著者
阿部 博行 菊池 慎一 吉田 孝行 山口 尚之 酒井 敏行
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.553-557, 2019 (Released:2019-06-01)
参考文献数
12

トラメチニブは抗がん剤として世界で初めて承認されたMEK阻害薬である。しかし,我々は始めからMEK阻害薬の開発を目指したわけではない。細胞周期抑制因子p15INK4bの発現を上昇させる化合物探索のために開発したフェノタイプスクリーニングによってリード化合物を見出し,がん細胞増阻害活性を指標に医薬品として構造最適化することによってトラメチニブ創製に至った。後に,その標的分子はMEKであることを明らかにした。本稿では,first-in-classの分子標的薬トラメチニブの創薬研究とがん治療における臨床的意義について紹介する。
著者
酒井 伸一 出口 晋吾 浦野 真弥 高月 紘 惠 和子
出版者
Japan Society for Environmental Chemistry
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.379-390, 1999-06-18 (Released:2010-05-31)
参考文献数
33
被引用文献数
5 5

ダイオキシン対策を考え, その効果を把握し, ダイオキシン類の環境動態を検討するためには過去からのダイオキシン類の蓄積状態や発生源の変遷を知ることは重要である。本研究では, 琵琶湖および大阪湾で採取した底質コアを用いてダイオキシン類の歴史トレンド解析を行った。その結果, 琵琶底質では19世紀半ばの底質層にダイオキシン類の存在が認められ, その後, 20世紀後半に濃度が大きく増加している。そして, 1980年前後に観察されたピークから現在は若干の減少あるいは横這いの傾向が続いていることが示された。異性体や同族体の変化や主成分分析から底質ダイオキシン類の主要な汚染源は燃焼由来のPCDDs/DFsに加え, 除草剤CNPやPCP中に含まれていたPCDDs/DFsの影響があると考えられた。
著者
冨田 りさ 酒井 佳永
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学心理学部紀要 (ISSN:24348295)
巻号頁・発行日
no.4, pp.169-180, 2022-03

本研究では,人がストレスフルな体験に遭遇したときに精神的健康を維持し続ける力であるレジリエンス(resilience)のうち,後天的に向上させやすいとされる獲得的レジリエンスに着目し,未来,現在,過去の自分に対する評価である時間的展望体験とソーシャル・サポートとの関連を検討することを目的として,女子大学生95名(Mean:20.7,SD:1.02)を対象に,二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010)の下位尺度である獲得的レジリエンス尺度,時間的展望体験尺度(白井,1994),大学生用ソーシャ・ルサポート尺度(片受・大實,2014)で構成される質問紙調査を実施した。 分析方法としては獲得的レジリエンス尺度を従属変数,時間的展望体験尺度と大学生用ソーシャル・サポート尺度を独立変数とする階層的重回帰分析を行い,その結果をふまえて獲得的レジリエンス尺度に時間的展望体験尺度と大学生用ソーシャル・サポート尺度が相互に関連しながら影響を及ぼすモデルを作成し,共分散構造分析を用いて探索的に検討を行った。 その結果,階層的重回帰分析では,獲得的レジリエンス尺度の問題解決志向には未来指向性と情緒・所属的サポートが関連し,自己理解には未来指向性と情報・道具的サポートが関連し,他者心理の理解には過去受容と評価的サポートが関連していることが示された。共分散構造分析では,評価的サポートが時間的展望体験尺度の3要因とそれぞれ関連していることが示され,時間的展望体験尺度を介して獲得的レジリエンスに寄与することが示唆された。
著者
井上 順一朗 牧浦 大祐 斎藤 貴 秋末 敏宏 酒井 良忠
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.155-161, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
27

【目的】筋筋膜性疼痛症候群を生じた進行性卵巣癌患者に対して,運動療法と経皮的電気刺激治療の併用により疼痛の緩和,オピオイド鎮痛薬使用量の減量,身体活動・身体機能・QOL の改善を認めた症例を経験したので報告する。【症例紹介】卵巣癌術後再発,肝転移,遠隔リンパ節転移,腹膜播種を有する40代の女性であった。再発・転移に対する化学療法中より頸部から殿部にかけて筋筋膜性疼痛症候群を認めた。【治療プログラムと経過】頸部から殿部にかけての筋筋膜性疼痛症候群に対して,運動療法に加え,疼痛部位に対する経皮的電気刺激治療を施行した。【結果】疼痛は理学療法開始後より経時的に緩和した。疼痛緩和に伴いオピオイド鎮痛薬使用量も経時的に減量した。また,身体活動,身体機能,QOL にも改善が認められた。【結論】運動療法と経皮的電気刺激治療の併用は,がん患者の筋筋膜性疼痛症候群に対する治療・サポーティブケアのひとつとなる可能性が示唆された。
著者
酒井 智宏
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究の目的は、言語表現の意味(に関する知識)が外的環境に依存するとする意味論的外在主義と、言語表現の多義性が個人の心の中にネットワークの形で表象されるとする語用論的調整の考え方を統合することである。ごくわずかな例外を除き、哲学では外在主義が当然視され、逆に言語学では内在主義が当然視されてきた。本研究は、正反対に見える二つの立場がそれぞれの領域で当然視される理由・経緯をいかなる論点先取も犯すことなく追究し、「内在主義を出発点としない内在主義」と「外在主義を出発点としない外在主義」がそれぞれどこまで可能であるかを見定め、どの立場に立ったとしても有効な意味論を構築する。
著者
酒井 昇
出版者
日本食品工学会
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.19-30, 2010 (Released:2011-03-28)

電子レンジを始めとしてマイクロ波加熱は、速く簡単に加熱・調理できることから、食品産業で良く利用されている。しかし、加熱速度が大きい半面、加熱むらも大きいなど問題も残っている。マイクロ波を照射したとき、被加熱物の加熱性を決めるのは誘電物性であることから、食品の誘電物性を知ることは重要である。本稿では、まずマイクロ波加熱の原理とマイクロ波加熱における水の役割について説明した。次に、水分濃度および塩分濃度の誘電物性に及ぼす影響について説明した。水分が減少することにより誘電率が減少し、塩分濃度が増えることにより誘電損率が増大する。最後に解凍にともなう物性変化について説明した。氷が融解するとき熱物性が変化するのと同時に誘電物性が大きく変化するため、ランナウェイ現象の原因となる。
著者
酒井 邦嘉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.153-164, 2005 (Released:2006-07-14)
参考文献数
13

本総説では, 人間の脳における言語処理にかかわる以下の3点の基本的問題について議論し, 言語の脳マッピング研究における最近の進歩について概説する。第1に, 文理解の神経基盤がその機能に特化していることを示す最初の実験的証拠を紹介する。具体的には, 最近われわれが発表した機能的磁気共鳴映像法 (fMRI) や経頭蓋的磁気刺激法 (TMS) の研究において, 左下前頭回 (IFG) の背側部が, 短期記憶などのような一般的な認知過程よりも文理解の統語処理に特化していることを証明した。この結果は, 左下前頭回が文法処理において本質的な役割を果たしていることを示唆しており, この領域を「文法中枢」と呼ぶ。第2に, 第2言語 (L2) 習得の初期段階において, 左下前頭回の活動増加が各個人の成績上昇と正の相関を示すことが最近明らかになった。これらの結果により, 第2言語習得が文法中枢の可塑性にもとづいていると考えられる。第3に, 外国語の文字と音声を組み合わせて新たに習得した場合に, 下側頭回後部 (PITG) を含む「文字中枢」の機能が学習途上で選択的に変わることを初めて直接的に示した。システム・ニューロサイエンスにおけるこうした現在の研究の動向は, 言語処理において大脳皮質の特定の領域が人間に特異的な機能を司ることを明らかにしつつある。

2 0 0 0 OA 電界蒸発

著者
酒井 明
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.183-188, 1984-03-10 (Released:2009-02-09)
参考文献数
46

高電界下で金属の原子がイオンとなっで表面から飛び出してゆく現象は,電界イオン顕微鏡(FIM)の創始者であるMüllerによって発見され,電界蒸発と名づけられている.この電界蒸発はFIMやアトム・プローブの基本原理として活用されているが,その基礎過程はなかなか複雑である.ここでは電界蒸発の基礎的な面に関する理論と実験について述べるとともに,最近の電界蒸発の実験についても言及する.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1168-1169, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
1

早くも師走である.昨年の連載では,仲良しの某旧帝大教授の忘年会での散財の話を書いたが,今年もその季節がやってきた.基本的にビールが苦手な筆者であるが,気候のせいか,雰囲気のせいか,海外に行くと比較的ビールを飲むようになる.特に英国では,最初の一杯はまずギネスというのが定番である.ギネスと言えばビールだけでなく世界記録を思い浮かべる人も多いだろう.筆者も中学生のときにバンクーバーに住む伯母からGuinness World Recordsを送ってもらい,分からない単語だらけなので辞書を引き引き,それでもワクワクしながら読んだことを思い出す.1955年に初めて出版されたWorld Recordsであるが,現在では出版事業はギネス社の手を離れ,HIT Entertainment社に引き継がれている.さて,そのギネス醸造所であるが,Wikipediaによると歴史は古く,1756年にアイルランドのダブリンで創業され,1759年にその頃使われなくなっていたセント・ジェームズ・ゲート醸造所を年45ポンドの対価で9,000年間借り受けるという超長期の賃貸契約を結び,それ以来この醸造所で変わらずに黒スタウトビールを造り続けているということらしい.スタウトビールとは,いわゆる上面発酵の黒ビールであるが,日本の黒ビールの多くはラガーと同じ下面発酵である.この黒ビールは見かけによらず,低カロリーで,1パイント(日本の大ジョッキと中ジョッキの間くらいの量)で僅か200kcal程度なのである.実は,このギネス社,統計家にとっては格別な会社なのである.
著者
軽米 克尊 酒井 利信
出版者
日本武道学会
雑誌
武道学研究 (ISSN:02879700)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-19, 2013-09-30 (Released:2014-09-30)
参考文献数
113

The purpose of this study is to research on the features of training and inter-disciplinary match characteristics in the three groups: the Naganuma, the Fujikawa and the Odani group. These three groups belonged to Jikishinkage-ryu kenjyutsu school and engendered different training styles. We analyzed the inter-disciplinary matches and the lineage of their kata. We also examined their view on kenjyutsu which, we considered, caused their characteristic features. The conclusions of this study are as below. 1.The Naganuma group adopted mainly jyodan posture to do uchikomi in the matches. Eight kinds of kata were practiced in the Naganuma group. 2.We consider that there were two reasons of their frequent adoption of jyodan posture in the matches: one was they frequently used shikake-waza and the other was they considered that the jyodan posture was convenient to deal with opponent’s actions. These characteristics developed the idea of attaching great importance to jyodan in the Naganuma group. They did not neglect kata practice even in the late Edo period when inter-disciplinary matches flourished. 3.As in the Naganuma group, jyodan was also adopted frequently in the Fujikawa group in their inter-disciplinary matches. Since the days of Saito Akinobu, five kinds of kata were practiced. 4.Fujikawa Seisai established the disciplinary system of Fujikawa group in the late Edo period. He criticized that the shinai-uchikomi-geiko stuck too much to winning and emphasized mental training. He insisted that the kata practice was effective in mental training. 5.In the Odani group, jyodan posture was not adopted. It is recorded that Odani Seiichiro adopted only seigan and gedan postures in the matches in Tempo era. As to kata practice only Hojyo is handed down in the Odani group and To-no-kata was trained in shinai-uchikomi-geiko. 6.Odani criticized the division of kenjyutsu into school names and insisted the importance of inter-disciplinary matches to develop one’s strong points and make up for the weak points. The trend as from Tempo period of Tsuki- techniques with a long Shinai was one of the reasons that Odani changed the traditional jyodan posture of Jikishinkage-ryu to seigan posture.
著者
酒井 義朗 三輪 涼子 光岡 正浩 渡邊 浩
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.140, no.5, pp.751-754, 2020-05-01 (Released:2020-05-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

In the hospital, antibiotics are widely used to treat infections. We report a case of acute kidney injury (AKI) caused by an antibiotic drug combination. A 30-year-old Japanese male presented with lung metastases, pneumothorax, empyema, and methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) infection. The patient received a combination of vancomycin and piperacillin/tazobactam, which resulted in elevated vancomycin trough concentration and subsequently in AKI. Renal function was restored upon vancomycin and piperacillin/tazobactam cessation. Though this patient had AKI most likely due to the combined use of two agents as has been reported in many cases, vancomycin trough concentration showed an unexpected abnormal increase when halting vancomycin treatment. This is the first report indicating a drug-drug interaction between vancomycin and piperacillin/tazobactam with unexpected abnormal vancomycin trough concentration, leading to AKI, additionally we think that there was a situation that he stressed against the kidney by a history of medications caused renal dysfunction and co-administration. We suggest that when using vancomycin in combination with piperacillin/tazobactam, the trough concentration of vancomycin must be confirmed simultaneously with renal function and evaluation, and that the combination of these two drugs should be minimized.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.790-791, 2015

昨年は年末に任期の半分というタイミングで衆院選挙が行われ,つい先日も統一地方選挙が行われたが,開票があまり進んでいないにもかかわらず,選挙速報で「当選確実」のクレジットが出るのを不思議に思われている方もいるのではないだろうか? 選挙では,よく出口調査をやっているのにお気付きだろう.結論を先に言えば,選挙速報での当確情報は,実際の開票状況と出口調査の結果に基づいている.<br>そもそも,調べたい対象の全てのデータを得ることは,多くの場合,不可能である.そのため一部のデータ,つまり抽出サンプルから,全体の母集団を推定することが必要になる.一部から全体を予測する統計的方法として,「推定」という考えがある.推定の良さは,一致性や不偏性などによって決まってくる.一致性とは,データの数が多くなればなるほど,1つの値に収れんしていく性質のことである.つまり,少ないサンプルよりは多数のサンプルを集めた方が,良い推定が可能になるということである.不偏性とは,偏りのないことであり,推定値の期待値が真の値に限りなく一致してくるということである.<br>説明を簡単にするために,出口調査で,ある候補者Aの得票率を推定することを考えてみよう.<br>例えば,投票を済ませた任意の100人の有権者に投票した候補者を聞いたところ,そのうち45人がAに投票したと答えたとしよう.この場合,注目するAの得票率は45/100=0.45である.この値は一点決め打ちの推定値なので点推定値と呼ぶ.この値に基づいて,Aの真の得票率(これは全部の票を開票してみないと分からない)に対する区間推定,つまり,上で調査した0.45という得票率がどのくらいの信頼性を持っているのかということを調べてみる.ここでは,Aが立候補した選挙区で投票した有権者全体が母集団ということになり,出口調査の対象となった100人が標本ということになる.標本が100人で,調査結果としてAに投票した人数が45であるとすると,得票率45%の信頼度95%の信頼区間は,0.3525~0.5475となる(簡単な式なので提示しておくと,p±1.96√<span style="text-decoration: overline;">(p(1-p)/n)</span>で計算できる).いま,Aに対立するB候補がいるとしよう.Bに投票したと答えた人数が100人中35人であったとする.そうすると,Aに投票したとする人よりも10%少ない.したがって,かなりの確率でAの方がBよりも得票率が高いと言えそうであるが,本当にそうだろうか? 実際にBの得票率について同じく95%信頼区間を計算してみると,0.2565~0.4435となる.これは,Aの信頼区間とかなり重なっている.つまり,Aの得票率は低ければ40%を切る可能性もあり,Bの得票率は高ければ40%を超えることも考えられる.したがって,この出口調査からだけでは,AがBを抑えて当選するとは言い切れない.これは出口調査の対象人数が少ないためである.もし,全投票者を出口調査対象とすれば答えは簡単であるが,そのような調査は不可能である.そうすると,どのくらいの人数が標本として適当なのかということになるが,出口調査の対象者を増やしてn人にしたとしよう.その場合でもAとBの得票率はそれぞれ45%,35%としておく.このとき,95%の確率で両候補の真の得票率に差があると言うためには,2つの信頼区間が重なり合わなければよいことになる.つまり,「Aの信頼区間の下端」>「Bの信頼区間の上端」であればよい訳である.信頼区間の公式に当てはめて計算すると,この場合,n>364.8となる.したがって,出口調査でAとBの得票率の差45-35=10%が信頼度95%で有意な差であると言うためには,365人以上の人に回答してもらう必要があるということになる.このように標本抽出して得られた結果を用いて,選挙速報で当選確実が出ている訳である(当然,本連載の去年の第1回に紹介したギャロップ調査のように,地域差,性別,年齢構成なども考慮して出口調査する投票所も選ばれているはずである).もし,接戦でB候補者の得票率が43%であったとすると,僅か2%の得票率の差を見いだすためには調査対象として9,462人が必要になってくる.<br>読者の皆さんは論文などで,この「95%信頼区間」という記述を目にされたことがあるだろう.95%信頼区間であれば,その区間内にその推定値が存在する確率が95%であることを示していることになる.さらに,その区間幅はサンプルサイズ,臨床研究や治験で言えば症例数が増えれば,狭くなる.つまり推定精度が高まる訳である.医薬の世界では,5%有意であるか否かという二者択一の「検定」偏重のきらいがあるが,検定の弱点は,具体的にどのくらいの差があるのかとか,その試験がどのくらいの精度で実施されたのかというようなことが分からないことである.「推定」は,「検定」の弱点を補強する情報を提示してくれる方法なのである.
著者
浜 夏樹 村田 浩一 野田 亜矢子 川口 美保子 酒井 洋樹 柵木 利昭 SASSEVILLE Vito G. 柳井 徳磨
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.53-58, 1998
参考文献数
16
被引用文献数
2

動物園で飼育していた雌マヌルネコの1例が突然元気がなくなり, 食欲が廃絶した。血液および生化学検査では, 貧血, 著明な好中球の左方移動, 低リンパ血症, 高蛋白血症, 尿素窒素およびクレアチニンの上昇, 電気泳動像ではガンマーグロブリン分画の著明な増加が認められた。尿検査では, 蛋白尿と潜血が認められた。血清抗体検査では, ネコ伝染性腹膜炎(FIP)抗体の著明な上昇(25,600)がみられたが, ネコ白血病ウイルス(FLV)抗原およびネコ免疫不全ウイルス(FIV)抗体はそれぞれ陰性であった。剖検では, 左右腎臓は腫大し, 巣状多中心性, 一部は癒合しつつある白色結節が皮質に認められた。肝臓では, 実質内に小壊死巣が散見された。胸水および腹水の貯留は認められなかった。組織学的には, 血管炎を伴う壊死あるいは好中球の浸潤を伴う肉芽腫性反応が, 腎皮質, 肝臓, リンパ節および肺胸膜に種々の程度に認められた。直接蛍光抗体法によりFIPV抗原が肉芽腫病変内に浸潤する大食細胞に認められた。以上のことから, 本例は非滲出型ネコ伝染性腹膜炎と診断された。また, 動物園における野生ネコ科動物への同ウイルスの感染および発病の可能性が示された。
著者
白石 雅紀 酒井 美里 戸田 有一
出版者
学校法人 三幸学園 東京未来大学
雑誌
東京未来大学研究紀要 (ISSN:18825273)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.79-92, 2021-03-31 (Released:2021-05-26)
参考文献数
38

This study examines issues and challenges confronting multiple minorities. The term “multiple minorities” refers to individuals who have more than two aspects of minority identities. In particular, it focuses on the situations surrounding those who are with minority statuses of Muslims/Muslimas in non-Islamic societies and SOGI. We tried to apply Identity Politics and Connolly’s Pluralism as frameworks for our discussion. With insufficiencies in the labor force, Japan is expected to receive many more foreigners including Muslims/Muslimas in coming years. Not only foreigners but also SOGI minorities have been increasingly recognized as new minority groups. These groups need support for their integration into Japanese society because their vulnerability and experiences of discrimination are too often disregarded. When we consider how best to support them due to their historical backgrounds, we should consider that those two groups are situated in tensions with each other, and most importantly, some belong to both minority groups. Identity Politics provides a framework to empower and visibility of multiple minority identities. However, it is necessary to overcome tensions among identity groups for inclusion. Concerning the identity of multiple minority groups and the position of minorities, this study has only provided some clues for locating them. For further research, a framework that goes beyond the significance and limitations of Identity Politics and Connolly’s Pluralism is necessary to consider multiple minorities.
著者
酒井 昇 酒井 博史 神谷 正男 秋田 久美 白峰 克彦
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.178-183, 2003-05-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
13

口蓋扁桃アニサキス症の1例と原因幼虫の病理を報告した。症例は35歳女性でボラ生食後咽頭異物感を来し、右口蓋扁桃中央の陰窩に寄生虫が迷入しているのが認められた。摘出した虫体は病理学的にPseudoterranova decipiensの第4期幼虫と判明した。アニサキス症で胃や腸などの消化管以外の異所寄生の報告は時にみられるが、耳鼻咽喉科領域でも口腔、咽頭の症例が少数報告されている。扁桃のアニサキス症はこれまで4例報告されているのみで、いずれも原因幼虫はアニサキスであり、記載不明の1例を除いた3例に急性扁桃炎が伴っていた。本症例では原因幼虫が口蓋扁桃で最初の報告となるPseudoterranova decipiensであり、また扁桃の炎症症状が全くみられなかったが、その理由としてシュードテラノーバ幼虫は感染力が弱く組織侵入が少ないことが推測された。
著者
末宗 洋 原部 哲治 酒井 浄
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.36, no.9, pp.3632-3637, 1988-09-25 (Released:2008-03-31)
参考文献数
10
被引用文献数
23 30

Two trihydroxy unsaturated C-18 fatty acids [(9S, 12S, 13S)-trihydroxyoctadeca-10E, 15Z-dienoic acid (methyl ester) and (9S, 12S, 13S)-trihydroxy-10E-octadecenoic acid (methyl ester)] isolated from rice plants as agents with activity against blast disease were synthesized from (+)-dimethyl tartrate.
著者
樫原 宏 末宗 洋 常広 菜穂美 酒井 浄
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.38, no.9, pp.2581-2582, 1990-09-25 (Released:2008-03-31)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

The enones (II), which were obtained from dimethyl 4, 5-isopropylidenedioxy-2-oxopentylphosphonate (Ia) and various aldehydes, were easily converted to 2-alkenylfurans (III) by treatment with p-TsOH in MeOH. In a similar manner, the furfuryl phosphonate (IVa) and the 3-methylfurfuryl phosphonate (IVb) were obtained from Ia and its 3-methylated analogue (Ib), respectively.
著者
樫原 宏 末宗 洋 藤本 勝彦 酒井 浄
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.37, no.10, pp.2610-2614, 1989-10-25 (Released:2008-03-31)
参考文献数
17
被引用文献数
7 9

A new synthetic route to optically active α, β-, β', γ'-unsaturated alcohols was established. The chiral enones (6 and 8), prepared from dimethyl malate via chiral phosphonates (4 and 5), were diastereoselectively reduced with Zn(BH4)2 to afford the 1, 3-syn derivatives (9 and 11). As an application of this 1, 3-asymmetric induction, the fungitoxic C-18 hydroxy unsaturated fatty acid isolated from stromata of Epichloe typhina was synthesized.