著者
田中 幸一 浜崎 健児 松本 公吉 鎌田 輝志
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.189-199, 2013-10-05 (Released:2018-09-21)

鯉淵学園農業栄養専門学校構内(茨城県水戸市)において2004年に,水生生物の生息地を提供することを目的として,水路および池から成る面積1,500m^2のビオトープが造成された.このビオトープの生物の生息地としての機能を評価するため,2006〜2011年に,トンボ目成虫および水面・水中の水生昆虫(コウチュウ目およびカメムシ目,トンボ目幼虫)の調査を行った.トンボ目成虫は合計9科31種,水面・水中の水生昆虫は少なくとも41種が確認され,本ビオトープが水生昆虫の生息地として好適な環境であると考えられた.トンボ目成虫,水面・水中の水生昆虫の種数は,2007年までは増加したが,2008年には減少した.この減少の原因として,池や水路の底に泥が堆積し水生昆虫にとっての生息環境が悪化したことが考えられたため,浚渫を行った.浚渫後には,トンボ目成虫および水生昆虫の種数は回復した.これらの結果から,ビオトープ造成後の水生昆虫種数の変化とその要因およびビオトープの管理について考察した.
著者
寺杣 友秀 花村 昌樹 松本 圭司 志甫 淳 木村 健一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

混合TateモチーフのHodge実現関手の構成のために、semi-algebraic setを使ってある鎖複体を構成し一般化されたコーシー公式を証明した。また混合楕円モチーフについて、深さフィルトレーションをあたえるモチーフのフィルトレーションを定義した。高次チャウ群からコホモロジーへのサイクル写像の像の次元が大きい曲面の構成をした。2変数超幾何方程式系が可約になる特別なパラメーターに関する Schwarz 写像を研究した。このタイプの周期逆写像をテータ関数を用いて記述した。種数2の代数曲線族についてのAbel-Jacobi 写像の像特徴づけた。

1 0 0 0 火の路

著者
松本清張著
出版者
文藝春秋
巻号頁・発行日
1983
著者
坂出 祥伸 鄭 正浩 大形 徹 山里 純一 松本 丁俊 内田 慶市 頼富 本宏
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本課題について平成12年度から平成14年度までの期間中、7回の海外調査、1回の沖縄調査、2回の調査報告会を行った。海外調査では、台湾、福建南部、香港、タイ、マレーシア、マニラ、シンガポールの道教的密教的辟邪呪物の調査を行った。ここには、特徴的な事象について説明する。(1)台湾南部では住宅整備と道路改修などの近代化・都市化に伴い、辟邪物が漸次減少化傾向にある。(2)金門島では台湾本島でも対岸の大陸でも見られない種々に珍しい鎮宅符が残っていて、ここは辟邪物の宝庫といえる。(3)厦門、泉州などの市街区では都市・道路整備のために辟邪物・呪符はほとんど消滅していたが、少し奥地の〓州では古い建築物が残っていて正一派道教の出す色々な呪符が見られた。(4)香港は市街区には呪符・辟邪物はほとんど見られないが、北部九龍地区の全真教系道観がいくらか呪符を出していた。(5)タイ、マレーシアにはともに福建南部出身の移住民が多いので、出身地の正一派や民間信仰の道観が出す呪符があったが、タイでは現地仏教との融合した辟邪呪物・呪符が見られ、本頭公という土地神がり、またマレーシアでは、マレーシア原住民の土地信仰・拿督公と融合した大伯公信仰が盛んであった。(6)マニラでは福建南部・晋江の道教との結びつきが強く、道観が種々の呪符を出していたのと、カソリック信仰との融合したサントニーニョが辟邪物として信仰されていた。(7)シンガポールの華人は近代には都市整備が進んでいるために辟邪呪物・呪符もほとんど見ることができなかったが、ここでも現地マレーシア人の拿督公と融合した大伯公信仰が見られた。全体としては、本課題の調査は非常に大きな有益な成果があったという感想である。
著者
松本 和也 マツモト カツヤ
出版者
神奈川大学人文学会
雑誌
人文研究 = Studies in humanities (ISSN:02877074)
巻号頁・発行日
no.206, pp.1-35, 2022-09-30

This paper focuses on Hatakazu Kayano (Torahiko Koori), who has been positioned as a minor poet in the history of Japanese literature. At the end of the Meiji Era, the theater was taking a new turn, and Hatakazu Kayano was an active playwright during this period. In this paper, I revisit the plays written by Hatakazu Kayano from the perspective of his contemporaries, focusing on plays published in Mita Bungaku and Subaru. The paper is organized as follows. Chapter I presents the gaps in our knowledge and other problems based on a review of previous studies. Chapter 2 analyzes the evaluation of the works Kayano published before he began writing plays. Chapters 3 and 4 discuss how the plays Kayano wrote were evaluated. With these plays, Hatakazu Kayano had come to be regarded as the standard-bearer of the Neo-Romantic movement by 1907. For Chapter 5, I survey and analyze the criticism of Dojoji and discuss its possibilities and limitations, and then summarize this paper.
著者
提嶋 浩文 曽田 武史 松本 浩実 射塲 靖弘 尾崎 まり 萩野 浩
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0265, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】高齢者は転倒すると骨折に至る危険性が高いことが知られている。要介護の約10%は骨折,転倒に起因するものであり,転倒危険因子を調査することは,転倒予防の観点からも重要である。転倒要因は,内的要因,外的要因に区別される。内的要因には筋力やバランスなど身体機能に関するもの,転倒歴などが含まれ,これらに関する先行研究は散見される。一方,外的要因には履物や環境整備等が挙げられる。履物に関する研究において,一般的にスリッパは靴と比較して転倒率が高いとされているが,動作時のスリッパと靴の違いを比較,検討した報告は多くはない。今回の目的は靴とスリッパの違いが歩行に与える影響を3軸加速度計と表面筋電図を使用して分析し,転倒との関係性を検討することである。【方法】対象は整形疾患,中枢疾患の既往のない健常人15名(男8名,女7名,年齢23.8±1.7歳,身長166.2±8.1cm,体重56.5±7.4kg)とした。市販の靴とスリッパを使用し,裸足で着用した。歩行加速度の分析には3軸加速度計MVP-RF8-BC(MicroStone社),歩行時の筋活動の分析には表面筋電図Bagnoli-8 EMG System(Delsys社)を使用した。全被験者に対して14mの自由歩行を練習1回,測定を2回実施し,いずれも2回目のデータを採用した。また前後2mを除く,中間10mの歩行時間も計測した。3軸加速度計はベルトにて第3腰椎棘突起部に設置し,前後,左右,上下3軸の体幹加速度を測定した。得られた加速度信号の波形を無作為に1000個のデータを選択し,Root Mean Square(RMS)にて解析を行い,歩行速度に依存するため,速度の二乗で除した。また,無作為に10歩行周期のデータを選択し,Auto Correlation(AC),Coeffecient of Variance(CV)にて解析を行った。表面筋電図は右側の前脛骨筋,内側腓腹筋を測定筋とし,フットセンサーを踵部に設置し,筋電図と同期させた。得られた筋電図波形から,歩行時の立脚期,遊脚期の筋電位平均を求め,最大随意収縮時の筋電位で(MVC)で除して,最大筋力に対する活動の割合(%MVC)を算出した。統計分析は対応のあるt検定を用い,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って,被験者には研究の目的および方法を説明し,理解と同意を得た。【結果】歩行速度の平均は靴1.31±0.1m/sec,スリッパ1.25±0.1m/secと有意差が認められた。歩行時の動揺性の指標となるRMSは左右成分で靴0.68±0.13に対してスリッパ0.79±0.17,上下成分で靴1.27±0.26に対してスリッパ1.37±0.27とスリッパが有意に高値となった。歩行の規則性の指標となるACは1歩行周期間の分析では前後成分で靴0.65±0.08に対してスリッパ0.59±0.12とスリッパが有意に低値となった。1歩行周期時間の変動率を示すCVは靴2.52±0.62,スリッパ3.03±0.87とスリッパが有意に高値を呈した。歩行時の立脚相,遊脚相における内側腓腹筋,前脛骨筋の%MVCは両群間に有意差を認めなかった。【考察】スリッパは靴と比較して左右,上下方向のRMSが高値となった。RMSが大きくなると動揺性が大きくなり,不安定な歩容になると報告されている。靴と比較してスリッパは側方の支持性が乏しく,片脚支持期の安定性の低下につながり,体幹加速度の動揺性が増大したことが考えられる。また,スリッパでは前後方向へのACは低値を示し,また1歩行周期時間の変動率を示すCVに関してもスリッパが高値を呈した。スリッパは規則性の低下を示す結果になったと考えられる。高齢者に関してCVは転倒群で有意に高値を呈し,転倒のリスクを推測する評価方法として有効であると報告されている。以上のことから履物の違いは歩行速度や歩行時の安定性,リズムに影響を及ぼすことが示唆された。高齢者の転倒は歩行中に生じやすく,歩行の規則性,安定性の低下は転倒につながることが多く,さらに加齢に伴う身体機能の低下,合併症の存在,バランスを崩した際の代償機構の破綻があるとよりスリッパ着用時の転倒リスクが高くなることが考えられる。しかしながら,本研究は若年成人を対象としており,加齢や運動機能の程度によって履物の違いがどれほど影響するのか,さらに検討する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】履物の違いが歩行に与える影響を転倒との関連性について検討した。転倒の原因である外的要因に関する転倒リスクを明確にし,転倒予防の啓発につながることが考えられる。
著者
松本 健 牧本 直樹
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.FIN-022, pp.77, 2019-03-03 (Released:2022-12-14)

Researchs for financial time series in stock or foreign exchange markets, have been one of traditional themes of financial market analysis. Statistical model approaches such as ARMA and GARCH were mainstream of conventional analysis. However, it is difficult to understand and predict financial time series structures, which are generally characterized by high noise level and low autocorrelation. Meanwhile, researchs to capture the structure by artificial intelligence has been increasing in recent years. In particular, Long Short-Term Memory (LSTM), which can capture time series structure, is already widely used in the field of natural language processing and speech recognition. Therefore, in this study, we investigated the model performance in each TOPIX core30 constituent stock by using logistics regression (LOG), random forest (RAF), gradient boosting (GBT), support vector machine (SVM), and LSTM. The performance was evaluated by metrics such as prediction accuracy, F1 measure, AUC, and return. As a result, LSTM showed the best performance in the models. Moreover, we discussed the effectiveness of the stock market neutral strategy by applying the above prediction models. 10-quantile portfolios using the predicted probability outputted by the model, remarks higher accuracy and returns than individual stock trading in all models. Furthermore, LSTM outperformed the others and it is consistent with the result of S&P500 constituent stocks analysis.
著者
吉本 達也 深尾 隆則 横小路 泰義 伊能 寛 松本 平樹
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.997-1002, 2016 (Released:2018-01-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1

自動操舵制御において乗り心地を重視する場合は緩やかな操舵が求められるが,一方で追従性を重視する場合は即応性が求められるため,これらの間にはトレードオフの関係がある.本論文ではこれらを両立することの出来る自動操舵制御手法を提案する.また,提案手法の有効性をシミュレーションと実車実験で確認する.
著者
松本 太
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.3-11, 2017-05-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本稿では,近年における温暖化がサクラの開花日に及ぼす影響について,冬季における休眠解除の関与も含め検討を行った.1990 年以前では,殆どの気象官署において,サクラの開花日に影響を与える気象要因は,3 月平均気温のみで説明できたが,1991 年以降では,それに冬季最低気温を加える必要性が示唆された.1991 年以降の,冬季の気温上昇に伴い,開花日の遅れが生じる地域が九州全域から本州の一部にまで拡大していることが明らかとなった.銚子では,1991 年以降,冬季最低気温が 5℃以上の暖冬年が多く,それに伴いサクラの開花日が遅れる傾向が顕著にみられた.以上のことから,近年における冬季の温暖化により,サクラの休眠解除が遅れ,結果的に開花日に遅れが生じる地域が拡大したものと結論される.
著者
松本 陽一
出版者
名古屋工業大学
巻号頁・発行日
1994-09-08

主査:原川 和久
著者
佐野 智恵 山賀 あゆみ 松本 力 櫻井 英敏 宮原 晃義
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.8-14, 2007-04-10 (Released:2012-09-24)
参考文献数
7

市販ドッグフードのドライタイプ5 種類( 粗脂肪6%2種, 10%, 15%, 18%) を用いて開封直後にビタミンE(α-トコフェロール) を添加して4週間保管し, 脂質変化( 酸価, 過酸化物価, ヨウ素価)と総ビタミンEの定量を行った.1.開封直後の酸価の値は4.7~7.3を示し,イヌに対して有害な含有量ではなかった.また,5種類のドッグフードの酸価の経時変化からみて,α-トコフェロールの添加量はイヌの栄養要求量とその倍量を加えて比較した結果による抗酸化効果はほとんど差がなく,保存期間中の酸価の値ではイヌの健康には安全の範囲であった。2.過酸化物価の経時変化からみて,本実験のα-トコフェロールの添加量は,フードの過酸化物価の経時変化に影響を及ぼさなかった。3.5種類のドッグフードは時間の経過に伴ってヨウ素価が低下する傾向にあり,その値が90以下であることから, 今回のドッグフード中の脂質は不乾性油であった。 ヨウ素価はα-トコフェロールの添加量による経時変化の差はほとんどなかった。4.HPLCによる総ビタミンEの分析において,抽出時間の短縮と試薬節約のため,試料をけん化した後の水層を石油エーテルで1 回抽出洗浄で調製した試験溶液と, 水層の2 回目の抽出洗浄液のみの試験溶液を比較した。2回目抽出洗浄試験液中にはビタミンEが1回抽出試験液の約10%残留することが確認され,抽出時間の短縮と試薬の節約はできなく,2回洗浄抽出法で測定を行った。ドッグフード中の総トコフェロールに占めるα-トコフェロールの割合は対照区で約97%,添加区では約99%となり,β,γ-トコフェロールは0.8~1.9%であった。対照区および添加区ともにβ,γ- トコフェロールの検出量がわずかで経時変化量が小さいので抗酸化効果はなかったと考えられる。
著者
仙石 学 松本 充豊 井上 睦 馬場 香織 油本 真理 磯崎 典世 横田 正顕 出岡 直也 小森 宏美 中田 瑞穂 上谷 直克
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究課題「政党政治の変動と社会政策の変容の連関:新興民主主義国の比較」は、世界金融危機の発生以後の新興民主主義国(主に東欧・南欧・ラテンアメリカ・東アジア)における社会政策・福祉枠組みの変容について、危機後の政治経済状況の変化に起因する「政党政治の変動」を軸に検討していくことを目的とする。特に世界金融危機の後に生じた既存政党の弱体化とポピュリスト系を中心とする新興政党の台頭が、危機以前に存在していた社会政策や福祉のあり方をどのように変革させたかという点に注目し、各国ごとの政党政治と制度変容の展開を検討すると同時に、これを体系的な形で比較分析を行うことを進めることとする。
著者
村岡 修 中川 好秋 松本 和男 中辻 慎一
出版者
日本薬史学会
雑誌
薬史学雑誌 (ISSN:02852314)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.20-41, 2022 (Released:2022-07-30)

シリーズその2の続編である本報においては,医薬や農薬開発の基礎となる 20 世紀の薬学分野での有機化学研究について,長井長義を源流として,生薬学,薬化学,薬品製造学に分枝して発展してきたわが国特有の薬学における天然物化学研究を中心とした流れを概観する.また,研究開始初期に習得した有機化学の知識と技能を最大限に駆使して新たな分野を切り開き,その分野で傑出した業績を挙げた2名のノーベル賞受賞者を含む化学者の業績についても紹介する.
著者
松本 直也 伊藤 めぐみ 山田 一孝 豊留 孝仁
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.101-107, 2020-09-30 (Released:2020-11-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2 4

飼育下の鳥類においてアスペルギルス症は重要な疾患であるが,その予防策や診断方法,治療法は確立されていない。アスペルギルス症の主な起因菌であるAspergillus fumigatusは自然環境中に普遍的に存在するため,ときとして飼育鳥類に感染し,死に至らしめる。登別マリンパークニクス飼育下のキングペンギン(Aptenodytes patagonicus),ジェンツーペンギン(Pygoscelis papua),ケープペンギン(Spheniscus demersus)のA. fumigatus感染を防ぐことを目的とし,本研究では飼育環境中に存在するA. fumigatus汚染源の調査を行った。エアーサンプリングおよび土壌サンプリングのデータから主な汚染源が土壌であると推定されたため,土壌とペンギンの接触を最小限とする対策を行った。その結果,アスペルギルス症の発症は認められなくなった。本研究から,A. fumigatusの感染予防において,予め飼育環境下の汚染源を推定することは有効であり,屋内での対策とともに屋外の環境への対策も重要であることが確認された。
著者
松本 拓真
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.186-196, 2015 (Released:2017-09-20)
参考文献数
27
被引用文献数
2

自閉症スペクトラム障害を持つ子どもの受身性は,Wing & Gould(1979)から指摘され,思春期以降のうつやカタトニアの要因として注目され始めているが,それ以前の時期では適応の良さとして軽視されがちだった。本研究では思春期以前に受身性が固定化する要因を明確にすることを目的に,自閉症スペクトラム障害の子どもを持ち,受身性を意識している親11名に半構造化面接を行った。データを修正版グラウンデッドセオリーアプローチにより分析したところ,15概念が生成され,6カテゴリーが抽出された。【支援への受身的な状態】から「意志表出主体として認められる」ようになる間に【意志か社会性かの揺れ動き】という独特の状態が介在し,受身性の固定化への影響が示唆された。このカテゴリー内には,【やるけどやらされてる感】という特殊な状態があり,親の求めに応じられるがゆえに受身的になる特徴が見られ,自己感の問題が推測された。その状態は親に強要か適切な指導かという葛藤や子どもの人生全てを背負うかのような責任感という苦悩をもたらしていた。また,受身性から脱却する変化の前に親が深刻な悲嘆や強い後悔を体験することも見い出され,子どもの受身性により生じた親の苦悩が受身性の固定化の一因となる相互作用が示唆された。本研究で得られたモデルはサンプルの偏りなどの点で限定されたものではあるが,更なる検討により精緻化が可能だと考えられる。