著者
山本 匡 坂間 千秋
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN)
巻号頁・発行日
vol.2011-GN-81, no.10, pp.1-7, 2011-09-08

本研究では近年 Web 上に見られるようになった 「物当てゲーム」 の知識循環性と概念の事例収集特性に着目し,このゲームを概念学習における事例収集のために用いる方法を提案する.本システムの特徴は,過去のゲーム結果から概念を学習し,その結果を新たな概念の学習に利用できることである.また,多くの人にプレイされることにより,獲得される概念が平均化される 「集合知特性」 を持つ.実験の結果,本システムではゲームを繰り返すことにより概念学習が行われ,ゲーム効率が向上することが確かめられた.
著者
梶本 五郎 笠村 貴美子 花田 完五 飯嶋 猛 山本 正明 友田 喜一郎 飯田 泰造
出版者
JAPAN SOCIETY OF NUTRITION AND FOOD SCIENCE
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.286-289, 1964

神戸市内の各区より学校給食場, 工場給食場, 病院給食場および揚げ物店をそれぞれ2カ所ずつ, 計45カ所を選び, 使用中のフライ油の品質, すなわち劣化度合を泡延距離, 過酸化物価および酸価より求めた。その結果<BR>1) 学校給食に使用しているフライ油は比較的新しい。<BR>2) 工場給食のフライ油は2~3例を除きいくぶん劣化している。<BR>3) 病院給食のフライ油は2~3例を除き, やや新しい。<BR>4) 揚げ物店のフライ油は総体的に劣化しており, ことに豆腐, 油あげ製造店, 肉フライ製造店, ドーナツ製造店, てんぷら製造店では変敗度が高い。
著者
山本 浩文
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.115, no.7, pp.333-343, 2009 (Released:2009-12-08)
参考文献数
51

海底堆積物から過去の海洋環境を推定することは,近未来への環境予測を可能とする.現在の海洋環境下で生息しているものと同種のプランクトンが2万年前からの微化石として産出する.つまり,現在の海洋環境を正確に把握した上で,古環境を論じられなければならない.本報告では,現在の海洋環境を参考にして,過去2万年前までの化石群集解析を行い,放散虫指数を決定し水塊の分布を求めた.本州東方沖の親潮が直接影響する北の観測点では,海水温の低下は最終氷期最寒冷期の18.0 kaで最大となった.南の観測点では,最終氷期の最寒冷期の18.0 kaから少し遅れ17.1 kaに親潮を含む水塊の流入が見られた.9.0 kaで現在の東北沖の海洋環境に落ち着いた.8.3~6.3 kaでは黒潮親潮混合域が現在よりもやや北に張り出していた.0.3~0.2 kaには房総半島沖に親潮黒潮混合域が南下した.さらに,プランクトンの種構成から黒潮流軸についての解釈を議論する.
著者
山本 真鳥
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

サモア社会の伝統的な互酬経済は、海外への移住が広範に生じると共に、その送金がきっかけとなって大きな変容にさらされた。互酬性による儀礼交換の経済はその中で過剰に加熱してきた。その後2000年前後から、政府のイニシアチヴにより生じた、女性の伝統的な仕事の見直しと、儀礼交換縮小および「伝統回帰」の政策介入により、その制度にはさらに大きな変化が生じている。
著者
山本 哲也 山野 美樹 嶋田 洋徳 市川 健 仲谷 誠
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.29-39, 2014-04-25 (Released:2014-04-15)
参考文献数
32
被引用文献数
3 2

The present study examined cognitive vulnerability to relapses of depression by clarifying the characteristics of “cognitive reactivity” in people with recurrent major depressive episodes. Study 1-1 and 1-2 developed a Japanese version of the Leiden Index of Depression Sensitivity-Revised (LEIDS-R), which assessed cognitive reactivity, and evaluated the reliability and validity of the scale. Study 2 examined the characteristics of cognitive reactivity which differentiate people with recurrent major depressive episodes from people with a single episode or none. The Japanese version of the LEIDS-R was shown to have reasonable reliability and validity. Participants with recurrent major depressive episodes showed more repetitive thoughts about negative issues and avoidance from internal and external aversive events when depressive mood was induced, compared to participants with only a single episode of depression. These results suggest that the characteristics of cognitive reactivity are important considerations for preventing relapse of depression.
著者
吉村 弘二 山本 研一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.373-411, 1980 (Released:2007-03-29)
参考文献数
110
被引用文献数
6 3

morphine(MP),phenobarbital(PNB),diazepam(DZP),methamphetamine(MAPT)およびcocaine(CC)依存ラットについて薬物依存形成期ならびに突然休薬時の自発運動と脳波を日内リズムとの相関から解析し,同時に脳内アミン(NE,DA,5-HT)の消長を調べた.正常ラットの自発運動や脳波は一般に昼間睡眠,夜間覚醒型の日内リズムを有しているが,MP(5→50mg/kg),MAPT(0.5→5mg/kg),CC(5→40mg/kg)を1日2回8週間連続皮下注射する中に投与量と投与日数の増加に伴い注射直後から約4時間の間,自発運動は著しく増加し,脳波的睡眠図では覚醒期の増加,徐波―速波睡眠期の減少が認められた.このときMAPT,CCでは脳波が賦活されるが,MPでは動物の行動が覚醒的であるのに高振幅徐波が現れ行動と脳波の分離が認められた.barbiturate型薬物PNB(10→70mg/kg)とDZP(10→120mg/kg)を1日2回連続経口投与すると昼間の覚醒期は減少し,徐波睡眠期は増加するが,日内リズムには著しい変化が認められなかった.突然休薬を行うとMP群の自発運動は昼夜間差のない単調で低い活動レベルに終始する日内リズムに変わり,脳波では覚醒期の増加,徐波深睡眠期と速波睡眠期が減少して安静波ないし浅睡眠波のみとなった.PNBとDZP群では昼夜間とも活動型のリズムに転じ,脳波では覚醒期が増加,徐波睡眠期は減少した.この現象はDZPよりPNR群においてより著しかった.一方,MAPT,CC群では休薬後昼間の睡眠―覚醒周期はたちまち対照のリズムに戻るが夜間の睡眠量は対照に比べ増加した.各薬物の依存形成期ならびに突然休薬期には脳内のNE,DA,5-HT含量およびその代謝回転率に変化が現れた.すなわちMP禁断時には視床下部の5-HT代謝回転が促進し,その含量は著しく減少した.MAPTの連続投与により視床下部のNE含量と5-HT含量は著しく減少するが,一方,線条体のDA含量は増加し,5-HTの代謝回転は促進した.
著者
山本 道也
出版者
流通経済大学
雑誌
流通經濟大學論集 (ISSN:03850854)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.31-42, 1989-12

1982年に行われた一旬につき2回,計49回の2.5km-帯状センサスにより,茨城県竜ヶ崎市近郊(竜ヶ岡)では,6科43種2,409個体のチョウが目撃され,群集構造,種数,個体数,多様性,優占種の季節変化について解析が行われた。以下はその結果である。1.チョウ43種の25の調査季節への個体数分布マトリックスより,群分析と主成分分析を併用して,五つの活動季節と,対応する五つの群集を分類した。2.4刀は,ルリシジミが優占する全3種からなる春群集が成立していた。3.5〜6月は,モンシロチョウ,ヒメウラナミジャノメ,ヒカゲチョウ,キタテハが優占する全13種からなる初夏群集が成立していた。4.8月は,ヤマトシジミ,コチャバネセセリ,コミスジ,キチョウが優占する全19種からなる晩夏群集によって特徴づけられる。5.9月は,オオチャバネセセリ,イチモンジセセリ,ツバメシジミが優占する全6種からなる初秋群集によって特徴づけられる。6.11月は,全2種からなる小さな群集である晩秋群集が成立していた。
著者
山本 利一 鈴木 航平 北畠 謙太郎 本郷 健
出版者
日本教育情報学会
雑誌
教育情報研究 (ISSN:09126732)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.35-42, 2018 (Released:2018-05-21)
参考文献数
17

本研究は,「思考支援ツール」を活用し,「学習の振り返り」や「学習の整理」の効果を,教員研修を通して検証した..対象の教員は,学習の振り返りなどは重要であることを認識しているが,時間的制約などから,それらの活動を実施している割合が少ない実態が示された.思考支援ツールを活用することで,学習の振り返りが容易にでき,その結果を簡単に分類・整理ができるため,これらの活用は有用であるという意見が示された.また,教員は,これらを活用した具体的な授業案を想定・提案することができた.
著者
山本 吉伸
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.179-189, 2012 (Released:2012-11-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

観光地では毎年なんらかの集客施策を実施しているが、施策の効果測定はほとんど行われていない。集客施策によって観光客がどれくらい変化したのか、回遊経路がどのように変化したのかを計測することは観光地づくりの基礎データになるが、合理的費用で定量的かつ継続的に回遊行動を捕捉する技術がなかった。我々は観光地等で定量的かつ継続的に観測・調査を実現する「オープンサービスフィールド型POS(Point of Service)」を開発し、実用化に向けたプロジェクトを実施した。この論文では、兵庫県城崎温泉における事例を、地元関係者と技術者との共同作業という観点から考察する。
著者
山本 哲夫 三枝 健二 有水 昇 国安 芳夫 伊東 久夫
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.331-342, 2001-08-15 (Released:2011-03-14)
参考文献数
13

千葉大学病院のホールボディカウンタを用いて, 405名の健常人と186名の患者を対象に, 全身カリウム (K) 量の測定を行った。全身K量は以下に示すレファレンス値として算出した。すなわち20歳代の健康人の全身K量を標準値とし, 体表面積で除し, かつ年齢と男女差を加味して補正し%表示した。405名の健常人のレファレンス値は100.65±9.22%であった。各疾患ごとのレファレンス値は以下のようになった。肝硬変: 94.24±11.22%, 慢性肝炎: 95.74±11.24%, 甲状腺機能亢進症: 99.37±10.8%, バーター症候群: 82.0±9.01%, 周期性四肢麻痺: 93.99±9.86%, 筋無力症: 97.34±6.42%, 低カリウム血症: 90.64±11.76%であった。また子宮癌, 乳癌, 貧血, 高血圧症ではそれぞれ, 97.78±11.5%, 99.22±8.88%, 96.64±12.73%, 98.5±9.63%となった。14例が75%以下の異常低値を示した。その内訳は肝硬変1例, 高血圧症3例, 糖尿病1例, 低カリウム血症3例, 周期性四肢麻痺1例, バーター症候群2例, 薬物中毒2例, 乳癌1例であった。バーター症候群の1例, 周期性四肢麻痺の3例, 高血圧症2例, 肝硬変1例, 筋無力症1例では, 経時的に全身K量が測定され, 病状の経過との間に関連が見られた。
著者
小山 徹 許 勝英 上條 剛志 山本 基佳 菅沼 和樹 朱田 博聖 橋本 隆男
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.51-58, 2012-02-15 (Released:2012-03-20)
参考文献数
12

【目的】しびれを主訴に救急外来を受診する患者について,危険な責任病変に対する診断の的確性に関して検討する。【対象・方法】2009年1月1日から2011年3月31日までの2年3か月間で,当院の救急外来受診患者数は95,514人あり, そのうち電子カルテの検索ソフトを利用し,しびれの記載のある約7,500人の電子カルテを調べ,「症状が1か月以内に発生し,外傷に関係ない,主訴がおよそしびれ単独の症例」を抽出した。【結果】抽出した対象症例は433例で受診後および入院後に危険な責任病変が診断できたものは57例(13.2%)あった。内訳は脳出血2例,硬膜動静脈瘻による硬膜外血腫1例,脳幹出血3例,脳梗塞26例,脳幹梗塞14例,多発性硬化症1例,頸椎症3例,頸椎椎間板ヘルニア1例,頸髄腫瘍1例,脊髄炎1例,脊髄梗塞1例,急性下肢動脈閉塞1例,高カリウム血症1例,ギランバレー症候群1例だった。しびれの部位と危険な責任病変の診断率に関して検討すると,A群(片側上下肢,片側上肢または下肢+顔面,顔面単独)125例,B群(片側上肢,片側下肢)181例,およびC群(両上肢,両下肢,四肢)116例において,もし頭部CTを先に行った場合,それぞれ37例(A群125例中29.6%),9例(B群181例中5.0%),4例(C群116例中3.4%)において危険な責任病変を診断できないものと推測された。引き続き頭部MRIを施行すると,それぞれ3例(2.4%),2例(1.1%),4例(3.4%)において危険な責任病変を診断できないものと推測された。【結語】とくにしびれの分布が片側上下肢の場合,脳出血や脳梗塞はしびれの危険な責任病変として最も重要である。しかし,緊急で頭部CTと拡散強調画像を含む頭部MRIを施行しても,1.1%から3.4%において危険な責任病変を診断できない可能性があるものと推測された。
著者
山本 真菜 岡 隆
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.12-21, 2018
被引用文献数
1

<p>Suppressing stereotypic thoughts leads to paradoxical effects (i.e. suppressing a stereotype facilitates the use of the stereotype itself). Recent research on paradoxical effects in stereotype suppression has demonstrated that replacement thoughts decrease its paradoxical effects. This study examined the effectiveness of female counterstereotypes, major non-dominant female stereotypes, and minor non-dominant female stereotypes as replacement thoughts in suppressing dominant female stereotypes. In a lexical decision task, the participants were primed with either female counter-stereotypes, major non-dominant female stereotypes, minor non-dominant female stereotypes, or non-human objects, and thus they were likely to use those that were activated as replacement thoughts. Next, they were given a sentence-stem completion task that served as a manipulation of female stereotype suppression. Finally, they were given another lexical decision task and the response latencies of the stereotypic vs. non-stereotypic words were recorded. The results indicated that regardless of major or minor nondominant female stereotypes as replacement thoughts decreased the paradoxical effects of suppressing dominant female stereotypes. We discussed the way of activation of replacement thoughts and the role of non-dominant stereotypes as replacement thoughts in suppressing dominant stereotypes.</p>
著者
山本 晃輔 横光 健吾 平井 浩人
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.39-51, 2018-02-28 (Released:2018-04-17)
参考文献数
51
被引用文献数
2

本研究では,酒,茶,コーヒー,タバコといった嗜好品摂取時に,無意図的に想起された自伝的記憶の特性,およびその機能について検討を行った.408名を対象に,日常生活のなかで嗜好品を摂取することによって無意図的に自伝的記憶が想起された場合に,その内容や状況,想起後の思考,行為などについて記録するように求めた.その結果,全体で382ケースが回収された.想起された自伝的記憶の大半は,情動的でかつ快であり,重要で想起頻度が多く,鮮明であった.さらにKJ法を用いて機能に関する分析を行った結果,二つの機能が見いだされた.一つは行為の方向づけ (下位カテゴリ:コミュニケーション行動の開始,コーピング,行為の修正など)で,もう一つは心的活動の開始(下位カテゴリ:ノスタルジー,情動の変化,記憶の連鎖など)であった.これらの知見と嗜好品摂取時に獲得される心理学的効果との関連性について議論した.
著者
財城 真寿美 小林 茂 山本 晴彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

1.はじめに発表者らは,19世紀の日本列島各地から東アジアの隣接地域における気象観測記録を収集し,それらをデジタル化・補正均質化して科学的に解析可能な状態に整備するデータレスキューに取り組んできた.その過程で,日本を含めた各国の公使館や領事館において,外交業務や領事業務のかたわらで気象観測業務が行われていたことが明らかになってきた.東アジアでは,おもに台風の襲来予測のため,1876年以降電報による気象観測データの交換が行われるようになり(China Coast Meteorological Register、香港・上海・厦門・長崎のデータを交換),以後それが活発化する.公使館や領事館における気象観測は,このようなデータ交換のネットワークに組み込まれたものではなかったと考えられるが,在外公館という組織に支えられて,観測が持続された場合もあった.本発表では,この例として在京城日本公使館(領事館)における約15年間(1886-1900年)にわたる気象観測記録を紹介し,今後の類似記録の探索と研究の開始点としたい.2.在京城日本公使館(領事館)の気象観測記録在京城日本公使館(領事館)で行われた気象観測の記録は,「氣候経驗録」というタイトルを持つ独特の様式の用紙に記入されたもので,毎日3回(6時,12時,18時)計測された華氏気温にくわえ,やはり3度の天候記録をともなう(図1).現在,その記録は外務省外交史料館に収蔵されており,アジア歴史資料センターがウェブ上で公開している資料によって閲覧することができる. アジア歴史資料センターの資料にある外務省と海軍との交渉記録によれば,「氣候経驗録」は京城(漢城)に日本公使館が設置されて間もない1881年には作成されていたようである.これには,当時榎本武揚らと東京地学協会に設立にあたっていた初代公使花房義質(1842-1917)の近代地理情報に対する考え方が関与していると考えられる.しかし,壬午事変(1882),甲申政変(1884)と相次ぐ動乱で公使館が焼かれ,以後の公使館・領事館の立地が確定するのは1885年になってからである.そのため,今日までまとまって残されている「気候経験録」の観測値は1886年から始まっており,同年の送り状には「當地気候経驗録之儀久シク中絶シ廻送不仕候處當月ヨリ再興之積ニ有之・・・」と長期間の中断について触れている. こうした「氣候経驗録」の報告は1900年4月まで続き,以後は中央気象台の要請により,最高最低気温や雨量の観測値もくわえ「京城気象観測月報」が報告されるようになった.ただし,このデータは直接中央気象台に送られるようになったためか,外交史料館には現存しないようである.3.課題と展望前近代の朝鮮半島では,朝鮮王朝による雨量観測のほか,カトリック宣教師による気温観測が行われた(『朝鮮事情』)。また1888年頃には,朝鮮政府が釜山・仁川・元山に測候所を設置し、気象観測を開始した(アジ歴資料,B12082124200).さらにほぼ同じ頃,日本は釜山電信局に依頼して観測を行わせ,電報によるデータ収集を行うようになり,また京城のロシア公使館でも気象観測が行われたという(Miyagawa 2008).ただし,韓国気象局が提供するデジタルデータには,これらの観測結果は収録されていない.「氣候経驗録」にある観測値を,現代の気象データと連結・比較するには,様々な解決すべき問題点がある.しかしながら,首都京城における19世紀末期の約15年間にわたる気象データとして活用をはかることは,当時の気候を詳細に復元するだけでなく,日韓のこの種のデータの交流という点でも意義あるものとなろう.今後は,観測値のデジタル化にくわえ、観測地点の同定を行って補正・均質化を行うことにより、現代の気象データと連結したり,比較したりすることにより,長期的な気温の変動の特徴を明らかにしていく.