著者
田中 智大 山崎 大 吉岡 秀和 木村 匡臣
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
pp.37.1817, (Released:2023-08-31)
参考文献数
21

局所慣性方程式は,効率よく洪水氾濫解析を実行できる基礎方程式として2010年頃に提案されて以来,数多くの数値モデルに使われている.著者らは,局所慣性方程式がなぜ高い数値安定性を有するのか,また,その安定性条件はどのように決定されるのかについて,数学的解析とモデル実装の両面から研究に取り組んできた.本稿は,約10年間に渡り取り組んできた一連の研究をレビューし,拡散波方程式との比較,摩擦項の離散化手法による安定性への影響,安定性と精度を両立する離散化手法の提案,という3つの視点で成果を整理する.数理解析の概要を説明するとともに,局所慣性方程式をモデルに実装するユーザー視点での要点をまとめることを目的とする.さらに,水文・水資源学会の研究グループ発足といった原著論文では記すことが難しい共同研究進展の契機についても,時系列で振り返って研究ノートの形で記録する.
著者
木村 勝則
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18824544)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.85-91, 2019 (Released:2020-09-05)
参考文献数
15

2017年4月1日施行の資金決済に関する法律,資金決済法第2条5項で主にビットコインを法律によって「仮想通貨」と定めた。この仮想通貨はブロックチェーンという技術が使われている。この仮想通貨という資産の会計的な属性を考察した。
著者
矢野 康介 木村 駿介 大石 和男
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.587-598, 2017 (Released:2017-12-19)
参考文献数
37
被引用文献数
1 2

Previous studies have shown that a high level of sensory-processing sensitivity (SPS) could be a risk factor for mental health. Many studies have reported that daily exercise helps to retain and/or improve mental health. This study examined the relationship between the level of daily exercise and SPS among university students. The participants were 292 university students (143 males and 149 females) ranging in age from 18 to 23 years (19.4±1.1 years). They were asked to complete a questionnaire that included the following items: 1) the frequency of exercise (days per week), 2) the number of years of successive daily exercise, 3) the sporting events in which they currently participate, and 4) the Japanese version of the 19-item Highly Sensitive Person Scale (HSPS-J19) including 3 sub-scales, i.e., low sensory threshold (LST), ease of excitation (EOE), and aesthetic sensitivity (AES). The participants were categorized into a) high, b) medium, and c) low frequency groups, or a) short, b) middle, and c) long term groups individually, based on their levels of participation. Additionally, they were categorized into a) individual, b) team and high-frequency physical contact (HC), and c) team and low-frequency physical contact (LC) exercise groups based on their exercise habits. The high frequency and long-term groups showed lower scores of the HSPS-J19 and its sub-scales of LST, EOE, and AES than the other groups. No significant differences were found among the groups with regard to sports currently played in the scores of the HSPS-J19 and its sub-scales, i.e., LST and EOE. Only AES scores in the LC groups were higher than those in the HC groups. These results suggest that the appearance of SPS was moderated as a result of high-frequency and/or the long-term daily exercise due to habituation to strong stimuli.
著者
田原 英一 犬塚 央 岩永 淳 村井 政史 大竹 実 土倉 潤一郎 矢野 博美 木村 豪雄 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.660-663, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
10
被引用文献数
1 4

芍薬甘草湯が無効で,疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例を経験した。症例1は73歳,男性。以前からあったこむら返りが1ヵ月くらい前から増強し,当科を初診。芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変のため,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに軽減した。症例2は67歳女性。肩こり,腰痛などで通院中。夜間にこむら返りが出現するようになり,芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変。疎経活血湯2.5g/眠前投与に変更したところ,こむら返りは速やかに軽減した。症例3は66歳女性。腰痛にて当科治療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯3.0g/日を投与したが,効果が少なく,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。症例4は75歳男性。左の下肢冷感で加療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯1.5g/日投与したが,変化は一時的で,疎経活血湯2.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。血流を改善し,鎮痛効果の期待できる疎経活血湯は,芍薬甘草湯無効のこむら返りに試みられてよい方剤と考えられる。
著者
森久 瞳 木村 留美 杉山 寿美
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.394-404, 2023 (Released:2023-08-05)
参考文献数
47

本研究では, 飯, 汁, 菜から構成される我が国の献立構成に着目し, 昭和30年代前半の『栄養と料理』に掲載された夕食献立の献立構成と料理の特徴を検討した. その結果, 二菜献立, 一汁二菜献立は29.4%, 22.7%と多く, 一汁三菜献立は6.1%と少なかった. また, 汁物を含む献立は45.1%, 主食を白飯とする献立は56.4%であった. 一汁三菜献立については, 白飯を主食とする献立, 和風の汁物が多かった. 1品目の菜の主材料は魚介類46.4%, 肉類17.5%, 野菜・いも・豆類36.1%であった. 菜は, 1品目の菜, 2, 3品目の菜ともに, 50年代よりも30年代において, 和風の菜が多く, 洋風, 中華風の菜が少なかった. しかし, 主食が白飯の献立では30年代と50年代の洋風の菜の割合に有意な差は認められなかった. また, 一汁三菜献立では30年代と50年代の料理様式に有意な差は認められなかった. これらの結果から, 昭和30年代において, 白飯を主食とする一汁三菜献立が必ずしも日常的な献立構成ではないこと, 一汁三菜献立には洋風の菜が組み合わされにくく, 和風の菜が組み合わされやすいことが示唆された.
著者
髙田 久実子 蛯子 慶三 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.191-194, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

近年,日本ではインターネット販売により,鍼灸師や医師以外の者が医家向けの管理医療機器を安易に購入し購入使用するケースも少なくない。プラスチックとシールが一体になった円皮鍼(以下パイオネックス®)は操作性がよく,これまでの報告では有害事象もテープによる皮膚炎程度で安全性が比較的高く広く普及している。今回,患者が貼付していたパイオネックス®を剥離した際にプラスチック部が破損し鍼先が身体に挿入されたままになり,伏鍼などの事故につながる可能性のあった事例を経験した。患者は自己判断で購入し長期間保管して使用期限を10ヵ月過ぎたパイオネックス®を約3週間貼付していた。プラスチックは性質上劣化をおこすものであり紫外線や水,衝撃などでも破損することがある。使用期限を守ることはもちろん,貼付期間が長くなると劣化が進む可能性があり,使用上の注意喚起が改めて必要と考え急ぎ報告する。
著者
加藤 走 木村 充 田中 聡 中原 淳
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.207-216, 2023-06-20 (Released:2023-07-14)
参考文献数
51

大学のリーダーシップ教育プログラムが増加することに伴い,大学生の個人的要因と大学生のリーダーシップ行動との関係についての検討が求められている.本研究の目的は,大学生のリーダーシップ行動とリーダー・アイデンティティの関連を定量的データに基づき明らかにすることである.本研究では,大学生291名を対象にweb による質問紙調査を実施し,取得したデータに対してパス解析を行い仮説の検証を行った.分析の結果,大学生の関係水準のリーダー・アイデンティティならびに集団水準のリーダー・アイデンティティがリーダーシップ行動と正の関係があること,集団水準のリーダー・アイデンティティが関係水準のリーダー・アイデンティティよりも率先垂範,挑戦,目標共有,目標管理のリーダーシップ行動と強い正の関係があることが明らかになった.最後に,以上の結果から考えられる本研究の意義や教育実践への示唆,今後の課題について考察した.
著者
木村 幹子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.281-287, 2009 (Released:2017-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
3

性選択は種分化の重要な原動力である。性選択が単独の選択圧として種分化が生じる状況はまれかもしれないが、生態的な分化を引き起こす自然選択と連動して性選択が働くならば、種分化は起こりやすい。本稿ではまず、性選択単独では種分化が生じにくい理由と、自然選択との連動が種分化を促進する点を整理する。そして、性選択と自然選択との連動をもたらす形質であるマジックトレイトという概念を紹介する。本総説では、マジックトレイトとして、1)自然選択の標的となる形質に基づいて配偶者選択が行われる場合、及び、2)感覚システムが環境に適応進化することに伴って、選好性と交配シグナルが分化する場合(感覚便乗)、について、実証例を挙げながら紹介し、環境適応と関連しながら性選択が種分化を引き起こす(あるいは、促進する)可能性について議論する。
著者
木村,元
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, 2002-10-20

量子開放系のダイナミクスに対する一般論に基づいた議論が展開される.そこでは状態を密度行列により特徴付け,状態空間上の1パラメータ写像として量子ダイナミクスが定義される.特にメモリーを引きずらないMarkov過程に着目し,力学的半群に対する考察を行なう.まずはvon Neumann方程式の超演算子と散逸部の超演算子が可換であるクラスと,Pauliマスター方程式,(現象論的)Bloch方程式との関連性が示される.さらに詳細釣り合いの原理が成立することを証明する.続いて,ミクロな立場によるダイナミクスの考察(縮約された力学)から完全正値性に関する議論を行なう.対象系が2準位系である場合,Gorini et al.の緩和時間に対する議論が一般化され,完全正値性を特徴付ける制約が示される.この制約が完全正値性,また縮約された力学に対する実験検証を与える可能性について議論する.また完全正値性と初期相関に関する考察もなされる.
著者
高田 宏宗 柳田 誠 富岡 孝仁 金井 講治 高屋 雅彦 木村 亮 影山 祐紀 竹村 昌彦 丸山 朋子 田尻 仁 松永 秀典
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.287-294, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
17

2007年7月から2012年3月に当センターで出産した精神疾患合併妊婦137例を対象に,胎児・新生児合併症と妊娠中の服薬との関連性を検討した。流・死産7例については向精神薬服用との関連は明らかではなかった。奇形8例の母親全員が妊娠初期に向精神薬を服用していたが,妊娠12週以前に服用していた99例のうち,母体が高齢の場合に奇形発生率が有意に高かった(母体35歳以上:30例中6例,35歳未満:69例中2例,p=0.0041)。さらに,服用した向精神薬の種類数も奇形の発生に有意に相関していた(p=0.0021)。流・死産,奇形以外の合併症については,出産直前の内服によって生じ得るものとそれ以外に分けて検討した。いずれも服薬群のほうが非服薬群より発生頻度が約50%高かった。本研究から妊娠初期に向精神薬を内服していた症例では,高齢妊婦および多剤併用という2つの因子が奇形発生のリスクを高めることが示唆された。
著者
青木 孝良 水野 礼 木村 利昭 堂迫 俊一
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.125-143, 2017 (Released:2017-08-07)
参考文献数
63
被引用文献数
5

Numerous studies have been performed on casein micelles because they have characteristic structure and biological functions, and play important roles in processing of milk. More than twenty models have been proposed since Waugh proposed the first model of casein micelle in 1958. In this review, models of the casein micelle were divided into three groups of early stage, submicelle, and nanocluster modeles, and then their characteristics were described. Submicelle models of Slattery, Schmidt and Walstra had been accepted by many researchers. However, since Holt proposed the nanocluster model in 1992, most of the proposed models were modified nanocluster ones. We made discussions on the electron micrographs which played a key role in proposing the nanocluster models. Finally, we described whether it is possible to explain the changes in casein micelles during processing milk using the submicelle model of Schmidt, nanocluster models of Holt, Horne, and Dalglesish & Corredig. It is impossible to explain all phenomena which occur in casein micelles during processing of milk using any models. Further studies on casein micelles are needed.
著者
木村 功
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.27-35, 2005-11-10 (Released:2017-08-01)

人面牛身で予言をする「件(くだん)」は、明治から昭和初期にかけて西日本の口碑の中に認められる妖怪である。本論では民間伝承と文学テクストを用いて、その誕生から伝播・消滅に至る経緯を考察した。件は農業における厄除けと豊作祈願に起源があり、牛頭天王信仰と関わりながら、産業構造の変化に伴って民衆の意識が仮託される存在へと変化して行った。ついには人間と牛の関係が社会の中で希薄になった事で、殆ど消滅したのである。
著者
西平 哲郎 SIMON S.L. TROTT K.R. 田口 喜雄 木村 伯子 土井 秀之 黒川 良望 藤盛 啓成 標葉 隆三郎 里見 進
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1、調査・研究経過:1993年1月より1994年8月までにクワジャレイン環礁イ-バイ島(1993年1-3月)、マジュロ環礁(1994年3-8月)においてマーシャル諸島住民計6638人全員に超音波断層撮影装置による甲状腺スクリーニング検査を行い、触診で触知する甲状腺結節に対して21あるいは22G針による穿刺吸引細胞診を行った。これらの受診者に対して検診と同時に家族歴、生活歴、食習慣の詳細な聞き取り調査を行った。1959年以前の出生者、すなわち核実験による直接被曝の可能性のあった者は対象者中5016人であり、これは同年齢層のマーシャル諸島住民の約60%に相当した。マジュロ環礁においては2102人に甲状腺機能検査、3008人に自己抗体検査、310人に尿中ヨード測定を実施した。1995年度はこれらの結果のデータベース入力作業を行った。調査としてはイ-バイ島住民306人の追跡調査による甲状腺結節の経時的変化の検討と、1994年マジュロ検診で甲状腺癌が疑われた55人中31人の手術標本を入手し、平成8年3月現在、臨床病理学的検討を行っている。データベースの誤入力の訂正作業がまだ終了しておらず以下の結果は暫定的なものである。また、生活歴と現在の放射能汚染状況および過去の汚染データから推定予定であった住民の推定被曝線量については共同研究者のサイモン博士がマーシャル諸島共和国政府より同国の研究所より解雇されたため、本年は進展できなかった。2、結果:被曝の可能性があった住民(1959年以前に出生)女性の超音波診断では甲状腺結節有病者は受診者の44%であった。穿刺吸引細胞診は648人に施行し、診断率は70%で甲状腺癌の診断となったものは21人であった。触診所見、超音波診断をも考慮して臨床的には77人、1.2%に甲状腺癌が疑われた。これら癌の疑われた受診者の中、手術を受けたイ-バイ島住民12例(他施設病理診断を含む)では、乳頭癌6例、濾胞癌3例、微小乳頭癌2例であった。甲状腺機能検査では10人0.5%がTSH 5.1μU/ml以上の化学的甲状腺機能低下であった。甲状腺自己抗体検査ではTGHAあるいはMCHAのどちらかが陽性であったものは67人2.2%であった。尿中ヨード排泄量の測定では尿中ヨード/クレアチニン比で検討すると22%がWHO基準で中等度あるいは強度のヨード欠乏という結果であった。3、まとめ:超音波診断で甲状腺有結節者とされた女性の年齢別頻度は、年齢とともに増加しており、同様の方法で我々が調査した中国のデータと比較すると、ヨード欠乏地帯よりは低頻度であり、また非ヨード欠乏地帯よりは高頻度であった。甲状腺癌の頻度についてはイ-バイ島の結果から30才以上の女性で約2%と推定され、文献的には甲状腺結節性病変および甲状腺癌の有病率はマーシャル諸島住民で高率である。しかし、切除標本では濾胞癌の頻度が比較的高く(3例/12例)、放射線被曝を原因とするには従来の見解と矛盾すること。また、尿中ヨード排泄の結果からは、住民がヨード欠乏状態にある可能性がうかびあがり、放射線被曝以外の要因も考慮しなければならない結果となった。この研究はマーシャル諸島住民の個々の推定被曝線量と甲状腺結節病変の頻度との間の相関性を求め、それから被曝との因果関係を推定しようとするものである。平成8年度は協同研究者のトロット教授がサイモン博士に代わって被曝線量の推定を行うことになっており、結論を得るためにはその結果をまたなければならない。4、今後の予定:甲状腺疾患の疫学的調査、追跡調査を引き続き行うが、特に、対象住民の居住地域の偏りを少なくするためにouter atollと呼ばれる、マーシャル諸島辺縁の島々の住民を重点的に行う予定である。また、放射線被曝量との関係を検討するとともに、ヨード摂取量と結節性甲状腺腫との発生頻度との関係について検討する。さらに、切除標本をもとにマーシャル諸島住民の甲状腺癌の遺伝子異常の特徴を解明し、被曝との因果関係について検討を行う。
著者
木村 諭史 市井 雅哉 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.133-142, 2011-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、質問紙調査法により、外傷体験を有する大学生191名を対象に、外傷体験想起時の対処方略の柔軟性が外傷性ストレス反応に及ぼす影響について検討した。対処方略の柔軟性の定義は加藤(2001b)に従い、"失敗した対処方略の使用を断念すること"(基準G)、"新たな対処方略を使用すること"(基準N)の二つを基準とした。分析対象者を二つの基準に従って分類した結果、G-N群は41名、G-noN群は36名、noG-N群は49名、noG-noN群は65名であった。基準G(2)×基準N(2)の2要因共分散分析を行った結果、基準G×基準Nの交互作用がみられた。単純主効果を検討した結果、新たな対処方略を使用した場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に高い一方で、新たな対処方略を使用しなかった場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に低かった。以上のことから、本研究では、対処方略の柔軟i生に富むことが外傷性ストレス反応の悪化につながる可能性が示唆された。