著者
田中 里美
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.129-150, 2020

福祉供給における公的責任の大きさによって特徴づけられてきた北欧型福祉国家におい ても、その成立を支えた条件の変化に伴い、市場化を含む制度改変が行われ、財政の健全 化と福祉供給の維持、効率化と平等の両立、さらには選択の自由の拡大が目指されている。 北欧型福祉国家に分類されるフィンランドでも、社会福祉、医療保健サービスの分野では、 民間、非営利組織の利用が進んでいる。一方、学校教育に関しては、私立学校は例外的な 扱いに留まり、自治体が財政、供給を担う公教育中心の体制が続いている。この体制の下、 1990年代の不況期以降、自治体による学校(とくに日本の小・中学校に相当する総合基 礎学校)統廃合の決定が相次いでいる。多くの地域で、私立学校化による学校の維持存続 の試みがとん挫する中、総理府の実験プログラムを利用し、公教育の枠組みの下で、地域 住民が社会的企業を立ち上げ、コミュニティ組織、地域の企業をつなぎつつ、自治体のパー トナーとして学校を維持する試みが、中央ポホヤンマーマークンタ、カンヌス市エスコラ 地区で行われている。この事例は、フィンランドの総合基礎学校が、1970年代の発足以来、 堅持してきた教育機会の平等の理念とともに、学校に対する地域ごとに多様なニーズに対 応する制度に変化するかを見る上で、重要な意味を持っている。
著者
鈴木 仁美 大西 一雅
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1981, no.7, pp.1117-1120, 1981
被引用文献数
1

ジクロロメタン中でビス(ペンタメチルベンジル)セレニドに硝酸(d=1.5)を作用させると,還元的な開裂が起こり,単体セレンを分離してペンタメチルベンジルニトラートがほぼ定量的に生成する。ビス(p-クロロおよびp-ニトロベンジル)セレニドの同様な反応では,炭素-セレン結合の開裂はみられず,セレン原子が酸化されて,対応するセレノキシドが得られるが,芳香環のニトロ化はみられない。ジベンジルセレニドと硝酸の反応では,セレノキシドの硝酸塩が水溶性の白色結晶として得られる。一連のビス(置換ベンジル)セレニドについて,その反応形式におよぼす置換基の顕著な効果を検討し,それぞれの反応過程について考察した。
著者
長岡 正利
出版者
日本地図学会
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.31-32, 1991-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
5
著者
佐藤 光 師橋 辰夫
出版者
Japan Cartographers Association
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.11-30, 1989-09-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
15
著者
庵 功雄
出版者
日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
no.86, pp.p52-64, 1995-07

願望文の目的語の格標示には「水が飲みたい/水を飲みたい」のように2つの可能性がある(この現象を「ガ―ヲ交替」と呼ぶ)。しかし,実例における分布やその他の考察を行うと,実際にはガは極めて限られた語嚢・構文上の環境にしか現れないことが分かる。本稿ではこの構文における無標の格標示をヲと考え,有標であるガが現れることができない環境を記述した。その結果,この現象には「典型性」と「他動性」という2つの要因が関与していろことが分かった。この2つの概念を導入することで,単純形だけでなく,複合形におけるガとヲの分布も説明できるのである。
著者
鈴木 涼太郎
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.141-154, 2019 (Released:2021-09-30)

本稿では、新潟県佐渡島の伝統芸能・鬼太鼓を事例に、民俗芸能を介した体験・交流プログラムにおける観光経験について考察する。佐渡島は全国的な知名度を誇る民謡・佐渡おけさや能、世界的太鼓集団「鼓童」の存在によって「芸能の島」とも称されている。そのなかで鬼太鼓は、全島の集落で広く伝承されている芸能であり、佐渡の観光宣伝の文脈では戦前から島を代表する伝統文化として位置づけられてきた。佐渡市高千地区では、毎年8月13日に「夏の彩典たかち芸能祭」というイベントが行われている。このイベントでは2009年より神奈川県の大学生が参加する芸能体験プログラムが行われており、学生たちは約1週間高千地区に滞在し、集落に伝わる鬼太鼓を学び芸能祭本番では伝承者とともに観衆に向けて披露する。このプログラムを対象に筆者が2009年以来行ってきたアクション・リサーチから明らかになったのは、民俗芸能という身体技法の習得をともなう交流プログラムにおいては、束の間の「師匠と弟子」の関係が構築されるということである。さらに参加学生が伝承者とともに鬼太鼓を披露して地域の人々や観光客に「観られる」側となる状況では、「地域文化観光」論で指摘されているような真摯な交流がもたらされ、観光者としての参加者が実存的真正性を経験することが可能になる。だが同時に重要なのは、そのような真正な経験が、このプログラムが管理された団体旅行であり、受け入れる地域と参加する学生にとって「一時的な楽しみ」であることによって支えられているという点である。
著者
前田 充紀 近藤 民代
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
日本都市計画学会関西支部研究発表会講演概要集 (ISSN:1348592X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.125-128, 2021 (Released:2021-07-24)
参考文献数
7

本研究の目的は、定額住み放題サービスを利用した多拠点生活者の居住動態パターンと要求、その生活がもたらす利点にはどのようなものがあるのかを明らかにすることである。多拠点生活をホーム・定額住み放題サービス利用の有無から4 つに分類した。定額住み放題サービスの主要事業者であるADDress の会員を分析対象とし、住居や仕事場、サービスの利用状況から考察した。定額住み放題サービスを利用し生活する目的は自然の豊かな場所で過ごすことに加えて快適な環境でリモートワークをすることである。さらに、拠点や多拠点生活が魅力に感じるかどうかは家守や他のHS 利用者などの人と出会いどのように関わるかが影響する。
著者
田中 丹史
出版者
国立大学法人 東京医科歯科大学教養部
雑誌
東京医科歯科大学教養部研究紀要 (ISSN:03863492)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.33-47, 2017 (Released:2018-11-18)

日本では脳死・臓器移植をめぐって激しい論争が起こったが、定義としての脳死に関しては生命倫理の中で議論がなされない状況が続いた。例えば日本医師会生命倫理懇談会は、「死の自己決定権」という概念を導入し、脳死が人の死であるかどうかを個人の判断の問題とした。また生命倫理研究会・脳死と臓器移植問題研究チームは脳死を人の死であるか否かという問いを回避しつつ、臓器移植法の試案を発表した。しかし臓器移植法の改正をめぐる論議において発足した生命倫理会議は、法の改正を批判したばかりではなく、まさに定義としての脳死そのものを問い返すことで従来の生命倫理の活動の在り方自体をも批判したと言える。国際的にも定義としての脳死を再考する動きがあり、こうした議論が日本の生命倫理の中でさらに展開されることが望まれる。
著者
川上 紳一 三谷 弘敏 長谷川 司 上田 康信
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.1-6, 2003
参考文献数
3

小学理科「月と星」,中学理科2分野「地球と宇宙」の単元における,人工衛星の観測を取り入れた新しい指導法を提案する.人工衛星の観測を行うには,人工衛星の到来時間,飛行経路などの情報が必要であり,そうした情報を提供したホームページ「人工衛星観測ナビゲータ」を開発し,公開した.このウェブサイトでは,肉眼で見える人工衛星の種類やその業務内容,明るさに関する観測データを紹介している.児童・生徒に配布するためのワークシート画面があり,プリントしたものをトレーシングペーパーでなぞることで,目印となる星座や天体の配置に慣れることができる.実際に夜空を見上げて人工衛星を見つけることで,児童・生徒ひとり一人が星座学習の授業の達成感が高まる点に特色がある.
著者
小山 誠次
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.469-475, 1996-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

帰脾湯及び加味帰脾湯の出典について論考した。今日一般的に帰脾湯は人参, 白朮, 茯苓, 竜眼肉, 酸棗仁, 黄耆, 遠志, 当帰, 木香, 甘草, 生姜, 大棗と処方される。『済生方』の帰脾湯には当帰, 遠志が配合されず,『玉機微義』では『済生方』処方に当帰を加味した帰脾湯が記載され,『薛氏医案』中の諸書では更に遠志も加味した処方が記載されている。一方, 加味帰脾湯は『薛氏医案』中の諸書にあっては, 柴胡, 山梔子加味の処方, 柴胡, 牡丹皮, 山梔子加味の処方, 牡丹皮, 山梔子加味の処方の3種類が記載されている。いずれも我が国で江戸時代の通用処方書に採用されていたが, 今日では柴胡, 山梔子の加味方が最も多く処方される。これは恐らく『勿誤薬室方函』及び『勿誤薬室方函口訣』の影響によるものではないかと思われる。総じて, 出典としては帰脾湯も加味帰脾湯も共に『済生方』,『玉機微義』,『薛氏医案』をもって充てるのが順当である。
出版者
日経BP ; 1985-
雑誌
日経マネー (ISSN:09119361)
巻号頁・発行日
no.451, pp.108-111, 2019-12

2019年9月、千葉の幕張メッセで「東京ゲームショウ2019」が開催された。再び個人投資家の資金でにぎわい始めているゲームセクター。何か投資のヒントは見つからないか。個人投資家の夕凪さんとおけらさんの力を借りて東京ゲームショウ・ウォークしてみた。
著者
Kaisei Sato Hikaru Okubo Shouhei Kawada Seiya Watanabe Shinya Sasaki
出版者
Japanese Society of Tribologists
雑誌
Tribology Online (ISSN:18812198)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.178-191, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
66
被引用文献数
5

Ionic liquids (ILs) are being considered as novel lubricant additives to improve the friction and anti-wear characteristics of sliding surfaces. Because ILs consist of only cations and anions, their physical and chemical properties can be easily tailored by modifying their combination. These features enable to design of specific ILs for a given tribological system. However, there are few reports on the effect of ILs used as lubricant additives on the friction and anti-wear characteristics of sliding surfaces. Moreover, it is necessary to investigate the synergism between ILs and other lubricant additives to achieve high practical efficiency. Therefore, in this study, two ILs with different cations but similar anions were used in combination with an anti-wear additive, zinc dialkyldithiophosphate (ZDDP), and the resultant wear and friction characteristics of the worn surfaces were analyzed. We found that the tribological performance under steel/steel sliding conditions was dependent on the chemical composition of the ILs. In addition, mixed ZDDP and IL solutions exhibited lower friction and wear when compared to ZDDP alone. It is considered that the excellent lubrication and frictional performance observed with the mixed lubricant solutions is due to the formation of tribofilms comprising of ZDDP and IL on the sliding surface.
著者
森脇 広 永迫 俊郎 鈴木 毅彦 寺山 怜 松風 潤 小田 龍平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b> </b></p><p><b>はじめに:</b>南九州・南西諸島の古環境と文化の諸要素の高精度編年を進めている.今回は南西諸島の喜界島のテフラと古砂丘を取り上げる.喜界島は全島がサンゴ礁段丘からなる.段丘は多くの年代測定が行われ,最終間氷期MIS 5eの段丘面が標高200mに達し,日本では隆起量が最も大きいことで知られる.このため,最終氷期の亜間氷期MIS 3の段丘面群(上位からD面,E面,F面:太田・大村,2000)が高度90m~15mで,現在の陸上に広く出現している.</p><p></p><p><b> </b>砂丘は喜界島南西部のMIS 3の段丘地帯を広く覆う.それらは,現在の海岸近くにある完新世の砂丘,内陸のMIS 3面上に分布する更新世の水天宮古砂丘(角田,1997)からなる.その地形や堆積物,形成時期について,古くから関心が持たれてきた(三位・木越,1966;武永,1968;成瀬・井上,1987など).</p><p></p><p> 最近,水天宮砂丘地帯において,広範囲の耕地整理工事がなされ,砂丘の地形と堆積物の全体的な様相が明らかとなってきた.この報告では,水天宮古砂丘の分布と堆積物の構造,テフラの同定・編年,及び<sup>14</sup>C年代資料に基づく古砂丘の編年と形成を検討する.</p><p></p><p> <b>テフラ</b>:喜界島のテフラについては,同定や層序,年代などまだよくわかっていない.今回の調査で,9枚のテフラを見いだした.このうち2枚は,バブルウォール型の火山ガラスを豊富に含むガラス質火山灰で,上位はK-Ah, 下位はATに同定される.他の7枚は斑晶や微細軽石に富む淡褐色火山灰で,ここでは,上位からKj-1〜Kj-7と名づける.鉱物は斜方輝石,単斜輝石,角閃石,磁鉄鉱,チタン鉄鉱,長石,石英で,スコリアを含むものもある.全体として特徴的に高温石英を含む.それらの鉱物の含有の有無・度合い,層相・層位などからそれぞれのテフラの識別が可能で,南西諸島の島々やトカラ列島の諸火山でこれまで知られているテフラに一部対比可能なものもみられる.ATはKj-6とKj-7の間にある.K-AhとKjテフラ群との層位関係は同一露頭断面で直接確認できないが,土壌の厚さなどから,K-AhはKjテフラ群より上位にあるものと推定される.</p><p></p><p><b> 砂丘の地形と堆積物:</b>これまで水天宮古砂丘は,喜界島南西部の孤立した丘陵一帯を広く構成しているとされてきた.しかし今回の調査で,水天宮古砂丘とされる丘陵の南半部のほとんどは基盤のサンゴ石灰岩からなるD面,E面で,砂丘はこれらの段丘面を部分的に覆っているにすぎないことが明らかとなった.南半部では,段丘崖や崖上にリッジ状に分布しており,当時の海岸沿いに形成されていったことを示す.</p><p></p><p> 一方,北半部は最大20m以上に及ぶ厚い砂丘堆積物が全体を覆う.部分的には膠結砂丘砂からなっている.この中には少なくとも2枚の土壌が挟まれる.砂丘地形は南北に細長い谷を挟む砂丘列をなす.テフラと下記の<sup>14</sup>C年代は,谷と砂丘の形成期はほぼ同じであることを示す.したがって,谷は砂丘形成後の侵食によってできたものではなく,砂丘形成時の凹地として形成されたもので,水天宮北側の砂丘列は縦列砂丘として形成されたと解釈される.いくつかの地点での堆積物の層理の走向も,この砂丘列の方向と調和し,北方の海岸からの砂の運搬・供給を示す.この水天宮古砂丘はMIS 3段丘群最下位のF面の北端まで続き,この付近の海浜からの砂の供給によって形成されたことを示す.</p><p></p><p> <b>砂丘の編年と形成</b>:古砂丘堆積物を覆う土壌中に認められる上記テフラのうち,もっとも古いのはATである. Kj-7は現在のところ認められない.北半部の厚い砂丘堆積物上部から得られた陸生貝化石の<sup>14</sup>C年代は33,000〜34,000 cal BPを示し,テフラ編年と整合する.ATの層位とこの年代からみて,水天宮古砂丘の主要部をなす北半部の古砂丘は,MIS 3後期の3.5万年前前後に形成されたものと考えられる.段丘面との関係,テフラ,<sup>14</sup>C年代を総合すると,水天宮古砂丘は,MIS 3前期は当時の海岸縁辺に小規模な砂丘が形成され,後期になると,北側の海岸からの砂の供給による大規模な砂丘形成があったと考えられる.</p>