著者
中村 智幸
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.398-405, 2019-07-15 (Released:2019-07-31)
参考文献数
34
被引用文献数
1 13

インターネットアンケート調査により,2015年の日本の釣り人数を推定した。釣り人数は海面487.5万人,内水面336.0万人,釣り堀・管理釣り場177.7万人であった。釣り堀・管理釣り場を除く自然水面についてみると,釣り人の割合は海面59.2%,内水面40.8%であった。内水面の上位8魚種の釣り人数はヤマメ・アマゴ118.8万人,イワナ88.7万人,ニジマス82.4万人,アユ77.6万人,フナ76.7万人,ブラックバス66.6万人,コイ56.1万人,ウグイ35.5万人であった。
著者
中村 滋 杉山 滋郎
出版者
日本科学史学会
雑誌
科学史研究. 第II期 (ISSN:00227692)
巻号頁・発行日
vol.45, no.240, pp.209-219, 2006-12-01
参考文献数
61
被引用文献数
2

HOSHINO Kasui (1885-1939), who graduated in mathematics from Tokyo Higher Normal School, wrote and published The Study of Geometry by the CHART System, a math study book for entrance exams, in 1929. Since then, the study books, which are named CHART System, have been published for over 75 years. Therefore, it can be said that the CHART System is an established method of study used in study books. However, there exists no previous research on the CHART System or its founder, HOSHINO Kasui. This paper clarifies the following two points: 1) Origin of the CHART System: The CHART System was developed by Hoshino Kasui in cooperation with his business involving the publication of a monthly magazine and several study books for entrance exams as well as through his managing and teaching experiences in a cramming school. 2) Features of the CHART System: The features of the CHART System become evident upon comparing the solution provided by Hoshino and that provided by a previous study book with regard to the same question. Hoshino led students to the solution by providing CHARTs, which were precepts based on solution scenarios that did not require dependence on rare inspiration. Hoshino's CHART System, which he extracted from numerous solution scenarios, was the first step in the compilation of solutions to questions in study books into a manual.
著者
中村 靖子 大平 英樹 金 明哲 池野 絢子 重見 晋也 葉柳 和則 中川 拓哉
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-07-17

本研究は、独伊仏日の四カ国語圏にまたがって愛国的文化運動や、公共芸術や文化遺産保護運動、文芸誌とその検閲などを対象とし、ファシズム期のスイス、イタリア、日本、フランスにおける集合的記憶の構成過程を辿ろうとする領域横断型の学際プロジェクトである。四つの言語圏における文化運動のオラリティ資料を介して、人間の社会に情動が広範なムーヴメントを創り出すメカニズムを考察しようとするものであり、伝統的な人文学が培ってきた文献研究のスキルとテキストマイニング手法が共同することにより上記の目的を達成することが可能になると期待できる。
著者
中村 晃
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大紀要 (ISSN:03854566)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-20, 2004-06-30
被引用文献数
1

現在まで自己愛(narcissism)の概念に関しては多くの議論が重ねられてきているが,また同時に混乱が多い分野であることが知られている。その混乱の最も大きな原因は,自己愛そのものの定義が研究者によって異なっており,「自己愛」という用語がさまざまな意味で使われていることが挙げられる。そこで本研究では,今までの自己愛に関する議論を整理することを目的とした。特にこれまで重ねられてきた議論をふまえ,自己愛の健康的・適応的な側面と,不健康的・不適応的側面の本質的な差異に注目し,自己愛の構造を検討した。その結果,健康な自己愛(self-love)と不健康な自己愛(narcissism)に分けて考えることの重要性が指摘された。また,不健康な自己愛の表れ方には,大きく分けて「誇大型」と「過敏型」の,一見正反対の性質のように見える2種類に分類できることが示されたが,両者に共通する性質として「他者が待つ自分に関する評価への関心の集中やこだわり」があり,これが不健康な自己愛の本質であることが考えられた。このようにこれまでの自己愛の定義にある「自分自身に対する関心の集中」を,「本当の自分自身に対する関心」と「他者から見られる(評価される)自分に対する関心」の二つの側面に分けることが自己愛の健康性を考えるうえで重要であることが考えられた。
著者
今 悠気 中村 拓人 梶本 裕之
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.335-344, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
21

The Hanger Reflex is a phenomenon in which the head rotates unintentionally when force is applied via a wire hanger placed on the head. It has been confirmed that this phenomenon is caused by pressure, and the direction of the Hanger Reflex contributes to the direction of skin deformation. In addition to the head, similar phenomena have been found in the wrist, waist, and ankle. Until now, we aimed for walking navigation without interpretation of navigation information using the Hanger Reflex, investigated the influence on the head-type, waist-type, and ankle-type Hanger Reflex on walking, it was confirmed that the waist-type Hanger Reflex most efficiently affects walking. However, assuming a scene to actually use as walking navigation, the current waist-type Hanger Reflex device is difficult to say that it is easy to use because the user oneself needs to shift the device. Moreover, in addition to scenes without interpretation of navigation information, it can be assumed that scenes with interpretation of navigation information, such as "Follow" or "Resist". In this paper, in order to use the waist-type Hanger Reflex for actual walking navigation, developed a controlled device of the waist-type Hanger Reflex using four pneumatic actuators, and investigated the effect of the waist-type Hanger Reflex on walking caused by difference in interpretation of navigation information. As a result, we confirmed that the developed waist-type Hanger Reflex device can control the walking path and body direction, depend on user's interpretation difference.
著者
森岡 隆 手島 和典 吉嶺 絵利 中谷 正 高橋 佑太 倉持 宗起 橋本 貴朗 林 信賢 中村 裕美子 中溝 朋美 高橋 智紀 若松 志保 楠山 美智子 成田 真理子 油田 望花 川口 仁美 安生 成美
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

源兼行ら11世紀半ばの3人の能書が分担揮毫した『古今和歌集』現存最古の写本である「高野切本古今集」について、巻五・巻八・巻二十の完本3巻を除く17巻を復元した。このうち巻一・巻二・巻三・巻九・巻十八・巻十九の6巻は零本・断簡が伝存するものの、他の11巻は伝存皆無だが、各々の書風で長巻に仕上げて展示公開するとともに、それらを図版収載した研究成果報告書を刊行した。なお巻五についても、後に切除された重複歌2首の各々の当初の位置を特定し、復元し得た。
著者
金子 直樹 川野 真太郎 松原 良太 笹栗 正明 森山 雅文 丸瀬 靖之 三上 友里恵 清島 保 中村 誠司
出版者
日本口腔内科学会
雑誌
日本口腔内科学会雑誌 (ISSN:21866147)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.38-42, 2015 (Released:2016-06-30)
参考文献数
11

今回,舌粘膜疹を主訴に来院した第2期梅毒の1例を経験した。症例は20歳代の女性で,舌尖および舌縁部の白色病変と両手掌の丘疹性紅斑を認めた。梅毒血清検査にて陽性であったため第2期梅毒と診断し,抗菌薬内服を開始した。その後,口腔粘膜疹および皮疹は消退し,梅毒血清検査は陰性化した。近年,本症例のように口腔粘膜疹が梅毒の初発症状となる症例が増えており,今後注意を要すると考えられた。
著者
中村 光宏 池内 浩基 中埜 廣樹 内野 基 野田 雅史 柳 秀憲 山村 武平
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.1008-1011, 2005-05-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

[目的]潰瘍性大腸炎(以下UC) 手術症例の術前ステロイド総投与量とその副作用について検討した.[方法]1984年8月から2003年12月までに当科で経験したUC手術症例634例のうち術前のステロイド総投与量を算定できた582例を対象とした.[結果]ステロイドのmajor side effectの中で最も多かったのは,骨粗霧症で66%に認められた.骨粗鬆症に対する術後の薬物療法は,術後12カ月で有意な改善を認めたが,正常値には至らなかった.不可逆的な副作用である白内障,大腿骨頭壊死,胸・腰椎圧迫骨折は,ステロイド総投与量が7,000~10,000mgにかけて有意に増加していた.[結論]ステロイド総投与量が7,000mgを越える症例では,不可逆性の副作用の出現に注意し,出現前の手術が望ましいと思われた.また,最も多い副作用である骨粗鬆症の治療には術後1年以上の薬物療法が必要であることが明らかとなった.
著者
菊地 潤 中村 泉 樫村 修生
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.353-364, 2009-06-01 (Released:2009-07-28)
参考文献数
24

The present study examined the relationship between rate of abnormal menstrual cycles in women who participated in competitive sports and long-term fertility. Longitudinal menstrual data were collected over 25 years from 33 women who graduated from physical education collegesThe results were as follows:1)Among the 33 women surveyed, the number of pregnancies for each woman ranged from zero to eight; the total number of pregnancies was 85 (mean 2.6). Sixty-five (76.5%) of the 85 pregnancies were carried out to delivery times.2)The rate of spontaneous abortion was 15.3%. Four (12.1%) of the 33 women were infertile.3)In women with fertility-related problems such as infertility, spontaneous abortion, premature delivery, and stillbirth, the rate of abnormal menstrual cycles tended to be higher with increase of the fertility-related problems.4)In women with a high rate of abnormal menstrual cycles during college, the rate continued to be high after graduation.5)In women without fertility-related problems, the rate of abnormal menstrual cycles during college varied widely. Also, the rate of abnormal menstruation decreased less than 30% after graduation, excluding one woman. Conversely, in women with fertility-related problems, the rate of abnormal menstrual cycles was higher than in women without fertility problems both during college and after graduation.6)Changes in menstrual cycle length with age were more different than an individual. In women with fertility-related problems, abnormal menstrual cycles were observed between the ages of 18 and 42, and abnormal cycles were both longer and shorter than normal cycles.The results indicated that, in women who participated in competitive sports during their youth, abnormal menstrual cycles may remain long after retirement from sports. In addition, problems such as infertility and spontaneous abortion were observed to be associated with higher rates of abnormal menstrual cycles.
著者
中村 剛
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-12, 2018-05-31 (Released:2018-06-28)
参考文献数
38
被引用文献数
9

尊厳と人権は社会福祉の原理であり理念である.しかし,その意味は不明確である.そのため,本稿では尊厳と人権の意味を明らかにした.これらの言葉は,西欧で生まれた概念であり考え方である.よって,まず,それぞれの言葉の概念史や語源を確認した.その上で,尊厳については,聖の次元に思考を拓くことで,その意味の解明を試みた.一方,人権については,「human」の側面と「right」の側面とに分けることで,その意味の解明を試みた.考察の結果として明らかにした意味は次のとおりである.尊厳とは,“聖なるもの”の経験の中で実感する「かけがえのなさ」,「他者の存在の大切さ」,「他者への責任=倫理」といった,世俗の価値とは質的に違う価値のことである.そして,人権とは,「人間らしく生き暮らしたい」という叫び・要求が,正義そして道徳や自然法のような規範を通して,一定の正当性をもった叫び・要求として認知されたものである.
著者
長屋 裕 中村 清 佐伯 誠道
出版者
日本海洋学会
雑誌
日本海洋学会誌 (ISSN:00298131)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.20-26, 1971 (Released:2011-06-17)
参考文献数
14
被引用文献数
15

北太平洋および日本近海海水中のストロンチウム濃度を原子吸光光度法によって測定し, Sr/Cl比を算出した.ストロンチウムの平均濃度は8.08mg/kg, 平均Sr/Cl比は0.425mg/kg/‰ であった.Sr/Cl比の海域別, 深度別変動は5%以下であって, 分析誤差を考慮すればSr/Cl比はほとんど一定である. また, ミリポアフイルター (0.22μ) によって分離される粒子状Srは存在しないと考えられる.これ等の結果は大西洋についての最近の報告とは一致しない.
著者
中村 浩志
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.93-114, 2007-11-01 (Released:2007-11-17)
参考文献数
62
被引用文献数
8 22

このモノグラフは,日本に生息するライチョウLagopus mutus japonicusに関するこれまでの研究からわかっていることを整理し,今後の課題について検討を加えることを目的としたものである.日本に生息するライチョウの数は,20年以上前に実施された調査から3,000羽ほどであることを示し,分布の中心から外れた孤立山塊から絶滅が起きていることを示唆した.日本の高山帯には,ハイマツが広く存在するのが特徴であり,ライチョウの生息に重要であることを示唆した.ライチョウの食性に関する知見を整理し,今後は各山岳による餌内容の違い,また食性の量的な把握が必要たされることを指摘した.高山における年間を通しての生活の実態について,これまでの知見を整理し,まためた.春先の4月から秋の終わりの11月にかけてのライチョウの体重変化を示し,ライチョウの高山での生活との関連について論じた.ミトコンドリアDNAを用いた多型解析から,近隣の亜種との関係および大陸から日本に移り棲んで以降の日本における山岳による集団の隔離と分化に関する知見をまとめた.ライチョウを取り巻くさまざまな問題点について,最近の個体数の減少,ニホンジカ,ニホンザルといった低山の野生動物の高山帯への侵入と植生の破壊,オコジョや大形猛禽類といった古くからの捕食者の他に,最近では低山から高山に侵入したキツネ,テン,カラス類,チョウゲンボウといった捕食者の増加がライチョウを脅かしている可能性,地球温暖化問題等があることを指摘した.20年以上前のライチョウのなわばりの垂直分布から,温暖化の影響を検討し,年平均気温が3°C上昇した場合には,日本のライチョウが絶滅する可能性が高いことを指摘した.これまでの低地飼育の試みを評価し,野生個体群がまだある程度存在する今の段階から,人工飼育による増殖技術を確立し,増えた個体を山に放鳥する技術を確立しておくことの必要性を指摘した.
著者
大谷 清孝 松本 典子 藤本 まゆ 稲垣 瞳 横関 祐一郎 橘田 一輝 開田 美保 狐﨑 雅子 中村 信也 横田 行史
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.798-807, 2016-01-30 (Released:2016-03-16)
参考文献数
18

本邦では同時接種の有害事象および安全性に関する報告が散見されるが, 乳児期のみの検討は不十分である。そこで, 乳児に対する不活化ワクチンの同時接種の有害事象を解明するために検討した。2012年7月から2013年6月の期間において, 不活化ワクチンの皮下接種を施行した生後2か月以上の乳児を対象とした。その対象の保護者に対して, 調査票を配布し, 接種後1週間の有害事象の有無を調査した。対象を接種本数から単独接種群と同時接種群に群分けした。主要検討項目として, 入院を要する重篤な有害事象の有無とし, その他の検討項目として接種児背景, 全身症状と局所症状の有害事象の有無を比較検討した。対象は合計66名, のべ162回であった。調査票の有効回答率は91% (88/97) であり, うち単独接種群は46名で, 同時接種群は42名であった。同時接種の内訳はインフルエンザ菌b型ワクチン (Hib) +7価肺炎球菌結合型ワクチン (PCV7) が14名 (32%) で最も多く, 次いでHib+PCV7+三種混合ワクチンが12名 (27%) であった。全例で入院を要する重篤な全身症状の有害事象は認めなかった。熱型推移では, 単独接種群と比較して同時接種群の方が接種後2日目の体温が有意に高かった (p=0.049)。その他の全身症状および局所症状では, 両群間において有意な差を認めなかった。乳児への不活化ワクチンの同時接種において, 接種2日目に発熱を認めることが有意に多いが, 入院を要する重篤な全身症状の有害事象を認めなかった。
著者
藤原 進 波多野 雄治 中村 浩章
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.35-41, 2022-01-05 (Released:2022-01-05)
参考文献数
44

トリチウム(三重水素,3HあるいはTと表記)は,極めて低いエネルギーのβ線と反ニュートリノを放出する放射性の水素同位体である.自然界では地球に降り注ぐ宇宙線と大気との核反応により生成される.また原子炉でも生成される.生体試験用のトレーサーや蛍光物質を用いたライトなどにも利用されており,高純度のトリチウムは,核融合反応の燃料にもなる.福島第一原子力発電所の処理水中にも存在しており,社会的関心を集めている.トリチウム由来のβ線の飛程は水中や細胞中で数ミクロン程度と短い.そのため,外部被ばくが問題となることはなく,内部被ばくに対する防護が重要となる.我々は,トリチウムが生体分子へ与える影響を計算機シミュレーションで解き明かすことにより,生体分子の損傷機構を明らかにすることを目指している.そこで,計算手法およびシミュレーション精度の確認のため,単純な系で生体分子の損傷速度を定量的に評価する実験技術の開発を進めている.実験では,蛍光顕微鏡を用いたDNA一分子観察法により,トリチウム水中に浮遊するDNAの二本鎖切断メカニズムを定量的に明らかにしつつある.具体的には,滅菌環境下でトリチウム水およびトリチウムを含まない注射用水中におけるDNAの平均長さの経時変化を,蛍光顕微鏡で観察した.その結果,注射用水と比べて高濃度トリチウム水中では,DNA二本鎖切断が速やかに起こることがわかった.一方で,1 kBq/cm3程度のトリチウム濃度では有意な照射効果が見られないことを確認した.トリチウムを含む化合物が生体内に取り込まれると,化合物中のトリチウムがDNA分子中の軽水素と置き換わることがある.このことは,メダカや大腸菌を使った実験で確かめられている.トリチウムに特有の壊変効果として,DNA分子中の軽水素に置換したトリチウムが3Heにβ壊変することによる化学結合の切断が挙げられる.法令による排水中の濃度限度(60 Bq/cm3)におけるトリチウムと軽水素の比はT/H=5×10-13と極めて小さく,置換トリチウムの影響が現れるとは考えにくい.一方で,「どの程度の濃度以上であれば置換トリチウムの影響が顕著になるのか?」という問いに対して,現時点では必ずしも明確な答えはない.そこで我々はトリチウムの壊変効果に着目し,DNAから置換トリチウムが除去されることに伴うDNA部分構造の変化を,分子動力学シミュレーションにより明らかにする.我々の戦略として,まずDNAよりも分子構造の単純な高分子の計算から始め,続いてDNAの計算を行った.高分子の分子動力学シミュレーションの結果,除去される水素の割合が大きいほど,高分子の熱安定性と構造安定性が低下することがわかった.また,二重結合や共役結合の生成など,化学結合の変化を確認することもできた.さらに,テロメア二重らせんDNAの分子動力学シミュレーションの結果,グアニンのアミノ基中の水素が除去されることにより,水素結合が消失し二重らせん構造が崩れる様子を明らかにすることができた.今後は,反応力場を用いた分子動力学シミュレーションにより,β壊変によるDNA二本鎖切断のメカニズムの解明といった展開が期待される.本記事の長さは通常の「最近の研究から」欄記事の規定を超過しておりますが,編集委員会の判断によりこのまま掲載しています.
著者
永吉 希久子 瀧川 裕貴 呂 沢宇 下窪 拓也 渡辺 誓司 中村 美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.26-43, 2023-04-01 (Released:2023-04-20)

ソーシャルメディアにおける「世論」の特徴と、それを分析するメリットを検討するため、前号では2020年の安倍首相(当時)に関するツイートの分析を例として、「教師あり機械学習」によるセンチメント分析という手法を用いて、安倍首相に対する支持と不支持の態度を推定した。分析の結果、ツイートの8割近くが安倍首相に対するネガティブな態度を表していると分類され、世論調査の内閣支持率との間に、大きな乖離がみられることが明らかになった。そこで、前号で用いたのと同じ、安倍首相に関する500万のツイートについて、ツイートの話題を抽出できるトピックモデル分析という手法を用いて詳細に分析し、Twitter「世論」の特徴と、その有用性について報告する。 トピックモデルの手法は複数存在するが、本号では短文からなる文書の分析に適したギブスサンプリングディリクレ多項ミクスチャーモデル(GSDMM)を用いた。分析の結果、25のトピックが抽出され、全体の28%程度をコロナ関連のトピックが、24%程度を政治疑惑・スキャンダルに関するトピックが構成していた。トピックごとのセンチメントの分布をみると、ほとんどのトピックで安倍首相への否定的意見が大半を占めていたが、外交や「安倍首相への批判と、そうした批判者への批判」からなるトピック、辞任報道への反応では、肯定的意見も2割程度あった。また、政治的疑惑・スキャンダルに関するトピックは短期間の盛り上がりにとどまり、相対的に少数のアカウントが繰り返しツイートをする傾向にあるのに対し、新型コロナ関連のトピックは一定期間持続し、相対的に多くのアカウントが発言に参加していることも示された。 Twitter上の安倍首相への態度の大半を不支持が占めていたが、その内部は政治的疑惑・スキャンダルを中心に、相対的に少ないアカウントが積極的にリツイートを含めた発信を行うトピックと、緊急事態宣言やアベノマスクといった、多様なアカウントが否定的意見を表明したトピックが混在していたことがわかる。 Twitterデータの分析によって、通常の質問紙調査で測定できる「聞かれたから答える」意見とは異なり、人々が関心をもち、意見を表明するほどの熱意を持って抱く「世論」を測定することができる。本研究で用いたような、トピック分析やセンチメント分析などの手法を組み合わせて分析することで、人々の関心や熱意の推移、その多様性や状況による変化を検証することができる。このような点が、Twitterで世論を分析するメリットといえるだろう。 上記のように、Twitterに現れる「世論」は通常の世論調査から把握される「世論」とは質的に異なる。重要なのは、従来の世論調査から把握される世論とツイートの分析から把握される世論の、それぞれの特徴と利点、限界をふまえ、両者を補完的に用いることである。それにより、より多面的に世論を理解することができる。 *GSDMM(ギブスサンプリングディリクレ多項ミクスチャーモデル)Gibbs Sampling Dirichlet Multinomial Mixture