著者
伊藤 彰則
雑誌
研究報告自然言語処理(NL) (ISSN:21888779)
巻号頁・発行日
vol.2015-NL-221, no.12, pp.1-6, 2015-05-18

筆者のグループがこれまで研究してきた,音声対話を利用した英会話のための CALL システムに関する技術について述べる.音声認識技術を利用した現状の CALL システムは,発音やイントネーションなど,1 つの発話に含まれる要素を採点するものが多い.それも重要ではあるが,英会話学習には 「実際に使われる表現を何度も繰り返して練習する」 ということも必要である.この考えに基づき,筆者のグループではこれまで 「対話に基づく CALL システム」 について研究してきた.本稿では,対話音声からの韻律評価,文法誤り検出および応答タイミング制御練習のためのシステムについて述べる.
著者
川村 博文 西上 智彦 伊藤 健一 大矢 暢久 辻下 守弘
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.604-609, 2016-08-18 (Released:2016-09-16)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿では,疼痛に対する治療としての物理療法,運動療法について,有効性に関わる理論的な裏付けから臨床のエビデンスを交えて解説した.急性痛と慢性痛とでは,対応が異なり,急性痛には,過度な不活動は避け,原因となる組織損傷の治療を可及的早期に進めることと,可能な限り疼痛を抑制し長期化を阻止する目的で物理療法,運動療法などを実施することとなる.慢性痛には,感覚面に着目する以外に,情動面や認知面などの多面的・複合的な側面での特性の認識理解が不可欠であり,ADLやQOL向上を目的として,TENSなどの物理療法,運動療法,認知行動療法,ニューロリハビリテーション,学際(集学)的治療を導入することが重要である.
著者
竹田 沙記 中﨑 千尋 伊藤 健人 能都 和貴 本屋敷 敏雄
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】茶に含まれるカテキン類は、様々な生理作用が知られている。特に生理活性が高く、含有の多いものとしてエピガロカテキンガレートがあるが、体内への吸収率は低いと考えられている。また、茶に含まれる成分にカフェインがあるが、カフェインはカテキン類と容易に複合体を形成することが分かっており、またカフェインは同時摂取した成分の体内滞留時間、濃度に変化を与えることも知られている。カフェインがカテキン類の吸収率を増加させるのであれば、茶の生理活性を検討するためには複合体形成による体内動態への影響を調べることが必須と考える。カテキンとカフェイン複合体を投与し、体内動態について検討を行うこととした。【方法】カテキン類とカフェインがモル比1:1となるように複合体を調製後、8週齢のWistar/ST系雄性ラットを無作為に群に分け、複合体を経口投与した。投与後15、30、60、90分と経時的に血漿を採取した。体内のカフェイン量の濃度変化についてLC/MSを用いて測定した。【結果・考察】複合体投与によりカテキン類の種類による、カフェイン濃度の体内濃度に対する影響が示唆された。
著者
伊藤 浩明 菊池 哲 山田 政功 鳥居 新平 片桐 雅博
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.87-91, 1992-09-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

アレルギー疾患の食事療法のひとつとして, アラキドン酸カスケード由来のケミカルメディエーター産生抑制を目的として, n-6系列多価不飽和脂肪酸 (リノール酸, アラキドン酸) 摂取を減らし, n-3系列多価不飽和脂肪酸 (α-リノレン酸, イコサペンタエン酸) を積極的に摂取させる「α-リノレン酸強化食療法」を, 6名のアトピー性皮膚炎患児に施行した. 124±40.4日間の指導により, 3例がアトピー性皮膚炎の改善傾向を示し, 他の1例も指導を継続することで改善傾向を示した. 血清リン脂質中の脂肪酸組成で, n-3/n-6比, イコサペンタエン酸/アラキドン酸比が有意に上昇した (p<0.01). それに伴い, ザイモザンと新鮮自己血清刺激による末梢血多核白血球からの Leukotriene C4放出が有意に減少した (p<0.05). 以上の結果から, 日常の食生活の中で施行できる「α-リノレン酸強化食療法」は, アレルギー疾患の食事療法の基盤として有益である可能性が示唆された.
著者
伊藤 潔志
出版者
桃山学院大学
雑誌
桃山学院大学キリスト教論集 = St. Andrew's University Journal of Christian Studies (ISSN:0286973X)
巻号頁・発行日
no.51, pp.45-70, 2016-02-18

In Wittgenstein's diaries, manuscripts, and so on, he makes numerous references to religion. From this, we can see that Wittgenstein had a strong interest in religion, and that this interest continued consistently right from his `early phase' to his `late phase.' However, these are no more than fragmentary writings, and they do not go so far as to clearly indicate exactly what Wittgenstein's religious understanding was. In this paper, in order to pursue the essence of Wittgenstein's interest in religion, and to clarify the characteristics of his religious understanding, I focus on Tolstoy, who exerted a powerful influence on Wittgenstein. By considering Wittgenstein's religious understanding centered on the influence exerted by Tolstoy on him, we see that, for Wittgenstein, religion was truly an` issue of life.' Accordingly, Wittgenstein's religion can be called a `religion of life.'
著者
伊藤 大輔 野場 悠佑 水野 幸治
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.838-843, 2019 (Released:2019-05-24)
参考文献数
14

Aピラー衝突時の自転車用ヘルメットによる脳傷害軽減メカニズムについて有限要素解析により検討した.ヘルメットを着用した人体モデルを自転車に着座させ,車両と衝突させたところ,多くの場合でヘルメットにより脳ひずみが軽減したが,脳傷害発生リスクが軽減されない場合もあった.その原因を力学的観点から分析した.
著者
平井 由花 武井 華子 笠 ゆりな 伊藤 雄太 大歳 晋平 中田 土起丈
出版者
一般社団法人 日本皮膚免疫アレルギー学会
雑誌
日本皮膚免疫アレルギー学会雑誌 (ISSN:24337846)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.451-455, 2020-10-30 (Released:2020-11-24)
参考文献数
27

症例1 : 50代男性。1ヵ月前に下肢に掻痒感が出現したため液体ムヒ®S2aを外用, 2週間前には顔面, 頸部にも皮疹が拡大したため, ムヒアルファ®EXに変更したところ症状が増悪した。現症 : 顔面, 頸部に浮腫性紅斑と丘疹を認め, 四肢には丘疹が散在性に多発していた。パッチテストでムヒアルファ®EX (++) 。症例2 : 30代女性。6日前より肩こり, 背部痛に対してアンメルツ®ヨコヨコを外用していたところ, 皮疹が出現。現症 : 左側頸部および上背部に類円形の浮腫性紅斑が多発し, 脊椎両側では褐色の紅斑局面を認めた。パッチテストではアンメルツ®ヨコヨコ (++) 。症例1は接触皮膚炎症候群 (allergic contact dermatitis syndromeのstage 3A) と診断, 症例2は広範囲に皮疹を認めた接触皮膚炎と考えた。OTC薬は患者にとって簡便であるが, 記載が義務づけられている「症状の改善がみられない場合には服用を中止し, 医師, 歯科医師, または薬剤師に相談すること」の啓発が必要と考える。(日本皮膚免疫アレルギー学会雑誌, 3 (3) : 451-455, 2020)
著者
伊藤 清司
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.163-212, 1969-11

山川の鬼神・妖怪の属性とその棲み処を記述した山経は、山林薮藪沢に立ちいる者にとつて、怪物の害を避けるうえの手引きとなつたであろうし、これはまた、崇り・揃禍いする山川の神々の正体を判別して、それに宥恕を請い、あるいは、それを撃攘しようとする者にとつて、有効なる書でもあつたであろう。しかし、圧倒的な勢威をもつて君臨し、人々の幸不幸を支配したのが岳神であつた。山経はそれら岳神の祭祀方法について具体的に記録した書でもあつた。山経は好んで怪力乱神を語るものでは、もちろんなかつたのである。人倫関係の改善や社会秩序の確立によつて、世の平和と人々の幸福を期待しうると主張する者にとつて、山川に棲む神々は敬して遠ざくべきものであり、あるいは、否定すべきものですらあつた。しかし、山川に出没する妖怪の存在を信じておびえ、去来する鬼神の怒りに恐怖する人々は、変わることなく多かつた。已然として人々は、雲を湧出する峰々に神霊の存在を観じ、「山川ノ神ハ則チ水旱癘疫ノ災」をくだし、おるいはまた、「能ク百里ヲ潤ス」恩沢を賜うものと信じていた。山川の超自然的存在がこの世の禍福を左右するものと信じる社会にとつて、その超自然的存在について誌した山経は、決して、虚誕の書ではなかつたのである。山経は古代中国の邑里にくらす人々の伝来の民間信仰と、それらにかかわる日々のなりわいの苦悩とをふまえ、これに対処せんとする者-おそらくは、巫祝たちの儀礼の書としての一面をもつものである。山経はたしかに一つの実用の書であつた。 「漢書」芸文志によれば、かつて 禎祥変怪 二十一巻 人鬼精物六畜変怪 二十一巻 変怪誥咎 十三巻 執不祥劾鬼物 八巻 請宿除妖祥 十九巻 禳祀天文 十八巻 請〓致福 十九巻 請雨止雨 二十八巻の諸書が存していたという。今日、これらの古書の具体的な内容は知るべくもないが、「禎祥変怪 二十一巻」・「人鬼精物六畜変怪 二十一巻」等は、その名から想像して、山経の記録している百物・怪力乱神の類が含まれていたであろうし、「執不祥劾鬼物 八巻」・「請官除妖祥 十九巻」等には、これらの魑魅罔両・神姦を除祓するための儀礼・呪術が説かれていたとみられ、「請雨止雨 二十八巻」には、「現ワルレバ則チ大雨・現ワルレバ則チ大旱」を致す水神・旱鬼を宥和・祓除する呪術が記されていたとみられる。すなわち、これら一群の佚書の中には、山経の妖怪・百物の神々等に関する記述につながるものがあり、あるいは、その奥義書Upanisad的なものともいうべき書が含まれていると想像されるのである。他方、山経の岳神祭祀に関する記載自体は、どぢらかというと、礼書的体裁を帯びている。これらの点から、山経は「周礼」春官にみられる職掌に該当するもの、おそらくは祝史らの管轄するところではなかつたかと想像されるのであるが、山経と祝史・巫祝との関係については、稿を改めて考えることとする。
著者
伊藤 由紀子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.681-687, 2014-05-20 (Released:2014-06-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

スギ花粉症患者や医療従事者にとっては, 花粉飛散数の予測値以外に, 花粉の飛散期間, 最盛期の時期, 終了時期などの飛散パターンも抗原回避や治療の計画に役立つ有益な情報である. 今回はスギ花粉の飛散パターンの分類を行い, 飛散パターンの実例を示した. 空中花粉調査は1987年から2012年までダーラム法で行った. 過去26年間のスギ花粉飛散数を調べた. 各年の2月上旬~4月下旬までの1旬あたりの花粉飛散数を変数としたクラスター分析を行った. クラスター分析の結果, 飛散数の少ない谷の年11年は1群にまとまり, 飛散数の多い山の年15年は2A, 2B, 2C群に分類された. 1群ではほぼ左右対称の飛散パターンであり, 3月下旬には飛散数が速やかに減少した. 2A, 2B群は最盛期より後半に多く飛散するタイプ, 2C群は最盛期より前半に多く飛散するタイプであった. 2A群では3月下旬の飛散割合が非常に高く, 引き続きヒノキの最盛期に移行した. 本格飛散日数は1群, 2A, 2B, 2C群ではそれぞれ38, 47, 47, 51日であった. 2群は1群より約10日長かったが, 2A, 2B, 2C間に有意差はなかった. 2A群のように最盛期より後半の3月下旬の飛散量が非常に多いパターンでは引き続きヒノキの大量飛散時期に移行するため, 有症期間の長期化や重症化が懸念された. 飛散パターンという新しい概念を取り入れることで, 花粉症の適切な治療に役立てたい.
著者
伊藤 敦彦 羽田 勝征 高橋 尚彦 犀川 哲典 山下 武志 安喰 恒輔 速水 紀幸 稲葉 秀子 浅田 健一 村川 裕二
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.640-644, 2002-11-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
7

心房細動を有する患者ではしばしば心房粗動 (AFL) を合併する, 発作性心房細動 (PAF) の薬物治療において, Ic群薬は他のI群薬に比べAFLの出現率が高いか否かを検討した.重篤な器質的心疾患や心機能低下を欠く患者179人 (平均年齢58±11歳) の薬物治療中19人にAFLが認められた, 性別, 年齢, 左房径, あるいはβ遮断薬やカルシウム拮抗薬の併用はAFLが記録される割合と関連はなかった.Ia, b群薬とIc群薬では統計的には有意ではないが, 後者の投与中に多くのAFLが記録された (8%対15%) , 投薬前にすでにAFLが記録されている症例で治療中にAFLを認める頻度は52% (12/23) と高く, AFLの既往がない患者での4% (7/156) を大きく上回っていた (p<0.0001) .また, AFL既往例に限れば, Ic群薬投与中はIa, b群薬投与中よりAFLを認める症例が多かった (36%対78%) .以上より, PAF治療中のAFLの出現には治療前のAFLの既往が大きな要因であるが, Ic群薬投与中により多くの症例でAFLが出現する傾向があった.
著者
伊藤 直也 岡田 佑一 米澤 朋子
雑誌
研究報告知能システム(ICS) (ISSN:2188885X)
巻号頁・発行日
vol.2020-ICS-198, no.8, pp.1-8, 2020-02-29

本稿では,ユーザが SNS のつながりを通じ特定のジャンルの知識を獲得することを目指し,適切なレベルや範囲の知識を有した人たちを集めたコミュニティを形成する他ユーザとのつながりの最適化手法を提案する.Twitter ユーザのアカウントを大量に集め,各アカウントの知識量を算出し,アカウント数やツイート数を制約として与えながら知識量を最大化する最適化問題を解くことでコミュニティ構成を決定する.被験者実験の結果から,提案する最適化手法により得られたユーザ群はランダムに選ばれたユーザ群と比較して有意に当該ジャンルの知識が表れていると解釈されたことが示された.
著者
伊藤 渉 イトウ ワタル Wataru ITO
出版者
東洋大学法学会
雑誌
東洋法学 = Toyohogaku (ISSN:05640245)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.67-92, 2009-07-01
著者
山下 匡将 早川 明 伊藤 優子 杉山 克己 志水 幸 武田 加代子
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.171-185, 2017-03-31

〔目的〕レジデンシャル・ソーシャルワーク・インディケーターのうち「利用者満足度」の導入が,ワーカーにもたらす影響について検討する。〔方法〕ワーカー2名に,約2か月間にわたって「利用者満足度」を記録してもらい,半構造化面接および質的内容分析の手法を用いて,「語りのヴァリエーション」,「定義」,「概念」,「カテゴリー」をコーディングした。〔結果〕111の語りのヴァリエーション,8つの概念,【インディケーターとの出会い】および【インディケーターへの葛藤と適応】ならびに【インディケーターがもたらした変化】の3つのカテゴリーが構成された。〔考察〕表情や身体状況とは相対的に独立した何らかの利用者満足度を意識的に考える機会を設けることで,ワーカーは意図的・積極的に入居者を気に掛けるようになり,"ケアワーカーとは異なる視点"をより明確にしていく傾向が看取された。
著者
伊藤 聖樹 松本 幸正
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
日本都市計画学会中部支部研究発表会論文集 (ISSN:24357316)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.25-28, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
3

リニア中央新幹線は最短で2037年に東京-大阪間の全線が開通予定となっており,三重県へも駅の設置が予定されている.目的地までの移動時間短縮は時間的余裕を生み,観光においても訪問箇所数の増加や範囲の広域化が期待される.そこで本研究では,リニアの全線開通が三重県での観光行動にどう影響するかを把握するため,まず,現在の三重県の人気エリアをSNS投稿データから抽出した.次に,WEBアンケートの結果に基づき,リニア全線開通後の観光地間の関連の強さを算出し,想定される周遊ルートを明らかにした.その結果,リニア全線開通後の三重県内の周遊ルートとしては,伊勢,鳥羽,志摩の組み合わせが最も選ばれることになった.また,広域周遊する場合,大阪や奈良,京都も訪問先として選ばれる可能性があることもわかった.他にも,東京在住者は熊野への周遊が増加する可能性が,大阪在住者は名古屋まで観光範囲が広がる可能性も示唆された.
著者
吉田 政幸 井上 尊寛 伊藤 真紀
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.161-186, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
67

映画、音楽、スポーツなどの娯楽産業には多くのファンコミュニティが存在する。本研究は人々の間でアイデンティティの共有が生じやすいプロスポーツチームのファンコミュニティに着目し、ファンコミュニティ・アイデンティフィケーションの因子構造を多次元的に明らかにするとともに、その先行要因と結果要因を理論的に説明することを目的とした。調査はプロ野球(研究1)とプロサッカー(研究2)のホームゲームにおいて実施し、収集したデータを用いて因子分析と構造方程式モデリングを検証した。研究1ではファンコミュニティ・アイデンティフィケーションを構成する要因として6因子を特定し、さらにこれらをファンコミュニティ・アイデンティフィケーションの一次因子とした高次因子モデルを推定した。その結果、モデルはデータに適合し、多次元的尺度の構成概念妥当性を支持する証左を得た。研究2においても尺度モデルの概念的妥当性が示され、さらに仮説を検証したところ、(1)ステレオタイプ的なイメージに基づく関係性(ファンコミュニティの独自性→行動的ロイヤルティ)と(2)人と集団の価値観の一致に基づく関係性(ファンコミュニティとの類似性→ファンコミュニティ・アイデンティフィケーション→行動的ロイヤルティ)という二種類の関係性の存在を明らかにした。本研究結果とその理論的説明は集団的な消費者心理や行動に関する研究の発展に寄与するものである。