著者
鈴木 重晴 嶋村 則人 関谷 徹治
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

聴覚神経系のなかでも、蝸牛神経(cochlear nerve, auditory nerve)は外力に対して極めて脆弱である。このことは、交通事故や労災事故後に経験される外傷性聴覚障害の一部が蝸牛神経損傷によって生じることによっても示されている。一方、脳神経外科の小脳橋角部手術では、蝸牛神経に直接的に外力が及ぶことがある。これによって、蝸牛神経変性が起こり、結果的に外傷性聴覚障害を生じる。このような手術合併症防止の重要性は、広く脳神経外科医には認識されてきた。そして、聴覚誘発電位の一つである聴性脳幹反応を術中に記録することによって、その波形変化から不可逆的な蝸牛神経損傷の発生を未然に防ごうとする試みがなされている。この神経保護手法の臨床的有効性は確立しているが、聴性脳幹反応の術中変化の判定基準は、これまでほとんどV波潜時の延長所見によってのみなされてきた。しかし、潜時のみではなく、V波の振幅の変化に着目して術中モニタリングを行う方が、より鋭敏に蝸牛神経に生じる変化を捉えうるのではないかという指摘もなされてきた。本研究は、上記のような背景のもとに、我々が確立した定量的蝸牛神経変性モデルに基づいて、聴性脳幹反応術中モニタリングにおけるV波振幅変化の意義について検討したものである。我々の本研究の結果は下記であった。すなわち、聴性脳幹反応を脳神経外科手術時の術中モニタリング法として使用するとき、その潜時変化によって不可逆的蝸牛神経損傷の発生を未然に防ぐことは可能である。しかし、これに加えてV波の振幅変化に着目することによって、さらに鋭敏な術中モニタリングが可能となることが証明された。この結果はこれまでにないものであり、蝸牛神経変性防止上、新たな研究成果であったと言える。
著者
孫 旭 関根 嘉香 鈴木 路子
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.13-20, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
17

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は, 多くの人々の生活様式に変容を強いることになり, 中国東北地方の最大都市・遼寧省瀋陽市においても同様であった。本研究の目的は, 新型コロナウイルス感染症の流行により, 市民の生活習慣や環境意識がどのように変化したかを明らかにすることである。そこで, 2020年1月, 2020年7月および2021年1月に, SNSを通じて公募した瀋陽市に居住する100名に対してアンケート調査を実施した。対象者は3回の調査を通じて同一であり, 情報通信技術(ICT)リテラシーを有する50歳以上の人が主体であった。調査の結果を解析した結果, 新型コロナウイルス感染症の流行は, 市民の交通手段の選択, 調理時のマスクの着用などの生活習慣に影響した。一方, 感染症流行に伴う経済活動等の縮小によって瀋陽市の大気環境が改善され, 居住地の大気環境状況に関する不満は軽減されていた。環境汚染の原因として「環境保護への民衆の参加不足」や「環境に関する教育の不足」を指摘する人が増え, 環境保護に関する市民の意識が未だ不十分であるとの認識が浮き彫りにされた。
著者
大関 真理
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.5, pp.23-34, 1993-06-19

本稿は、日本語教育の視点からみた副詞の研究の一環として、日本語教育における効果的な副詞指導を考えることを目的に、教科書調査を行ったものである。日本語学習用初級教科書及び中・上級教科書で扱われている副詞語彙の特徴を、副詞の三分類(情態副詞・程度副詞・陳述副詞)を一つの指標にして明らかにしようとした。そして、教科書で盲点となっている副詞の機能を探り、「まったく」「もう」を例に、談話において重要な役割を果す副詞の存在を示し、辞書や教科書の意味記述との比較検討を行った。
著者
昆 恵介 春名 弘一 中井 要介 佐藤 健斗 稲垣 潤 清水 新悟 関川 伸哉
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.318-324, 2022-10-01 (Released:2023-10-15)
参考文献数
6

多くの脳卒中片麻痺者ではフォアフットロッカーが消失する.本研究では単脚支持期間中に麻痺側の踵を挙上させフォアフットロッカーを機能させるための装具(HUS-AFO)の開発と評価を目的とした.HUS-AFOは4節リンク構造を有し,MP関節より近位に位置する仮想的なロッカー軸(HUS軸)と装具側方に位置する圧縮バネによって踵挙上をアシストするものである.背屈制動機能を有する短下肢装具の靴底底面にHUSデバイスを内蔵することで,歩行中の足関節底屈モーメントを増加させ,COPの前進をアシストするとともに,MP関節より近位に位置するHUS軸を床反力作用点が超えることで,単脚支持期間中に踵を挙上させることを明らかにした.
著者
関根 佳恵
出版者
日本農業経済学会
雑誌
農業経済研究 (ISSN:03873234)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.238-252, 2020-12-25 (Released:2021-03-25)
参考文献数
52

2040年までに持続可能な社会へ移行するために,日本ではどのような農業経営体によるどのような農業を目指すべきか.そのための政策とはどのようなものであるべきか.本稿は,国連やEUにおける農業政策の新潮流と政策思想の変遷をふまえて,日本における持続可能な社会に資する新たな農業経営体像を展望するため,4つのシナリオを検討する.結論として,農業に対する新たな社会的要請に応えることができるアグロエコロジーの推進,資源・エネルギー効率性という新たな経営の評価基準で優位性を発揮する小規模・家族経営の支援,小規模・分散型の生産・消費システムの構築という政策を提示する.
著者
河西 ひとみ 船場 美佐子 富田 吉敏 藤井 靖 関口 敦 安藤 哲也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.488-497, 2018 (Released:2018-09-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

過敏性腸症候群 (IBS) と自己診断して医療機関を受療する患者の中には, 腸管ガスに困難感をもつ一群が存在する. 本稿では腸管ガスに関連する症状を主訴とする多様な病態の診断と鑑別について述べた後, それらの病態をIBS・機能性腹部膨満を中心とした機能性消化管障害・呑気症・自己臭症のカテゴリに整理し, 治療についてまとめた. 中でも治療に難渋することが多い自己臭症は, 同様の病態がolfactory reference syndrome (ORS) として海外でも報告されている. 筆者らが自己臭症について国内外の治療法の効果研究報告を調査したところ, 現時点でRCTを含む比較研究は存在しなかった. そこで, システマティック・レビューと症例報告を紹介した. それらの文献では, 薬物療法では抗うつ薬を有効とする報告が, 心理療法では行動的介入の有効性の報告が多かった. 行動的介入の有効性の報告からは, わが国で自己臭症患者に適用されてきた森田療法や, 第三世代の認知行動療法のacceptance and commitment therapy (ACT) と治療構成要素の共通性が見出される. 腸管ガスに関連する症状には, 多様な病態が関与しうる. 病態理解と効果的な治療のために, さらなる研究とエビデンスの蓄積が期待される.
著者
長田 貴之 柴山 良彦 熊井 正貴 山田 武宏 笠師 久美子 倉本 倫之介 洲崎 真吾 赤澤 茂 真栄田 浩行 坂下 智博 折舘 伸彦 本間 明宏 福田 諭 菅原 満 井関 健
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.51-55, 2012-01-10 (Released:2013-01-10)
参考文献数
14

Intractable nausea and vertigo induced by opioid treatment are occasionally difficult to treat. It has been reported that antiemetic drugs and opioid rotation may be effective in treating nausea in such cases; however, this approach has been occasionally ineffective. Symptomatic treatment has not been developed for vertigo induced by opioid treatment. Here, we report a case study where combined treatment with perospirone and a histamine H1 receptor antagonist was used in 2 patients who developed intractable nausea and vertigo induced by opioid treatment. Treatment with a histamine H1 receptor antagonist drug (tablet form, containing 40 mg diphenhydramine salicylate and 26 mg diprophylline) suppressed the nausea and vertigo. However, increasing the opioid dosage exacerbated the symptoms, and treatment involving the histamine H1 receptor antagonist and opioid rotation was ineffective. Subsequently, combination treatment with the histamine H1 receptor antagonist (3 tablets per day) and perospirone (maximum daily dose, 16 mg) improved the symptoms. The results of the present study suggest that combination treatment with a histamine H1 receptor antagonist and perospirone might improve intractable nausea and vertigo induced by opioid treatment.
著者
小野寺 誠 塚田 泰彦 鈴木 剛 三澤 友誉 上野 智史 全田 吏栄 菅谷 一樹 武藤 憲哉 反町 光太朗 伊関 憲
出版者
福島医学会
雑誌
福島医学雑誌 (ISSN:00162582)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.57-64, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
26

要旨:【目的】福島市消防本部管内における照会回数5回以上の救急搬送困難事案に対して救急専従医である地域救急医療支援講座による二次救急輪番当直支援の有用性について検討すること。【方法】2017年1月より2020年12月までの4年間に福島市消防本部管内で発生した救急搬送困難事案を対象とした。対象データは,福島市消防本部で保存している救急搬送記録簿,および地域救急医療支援講座から輪番当直支援を行っている二次救急医療機関4病院(以下,A~D病院)の救急車搬送時間記録簿から抽出した。4病院別に救急搬送数を調査し,平日で地域救急医療支援講座から当直支援を行った日(以下,支援日)と行っていない日(以下,非支援日)の二群に分け,救急搬送困難事案数および比率を検討した。【結果】調査期間内に4病院へ搬送された救急車は計34,578台,そのうち搬送困難事案数は589件(1.7%)であった。支援日と非支援日を比較すると,4病院ともに支援日での救急搬送困難事案数は少なく,比率も有意差をもって支援日で少なかった(A病院6件 vs 34件:p < 0.001,B病院7件 vs 26件:p < 0.001,C病院5件 vs 35件:p < 0.001,D病院0件 vs 28件:p = 0.025)。【結語】福島市二次救急医療機関に対する当講座の輪番当直支援は,救急搬送困難事案を有意に減少させていた。救急専従医による適切なトリアージが要因と考えられ,救急専従医が不足している地域での有用なモデルになる可能性がある。
著者
小野寺 誠 後藤 沙由里 関根 萌 鈴木 光子 菅谷 一樹 大山 亜紗美 全田 吏栄 鈴木 剛 塚田 泰彦 伊関 憲
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.633-640, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
23

目的:福島市における救急搬送困難事案の推移および原因をコロナ禍発生前後で調査した。方法:2019年度〜2021年度の間に福島市内で発生した照会回数5回以上の救急搬送困難事案を対象に,年度別に発生数,事故種別,照会時間帯(平日日勤帯,平日夜間帯,土日祝日),医療機関の断り理由を検討した。結果:発生数は71件/82件/193件と2021年度で有意(p<0.001)に増加していた。事故種別検討では一般負傷が19 年度と比較して2021年度で有意(p<0.001)に多く,照会時間帯別にみると平日日勤帯の割合が2019年度と比較して2021年度で有意(p<0.001)に多かった。断り理由別では「ベッド満床」が2021年度で,2019年度, 2020年度と比較して有意(それぞれp<0.001,p<0.001)に多かった。結論:コロナ禍では需要と供給の両輪に対応可能な救急搬送システムを立案し,回復期・慢性期施設を含めた地域連携を構築することが重要と思われた。

1 0 0 0 関孝和全集

著者
[関孝和著] 上野健爾 [ほか] 編
出版者
岩波書店
巻号頁・発行日
2023
著者
鈴木 良弥 川隅 里奈 関口 芳廣 重永 実
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.51, pp.21-26, 1995-05-25
参考文献数
6

話し言葉中では助詞の省略,曖昧な発声などが頻繁に起こる.従って,話し言葉の認識や理解を行なうには助詞の推定を行なう必要がある.我々は朗読文用連続音声認識システムをすでに作成しているが,そのシステムの助詞推定能力を人間と比較した.まず,話し言葉(対話文とスピーチ)中の各助詞の出現回数などを調べた.その結果,良く使われる助詞は対話文でもスピーチでもほとんど同じであることがわかった.また認識システムの出力と学生73人にアンケートを行なった結果とを比較した.実験により,学生が作成した文の約94%をシステムが生成し,システムが作成した候補文の約3%を学生が作成したことを確認した.We are trying to make our speech recognition system to correspond to spoken dialogue. First, we investigated the frequency of each particle in some dialogues and speeches, and we registerd 29 frequently used particles to our system. Second, We sent out a questionnaire to 73 students in order to compare with the performance of estimation of particles by the linguistic processor (case structures, syntactic rules, and so on) of our speech recognition system. According to the comparison, our system can generate most of sentences which students can think out.
著者
大関 誠 中村 聖三
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集 (ISSN:24359262)
巻号頁・発行日
vol.2, no.J2, pp.97-102, 2021 (Released:2021-11-17)
参考文献数
41

各種業務の効率化や高度化の観点から,土木工学分野でのAI研究および活用が進められている.画像から損傷の判定や領域の抽出を行うアプリケーション等,維持管理分野において様々な研究がなされて既に実用化されている技術がある一方,AI活用が期待されているものの研究自体があまり進んでいない分野も存在する.本稿では,AIの適用対象を鋼構造に限定し AI活用の現状と課題,および展望と期待を述べる.AI活用の現状と課題では,土木分野全般におけるAI活用事例やコンクリート部材を対象とした事例と比較することで,鋼構造におけるAI活用状況を整理する.展望と期待では,様々な分野でのAI活用事例を参照し,鋼構造でのAI活用の方向性の検討や活用を進める上で関連しうる技術,検討活性化に向けたアイディアを提示する.
著者
新保 弘 尾関 智子 溝渕 利明 野嶋 潤一郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集 (ISSN:24359262)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.337-343, 2023 (Released:2023-11-14)
参考文献数
10

調査点検の生産性向上に向けた打音検査の自動化や機械化には,まず打音評価の定量化が必要である.短時間フーリエ変換等により時間-周波数領域で画像化した打音データをCNN(Convolutional Neural Network)により教師あり学習させることで,健全部と欠陥部の打音を精度よく分類することは可能であるが,部材の特性や環境が異なると分類性能が低下する.ここでは画像化した打音について学習したCNNを特徴抽出器としてのみ利用し,テストサイトの健全打音データの特徴ベクトルから同サイトのテスト打音の特徴ベクトルをマハラノビス距離により評価する方法を提案・検証した.その結果,提案手法により条件の異なるサイトでも健全データからのマハラノビス距離により健全度を定量的に評価できる可能性を示した.
著者
田村 誠朗 北野 将康 東 幸太 壷井 和幸 安部 武生 荻田 千愛 横山 雄一 古川 哲也 吉川 卓宏 斎藤 篤史 西岡 亜紀 関口 昌弘 東 直人 角田 慎一郎 細野 祐司 中嶋 蘭 大村 浩一郎 松井 聖 三森 経世 佐野 統
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.450-455, 2017 (Released:2018-01-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

症例は65歳女性.X-17年に間質性肺炎合併多発性筋炎と診断されステロイド薬が開始.X-8年に関節リウマチを合併しタクロリムス(Tac)が併用となっていた.X年2月上旬から全身倦怠感と高血圧が出現,さらに血液検査で,血小板減少,溶血性貧血,破砕赤血球,LDH高値,高クレアチニン血症を認めたことから,血栓性微小血管障害症(TMA)と診断.TMAの原因としてcalcineurin inhibitor(CNI)腎症を疑い,Tacを中止し血漿交換を開始した.以降,破砕赤血球は消失し,血小板減少,溶血性貧血は改善したが,高血圧,腎機能低下が遷延したため腎生検を施行.その結果はTMAの病理組織像であった.ただしCNI腎症としてはTacの血中濃度は既存の報告と比較し低く,また薬剤中止後も腎機能低下が遷延していた点が非定型的であった.後に抗PL-7抗体が陽性であることが判明.本症例は強皮症の診断基準は満たさなかったが,同抗体陽性例では強皮症を合併したとする報告がある.すなわち潜在的な強皮症素因を背景にCNI腎症が重篤化した可能性が示唆された.抗PL-7抗体陽性の患者にTacを投与する際はTMAの発症に十分留意する必要がある.
著者
丸山 浩平 足立 遼子 関谷 潔史
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.248-255, 2022-11-25 (Released:2023-05-25)
参考文献数
25

COVID-19へのBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種による感染および発症予防効果が示されているが,これらの効果は経時的な低下が報告されている.一方で,接種後の抗体価は感染予防効果との相関が示唆されているが,接種後から長期間経過した時点での抗体価に影響を与える要因の報告は少ない.我々はBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種後の職員に抗体検査を実施し,6か月以上経過している場合の,抗体価に影響を与える要因について後ろ向き観察研究を行った.このうち過去にCOVID-19罹患が判明している職員,問診票による情報収集ができなかった職員は除外した.本研究において,2回目接種から6か月以上経過している場合,抗体価が大幅に低下していることが判明した.さらに,6か月以上経過している医療従事者において,単変量解析では年齢,性別,降圧剤の使用が抗体価に影響を与える要因とされ,多変量ロジスティック回帰分析では年齢のみが抗体価に影響を与える要因とされた.年齢については本邦だけではなく,海外からの報告でも抗体価に影響を与える要因とされている.本研究の結果より,ワクチン2回目接種から6か月以上経過している場合,高齢者においては時間経過によるワクチン抗体価の低下が若年層に比べて,より顕著であり,このことは高齢者において,ワクチンによる感染予防効果が時間的な影響をより受けやすいことを示唆していた.
著者
関本 美貴
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.138-146, 2019-06-05 (Released:2019-06-21)
参考文献数
28
被引用文献数
1

ジャガイモは明治時代以降急速に普及が進んだ作物であり,現在はイモ類の中でもっとも多く食べられている。本研究では,ジャガイモの普及に関わる要因を生活者の視点から明らかにすることを目的に,大正末期から昭和初期の食生活におけるジャガイモの位置づけについて調査を行った。 資料として「日本の食生活全集都道府県別編纂全50巻」およびそのCD-ROMを用いた。資料よりジャガイモに関する記述を収集し,その特徴により分類を試みた。 ジャガイモの食生活上の位置づけは,洋風料理の材料,穀物の代用,小昼やおやつの材料,汁の実,煮物の材料と多岐にわたっていた。また地域によって位置づけは大きく異なり,自然環境やジャガイモ利用の歴史が関与していたことが示唆された。ジャガイモの優れた調理上の特性が各地の料理に生かされており,これが食品材料としてジャガイモが普及した要因の一つであると推察した。
著者
中島 功 大塚 洋幸 市村 篤 本多 ゆみえ 梅澤 和夫 関 知子 中川 儀英 猪口 貞樹
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.219-224, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
5

家禽や野鳥が保有する低病原性鳥インフルエンザウイルスであってもヒトが死に至る例が報告されており, これまで定説となっていた豚由来のウイルス感染とは違うルートが推測される。鳥からヒトへの感染に関する最近の文献調査, およびモンゴルへの調査視察を踏まえ鳥から直接感染するインフルエンザの動向を本稿では報告する。アザラシのインフルエンザ, 日本のイノシシのインフルエンザ, 豚便所, 北米大陸における豚のインフルエンザ, H7N9の動向, スペイン風邪, シアル酸レセプタなどを文献調査した。その結果, ヒト側の遺伝子の発現の仕方の違い (シアル酸レセプタ), ウイルス側遺伝子再集合, RNAポリメラーゼの読み違いなどにより, 鳥型インフルエンザが直接ヒトに感染し, 重篤な症状を引き起こす可能性がある。臨床医としてこれらの報告を鑑み, 患者の感染ルートには常に十分な注意を払うべきと考える。