著者
永田 晟 磯川 正教 金本 益男 酒井 誠 品田 めぐみ 小椋 博
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.7, pp.p35-46, 1979-10

都市生活者の健康状態を疾病という顕在化された状態より,潜在的な健康度に重点を置いて,健康,身体運動という立場から現在の集合住宅をめぐる諸問題の解決を図るための基礎的資料を得ることを目的とした。調査方法は,A) 健康・体力の意識と実態,B) スポーツ・身体活動について,C) 生活意識や近所づきあい,D) 居住環境の4つの柱からなる質問紙法による調査を行った。調査対象は,墨田区の文花団地,多摩ニュータウンの都営住宅,都内の一戸建住宅の居住者である。その結果,以下のことが明らかとなった。1) 神経的症状,呼吸循環器系の症状を訴えることが特徴で,特に女性において顕著であった。2) 健康についての諸問題の関心度は,"運動不足"に強い関心を示し,次いで"睡眠不足""ストレス過多""スタミナの衰え"に対する意識と関心が高くあらわれた。3) 健康法の実施では,加齢とともに実施度が高くなり,高齢者の強い健康意識を裏づけるものである。4) スポーツ,身体活動に対して好意的態度と関心を示しているが,スポーツ参与の形態としては見たり,聴いたりする消極的な第二次的関与の仕方であった。5) スポーツ,身体活動の実施度は著しく減少の傾向を示し過去の経験よりも現在おかれている環境や生活上の意識に強く影響されていると考えられる。6) 生活の中で切実に要求しているものは,健康,教育,幸福な家庭,土地・住宅,等であった。7) 居住環境の便宜性,安全性,健康性,快適性の面に対する意識,評価は多摩住宅居住者が最も低かった。The purpose of this investigation is to gather information on how to solve problems concerning urban bwellers' health. In this investigation,urban dwellers' health includes not only chronic diseases but also their active involvement in physical activites and their active interests of their own health. The investigation was conducted by distributing questinaires,which dealt with four main points : A) actual conditions of urban dwellers' health and physical fitness and their consciousness of health,B) actual participation in sports and physical activities,C) present association with neighbors and their sense of social life and healthful living,and D) their physical environment. For the purpose mentioned above,people were selected from three areas; a) Bunka residental quarter in Sumida-Ward in Tokyo,b) Tama New Town districts in Kanagawa,and c) other residental areas in Tokyo's 23 Wards. As a result,the following points were clarified. 1. Urban dwellers,especially house wives have been suffering from neuroses and cardio-respiratory diseases. 2. They have strongly indicated a "lack of exercise","over-stress" and"decrease of stamina" among their health problems. 3. In older persons,the tendency of having a stronger interest in their own health conditions than in younger persons was shown. 4. Though they have been interested in sports and physical activities,their forms of involements in sports have been "spectating","watching TV" and "listening to radio",rather than active participation. This is secondary involvement in sports. 5. As they get older and cities have become more urbanized,the frequency of participation in sports and physical activities becomes fewer. In fact,they heve complained of the lack of space to engage in their physical activities. 6. They have strongly required promotion of health,progress of education,maintenance of a happy family,and having their own land and house, etc…… 7. People living in Tama New Town have shown a lower appreciation for transportational conveniency,safeness from troubles,healthfulness and comformity of their life environment.

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著者
胡 金定
出版者
甲南大学
雑誌
言語と文化 (ISSN:13476610)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.61-72, 1998
著者
山下 勝 金藏 満次 津田 達志 丹下 達也
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.86, no.11, pp.874-879, 1991
被引用文献数
1 2

発酵調味料貯蔵タンクの底に, 冬期白色沈澱物が多量に析出した。これを分離し, 調べたところ, キサントプロテイン反応+, フォリン反応+であり, 薄層クロマトグラフィーのRfがチロシンと一致し, かつ赤外吸収スペクトルからもチロシンであることが確認された。<BR>析出が認められた発酵調味料は, アミノ酸度が7m1以上と高くかつチロシンも400-500ppm含まれていた。この高濃度チロシンが冬期の低温で溶解度が減少し, 沈澱物として析出したものと考えられた。<BR>発酵調味料を活性炭処理すると, チロシンが析出しやすくなった。活性炭処理をした発酵調味料は, チロシン溶解度が減少しており, 活性炭吸着物はチロシン溶解度を向上させた。活性炭に吸着されたアミノ酸を調べたところ, トリプトファン, フェニールアラニン, メチオニン, パリン, プロリン, シスチン, リジン, グルタミン酸, セリン等が多く認められた。これらのアミノ酸のチロシン溶解度向上力を調べたところ, チロシン溶解度を向上させるものが多く, 特に, トリプトファン, リジン, シスチン, グルタミン酸等は溶解度向上が著しかった。これらの結果から, 活性炭処理は, 各種アミノ酸を吸着除去するため, チロシンの溶解度が減少し, その結果, チロシンが析出することがわかった。<BR>アミノ酸以外にチロシンの溶解に関係する成分はないか調べたところ, エチルアルコール濃度が大きくなるとチロシン溶解度が減少することが認められたが, その他のグルコース濃度, 食塩濃度, 乳酸濃度, pH等はチロシン溶解度にはあまり大きく関与しなかった。<BR>チロシン析出防止法としては, チロシン含量を400ppm以下にすること, アミノ酸度を7m1以下にすること (アミノ酸度に比例してチロシン含量が減少するため), あるいはチロシンの溶解度を向上させるようなアミノ酸類 (カザミノ酸, 清酒古粕水抽出液等) を添加することが考えられる。一番簡単なのは, チロシン含量の少ない他の発酵調味料を添加することであるが, あるいは糖液を加えて火入れすることにより, メーラード反応を進行させチロシン含量を減少させるのも現場サイドでの実用的なチロシン析出防止法となり得ると思われる。
著者
古賀 彩音 本間 由香里 伊吾田 宏正 吉田 剛司 赤坂 猛 金子 正美 松浦 友紀子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;北海道西部でも個体数が増加しているエゾシカ(<i>Cervus nippon yesoensis</i>)は,近年札幌都市部にも出没し,自動車事故や列車との衝突事故などその被害は年々拡大している.しかし,都市部に出没したエゾシカは銃器を用いた対策などが難しく,未だ管理の有効な手立ては見つかっていない.更に,都市部に生息するエゾシカの生態に関する先行研究も極めて少なく,対策を講じるための基礎情報が不足しているのが現状である.<br>&nbsp;本研究では,都市部に出没するエゾシカの季節移動パターンと生息地利用を把握する為,札幌市に隣接する北広島市及び江別市においてテレメトリー調査とライトセンサス調査を行った.テレメトリー調査は,2012年 1月~ 2013年 3月にかけて北広島市の国有林内で生体捕獲を実施し 4頭(雄 2頭,雌 2頭)を捕獲した.捕獲した雄には VHF発信機を,雌 1頭には VHF発信機及び GPS首輪を,もう 1頭の雌には VHF発信機及び GPS首輪と膣挿入型電波発信機を装着した.放獣後,VHF発信機は三角法を用いて週 2回の頻度で位置を特定した.GPS首輪は 3~ 6時間毎に測位するよう設定し,月1回の頻度で位置データの遠隔回収を行った.ライトセンサス調査は,2008年 5月~ 2012年 12月の期間で北広島市(23.4km)と江別市(26.5km)において実施した.<br>&nbsp;結果,テレメトリー調査では 4頭全てに季節移動がみられ,そのうちの 3頭が JR千歳線と国道 274号線を横断した.また 1頭の雌は昨年利用した越冬地には戻らず,夏に利用した道立野幌自然公園内で越冬し,その後約 7km離れた札幌市厚別区に一時的に移動した.また,ライトセンサス調査では,目撃個体数は両市で増加傾向が見られ特に農地での観察割合が最も高くなった.<br>&nbsp;以上から,捕獲個体が江別市や札幌市に移動している事と,両市でエゾシカの増加傾向が示唆された事から,今後も都市部でのエゾシカによる様々な軋轢の多発が懸念される為,市の垣根を越えた「広域管理」が必要とされる.
著者
金 英傑 浅岡 佐知夫 黎 暁紅 朝見 賢二 藤元 薫
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
Journal of the Japan Petroleum Institute (ISSN:13468804)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.97-105, 2005-03-01
参考文献数
15
被引用文献数
4

天然ガスからの燃料合成の潜在的ルートであるメタノールおよび/あるいはジメチルエーテル(DME)の液化石油ガス(LPG)への転化について,H-ZSM-5およびH-FeAlMFI-シリケート触媒上で,高転化率でLPG成分への高選択性が得られる条件,生成エチレンのリサイクル,触媒の活性低下と再生を検討した。<br> LPG選択性は,触媒性能,反応温度,原料分圧および接触時間に依存した。原料分圧が高くなるほど,炭化水素生成物分布が広幅になった。エチレンは,H-ZSM-5触媒上ではメタノールおよび/ないしDMEとの組合せ反応によって,LPGに選択的に転化できた。LPGのプロセス選択性は,生成したC<sub>2</sub>成分を可能なリサイクル比で反応器に循環すれば,大幅に向上できることが明らかとなった。ただし,ワンスルーで良好なH-FeAlMFI-シリケート触媒はリサイクルモードでは能力が発揮できないことが判明した。活性の低下した両触媒とも適度の炭素燃焼処理によって,成分選択性を含めてうまく再生することができた。H-FeAlMFI-シリケート触媒は,H-ZSM-5に比べてわずかな活性低下におさまっており,またFeを骨格に導入することにより再生と反応の繰返しによる活性を抑えることができた。この触媒について観察される再生に伴う安定性の改善は強酸点の消失に起因すると推定した。<br> 以上,エチレンリサイクルモードでの使用を除くと,H-ZSM-5触媒よりもH-FeAlMFI-シリケート触媒がよい触媒であることが分かった。<br>
著者
安 栽漢 桜井 伸二 金 興烈
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.167-178, 2007-02-01 (Released:2007-05-15)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

The purpose of this study was to compare muscle activity of the lower limb during treadmill running under five different gradient conditions (level, left and right inclines, downward and upward). All inclines were of 14% grade and tilted toward the left, the right, downward and upward directions of the runner. Twelve young healthy males ran at 2.8 m/s. Electromyographic activities of the following seven muscles-gluteus maximus, biceps femoris, rectus femoris, vastus lateralis, tibialis anterior, medial gastrocnemius, and solues-were measured using bipolar surface electrodes during treadmill running under five different conditions. Results showed that left and right inclined surfaces had only little influence on muscular activity. However, for all of the muscles measured, the activity of the lower-positioned leg was greater than that of the higher-positioned leg. During the upward incline trial, all the muscles showed greater activity than for the other trials. The downward slope tended to give the anterior muscles greater activity, and the posterior muscles less activity, compared to level running.
著者
金田一 秀穂
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
日本語国際センター紀要 (ISSN:09172939)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.181-193, 1991-03-30

現在の日本語教育界で行なわれている授業を検討し、一般 的な日本事情についての基本的な考え方をしめす。そのうえで、長期研修会で行なってきた日本事情の授業の位 置づけを行ない、その基本的な考え方と内容を紹介する。 日本事情は日本文化を教授する授業であり、その目的は日本についての理解を深めることにあるが、そのための手段を提供することが重要なのであって、単なる知識を与えることであってはならない。エスノセントリズム(自文化中心主義)からの脱却と相対的価値観の獲得がその際に求められる。究極的な目的は、学習者が自身の文化について知ることである。
著者
齋藤 政彦 山田 泰彦 太田 泰広 望月 拓郎 吉岡 康太 野海 正俊 野呂 正行 小池 達也 稲場 道明 森 重文 向井 茂 岩崎 克則 金子 昌信 原岡 喜重 並河 良典 石井 亮 藤野 修 細野 忍 松下 大介 阿部 健 入谷 寛 戸田 幸伸 中島 啓 中村 郁 谷口 隆 小野 薫 ラスマン ウェイン 三井 健太郎 佐野 太郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

不分岐な不確定特異点を持つ接続のモジュライ空間の構成,リーマン・ヒルベルト対応の研究により,対応するモノドロミー保存変形の幾何学を確立した.また,混合ツイスターD加群の理論の整備,可積分系の幾何学的研究において種々の成果を得た.高次元代数幾何学においては,端末的3次元射影多様体のある種の端収縮射の分類や, コンパクトケーラー多様体の標準環の有限生成性などの基本的結果のほか,モジュライ理論,シンプレクテック多様体に関する種々の成果を得た.量子コホモロジーの数学的定式化や,ミラー対称性の数学的理解についても大きな成果を得た.また,代数多様体の層の導来圏に関する研究においても種々の成果を得た.
著者
加藤 信一 高崎 金久 斎藤 裕 松木 敏彦 西山 享 行者 明彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、代数群、リー代数またはそれに関連する対称空間、概均質ベクトル空間やヘッケ環等の上で定義される様々な特殊関数を主に表現論の立場から研究したものであり、整数論、数理物理学等と関連した多くの成果が得られた。加藤はヘッケ環の表現を調べ、その「双対」がどの様に与えられるかを決定した。また、数理物理学にあらわれるR行列の新しい例をヘッケ環を用いて与え、これを使って可積分系のq類似である量子化されたクニズニク=ザモロヂコフ方程式を考察、この方程式とマクドナルド差分作用素の関係を明らかにした。斎藤は対称行列のなす概均質ベクトル空間の数論的研究を行い、そのゼータ関数を具体的に決定した。そしてそれらのジーゲル保型形式の研究への応用等を論じた。行者は概均質ベクトル空間の研究を表現論、D加群の理論と関連して研究した。特に一般化されたヴァーマ加群の既約性と概均質ベクトル空間のb関数の関係を調べ、代数群、リー代数の無限次元表現論の研究において概均質ベクトル空間の理論が有効に適用できることを示した。松木は表現の記述に必要な、代数群の旗多様対の対称空間に関連する軌道分解について研究し、また球部分群についても考察した。西山はリー超代数のユニタリー表現論を研究した。特にハウによる双対対の理論の超代数版を用いて、各種の古典的リー超代数の既約ユニタリー表現をフォック空間上に実現して、その性質を調べた。高崎は数理物理学にあらわれる微分方程式、非線型可積分系を研究した。特にそれら方程式、可積分系の対称性を考察の対象として、体積保存微分同型群、無限次元リー代数等との関わりを調べた。
著者
金沢 英之
出版者
札幌大学
雑誌
比較文化論叢 : 札幌大学文化学部紀要 (ISSN:13466844)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.53-81, 2004-03-31
著者
津金 昌一郎
出版者
日本民族衛生学会
雑誌
民族衛生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.124-132, 1989
被引用文献数
2

戦後ボリビアへ移住し30数年にわたって,集団生活を営んでいる,沖縄出身者より構成されている移住地(オキナワ移住地)と,九州を中心とした本土出身者よりなる移住地(サンファン移住地)のそれぞれにおいて,現在の食生活パタンを明らかにすると共に,それがどのような因子により規定されているのかを検討した. その結果,現在のオキナワ移住地の食生活の特徴として豚肉や動物油の摂取が挙げられる一方,サンファン移住地のそれは,魚・漬物・鶏肉・果物の摂取の多さと,調味料として砂糖・食塩・醤油を頻回に使うという食生活であった. また,主成分分析の結果として,移住先での食生活を規定する最も大きな因子としては,牛肉・パン・コーヒーなどで代表される食生活のボリビア化が挙げられたが,移住前の出身地域における食文化の影響が第2主成分として根強く存在している事が明らかになった.
著者
金川 哲也
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ポンプの中を流れる水中において、しばしば、衝撃波という「危険な」波が形成される。これを、ソリトンという「安全な」波に変換できれば、ポンプの損傷を抑制することが可能となる。本研究の目的は、この革新的技術開発のための理論的基盤の創成にある。気泡流中において、水中音速1,500 m/sを超えて伝播するという、水の圧縮性の効果が招く高速伝播圧力波を用いて、ソリトン遷移した衝撃波をポンプ内から速やかに逃がすという着想に基づき、高速伝播圧力波の非線形伝播の理論解析および数値解析を行った。今後、本理論の実験的検証研究や、次世代のポンプへの実装を目指した産学連携研究といった、さらなる進展が期待されるだろう。
著者
金島桂華著
出版者
便利堂
巻号頁・発行日
1971
著者
金田一 京助
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.129-143, 1930-04-15 (Released:2010-06-28)
著者
齊藤 金作
出版者
日本法哲学会
雑誌
法哲学四季報 (ISSN:24338583)
巻号頁・発行日
vol.1949, no.2, pp.73-99, 1949-02-15 (Released:2008-11-17)
参考文献数
121
著者
政金 裕太 佐藤 佳穂 岡村 吉泰 岡部 篤行 木村 謙
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1</b><b>.背景と目的</b><BR><br> 文科省の公式見解では、首都圏でM7クラスの地震が発生する確率は30年以内に70%といわれている。副都心の一つである渋谷駅周辺は、建物密度も昼間人口密度も極めて高い地区であるので、その防災対策は重要であり、大きな課題である。本研究では、その過密地域を含んだ青山学院大学周辺約1kmを対象地とし、災害発生時の人間の道路から避難施設までの避難行動をシミュレーションする。本研究は、その避難行動シミュレーションによって、いつ起こるかわからない震災に対して、すべての時間帯における人間の混雑した危険な状態がどこに発生するのかをチェックする手法を提案する。以下にそのプロセスを示す。<BR><br>(1)人間が何月何日何時に避難経路(道路)上に何人いるのかを推定する手法を示す。<BR><br>(2)2011年3月11日14時の避難者数の推定結果をシミュレーションに適用する。<BR><br>(3)シミュレーション結果からどこに危険な混雑が生じるのかを示す。<BR><br><BR><br><b>2</b><b>.手法の概略</b><BR><br> 道路ごとの人口数の推定は、「流動人口統計データ」(ゼンリンデータコム提供)、渋谷区、港区の避難施設データ、道路データを用いて行った。「流動人口統計データ」は在宅人口、勤務地人口、流動人口のデータから構成されており、ここでは対象地内に自宅も勤務地もないとされる流動人口を扱う。これらのデータをArcGIS上の空間解析ソフトで分析することで道路上の流動人口数の推定結果が得られる。この推定結果を道路上にいる避難者数として、シミュレーションに適用する。「流動人口統計データ」は時間帯ごとの人口データを含んでいるため、時間帯ごとの避難者数が推定できる。<BR><br> 避難シミュレーションにはSimTreadを使用した。SimTreadはCADソフトVectorWorks上で動かす歩行者シミュレーションソフトである。ArcGISで使用したデータをCADデータとしてエクスポートして、VectorWorksへインポートする。分析から得た避難施設ごとの避難者数の推定結果をVectorWorks上の道路にエージェントとして配置する。エージェントは、目的地の避難施設まで最短距離で移動をし、衝突を回避するために減速すると青色で表示され、衝突を回避するために止まってしまうと赤色で表示される。この設定によって赤く表示された箇所が混雑な危険箇所であると判断できる。これを繰り返しすべてのエージェントを道路上に配置したらシミュレーションを実行する。<BR><br><BR><br><b>3</b><b>.シミュレーションの適用</b><BR><br> 以上の手法を震災があった2011年3月11日14時台に適用する。この時間帯では、青山学院大への避難者数は55,111人であるという推定結果が出た。シミュレーションの結果、目的地付近で大混雑が生じ、避難開始30分が経っても約5分の一の10,178人しか避難し終えないことがわかった。<BR><br><BR> <br><b>4</b><b>.考察</b><BR><br> シミュレーション結果から、避難開始数分後は交差点とコーナーに混雑が確認できる。その後、避難行動が進むにつれて、エージェントが通る道路が限定されていき、混雑する道路を特定できる。また、曜日、時間ごとの推定結果を蓄積することで、それぞれの日時の混雑の傾向を推定することが可能になる。時間帯別の危険箇所を指摘することは今後の防災対策として有効に活用できると思われる。この結果から考えられる対策として、避難施設の入り口の拡張、避難者を分散させるような経路の検討、曲がる回数を最小に抑えた直線的な避難誘導などが挙げられる。本研究で提案した手法は、他の地域にも適用可能な汎用的手法である。今後、他の地域にも適用することで、混雑が生じる危険箇所を確認できるシステムとして広範囲に利用できる。<BR><br> 本手法は、扱ったデータの正確性から考えて、あくまでひとつの推定手法に過ぎない。また、災害の被害状況によってはすべての道路が安全に通れるという保障はない。しかし、時間帯ごとの避難行動のシミュレーションによって、時間ごとにおおよその混雑箇所、混雑道路が把握できるという点では有効な推定手法と言えよう。今後、より実態に近い避難行動の推定を行うには、過去の避難行動の調査を参考に、各避難施設の収容数も考慮した、より適切な避難行動モデルを設定する必要がある。