著者
伊藤 純治
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.471-483, 1988-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
30
被引用文献数
3

ヒトの腹壁筋の機能を明らかにするために側腹筋 (外腹斜筋, 内腹斜筋, 腹横筋) および腹直筋の筋線維構成を検討し, 相互にまた他の骨格筋と比較した.材料は本学解剖実習に用いた10%ホルマリン水注入固定屍14体 (男性8, 女性6) から得られた側腹筋および腹直筋である.組織片は臍高の位置で採取し, 常法に従ってセロイジン包埋, 20μm薄切, ヘマトキシリン・エオジン染色を施した.これらの組織標本について, 筋層の厚さ, 1mm2中の筋線維数, 筋線維の太さおよび密度を計測した.結果は次のごとくである.1) 側腹筋の筋層の厚さは内腹斜筋が4.2mmで最も大, 以下, 外腹斜筋 (3.0mm) , 腹横筋 (2.2mm) の順であり, 3層とも男性が女性よりも優る傾向がみられ, 高齢者では腹横筋が外腹斜筋よりも大であった.2) 1mm2中の筋線維数は外腹斜筋は1189, 腹横筋は1134で, 内腹斜筋 (880) および腹直筋 (851) よりも大であり, 外腹斜筋と内腹斜筋では女性が男性より優る傾向がみられ, 腹横筋と腹直筋では性差はみられなかった.3) 筋線維の太さは, 内腹斜筋は1061.5μm2で, 外腹斜筋 (800.1μm2) , 腹横筋 (796.3μm2) , 腹直筋 (825.4μm2) に比べ大であり, ヒトの他筋と比べて中等大の筋群であった.男女を比較すると一般に男性が優る傾向がみられたが, 腹横筋では差がなかった.男性の高齢者および女性例では腹横筋が外腹斜筋よりも大なる傾向がみられた.また, 側腹筋群では筋線維の太さの相関関係がみられたが, 腹直筋との問には認められなかった.4) 筋線維の密度は側腹筋群は85%前後で高密度であったが, 腹直筋は66.9%で中等度であった.以上の事から, 側腹筋の中では内腹斜筋が最も発達し, 次いで外腹斜筋, 腹横筋の順であったが, 外腹斜筋には加齢的萎縮の傾向が強くみられた.このことから, 内腹斜筋は側腹筋の運動作用の主作働筋, 外腹斜筋はその補助筋であり, 腹横筋は内臓の支持, 腹圧あるいは呼吸運動に主として働き, 腹直筋は機能的に側腹筋と相違すると考えられた.
著者
清野 裕 南條 輝志男 田嶼 尚子 門脇 孝 柏木 厚典 荒木 栄一 伊藤 千賀子 稲垣 暢也 岩本 安彦 春日 雅人 花房 俊昭 羽田 勝計 植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.485-504, 2012 (Released:2012-08-22)
参考文献数
59
被引用文献数
10 1

本稿は,2010年6月発表の「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」以降の我が国におけるHbA1c国際標準化の進捗を踏まえて,同報告のHbA1cの表記を改めるとともに国際標準化の経緯について解説を加えたものである. 要約 概念:糖尿病は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく,動脈硬化症をも促進する.代謝異常の程度によって,無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す. 分類(Table 1,2,Fig. 1参照):糖代謝異常の分類は成因分類を主体とし,インスリン作用不足の程度に基づく病態(病期)を併記する.成因は,(I)1型,(II)2型,(III)その他の特定の機序,疾患によるもの,(IV)妊娠糖尿病,に分類する.1型は発症機構として膵β細胞破壊を特徴とする.2型は,インスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の両者が発症にかかわる.IIIは遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものと,他の疾患や病態に伴うものとに大別する. 病態(病期)では,インスリン作用不足によって起こる高血糖の程度や病態に応じて,正常領域,境界領域,糖尿病領域に分ける.糖尿病領域は,インスリン不要,高血糖是正にインスリン必要,生存のためにインスリン必要,に区分する.前2者はインスリン非依存状態,後者はインスリン依存状態と呼ぶ.病態区分は,インスリン作用不足の進行や,治療による改善などで所属する領域が変化する. 診断(Table 3~7,Fig. 2参照): 糖代謝異常の判定区分: 糖尿病の診断には慢性高血糖の確認が不可欠である.糖代謝の判定区分は血糖値を用いた場合,糖尿病型((1)空腹時血糖値≧126 mg/dlまたは(2)75 g経口糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200 mg/dl,あるいは(3)随時血糖値≧200 mg/dl),正常型(空腹時血糖値<110 mg/dl,かつOGTT2時間値<140 mg/dl),境界型(糖尿病型でも正常型でもないもの)に分ける.また,(4)HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)の場合も糖尿病型と判定する.なお,2012年4月1日以降は,特定健康診査・保健指導等を除く日常臨床及び著作物においてNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値で表記されたHbA1c(NGSP)を用い,当面の間,日常臨床ではJDS値を併記する.2011年10月に確定した正式な換算式(NGSP値(%)=1.02×JDS値(%)+0.25 %)に基づくNGSP値は,我が国でこれまで用いられてきたJapan Diabetes Society(JDS)値で表記されたHbA1c(JDS)におよそ0.4 %を加えた値となり,特に臨床的に主要な領域であるJDS値5.0~9.9 %の間では,従来の国際標準値(=JDS値(%)+0.4 %)と完全に一致する. 境界型は米国糖尿病学会(ADA)やWHOのimpaired fasting glucose(IFG)とimpaired glucose tolerance(IGT)とを合わせたものに一致し,糖尿病型に移行する率が高い.境界型は糖尿病特有の合併症は少ないが,動脈硬化症のリスクは正常型よりも大きい.HbA1c(NGSP)が6.0~6.4 %(HbA1c(JDS)が5.6~6.0 %)の場合は,糖尿病の疑いが否定できず,また,HbA1c(NGSP)が5.6~5.9 %(HbA1c(JDS)が5.2~5.5 %)の場合も含めて,現在糖尿病でなくとも将来糖尿病の発症リスクが高いグループと考えられる. 臨床診断: 1.初回検査で,上記の(1)~(4)のいずれかを認めた場合は,「糖尿病型」と判定する.別の日に再検査を行い,再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断する.但し,HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする.また,血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれかと(4))が確認されれば,初回検査だけでも糖尿病と診断する.HbA1cを利用する場合には,血糖値が糖尿病型を示すこと((1)~(3)のいずれか)が糖尿病の診断に必須である.糖尿病が疑われる場合には,血糖値による検査と同時にHbA1cを測定することを原則とする. 2.血糖値が糖尿病型((1)~(3)のいずれか)を示し,かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は,初回検査だけでも糖尿病と診断できる. ・糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在 ・確実な糖尿病網膜症の存在 3.過去において上記1.ないし2.の条件がみたされていたことが確認できる場合は,現在の検査結果にかかわらず,糖尿病と診断するか,糖尿病の疑いをもって対応する. 4.診断が確定しない場合には,患者を追跡し,時期をおいて再検査する. 5.糖尿病の臨床診断に際しては,糖尿病の有無のみならず,成因分類,代謝異常の程度,合併症などについても把握するよう努める. 疫学調査: 糖尿病の頻度推定を目的とする場合は,1回の検査だけによる「糖尿病型」の判定を「糖尿病」と読み替えてもよい.この場合,HbA1c(NGSP)≧6.5 %(HbA1c(JDS)≧6.1 %)であれば「糖尿病」として扱う. 検診: 糖尿病を見逃さないことが重要で,スクリーニングには血糖値をあらわす指標のみならず,家族歴,肥満などの臨床情報も参考にする. 妊娠糖尿病: 妊娠中に発見される糖代謝異常hyperglycemic disorders in pregnancyには,1)妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus(GDM),2)糖尿病の2つがあり,妊娠糖尿病は75 gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する. (1)空腹時血糖値 ≧92 mg/dl (2)1時間値 ≧180 mg/dl (3)2時間値 ≧153 mg/dl 但し,上記の「臨床診断」における糖尿病と診断されるものは妊娠糖尿病から除外する.
著者
窪田 和雄 松沢 大樹 藤原 竹彦 伊藤 健吾 渡辺 弘美 小野 修一 伊藤 正敏 山浦 玄嗣 滝田 公雄 佐々木 雄一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.503-509, 1985-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
21

脳は老化に伴ない, 神経細胞を減じ, 体積が減少し, 脳室, 脳溝が拡大してゆく. 我々はこの過程をCTスキャンで定量的に解析し, 脳は加齢に伴ない著明に萎縮するだけでなく, 個人差が非常に大きくなることを明らかにしてきた. 今回脳萎縮の個人差を生ずる要因を明らかにするために, 喫煙が脳萎縮に及ぼす慢性効果について調べた.神経学的に, またCTスキャン上異常のない40歳から69歳までの喫煙者159人, 非喫煙者194人について, 脳萎縮を測定した. コンピューターを使用し, CT像を構成している画素を数え, 頭蓄内の脳実質の割合を求め, 更に若い健常者の脳に比べて何%萎縮したかを示す脳体積指数 (Brain Volume Index) を求めた. BVIは加齢に伴ない低下するだけでなく, 喫煙者において, 50歳~54歳, 55歳~59歳では危険率0.1%以下で, 65歳~69歳では危険率5%で非喫煙者よりも有意に低く, これらの年代では喫煙者の脳萎縮が非喫煙者よりも進んでいることを示した. また非喫煙者では男女差は見られなかった. 喫煙量に対する依存関係を50歳代男性で調べたところ, 喫煙者各群は非喫煙者よりも有意にBVIは低下し, 喫煙指数が多くなるにつれBVIは低下する傾向があったが, 喫煙者各群に有意差はなかった. また喫煙者では血清トリグリセライド (p<0.002) 及び収縮期血圧 (p<0.05) が非喫煙者よりも有意に高かった.脳血流が喫煙者では減少しているという我々の先の報告と合わせ, 喫煙は慢性的に動脈硬化を促進し, 動脈硬化や血圧の上昇その他の要因とともに脳血流を低下させ, 加齢に伴なう神経細胞の喪失を助長し, 脳萎縮を促進させると考えた.
著者
桝屋 隆太 岡本 好司 木戸川 秀生 山吉 隆友 野口 純也 伊藤 重彦 南川 将吾 神薗 淳司 家入 里志
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.864-869, 2019-06-20 (Released:2019-06-20)
参考文献数
38

14歳男児.日常的にサーモンの刺身を食べていた.突然生じた右上下腹部痛のため当院を受診したところ同部に筋性防御,反跳痛を認めた.血液生化学検査で白血球および肝胆道系酵素の上昇を,腹部造影CTでは胆囊周囲および右下腹部に腹水貯留を認めたが胆石や胆管拡張の所見はなかった.審査腹腔鏡では黄色透明な胆汁性腹水貯留および胆囊漿膜の黄色変性を認めたが,明らかな穿孔部位はなく,胆囊摘出は施行せず腹腔内を洗浄しドレーンを留置して終了した.全身状態は速やかに改善し,術後1日目に腹痛はほぼ消失しドレーン排液も淡血性となった.原因検索のため便を鏡検したところ多数の虫卵を認め,形状から日本海裂頭条虫と診断した.プラジカンテル内服により翌日虫体が排泄され,腹部症状の再燃なく経過し,術後14日目に軽快退院した.条虫の感染を伴う漏出性胆汁性腹膜炎は極めて稀であり,文献的考察を踏まえ報告する.
著者
伊藤 徳也
出版者
東京大学連携研究機構ヒューマニティーズセンター
雑誌
Humanities Center Booklet (ISSN:24349852)
巻号頁・発行日
no.10, pp.39-67, 2021-05-10

日本と中国の文化交流には少なくとも千年以上の長い歴史があります。その うち、中国人が積極的に日本文学を翻訳しその作品を読んだのは、この百年余 りのことにすぎません。1980年代以降特に近年、日本文学作品は、膨大な量 が翻訳・紹介されていますが、これはかつてなかった空前の出来事です。今回 の講演で紹介する周作人(1885−1967)は、中国に今ほど日本文学の読者 がいなかった二十世紀前半に、最も積極的に日本文学の翻訳・紹介を行ったパ イオニア的な文人作家です。1925年に中国最初の日本文学の教育研究組織を 北京大学内に設置したのもこの周作人です。周作人は、日本文学の専門家とし てというより、中国の新文化運動の強力な推進者として、日本文学に注目しま した。今回の講演では近代中国の文化史になるべく目を配りながら、彼と日本 文学との関わりを概観してみたいと思います。
著者
山本 洋子 橋本 明彦 冨樫 きょう子 高塚 純子 伊藤 明子 志村 英樹 伊藤 雅章
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.821-826, 2001-04-20 (Released:2014-12-27)
被引用文献数
1

掌蹠膿疱症における歯性病巣治療の有効性を調べるために,新潟大学医学部附属病院皮膚科で掌蹠膿疱症と診断した60症例について検討した.本学歯学部附属病院第二補綴科で歯性病巣を検索したところ,54例に慢性根尖病巣または慢性辺縁性歯周炎を認め,歯科治療を開始した.皮疹の経過観察を行い,「治癒」,「著明改善」,「改善」,「軽度改善」,「不変」,「悪化」の6群に分類し,「改善」以上の皮疹の軽快を認めた症例を有効群とした.口腔内アレルゲン金属除去ないし扁桃摘出術を行った症例を除いた31例について,歯性病巣治療の有効性を検討した.有効率は,歯性病巣治療終了群では70.6%,歯性病巣治療途中群では57.1%,両者を合わせた「歯性病巣治療群」では64.5%であり,無治療群の14.3%に比べて有意に有効率が高かった.有効群では歯性病巣治療開始後比較的早期に治療効果を認めること,罹病期間が長期でも治療効果が速やかに現れる症例があることより,歯性病巣は掌蹠膿疱症の主要な発症因子の1つであると考えた.本症では,従来のような扁桃炎などの耳鼻咽候科的な感染病巣および歯科金属アレルギーの検索とともに,自覚症状の有無に関わらず歯性病巣の検索も行い,個々の患者ごとに適切な治療方針を決定することが重要である.
著者
青木 孝文 伊藤 康一 青山 章一郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.119-130, 2015-10-01 (Released:2015-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2

本稿では,東日本大震災において亡くなられた方の御遺体の個人識別(身元確認)が,いかにして行われてきたかを明らかにする.今回の震災では,顔貌,指紋,掌紋,DNA型などを用いた各種の個人識別手法の中でも,特に歯科的個人識別が有効であった.しかし,発災当時,我が国の警察でさえも,多数遺体の歯科的個人識別について十分な経験を有しておらず,その方法論の確立が急務であった.この状況を打開するために,筆者らは,2011年4月から,宮城県警察本部の身元確認チームに参画し,ICTを活用した歯科的個人識別の高度化に取り組んだ.最終的に,歯科医師会と合同で,歯科情報に基づく迅速な身元確認のワークフローを構築した.本稿は,この震災現場で学んだ教訓を共有することを目的としている.更に,将来の大規模災害の身元確認に備えるために,現在,厚生労働省が実施している「歯科診療情報の標準化」事業の現状と,将来へ向けた技術課題を明らかにする.
著者
伊藤 美登里
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.316-330, 2008-09-30 (Released:2010-04-01)
参考文献数
53
被引用文献数
2

U.ベックは,20世紀後半,とりわけ1970年代以降に顕在化した社会の構造変化を「再帰的近代化」としてとらえる社会学者の一人である.再帰的近代の主要局面として,リスク社会,グローバル化と並び,「個人化」があげられている.本稿では,ベックの個人化論を検討することで,個人化という用語でもって彼がどのような事態を表現しようとしたのか,個人化論の学説史上の意義は何か,個人化は概念として社会学においてどのような機能をもつのかを探る.具体的には,まず,ベックの個人化論は,〈一般社会学概念〉としての個人化,〈時代診断〉としての個人化,そして〈規範的要請〉としての個人化の3つに分類可能であること,この3者のうち彼の主要関心事は〈時代診断〉としての個人化にあることを示す.次に,個別科学としての社会学が成立した時期の「個人」ないし「個人化」に比べ,彼の「個人化」においては,社会のさらなる分化の結果,個人は社会との関連づけの度合いが減少し,自己関連づけがより強化されたものとして描かれていることを示す.加えて,ドイツ社会学の実証研究において,個人化論は社会の構造変化にともなって生じた社会と個人の関係の変化,個人のあり方の変化を分析し考察する目的において,「理念型」と同様の機能を果たしうることを指摘する.
著者
伊藤 毅志 古郡廷治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.53, pp.1-5, 1999-06-24
参考文献数
2

従来、人間の問題解決において、問題を解くために、色々な図を描いたり道具を使ったりするような、様々な別の表現を持っていることが問題解決に有効に働くことは指摘されてきた。本稿では、思考支援を促すために、将棋の駒の効きを視覚的に示す新しい表現を提案する。我々は、この新しい表現をコンピュータ上で実現し、4つのレベル(初心者、初級者、中級者、上級者)の将棋プレーヤーにこのシステムを使わせて、思考過程に与える影響について調査した。その結果、初級者が最もこのシステムを積極的に利用しようとする過程が見られ、システムに対する評価も高かった。It is known that the problem solver who has various kinds of representations of the problem like diagrams gains the advantage to solve it. In this article, we propose a new visual representation on SHOGI that shows on colors the move of pieces of a position. We realized this system on computer to examine how four levels of players (beginners, novice, middle-grade and expert )use it and how they are influenced by using it. As the result, novice players took a most positive attitude about this system and they prized it most highly.
著者
髙木 龍太 鈴木 夏海 入野 浩之 伊藤 このみ 伊東 隆臣 浅川 満彦
出版者
日本獣医寄生虫学会
雑誌
獣医寄生虫学会誌 (ISSN:1347961X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.50-52, 2020

四国沖で捕獲され、高知県土佐清水市に所在する大阪・海遊館以布利センターの飼育プールで約11カ月間飼育されたジンベエザメRhincodon typus Smith, 1828の口腔壁から、ハナガタムシAnthosoma crassum (Abildgaard, 1794)(カイアシ亜綱ツツウオジラミ科Dichelesthiidae)に類似した雄成体1個体が見出された。種同定には形態の精査が必要であり、今後の課題となる。今回の報告により、日本産ジンベエザメからは計4種の甲殻類が記録されたことになった。
著者
伊藤 之雄
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.p1-31, 1994-01

個人情報保護のため削除部分あり元老は慣例として形成され、後継首相推薦などの重要な国務について天皇の諮問を受ける役目を果たした。本稿は元老制度に関し、宮中関係者の手になる「徳大寺実則日記」などの史料を初めて本格的に用いて、制度の形成や運用過程における明治天皇と元老との関係や元老根互の関係など、元老制度の構造と機能について考察しようとするものである。元老制度は、日清戦争前後に明治天皇によって作られ始めたが、一八九八年に確立したときに主導権を握っていたのは、伊藤博文らの元老であった。天皇の厚い信任を得ていた伊藤は、元老中最も高い位置づけを得た。山県系官僚閥を率いる山県有朋でさえ、伊藤の格式に並ぶことはなかった。しかし日露戦争後は、元老の政治力の衰退が現れ、明治天皇が制度運用の実権を握った。その天皇の信任を背景として政治的に台頭していくのが、桂太郎である。そのことが山県有朋ら元老の反発を買い、大正政変で桂が失脚させられていく重要な背景となった。The Genro 元老, or elder statesmen, in positions established by convention, acted as consultants to the Emperor concerning important matters of state, such as the recommendation of candidate to succeed as prime minister, etc. In this paper, using Completely for the first time historical sources including "Sanenori Tokudaiji Dairy" 徳大寺実則日記 by a central participant in court affairs, I will examine the formation of the Genro system, and the relationships between Emperor Meiji and the Genro, and among the various Genro in the working of the system. Emperor Meiji began to form the Genro system around the time of the Sino-Japanese War. However, it was Genro such as Ito Hirobumi 伊藤博文 who acquired control over the system with its establishment in 1898. Ito Hirobumi was the most respected amongst the Genro because of the degree of trust which the Emperor placed in him. Even Yamagata Aritomo 山県有朋, who was the leader of the Yamagata Faction in the bureaucracy had less authority than Ito. However, after the Russo-Japanese War, the power of the leading Genro was greatly weakened, and Emperor Meiji was able to gain greater control over the system. Subsequently, Katura Taro 桂太郎, favoured with the trust of the Emperor, emerged as a major political force. The offence felt at this by the leading Genro, in particular Yamagata, was a principal factor in Katsura's loss power in the political upheavals of the early Taisho period.
著者
伊藤 海斗 加嶋 健司
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.269-278, 2021-04-01

動的な現象をモデル化する際に,それが内包する確率的不確かさを適切にモデルに組み込むことは重要である.特に近年では,突風による風力発電量の急激な変動など,システムに大きな影響を与えるレアイベントを考慮した不確かさのモデリング・解析手法がますます求められている.動的システムにおける確率的不確かさを表現するのに最も用いられるのは,ガウス型の雑音であり,解析的な扱いやすさという大きな利点をもつ一方で,裾が急速に減衰するガウス分布では外れ値を表現することができない.そこで本稿ではレアイベントモデリングが可能,かつ,動的システムでの解析的扱いやすさを併せもつ,安定分布を利用したモデリング手法を解説する.また本枠組みの応用例として,等価線形化による非線形システム解析,動的システムにおけるプライバシー保護を紹介する.
著者
尾崎 昭弘 今井 賢治 伊藤 和憲 向野 義人 白石 武昌 石崎 直人 竹田 太郎
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.779-792, 2006-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
39
被引用文献数
1

「耳鍼に関するこれまでの研究の展開」を主テーマとしてセミナーを行った。セミナーでは、近年の国内外の耳鍼の展開、作用機序や臨床効果のレビューを行い、知見を総括した。耳鍼による肥満の基礎研究では、耳介と視床下部-自律神経系の関連、耳鍼を受ける側の状態の違いに起因する個人差などが紹介された。さらに、作用機序では耳介の鍼刺激により白色脂肪組織 (WAT) に発現したレプチンが、末梢と中枢の両者に存在するレプチン受容体 (Ob-R) に結合して、摂食を抑制することなどが紹介された。耳鍼の臨床効果については、肥満に関する欧米の知見を中心に紹介された。しかし、欧米の論文のレビューでは共通した治療方法、評価指標などが乏しかったため、総合的な結論を下すには至らなかった。鎮痛効果や薬物依存では、臨床効果が期待されたが、禁煙では否定的であった。
著者
伊藤 聡 小西 真治 村上 哲哉 新田 裕樹 阿南 健一 中川 貴之 本田 中 赤木 寛一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F2(地下空間研究)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.14-31, 2020

<p> 地下鉄開削トンネルの縦断方向の一部に大きな沈下や沈下に伴うひび割れが多く見られ,その使用にあたって耐荷性能を精度よく評価することが課題となっていた.そこで,鉄筋ひずみの調査を行ったところ,トンネルの中立軸位置が設計計算の値と大きく異なることがわかった.この要因として,トンネルにひび割れが生じることでトンネル縦断方向に伸長する挙動が,両端の変状が起こっていない部分により拘束されることにより見かけの軸力が発生するといったメカニズムを想定し,軸力の算定方法を検討した.さらに,この軸力を用いて構造計算を行った結果,見かけの軸力を与え,トンネル形状を再現した疑似3次元モデルを用いることで,トンネルのひび割れ状況などの変状を精度よく再現できることがわかり,軸力の発生メカニズムの妥当性が確認できた.</p>