著者
内藤 林 谷澤 克治 箕浦 宗彦 高木 健 木原 一 野澤 和男
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

強非線形の流体現象の数値計算できる可能性があると判断した粒子法について3年間の研究で以下の成果を得ることができた。1.粒子法の有効性を計算と実験値を比較することで示した。すなわち、粒子法が、衝撃的な短時間に生起する強非線形現象、例えばスラミング、デッキウエットネスなどの現象をよく表現できることを我々自身の実験と計算で確認した。2.粒子法は、その計算領域が大きくなるとそれに従って計算時間はうなぎ昇りに長くなる短所を持つ。このことを解決するために、計算領域の境界から波の反射を無くすため、そこに完全波吸収システムを設置する手法を示し、その有効性を確認した。この波吸収システムは研究代表者が他の研究で開発したシステムであり、それを粒子法に合うように改良し、成功を収めた。このシステムを設置した境界における波エネルギー吸収量を計算した結果、ほほ100%の波吸収を実現でき、境界からの反射をなくすことができた。3.波動場の計算領域を狭くするために、水底をどこに設定するかも、計算時間に直接的に響くとともに波が伝播するうちに減衰する計算上の現象を解決する上からも重要な問題である。そこで、有限水深の水底を波動運動させる手法を導入した。水面上の撹乱から計算水底境界の撹乱を推定し、それに基づいて水底を強制的に動かすことで波の減衰を大幅に減ずることができ、水深に関して計算領域を画期的に減ずる事を可能にした。4.3次元現象の解明のために、粒子法計算コードを3次元問題への拡張を図るためには、計算時間の短縮化技術が必要である。その目的のために、並列化計算手法を完成して大幅な時間短縮技術を完成した。5.自由表面上で波動場中で前進速度をもった船舶に起きる3次元強非線形現象の計算プログラムを作り、数例の計算例を示すことができた。6.前進速度を有する二次元船舶の運動計算を行い、従来計算が不可能であったポーポイジングなどの現象を計算上で得ることができるようになった。7.工学に必要な力の計算において、考えられない、実験値にもない高周波数の変動が計算値に現れていた。この現象を補助方程式を使うことによって除去できる計算法を完成させた。このことによって工学で最も大切である、物体に働く力の計算精度向上に大きな前進を示した。8.船舶海洋工学分野で難しい強非線形問題に、この粒子法が極めて強力な計算手法であることを、他の各種の具体的な問題を通じて明示した。9.この手法を広く国内外に周知するために国内外の論文雑誌に投稿するとともに、国内外の各種会議に積極的に出席し衆知してきた。多くの国外研究者からの問い合わせを受け討論を深めることができた。
著者
原 一男
出版者
大阪芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

大阪泉南地域のアスベスト被害の実態と「泉南アスベスト国家賠償訴訟」の経過を2007年から2015年にわたって取材撮影し、ドキュメンタリー映画として制作。撮影テープ:500余時間。撮影場所:泉南市、阪南市、岸和田市、堺市、大阪市、東京都、韓国等。撮影対象:原告、遺族47名、支援者15名、弁護団16名、医師・学者3名、計80余名。2016年2月『ニッポン国泉南アスベスト村 劇場版 命て なんぼなん?』(134分)を完成。2月9日完成試写会を大阪芸術大学映画館で開催。2月13、27日東京・シネマヴェーラ渋谷「原一男監督特集」で特別上映。秋に大阪で自主上映後、東京で劇場公開。国際映画祭に出品予定あり。
著者
石川 哲郎 高田 未来美 徳永 圭史 立原 一憲
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-18, 2013-05-30

1996〜2011年に、沖縄島の266河川において、外来魚類の定着状況と分布パターンを詳細に調査した結果、13科に属する30種1雑種の外来魚類を確認した。このうち、温帯域から熱帯域を含む様々な地域を原産とする合計22種(国外外来種19種、国内外来種4種)が沖縄島の陸水域で繁殖していると判断され、外来魚類の種数は在来魚類(7種)の3倍以上に達していた。繁殖している外来魚類の種数は、20年前のデータと比較して2倍以上に増加していたが、これは1985年以降に18種もの観賞用魚類が相次いで野外へ遺棄され、うち10種が繁殖に成功したことが原因であると考えられた。外来魚類の分布は、各種の出現パターンから4グループに分けられた:極めて分布が広範な種(カワスズメOreochromis mossambicusおよびグッピーPoecilia reticulata)、分布が広範な種(カダヤシGambusia affinisなど4種)、分布が中程度の広さの種(マダラロリカリアPterygoplichthys disjunctivusなど5種)および分布が狭い種(ウォーキングキャットフィッシュClarias batrachusなど20種)。外来魚類の出現頻度と人口密度との間には正の相関が認められ、外来魚類の出現パターンと人間活動との間に密接な関係があることが示唆された。外来魚類は、導入から時間が経過するほど分布を拡大する傾向があったが、その速度は種ごとに異なっていた。特に、日本本土やヨーロッパにおいて極めて侵略的な外来魚類であると考えられているモツゴPseudorasbora parva、オオクチバスMicropterus salmoidesおよびブルーギルLepomis macrochirusの分布拡大が遅く、外来魚類の侵略性が導入された環境により異なることが示唆された。沖縄島の陸水域において新たな外来魚類の導入を阻止するためには、観賞用魚類の野外への遺棄を禁ずる法規制の整備と共に、生物多様性に対する外来生物の脅威について地域住民に啓発していくことが重要である。
著者
柴原 孝彦 森田 章介 杉原 一正 箕輪 和行 山口 朗 山田 隆文 野村 武史
出版者
Japanese Society of Oral Oncology
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.171-181, 2009-09-15
被引用文献数
7 6

1995年1月から2004年12月の10年間に本学会評議員が所属する61施設で,エナメル上皮腫と診断,治療された947症例に対してアンケートによる疫学的調査を実施した。性別は男性581例,女性366例であり,年代別にみると男性は20歳代で18.6%とピークを示し,女性では10歳代で23.2%とピークを示した。また部位では臼歯部が最も多く55.6%であった。臨床症状では疼痛が46.6%と最も多く,次いで腫脹が13.6%であった。エックス線所見は単房性が50.7%,多房性が40.4%であった。2005年のWHO歯原性腫瘍組織分類ではsolid/multicystic typeが74.5%と最も多く,次いでunicystic typeが17.0%,desmoplastic typeが4.1%,extraosseous/peripheral typeが3.0%であった。治療法では,顎骨保存療法(開窓145例15.9%,摘出開放創187例20.5%,摘出・掻爬289例31.8%を含む)が74.0%,顎骨切除療法が24.1%であった。
著者
栗原 一貴 五十嵐 健夫 伊東 乾
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.14-25, 2006-10-26
被引用文献数
10

本論文では,資料の作成から発表までを電子ペンによって統一的に行うことのできるプレゼンテーションツールを提案し,実用システムの開発と教育現場における長期ユーザスタディによりその有効性を検証する.まず事前調査を行い,従来のツールでは満たせないプレゼンテーションに対する現場ニーズを分析した.その結果,資料の作成・編集をIT初心者でも簡便に行うことができる機能と,発表中であっても資料を動的に編集できる機能が重要であるという知見が得られた.これに基づき,電子ペンの持つ直感的操作が可能な特性と,絵画的表現および言語的表現を自由に空間に配置・操作できる特性を活かした電子プレゼンテーションツール「ことだま」を開発した.そして小中高校の教員を被験者とする2年間にわたる長期のユーザスタディを行った.その結果ことだまの有効性が実証され,教育現場への応用で必要となるプレゼンテーションツールデザインのための知見が得られた.
著者
奥乃 博 合原 一究
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012

(1)ギター演奏の手の動きとギター演奏音響信号との情報統合と,複数の追跡機構の結果統合による裏拍等に頑健なビート追跡法を開発し,音楽共演者ロボットを開発.(2)カエルの合唱でのリーダに倣ったリーダ度を設計し,実時間でリーダ度を求め,リーダ度が最も高いパートに演奏を合わせる合奏機構を開発し,音楽共演ロボットで有効性を確認.(3)2種の信号帯域に応答する音光変換装置「カエルホタル」の開発し,2種類のカエルの合唱の同時観測に日豪で成功.
著者
千原 一泰
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

小胞体ストレスはアルツハイマー病をはじめとする種々の神経変性疾患の病因のひとつに挙げられている。グリア細胞に特異的に発現する小胞体ストレスセンサーOASIS のノックアウトマウスでは野生型マウスに比べ、カイニン酸投与による神経細胞死が顕著に亢進する。本研究においてOASISによる神経細胞保護作用を解析した結果、OASISがアストロサイトにおける脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現と分泌に重要な役割を担っている事を示唆するデータが得られた。
著者
山田 果林 竹原 一明 中村 政幸
出版者
鶏病研究会
雑誌
鶏病研究会報 (ISSN:0285709X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.13-21, 1999-05-25
被引用文献数
22
著者
堅田 尚郁 西村 治彦 合原 一幸
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLP, 非線形問題 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.381, pp.45-52, 2000-10-13

弱い信号に対する非線形システムの応答性がノイズの存在下で増強される現象として, 確率共鳴(Stochastic Resonance:SR)が知られている.我々は, これまで, ニューロン集団系が自己連想記憶型のネットワークを構成し記憶パターンを有する場合のSR的現象について考察してきた.本研究では, 白色ノイズをともなうニューロンによる場合の確率共鳴現象について, ニューロン数が3個と156個の場合の記憶モデルを取り上げ, そのシミュレーション実験の結果を報告する.
著者
李 咏梅 菅原 一孔 尾崎 知幸 小西 亮介
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DSP, ディジタル信号処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.167, pp.37-42, 2002-06-20

指数減衰信号の周波数推定手法としてR.Kumaresan及びW.Tufts(KT)によって提案されたKT手法がよく知られている.KT手法では線形後ろ向き予測法と特異値分解が重要な役割を果たしている。しかし,信号の中で雑音が増加した場合,KT手法では周波数の推定は困難である.本論文では、雑音が増加した場合においても,良好な周波数推定を行うための手法を提案する.提案手法では、前向きと後ろ向き線形予測法に基づいて,異なった時間信号区間を用いて信号に対する零点グループを抽出ことにより,信号に含まれる周波数を推定する.シミュレーション結果により,提案手法はKT法に比べ良好な推定結果が得られることを示した.
著者
戸田 賢二 海老原 一郎 瀬河 浩司 高橋 孝一 森川 治 古原 和邦
雑誌
研究報告組込みシステム(EMB)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.44, pp.1-6, 2013-03-06

制御システムをマルウェアの脅威から防御する手段として制御システムを包み込みセキュリティのバリアを提供するデバイスの提案と開発状況について述べる.同デバイスは専用のFPGAボードであり,まずストレージのアクセス制御を中心に開発を行っている.本稿では,ファイルシステムへの対応手法について検討した.Security Barrier Device, an attachment to control system devices for protection against malware, is described. The device is a specially designed FPGA board, in which storage access control is firstly under development. This article has a discussion on access control method on file systems.
著者
石井 純一 八木原 一博 桂野 美貴 住本 和歌子 宮嶋 大輔 柳下 寿郎 出雲 俊之
出版者
Japanese Society of Oral Oncology
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.129-135, 2012-12-15
被引用文献数
6

舌癌の正確な切除のためには術前に腫瘍の進展範囲についての情報が必要である。進展範囲は生体と切除標本超音波像を用いて計測された。二つの超音波像における腫瘍の進展範囲に関して相違は認められなかった。しかし,生体の超音波像と病理標本における腫瘍の進展範囲とは有意な差があった(<i>p</i> < 0.05)。しかしながら,生体超音波像の進展範囲とヘマトキシリンエオジン染色病理組織標本との間には大きさに関して有意な相関関係があった(<i>p</i> < 0.01)。さらに,回帰分析によると生体超音波像の腫瘍の進展範囲から病理標本の腫瘍の進展範囲を正確に予測することができた(<i>R</i><sup>2</sup>:0.52~0.88)。<br>このように超音波検査で腫瘍の進展範囲を正確に把握することは舌癌の患者の外科切除を計画するための検査として有用な方法であることが示された。
著者
栗原 一貴 望月 俊男 大浦 弘樹 椿本弥生 西森 年寿 中原 淳 山内 祐平 長尾 確
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.391-403, 2010-02-15
被引用文献数
3

本論文では,現在一般的に行われているスライド提示型プレゼンテーション方法論について,その特徴を表す新しい定量的指標を提案する.提案指標は,「準備した順に発表資料を提示しているか」および「発表者と聴衆がどれくらい離れたところを表示しているか」を数値的に表現するものである.この指標を用いることで,プレゼンテーションの改善を図る様々な拡張手法を定量的に評価することが可能となる.さらに,提案手法を算出可能なプラットフォームシステム,Borderless Canvasを開発する.大学院講義における運用を通じて提案指標の算出と可視化例,解釈例を示し,指標の有効性と限界,適切な適用方法を議論する.In this paper we propose quantitative metrics to enable discussing the effectiveness and the limitations of extended methods of slide-based presentation methodology, which is widely used and studied today. We define metrics to estimate such as "how the presenter follows the prepared sequence of topics" and "how the presenter's behavior and every member of the audience's behavior differ." Then we develop a ZUI multi-display discussion software, Borderless Canvas, as a platform for calculating the metrics. The result of a situated datataking in a graduate school class for a semester shows an example usage of the metrics and their interpretation. Based on this, we discuss their effectiveness and limitation to apply them to evaluate extended methods of slide-based presentation methodology.
著者
宮原 一成
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ゴールディングが作家活動に専念する前、教師をしていたことは周知の事実だが、その教職歴のうち約2年間がマイケル・ホール・シュタイナー・ヴァルドルフ学校で費やされたことは、従来等閑視されてきた。学友アダム・ビトルストンの誘いによりシュタイナー思想に触れ、マイケル・ホール校でも教鞭を執ったのである。近年公刊されたゴールディングの実娘ジュディ・カーヴァー氏による回想スケッチや、マイケル・ホール校の関係者に対する電子メールでの聞き取り調査により、シュタイナーに対するゴールディングの姿勢は、没頭というよりも一定の距離を置いた共感と呼ぶのがふさわしいことが見えてきた。1970年代以降は、むしろユング心理学に傾斜し、シュタイナー思想とは皮肉な距離が広がっていく。だが、共感的にしろ批判的にしろ、ゴールディング作品、特に前半期の作品にはシュタイナー思想の影らしきものが読みとれる。『蝿の王』の少年たちが年齢層によって行動様式に違いを見せる点は、人間の成長発達段階を独自に分類したシュタイナー教育論によって、うまく説明がつけられる。同作品で印象的な4つの色彩、緑・ピンク・白・黒は、シュタイナー色彩論の基底をなす四色である。サイモンをキリスト的と読む従来の固定的解釈も、シュタイナーのキリスト論を援用することによってさらに可能性が広がる。『後継者たち』の登場人物の名にはオイリュトミー的要素が感得できる。『ピンチャー・マーティン』は、シュタイナーの主著の一つ『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』を皮肉に、悲観的に辿った作品と読むことが可能である--など、本研究は新解釈の可能性を提示できた。