著者
伊藤 毅志 松原 仁 ライエルグリンベルゲン
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.2998-3011, 2002-10-15
参考文献数
10
被引用文献数
14

人間の問題解決の認知過程については数多くの研究が行われてきた.ゲームおよびゲーム理論は昔から人間の問題解決行動の研究において重要な役割を演じてきた.認知研究の題材にゲームを用いることの利点は,ゲームが良定義問題で対戦による評価が容易なことである.チェスで最もよく知られた認知実験は局面の記憶に関するものでDe Grootによって行われた.この研究を継いだSimonとChaseはチャンクという概念を用いてエキスパートの認知能力を説明した.チャンクは一種の情報のかたまりで,チェスでいうとチェス盤上の典型的な駒の配置パターンのかたまりをチャンクと呼んでいる.彼らは強いプレイヤは弱いプレイヤよりも広い配置パターンをチャンクとして記憶していることを示した.将棋の認知研究の第1歩として,我々はまずチェスで行われた認知実験を追試してみることにした.チェスと将棋には認識の点からいくつかの違いがあるので,この追試実験を一度は実施することが必要だと考えた.本論文では将棋を対象とした時間無制限と時間制限の記憶実験を行った.強いプレイヤが弱いプレイヤより成績が良いこと,すなわち広い配置パターンをチャンクとして記憶しているというチェスとほぼ同様の結果が得られた.In the past, there have been numerous studies into the cognitive processes involved in human problem solving. From the start, games and game theory have played an important role in the study of human problem solving behavior. The advantage of using games for the study of cognitive behavior is that games provide a complex but well-defined problem in which evaluation of results is relatively easy. In chess, one of the most well-known cognitive experiments was the study by De Groot on memorizing positions. As a follow-up to De Groot's work, Chase and Simon introduced the theory of chunking to explain why expert game players perform so well on memory tasks. Chunking is the process of dividing a chess position into smaller parts that have meaning. Chase and Simon showed that stronger players have bigger chunks of chess knowledge than weaker players. As a first step in our cognitive study of Shogi, we repeated some experiments that were conducted in chess. We felt that repeating these experiments was necessary as there are some important differences between chess and Shogi from perceptual point of view (for example, shogi has a 9×9 board with all squares having the same color, shogi pieces are two-dimensional and in shogi captured pieces remain part of the game). Because of these differences, it could not be assumed that the results for chess would carry over to shogi. In this paper we give the experimental results of memory tasks in shogi, both with and without a time limit. Our results were similar to the ones obtained in chess. As in chess, there is a correlation between playing strength and the performance on the memory tasks. From this we can draw a similar conclusion for shogi as for chess: stronger players have bigger chunks of shogi knowledge than weaker players.
著者
杉山 直子 杉江 秀夫 五十嵐 良雄 伊藤 政孝 福田 冬季子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.51-55, 1998-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

小児自閉症の一部において, 脳内セロトニン, カテコラミンの低下がありうるという仮説に基づき, 自閉症児に対しカテコラミンの前駆物質である1-dopa少量投与を行い, 症状改善の有無をcross-over designによる二重盲検試験により検討した.Cross-over analysisでは順序効果, 時期による効果, 薬剤効果を検討したが, 薬剤の有効性は認められなかった.しかし症例によっては, 一部症状の改善の認められた例が20%あった.
著者
井口 洋夫 MUNRO I.H. UNDERHILL A. PHILLIPS D. SARRE P.J. ROBB M.A. DAY P. 丸山 有成 宇理須 恒雄 吉原 經太郎 斎藤 修二 中村 宏樹 伊藤 光男 DAY Peter R J.Donovan J P.Simons 平谷 篤也 阿波賀 邦夫 川嶋 良章 十倉 好紀 馬場 正昭 宮島 清一 長嶋 雲兵 M H.Palmer 藤平 正道 入江 正浩 P B.Davies A Carrington B J.Howard J M.Brown R N.Dixon 吉野 勝美 川口 健太郎 遠藤 泰樹 小尾 欣一 高見 道生 廣田 榮治 福井 一俊 MUNRO I. MEECH S.R. STACE A.J. SIMONS J.P. DONOVAN R.J. 岡田 正 川崎 昌博 加藤 肇 西 信之
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

分子計算化学に関する5+5ミーティング、放射光利用化学に関する5+5ミーティング及び分子科学5分野合同のミーティングをそれぞれ、岡崎の分子科学研究所、英国ダ-ズベリ-研究所及び英国アビントンのSERC会議所において下記の通り開催した。学術研究上の情報交換・討議が大変有意義な中に実施され、将来計画についても忌憚のない意見交換が行われた。詳細は別途冊子にまとめられる。(1)分子計算化学5+5ミーティング平成5年7月15日-17日に分子科学研究所に於て日英5+5ミーティングが行れた。イギリス側の参加者はDr.B.Sutcliffe(Univ.York),Prof.M.Robb(Kings Colledge),Dr.H.Rzepa(Imperial Colledge),Dr.D.Wales(Cambridge Univ.)とProf.J.Connor(Univ of Manchester)の5名であり、日本側は中村宏樹、大峰巌(分子研)、平尾公彦(名大、東大)、岩田末廣(慶応)、加藤重樹(京大)、山下晃一(基礎化研)の6名であった。英国における計算分子科学の現状、非断熱遷移と多次元トンネル、光異性化反応、水素結合多様性、クラスターの光解離、クラスターの構造、光解離反応、量子波束動力学、溶液のダイナミックス、反応における共鳴現象等々広範囲に亘る有益な討論が行われた。最後に、共同研究実施の問題点、将来への改良点を検討した。若手研究者の交流を深める事、出来れば1996年英国で会合を開く事で合意した。(2)放射光利用化学5+5ミーティング平成5年10月21-22日英国ダ-ズベリ-研において同分野のミーティングを開催した。出席者は日本側から伊藤光男分子研所長、井口洋夫岡崎機構機構長、宇理須恒雄、小杉信博、鎌田雅夫、見附孝一朗、西尾光弘(分子研)及び岩田末廣(慶大)の8名、英国側はA.J.Leadbetterダ-ズベリ-研所長、Munro、West、Hasnain、Jones、Eastham(ダ-ズベリ-)、Comer(マンチェスター)及びWeightman(リバプール大)の8名であった。会議はダ-ズベリ-研の研究プログラムの紹介、分子研SORにおける日英交流の成果報告にはじまり、13件の学術報告がなされた。原子分子の高励起状態、タンパク質分子、固体電子状態、反応素過程、固体表面反応、電励起電子状態理論及び有機材料の光電子分光などについて有益な討議が行われた。最後に、原子分子、固体表面、光表面反応等に関する将来の共同研究の可能性及び1995年に次回ミーティングを開催する可能性について議論した。(3)5分野合同ミーティング平成5年10月17日-20日、英国アビントンのSERC会議所において、5分野合同のミーティングを開催し、学問的議論を行うと共に、今後の日英協力のあり方について討議を行った。学問的討議内容及びその他の詳細については別途に作成される冊子にまとめられる。将来計画等についての議論の概要は次の通りである。(1)英国側科学行政一般についての説明(2)日英協力事業の日本側での運用方法についての説明(3)他機関・財団等に関する情報交換(4)本事業の将来計画について今迄の本協力事業の実績をお互いに振り返り、将来計画を討議した。少ない予算の中でも、大変有意義に進められてきた事を確認しあった。特に、5+5ミーティングは両国間の研究活動情報の交換と共同研究育成の為に大変有益に作用している。今後は、若手研究者の相互長期滞在による共同研究の奨励を一層推進していくべきであるという点で合意した。これには上記(3)の活用が不可欠となろう。来年度以後の具体的計画についても話し合い、その大筋を認めあった。各分野のキーパーソン同志の連絡を一層緊密にする事とした。因みに、平成6年度には、高分解能分光のミーティングを英国で、電子構造のミーティングを日本で開催し、予算の許す範囲で日本人若手研究者を3〜4名派遣する事とした。
著者
伊藤 博明
出版者
イタリア学会
雑誌
イタリア学会誌 (ISSN:03872947)
巻号頁・発行日
no.38, pp.77-103, 1988-10-30

rights: イタリア学会rights: 本文データは学協会の許諾に基づきCiNiiから複製したものであるrelation: isVersionOf: http://ci.nii.ac.jp/naid/110002959280/シエナの大聖堂に踏み入る者が最初に出会うのは、中央の舗床に描かれた「ヘルメス・メルクリウス・トリメギストュス、モーセの同時代人」HERMES MERCURIUS TRIMEGISTUS CONTEMPORANEUS MOYSIと題されたモザイク画である。このヘルメス像は、先駆的な「ヘルメス文書」の校訂版であるスコット編纂の『ヘルメティカ』、及び、画期的なルネサンス・ヘルメス主義の研究所であるイエイツの『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス伝承』のフロント・ページを飾り、ルネサンス期におけるヘルメス主義の興隆を視覚的に示しているものとして、研究者の間では夙に有名なものである。このモザイク画の両側には、内陣に向かって10のシビュラ像が置かれているが、それらは、舗床にはめられた石版が示しているように、1482年から1483年にかけて、オペラ・デル・ドゥオーモ(大聖堂総務局)の当時の長であったアルベルト・アリンギエーリの指示によって、数人の画家によって描かれたのであった。これらのシビュラ像から少し遅れて、1488年にヘルメス像は、ジョヴァンニ・ディ・ステーファノによって描かれることになるが、それも同様にアリンギエーリの指示を受けていたとされている。本稿の課題は、大聖堂の舗床に描かれているヘルメスとシビュラが意味している分脈を、舗床に刻まれているラテン語章句を詳しく分析しながら、また、当時の思想的・宗教的背景を踏まえつつ明らかにすることである。予め論述の順序を示しておくと、まず古代・中世におけるシビュラとヘルメスについて簡単な予備的考察を行い(l)、次にルネサンス期におけるシビュラとヘルメスの受容についてフィチーノを中心に検討し(II)、その後に、大聖堂舗床のシビュラとヘルメスについて論究することにしたい(III・IV)。Sul Pavimento del Duomo di Siena, si vedono le figure d'Ermete e delle dieci Sibille. Queste furono raffigurate da vari artisti sotto la guida del Rettore dell'Opera del Duomo, Alberto Aringhieri nel tardo Quattrocento. (1) Le Sibille furono originariamente profetesse in Grecia antica. Nel Medioevo, pero, erano considerate le donne che predissero la venuta del cristianesimo nelle varie regioni pagane. Anche Ermete, a cui erano attribuite le vaste opere, fu riferito come profeto egiziano sul cristianesimo, per esempio, nel Divinae institutiones di Lattanzio, ma Agostino accuso la falsita della dottrina ermetica nel suo De civitate Dei. (2) Nel periodo umanistico, il pensiero ermetico rigenero e venne divulgato in Italia. Marsilio Ficino, che tradusse il Corpus hermeticum, appoggiandosi sulle testimonianze di Lattanzio, insiste che Ermete vaticino la venuta di Cristo come le Sibille facero. La sua opinione ebbe una grand'influenza sui pensatori religiosi e filosofici del suo tempo. (3) Gli oracoli, che sono scritti presso le dieci Sibille, alludono alla nascita, al miracolo, alla flagellazione, alla passione, allla resurrezione di Gesu e al giudizio finale. Si pensa che le frasi d'oracoli sono prese principalmente dal Divinae institutiones. (4) Ermete si appoggia a una tabella, nella quale e scritta la frase che allude alla creasione del " Dio visibile, Figlio che e appellato il Sacro Verbo" , cioe, del Logos=Cristo prima d'incarnazione. Questa frase deriva dai flammenti che sono citati in greco presso il Divinae institutiones. Lattanzio, la cui opera fu utilizzata dal Rettore Aringhieri, dice che Cristo fu nato due volte; prima in spirito, poi in carne. Consultando questa opinione di Lattanzio, si conclude che sul Pavimento del Duomo, Ermete profezia Cristo nato in spirito e le Sibille profeziano Cristo nato in carne, ed Ermete e le Sibille rappresentano la significazione unificativa.
著者
馬場 正美 洲崎 英子 平良 梢 伊藤 友里 加地 ひかり 岡田 温
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.291-299, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
26
被引用文献数
1

目的:コラーゲンペプチドが骨格筋量に影響を及ぼすかどうかを検討するため,回復期リハビリテーション病棟において,コラーゲンペプチド含有経口栄養補助食品摂取群(以下 介入群)と非摂取群(以下 コントロール群)の間に,体組成,身体計測値,Activities of Daily Living,食事摂取栄養量に違いがあるかどうかを検討した.方法:2018年6月1日~2018年8月31日までの間に骨折または脳卒中で回復期リハ病棟に入院した65歳以上の患者19名を対象とし,介入群にはコラーゲンペプチド10ℊを含有するONSを摂取させた.結果:患者の平均年齢は介入群が78.3±7.0歳,コントロール群が75.2±5.5歳,男女比は介入群が男性3名,女性7名,コントロール群が男性2名,女性7名であり,患者の在院日数は介入群が72.9±29.7日,コントロール群が69.7±15.4日であった.介入前後におけるFFMの変化量は,介入群が+0.55±1.4 kg,コントロール群が-1.67±2.2 kg,SMMの変化量は介入群が+0.29±0.8 kg,コントロール群が-0.96±1.3 kg,SMIの変化量は介入群が+0.11±0.3 kg/m2,コントロール群が-0.31±0.4 kg/m2であり,FFM,SMM,SMIのいずれの項目においてもコントロール群に比べて介入群の変化量は有意に大きかった.また,介入群のSMIは1日あたり0.002±0.03 kg/m2増加した.結論:コラーゲンペプチドの経口摂取は,回復期リハビリテーション病棟患者の骨格筋量を増加させる可能性が示唆された.
著者
伊藤 明生
出版者
東京基督教大学
雑誌
キリストと世界:東京基督教大学紀要 = Christ and the World (ISSN:09169881)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.158-183, 2015-03

パピルス46番は、最古のパウロ書簡集の写本で、チェスタービーティー図書館とミシガン大学図書館に所蔵されている。業者が販売したものなので、出処の詳細は不明であるが、紀元200年が作成年代と想定される。初期キリスト教会作成の写本として一般的であった、パピルス紙製のコデックス形態の写本で、ノミナ・サクラも見出される。最古の写本であるが、最も良い読みが保存されている訳ではない。様々な角度から、当時の書写の過程を窺い知ることができる貴重な写本である。写字生が書写する際に、どのような間違いをし、その間違いがどのように訂正されるか、など当時の写本作成の過程が垣間見ることができる。
著者
伊藤 大輔 渡邊 明寿香 竹市 咲乃 石原 綾子 山本 和儀
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.334-338, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
18

筆者らは, 心療内科クリニックのショートケアにおいて, 主にうつ症状によって休職に至った者を対象に, 職場に焦点化した集団認知行動療法 (WF-CBGT) の効果を予備的に検証した. WF-CBGTは, 職場での問題を積極的に扱いながら, 行動活性化療法, 認知療法および問題解決療法などを含んだ合計8回 (1回150分) のプログラムであった. 参加に同意した対象者16名は, 介入前および介入後に, 抑うつと不安症状, 社会適応状態, 職場復帰の困難感に関する自記式尺度に回答した. 分析の結果, 職場で必要な体力面の困難は有意傾向であったが, うつと不安症状, 社会適応状態, 職場復帰後の対人面の困難と職務に必要な認知機能面の困難については介入後に有意に改善することが示され, 中程度以上の効果サイズが得られた. さらに, プログラムを完遂した多くの参加者が職場に復帰し, 復職3カ月後も就労を維持していることが確認された. このことから, WF-CBGTは, 復職支援に有用な介入である可能性が示唆された.
著者
佐藤 洋一郎 伊藤 敏雄 加藤 鎌司 河原 太八 藤岡 利生 万年 英之 鞍田 崇 西田 英隆 細谷 葵
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

「人類世」という新しい地質年代を提唱されているが、これは産業革命以降の急速なエネルギー消費により、人間活動が地球環境に大きな影響を及ぼすようになったことを、地質学的にも記述すべきとの判断による。しかし、環境の歴史を丁寧に調査すると、人間活動の影響は産業革命のはるか前から、われわれの想像を超えてはるかに大きかったことがわかってきた。
著者
山口 浩和 猪俣 雄太 伊藤 崇之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.416, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

ショックレスハンマーは打撃時の反動が少なく、また打撃力を効果的に伝達する特性から、クサビ打ち作業における作業者への身体的負担の低減と作業能率の向上が期待される。そこで、一般的に伐倒作業時に用いられているヨキと、ほぼ同じ長さのショックレスハンマーを用いて、クサビ打ち作業を模した打撃試験を行い、それぞれの器具の作業者への衝撃緩和効果と打ち込み効率を比較した。その結果、それぞれの道具を使って同じ仕事をした時に手元に伝わる振動加速度は、ヨキの方がショックレスハンマーよりも1.4倍程度大きく、持ち手が受ける反力は2倍程度大きかった。一方、同じ仕事をした時に加えた運動エネルギーの大きさは、ヨキの方がショックレスハンマーよりも1.7倍程度大きかった。これらの結果から、クサビ打ち込み作業において作業者がショックレスハンマーを使用することにより、腕への衝撃を和らげつつ、打ち込み回数を減少させることができる可能性があることが明らかとなった。
著者
伊藤 隆史 垣花 泰之
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.499-504, 2015-11-01 (Released:2015-11-06)
参考文献数
32

敗血症の際には,血管内血栓形成が進行し,しばしば播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation, DIC)を合併する。血管内血栓形成は,血流を悪化させ,臓器障害の原因となりうることから有害事象と考えられているが,感染を局所に封じ込めるうえで重要な役割を果たしている可能性が指摘され,“immunothrombosis”という概念で注目されている。しかしながら,感染を局所に封じ込めることができずにimmunothrombosisが全身に拡散した場合,多臓器が障害され,生体防御機構であったはずの血栓形成が宿主にとってむしろ有害なものになってしまう。このように,immunothrombosisが全身に拡散して制御不能に陥った状況が,敗血症性DICの病態基盤であると考えられる。本稿では,immunothrombosisで重要な役割を果たしている好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)の放出機序や意義について概説し,NETsから遊離してくると考えられている細胞外ヒストンが敗血症性DICの病態に及ぼす影響について考察する。
著者
伊藤 邦彦 和田 雅子 吉山 崇 大森 正子 尾形 英雄
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.461-467, 2004-08-15 (Released:2011-05-24)
参考文献数
9

[目的] 化学療法による治癒ないし中断後再発例の耐性率を調査し, 獲得耐性のrisk factorを分析する。 [方法] chart review。 [対象] 1993年~2003年に複十字病院で再発結核の治療を開始した, 前回感受性ないし耐性不明例。 [結果] 分析対象再発例 (N=200) での耐性率 (主要4剤/any) は16.5%で初回耐性率 (11.1%) よりも有意に高かった。再発時耐性率は前回治療方式および前回治療時の耐性判明状況に大きく影響され, 前回感受性例での耐性率 (any) は4.3%で初回例よりも低かったが統計的有意差はなかった。再発時獲得耐性の有意なrisk factorは不規則内服を含めて患者側の因子は見出せなかった。 [考察と結論] 再発結核の治療にあたっては前回治療方式や菌検査情報把握が必要である。再発時獲得耐性のrisk factorの検討からは医療者側のmiss managementがその主因を占める可能性も推測され, 今後これを強力に指導し得るような結核対策上のシステムが必要とされる可能性が示唆された。
著者
長瀬 忍 篠崎 孝夫 土屋 勝 辻村 久 増川 克典 佐藤 直紀 伊藤 隆司 小池 謙造
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.201-208, 2009-09-20 (Released:2011-12-09)
参考文献数
23

毛髪外観は毛髪の形や色,光学物性などの影響を受ける。たとえば,毛髪の形は加齢に伴いうねり(くせ)が強くなることが報告されているが,うねりの増加に起因して毛髪の揃いが乱れ,髪の艶が低下する。そこで本研究では毛髪の形に着目し,毛髪の形と微細構造との関係を明確にすることを目的とし,種々の解析を行い以下の結果を得た。1.蛍光色素のくせ毛内部への浸透挙動は非対称(くせ形状の外側で浸透速度が速く,内側で遅い)であった。この結果は外側・内側における構造/化学組成の違いを示唆する。2.透過型電子顕微鏡観察により,くせの外側では中間径フィラメント(IF)が螺旋状に配列し比較的小さなマクロフィブリルを形成し,くせの内側ではIFは毛髪軸にほぼ平行に配列し比較的大きなマクロフィブリルを形成する傾向が認められた。3.くせ毛を外側と内側に分割しアミノ酸組成を分析した結果,くせの外側にはAsp,Glu,Glyが多く,内側にはCysが多いことが判明した。以上のヒトのくせ毛解析結果は,羊毛のオルト/パラコルテックス細胞の解析結果に似ており,曲がった形の毛髪の構造や組成が哺乳類で共通である可能性を示唆する。
著者
伊藤 淳史
出版者
The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.177-186, 2010 (Released:2012-04-06)
参考文献数
52

本稿では,戦後日本における海外移住政策について,従来ほとんど検討されていなかった農林省サイドの動向に焦点をあてて考察を行った.その結果,農林省サイドの海外移住政策には人的系譜・政策の位置付け双方における満洲農業移民政策との連続性が見出された.海外移住を人口政策として捉えていた外務省サイドでは1960年代以降事業推進の動機が失われるのに対して,農林省サイドでは時々の政策課題に応じた位置付けが与えられた.加えて,海外移住は外務省にとって大東亜省発足にともなって新たに付加された事業であったのに対して,農林省においては戦時期に重要国策として取り組まれた経緯があった.戦後長期にわたって海外移住が推進されたことを外務省サイドの動向のみから説明することは困難である.農林省によって与えられた農業政策としての側面に着目することが必要だろう. また,現在30万人以上におよぶ日系ブラジル人の「デカセギ」現象について,1990年の入管法改正に先立つ戦後移民の「還流」形態が大きな影響を及ぼしていることを指摘した.日系ブラジル人労働者に関する先行研究ではほとんど言及されることはないが,戦後移民の存在を抜きに現在の「デカセギ」を説明することは困難である.従来,満洲移民研究・戦後移民研究・外国人労働者研究は相互を参照することなく行われてきたが,今後は積極的な対話が望まれよう.
著者
大戸 朋子 伊藤 泰信
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.91-91, 2012

本発表は、(1) 同人誌作家の活動、作品の発表過程についての微視的な記述を提示しつつ、(2)腐女子コミュニティを、内部の様々な軋轢の存在や、評価軸が外部の様々な要因によって変化する流動的なものとして捉え、さらに(3)二次創作作品がどのようなプロセスの中で評価され、コミュニティに受け入れられていくのかについて明確化するために、事象を科学社会学(科学者コミュニティ)の議論に重ねることを試みる。
著者
柴崎 修 水野 正浩 伊藤 彰紀
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.143-148, 2012 (Released:2013-07-01)
参考文献数
7

めまい発作を反復するメニエール病難治例に対して、ステロイドホルモン剤の変更がめまい発作の抑制に有効であった 4例を経験した。いずれもプレドニゾロンからデキサメタゾンへの変更によってめまい発作が抑制された。ステロイドホルモン剤の使用にあたっては、副腎不全など副作用の発生に注意しなければならないが、今回の症例では明らかな副作用は確認されなかった。めまい発作を反復するメニエール病難治例に対しては、ゲンタマイシン鼓室内注入や内リンパ嚢開放術、前庭神経切断術などの観血的治療が推奨されているが、これらの治療を行う前に、ステロイドホルモン剤の慎重な投与と長時間作用型ステロイドへの変更についても、検討してみる必要があると考える。