金による出版『Studies in Tanzanian Languages』に、ベシャの論文とともに収録されている。バントゥ諸語のように互いに似通った文法構造を有し、かつ、欧米諸国の研究者によってある程度の研究がなされている言語については、個別言語の文法等についての初歩的事実を記述するのでは(仮にその言語についての研究としては初めてであったとしても)言語学的意味がほとんどないので、我々は各言語について、その全体的な音韻・文法構造を把握すると同時に、従来バントゥ諸語研究全体としてみて不十分であった分野のつっこんだ分析をめざした。その分野とは、主にアクセントの領域であり、日本語とよく似た高低アクセントを有するバントゥ諸語のアクセントの解明は、その言語そのものの研究にとって重要なものであるとともに、一般言語学的にも極めて重要なものである。その中でも、動詞のアクセントは、バントゥ諸語の動司の文法的複雑さ(動詞語幹にさまざまな接辞がくっついて数多くの活用形ができあがるという特徴)のために、その解明に特別の努力を要するものであり、また、それを解明するには、その言語の動詞にいかなる活用形が存在するのかを前もって知っている必要がある。すなわち、その言語の文法に関する総合的知識を必要とするため、各言語の全体的な構造の紹介と言語学的に高度な分析とを統一的に遂行するには恰好の領域といえる。我々の努力がこの線に沿ってなされたのは、こうした理由による。なお、タンザニアのバントゥ諸語には、チャガ語やスクマ語のようにかなり複雑なアクセント体系を有する言語がある一方、ザラモ語のようにアクセント対立がなくなっているもの、あるいはかなり簡単化しているものも相当ある。そのような言語についても、動詞組織の解明に意味がないわけではないので、そうした論文も発表した。また、ベシャの研究は、シャンバラ語の話し手としての言語感覚を生かした研究を行ってほしいという我々の要望に応えたものとなっている。こうした面での努力と同時に、我々は、二つの言語を選んで、その語彙集を同じく科学研究費補助金によって編纂し出版した(ニランバ語、パレ語)。これらは、従来この種の辞書類にはあまり見られないアクセント表記を付したものであるとともに、タンザニアの国語であるスワヒリ語の単語をも(今後のスワヒリ語と部族語との比較・対照研究の便宜をはかるために)つけ加えたものである。以上の研究は、タンザニア124部族のうちの約1割の言語を扱ったにすぎないという点では初歩的といわざるをえないし、今後の一層の研究(既存データの分析と新たな調査)を必要とするけれども、少数の研究者による短期の調査によるものとしては質量ともにおそらく世界的にも他に類を見ないものであり、これによって、タンザニアのバントゥ諸語の研究の発展に重要な寄与をなしたといえるのみならず、広くはバントゥ諸語の記述・比較研究にも一定の寄与をなしえたといえよう。バントゥ諸語比較研究との関連でいえば、そうした研究のレベルは個別言語の記述がどこまで正確であるかによって規定されるものであり、個別言語の言語学的分析を中心とした我々の今回の研究は、その小さな部分にすぎないけれども、それなりに極めて重要な意義を将来にわたって持ち続けることになろう。
著者
御子柴 道夫 長縄 光夫 松原 広志 白倉 克文 清水 昭雄 大矢 温 加藤 史朗 清水 俊行 下里 俊行 根村 亮 坂本 博
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

18世紀後半から19世紀前半までのロシア思想史を、従来の社会思想史、政治思想史に偏る研究視点から脱し、それらを踏まえたうえで、狭義の哲学思想、宗教思想、文学思想、芸術思想の多岐にわたる面で多面的に研究してきた。その結果、従来わが国ではもっぱら思想家としてしか扱われてこなかったレオンチェフの小説にスポット・ライトが当てられ、逆に小説家としてしか論じてこられなかったプラトーノブやチェーホラが思想面からアプローチされた。またロシア正教会内の一事件としてわが国ではほとんど手つかずだった賛名派の騒動が思想ないし哲学面から解釈された。さらに象徴派の画家やアヴァンギャルド画家が哲学あるいは社会思想史の視点からの考察の対象となった。と同時に、これらの作業の結果、ロシアでは文学、芸術、宗教儀礼、あるいは社会的事件さえもが思想と有機的に密接に結びついているのではないかとの以前からの感触が具体的に実証されることとなった。また、文化のあらゆる領域を思想の問題としてとらえた結果、当該時期のロシア思想史をほとんど遺漏なく網羅することが可能になった。この基本作業をふまえて、いくつかのテーマ--近代化の問題、ナショナリズムとグローバリズムないしユニヴァーサリズムの問題、認識論や存在論の問題などが浮上してきた。分担者、協力者各自の研究の中で当然それらのテーマは咀嚼され発展させられてきたが、今後はこれらのテーマを核に、この4年間で蓄積された膨大な素材を通史的に整理し止揚する作業を継続してゆき、書籍として刊行して世に問うことを目指す。
著者
山下 暁美
出版者
常磐大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

「お」・「ご」の使用、「丁寧語の異なる動詞」の使用とともに「性差」、「年齢」と相関関係が見られないことが明らかになった。いいかえれば、「老若男女」に関係なく、言葉が使われている。しかし、「世代」と「母語」については「丁寧度の異なる動詞」の使用との間に強い相関関係が認められた。「世代」をさかのぼるほど丁寧度の高い表現が選択される傾向がある。戦前の国語教育の歴史が垣間見られる。3世のほうに5段階のぞんざいな表現を使用する傾向が見られる。しかし、ぞんざいな表現を使用するからといって、3世には相手に対する顧慮がないということは言えない。親愛の気持ちを表現している可能性は十分にあり、「ね」の使用が見られる。3世に近づけば近づくほど、階層差をわきまえることより、親愛の関係を協調することが人間関係にとって重要であると認識されているように思われる。「コロニア在住経験のある人」のほうが丁寧な段階の表現を使用している。コロニアにおいては戦前から皇民化教育として国語教育がしっかりと行われていた。家庭内で学習された日本語とコロニア内の学校における国語教育の影響が見られる。両親のどちらかが西日本出身である場合は「レル・ラレル」形の使用率が高い傾向があるが、日系ブラジル人全体としても「レル・ラレル」形は今もよく使われ、共通語家の様子がうかがわれる。西日本、なかでも中国、九州地方を中心とした方言が生きていることからもこのことが裏付けられた。
著者
黒田 充紀
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

マイクロメートル寸法領域における金属材料の機械的性質の寸法依存性について実験的に調べ,それを,物理的合理性をもって再現可能な高次勾配結晶塑性論を定式化した.実験研究においては,板厚の異なる単結晶アルミニウム箔と単結晶銅箔を用いて,ひずみ勾配とともに蓄積される内部応力の挙動を明らかにした.理論研究においては,幾何学的必要転位密度の空間勾配によって発生する内部応力を考慮した高次勾配結晶塑性理論を定式化した.
著者
橋本 健史 岡田 泰昌
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

【目的】:下肢組織をin vitroで保存するための条件を発見し、電気刺激実験系を確立することを本研究の目的とした。【対象と方法】対象は、幼若ラット群(9日齢)5例、若齢ラット群(16日齢)5例、成熟ラット群(生後3ヶ月以上)3例とした。麻酔下に開胸および開腹を行い、大動脈経由で人工的に下肢を灌流・維持できるようにした。自発呼吸活動をモニターした。標本を22℃〜36℃の様々な温度条件下で、至適灌流条件を検索するとともに、灌流液を室内気平衡条件下と高酸素平衡条件下とした場合の標本生存性を比較検討した。成熟ラット群については、腸骨動脈内へカテーテルを挿入し、下肢のみの人工的灌流を行うとともに、至適灌流条件についての検討も行った。吸引電極を用いて足部の各種の遠心性末梢神経の電気刺激を行うことによりin vitroにおいて様々な足運動を再現させることを試みた。【結果】幼若ラット群、若齢ラット群では、適当な条件下では長時間にわたって神経活動を維持・確認しえた。灌流温度としては28-32℃が適していると思われた。また、灌流液組成としては、ブドウ糖30mM,塩化ナトリウム126mM,塩化カリウム5mM、重炭酸ナトリウム26mM、硫酸マグネシウム2mM、塩化カルシウム2mM,燐酸二水素ナトリワム1mMとしそれを、それを酸素95%,二酸化炭素5%で平衡させた条件(pH=7.4)で、満足しうる標本維持結果を得ることができた。【結論】今回の結果から、28-32℃の灌流温度と一定の灌流液組成および至適pH=7.4で摘出下肢組織標本を経動脈的に灌流・維持することにより、神経の電気刺激にも十分、反応するin vitro実験系を確立することができた。これらの成果は、第30回日本足の外科学会と第3回国際足の外科学会で発表予定である。
著者
木村 昌由美
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

今年度の研究ではラットを用いた実験系において、1)妊娠初期に特有な生殖器官由来の催眠性サイトカインに着目し、そのサイトカインの中枢性作用を阻害したときに生じる睡眠変動について解析を深めるためのさらなる追試を行った。また、2)高齢雌ラットにおいてエストロゲン補填の処置を行い、睡眠一覚醒パターンを記録するのと同時に血中サイトカイン量ならびに脳内アセチルコリン(ChAT)活性を測定し、女性特有な睡眠パターンに対するエストロゲンの総合的な作用に検討を加えた。1)研究代表者による先行研究で、ラットにおいてもヒトと同様、妊娠のきわめて初期に過剰睡眠が誘発されることがこれまでに確かめられている。この時期、着床に重要な役割を担う顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)の中和抗体をラットの脳室内に連続投与すると、対照IgGを投与された妊娠ラットにおける増加した睡眠パターンと比較して、ノンレム睡眠の約25%、レム睡眠の約60%が有意に減少し、最終的な出産を迎えられない母親ラットも数匹確認された。2)高齢雌ラットにおいては、細菌毒の一種であるリポポリサッカライド(LPS)に対する弱まった感受性が、エストロゲン補填処置(ERT)によって回復することが、これまでの研究で示唆されている。追究の結果、SD系雌ラットでは、明期のノンレム睡眠量が明らかに減少する一方、暗期のレム睡眠が増加するという、睡眠-覚醒パターンにおける日内リズムの狂いが著しく観察され、それが一週間のERTで若齢レベルに若返ることが示唆された。その際、E_2処理された群でLPS刺激後の血中TNFα量が有意に増え、IL-1量には変化は見られなかった。脳内ChAT活性は特定の部位でE_2による上昇効果がみられており、この作用がレム睡眠リズムの回復に関係していると考えられる。
著者
片岡 洋行
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、内分泌撹乱化学物質のin vivoでの毒性評価法として(1)遺伝的に雌雄で体色が異なる性的二色性メダカを用いて、形態及び体色変化をマーカーとした性転換に基づく内分泌撹乱化学物質のスクリーニング法と(2)雌特有の体内リン酸化蛋白質(ビテロゲニン)中の構成ホスホアミノ酸をバイオマーカーとする内分泌撹乱作用(エストロゲン様活性)の定量評価法を開発し、環境中の有害化学物質の毒性評価に応用することを目的とした。(1)では、緋色メダカが雄、白メダカが雌となる性的二色性メダカを用いて、孵化後の性分化が生じる時期にメダカを化学物質に曝露させ、形態学的雌雄(鰭の形状から判別)と遺伝的雌雄(色素斑点の有無から判別)を調べ、性転換魚の出現率を検討したが、稚魚が曝露中に死亡するケースが多く、明確な結論は得られなかった。(2)では、化学物質を含む水溶液中でメダカを一定期間飼育した後、5%トリクロロ酢酸を加えて蛋白質を沈殿回収した、得られた蛋白質を6N塩酸気相中で110℃、2時間加水分解した後、遊離したホスホアミノ酸は、水溶液中から簡単にN-イソプトキシカルボニルメチルエステル誘導体へ変換でき、FPD-GCにより選択的かつ高感度に分析できた。検出限界はGC注入量としてホスホセリン(P-Ser)50pg,ホスホスレオニン(P-Thr)40pgであった。雄の成熟メダカをβ-エストラジオール(E2)に曝露したところ、E2の入っていないコントロールに比べP-SerとP-Thrレベルが顕著に増加した、また、E2濃度(0.5〜10ppb)及び曝露日数(0〜10日)に依存してP-SerとP-Thrレベルは上昇したが、男性ホルモンのテストステロンによる曝露ではほとんどホスホアミノ酸レベルの上昇は認められなかった。さらに、合成エストロゲンであるEE2やDESでも著しいP-SerとP-Thrレベルの上昇が認められ、エストロゲン拮抗剤であるタモキシフェンの同時曝露によりこれらの上昇が抑制されたことから、蛋白質リン酸化レベルがエストロゲン様活性の指標になることが明らかとなった。この手法を用いて様々な環境化学物質の曝露によるエストロゲン様活性を調べたところ、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ビスフェノールA、ノニルフェノール、PCBでは、5日間の曝露でほとんどエストロゲン様活性は観察されなかったが、60日間の長期曝露によりエストロゲン様活性を検出できることがわかった、これらの結果は、メダカを環境水中に曝露、あるいは環境中に生息する卵生生物のホスホアミノ酸レベルを調べることにより、環境汚染や生態系への影響を把握できることを示しており、内分泌撹乱化学物質の新しい毒性評価法として有効な手法になるものと期待される。
著者
梅宮 典子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

集合住宅10戸の夏季から中間期の窓開閉、冷房使用、室内温熱環境の実測記録により、1)外気温26℃〜33℃で冷房使用率は70%程度、2)冷房期の冷房使用率は室温でロジスティック回帰できる、3)外気温と開放率の関係は季節によらず一定、4)外気温22℃のとき開放率最大、5)外気温22℃、27℃、31℃で調節の選択傾向が変化、6)外気温が室温より4K高いとき開放率最大、7)冷房期に「冷房停止・閉鎖」の選択率が最大のときPMVは1.5〜1.75。8)内外気温は季節ごとには相関なし、9)冷房〜中間期合計では相関は冷房停止・開放、冷房停止・閉鎖のとき高く、冷房使用時は相関なし、10)内外気温の相関は冷房停止・開放からの変化では冷房期と冷房終了期に高く、冷房停止・開放への変化では低い。11)中間期には内外気温の相関は、閉鎖から開放への変化時が、開放から閉鎖への変化時より高い。一方、集合住宅290戸の夏季温熱環境調節のアンケートにより、1)開放する理由は換気・通風、掃除、2)閉めておく理由は温熱環境維持が特に低開放頻度住戸で強く、防犯が開放頻度によらず強い。3)閉鎖する理由は冷房、外出。開放頻度の低い住戸は騒音、高い住戸は室温低下に敏感、4)居住年数とエアコン台数(有意水準1%)、就寝時の冷房使用と年齢、虫(2%)が冷房費に関連。5)南向き住戸は冷房費が安く、設定温度が高く、主観的冷房使用程度が低い。西向き住戸は冷房費が高い、5)睡眠や食事など生活様式、外界への好み、環境問題への関心は冷房費と関連が弱い、6)外部の視線は使用程度に関連、7)体質は設定温度にのみ関連、8)結露、におい、カビがあると使用程度が高く設定温度が高い、9)冷房費節約意識は設定温度を上げ使用程度を下げるが、冷房費には影響しない。以上、温熱環境調節行為の生起と生起状態が室温と外気温をもとに推定できる可能性が示された。
著者
彼末 一之
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

温度に関係した感覚は「熱い・冷たい」という温度感覚と、「暑い・寒い」という温熱的快・不快感(快適感)に区別され、またそれぞれ全身の感覚と局所感覚がある。本年度は皮膚温と温熱的感覚の関係性を調べることを目的として、まず皮膚温、局所的温度感覚・快適感をコンピュータの人体模型上に再現するシステム(データ可視化システム)を開発した。全身50箇所から皮膚温を熱電対にて、25箇所から熱流量を熱流センサーにて30秒毎に測定した.一方全身的温度感覚・快適感、局所的温度感覚・快適感(25箇所)はスライダックの並んだパネル板(Fig.2)を使って随時被験者に申告させた。データ可視化システムではこのようにして得られた皮膚温、局所的感覚のデータをコンピューター上の人体模型に色を用いて表示した(Fig.3)。本システムの有用性を確かめるため、環境温を23℃(80分)→28℃(80分)→33℃(80分)と変化させ被験者男性3名、女性3名による実験を行った。環境温23℃の時、皮膚温は末梢において著明に低下し、冷たさによる不快感は特に足部において強かった。環境温を33℃にすると末梢と体幹部における皮膚温の差は小さくなった。頭部と体幹部の皮膚温の変化はよく似ていたが、暑さによる不快感は体幹部よりも頭部において強かった。このような皮膚温・感覚の全身分布、その変化を把握する上でデータ可視化システムは非常に有用であった。全身の皮膚温分布を調べるためにサーモグラフィーが用いられることが多いが、露出していない部位やカメラが正面からとらえられない部位の皮膚温は正しく測定できない。データ可視化システムは衣服着用下でも全身の正確な皮膚温を人体モデル上に再現することができ、また同じ人体モデル上に感覚のデータも示すことが可能である。
著者
小林 昭三
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

科学概念の形成を効果的に実現する最先端のIT利活用で力学分野、又は圧力・熱分野、等を詳細に記録し分析・検証する授業法を研究開発し、DVD教材集やウェブ資源に集大成して広く普及した。1.抵抗が極小な教材(超軽量台車、スペースワープ機材、ホバークラフト)活用で、運動法則、運動量、エネルギーなどの分野でも効果的な概念形成をするIT based授業を新展開した。2.ドライブレコーダーという装置で車の日常的な運動を記録して位置・速度を風景動画と同期・提示する(エクセル活用も可能)授業モジュールを開発をした。3.GPS装置で多様な運動(飛行機、新幹線、自転車、ランニング等)の3次元位置情報から効果的な速度概念の形成を可能にした。4.無線LANセンサー・PC装置、携帯センサー装置等の先進的IT活用で効果的授業法を開発した。5.空気抵抗や水の粘性抵抗が支配的な「空中や水中での物体の運動」の教材を研究開発した。6.最先端の動画DVDやMeb資源を蓄積し生徒・学生・教員への実習で初中高理科の改善に寄与した。2005PCカンファレンスの実行委員長として「情報教育の課題と展望一アジア諸国と日本」でASPEN韓国NPC・キム教授、前ASPEN議長代理・リー教授の招待講演を企画成功させた。ICPE2005インドでの講演、ICPE2006東京会議(8月13日〜18日)やASPEN香川Workshop(8月10日〜12日)の組織者として講演やワークショップを企画、等で上記諸成果を発表して国際的にアピールし、超軽量台車・紙カップ教材などを国際的に広く普及した。日本物理学会シンポでは「ICPE2006東京会議の報告と世界の物理教育の動向」の招待講演をした。国内外の学会や教育現場の教員研修・研究会や生徒・学生への実習を広く行ない、初・中・高教育における最先端のIT活用理科の新展開と再構築を進めた。
著者
豊国 源知
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

研究最終年度の本年は、昨年度から引き続き南極および北極の観測網で記録された遠地地震波形記録を用いて地球内核中をS波として伝搬するコアフェーズ「PKJKP」の検出を試みたが、検出には至らなかった。本課題のスタート直前には、PKJKPの検出を報告する論文が2編出版されていたが(Cao et al., 2005, Science; Wookey & Helffrich, 2008, Nature)、本年には検出可能性に否定的な研究が報告された(Shearer et al., 2011, GJI)。極域氷床上の地震波形データには、氷や雪の影響で水平動成分に特にノイズが多く、検出はさらに困難なものと考えられる。以上のことから本年は、極域の氷床上での地震波形データに氷床がどの程度影響を与えるかを定量的に評価することに研究の主眼を置いた。厚さが3km一定で、密度・地震波速度も一定の簡単な南極氷床モデルを作成し、ピュアな横ずれ型震源から励起される卓越周期30sのP波・S波の計算を行ったところ、氷床の効果はほとんど見られないことがわかった。地震波の鉛直成分の空間解像度は波長の1/8程度以上であることが知られているが、周期30sではP波・S波の波長がともに氷床の厚さに比べて長すぎるため、氷床の影響は見られなかったものと考えられる。よって30sよりも短い周期で計算を行う必要があるが、現在の計算機環境では30sの計算に約5日要しており、単純に周期を短くすることは実質上不可能であった。そこで本年は、シミュレーションの際にS波のみを励起する震源(トルク型震源)を用い、方程式のP波に関する部分を落とすことと、S波が地球の外核以深を伝搬しない性質を利用して計算領域を縮小することで、S波のみであるが30sより短周期での計算を実現した。卓越周期60s,30s,20s,10sの4つのケースで理論波形計算を行った結果、60sと30sでは氷床の影響がほとんど見られなかったのに対し、20sでは氷床上の観測波形に1.4倍程度の顕著な振幅の増幅が現れた。また10sの場合は1.6倍強のさらに顕著な増幅に加え、氷床内部の多重反射を反映したと考えられる後続波が見られることがわかった。振幅の増幅は、基盤岩の上にやわらかい堆積物が乗っている場合と同様の原理である。今回の計算により、氷床上で観測された30s以下の短周期地震波形では氷床の影響が顕著になることと、影響のオーダーを明らかにすることができた。
著者
佐藤 史郎
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

これまで、政策上、核抑止の重要性を主張することは「現実主義」である一方、核軍縮・不拡散措置の重要性を主張することは「理想主義」として捉えられてきた。前者が核に依存して安全の確保を試みるのに対して、後者は核に依存しないで安全確保を試みるからである。本研究は、威嚇型と約束型という2つの再保証(reassurance)の行動予告に着眼することで、核軍縮・不拡散措置の重要性を主張することは「現実主義」である旨を提示した。
著者
河島 弘美 土谷 直人 牧野 陽子 劉 岸偉 橋本 順光 平川 祐弘 土谷 直人 牧野 陽子 劉 岸偉 橋本 順光 平川 祐弘
出版者
東洋学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

異文化理解と偏見のあらわれた具体的なケースについて、各研究者がそれぞれ考察した。その対象は、ハーンを中心にウェーリー、シュレイデル、周作人、新渡戸稲造、モース、リーチ、柳宗悦、ピアソン等、多岐にわたるものである。そして、異文化体験には西洋と非西洋の関係にとどまらない様々の場合があり、理解と偏見の諸相は個人の問題であると同時に文化的社会的背景の影響が大きく深いという事実立証された。
著者
下里 俊行 松田 慎也 真野 俊和 二谷 貞夫 浅倉 有子 河西 英通
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究成果として東アジア地域史のためのマルチ・メディア教材の試作版を作成し、CD-ROMの形態で製作・頒布した。教材の仕様としては、テキスト(PDF)、画像(JPEG)、動画(Quick Time)から構成されるデータ・ベース型の教材用素材集の形をとり、ユーザー(教員・学習者)による自由検索とローテク素材への出力が容易でかつ追加的にデータを集積することが可能な構造をもっている点を特徴としている。歴史研究・教育のためのマルチ・メディア電子教材開発にかかわる総合的な検討結果は以下の通り。1. 教育用のマルチ・メディア開発では、常に費用対効果のバランスの観点に立って不断に進化するハイエンド技術の応用を志向しつつも教育現場での汎用性を考慮してハイブリッドな技術構成を重視することが不可欠である。2. 複製技術の高度化とともに著作権上の問題が社会的に重視されつつあり、また歴史研究・教育におけるフィールド調査(地理学・民俗学的要素,音楽美術史的要素)に基づく教材・史料に対する専門的な解釈の重要性を考慮して、教材開発においてはアクセス困難な貴重な素材の引用を除いてできるかぎりオリジナルな素材の活用が望ましいという方向性が確認された。3. 国際的な視野から近隣諸国の研究者からレビューを受け、また各国の教材を検討した結果、各国教育関係者の歴史教育上の政策的課題の差異を十分に考慮しつつ、素材のグローカリゼーションの方向で教材開発を行うことが重要であることが明らかになった。4. 今後は、近隣各国の歴史研究・教育の動向を正確に踏まえ、各国の既存教材と比較検討することにより、アジア・太平洋地域におけるわが国の歴史教育の戦略的な検討課題(多文化共生の理念に立ったナショナル・アイデンティティ等)を視野に入れた歴史教材開発を行う必要があることが明らかになった。
著者
芦高 恵美子 伊藤 誠二
出版者
大阪工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

神経ペプチドノシスタチンは、神経損傷後の慢性痛や炎症性疼痛に対し抑制効果を示す。我々は、マウス脊髄シナプス膜よりノシスタチンに結合するタンパク質(Nocistatin binding protein, NSP)を同定した。ノシスタチンは神経組織に広く存在しているN末端の欠損した29kDaのNSPと結合した。NSP遺伝子欠損マウスでは、野生型で認められたノシスタチンによる触覚刺激によるアロディニアの抑制効果の消失に加え、炎症性疼痛の増強も認められた。
著者
伊藤 誠二 裏出 良博 松村 伸治 芦高 恵美子
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

痛みは生体にとって警告反応どなる生理的な痛みだけでなく、炎症や手術後の痛み、癌末期の疼痛、神経の損傷による神経因性疼痛(ニューロパシックペイン)と様々な原因で起こり、自発痛、侵害性刺激による痛覚過敏反応、本来痛みを誘発しない非侵害性刺激による痛み(アロディニア)とさまざまな病態をとる。末梢組織で活性化された侵害受容器のシグナルは一次求心性線維を介して脊髄後角に伝えられる。我々は、脊髄髄腔内にプロスタグランジン(PG)E_2あるいはPGF_<2α>を投与するとアロディニアを生じ、PGD_2がアロディニアの発症を修飾すること、これらのアロディニアの発症はカプサイシン感受性と非感受性の異なる2つの伝達経路を介すること、脊髄での中枢性感作には、PG→グルタミン酸→NMDA受容体→一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性化という生化学的カスケードを介することを明らかにしてきた。今年度は、アロディニアの発症機構におけるこれらの生体因子の役割をノックアウトマウスで明らかにするために、まずマウスの坐骨神経結紮モデルを確立し、検討した。1)アロディニアは坐骨神経結紮後、1週間で生じたが、COX-2のノックアウトマウスは、アロディニアの発生には関与しなかった。2)坐骨神経結紮モデルの痛覚反応はCOX-1の選択的阻害薬で抑制されたが、COX-2の選択的阻害薬では影響されなかった。3)誘導型NOSのノックアウトマウスでもアロディニア反応は抑制されなかった。4)NMDA受容体ノックアウトマウスではアロディニア反応の出現が抑制された。これらの結果は、アロディニアの発症にグルタミン酸による興奮性神経伝達が重要な役割をしていることを示唆するものである。今後、我々が進めてきた髄腔内PG投与によるアロディニアモデルと比較検討してアロディニアの発症機構を解明したいと考えている。
著者
芦高 恵美子 伊藤 誠二
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ノシセプチン/オーファニンFQ(N/OFQ)とノシスタチン(NST)は、同一前駆体タンパクから産生され、痛覚伝達において相反する作用を示す。ペプチドの産生、遊離が重要な制御機構の一つであると考えられる。Bioluminescence Resonance Energy Transfer(BRET)を用い、生細胞においてタンパクのプロセッシングを定量的にモニターできる新規プローブを開発し、NSTとN/OFQのプロセッシングに適用できることを明らかにした。本研究は、プロセッシングモニタープローブを導入した細胞において、NSTとN/OFQの産生、遊離を制御する分子の同定、さらに個体レベルでの疼痛発症における神経回路網解析を行い、疼痛発症制御機構の解明を目的とする。1.NSTとN/OFQの産生、遊離 プロセッシングモニタープローブを用いNSTとN/OFQの産生には、少なくともfurin、PC1およびPC2が関与していることを明らかにした。内因性にfurin発現細胞に、PC1を発現させると、NSTは恒常的分泌経路を、PC2発現により調節的分泌経路を介して分泌された。また、炎症性の痛覚モデルマウスにおいて、脊髄後角においてfurinとPC2が顕著に上昇する興味深い結果が得られた。このことは、プロセッシング酵素の誘導により、NSTの産生や分泌経路が異なり、N/OFQの痛覚発症が制御されている可能性が示唆された。2.NSTとN/OFQ遊離をめぐる疼痛発症 プロスタグランジンE_2によるアロディニアは、N/OFQの遊離を介しており、NSTによってその痛覚反応は抑制されたことより、NSTとN/OFQの遊離調節により、痛覚制御がなされていることも示唆された。