著者
日野 秀逸 吉田 浩 尾崎 裕之 関田 康慶 藤井 敦史 佐々木 伯朗
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、第1に高齢化社会に対応した福祉・経済社会システムの事例研究として、最も福祉水準が高い北欧のリーダー的存在であるスウェーデンを事例として取り上げた。ここでは、日本との対比もしながら、スウェーデンの1990年代改革を分析し、スウェーデンの福祉国家再生・発展における地方分権と協同組合の役割を検討した。第2に、高齢者福祉に関する地域モデルの構築に関し、具体的には宮城県の市町村の福祉財政に焦点を当て、介護保険制度における介護者の意識と実態に関する研究として、在宅サービス提供者に対するアンケート調査を行った。その結果、「介護の社会化」、「在宅サービスの市場化」などに介護者の意識が変化していること、介護サービスに関するニーズが変化していることなど、行動学の面から介護者の現状が明らかになった。第3に、福祉NPOの実態を調べるため、阪神高齢者・障害者支援ネットワークの事例を通してNPOにおける<市民的専門性>の形成について検討した。また、神戸のコミュニティ・ビジネスと社会的企業に関して、神戸市において、主として対人サービスを行うコミュニティ・ビジネスに関してフィールド・ワークを行った。その結果、神戸のコミュニティ・ビジネスが、幅広いソーシャル・キャピタルを基盤として成立している一方、行政委託への依存体質が強いことなどが明らかとなった。第4に、高齢社会における財政の役割を、財政社会学の観点から評価を行った。現代国家はいずれも憲法やその他の法律上では公共の福祉を尊重しているが、日本においては、福祉政策に適した財政システムと、現実の福祉政策との間に大きなギャップが存在する。こうした現象の説明として、新制度学派の説く制度の「補完性」原理は有益ではあるが、国家の相対的自律性を説明するには不十分である。ドイツ財政学から生じた「財政社会学」はこの点を既に指摘していた。深刻な財政危機が生じている現在の日本で、財政社会学の再評価は不可欠である。第5に高齢社会における世代間の不均衡の問題を定量的に検討するため、社会保障をはじめとした世代間の拠出、受給の状況、生涯純受給の格差について、所得再分配調査のデータに基づき世代会計の手法を援用して検討した。その結果、今後100年間の政府の財政収支を均衡させるためには、将来世代に現在世代に比して1.5倍あまりの一世帯当たり約4,900万円の追加的な負担が必要であるという結果も得られた。この世代間の格差を公平にするため、より早い時点で受益を削減する改革が将来世代に望ましく、2005年で改革する場合は、およそ35%の受益を削減すれば良いという結果が得られた。また2期間の世代重複モデルを用いて高齢化と財政政策、社会保障政策を動学的にシミュレートした結果によると、短期の減税、ベビーブーム世代の存在の中で高齢化、世代間所得移転政策の存在は、資本蓄積に大きくかつ長期のネガティブな効果を及ぼすことがわかった。
著者
関 哲行 豊田 浩志 多田 哲 三浦 清美 大稔 哲也 長谷部 史彦 根津 由喜夫 松木 栄三
出版者
流通経済大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度は初年度でもあるので、研究会全体の方向性を確認しつつ、研究分担者と外部報告者による研究会を組織した。研究会のうちの1回では、ロシア人研究者を招聘してシンポジウムを開催し、ギリシア正教を含む比較宗教学の視点から、巡礼の歴史的意味を考察することができた。平成16年度の研究会では文化人類学や四国巡礼に関する報告も組み込み、地中海世界の巡礼研究との異同を確認した。豊田はサンティアゴ巡礼路を自ら徒歩で歩む一方、多田はイギリスの国際学会での報告を行った。平成17年度は豊田が聖地イェルサレムを訪れ、イエスゆかりの聖所についての現地調査を実施した。関と大稔は国際シンポジウム「四国巡礼と世界」に参加し、アジア諸国の巡礼との比較研究の上で多くの知見を得た。平成18年度は科研の最終年度であるので、研究の総括に取り組み、おおよそ以下のような研究成果を確認できた。(1)キリスト教、イスラム教、ユダヤ教という地中海世界の三つの一神教には、教義や教会組織(教団)などの点で相違点が見られる一方で、巡礼については親近性が少なくない。(2)巡礼は教会や教団により敬虔な宗教的営為とされる反面、民衆信仰の要素を常に包摂しており、教会や教団による保護と統制を必要とした。病気治癒に代表される民衆信仰こそが、多くの民衆を巡礼に駆り立てた主要因の一つであった。(3)ユダヤ教がキリスト教やイスラム教の母体となっていることから、三つの一神教に共通する聖地や聖人は少なくない。(4)差別と緊張を孕む地中海世界の総体的把握には、教会や教団の言説だけでなく、民衆信仰の表明としての巡礼にも目を向けなければならない。(5)研究者自身による現地調査や巡礼体験の重要性も、再確認できた。これらは今後の巡礼研究の動向に、影響を与えるはずであるし、その一端が各研究者の著書や論文に垣間見られる。
著者
関 源太郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

18世紀中葉までにスコットランドでは、タバコ貿易やリネン製造業が次第に成長していった。それは世紀末に急速に展開する産業・経済発展、都市化へと連なる伏水流を形成していた。この歴史展開は、リネン製造業振興による経済開発を提言したパトリック・リンズィの貧民対策思想の内容にも表れている。彼は一方で、輸出産業としてのリネン製造業を育成し、この産業が繁栄する時にはじめてスコットランドの経済開発は可能になると洞察する。他方で、貧民問題、すなわち物乞いや犯罪者の増加の原因は雇用不足、失業にあると見る。つまり、彼らに雇用の機会を与えれば、彼らは「国富と国力」の源になるのである。要するにリンズィによれば、彼らはリネン製造業の発展の一助になることを通じて、『国富と国力」の増強に貢献することになる。したがって彼は、彼らを刑法によって処罰するだけではなく、彼らをワークハウスに収容しリネンの生産技術および商品経済社会にふさわしい生活習慣と倫理を身につけさせることによって、本格的な近代化、工業化、都市化に向けた胎動に資する主体に鍛え上げるよう主張する。この時期、グラースゴウとエジンバラにワークハウスが開設された。それに先だって公刊された両都市のワークハウス設立案も、主体形成という点ではリンズィの主張と見解を同じくする。もっとも、両案とも貧民問題をリンズィほどスコットランド全体の経済開発と結びつけて洞察していないが。にもかかわらず、グラースゴウの案は貧民問題をグラースゴウの地域経済開発と関連させ、エジンバラの案は非自発的失業の存在を認識している点は注目に値する。さら注目されるのは、その後エジンバラでワークハウスの運営費調達のために課税すべきかどうかをめぐる論争が起きたが、賛成派、反対派の議論によって、本格的な工業化、都市化の時代に問われた貧民救済の論点が先取りされていることである。
著者
関口 豊和
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年私は主に、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を初めとする宇宙論的観測を用いた宇宙論パラメータの決定及び素粒子宇宙モデルに対する制限について研究を行った。主な研究成果は以下の通りである。一つ目は、ニュートリノや軽いグラビティーノといった軽い粒子の質量に対する制限の研究である。このような粒子は様々な素粒子理論における標準模型を超えたモデルで予言されるが、地上実験による検出は一般に困難である。しかし高温高密度の初期宇宙においては大量に生成された可能性があり、現在暗黒物質の一部を担っている可能性がある。そのため宇宙論的観測が制限に有効であり、制限は宇宙論、素粒子論双方に重要な知見を与えると期待できる。我々は、CMBにおける重力レンズ効果が、軽いグラビティーノの質量に対して感度があることを示し、現在進行・計画中のCMB観測により期待される制限を定量的に見積もった。また、近い将来のCMB観測ではニュートリノ質量とハッブル定数の間に依然強い縮退があることを示し、宇宙論的な距離観測によるニュートリノ質量に対する制限の向上について定量的な見積もりを与えた。二つ目は、初期ゆらぎ及びインフレーションモデルに対する制限である。これまでに多くのインフレーションモデルが提唱されているが、我々の宇宙でどのモデルが実際に起こったかは分かっていない。渡しはベイズモデル選択と呼ばれる統計手法に基づきインフレーションモデルを観測的に区別する方法を提案した。この方法は、現在進行中のCMB観測からモデルを区別する上で、有用な手法になると期待される。
著者
安藤 剛寿 関谷 好之 上原 貴夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会総合大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1997, no.1, 1997-03-06
被引用文献数
1

各プレイヤは, 自分のハンドの他に, パートナのハンドのイメージと, パートナから見た自分のハンドのイメージを持つ. 私はつぎのビッドを決めるために, パートナのビッドを観察して, アブダクションによりパートナのハンドのイメージ (ビッドをした理由を説明できる仮説) を作る. ところが, パートナのビッドが, 彼女の持つ私のハンドのイメージによって決定されたものならば, 彼女が私のビッドからアブダクションによって作った私自身のハンドのイメージについても知る必要がある. さらに, 彼女の持つ私のイメージにも私が持った彼女自身のイメージが含まれる. このように, 各プレイヤはビッドのシーケンスを逆に辿って再帰的にアブダクションを行い, 観察したビッドのシーケンスを説明できるハンドのイメージを得ると考え, これをビッドを行うプレーヤのモデルの基本とした. このプレーヤがオークションにおいてパートナと協力して良いコントラクトに到達するかどうかは, ニ人の用いるビディングシステムによって左右される. 本研究では, よく知られたChales Gorenの本にあるビディングテーブルに従っている. しかし, このテーブルは最初の3つのビッド (オープニング, レスポンス, リビッド) しか決められないので, その後のビッドは常識的な判断に従うようにした. 例えば, 自分のハンドの点とパートナーのハンドのイメージにおける点の最小値を合計して24点以上, 31点以下ならばゲーム (4ハート, 4スペード, 3ノートランプ) をビッドする.
著者
佐藤 尚子 岡田 亜矢 江原 裕美 内海 成治 大林 正昭 黒田 一雄 横関 祐見子 織田 由紀子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.女子教育の問題は、その社会におけるジェンダーのありようと深く関係していることを明らかにした。たとえば、ジェンダーギャップの少ないと言われているブラジルにおいても、女子教育の現状は問題がある。ジェンダー概念は文化の深層に根ざすため、微妙な形で表出するからである。女子教育の発展はジェンダー規範と関係があり、ジェンダー規範はそれぞれの地域や民族の文化と深い関係がある。しかし、イニシエーションや早婚など女子教育を阻害する民族的文化的背景を絶対視する必要はない。近代中国において女子の伝統であった纏足が消滅した例があるからである。2.女子教育を促進または阻害する文化のもつ意味は重大であるが、しかし、本研究は、題目にあるとおり、現在の文化的要因を越えて「社会経済開発」を考えようとした。たとえば、フィリピンでは、識字率、就学率、最終学年への到達率、教育の理解度などで性別格差がみられないと報告されている。しかし、フィリピンはまだ途上国経済から脱していない。女性と女子教育が社会経済開発に強い役割を持つことが重要である。経済開発に対する教育の貢献度を男女別で量的に比較することは困難であるし、女子教育と経済開発の関係性は複雑でもあるが、社会経済開発における女子教育の有用性については強い相関関係がある。日本でもナショナリズムの台頭時期に主に社会開発の視点から女子教育が普及した。インドでは女子教育は階層間格差によって増幅され、重層的な格差の構造を形成している。この構造を破るものは、目に見える形で社会経済開発と女子教育が結びつくことである。3.単なる人権・倫理的視点からの女子教育振興ではなく、社会経済開発という視点を入れた女子教育振興こそ、発展途上国の女子教育を成功に導くものとなると思われる。
著者
掛川 武 長瀬 敏郎 中沢 弘基 関根 利守 長瀬 敏郎 中沢 弘基 関根 利守
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、初期地球の海洋に隕石が衝突し、そこでアミノ酸が生成され、そのアミノ酸が地球内部で重合し、やがて生命に進化したことを実験的に検証する課題である。隕石の海への落下実験に成功し、世界で初めて衝撃環境でのアミノ酸生成に成功した。地殻内部での高温高圧条件でアミノ酸重合にも世界で初めて成功し、タンパク質前駆体のペプチドを生成した。
著者
小林 暁雄 増山 繁 関根 聡
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J93-D, no.12, pp.2597-2609, 2010-12-01

日本語語彙大系や日本語WordNetといったシソーラスは,自然言語処理の分野における様々な研究に利用可能なように構築されている.これらのシソーラスはその精度を保持するために,人手により,よく吟味されて構築されている.このため,新たな語を追加する際にも,よく検討する必要があり,容易に更新することはできない.一方,Wikipediaはだれでも参加・閲覧できるオンラインの百科事典構築プロジェクトであり,日々更新が行われている.日本語版のWikipediaでは,現在100万本以上の項目が収録されており,非常に大規模な百科事典となっている.このWikipediaのもつ膨大な語彙を,既存のシソーラスの名詞意味体系に分類することができれば,非常に大規模な言語オントロジーを構築することができると期待できる.そこで,本研究では,Wikipediaを構成する構造の一つであるカテゴリーを,Wikipediaの記事の冒頭文を使用し,既存の言語オントロジーの意味クラスの分類階層と連結することで,大規模な言語オントロジーを構築する手法を提案する.
著者
大関 達也
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
教育哲学研究 (ISSN:03873153)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.1-16,69, 2002

Die Erfahrung der Differenz und der Heterogenität, die im philosophischen Postmodernismus zur epistemologischen Grundaussage vom "Ende der großen Erzählungen" komprimiert worden ist, zwingt zur kritischen Revision der humanistischen Bildung. Im 34. Salzburger Symposion (1999) ist die Frage aufgeworfen worden, wie unter der Voraussetzung von Pluralität und Relativität der Welten der Bildungsbegriff neu bestimmt werden kann. S. Hellekamps reformulierte anhand von H.-G. Gadamers >Wahrheit und Methode< den Bildungsbegriff als das Gespräch in pluralen Sinnwelten. Aber in dieser Bestimmung sollte die Frage nach der praktischen Vernunft und der Urteilskraft, die m.E. auch unter den Bedingungen der Postmoderne unvermeidbar ist, gestellt werden. In diesem Aufsatz werde ich versuchen, die von Hellekamps neu formulierte These über Bildung zu überprüfen. Dazu werde ich H.-G. Gadamers Kritik an der Aufklärung und seine Erorterungen über die humanistische Tradition rekonstruieren.<BR>Gadamers Kritik an der Aufklärung bedeutet, daß ihr unkritisches Vertrauen auf die Technik die menschliche Urteilskraft und die praktische Vernunft in unserer Zeit lähmt. Aber es kam ihm jedoch auf die Idee der Aufklärung an, auf das Selberdenken und die Bildung der Urteilskraft. Diese Idee ist als die Rhetorik, mit der Gadamer die Redekunst im sozial politischen Bereich meint, konkretisiert worden. Für Gadamer war es wichtig, etwas Abstand vom technischen Denken zu gewinnen, dem ein Vergessen der menschlichen Endlichkeit zugrunde lag, urn die rhetorische Tugend des Aufeinander-Horen-Konnens wieder zu Ehren zu bringen. Daraus kann geschlossen werden, daß das allgemein bereits bekannte Verständnis von Gadamer als dem Vertreter der Gegenaufklärung revidiert werden sollte und daß es sich bei der als Gespräch verstandenen Bildung urn die Idee der Aufklärung handelt.
著者
砂田 徹也 関 直臣 中田 光貴 香嶋 俊裕 近藤 正章 天野 英晴 宇佐美 公良 中村 宏 並木 美太郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.35, pp.163-170, 2008-04-24
被引用文献数
6

本報告は,省電力化技術であるパワーゲーティングを細粒度に施した MIPS R3000 ベースの CPU チップ Geyser-0 に対して,その上で動作する OS の試作およびその OS を用いてシミュレーションによる電力評価を行う.細粒度は,ALU,SHIFT,MULT, DIV および CP0 のそれぞれを PG の対象とすることを意味する.試作した OS は,例外・割り込み管理機能,システムコール, タスク管理機能を備えており,タイマ割込みによるマルチタスクを実現する.試作 OS によって 4 種類のベンチマークプログラムをマルチタスクで動作させた際の電力評価を行った結果,総電力で平均約 50%,リーク電力で平均約 72%の消費電力削減を実現した.This paper describes prototype of OS for processor Geyser-0 based on MIPS R3000 with a fine grain power gating technique to reduce power consumption and evaluation of power by the simulations when running the OS. The processor has power gating units such as ALU, SHIFT, MULT, DIV, and CP0. The prototype OS has the exception management, the system call, and the task management, and its OS achieves the multitask by the timer interruption. As the results of evaluation running four benchmark program on the OS and the processor, 50% working power and 72% leakage power are reduced.
著者
原田 幸夫 関山 正憲
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集 (ISSN:00290270)
巻号頁・発行日
vol.18, no.69, pp.62-65, 1952-02

This paper suggests a method for measuring current velocity of gases on new principle which uses ion. First of all, the current of fluid under test is ionized by corona discharge made by a transformer, then it is led into two absorbers, which are put keeping some distance each other, but have some pulsating electric field. Passing through their two absorbers, the fluid arrives at an ion receiver, which catches ions escaped from them. If we change the distance between their absorbers, the quantity of ion catched by the receiver changes periodically. Measuring the change of the distance between their two absorbers for one period, we can know the fluid velocity by the following relation. w=λf where w : current velocity of gases λ : the change of the distance between their two absorbers in one period f : frequency of the pulsating electric field
著者
清水 康裕 鈴木 亨 才藤 栄一 村岡 慶裕 田辺 茂雄 武満 知彦 宇野 秋人 加藤 正樹 尾関 恩
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.527-533, 2009
被引用文献数
8 16

対麻痺者の歩行再建には骨盤帯長下肢装具が用いられている.装具は,関節の自由度を制限することで立位や歩行の安定を得る.しかし起立・着座の困難や歩行時の上肢への負担が大きく,実生活での使用に限界があった.股・膝・足関節に屈曲伸展自由度と力源を有する歩行補助ロボットWPAL(Wearable Power-Assist Locomotor)を開発中であり,予備的検討として,従来装具であるPrimewalkと比較した.1)対麻痺者3名において,歩行器を用いての起立・着座の自立度と歩行距離を比較した.装具では介助や見守りを要した例を含め,WPALでは3 名とも起立・着座と歩行が自立した.連続歩行距離はPrimewalkの数倍であった.2)練習期間が最長であった対麻痺者1名でトレッドミル上の6 分間歩行における心拍数,PCI,修正ボルグ指数,体幹の側方方向の動揺を比較した.心拍数,PCI,修正ボルグ指数が有意に低く,体幹の側方動揺が有意に少なかった.下肢に自由度と力源を付与したWPALは対麻痺歩行再建の実現化を大きく前進させるものと考えられた.
著者
福田 誠治 遠藤 忠 岩崎 正吾 袴田 邦子 関 啓子 松永 裕二
出版者
都留文科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、これまでの経験の蓄積をもちながらすでに変化を始めているロシアをフィールドとして、教育の多様化・個別化を総合的に検討しながら、英才教育の歴史的展開の研究、今日の学校多様化の実地研究、学校多様化の制度モデルの構築を行うことである。初年度はモスクワ、ヤロスラブリ、カザン、また次年度はモスクワ、サマーラ、ノボシビルスクの現地調査を行った。これによって政策、実施状況、実施上の問題点などを明らかにしてきた。これと関連して、2003年3月には「ロシアにおける英才教育と学校の多様化・個性化に関する総合的調査研究-中間報告」を、および2004年9月には「ロシアにおける英才教育と学校の多様化・個性化に関する総合的調査研究-中間報告2」を編集し、刊行した。また、ロシアにおけるエリート教育の国内研究として月1回の研究会と年1回の合宿を継続した。これは、研究分担者がそれぞれの専門性を発揮して研究を進め、毎月、国立教育政策研究所を会場にして研究会を開催するものである。とりわけ、今年度は、ロシアからの行政関係者ならびに研究者を招聘した国際会議を開催し、会議資料を編集・刊行した。国際会議は、2004年11月22日に、国立教育政策研究所(東京都目黒区)にて開催された。川野辺敏「あいさつ」に引き続いて、モスクワ市教育政庁普通教育局長オリガ・ジェルジツカヤ氏が「モスクワ市における英才教育の実践と課題」を報告し、質疑応答に入った。続いて、ロシア連邦教育科学アカデミー心理学研究所ナタリヤ・シュマコーワ氏が「英才を育てる、『星座』の実践から」を報告し、質疑応答を行った。さらに、ジェルジツカヤ、シュマコーワ、福田誠治でパネルディスカッション「ロシアの英才教育」を行った。参加者は、国立教育研究所などの研究員と、関東近県のスーパーハイスクールの教員、国内ロシア教育研究者、および本研究の研究参加者など30名余である。以上の成果をもとに、成果報告書を作成した。さらに、この成果は、2005年6月の比較教育学会にて共同発表される。
著者
関口 欣也
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.128, pp.46-57, 60, 1966-10-30
被引用文献数
1

1)中世禅宗様斗〓は中国南宋頃の正統的な斗〓形式をうけつぐものであるが, 中国のものと異り肘木長さを2種類に統一し, 斗も立面上大斗と巻斗の2種で構成するのが一般的である。したがって斗〓は巻斗配置法の各型を通じて立面的に斗が上下に整然とそろう。すなわち禅宗様斗〓は細部の精緻な整備感を重んずる日本的感覚によって中国斗〓を整理単純化したものとみてよい。2)禅宗様の斗〓形式は斗の配置法によりA・B・C・Dの4型に分類される。このうちA・B・Cの3型はいずれも14世紀から存在し, なかでも秤肘木上巻斗外面と長い肘木にのる巻斗内面が相接するととのったA型が中世の主流形式である。またA・B・C 3型よりも秤肘木の相対的長さを長くしたD型は室町末から現れ近世初期の禅宗様仏堂にかなり用いられるが, これは斗〓一具としての1体化した整備感よりも, 斗〓部材を大きくみせる傾向をしめすもので, 一つの和様的感覚をしめすものとみてよい。また斗〓の変化としては中国の仮昂に発したと考えられる折線状肘木の使われ方と形状の変化がある。すなわち14世紀には当初の擬似尾〓的役割を意匠的によく伝えて折線状肘木を壁面と直角方向に配するが, 16世紀には1つの装飾的モチーフとして壁面と平行な方向にも用いられ, 形状も当初の直線状のものから下端が凹曲線になるものや繰型をもつものへ装飾化していった。3)斗〓立面の特殊例には法用寺本堂内厨子斗〓と安国寺経蔵内輪蔵斗〓がある。法用寺本堂内厨子斗〓は東大寺鐘楼斗〓を先行例とする三つ斗と五つ斗を重ねた特殊で複雑な形式であるが, 上下の斗を整然とそろえ, かつ各巻斗間隔を一定にし, 軒中央では六枝掛と通ずる〓と巻斗の関係がみられるなどいちぢるしく和様的な処理がある。安国寺経蔵内輪蔵斗〓はこれと対照的にいちぢるしく中国直写的な性質をもち, 当時日本ではかなり多様な中国斗〓の各型がしられていたことをしめす。4)禅宗様斗〓の一般的傾向と中国斗〓を比較すると, 斗の種類の点で中国的性質を痕跡的に止めるものが関東に存在する。安国寺経蔵内輪蔵斗〓の中国直写的性質をあわせ考えると, 禅宗様斗〓は当時の中国斗〓の各形式のうち日本的感覚に適合したものを撰択的に輸入したのではなく, 禅宗様斗〓は中国斗〓を日本で日本的感覚により整理単純化しかつ洗練させていったものであろう。ただし, その洗練はかなり急速であったろう。5)斗〓断面は中国斗〓の性質をよく伝えているが, 尾〓の配し方に, 上下尾〓が平行で内外一木をなすものと, 上下尾〓が相互に有角をなし下尾〓が内外で縁が切れ急勾配でたち上り上尾〓を支える型とがある。中国では発生的に前者の方が古いが, 後者も中国で11世紀に成立している。したがって日本における両者の間には年代差はなく, 当時の中国における両形式の併存状態を反映したものと考えるのが妥当である。また関東禅宗様斗〓の尾〓は有角に定形化している。関西では一般的には上下尾〓が平行であるけれども, 有角のものもあり, 関東ほど定形化していない。このことは関西禅范の中心をなす京五山が創立時では13世紀初頭から14世紀末にわたり, 発願者も朝廷・公家・武家に分れ, このため各寺の建築的伝統が独立的であったのではないかと想像される。このように考えてみると, 関東禅宗様斗〓の定形化は単に地方色だけとしてみるべきでなく, そこに鎌倉五山の雄たる建長・円覚両寺の強大な建築的権威を推察せしめるものがあろう。