著者
伊藤 修一
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.107-121, 2003-06-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本研究では, 千葉県の都市名とその位置の認知要因の解明を試みた。調査は千葉市の中学生に実施し, 309人から有効回答を得た。千葉県内の31都市の名称とその認知理由, その位置について調査した。その結果, 名称と位置の認知はともに, 基本的に居住地からの距離減衰傾向を示すことが明らかとなった。さらに, 名称と位置の認知率をそれぞれ被説明変数とした重回帰分析結果は, 名称と位置の認知ともに, 経路距離が最大の影響力を示している。実際に, 生徒は生活圏外の都市名を身近な人から都市名を認知しており, 身近な人からの情報が少ない県の北西部の都市はあまり認知されていない。また, 南房総などの観光地を抱える都市は, 居住地からの距離の割に訪問を通じて認知されており, これらの例外的な都市がその距離減衰傾向を弱めている。位置認知では, 県域の末端的位置による視覚的効果が大きく影響しているが, 面積や市界線の形状といった他の視覚的効果の影響は弱い。これは, 生徒が地図を利用する際に市界線を意識していないことに関係している可能性が高い。この結果は, 都市の名称と位置がそれぞれ異なる影響を受け, 異なる過程を経て認知されていることを表している。
著者
伊藤 謙 伊藤 美千穂 高橋 京子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.71-75, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

補完代替医療のひとつに,香りを吸入することで精油成分のもつ薬理作用を利用し,心身の疾病予防や治療に応用するアロマテラピーがある.揮発性の高い化合物を気化状態で吸入すると,体内に吸収され,非侵襲的に生物活性を表すとされるが,天産物由来の成分探索や多様な効能に対する科学的なエビデンスの蓄積に乏しい.そこで,著者らは医療としての「アロマテラピー」の可能性を探るべく,記憶の影響を最小限にしたマウスの行動観察が可能な実験系を構築した.本評価系はオープンフィールドテストによるマウス運動量変化を観察するものであり,アロマテラピー材料の吸入による効果を簡便に検討することができる.次いで,香道に用いられる薫香生薬類の吸入効果について行動薬理学的に評価し,鎮静作用があることを報告した.さらに,得られた化合物群の構造活性相関研究に関する成果として,化合物中の二重結合の位置および官能基の有無によって鎮静作用が著しく変化することがわかり,活性発現に重要な構造を見出した.本成果は我が国古来の香道の有用性を示唆するだけでなく,経験知に基づく薫香生薬類の多くから新たな創薬シーズの発見が期待できる.
著者
碓井 雅博 大川 真一郎 渡辺 千鶴子 上田 慶二 徳 文子 伊藤 雄二 杉浦 昌也
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.298-306, 1991-05-31 (Released:2010-09-09)
参考文献数
15

1954年RichmanおよびWolffは心電図上肢誘導で左脚ブロック型, 胸部誘導で右脚ブロック型を呈するものを“masquerading”bundle branch block (仮装脚ブロック) と呼んだ.我々は心電図上第I誘導で幅広いRと小さなSを, 第II, III誘導で深く幅広いSを有し, 胸部誘導にて完全右脚ブロックを示す当センターでの剖検例6例 (男4, 女2, 75~93歳) を対象として臨床病理学検討を行った.臨床所見では, 胸部X線上全例に心拡大を認め, 心電図上5例に1度房室ブロックを認めた.病理所見では, 心重量が350g以上の肥大心は5例であり, 陳旧性心筋梗塞を3例 (後壁2, 側壁1) に認めた.刺激伝導系所見では, 右脚と左脚前枝の二束障害を2例に, 右脚と左脚前枝, 同後枝の三束障害を2例に認め, 左脚前枝と同後枝の二束障害が1例であった.「仮装脚ブロック」の発生機序として, 1) 左脚の広範な障害, 2) 後側壁の心筋梗塞による修飾, 3) 著明な心肥大の影響が示唆された.
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.12-27, 2016 (Released:2017-05-31)
参考文献数
11

雑草を化学薬剤で防除するという技術は,明治政府の近代化施策の一つとして欧米から「雑草と戦う学問」として導入された,しかし,日本においては,有害生物を化学的に制御するという考えが定着することはなかった.戦後,連合国軍総司令部(GHQ)の日本における占領政策によって初めて雑草や害虫を化学的に防除するという技術が紹介された.雑草防除を科学として扱い発展してきた欧米の先端除草剤の紹介は,それまでの労力を媒体とする除草法によって制約されていた日本の小農業栽培を大きく転換する技術として捉えられた.除草剤による雑草防除技術は,模倣、改良,国産化と変化しながら発展し,除草労力の軽減と労働生産性(一人当たりの作付面積の拡大)の著しい改善をもたらすことになる.一方,現在の除草剤の利用は,今日の農業就業人口の減少と高齢化のもとでの農園芸栽培を可能にしているものの,本来の使用目的である生産コストの削減,言い換えれば栽培技術の向上や経済的利益追求のための資材として機能していない現状がある.今私たちに必要なことは,生活圏における雑草害と環境的・経済的損失を認識し,除草剤をはじめ機械やマルチなど雑草防除技術を適切に利用した雑草の最良管理慣行を策定することである.
著者
北村 謙始 山田 久美子 伊藤 明 福田 實
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.133-145, 1995-09-10 (Released:2010-08-06)
参考文献数
19
被引用文献数
14 13

With the purpose of clarifying the role of internal factors in the process of dry skin occurs, dry skin was induced experimentally by an ionic surfactant and, using the model system, we investiglated from a pharmacological perspective as a new experimental plan. Through this research, we have conceived a new theory explaining how dry skin occurs. Furthermore, on the beais of this theory, we have developed a new effective compound for its treatment.In order to study on the mechanism by which dry skin occurs, we used anti-inflammatory agents and inhibitors against histological impairment mediators, as well as various substances that were considered to regulate the function of epidermal cells. The results strongly suggested that the occurence of dry skin involves a cause bringing about the over-manifestation of the epidermal plasminogen (PLG) activation system, which in turn causes abnormalities in the regulating mechanisms for the proliferation and differentiation of epidermal cells, and these result in dry skin.We discovered 4-aminomethylcyclohexanecarboxylic acid (t-AMCHA), which was the most effective substance in view of the theory on the occurrence of dry skin. Then we investigated in detail the efficacy of t-AMCHA. The results of our studies confirmed that t-AMCHA strongly suppresses the over-manifestatation of the PLG activation system in the epidermis when dry skin was occurring. In addition, t-AMCHA demonstrated superb effectiveness against phenomena caused by dry skin, including the loss of moisture from the horny layer, the increase in transepidermal water loss (TEWL), accelerated turnover in the horny layer, and the changes in various other indicators such as epidermal hypertrophy.We also performed a double-blind trial on a preparation containing t-AMCHA. Results demonstrated that the preparation containing t-AMCHA definitely made better and faster improvement than the preparation without t-AMCHA in skin surface texture. Furthermore, the t-AMCHA containing preparation showed superior stability and safety and had excellent usability.We demonstrated for the first time that the intraepidermal PLG activation system plays a major role in the process by which dry skin occurs, and founded a new theory on the occurrence of dry skin. In addition, on the basis of this theory, we discovered the effective substance t-AMCHA and conducted research on its practical application. As a result, we have not only verified the theory but also developed a revolutionary new effective substance for cosmetics.
著者
伊藤 大介 野島 聡 熊ノ郷 淳
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-10, 2014 (Released:2014-03-05)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

セマフォリンファミリーは分泌型及び膜型の蛋白である.もともとは神経発生のガイダンス因子として同定された.近年,様々な報告から,セマフォリンの中に生理的にも病理学的にも,免疫反応に関わるものが存在することが明らかになってきた.このようなセマフォリンは免疫セマフォリンと呼ばれ,Sema3A,3E,4A,4D,6D,7Aがあげられる.これらの中には,免疫細胞の活性化や分化に関わるセマフォリンもあれば,免疫細胞の輸送を助ける役割を持つものも存在する.さらに,セマフォリンの代表的な受容体には,plexinやneuropilinがあり,これらは細胞特異的な発現パターンを有し,多種のシグナル反応に関わっている.現在,セマフォリンとその受容体は様々な疾患の診断及び治療ターゲットとなる可能性があると考えられている.今回,免疫おけるセマフォリンとその受容体の役割をⅢ型及びⅣ型セマフォリンを中心に述べていく.
著者
伊藤,智義
出版者
プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, 1994-02-25

This and the next sections are guides for begineers of hardware. Today's advanced technology can get us to make a hand-made computer for our own purpose. Making a computer is not so difficult as we think. Hardware is not hard. In this section, I introduce equipment by which even begineers can start on hardware. The cost of the equipment is 500,000- 1,000,000 Japanese yen (5,000- 10,000 U.S. dollars) . Cost of electric parts for a one board sized computer is roughly 500,000 Japanese yen (5,000 U.S, dollars).
著者
浜田 恵 伊藤 大幸 片桐 正敏 上宮 愛 中島 俊思 髙柳 伸哉 村山 恭朗 明翫 光宜 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.137-147, 2016 (Released:2018-06-20)
参考文献数
37
被引用文献数
3

本研究では,小学生および中学生における性別違和感を測定するための尺度を開発し,性別違和感が示す,内在化問題および外在化問題との関連について検討することを目的として調査を行った。小学校4年生から中学校3年生までの5,204名(男子2,669名,女子2,535名)を対象として質問紙を実施し,独自に作成した性別違和感に関する13項目と,抑うつおよび攻撃性を測定した。因子分析を行った結果,12項目を含む1因子が見出され,十分な内的整合性が得られた。妥当性に関して,保護者評定および教員評定による異性的行動様式と性別違和感との関連では,比較的弱い正の相関が得られたが,男子の本人評定による性別違和感と教員評定の関連には有意差が見られなかった。重回帰分析の結果では,性別違和感と抑うつおよび攻撃性には中程度の正の相関が示された。特に,中学生男子において性別違和感が高い場合には,中学生女子・小学生男子・小学生女子と比較して抑うつが高いことが明らかになった。
著者
植田 聡史 伊藤 琢博 坂井 真一郎
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.194-201, 2022 (Released:2022-04-07)
参考文献数
12

Space missions require “resilience” to flexibly complete the mission in response to changes in the environment and system characteristics. The present study proposes a method for autonomously planning a corrective control law for lunar landing trajectory control to cope with off-nominal conditions and reflecting it in resilience improvement measures by utilizing reinforcement learning. The proposed method employs a reinforcement learning problem in which an agent is additionally placed in the control loop and the corrective control input as an action output by the agent is added to the original closed-loop control input. The results and insights are summarized for the resultant agent's characteristics which autonomously detect off-nominal conditions and proactively implement recovery measures, while verifying the capability and effectiveness of the proposed design framework enabled by a reinforcement learning architecture in a realistic and specific lunar landing sequence.
著者
伊藤 耕介
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.321-341, 2022 (Released:2022-04-13)
参考文献数
46
被引用文献数
4

気象庁の全球日別海面水温解析の準リアルタイム版(以下、R-MGD)では、解析時間の前に得られた観測データに短時間スケールの変動を落とすようなフィルタを適用している。そのため、台風の通過に伴う急激な海面水温の変化がバイアスを生むと考えられる。本研究では、R-MGDの現場観測に対するバイアスを、北西太平洋における台風の通過に沿って定量化した。初めに、2020年8月~9月にかけて立て続けに接近した3つの台風に関し、事例解析を行った。R-MGDは3つの台風の通過直後では2℃以上もの正バイアスを生じており、最後の台風が通過して1週間以上経過したのち負バイアスが観測された。R-MGDと係留ブイの比較を行ったところ、短時間スケールを落とすフィルタリングと解析時間の前に得られたデータを用いていることで、バイアスが説明できた。次に、2015年5月から2020年10月の期間でコンポジット解析を行ったところ、台風最接近の1日前から4日後までに統計的に有意な正バイアス、台風最接近の7日後から14日後までに統計的に有意な負バイアスが、台風から500 kmの範囲内で検出された。正バイアスは、冷たい亜表層の水と激しい台風の通過に伴って生じやすく、とりわけ、黒潮と黒潮続流域を除く中緯度帯で大きくなっていた。また、R-MGDの解析時間の72時間前までに得られた現場観測を追加の最適内挿法で同化することにより、バイアスは軽減されることが分かった。これは、この過程により短周期の変動が復元されたためである。台風予報への影響評価および最適内挿法の独立な観測に対する検証も実施した。
著者
伊藤 茂樹
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.21-37, 1996-10-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2
著者
木村 容子 佐藤 弘 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.394-398, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
20

呼吸器症状の漢方治療では五臓の「肺」だけでなく他の臓腑にも着目する。ストレスが関与した慢性咳嗽に八味地黄丸が有効であった2症例を経験した。症例1は25歳女性。会社のストレスによる胸の苦しさを伴い,腹診で心下痞鞕も認めたため半夏厚朴湯を処方したが効果不十分。腰の重だるさがあり八味丸に転方して咳が軽快した。症例2は42歳女性。数年間の不妊治療が背景となってゆううつ感,のどのイガイガ・つまり感が出現し,半夏厚朴湯や麦門冬湯を使用したが効果不十分。腰痛があり八味丸に転方したところ咳が改善した。両症例で小腹不仁はみられなかった。ストレスによる気うつが慢性化して気虚,特に腎虚に進行して出現する咳は,半夏厚朴湯の効果が乏しく,補腎薬である八味地黄丸が有効であると考えられた。罹患期間が短く,高齢者でない場合は,腹証で小腹不仁が必ずしも認められない。腎による咳では腰部の張りや痛みに着目することも大切である。
著者
十河 桜子 相墨 智 伊藤 あすか 西川 向一
出版者
一般社団法人 日本燃焼学会
雑誌
日本燃焼学会誌 (ISSN:13471864)
巻号頁・発行日
vol.52, no.162, pp.267-274, 2010 (Released:2018-01-26)
参考文献数
2

An outline and recent trend is described about the structure and the mechanism related to the combustion of various gas cooking appliances. Cooking appliances are classified according to the kind of heating in cooking, and it introduces the feature of the equipment in a domestic and a commercial kitchen field. In a domestic kitchen field, thermal efficiency of gas cooking stove has improved by the newly developed burner. Thermal efficiency is increased to approx. 56% from approx. 46% with the conventional type. Since 2008, all gas cooking stoves have been required to be equipped with the safety sensors to comply with safety codes and standards in Japan. Installed functions are 'overheat prevention', 'auto-gas-shutoff function in emergency' and other functions by which enables automatic cooking. In a commercial kitchen field, there are special cooking equipments at each kind of cooking. In addition, various heats such as steam are used. The installation of the low radiative cooking equipment is recommended for a comfortable commercial kitchen.
著者
伊藤 康宏 加藤 みわ子 古井 景 伊藤 祥輔 若松 一雅
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.52-59, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
18

多くの人々は, 若くて健康な人の肌の色は, そうではない人と比べて黒っぽいと考えることが普通である. しかしながら, 病気で入院している患者や血液透析を受けている人は肌の色が黒っぽく感じられる. 人は重度の病気になると不安を感じ, 抑うつが高くなるものである. われわれは, 健常な学生ボランティアの皮膚のメラニン度数と抑うつを測定し, 両者の関係を検討した. その結果, 皮膚のメラニン度数と抑うつには相関が認められた. メラニンには黒・褐色のユーメラニンとピンク・黄色のフェオメラニンがある. このうち, フェオメラニンの生成にはグルタチオンなど多量の抗酸化物質が必要である. 抑うつによる生活リズムの乱れは生体の酸化ストレスを誘導し, それに対応するために抗酸化物質が使われる. その結果, フェオメラニンの生成量が減少してユーメラニンの比率が増加し, 皮膚への色素沈着が起こるものと考えている.
著者
渡辺 恵 伊藤 舜将 馬 文超 山崎 大
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.104-121, 2022-03-05 (Released:2022-03-05)
参考文献数
40

アンサンブル洪水予測は長いリードタイムを確保でき,不確実性も表現できるため,早期警報としての活用が期待される.一方,この予測方法は確率的情報を扱うなど従来型の予測とは性質が異なり,効果的な活用ノウハウが確立されていない.本研究では,運用中の海外先行システムを調査し,予報者側とユーザーとのコミュニケーションに着目して分析した.まず,予測情報の伝達手段となる可視化手法を4つに分類し,特徴と利用法を整理した.これにより,ユーザーの要望も反映しつつ,システム不確実性を考慮し流量等の絶対値からリターンピリオド等の危険度に変換する,危険度予測一貫性の確認を可能にするなど,警報発令等の判断を支援する可視化方法を利用していることが分かった.またワークショップ等を通してユーザーと意見交換することにより,空振りの可能性のある低確率大規模災害の適切な予報が行われたり,予測情報を早期警戒に活用する際の法制度の課題が顕在化したり,ユーザーフィードバックはシステム運用改善に繋がった.アンサンブル洪水予測の効果的活用には,予測技術の高度化だけでなくユーザーとの双方向コミュニケーションが重要である点が明らかとなった.
著者
伊藤 弘了
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻
雑誌
人間・環境学 (ISSN:09182829)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.31-44, 2016

本論文では是枝裕和の映画作品における入浴の役割を論じていく.第1節では, 是枝のフィルモグラフィを辿りながら, 入浴場面が「他者との親密な関係性を構築する場」として機能している点を確認する.入浴のこの機能は, しばしば「血縁によらない家族関係」という是枝作品の主要なテーマと結びつく.登場人物たちは風呂の水を共有することで家族になっていくのである(『幻の光』[1995年], 『誰も知らない』[2004年], 『花よりもなほ』[2006年], 『歩いても歩いても』[2008年]), その裏返しとして, 他者と水を共有しない入浴(一人きりの入浴)は, その人物の孤独をあらわすことになる(『ワンダフルライフ』[1998年], 『歩いても歩いても』, 『そして父になる』[2013年], 『海街diary』[2015年], 『海よりもまだ深く』[2016年]).第1節の議論を踏まえて, 弟2節では『DISTANCE』(2001年) に入浴場面が完全に欠けている意味について考察する.この作品では, 他者との関係性の不全が描かれており.入浴の欠如はこのテーマを体現しているのである, 水の主題系に彩られた本作では, 他者と関係を深めるための装置として, 入浴の代わりにプールが用いられることになる. This paper sheds light on the function of taking baths in Hirokazu Kore-eda's films. Section 1 demonstrates that throughout his filmography, bathing creates intimate relationships between characters. The function of baths is linked with the theme of families without blood relationships, one of the most important subject themes of Kore-eda's works. His characters create families by taking baths together (Alaborasi 1995 ; Nobody Knows 2004 ; Hone 2006 ; Still Walking 2008). Contrarily, taking a bath alone represents the solitudes of the character (After Life 1999 ; Still Walking ; Like Father, Like Son 2013 ; Our Little Sister 2015 ; After the Storm 2016). Based on this argument, section 2 examines Distance (2001). This film completely lacks a bath scene. It depicts the disorder of intimate relationships, and the lack of bath scenes embodies this theme. Yet, Distance substitutes the scene of swimming pools with the bath scenes and thereby articulates the relationship between water and intimacy as other Kore-eda films do.
著者
長谷部 久乃 石原 克之 伊藤 政喜 許 鳳浩 鈴木 信孝
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.21-27, 2016-03-31 (Released:2016-04-16)
参考文献数
5
被引用文献数
1

女性のQOLを網羅的に把握し,フルーツグラノーラ摂取がQOLに及ぼす効果について検討した.方法は,インターネットを介したアンケート調査(株式会社LSTT製・女性のためのQOL調査票)により,3,460名の身体的・精神的なQOLを調査した.また,便秘気味108名,そうでない者57名の合計165名に対し,フルーツグラノーラを自由に摂取させ,試食前後のQOLの比較を行った. スクリーニング調査の結果,非便秘気味の者は便秘気味の者と比べ,全てのカテゴリーで有意に満足度が高かった.また,フルーツグラノーラの摂取習慣がある者は,精神的側面のQOLスコアが有意に高かった. さらに,フルーツグラノーラを摂取することで,全体的なQOLスコアの上昇が見られた.このことから,フルーツグラノーラの摂取は女性のQOL向上に有効である可能性が示唆された.
著者
伊藤 栄作 大平 寛典 斉藤 庸博 柳 舜仁 筒井 信浩 吉田 昌 柳澤 暁 山内 栄五郎 鈴木 裕
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.850-856, 2016-09-01 (Released:2016-09-22)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

症例は53歳の女性で,胃癌に対して腹腔鏡補助下胃全摘術を施行した.再建は機能的端々吻合によるRoux-en Y再建を行った.術後,食道空腸吻合部の屈曲による通過障害を発症し,内視鏡的な処置を繰り返し行ったが改善を認めず,術後1年の時点で磁石圧迫吻合術(山内法)を施行した.術後経過は良好で食事摂取可能となった.自験例での通過障害の原因としては,吻合部が縦隔内へ引き込まれたこと,盲端のステープルが挙上空腸へ癒着したこと,術後に食道が短縮したことなどが考えられた.山内法は磁石を用い管腔臓器を吸着し,挟まれた組織の壊死をじゃっ起し瘻孔を形成する治療法である.自験例は食道空腸吻合部が縦隔内に近い位置に存在するため再吻合術は困難が予想された.屈曲部に対する吻合を行う場合は吻合すべき腸管同士は近接しており,山内法による空腸-空腸吻合術は良い適応と考えられた.