著者
武田 輝之 平井 郁仁 矢野 豊 高田 康道 岸 昌廣 寺澤 正明 別府 剛志 小野 陽一郎 久部 高司 長浜 孝 八尾 建史 松井 敏幸 植木 敏晴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.163-168, 2018-02-25

要旨●現在,潰瘍性大腸炎を評価するための内視鏡スコアは多数存在するが,スコアの統一化についての一定のコンセンサスはない.これまでのスコアは検者内・検者間一致率などの信頼性評価が十分ではなかったことがその要因の一つである.2012年に提唱されたUCEISはその問題を指摘し検討した上で作成された内視鏡スコアである.今回,筆者らは現在汎用されているMESとUCEISの両者に関して検者間一致率を検討した.その結果,UCEISはMESと比較し,検者間一致率が高い傾向にあった.今後の課題として,UCEISによる粘膜治癒の定義や長期予後との検討などが挙げられるが,妥当性の検証結果からは今後の臨床研究などで使用するスコアとしてより適したものであると考えられた.
著者
齋藤 萌華 武田 香陽子
出版者
一般社団法人 日本薬局学会
雑誌
薬局薬学 (ISSN:18843077)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.98-105, 2021 (Released:2021-04-27)
参考文献数
9

化粧療法における一般市民の意識と薬剤師に対するニーズを調査するために,一般市民 200 名に対して Web による調査を実施した.結果として,化粧療法を「知っている」と回答した人は全体の 16%と少なかったものの,実際に自身が病気になった時に化粧療法を実施したいと思う人が 31.5%,化粧療法時に薬剤師に関わってほしい人は 26.5%であり,特に,化粧品の成分,効果,アレルギーに対して薬剤師に関わってほしいとの意見であった.化粧療法に対する薬剤師のニーズは現状低いものの,今後,在宅医療,地域医療の中での薬剤師の役割が増えた場合,患者や生活者の QOL を改善するための薬剤師の役割の一つとして化粧療法への関わりの可能性や必要性は大きくなるのではないかと考えられる.
著者
武田 宏司 武藤 修一 大西 俊介 浅香 正博
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.10, pp.1586-1591, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
24

機能性ディスペプシア(FD)治療に用いられる代表的な方剤である六君子湯は,食欲不振に対する効果を手がかりとして,そのユニークな作用機序の解明が進んでいる.六君子湯の作用機序としては,従来,胃排出促進および胃適応弛緩の改善が知られていたが,摂食促進ホルモンであるグレリンの分泌を亢進させることがごく最近明らかとなった.シスプラチンや選択的セロトニントランスポーター阻害薬(SSRI)投与は,消化管粘膜や脳内のセロトニンを増加させ,セロトニン2Bあるいは2C受容体を介してグレリン分泌を抑制することがその副作用の発現に関わっているが,六君子湯はセロトニン2Bあるいは2C受容体に拮抗してグレリン分泌を改善する.六君子湯のグレリン分泌促進作用は,FDに対する効果に関わっている可能性も示唆されている.また,六君子湯は高齢動物の視床下部でレプチンの作用と拮抗することにより食欲を改善させる機序も有しており,今後さらに多くの作用点が見出される可能性が高い.
著者
森本 茂雄 河本 啓助 武田 洋次
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌D(産業応用部門誌) (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.122, no.7, pp.722-729, 2002-07-01 (Released:2008-12-19)
参考文献数
12
被引用文献数
21 20

In most variable-speed drives of PMSM, some type of shaft sensor such as an optical encoder or resolver is connected to the rotor shaft. However, such sensor presents several disadvantages such as drive cost, machine size, reliability and noise immunity. Therefore, the sensorless control of PMSM is desired and various sensorless control strategies have been investigated. This paper presents a novel sensorless control strategy for an interior permanent magnet synchronous motor (IPMSM). A new model of IPMSM using an extended electromotive force (EMF) in the rotating reference frame is utilized in order to estimate both of position and speed. The extended EMF is estimated by the least-order observer, and the estimation position error is directly obtained. The proposed scheme corrects the estimated position and speed so that the estimation position error becomes to be zero. The proposed system is very simple and the design of the controller is easy. Several drive tests are carried out and the experimental results show the effectiveness of the proposed sensorless control system.
著者
初田 賢司 桑原 恵治 武田 昭
出版者
日経BP社
雑誌
日経systems (ISSN:18811620)
巻号頁・発行日
no.282, pp.48-55, 2016-10

ステークホルダーとは、利害関係者のこと。プロジェクトやプログラムを成功に導くために、関係する人や組織を洗い出して期待や影響を分析し、より良い関係を築き上げるのが、ステークホルダーマネジメントである。 図5に示したのは、プログラムにかかわる…
著者
武田 英明
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.296-302, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)

Webは1990年前後にティム・バーナーズ=リーによって発明されて以来,単なる情報共有・情報公開ツールとして社会で使われるのではなく,社会の仕組みを変えるツールとして機能してきた。本稿ではWebと社会との関わりをWebの本質であるエンティティとその繋がりという視点から現在までの発展を見ていく。2000年前後において,DOIやWikipediaといういくつかのエンティティの繋がりの世界が生まれた。これらは内部では秩序ある繋がりを作っていた。2010年前後においては,DBpediaやWikidataなどLinked Open Data(LOD)の仕組みに基づいて,明示的にエンティティとその関係を記述する活動が生まれきた。LODによるエンティティの世界は今後のWebの基盤となることが予想される。
著者
辻川 真弓 犬丸 杏里 坂口 美和 船尾 浩貴 武田 佳子 玉木 朋子 竹内 佐智恵
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.215-224, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
37

【目的】保健医療福祉職を対象にAdvance Care Planning(ACP)を促すworkshop(WS)を行い,今後ACPを行いたいと思う人の割合,および参加者の死生観変化から,WSがACPの動機づけとなるかを明らかにする.【方法】WS後に家族や大切な人とACPを行う意思の有無により参加者を2群に分け,死生観およびWSの感想をWS前と比較した.【結果】分析対象は91名,ACPを行いたいと思う群は42名(46.2%)であった.死生観はWS前に比して,両群ともに,「死後の世界観」「死への恐怖・不安」が有意に低下した.ACPを行いたいと思う群では,「死からの回避」(効果量−0.42)「人生における目的意識」(効果量0.51)が有意に肯定的に変化した.【結論】WSによりACPを行おうとする人は半数程度であり,人生における目的意識の高まり,死を回避しない姿勢の関与が示唆された.
著者
武田 征士 濱 利行 徐 祥瀚 岸本 章宏 中野 大樹 古郷 誠 本江 巧 藤枝 久美子
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回全国大会(2021)
巻号頁・発行日
pp.4F4GS10o04, 2021 (Released:2021-06-14)

AIやデータなどを駆使して材料開発を加速させるマテリアルズ・インフォマティクスが世界的な注目を集めている。中でもAIによる分子構造デザインは、ポリマーなど様々な材料分野への応用が可能であるのみならず、生成モデルの文脈で近年数多くの報告がなされている。しかしながら、これらの技術のほとんどがディープ生成モデルであるため、膨大なデータや複雑なハイパーパラメータ調整、長時間にわたる事前学習を必要とする。さらに、得られたモデルも化学者には解釈ができず、構造生成の細かいチューニングも行えなため、材料化学の実利用に即しているとは言い難い。我々が開発した手法およびツールは、化学構造のエンコードおよびデコード部がグラフ理論を基礎とするアルゴリズムにより構築済みであるため、事前学習が不要かつ、特徴ベクトルや構造生成過程の詳細を理解可能であり、原子単位での細かい調整が可能である。本ツールにより、人間の専門家と比較した場合に数10~100倍程度の構造生成のスピードが確認された。本発表では、基本的な方法論に加え、ツールの実装内容、各材料分野における事例などを紹介する。
著者
武田 宏子 田村 哲樹 辻 由希 大倉 沙江 西山 真司 STEEL GILL
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究計画の主要な研究課題は、1990 年代以降に「男女共同参画」と「女性活躍」の政治が行われてきたにもかかわらず、なぜ日本ではいまだに高い程度のジェンダー不平等が観察されるのか明らかにし、それによりリベラル・フェミニズムが孕む問題を理論的に検討する一方で、日本においてジェンダー平等を実現するための政治過程を構想することを目指す。
著者
宮川 和也 齋藤 淳美 宮岸 寛子 武田 弘太郎 辻 稔 武田 弘志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.4, pp.212-218, 2016 (Released:2016-04-09)
参考文献数
46
被引用文献数
1

脳機能の発達過程において,最も外界から影響を受けやすい時期は胎生期であり,この時期に過剰なストレス刺激に曝露されることにより,中枢神経の発達や成長後の情動性の異常が惹起される可能性が考えられる.実際,妊娠期に母体が過度のストレス刺激に曝露されることにより,子の成長後のストレス反応に異常が生じるという臨床報告がなされている.本稿ではまず,胎生期ストレス研究について,臨床的側面と実験動物を用いた基礎研究の両面から概説する.また,近年著者らは,胎生期ストレスが惹起する子のストレス脆弱性の病態生理の解明に加え,その治療法の提案を期した薬理学的研究を行っている.その結果,行動学的検討において,妊娠期に強度のストレス刺激に曝露された親マウスから生まれた子マウスでは,成長後の一般情動行動の低下,不安感受性の増強およびストレス適応形成の障害が認められた.また,生化学的検討の結果,その発症機構の基盤として,脳内5-HT神経系の器質的あるいは機能的障害が関係している可能性が示唆された.さらに,胎生期ストレス刺激により惹起される情動障害に対する抑肝散の幼少期投与の効果について検討した結果,胎生期ストレス刺激により誘発される不安感受性の亢進は,抑肝散を生後3週齢から6週齢にかけて処置することにより改善した.本稿では,これらの著者らの研究成果を交え,胎生期におけるストレス刺激が子の精神機能障害を誘発する科学的根拠をまとめるとともに,子の安全かつ有効な薬物療法について議論する.
著者
水谷 司 飯島 怜 武田 智信 築嶋 大輔 佐々木 崇人
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学) (ISSN:21854653)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.I_604-I_618, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
57
被引用文献数
1 1

東北地方太平洋沖地震において新幹線高架橋上のPC(プレストレストコンクリート)製電車線柱が多数傾斜・折損し復旧に時間を要したため,電車線柱の地震対策が急務である.本研究では,新幹線高架橋上のPC製電車線柱の耐震性能を精度よく評価するため,電車線・電線,調整桁などまで考慮した高架橋・電車線柱の三次元連成系骨組みモデルを構築し,地震応答解析により各構造要素間の連成の影響や動的特性を明らかにした.その上で,既存のPC製電車線柱の大規模地震対策として,現行対策である高靭性化補強および鋼管ビームによる門型化,今回新たに提案したTMDによる震動制御について,連成系モデルによる機能評価,費用,施工,メンテナンスなどの側面から多角的に比較検討し,相対的に安価で機能性や施工性に優れたTMDによる震動制御の優位性を示した.
著者
馮 明珠 武田 安恵
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1745, pp.143-145, 2014-06-16

故宮トップが展覧会を語る梅雨の長雨は人間にはうっとうしくても、植物にとっては「恵みの雨」。この時期、雨に濡れたようなあの"白菜"の名品が初来日する。今週は注目の「台北 故宮博物院」展の話題から。ART. 秘宝『翠玉白菜』が初来日 緑と白。
著者
武田 ひとみ
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.24-30, 2016-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
12

目的と方法:成人男女19名を対象とし,芳香環境(Od)やトリートメント(T)後の睡眠時体動記録と睡眠感調査および心拍変動や気分の変化を測定し,アロマテラピーが睡眠に及ぼす影響を調べた。State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZにて特性不安と状態不安を,ピッツバーグ睡眠質問票にて睡眠状況を測定した。精油はフロクマリンを除去したCitrus bergamia FCFを1%に希釈し用いた。結果:ピッツバーグ睡眠質問票得点と特性不安との間に有意な相関(r=0.514, p<0.02) がみられ,不安傾向が強いほど睡眠に問題があった。 (T)後に疲労感や自覚的ストレスに有意(p<0.05)な低下が,気力の充実感に有意な増加がみられた。(Od)や(T)後の睡眠効率,睡眠感に改善傾向がみられ,(T)後には疲労感が有意に低下し,それらとLF/HFの変化率の有意な相関から交感神経活動の抑制が推測された。特性不安とLF/HFの変化率に有意な相関があった。以上よりベルガモットを用いたトリートメントは睡眠の質を向上させる可能性が示唆され,その効果は不安傾向の強い人に期待しやすいと推測された。
著者
下畑 享良 久保 真人 饗場 郁子 服部 信孝 吉田 一人 海野 佳子 横山 和正 小川 崇 加世田 ゆみ子 小池 亮子 清水 優子 坪井 義夫 道勇 学 三澤 園子 宮地 隆史 戸田 達史 武田 篤 日本神経学会キャリア形成促進委員会
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001533, (Released:2021-01-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

医師のバーンアウトに関連する要因を明らかにし,今後の対策に活かすため,2019年10月,日本神経学会はバーンアウトに関するアンケートを脳神経内科医に対して行った.学会員8,402名の15.0%にあたる1,261名から回答を得た.日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均は,情緒的消耗感2.86/5点,脱人格化2.21/5点,個人的達成感の低下3.17/5点であった.また本邦の脳神経内科医のバーンアウトは,労働時間や患者数といった労働負荷ではなく,自身の仕事を有意義と感じられないことやケアと直接関係のない作業などと強く関連していた.これらを改善する対策を,個人,病院,学会,国家レベルで行う必要がある.
著者
津田 敦 武田 重信
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.514-519, 2005-12-25

海洋では光環境が良いにもかかわらず栄養塩が高濃度で残存する海域があり、このような海域では微量栄養素である鉄が不足していることが近年提唱された。海洋における鉄欠乏仮説を検証するため、東西亜寒帯太平洋において鉄添加実験が行われた(西部:SEEDS、東部:SERIES)。鉄と水塊を標識する不活性気体、六フッ化イオウを64-80km^2の海域に加え、13-26日間の生物・化学的応答を水塊追跡しながら観測した。2001年に西部亜寒帯太平洋で行われたSEEDSにおいては鉄添加により顕著な光合成活性の増加が観察され、混合層内のクロロフィル濃度は初期値および非散布域の16倍に達した。この顕著な植物プランクトンの増加は、他の海域で行われた実験より表層混合層深度が浅く光環境が良好であったことに加え、成長速度の速い中心目珪藻が増加したことが主な要因と考えられた。藻類の増殖は栄養塩濃度と二酸化炭素分圧の顕著な低下を伴ったが、散布から13日目までの沈降粒子束は積算光合成量の12.6%にとどまった。すなわち固定された炭素の大部分は粒子態として混合層内に留まった。これらの事実は太平洋においても鉄が植物プランクトンの増殖を制限していることを明らかにしたが、固定された炭素の行方を解明するにはより期間の長い実験が必要であることを示唆した。東部亜寒帯太平洋で行ったSERIESはカナダとの共同研究であり、我々は実験の後半を観測した。実験期間は大きく2つに分けることができ、前半は低い植物生物量とプレミネシオ藻類の優占、後半は高い植物生物量と珪藻の優占で特徴づけられた。SEEDSに比べ、SERIESでは植物プランクトンの増加は遅く、最大値も低くとどまったが、鉄散布海域で非散布域に比べ有意に大きい沈降粒子束を観察した。しかし、沈降量は光合成によって表層に蓄積した有機物量の20%程度であり、多くの部分は表層で摂餌や分解を受けていることが明らかとなった。本稿では鉄散布実験のような中規模生態系操作実験の利点と問題点を議論する。
著者
武田 竜治 菅原 遼 畔柳 昭雄
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.34(2020年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.240-245, 2020-12-07 (Released:2020-12-07)
参考文献数
8

本研究では,水郷集落が多数立地する琵琶湖周辺に着目し,水郷集落の立地分布を把握した上で,湧水利用が盛んな米原市醒ヶ井地区を対象に,水路及び水利施設の利用管理の特徴を把握した。その結果,抽出した水郷集落61 ヶ所に関して,集落の立地分布と水路形態の傾向を整理し,上水道整備前後における水路利用の変化を把握した。また,醒ヶ井地区では,湧水の特性を活かし,現在においても洗い場や生簀等の水利施設を介した住民と湧水との係わりを確認でき,特に,集落の形成過程に応じた特有の水路及び洗い場の利用管理の実態を捉えた。
著者
武田(森下) 真莉子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1038-1042, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
20

近年,医療ニーズは従来の生活習慣病などから,難病やがんなどのアンメットメディカルニーズの高い領域に拡大しており,それに伴って創薬ターゲットが大きく変わりつつある.アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの難治性中枢神経系疾患も競争率の激しい創薬ターゲットの中の1つであり,世界的規模で治療薬の開発が精力的に進められている.その中でも脳内で作用する内因性ペプチド,病態の進展を抑制するワクチン,原因物質あるいは病変部位を標的とする抗体医薬等のバイオ医薬の治療薬としての開発に注目が集まっている.しかしながら,ヒト臨床試験における成功率は著しく低く,例えばアルツハイマー病を対象とした臨床試験は,直近5年間の間に5つ以上の臨床試験が第Ⅲ相で中止となった.開発成功率が低い原因としては,適切な精神疾患動物モデルがないために,中枢疾患の病理や病態が十分に解明されていない等の本質的なことが考えられるが,薬物の脳移行性の絶対的な低さも起因していると考えられる.脳には血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)と血液脳脊髄液関門があることにより,循環血液と脳内の物質の輸送が厳密に制御されており,一般的な投与ルートである静脈内投与からBBBを透過できるバイオ医薬の物質量は極めて限られている.したがって,これを克服する革新的DDS技術の開発が急務とされている.水溶性低分子薬の脳移行性を高める方法としては,脂溶性を高めるプロドラッグ化,tight junction modulatorやP糖タンパク質等の排出トランスポーター阻害剤との併用投与,また受容体介在性トランスサイトーシスなどを利用した創薬が行われてきたが,バイオ医薬脳内移行性の改善にこれらの方法を適用することは難しい.一方,鼻腔内には,投与された物質が血液を経由せずに脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)あるいは脳に直接移行するルートがあることが古くから知られていた.そして近年,その実際の経路である鼻腔内の嗅上皮から嗅球にいたる嗅覚経路を脳への薬物輸送経路として積極的に利用する基礎および臨床研究が進展しつつある.現在,我々も生体膜透過性modulatorである細胞膜透過ペプチド(cell-penetrating peptides:CPPs)※を用いて,鼻腔経路からのバイオ医薬の効率的脳内移行を図る脳内デリバリー法の構築を目指して研究を進めている.本稿では,このNose-to-Brain Deliveryにおける最近の研究動向について,我々の知見を含めて紹介する.