著者
伊藤 誠二 西澤 幹雄 芦高 恵美子 松村 伸治
出版者
関西医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

最近のDNAマイクロアレイの実験では、神経損傷に伴い100以上の遺伝子発現が変化することが報告されているが、どのように疼痛反応に関与するかは不明であった。今年度はPACAP(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)のノックアウト(PACAP^<-/->マウスを用いて検討を行った。神経損傷に伴いPACAPの発現がDRGの中型・大型細胞、脊髄後角の浅層で増加するが、PACAP^<-/->マウスでは見られなかった。痛覚伝達にはグルタミン酸NMDA受容体が重要であり、その活性化に伴い一酸化窒素(NO)の産生が増加する。神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)活性は組織を固定後、NADPHジアホラーゼ活性で組織染色して測定できる。神経損傷後、NADPHジアホラーゼ活性がPACAPの発現誘導部位に一致して増加していたが、PACAP^<-/->マウスでみられなかった。NADPHジアホラーゼがnNOSの活性化を反映しているかどうか確認するために、蛍光NO指示薬DAF-FMを用いてNO産生を検討した。脊髄スライスにNMDAあるいはPACAPを単独投与した場合にはNO産生がみられなかったが、NMDA存在下にPACAPは濃度依存的にNO産生を増加させた。PACAP^<-/->マウスでNMDAとPACAPが相乗的に作用してアロディニアを誘発することから、疼痛行動とNO産生との関連が確認された。さらに、培養細胞を用いてNMDAとPACAPでnNOSの細胞質から細胞膜へのトランスロケーションが引き起こされ、NO産生が上昇することが示された。nNOSは後シナプス膜肥厚(PSD)においてPSD-95を介してNMDA受容体と会合することが知られている。現在、神経因性疼痛に伴うNMDA受容体複合体の構成分子の変化をプロテオミクスで解析を進めている。
著者
杉原 興浩 岡本 尚道 小松 京嗣 戒能 俊邦 白井 宏政 芦高 秀知 江上 力 秋月 隆昌
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

情報通信分野における急速な情報量の増加により、光導波路を用いたモジュール間あるいはボード間の光インターコネクションの研究が活発に展開されている。本研究では、高耐熱性・優れた透明性を備えた樹脂を開発し、それを用いて光導波路デバイスを作製・評価することを目的とする。材料として高いガラス転移温度を有するポリアリレート樹脂を開発し、現行樹脂の欠点を克服し、これまでにない優れた光学特性を有する材料を得る。また該樹脂を光導波路デバイスに応用し、ポリアリレート高分子光導波路作製において、光インターコネクションや宅内・車載LANに応用できる低損失マルチモード光導波路(コア径:30〜100μm)を実現する。従来のポリアリレートは、200℃以上の耐熱性を有していたが、その構造にC-H結合を多く有するため、赤外域での吸収損失が無視できなかった。そこで、C-H結合の一部をC-F結合に置換したフッ素化ポリアリレートを開発し、その材料としての特性を評価した。その結果、ガラス転移温度は基本的なポリアリレートであるU-100と比べて30℃上昇し、耐熱性が向上していることが明らかとなった。また、可視〜赤外の広い領域でU-100と比較して透明性が向上しており、光導波路コア材として適していることも明らかとなった。このフッ素化ポリアリレートを用いて、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチング法でコア径90μm及び30μmのマルチモード光導波路を作製した。また、ポリアリレートは、電子線直接描画と熱現像により微細加工できるが、フッ素化ポリアリレートにおいては、微細加工に必要な電子線照射量がU-100の1/20で良いことがわかり、材料の電子線感度が大幅に向上することが新たに発見された。
著者
武田 正倫 斉藤 寛 窪寺 恒己 松浦 啓一 町田 昌昭 A.AZIZ W.W.KASTORO M.KASIM Moosa 松隈 明彦
出版者
国立科学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

平成4年度においては、平成4年11〜12月および平成5年1〜2月にアンボン島において、現地研究者の協力を得て、魚類・棘皮動物、軟体動物、魚類寄生虫、甲殻類の調査を行った。各動物群とも、多数の標本を採集して国立科学博物館へ持ち帰った。平成5年度においてはロンボク島各地を主調査地とし、補助的にスラウェシ島メナドにおいても調査を行った。調査方法は前年度と同様で、磯採集やキューバダイビングによって採集を行った。したがって、調査は主として潮間帯から水深20〜30mに達する珊瑚礁域で行われたが、その他、砂あるいは砂泥地においても各種動物を調査、採集した。魚類はおよそ2000点の標本を得、また、棘皮動物の標本はヒトデとクモヒトデ類を主として千数百点に上るが、すでに同定が行われたアンボン島産のクモヒトデ類は9科25種であった。軟体動物はロンボク島において多板類14種、大型腹足類約170種、二枚貝類約60種が採集された。このうち多板類は12種が日本南西部に分布する種と同種か、極めて近縁な種であり、その中の2種は新種と考えられる。また、頭足類は3科5種に同定された。甲殻類の標本数はおよそ1000点に達するが、造礁サンゴと共生する種の多くは琉球列島にも分布するものである。分類と分布だけでなく、生態に関しても特に興味深いのは、ウミシダ類やナマコ類と共生するカニ類で、数種の新種が確認された。魚類寄生虫に関しては、市場で新鮮な魚類を購入し、鰓や消化管に寄生する単生虫・二生虫・条虫・線虫、鉤頭虫・甲殻類を取出し、圧平標本や液浸標本として固定保存した。多くのものは沖縄と共通すると思われるが、ボラやボウズコンニャクの食道や腸から得た旋尾線虫や二生虫類に新種が発見された。すでに論文として、あるいは口頭で発表したものもあるが、分類学的研究が終了したものから順次国立科学博物館研究報告、動物分類学会誌あるいはそれぞれの動物群を対象とした専門誌に報告する予定である。
著者
山口 寿之
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

(1)深海熱水噴出孔(ベント)にはフジツボ類全4亜目中3亜目に「生きている化石」と呼ばれる原始的な分類群(エボシガイ:Neolepas zevinae Newman 1979,ハナカゴ:Neoverruca brachylepadoformis Newman & Hessler 1989,フジツボ:Eochionelasmus ohtai Yamaguchi 1990)が発見されていた.ラウ海盆のベントから第4番目のブラキレパドモルファ亜目の親属新種Neobrachylepas relica Newman & Yamaguchi 1995およびイ-スター島沖のベントからEochionelasmusの新種を提唱し,その原始性を議論した(Yamaguchi & Newman Jour.Crustacean Biol.に受理された).またEochionelasmusの北フィージ-,ラウ,マヌスの3海盆のベントからの集団標本間で,マヌス集団の付随小殻板の配列が他の2集団のそれとは異なり,それらに別々の新亜種名を与えた(Yamaguchi & Newman共著でBull.Mus.natl.Hist,Paris,4 ser.に投稿した).(2)マリアナ背弧海盆およびマヌス海盆のベントからそれぞれNeoverrucaおよびEochionelasmusのミトコンドリアDNAの16S領域の塩基配列を調べ,外群としてエボシガイ亜目を用いて系統を解析した.その結果,エボシガイ亜目から前者ハナカゴ亜目が派生し,ハナカゴ亜目から後者フジツボ亜目が派生したという系統が得られ,それはベントフジツボ類で化石記録・形態・幼生の個体発生・神経系などから考えられた系統に一致した.(3)Yamaguchi & Newman(1990)は,Eochionelasmusが現存するフジツボ亜目の中で浅海に棲むより原始的なイワフジツボ類(5種),クロフジツボ類(7種)のどれよりも原始的と評価した.ミトコンドリアDNAの系統解析でもその正当性が示された.そのうちクロフジツボ3種については長谷川・山口他(1996)に公表した.
著者
中山 京子 中牧 弘允 森茂 岳雄 織田 雪江 居城 勝彦 ALISON Muller RONALD Laguana LAWRENCE Cunningham
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来の先住民をテーマとした教育活動について、ポストコロニアルな視点から問題点を示し、先住民学習の意義を検討した。そして、先住民に関する展示をもつ博物館や先住民研究機関との連携のもとに、偏りのない理解を深めるための教材の開発を行った。その際、主にグアムの先住民チャモロをテーマにした試行実践を行った。研究を通して先住民学習の意義を明らかにし、これからの先住民学習の可能性を検討した。
著者
遠部 卓 上 真一
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

瀬戸内海において1‐3時間間隔で25‐72時間にわたって採集された海産枝角類の育房内の胚発生段階を調べ、Penilia avirostris(ウスカワミジンコ)では仔虫放出の日周性はないが、Evadne nordmanni(ノルドマンエボシミジンコ)及びEvadne tergestina(トゲナシエボシミジンコ)では夜間暗黒時にのみ産仔行動が起ることを再確認した。Evandne属は極めて大きい黒色の眼をもつので、仔虫放出直前のメス個体は育房中に多数の黒点をもち非常に目立ちやすいため、この時期を暗黒時にのみ経過することは視覚による捕食者を回避するための適応的戦略とみなされる。また、購入した赤外線カメラ撮影装置を装置した高画質顕微鏡ビデオ装置により、育房中の胚発生の経過と夜間暗黒時におけるEvandne tergestinaの産仔行動を撮影することに初めて成功した。特に、産仔は母虫の速やかな脱皮とともに起り、放出された仔虫は直ちに泳ぎ去る過程が明らかになった。この研究成果については「第3回国際枝角類シンポジウム」(ノルウエー・ベルゲン、1993年8月)において講演する予定である(Onbe,T.:Nocturnal release of neonates of the marine cladocerans of the genus Evandne,with observations by infraredlight video microscopy)。また4種の海産枝角類Penilia avirostris,Podon leuckarti(オオウミオオメミジンコ),Evandne nordmanni及びEvandne tergestinaの消化管内容物中の植物プランクトン色素(クロロフィル及びフェオ色素)を指標として、摂食活動の日周性を調べた。その結果前2者については色素量は昼間より夜間において有意に高く、顕著な日周性を示すことが明らかとなった。しかし、Evandne属2種については、摂食活動の日周性は認められなかった。この内容は現在日本プランクトン学会報に投稿中である。(Uye,S.&T.Onbe:Diel feeding variations of the marine cladocerans in the Inland Sea of Japan.Bull.Plankton Soc.Japan)。
著者
前杢 英明 井龍 康文
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は,沿岸の岩礁に付着する完新世石灰岩の形成過程を使って,当該期間にプレート境界で発生してきた地震履歴を切れ目なく解明することを目的としたものであった.13年度は,室戸岬周辺の45地点で採取した石灰岩より,94枚の岩石薄片を作製した.薄片観察の結果,石灰岩の枠組み(フレーム)の形成者として最も多くみられるのはヤッコカンザシとサンゴモで,以下,被覆性底生有孔虫,造礁サンゴ,フジツボ,イワノカワ科の藻類(石灰藻),カキがこの順で続くことが確認された.14年度は,14C年代がほぼ同時代を示す,もしくは同時代と推定される隆起石灰岩ごとに,それらを構成している付着生物の量をポイントカウンティングで決定し,その結果を従来の現生生物の帯状分布データと比較した.その結果,石灰岩を6つの岩型に区分した.それらは,サンゴとサンゴモが卓越する石灰岩(タイプ1),サンゴモが卓越する石灰岩(タイプII),サンゴモとカンザシゴカイとフジツボが卓越する石灰岩(タイプIII),サンゴモとカンザシゴカイが卓越する石灰岩(タイプIV),被覆性コケムシと被覆性底生有孔虫が卓越する石灰岩(タイプV),軟体動物(カキ)が卓越する石灰岩(タイプVI)である.また,エボシ岩付近の岩型の垂直方向の分布は,下から順に,タイプIの石灰岩,タイプIIの石灰岩,タイプIII,もしくはタイプIVの石灰岩の順で分布していることが明らかになった.15年度は石灰岩の内部構造に上記の帯状分布(6つの岩型)を適用し,相対的海水準変動を復元する作業を行った.その結果,コアを形成する石灰岩の中には6つの岩型のうち,タイプIとタイプIIを交互に繰り返すもの,またタイプIとタイプIIIまたはタイプIVを交互に繰り返すものなどがあることがわかった.
著者
中坊 徹次 山本 圭介 堀川 博史 中山 耕至
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1)日本近海の魚類相の分析;東シナ海及びその隣接海域の魚類の分類学的研究の基礎として、日本近海の魚類相の特徴が17型に分けられることを明らかにした。2)メバル属魚類の分類学的研究;浅海岩礁での漁業対象種であるメバルは従来から3つの色彩変異型が知られていたが、それらの生物学的な意味は未研究であった。これらのメバル3色彩型を形態学と分子遺伝学を用いて分析した結果、それぞれが生物学的に独立した種であることが判明した。メバル属ではやや深海に棲むウケクチメバルの2色彩型についても、メバル3色彩型と同様に研究を行った結果、それぞれが生物学的に独立した種であることが判明した。3)マエソ属魚類の分類学的研究;大陸棚砂泥底に生息するマエソ属魚類は漁業対象でありながら、種の分類が混乱していた。これらのうちマエソと呼ばれる種の分類が特に混乱していた。マエソ属魚類はインド・西太平洋域に広く分布しているので、日本近海を含むこれらの海域から得られた標本を入手し、形態を比較し、過去の文献を渉猟して分類学的研究を行った。その結果、マエソと呼ばれる種は2種であり、ひとつは新種であることが判明した。この論文は現在、学術雑誌に投稿中である。4)カマス属魚類の分類学的研究;カマス属のうち、アカカマスと呼ばれる種は最も美味であるが、分類が混乱し、複数種が含まれていることが示唆されていた。これらを詳細に検討した結果、3種であることがわかり、そのうち1種は新種であることが判明した。これも投稿中である。5)その他の魚類の分類学的研究;上の他、アオメエソ類、メジナ類、エボシダイ類、ウマズラハギ類、トラギス類について、分類学的研究を行った。これらは3編の論文が公表され、2編が投稿中である。
著者
信國 好俊 堂前 純子 烏帽子田 彰 藤本 成明
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

大規模ジーントラップ挿入変異細胞ライブラリーを用いたゲノム機能遺伝学的方法で、細胞内コレステロール代謝輸送、そして高脂血症に関与する可能性のある候補遺伝子を探索し、既知あるいは機能未同定の遺伝子を複数明らかにすることに成功した。これまでに188の変異細胞の解析から、細胞内コレステロール代謝輸送関連(候補)遺伝子として49の既知遺伝子と32の機能未同定遺伝子の解明に成功した。
著者
土屋 昭博 菅野 浩明 粟田 英資 太田 裕史 中西 知樹 林 孝宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Zhu の有限性条件をみたす頂点作用素代数の表現のつくるアーベル圏がArtin かつNoethern であり、また既約対象が有限個であることを示した。さらに、対応する共形場理論を使ってこのアーベル圏がbraided tensor 圏の構造を持つことを示した。典型的な例として、頂点作用素W(p) について、その表現のつくるアーベル圏が一の巾根における制限されたs12(C)型の量子群の表現のつくるアーベル圏と同値であることを示した。
著者
鎌田 東二 梅原 賢一郎 河合 俊雄 島薗 進 黒住 真 船曳 建夫 原田 憲一 藤井 秀雪 中村 利則 小林 昌廣 尾関 幸
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本語の「モノ」には物質的次元、人間的次元、精神的・霊的次元が含意されているという問題認識に基づき、日本文明の創造力の基底をなすその三層一体的な非二元論的思考の持つ創造性と可能性、またその諸技術と表現と世界観をさまざまな角度から学際的に探究し、その研究成果を4冊の研究誌「モノ学・感覚価値研究第1号~第4号」(毎年3月に研究成果報告書として刊行)と論文集『モノ学の冒険』(鎌田東二編、創元社、2009年11月)にまとめて社会発信した。また最終年度には、「物からモノへ~科学・宗教・芸術が切り結ぶモノの気配の生態学展」(京都大学総合博物館)と、モノ学と感覚価値に関する3つの国際ンポジウムを開催した。
著者
山田 正 PATHIRANA ASSELA ASSELA PATHIRANA
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究室で所有するドップラーレーダによる10年以上に渡る観測より,関東で発生するメソスケール現象の雷雨の多くは,関東北部及び西部の山間部で発生していることがわかっている.また,関東一円で行っている気象観測より夏期の強い日射が陸面と海面に温度差を生じさせ,それを起因として発生する海から陸へ向かう海陸風が関東北部,西部の山岳部まで進入し,地形により押し上げられることにより地形性の雷雨が発生を明らかにしている.以上のことより,地形条件と大気状態が雷雨発生に大きく寄与していることがわかっている.本研究では,地形影響の定量的評価を行う基礎的段階として,ガウス分布である単峰性の仮想地形を設定し,非静力学モデルによるメソスケール場の降雨に対する地形の影響について解析を行った.本研究では,NCAR(National Center for Atmospheric Reserch)とThe Pennsylvania State Universityにより共同開発されたメソ気象モデルThe Fifth Generation Penn Stag/NCAR Mesoscale Model(MM5)を用いてシミュレーションを行った.降雨を発生させない条件の下で,山地地形の形状及び2層の密度成層を有した大気の成層度を変化させ,山地地形の風下側に発生する重力波についての解析を行った.等流状態で重力波が発生するときは,山地の風下側で渦の発生を確認し,重力波を発生するフルード数の条件について明らかにした.実大気において海陸風の風速が夜半に現象していくように,シミュレーションにおいても水平風速を徐々に減少させた結果,山地の風下側で発生した重力波が風上側へ伝播することがわかった.降雨形成について微物理過程を導入し,仮想地形の下で地形形状,大気状態,それに起因する重力波の影響が降雨量に与える影響について解析を行った.山地標高が高くなるに従い総降雨量,降雨強度のピークは増加するが,ピークの位置は山地の風上側であり,山地の幅が広くなるに従い風下側へ片寄った降雨量分布となることがわかった.弱い水平風速では広範囲に降雨をもたらし,水平風速を徐々に減少させることにより降雨量のピークは風上側へ移動していくことがわかった。山地の風上側へ伝播した重力波による上昇流が強い対流を引き起こし,雷雨発生に関係しているものだと考えられる.
著者
辻 毅一郎 佐伯 修
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

住宅部門におけるエネルギー利用の高効率化と環境影響低減化のための方策の一つとして居住者に適切なエネルギー消費情報を提供することにより省エネを図ることの有効性について実証的な研究を行った。主な研究成果は以下のとおりである。1)ライフスタイル・住宅の室温維持特性・機器効率といった指標を説明変数とする、暖房用エネルギー需要に関する精度の高い重回帰モデル(自由度調整済み決定係数0.937)を導出した。同モデルを用い、住宅の室温維持特性の向上により、暖房用エネルギー消費を約35%、住宅全体のエネルギー消費を約5.2%削減できる可能性があることを示した。2)電力日負荷曲線生成のためのボトムアップシミュレーションモデルを改良し、より精度の高いものとした。季節依存性のある機器、日射時間に依存する照明に関して日負荷曲線の再現性を高めるとともに、住宅の室温維持特性を組み込むことにより、集合住宅に対しても適用可能なモデルとした。3)居住者に当該世帯の電力需要に関する詳細な情報を提供し、省エネルギー行動を誘起させることを目的としたエネルギー消費情報提供システム(ECOIS I)を構築し、9軒の世帯への設置した。その結果、平均で電力消費量の約9%が削減された。各機器の日負荷曲線ならびに負荷持続曲線により、暖房時室温を下げることや使用暖房機器の変更などの省エネルギー行動が行われたことを明らかにした。4)都市ガス・灯油に関する情報も表示する改良型のECOIS IIを構築し、10件の世帯への設置し、電力が約18%、都市ガスが約9%、世帯全体の暖房用エネルギー消費量が20%削減された。また、テレビ、電気ポット等に関する省エネ行動の内容を明らかにした。以上述べた通り、消費情報の提供により居住者は自ずと学習し、エネルギー消費に関する最適化コントローラとして働きうることが明らかとなった。
著者
清水 一彦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、課程制大学院における伝統的な研究者養成型大学院のカリキュラムについて、日米の比較視点からこれまでの歴史と運用の実態を調査・研究し、わが国における運用改善の条件を提言することを目的とした。結論として、わが国の課程制大学院の発展のためには、次のような改革が求められる。(1)課程制大学院の実質化は、何よりもまず大学院教育の目標の明確化から始めなければならない。研究者養成と専門職養成の差異をはっきりさせ、授与される学位も明確に区別されるべきである。アメリカの大学におけるグラデュエート・スクールとプロフェッショナル・スクールとの明確な区別は、コースワークや論文、学位等において明白なものとなっている。(2)課程制大学院の実質化のためには、現在のような研究科や専攻、コースといった組織的な枠組みを廃止して、修士号や博士号の学位コースによる教育プログラムとして再構築される必要がある。わが国の場合、組織優先で教員所属組織に重点が置かれ、学生の教育や履修、コース選択といった課程あるいはプログラムの観点が軽視され過ぎている。(3)課程制大学院ではコースワークが重視され、カリキュラムの体系化・構造化が図られなければならない。修士課程2年、博士課程5年の標準年限や修了に必要な単位数については新たな見直しが必要である。修士課程でも博士課程でも30単位という規定は、課程制大学院の実質化を妨げるものとなっている。(4)学生の選択的学習による系統的履修の機会とともに集中的学習による学習効果の向上を図る必要がある。具体的には、GPAや履修アドバイス・システムの導入、サマーセッションを含めた学期制の検討などである。
著者
周 〓生 仲上 健一 小杉 隆信
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.ポスト京都議定書における選択肢として、「法的数値目標」を特徴とする「京都方式」と自主的行動を特徴とする「非京都方式」が挙げられる。2.気候変動枠組みにおいては、「共通ではあるが差異のある責任」原則に基づき、世界全体を、(1)先進国(米国、日本等)、(2)中進国(韓国、メキシコ等)、(3)途上国(中国、インド等)の3地域に分け、参加形態も強制的(法的拘束力のある数値目標をもつ)、自主的、(法的拘束力のない数値目標を自主的設定する)、自発的(数値目標は持たないものの、自発的に削減方策を講じる)との3つの形態に分けることができる。3.一人当たりの排出権を同等にするための「総量規制下で一人当たりの均等な排出許容量」を世界各国に初期割当量として排出枠を配分し、排出権取引やCDMを活かせば、世界全体が公平で効率よく総量規制を実現する。また、この基準とモデル予測により、日本は2008年、韓国は2013年、中国は2020年から法的削減義務を負う時期を迎えると推測する。4.中国と周辺各国日本、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピンとその他の地区と地域の8地域を対象とし、多目標、多変量、多制約且つ非解析的なアジアエネルギーシステムモデルを構築し、各地域、各部門のエネルギー生産、運輸、消費のバランス関係について最適化分析を行い、環境税及びCDMを導入した場合のエネルギー消費構造の予測、とCO_2、硫化物などの同時排出削減効果を分析した。5.本研究を通じて、温暖化対策に加えて、経済、環境、社会の調和が取れた持続可能で活力のある社会を形成していくための国境を越えた日中韓3国を含めた東北アジア低炭素社会共同体構想を提案する。このための要素課題と意義として、革新的低炭素技術の開発と既存技術の移転、低炭素化経済産業システムの創出とライフサイクルなど低炭素社会システムの変革、国際連携によるエネルギー・物質循環のエコデザイン、パイロットモデル事業を通じて、低炭素社会の実現可能性について先駆的に実証し、持続可能な低炭素社会への移行過程を具現化するロードマップの提示、アジア地域の低炭素社会建設を誘導する政策提言が求められる。
著者
三宅 正浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

日本近世の幕府(将軍)と藩(大名)による政治秩序の形成・展開過程を解明するという研究課題に基づき、本年度は、昨年度に引き続いて研究に利用する史料の収集を行うと共に、これまでの研究成果をまとめて日本史研究会大会において口頭報告し、後にその内容を活字化して発表した。まず、近世政治史に関わる史料等を購入して分析を進めた。平成22年5月及び7月に高知県高知市の土佐山内家宝物資料館において史料調査・撮影を行い、平成22年5月・8月・11月には東京都文京区の東京大学史料編纂所において史料調査を行った。土佐山内家宝物資料館では、山内家文書を閲覧し、近世前期の藩主書状を中心に構成されている史料である「長帳」を撮影した。東京大学史料編纂所では、広島藩浅野家の編纂史料である「済美録」をはじめとした諸大名家関係史料を閲覧した。また、昨年度に収集した各史料の記事検索・分析作業を継続して進めると共に、近世政治秩序に関わる研究史のまとめを行うため、重要な先行研究を収集して評価し、整理した。昨年度から今年度にかけての研究成果を集大成したものとして報告した「幕藩政治秩序の成立-大名家からみた家光政権-」(2010年度日本史研究会大会共同研究報告)では、近世大名家が持つ固有(個別)性と共通(普遍)性を連関させて理解することを目的として、共通性の形成過程を考察した。事例としては、主に西国の外様国持大名を取り上げ、大名家の視点から徳川家光政権期の歴史的位置を描き出した。以上のような研究により、「日本近世政治秩序の形成と展開」を研究課題とする本研究は、一定の達成をみたと考えている
著者
丹治 明
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

工業技術博物館は、発足当時から、工作機械等の実機ばかりでなく、文献資料や工作機械等の製作用図面を収集している。本研究では、「収集・保存されている製作用図面のデジタル・データ化の推進」と「本データベース・システムの試用」を行った。製作用図面を大判スキャナーを用い、製作用図面の約80%のデジタル化を実施した。得られた製作用図面のデジタル・データは、当研究室内に設置したサーバーマシンを用いて、閲覧を実施して、試用を進めている。
著者
佐藤 強志 川畑 義裕 野添 悦郎 松根 彰志 川島 清美 馬嶋 秀行 濱平 須美子 上村 亮三
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

(1)動物モデルでの扁平上皮癌腫瘍組織における放射性医薬品輸送蛋白発現の免疫組織学的染色による検討では、輸送蛋白の細胞膜上発現が顕著に観察され、放射性医薬品の取り込みと汲み出しとの相関が明らかであった。(2)ピンホールコリメータを用いたリンパ節模型のシンチ画像撮像では、臨床を想定した条件下ではピンホール径は5mm以上必要であり、小さな径では計数値の不足による雑音の影響が無視できなかった。また、10mmのリンパ節サイズ模型における放射性医薬品の局在識別は5mmが限界であった。
著者
山本 正浩
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

深海熱水環境の優占微生物であるイプシロンプロテオバクテリアの硫黄代謝経路について種々の解析を行い、この菌が複数の硫黄代謝経路を同時に利用していることを明らかにした。これらの代謝の鍵酵素の基質はポリスルフィドなどの水溶性化合物であるため不溶性の元素状硫黄に直接作用するタンパク質をさらに追跡したところスルフィドキノン還元酵素(SQR)様タンパク質が精製された。水に不溶な元素状硫黄を効率的に代謝径路に取り込み、そこからエネルギーを取り出すモデルを構築できた。
著者
松原 斎樹 藏澄 美仁 澤島 智明 合掌 顕 大和 義昭 中谷 岳史 飛田 国人 下村 孝 松原 小夜子 下村 孝 松原 小夜子 小東 敬典 中村 知朗 宮田 希 青木 祐樹 井上 ともみ 地濃 祐介 谷村 真由美 櫻井 洵子 大山 哲司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

暮らし方による暖冷房使用期間の変更による省エネルギー効果は, 次世代モデルでは暖房で最大17%, 冷房で最大32%, 無断熱モデルでは暖房で最大27%, 冷房で最大28%であること推定された。また, 補助暖冷房器具を併用した場合の省エネルギー効果は, 次世代モデルでは暖房で最大27%, 冷房で最大22%, 無断熱モデルでは暖房で最大27%, 冷房で最大37%であると推定された。