著者
大和田 直希 鈴木 智也
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第34回 (2020)
巻号頁・発行日
pp.2L4GS1305, 2020 (Released:2020-06-19)

本研究では新しいアセットクラスである暗号資産に着眼し,共和分ペアトレード戦略の有用性を検証した.暗号資産は通貨間の相関関係が強く,互いに共和分関係にある可能性が高い.もし通貨ペアが共和分の関係にあれば,ペアの価格差は定常過程となり平均回帰性を有する.そこで価格差が均衡水準から乖離した時,相対的に割高な通貨を売り,割安な通貨を買う.そして乖離が元の水準に回帰した後に反対売買により収益を得る.この共和分ペアトレードが暗号資産市場においてどの程度機能するか検証すべく,実際の暗号資産データを用いて投資シミュレーションを実施した.さらに共和分関係が壊れるリスクを考慮し,分散投資によって収益を安定化できることを確認した.
著者
鈴木 淳子
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.62-80, 2017 (Released:2018-07-20)
参考文献数
116
被引用文献数
4

Despite the increasing participation of women in the workforce and the establishment of laws prohibiting gender discrimination, it is not clear why gender inequality still persists in Japanese society. To address this question, this paper explains the mechanisms of the persistence of gender inequality from the perspective of work and family. First, the rapid changes in the Japanese society, laws, and economic structure over the past four decades are presented. Next, I review literature on the psychology and sociology of gender role attitudes and the longitudinal changes in these attitudes. In addition, seven gender disparities in the workplace (e.g., gender wage gap and proportion of women in managerial positions) are discussed in relation to family roles.The overall results reveal that the following five factors contribute to the persistence of gender inequalities: 1. division of labor by gender; 2. long working hours, employment systems, and employment practices; 3. gender role stereotypes and expectations; 4. inconsistent management practices between positive attitudes towards promoting women and traditional gender role attitudes; and 5. traditional gender role attitudes and gender identity of a woman as a wife.
著者
大町 聡 宮本 梓 岩崎 翼 福田 潤 鈴木 美幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0484, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 周径の測定は筋の肥大や萎縮の程度を簡昜に評価する手段として用いられている。また、大腿周径は大腿四頭筋(以下Quad)の筋組織厚や筋力を反映すると従来から考えられてきたが、ハムストリングス(以下Ham)との関係性について言及された報告は我々の調べた限りでは捕猟し得なかった。また近年、超音波測定装置において、人の骨格筋の筋組織厚の測定は高い再現性が確認されており、非侵襲的かつ簡易に測定が可能であるため、臨床の場において繁用されている。そこで今回は、大腿周径とQuad・Hamの筋組織厚について、さらには筋力との関係性についても検討を行い、大腿周径の測定は臨床の場において簡易にできる評価法であり、Quadの評価だけでなくHamも評価できるのかを明確にすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男性14名(平均年齢26.2±3.1歳)とした。周径の測定は、膝蓋骨上縁5cm・10cm・15cm・20cmとし、背臥位、膝関節伸展位にて1ミリ単位で測定した。筋組織厚の測定は、超音波測定装置(FUJIFILM社製)を用いて、大腿部前面筋(大腿直筋・中間広筋、以下RF)、大腿部前面内側筋(内側広筋以下、VM)、大腿部前面外側筋(外側広筋以下、VL)、内側Ham(半腱様筋・半膜様筋、以下MH)、外側Ham(大腿二頭筋長頭・短頭、以下LH)の測定を行った。RF、VM、VLの測定肢位は背臥位、膝関節伸展位、MH、LHは腹臥位、膝関節伸展位とした。RFの測定部位は下前腸骨棘と脛骨粗面を結んだ線と各大腿周径との交点、VMの測定部位は大腿骨軸に対して15°傾斜させた線と各大腿周径との交点、VLの測定部位は大転子と大腿骨外側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点とした。MHの測定部位は、坐骨結節と大腿骨内側上顆を結んだ線と各大腿周径との交点とし、LHの測定部位は、坐骨結節と腓骨頭を結んだ線と各大腿周径との交点とした。深触子は皮膚面に対し垂直に接触させ、長軸にて実施した。RFの測定は5cmでの測定のみ共同腱が混在し、測定困難なため除外とした。筋力の測定は、BIODEXを用い、角速度60°/sでの膝関節屈曲、伸展におけるQuad、Hamの最大等速性収縮筋力を測定した。筋組織厚の測定は3回行い、検者内信頼性についての統計手法はICC(1、3)を用いた。また、Quad、Hamの周径・筋力・筋組織厚についてはピアソンの相関係数を求めて検討した。統計処理にはRコマンダーを用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 研究に先立って被験者には、研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た。【結果】 筋組織厚の測定の再現性はQuadとHamともにICC=0.96~0.99で各部位とも良好であった。周径と筋組織厚の相関係数は、VM(5cm/10cm)0.84/0.57、RF(20cm)0.86、VL(5cm/10cm/15cm/20cm)0.74/0.76/0.75/0.67,MH(5cm/10cm/15cm/20cm)0.83/0.84/0.77/0.67、LH(5cm/10cm/15cm/20cm)0.64/0.66/0.63/0.74であった。周径と筋力(5cm/10cm/15cm/20cm)の相関係数はQuad 0.61/0.68/0.66/0.70、Ham 0.53/0.65/0.61/0.66であった。筋力と筋組織厚の相関係数はVM(10cm) 0.60、RF(10cm/15cm/20cm)0.61/0.80/0.86、VL(10cm/15cm/20cm)0.81/0.66/0.79であり、MH・LHは相関がみられなかった。【考察】 Quadにおいて、一般に膝蓋骨上縁5~10cmでの周径はVMおよびVLが、15~20cmでは大腿全体の筋群が評価できるとされており、今回の結果からも周径5cmとVM(r=0.84)、周径10cmとVL(r=0.76)、周径20cmとRF(r=0.86)に最も強い相関を認め、一致した。Hamにおいても、最も強い相関を認めた周径10cmとMH (r=0.83)、周径20cmとLH (r=0.74)の結果はMRI装置を用いて筋断面積を算出した先行研究と一致した。したがって、周径の測定はQuadの評価のみではなく、Hamの評価においても有用であり、特に周径5cmではVMの筋組織厚、周径10cmではVL、MHの筋組織厚、周径20cmではRF、LHの筋組織厚とQuad、Hamの筋力を評価することが望ましいと考える。【理学療法学研究としての意義】 大腿周径は、Quadの評価だけでなくHamを評価する手段としても有用である。
著者
坪井 優樹 阪井 優太 鈴木 佐俊 後藤 正幸
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回 (2021)
巻号頁・発行日
pp.3G2GS2h04, 2021 (Released:2021-06-14)

企業が施策を講じる際,適切な効果検証を行い,正しい意思決定につなげることは重要な課題である.観測データから施策効果を正しく評価するために,因果推論という考え方がある.近年の因果推論では,ユーザを施策を打つ群と打たない群に分割した後,条件付き平均処置効果(以下,CATE)と呼ばれる,同じ特徴を持つユーザ群における群間の結果の平均値の差を施策効果とする.CATEにより,施策を講じることが有効であるユーザ群の特定が可能になる.ここで,CATE推定手法としてCausal Treeが提案されている.この手法は解釈性が高く,施策効果に影響を与える要因についての分析に有用である.しかし,この手法は施策対象者をランダムに選択する場合のみを対象とする.そのため,ユーザを人為的に選択し系統的な誤差(以下,選択バイアス)が生じる場合は対応できないという問題点がある. そこで本研究では,Causal Treeをベースとし,選択バイアスが存在する状況に対応したCATE推定手法を提案する.また,人工データセットを用いて実験を行い,提案手法の有効性を示す.さらに,実データセットを提案手法に適用し,実際に分析を行う.
著者
鈴木 昭広
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.160, 2018-10-31 (Released:2018-12-28)

PDFファイルをご覧ください。
著者
平野 智紀 鈴木 有紀
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.275-284, 2020 (Released:2022-04-01)
参考文献数
11

本研究では,対話型鑑賞のファシリテーションにおける「どこからそう思う?」という問いかけの意味について,「どうしてそう思う?」と比較する授業を小学校段階において設計・実践し,データをもとに検証した。教員と児童の発話分析およびふりかえりシートの分析から,「どこからそう思う?」という問いかけにより,子どもたちは作品の表現内容に根拠を求めることができるとともに,教員が子ども同士の発言をつなげてコメントする回数が増え,さらに鑑賞を深めることが可能になっていたことが示唆された。
著者
佐藤 志貴 赤間 怜奈 大内 啓樹 鈴木 潤 乾 健太郎
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.53-83, 2022 (Released:2022-03-15)
参考文献数
48

雑談対話応答生成システムの日々の改良が望ましい方向に効いているか継続的に評価するといった用途として,システムを低コストで評価できる自動評価の枠組みの確立が求められている.しかし,BLEU など,応答生成の自動評価に広く用いられている既存の指標は人間との相関が低いことが報告されている.これは,一つの対話履歴に対し適切な応答が複数存在するという対話の性質に起因する.この性質の影響を受けにくいシステムの評価方法の一つに対話応答選択が考えられる.対話応答選択は,対話履歴に対し適切な応答を応答候補から選ぶタスクである.このタスクではシステムの応答が候補内の発話に限られるため,前述した対話の性質の影響を回避した評価が可能である.一般に対話応答選択では,対話履歴に対する本来の応答(正例)に加え,誤り候補(負例)を無関係な対話データから無作為抽出し応答候補を構成する.しかし,この方法では,正例とかけ離れすぎていて応答として不適切と容易に判別できる発話や,応答として誤りとはいえない発話が負例として候補に混入し,評価の有効性が低下する可能性がある.本論文では,負例を厳選することで不適切な負例の混入を抑制した対話応答選択テストセットの構築方法を提案する.構築したテストセットを用いた対話応答選択によるシステム評価が,BLEU など既存の広く用いられている自動評価指標と比べ人手評価と強く相関することを報告する.
著者
鈴木 宏子
出版者
大学図書館研究編集委員会
雑誌
大学図書館研究 (ISSN:03860507)
巻号頁・発行日
no.114, pp.2058-1-2058-9, 2020-03-31

一橋大学附属図書館及び社会科学古典資料センターで実施してきた人材育成の事例として平成28~30年(2016-2018)に実施した資料保存概算事業を紹介するとともに,この事業中に経験した国際シンポジウム等における海外の事例を元に,古典資料の保存とデジタル化も含めた公開における人材育成の今後の展望を述べる。
著者
鈴木 文子
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.1-20, 2009-03-01

明治時代に始まる「趣味家」といわれるコレクターは、日露戦役の記念絵葉書ブームを経て、大正以降、一般大衆へ広がっていく。また、彼らの趣味蒐集の触手は、時代の趨勢のなか自然に植民地へも伸びていく。本稿では、これまであまり注目されることがなかった趣味家たち、特にその代表的存在である郷土玩具の蒐集家と植民地の関係を考察することにある。趣味家たちは、複数の趣味家集団に属し、自作の版画を交えた多くの同人誌を作成し、また、絵葉書等でさまざまな情報を交換していた。彼らの通信文化を分析しながら、ジャーナリズムとは異なる形で一般の人々に流布していた植民地の風景を考察する。
著者
鈴木 誠也
出版者
公益社団法人 日本表面真空学会
雑誌
表面と真空 (ISSN:24335835)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.358-363, 2021-08-10 (Released:2021-08-10)
参考文献数
13

Germanene, a graphene-like honeycomb crystal of germanium, has been attracting immense attention owing to its exotic properties such as a tunable bandgap and high carrier mobility. However, the fabrication of germanene-based electronic devices is difficult owing to its chemical instability. To overcome this problem, we proposed and developed a new method of germanene growth at graphene/Ag(111) and hexagonal boron nitride/Ag(111) interfaces. The grown germanene at the interfaces was stable in air and uniform over the entire area covered with a van der Waals (vdW) material. As an important finding, a vdW interface provides a nanoscale platform for growing germanene similarly to that in vacuum, while this cannot be achieved with a typical oxide interface (Al2O3). We believe that our work is of significantly importance not only for the growth of germanene but also for the fabrication of future germanene-based electronic devices.
著者
宗 村盛 鈴木 豊史 高野 賢児 島田 侯陛 井上 真由美 川井 龍美 深水 啓朗 伴野 和夫
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.133, no.5, pp.587-595, 2013-05-01 (Released:2013-05-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

Japanese patients with normal renal function were retrospectively analyzed to characterize increases in serum creatinine (SCr) observed following the use of a sulfamethoxazole-trimethoprim (SMX-TMP) combination product and identify factors affecting these increases. In the patients studied (n=49), an individual comparison was conducted for the three factors of age group [≤74 years (n=21) vs. ≥75 years (n=28)], sex [male (n=24) vs. female (n=25)], and total dose throughout the treatment period [≤7 g (n=24) vs. ≥8 g (n=25)] to determine the extent of SCr increase following SMX-TMP combination product use. SCr increased significantly following SMX-TMP combination product use in patients ≤74 years of age and ≥75 years of age, in both males and females, and in patients with a total dose of ≥8 g (8 to 96 g) (p<0.05). Multivariate logistic regression analysis was used to determine the independence of these factors. Total dose was identified as an independent factor and had an odds ratio of 6.571 [95% confidence interval=1.735-24.882, p=0.006]. Post-treatment percent increases in SCr were compared using pre-treatment levels as the baseline. The group with a total dose of ≥8 g (mean 29.8 g) had a significant SCr increase of 18.4% (p=0.002), while the increase in the ≤7 g (mean 5.3 g) group was only 4.5%. The data showed that SCr increased by about 20% when the total dose taken over the treatment period was around 30 g (about 2.4 g as TMP) and indicated that total dose contributes more than age and sex to the post-treatment increase in SCr.
著者
鈴木 慎太郎 茂木 健太郎 家城 光志 黒川 真嗣 足立 満
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.280-284, 2008-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
10

26歳の女性.ライチを食べた後に口腔咽頭の違和感を訴え, 次第に皮膚掻痒感, 四肢のしびれ, 悪心を認め, 救急外来を受診した.来院時, 血圧低下と意識障害も認めた.アナフイラキシーショックと診断し, アドレナリンや副腎皮質ステロイド薬などを投与し改善した.ライチに対する特異的IgE抗体測定および同種のライチを用いた皮膚試験で陽性を示した.アナフイラキシーショックに進展したライチによる口腔アレルギー症候群と診断し, 今後はライチを摂取しないように指導した.また, 本例ではこれまでに種々のパッションフルーツやスパイスでアレルギー症状の既往があり, 花粉による鼻アレルギーもあることから, プロフイリンをアレルゲンとしたpollen-fruit syndromeと呼ばれる病態を有しているのではないかと推測した.
著者
手塚 雅勝 鈴木 弘美 鈴木 康夫 原 征彦 岡田 昌二
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
衛生化学 (ISSN:0013273X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.311-315, 1997-10-31
参考文献数
13
被引用文献数
10

The effects of catechins obtained from the hot water extract of green tea leaves on two human type-A influenza virus strains of Aichi/2/68 and PR/8/34 were studied. In this study, (-)-epicatechin (EC), (-)-epigallocatechin (EGC), (-)-epicatechin gallate (ECg), (-)-epigallocatechin gallate (EGCg), the crude catechins containing these catechins and (+)-catechin were used. Consequently it was observed that catechins used in this study had an inhibitory effect on the hemolytic activity to red blood cells induced by these two type-A virus strains under acidic conditions (pH 5.1 or 5.4) although they did not have an influence on the agglutination activity to red blood cells induced by the same virus strains. After incubation of (-)-ECg and (-)-EGCg with A/Aichi/2/68 virus, MDCK cells, virus-sensitive cells, were infected with the virus and the ability of virus proliferation was measured in terms of an index of the agglutination activity of the virus to red blood cells. The used two catechins, (-)-ECg and (-)-EGCg, inhibited the virus proliferation at concentrations of 100μg/ml and 50μg/ml, respectively. Furthermore, at a concentration of 2.0 mg/ml these two catechins were found to inhibit the activity of neuraminidase on the surface of the virus membrane by 71.3% and 60.8%, respectively. From the above-mentioned results, it is considered that among the catechins contained in green tea leaves, such two catechins as (-)-ECg and (-)-EGCg inhibit the activity of neuraminidase present on the surface of human influenza virus in order to block the invasion of the influenza virus into virus-sensitive cells.
著者
野口 美由貴 鈴木 義浩 山崎 章弘
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.51-60, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
39
被引用文献数
2 1

受動喫煙の一つの形態として,たばこを吸い終わって火を消した後に残留するたばこ煙であるサードハンドスモーク(Thirdhand smoke, THS)が問題になっている。喫煙終了後のたばこ煙の成分は,空気中に長時間残留するものも存在するが,大部分は壁紙や衣服などの固体表面に付着する。付着したたばこ煙成分は長期間にわたって徐々に空気中に再放散され,人体に取り込まれる可能性がある。THSは喫煙室の臭いや変色などから日常的に見られる現象であるが,喫煙環境の問題として取り上げられたのは,2009年と比較的新しい(Winickoffら)。翌年,表面に付着したニコチンが,空気中の亜硝酸HONOと反応して発がん性を持つニトロソアミン類(Tobacco-specific nitrosamines, TSANs)が生成することが報告されてから,THSに関する研究は飛躍的に進んだ。本稿では,新たな喫煙環境問題であるTHSについて,その特徴,化学特性,フィールドでのTHSの調査例,毒性と健康影響,曝露アセスメントの各観点から現状を概観した。THSは4つのR,Remain残留,Reaction反応,Re-emit再放散,Re-suspended再浮遊によって特徴付けられる。THSは通常の環境たばこ煙(ETS, Environmental tobacco smoke)が残留中に変化(エージング)したものであり,その化学組成はETSと異なる。また,表面に吸着した化学種が様々な化学変化によって異なる化学種に変換される。THSのフィールド調査は,自動車,住居,病院などで気相濃度測定やふき取り法,ダストの付着物測定などによって行われ,喫煙履歴のある場所での高濃度のニコチン,あるいはTSNAsの検出が報告されている。THSの毒性試験は,細胞レベルではDNA損傷が,また動物レベルでも代謝系や免疫系への影響が報告されている。また,THSへの曝露アセスメントでは,乳幼児へのTHS曝露の影響が深刻な問題であるとしている。現状では,THSによる健康被害の程度に関して確実な証拠はまだまだ不足しているものと考えられるが,THSのもたらす不快な臭気なども含めて新たな喫煙環境問題を引き起こす可能性があるため,今後の研究の進展が待たれる。
著者
頼高 朝子 深江 治郎 渡辺 宏久 三輪 英人 志村 秀樹 河尻 澄宏 下 泰司 前田 哲也 大塚 千久美 山田 大介 富山 誠彦 阿部 隆志 平沢 基之 木原 武士 斎木 英資 鈴木 千賀子 風間 明日香 大野 欽司 伊藤 美佳子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

水素分子はパーキンソン病(PD)疾患モデル動物のドパミン神経細胞の減少を抑制した。この事実を基にレボドパ内服中のPD患者に対して水素水を48週間飲水させた無作為化二重盲検試験でその症状を改善させた。初期及び進行例を含めたPD患者に対象拡大し72週に延長し、無作為化二重盲検並行群間試験を14施設で実施した。レボドパ未内服の患者を含めた178例を登録し、水素水群91例とプラセボ群86例に試験水を1日1l飲水した。水素水による有害事象は認めなかった。主要評価であるPD評価スケールの開始時から72週目までの変化量は水素水群とプラセボ群で統計学的な有意差は認めず、有効性は認めなかった。