著者
中村 要介 池内 幸司 阿部 紫織 小池 俊雄 江頭 進治
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.I_1177-I_1182, 2018
被引用文献数
1

本研究は平成29年7月九州北部豪雨を一例とし中山間地河川である花月川を対象として,RRIモデルと解析雨量・降水短時間予報を用いた疑似リアルタイム環境での洪水予測シミュレーションを実施した.予測計算は流域・河道の状態量を30分毎に更新・保存しながら6時間先までの水位を逐次計算し,実績水位と予測水位の差から洪水予測に内在する予測時間毎の水位誤差を定量的に評価した.その結果,予測時間が長くなるほど予測水位誤差の幅が大きくなることがわかった.また,RRIモデル×降水短時間予報を用いた今次災害のリードタイムは70分であった.さらに,予測水位の誤差分布を考慮し予測水位を補正することで,補正しない場合より2時間早く氾濫危険水位の超過を予測できる可能性が示唆された.
著者
中村 覚
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.155-158, 2019-03-15 (Released:2019-06-01)
参考文献数
5

本研究では、『捃拾帖』の内容検索を可能とするシステムの開発事例について述べる。『捃拾帖』とは、明治時代の博物学者である田中芳男が収集した、幕末から大正時代にかけてのパンフレットや商品ラベルなどを貼り込んだ膨大なスクラップブックである。東京大学総合図書館はこれらの画像を冊単位で公開しているが、貼り込まれた資料単位での検索が望まれていた。この課題に対して、本研究ではIIIFのアノテーション機能を利用し、各頁の貼り込み資料単位で画像を切り出し、検索可能なシステムを開発した。また、東京大学史料編纂所の「摺物データベース」が提供する、貼り込み資料単位のメタデータと組み合わせることで、内容情報に基づく検索を可能としている。本研究はその他、複数の機関が提供する各種リソース(IIIF・オープンデータ)を組み合わせて利用している点に特徴があり、デジタルアーカイブの利活用を検討する上での一事例として機能することを期待する。
著者
酒井 直樹
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.11-22, 2016-06-30

アジア太平洋戦争後の東アジアで、日本はアジアの近代化の寵児とみなされ、アジアで唯一の先進国と呼ばれてきた。冷戦秩序下のパックス・アメリカーナ(アメリカの支配下の平和の意味)で日本は、東アジアにおけるアメリカ合州国の反共政策の中枢の役割を担い、「下請けの帝国」の地位を与えられ、経済的・政治的な特別待遇を享受してきた。日本研究は、この状況下で、欧米研究者による地域研究と日本人研究者の日本文学・日本史の間の共犯構造の下で、育成されてきたと言ってよい。「失われた二十年」の後、地域研究としての日本研究も日本文化論としての日本研究も根本的な変身を迫られている。それは、東アジアの研究者の眼差しを無視した日本研究が最早成り立つことができないからで、これまでの日本文化論に典型的にみられる欧米と日本の間の文明論的な転移構造にもとづく日本研究を維持することができなくなってきたからである。これからの日本研究には、合州国と日本の植民地意識を同時に俎上にあげるような理論的な視点が重要になってきている。
著者
辻村 みちよ
出版者
日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, 1955-06
著者
荒井 祐介 若林 憲一 吉川 雅英 奥 寛雅 石川 正俊
出版者
一般社団法人 日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.1028-1035, 2013 (Released:2014-01-15)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

Recently, flagella and cilia have gathered attension since their important role in mammal cells and relation to genetic diseases of human were revealed. Chlamydomonas is one of the model organism of flagella and phototaxis research. The purpose of our research is to track a freely swimming individual Chlamydomonas cell to observe its flagella and whole body movement with dark field microscopy to investigate the phototactic reaction of Chlamydomonas. In this paper, a method for three-dimensional tracking of Chlamydomonas using high-speed visual feedback in dark field microscopy is proposed. The method was implemented to an existing microscope tracking system. It demonstrated successful three-dimensional tracking of a swimimng Chlamydomonas for several tens of seconds. The precisions of the 3D position measurement were estimated as ±1[μm] (XY) and ±10[μm] (Z).
著者
塚田 幸広 長澤 光太郎
出版者
一般財団法人 運輸総合研究所
雑誌
運輸政策研究 (ISSN:13443348)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.029-035, 2009-04-21 (Released:2019-05-31)
参考文献数
20

道路政策の分野では有料道路料金割引施策やスマートICなど,全国的な社会実験が多く行われており,各社会実験の事例ではそれぞれ地域住民等の参加を得つつ,地域の実情に応じて施策の内容や方法に工夫が加えられるなど,PDCAサイクルで事業が改善されている.学会でも,これらの社会実験から得られた知見に基づいた様々な研究事例が報告され始めた.本報告では,有料道路料金割引の社会実験を一つの例として,その普及の経緯を概観し,分析事例を紹介する.その上で,①社会実験の特徴と成立要件,②時間管理手段としての社会実験の特徴,③社会実験が社会基盤の政策マネジメントに果たす役割,の3点について考察を加えた.
著者
林 隆二 伊藤 琴音 南 太貴 乙倉 孝臣 山内 尚子
出版者
京都産業大学
雑誌
高等教育フォーラム (ISSN:21862907)
巻号頁・発行日
no.3, pp.59-64, 2013-03-31

2012年6月29日に、ハーバード大学マイケル・サンデルの教授法を題材に、燦結成1周年記念イベント「京都産業大学にとって白熱教室とは?」を、学生FDスタッフ「燦(SAN)」の企画運営により実施した。質の高い学士課程教育が求められる中で、学生の主体的な学びをどう促すか、マイケル・サンデルのような大人数による双方向型授業を導入することにより、教員は教授法をどのように工夫しなければならないのか、履修する学生の姿勢はどう変わらなければならないのか、参加した学生・教員・職員はどう変わろうと思ったのか。本稿では、燦の企画から終了後の振り返りまでの活動記録と、今後の課題と展望について報告する。
著者
坂本 尚史 妹尾 護
出版者
岡山理科大学
雑誌
岡山理科大学紀要 A 自然科学 (ISSN:02857685)
巻号頁・発行日
no.24, pp.p75-82, 1988

Ultramafic inclusions were found in high magnesian andesite at Dogo, Matsuyama City, Ehime Prefecture, Southwest Japan. They are classified into two types, from the texture and chemical composition of minerals ; type-1 and type-2. Type-1 inclusion is harzburgite, characterized by the presence of Al-rich spinel. Type-2 inclusion is composed of dunite and harzburgite, with Cr-rich spinel. Olivine fabric patterns of the inclusions exhibit high concentration of X and Z axes, which differ from those of cumulate rocks. It seems that the textural development of the inclusions occurred through deformation process. Petrographical evidence supports this. Dislocation structure of olivine from the inclusion was examined. The dislocation density of olivines for type-2 inclusion falls into the range of 1×10^7 to 5×10^7cm^<-2> . The subgrain size of olivines from type-1 and type-2 inclusion has narrow range from 20 to 35μm. Considering the rate of stress-responce of dislocation density, subgrain size and grain size, it is concluded that type-1 inclusion deformed in nearly steady-state creep, whereas type-2 inclusion deformed in transient creep.
著者
尾崎 孝宏
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.505-523, 2020

<p>本論は中国内モンゴル自治区中部における「旅游点」で展開されるエスニックツーリズムを事例に、筆者の実食データと対照させつつ、トランスカルチュラル状況の食文化の在り方について考察を加えることを目的とする。内モンゴルの旅游点で提供されるものは、食を中心としたエスニックツーリズムである。旅游点で提供される歌舞やアトラクションは、中国におけるエスニックツーリズムの大規模拠点である民族テーマパークにおける表象と連続性が見出される。一方、旅游点における食は、基本的にはと畜直後のヒツジの内臓と肉を塩ゆでで提供するという、モンゴル族の牧畜民における宴席の延長線上に位置づけることが可能である。メニュー構成の調節においてはゲストの嗜好性が反映されている一方、すべてを観光の場や漢族の眼差しに帰することは不適切である。例えば乳製品の抜絲(飴がけ)は、都市のモンゴル料理店で一般的に提供される。また、内モンゴルの内外で提供されるメニューがモンゴル料理店のメニューに取り込まれる過程にも、漢族との関係性への考慮は特に必要ない。エスニックツーリズムには異文化接触における身体性の適度な調節が不可欠である。内モンゴルの旅游点で出されるメニューに対してゲストが抱く安心感は、旅游点を訪れたゲストの直接的な経験とは切り離されているものの、都市のモンゴル料理店およびモンゴル族を中心としたその顧客を経由して構築されている。</p>
著者
大西 宏一郎
出版者
大阪工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、特許の書誌情報を用いて3つの分析を実施した。第一に、発明報奨制度の導入・改訂が企業の研究生産性に与える影響を分析した。第二に、発明者レベルの発明履歴データを用いることにより、企業内研究者の学歴と発明生産性の違いを見ることで、課程博士教育の効果について検証した。第三に、燃料電池分野における企業間・産学官の共同研究の実施状況および成果の権利配分の状況について分析した。
著者
岸本 真弓
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.31-37, 2002-03
被引用文献数
6

生態系を構成する野生動物に対しての畏敬の念を持つことがフィールドでの野生動物捕獲の心構えの基本である。野生動物の捕獲はそれによってもたらされるマイナス影響につりあうだけの結果が得られる場合にのみ認められるものであり,明確な目的のないまま行われてはならない。先人達の経験を生かし,対象動物の生理・生態のみならず地域生態系の特性をも踏まえ,研究計画を立てなくてはならない。方法を選択する場合には,個体の安全,作業員の安全,周辺環境への最低限の影響を念頭におき,目的を達成するために最小の危険性で最大の効果が得られるよう手段と時期と場所を選ぶことが重要である。捕獲作業における責任の所在と役割分担を明確にし,作業工程のシミュレーションをし,最低限必要な道具や薬品,人手の準備だけでなく予測されるトラブルに対応できる準備をして捕獲に臨むべきである。
著者
北 洋輔
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3+4, pp.115-120, 2016 (Released:2017-03-25)
参考文献数
19

【要旨】自他識別は、相互コミュニケーションや感情理解などの高次の社会性が発達する上で重要な基礎である。これまで社会性の障害と称される自閉症スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders:ASD)の病態解明の手がかりとして自他識別に着目してきており、その研究の一端を紹介する。顔刺激を用いた自他識別の検討では、ASD児において右側下前頭回の機能低下が示された。また、社会性の障害が重いほど同領域の活動が低下しており、自他識別の認知プロセスの特異性が、社会性の障害に関連する可能性が示唆された。更に、この特異性の背景の一つとして、他者に対する自発的注意や初期選好を検討したところ、ASDでは社会的刺激に対する選好が乏しいことが示された。これらから、ASD児は他者に対する初期選好の乏しさから、自他識別の経験の喪失につながり、自他識別の未成熟や特異性といった非定型な発達過程を辿っているものと仮説立てられた。今後はASDの社会脳の特異性を発達の観点から更に検討し、治療などの実践的応用につなげることが求められるであろう。