- 著者
-
佐藤 哲彦
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, pp.82-95, 2003
本稿は犯罪の質的研究において科学性・合理性を保証する説明方法に関して論じたものである.ここではとくに,シンボリック相互作用論にもとづく薬物使用の質的研究における代表的二研究を取り上げ,そこで採用されたデータ収集と説明の方法が,どのような形で科学性・合理性を保証し得たのか,あるいはし得なかったのかを論じている.そして最後に,科学性・合理性を保証し得なかった方法における問題点を克服するための新たな方法を提案している・具体的にはまず,リンドスミスによる分析的帰納にもとづいた阿片依存の研究を取り上げ,この研究が,調査対象者との会話やインタビュー,医学文献にもとづいた質的な研究であるとはいえ,仮説演繹法を用いたものであることが明らかにされる.そのことにより,科学的な質的研究の方向の一つが示される.次に,ブルーマーらによる記述的な薬物使用者研究を取り上げ,この研究が,同じく調査対象者へのインタビューや彼らとの討論にもとづいたものではあるものの,調査対象者の世界を合理的には説明できていないことが明らかにされる.そして,その問題を乗り越えるために,ディスコース分析の手法を導入することが提案される.