著者
中根 洋治 奥田 昌男 可児 幸彦 早川 清 松井 保
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.22-37, 2012

本稿では,静岡県の赤石山脈の南端にある,我が国の代表的な尾根を通る秋葉古道を研究対象とした.この古道について,中世以前のことがこれまで明らかにされていないので,その成立過程と果たしてきた役割などを研究した.秋葉古道は時代と共に黒曜石・巨石信仰・塩・修験道・秋葉信仰・戦いの道などに使われてきたが,文献調査,現地踏査及び聞き取り調査により,その成立過程とともに浜松市を代表とする遠州と飯田市を代表とする南信州を結ぶ古道の役割についても研究した.その結果,最古の道は兵越峠を越えていたこと,そして,時代が下がるにつれて利用されたルートが低い位置に推移していること,また秋葉古道の役割として,物や人の運搬に関することおよび信仰などのために使われてきたことを明らかにした.
著者
小山 真人 早川 由紀夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1986年噴火は、地層として残る降下スコリアをカルデラ外に降らせたこと、カルデラ外で側噴火を起こしたこと、の2点で過去の伊豆大島の「大噴火」(Nakamura,1964,地震研彙報)と類似し、1986年と同程度の噴出量であった1912〜14年噴火や1950〜51年噴火とは異なっている。しかしながら、数年間にわたって継続的に火山灰を降らせる時期(火山灰期)がないこと、総噴出量が大噴火にしては小さいこと、の2点で過去の大噴火と異なっていたため、これらの欠損条件を満たすためにやがて火山灰期が始まると当初は予想された。ところが1987年11月18日の噴火をきっかけに火口直下のマグマはマグマ溜りに戻り(井田ほか,1988,地震研彙報)、 火山灰期は訪れなかった。1986年噴火は、カルデラ形成以降の過去1500年間に一度も起きたことのない特殊な噴火だったのか、それとも前提となる大噴火の概念に問題があるのか、の疑問が残された。その後、伊豆大島のカルデラ外に地層として確認できるテフラとそれを挟む噴火休止期堆積物の層序と分布を注意深く検討した小山・早川(1996,地学雑誌)は、明瞭な噴火休止期間に隔てられた24回の中〜大規模噴火を識別した上で、降下スコリアと降下火山灰の両方をともなう12噴火(Type 1)、降下スコリアのみをともなう7噴火(Type 2)、降下火山灰のみをともなう5噴火(Type 3)、の3類型に分類した。Type 1には噴出量1億トン以上の大規模な噴火が多く、1986年噴火はType 2のひとつである。また、Nakamura (1964)の提唱した降下スコリア→溶岩流出→火山灰期の噴火サイクルを厳密に満たす噴火は、Type 1の12噴火中の7つにすぎないこともわかった。こうして1986年噴火が伊豆大島の噴火史上とりたてて特殊な噴火でないことが明らかとなったが、肝心の噴火類型の成因は未解明のままであった。また、先述した1912〜14年噴火や1950〜51年噴火などの非爆発的な小〜中規模噴火の位置づけも十分できていなかった。中村 (1978,岩波新書)は、1)噴火末期に主火道内のマグマ頭位が低下すると、火道壁の崩落などでマグマ頭部のガス抜けが阻害されるために爆発的噴火が繰り返して火山灰を放出する火山灰期となり、2)さらにマグマ頭位が低下する場合には、火道内に地下水が浸入して水蒸気マグマ噴火が起きると考えた。噴火末期にマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞する場合には火山灰期が訪れるだろうが、すみやかに地下深部へ低下してしまえば火山灰期がないまま噴火が終了するだろう。主火道のマグマ頭位をすみやかに低下させる原因としては、側方へのマグマ貫入が考えやすい。貫入から約1年のタイムラグはあったが、実際にそれが起きたのが1986-87年噴火と考えることができる。三宅島2000年噴火でも、マグマの側方貫入によって主火道のマグマ頭位が約2ヶ月間かけて低下し、その後8月18日や29日の爆発的噴火が生じたが、火山灰期に相当する噴火は起きずに噴火が終了した。一方、カルデラ外に堆積物が確認できない1876年から1974年までの伊豆大島の一連の小〜中規模噴火は、全般的にマグマ頭位が高かった期間(火道内の赤熱したマグマ頭部が断続的に目視された期間)に発生した。この視点にもとづいて、カルデラ外に堆積物を残さなかった小規模噴火も含む伊豆大島の噴火の特徴とその成因を、統一的に次の5類型に再分類することができる。すなわち、(1)マグマ頭位が高い時期に生じた非爆発的な小〜中規模噴火(1974年、1950-51年など:旧類型の対象外)、(2)マグマの側方貫入が起きず、マグマ頭位低下が緩慢かつ限定的であったため短い火山灰期が生じた5つの中規模噴火(Y0.8、Y3.8、N3.0など:旧類型のType 3)、(3)マグマの側方貫入が起きてマグマ頭位低下がすみやかに進行したため火山灰期が生じなかった7つの中規模噴火(1986年、Y5.2、N3.2など:旧類型のType 2)、(4)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞して長い火山灰期が生じた9つの中〜大規模噴火(1777-78年=Y1.0、Y4.0、N4.0など:旧類型のType 1)、(5)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に地下水位付近で停滞し、大量の地下水浸入にともなう水蒸気マグマ爆発や岩屑なだれが生じた3つの中〜大規模噴火(S1.0、S1.5、S2.0:旧類型のType 1)。
著者
早川 文代 馬場 康維
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.447-456, 2002

"まったり" について, 京都・滋賀地方でのアンケート調査および京都市内での専門家による聞き取り調査を行い, 前報の首都圏のデータと比較し, 以下の結果を得た.<BR>(1) "まったり" は, 京都高年層には方言として用いられているが, 京都若年層には, 首都圏若年層の流行語と同様に用いられている.<BR>(2) 方言としての "まったり" は, 食物名による尺度化の精度が悪く, 食物名で "まったり" を説明することは困難であるが, "まったり" している可能性が高い食物は, 栗きんとん, 白味噌などである.<BR>(3) 方言としての "まったり" は, 良いイメージをもつ誉め言葉であり, 感覚用語というよりも, 感性を表現する用語である.まろやかで, 口にゆっくり広がる, 穏やかで, 深みがあり, ほのかに甘い感覚である.<BR>(4) 若年層に用いられている流行語としての "まったり" は, 食物名による尺度化が可能で, カスタードクリームやバタークリームなどの, まろやかで, 口にゆっくりと広がる, ねっとり, こってりした感覚である.
著者
小林 哲夫 早川 由紀夫 荒牧 重雄
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山. 第2集 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.129-139, 1983-07-01
被引用文献数
6

大隅降下軽石堆積物は, 約22, 000年前に鹿児島湾最奥部で起こった一連の巨大噴火の最初期のプリニアン噴火の産物である.灰白色の軽石と遊離結晶および少量の石質岩片からなる本堆積物は, 全層にわたってほぼ均質な見かけを呈するが, 多くの場合, 上方に向かって粒径がやや大きくなる逆級化層理を示す.層厚分布図(Fig.3)と3種の粒径分布図(軽石の平均最大粒径・石質岩片の平均最大粒径・堆積物の中央粒径;Figs.5, 6, 7)は, いずれも本堆積物の噴出火口が姶良カルデラの南縁, 現在桜島火山の位置する地点付近にあったことを示している.分布軸は火口からN120°E方向に伸びるが, 分布軸から60 km以上離れた地点にも厚く堆積している.又, 堆積物は分布軸の逆方向すなわち風上側にも20 km以上追跡できる.分布軸上で火口から30 km離れた地点での層厚は10 mに達するが, 40 km地点より遠方は海域のため層厚値は得られない.そのため噴出量の見積もりには多くの困難が伴うが, すでに知られている他のプリニアン軽石堆積物の層厚-面積曲線(Fig.4)にあてはめて計算すると, 総体積98 km^3(総重量7×10^<16>g)が得られ, 本堆積物は支笏-1軽石堆積物(116 km^3)に次ぐ最大規模のプリニアン軽石堆積物であることがわかる.3種の粒径分布図から得られる粒径-面積曲線(Fig.8)は, 噴出速度・噴煙柱の高さ・噴出率などで示される噴火の「強さ」を比較する上で有効である.それにより, 大隅降下軽石噴火の「強さ」はけっして例外的なものではなく, プリニアン噴火の平均あるいはそれをやや上回る程度であったことが判明した.
著者
早川 博文 山下 伸夫
出版者
北日本病害虫研究会
雑誌
北日本病害虫研究会報 (ISSN:0368623X)
巻号頁・発行日
vol.1992, no.43, pp.170-172, 1992-11-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
6
被引用文献数
2

Dung beetles visiting cattle dung according to dung-age (0 to 7 days) were surveyed from May to November. IVlany species of dung beetles prefered the dung in the pasture to that in the forest. Such species as Caccobius suzukii, however, was distinctly the forest species. In the pasture most species of dung beetles visited the dung of one-day-age, while in the forest they showed a tendency to visit more aged dung except Liatongus phanaeoides and Onthophagus nitidus.
著者
韓 順子 谷 伊織 早川 史子
出版者
東海学園大学
雑誌
東海学園大学研究紀要. 人文学・健康科学研究編 (ISSN:1349161X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.91-100, 2008-03

2005年5月下旬から6月上旬において、愛知県における女子高校生と女子大学生の飲み物の飲用状況を調査し、次のような結果を得た。1.高校生、大学生ともに夏の飲み物として最も多く飲まれていたのは、煮出し麦茶とウーロン茶だった。2.高校生に比べて大学生の方が飲み物の飲用率が低かったのは、大学生の方が食間に飲み物を飲んでいなかったことによるものであった。3.緑茶および紅茶、コーヒーに対する嗜好性では、大学生が緑茶やコーヒーを好み、高校生では紅茶を有意に好んでいた。4.来客時と団欒時の飲み物として大学生では、緑茶とコーヒーをそれぞれイメージしたのに対し、高校生ではいずれの場合も緑茶、紅茶およびコーヒー以外の飲み物をイメージした。
著者
神内 謙至 橋本 善隆 新美 美貴子 山下 亜希 山内 光子 四井 真由美 西田 なほみ 山崎 徹 早川 太朗 中山 英夫 槻本 康人 並河 孝 笹田 侑子 前林 佳朗 高橋 正洋 磯野 元秀
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.256-263, 2014-04-30 (Released:2014-05-19)
参考文献数
9

50歳女性.平成4年に糖尿病を指摘され平成16年より当院にて加療中.低血糖で救急搬送された既往あり.インスリン治療で血糖コントロール不良,また低血糖も起こすため,平成23年2月教育入院となった.入院中,血糖正常であるものの低血糖症状のためパニックになることがあった.翌日のスケジュールを説明しても当日になると忘れる,糖尿病教室でテキストを忘れる,と言う出来事があった.そのため,注意欠如/多動性障害(ADHD)を疑い本人の同意の上で滋賀医科大学精神神経科に紹介しADHDの診断となった.抽象的な情報を処理する能力は低く,簡潔で具体的な手本を示し,時間的余裕が必要な症例であると判断された.全成人の4.7 %の有病率とされるADHDであるが,今のところADHDと糖尿病の合併にかかわる報告は極めて少ない.血糖コントロールが極めて悪化することが考えられ,適切な治療方法が必要である.
著者
青山 龍美 早川 雅司 木下 東一郎 仁尾 真紀子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.376-380, 2014-06-05 (Released:2019-08-22)

電子やミュー粒子はスピンに伴う磁気能率を持ち,その大きさはボーア磁子を単位としてg因子で表される.g因子はDiracの相対論的量子力学による値g=2から仮想光子の量子効果により0.1%ほどずれ,これを異常磁気能率(g-2)と呼ぶ.電子の異常磁気能率は最も精密に測定されている物理量の一つであり,理論的には量子電気力学(QED)でほぼ説明できることから,高精度理論計算を通じてQEDの精密検証を与えてきた.最新の測定値はハーバード大グループによる円筒形のPenning trapを用いた実験で得られたもので,0.24ppb(ppb=10^<-9>)もの精度に達している.理論計算もそれに見合う精度まで進める必要があり,摂動論に基づく高次項の評価が急務であった.著者らのグループは数値的手法により摂動の10次項の完全な決定を行い,結果として電子g因子について10^<-12>のオーダーまで測定値と理論計算が一致することをみた.この精度までQEDの正しさが検証されたと言える.他方,QEDの理論が正しいとすると,QEDの結合定数である微細構造定数αの値を測定値と理論計算から求めることができる.その値は0.25ppbの精度を持ち,他のどの決定法によるものより精度の高い値である.電磁気的な相互作用は多岐にわたる物理現象に現れることから様々な決定法があり,これらの値が互いに無矛盾であるかは,QEDの正しさを検証するもう一つのアプローチとなる.電子の約207倍の質量を持つレプトンであるミュー粒子の異常磁気能率も0.5ppm(ppm=10^<-6>)の高い精度で測定されている.測定値と,QEDを含む素粒子標準模型からの理論値の間に約3σの差が見つかり,標準模型を超える新物理を探るプローブの一つとして注目されている.そのような議論の前提として,大半を占めるQEDの寄与を高精度に求めることが不可欠である.QED摂動論の10次項の決定と8次項の精度の改良により,QEDからの寄与は現在の測定の不確かさの1/1,000まで求まり,目下準備中の次の実験による測定精度の向上にも十分対応できると言える.理論値で最も不確かさの大きい寄与はハドロンの効果によるもので,標準模型との差を議論する上でこの寄与の精度の向上が現在の主要な課題である.QED摂動論を数値的に行うにあたって,著者らの手法は,中間くりこみの処方を用いて計算の各段階で発散量があらわに現れないようにするものであり,それによって計算機上での数値計算が可能になる.摂動の10次に寄与するファインマン図形は膨大かつ複雑であるが,これを系統的に扱う手法を開発した.著者らが約10年にわたって進めてきたQED摂動論の数値的研究について紹介する.
著者
山下 匡将 早川 明 伊藤 優子 杉山 克己 志水 幸 武田 加代子
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.171-185, 2017-03-31

〔目的〕レジデンシャル・ソーシャルワーク・インディケーターのうち「利用者満足度」の導入が,ワーカーにもたらす影響について検討する。〔方法〕ワーカー2名に,約2か月間にわたって「利用者満足度」を記録してもらい,半構造化面接および質的内容分析の手法を用いて,「語りのヴァリエーション」,「定義」,「概念」,「カテゴリー」をコーディングした。〔結果〕111の語りのヴァリエーション,8つの概念,【インディケーターとの出会い】および【インディケーターへの葛藤と適応】ならびに【インディケーターがもたらした変化】の3つのカテゴリーが構成された。〔考察〕表情や身体状況とは相対的に独立した何らかの利用者満足度を意識的に考える機会を設けることで,ワーカーは意図的・積極的に入居者を気に掛けるようになり,"ケアワーカーとは異なる視点"をより明確にしていく傾向が看取された。
著者
早川 文代
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.69-72, 2009 (Released:2011-05-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2