著者
経塚 淳子
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、イネの花序形成においてメリステムの相転換を制御する遺伝子ネットワークに関する知見を得ることを目的とした。シロイヌナズナUFOのオーソログABERRANT PANICLE ORGANIZATION1 (AP01)は、UF0とは逆に、花メリステムへの転換を抑制し(Ikeda et al. 2007)、この効果はAP01発現量に依存する。また、生殖成長転換時に起こるメリステムサイズの急激な増加もAP01に依存する。これらから、AP01が、メリステムでの細胞増殖の制御を介して花メリステムへの相転換を抑制すると考え、解析を進めることにした。今年度は、RCN(イネTFL1)がAP01の下流で働き、メリステムでの細胞増殖を促進することを示した。また、RFL(イネFLORICA/LFY)がAP01と相互作用すること、AP01機能にはRFLが必須であることを確認した。AP01、RFLは生殖成長転換直後にSAM全体で発現を開始する。同様の発現パターンを示す遺伝子群に関する情報を得て、それらの機能解析を開始した。イネの花芽運命決定遺伝子を単離し、これがOsMADS34とよばれるSEPファミリー遺伝子をコードすることを明らかにした。LOGのSAM先端での発現に必要なシス配列は翻訳開始点より上流5kbまでには存在せず、翻訳開始点と第3イントロンの間に存在することを明らかにした。
著者
和辻 直 関 真亮 斉藤 宗則 篠原 昭二 有田 清三郎
出版者
明治鍼灸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

医療分野で伝統医学(東洋医学)の診察法を活用していく上で最大の課題は、東洋医学の診察法の有用性を明らかにすることである。そこで、東洋医学の診察法を応用した健康支援システムを構築する試みとして、東洋医学の診察法と客観的測定結果を比較し、その有用性を検討した。方法は本研究に同意を得た成人6名を対象に、個々の体調変化をみるために、2週間に計6回、午後に調査した。調査項目は(1)東洋医学の診察は、診察者が顔面診、舌診、声診、問診、脈診を行った。(2)客観的測定は、顔面情報にはサーモグラフィを用いて顔面皮膚温を測定した。また舌情報を画像記録し、舌診断システムにて判断した。音声情報では音声をレコーダーに記録し、音声解析ソフトにて解析した。同時に発話音声解析システムを用いて疲労状態を計測した。さらに生理学的検査は、安静仰臥位の姿勢で瞬時心拍とR-R間隔変動を30分間連続測定した。(3)体調の把握として東洋医学健康調査票(57項目)、健康関連QOL尺度のSF-8を行った。結果は、顔面診の結果と顔面皮膚温の低温部との一致率が約8割と高かった。声診の結果と音声解析の結果に関連を認めなかったが、音声の基本周波数は東洋医学健康調査票の気虚(R=0.59,p<0.0001)や虚証などの項目と相関した。システムの一部となる舌診断システムは東洋医学健康調査票との関連が少なく、別の視点で体調変化を捉えていた。東洋医学健康調査票の心(R=0.59,p<0.0001)、肺、陽虚などの項目は心拍数に相関を示した。また東洋医学健康調査票の虚証(R=0.54,p=0.001)や全体点数などの項目はSF-8身体的サマリースコアに相関を示した。なお発話音声解析システムは解析中である。顔面や舌、音声情報や東洋医学健康調査票の結果は、いずれも個人の体調変化を捉えていたが、密接な関連が少なかった。東洋医学は各診察情報から総合的に判断するために、各診察情報を統合し、その情報の特徴を抽出することで、個人の体調変化を捉える健康支援システムが構築できる可能性が示唆された。
著者
新田 玲子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

ポストモダンの作家は、現実の芸術化に過度に傾き、歴史的・社会的関心や道徳的責任が欠如しているとされてきたが、ホロコーストの影響を強く受けたポストモダンのユダヤ系作家は、同様の影響を受けたポストモダンの哲学者が見せる、ホロコーストの悲劇を繰り返さない未来を思考する姿勢と、そのために必要とされる他者意識を共有していることを明らかにした。そして、これらポストモダンユダヤ系アメリカ作家の文字芸術の特徴を精査すると共に、彼らのポストモダンヒューマニズムの特徴を定義した。
著者
藤田 和生 板倉 昭二 明和 政子 平田 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

意識や内省と呼ばれる自身の心の内部への能動的アクセス、及び読心と呼ばれる他者の心的状態の理解の発生過程、ならびにそれらの相互関連性を、広範な種比較と発達比較を通じて多面的に検討した。その結果、霊長類のみならずイヌや鳥類にもこれらの認知的メタプロセスが存在することが明らかになった。また霊長類は自身の利益には無関係な第3者の評価をおこなうなど、優れた他者理解機能を持つことを示した。さらに、他者理解は対応する自己経験により促進され、自己理解と他者理解に確かに関連性があることを示した。
著者
定藤 規弘 岡沢 秀彦 小坂 浩隆 飯高 哲也 板倉 昭二 小枝 達也
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

「向社会行動は、自他相同性を出発点として発達し、広義の心の理論を中心とした認知的社会能力を基盤として、共感による情動変化ならびに、社会的報酬により誘導される」との仮説のもと、他者行為を自己の運動表象に写像することにより他者行為理解に至るという直接照合仮説を証明し、2個体同時計測fMRIシステムを用いて間主観性の神経基盤を明らかにした。自己認知と自己意識情動の神経基盤並びに自閉症群での変異を描出したうえで、向社会行動が他者からの承認という社会報酬によって動機づけられる一方、援助行動に起因する満足感(温情効果)共感を介して援助行動の動因として働きうることを機能的MRI実験により示した。
著者
江守 陽子 村井 文江 斉藤 早香枝 野々山 未希子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

出産後の母親の育児不安軽減を目的に、出産後~12週の間の母親の育児不安や心配の時系列的変化、母親のニーズに合致した訪問時期および家庭訪問のアウトカムを検討した。結果1.家庭訪問は母親の不安を軽減した。結果2.家庭訪問の適切な実施時期として、初産の母親は新生児早期と乳児期早期、経産の母親は新生児期後半~乳児早期と考えられた。また、母乳や乳房のトラブルに関しての心配や不安の軽減には、生後2~3週の新生児期早期が適切である。
著者
山田 直子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究はオランダおよびインドネシアの文書館における文献調査と現地でのオーラルヒストリー調査を通して、近代インドネシアにおける婚姻の制度化の歴史を、オランダ植民地政府、現地知識人、村落社会という三つの視点から考察した。特に、伝統的に母系制を維持する社会慣習を守りながら、一方でイスラームという父系的な宗教規範が根強いスマトラ島ミナンカバウ社会を中心に分析し、植民地社会に存在した多様な規範が交錯する社会空間を明らかにした。
著者
村松 芳多子
出版者
千葉県立衛生短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

昨年は主に市販スターターを用いて、胞子の耐熱性効果を検討した。それをもとに本年度は実際に納豆を製造した時のヒートショック状況と納豆菌胞子の種菌(スターター)化を試みた。大豆はフジキャビアイエローを使用し、蒸煮した大豆に、納豆菌を10^n/mlを納豆100g当たり0.1ml接種し、鈴与工業製SY-NO/20自動納豆製造装置(製造プログラムA)を用いて納豆を製造した。さらに納豆製造中の納豆菌の発芽状態と発酵状況得るために酸素電極による酸素濃度と、温度センサーによる温度変化を測定した。70℃,5分間、70℃,10分間、100℃,5分間、100℃,10分間で加熱した時の胞子を用い、ヒートショック後の納豆菌の納豆製造におけるヒートショック効果をみたところ、期待したほどの発芽促進効果はみられなかった。納豆発酵過程における容器内酸素濃度の影響はヒートショックをしない方が酸素吸収が多く、100℃でヒートショックを行った場合は、酸素吸収が少なかった。ヒートショックを行い発芽が良くなれば、少量の菌液でもヒートショックを行っていない菌液と同様の酸素濃度が見られると考えられたが、酸素濃度は菌液中の生菌数に比例しているように思われた。容器内温度も菌の生育に応じて変化していた。官能検査の結果、KFP419では100℃,5分間の菌液で糸引きが良かったが、熱処理をしていないものとの有意差は見られなかった。しかし、KFP1では70℃,10分間と100℃,5分間で糸引きが良くなりその差が見られた。ヒートショックの効果は糸引きに影響が見られると思われた。種菌化方法は、NBP培地に胞子を生産に不可欠と思われる微量物質を添加し検討した。胞子の割合は遊離胞子数/(有胞子細胞数+栄養細胞数)×100で求めた。100%スタータ化することは困難で、添加する物質により胞子割合は55〜80%であった。培養温度は添加する物質により異なったが、37℃と40℃では40℃の方が適していた。
著者
森田 孝夫
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

被害地域から離島、中間・山間農業地域を選び、水害記録・現地調査、郵送アンケート調査を実施し、地勢と避難行動と避難所形成の相互関係および計画課題を分析した。豪雨状況のリアルタイムの双方向情報伝達の不通と、避難路の寸断も想定する避難計画が必要であり、豪雨の場合は、小学校区よりも小さな部落単位やコミュニティ単位で避難所整備が必要であり、防災無線による避難勧告よりも地元消防団の避難誘導が有効であった。
著者
関根 雅彦 渡部 守義 浜口 昌巳
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

撮像機能付き食害検出装置の開発、二枚貝の食害時の摂食音の採取、二枚貝食害時の摂食音を検出するアルゴリズムの開発、食害生物忌避装置の開発を行い、食害検出装置をトリガーとしたナルトビエイ等による二枚貝食害の検出・防除システムを構築した。
著者
綾野 誠紀
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本科研プロジェクトでは、日本語、中国語、タイ語の受動文の統語構造について検討した。日本語の受動文については、直接受動文、間接受動文、所有受動文の統語構造について考察した結果、直接受動文と所有受動文の派生に関しては、動詞句内からの名詞句移動が関与するのに対し、間接受動文には関与しないことを支持する新たな証拠を提示した。中国語とタイ語の受動文については、派生に独立受動形態素が関与するものについて検討し、それらの形態素の統語特性について、日本語の束縛受動形態素の統語特性との比較対象も行いつつ明らかにした。
著者
島本 功 寺田 理枝 大木 出 辻 寛之 辻 寛之
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フロリゲンは植物の花芽分化の決定因子として1937年に存在が提唱されたが、その正体は長い間謎のままであった。我々は2007年にフロリゲンの分子実体がHd3a/FT タンパク質であることを明らかにし、さらにフロリゲンの細胞内受容体、及びフロリゲンの活性本体となるタンパク質複合体「フロリゲン活性化複合体」を同定した。さらにフロリゲンは花だけでなくジャガイモ形成を開始させるなど驚くべき多機能性を持つことも明らかにした。またフロリゲンの発現制御に関する研究も並行して展開し、イネの花成は2つのフロリゲン分子Hd3a とRFT1 に完全に依存していることを示した。
著者
諸星 妙
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、17世紀前半セビーリャの宗教的思想環境が芸術作品の主題や造形上の特質に与えた影響を考察するものであり、最終年度に当たる今年度は、現地において作品が実際に設置されていた環境での調査を行うとともに、これまでに収集・検討した資料等について、総合的な評価を行った。具体的には、第一に、ベラスケス《東方三博士の礼拝》について、現地調査等に基づき、同時代セビーリャの主要画家による作品との根本的な差異を明確化した。例えば、旧イエズス会誓願修道院ではロエーラスによる主祭壇装飾を調査し、同じくイエズス会施設のために描かれたものでありながらベラスケスの同作品とは規模、描法が大きく異なることを確認した。セビーリャ美術館では、その他の同時代画家の作品も広く調査したが、いずれも3~5mという規模の大きさを特色とし、その中に多くの人物やモチーフを描きこむ点でベラスケスの作品とは異なっていた。この知見を踏まえ、第二に、大規模ではないが主要部分を際立たせる、極めて現実主義的なベラスケスの表現について総合的な解釈を行った。まず、ベラスケスの同作品は、イエズス会のロヨラが『霊操』に明らかにしたような、聖書の物語を眼前に現出させて「見る」という観想のプロセスに関連づけられる。重点的に調査したベラスケスの師パチェーコの『絵画芸術』では、多くのイエズス会士が取り上げられ、その考えが引用されていた。しかし、ベラスケスが師を通じてイエズス会士及びその思想の近くにいたことは事実だが、調査の結果、特定の思想がベラスケスの個別の作品に具体的な影響を与えたことは確認できていない。むしろ、現地での作品調査を通じて明らかになったのは、ベラスケスの初期様式とモンタニェースらによる彩色木彫像との表現の近さであった。モンタニェースらの彩色木彫像の重要性は2010年の展覧会で注目されたものであり、本研究を通じて、初期ベラスケスのリアリズムとの関連という観点から、さらに詳細に検討されるべきテーマであることが確認された。
著者
菊池 裕
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

(1) マイクロアレイ解析による内胚葉細胞の移動・消化管形成に関与する遺伝子の単離sox17-gfpトランスジェニックフィッシュからGFPの蛍光を指標にして内胚葉細胞のみをセルソーターで集めるための条件設定を行っている。(2) 遺伝学的スクリーニングによる内胚葉細胞の移動・消化管形成に異常を示す突然変異体の単離内胚葉細胞の移動・消化管形成が異常になる変異体をスクリーニングし、候補変異体に関して表現型の詳細な観察を行っている。特に消化管形成が異常になる変異体に関して、詳細な表現型解析を行っている。(3) 内胚葉細胞で発現するcxcr4a遺伝子の機能解析sox17-gfpトランスジェニックフィッシュを用いて、Sdf1/Cxcr4シグナルによる原腸陥入期の内胚葉細胞運動の制御機構に関して解析を行った。最初に私達は、cxcr4aは内胚葉細胞特異的に発現しているが、リガンドであるsdf1a, sdf1bは中胚葉細胞に発現していることを示した。Sdf1/Cxcr4シグナルは細胞の移動を制御していることが知られているため、Sdf1/Cxcr4シグナルが内胚葉細胞の移動に関与する可能性に関して解析を行った。アンチセンスモルフォリノオリゴを用いてSdf1/Cxcr4シグナルの阻害実験を行った結果、Sdf1/Cxcr4シグナル阻害胚では3体節期において著しい内胚葉細胞の移動の阻害が観察された。更に、Sdf1/Cxcr4シグナルの阻害により、移動中の内胚葉細胞における糸状仮足形成の低下が観察された。以上の結果よりSdf1/Cxcr4シグナルが内胚葉細胞の移動制御に関わることが示された。
著者
矢野 米雄 YANO Yoneo
出版者
徳島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

我々は外国人向け日本語教育のための漢字辞書として電子漢字辞書“漢字林"と電子漢字熟語辞書“KIDS"の試作を行なった.漢字林は,漢字に意味や発音を継承する部分構造に着目した電子漢字辞書である.従来の漢字データベースは,漢字の構造上の特徴に着目するため,漢字の表意文字としての知識表現は困難である.我々は常用漢字1945文字に対して漢字の意味や発音に継承する部分構造を整理した.これらの部分構造を用いて漢字を表現し,種々の条件検索が可能で,継承する属性に着目した知識検索可能な漢字知識ベースを持つ電子漢字辞書“漢字林"を試作した.漢字林ではキーボード入力によらず直接操作でき,誤操作に対するシステムの助言や漢字候補を絞り込む検索操作に対する前状態への復帰の機能を持つ環境を実現した.さらに漢字の知識の少ないユーザが単純な部分構造から複雑な部分構造をたどり目標の漢字を簡単に検索できる環境を実現した.漢字林はSONY製EWS NWS-3865上に構築した.KIDSは外国人の漢字熟語学習を支援する電子漢字熟語辞書である.漢字熟語を学習する外国人は自分がどの漢字熟語を学ぶ必要があるか理解している場合が多く,また漢字熟語を広く浅く学ぶのではなく,必要な漢字熟語を中心に関連する漢字熟語を覚えるといわれる.この学習スタイルに対し,一般的なCAI教材ではなく,学習者に高い自由度を与える形態の電子辞書の枠組みが適すると考える.我々は(1)漢字熟語と構成漢字の関係の知識検索,(2)構成漢字間の関係の知識検索,(3)漢字熟語の属性を利用した関連語検索が可能な電子辞書システムを提案する.さらにKIDSの特長は検索専用の電子辞書だけではなく漢字熟語知識の挿入・削除によるユーザカスタマイズ機能を持ち拡張性の高い知識ベースの枠組みを採用する.KIDSはSONY製EWS NWS-1750上に構築した.さらに我々は漢字林やKIDSを知識ベースとして利用する漢字学習CAIシステム“漢字工房"および漢字熟語学習CAIシステム“熟限無(JUGAME)"を構築した.
著者
樋口 康一
出版者
愛媛大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究代表者は年来このモンゴル語仏典の文献学的・言語学的資料としての重要性に着目し研究を進めてきた。その過程で、出版文化の実相解明には、仏典の伝承と流布の実態解明が不可欠であると考えるに至った。ある文献が、当初の書写の対象から印刷による出版の対象に昇華する経緯、印噂された後、世に流布する経過、それが識字層にいかに受容され、最終的に文化の諸相にどのような影響を及ぼすようになるのか等、解明すべき問題は少なくないが、それらの大半は仏典の伝承と流布の経過をつぶさに観察することで、その端緒が得られる。昨平成15年度の経費交付により面識を得て交渉を進めている現地の研究者と引き続き連携しつつ、モンゴル及び周辺諸国、及び国内における各研究機関のモンゴル語文献の所在・管理の状況を調査した。可能な機関に関しては所蔵文書類の整理を試みるとともに、その際、電算機を積極的に活用し迅速な処理を心がけた。また、入力作業に当たっては、研究補助を仰ぎ、その成果の一部は、既に公表され、広く批判を仰いでいるが、所在文献の資料的位置づけを確定した上で、出版文化の実相解明に着手した。具体的には、特に大量に所蔵されていることが予想される仏教文献に関して、(1)モンゴル語訳の成立とそれがモンゴル知識層に受容される具体的プロセスはいかなるものか(2)そのプロセスにおいて出版事業がどのような関わりを持ったか(3)その出版によってどのような影響が文化にもたらされたかに焦点を当て、研究を進めた。その成果の一端は、すでに研究集会等で公にしている。また、進んで批判を求めるため、現在、2件の論文を学術誌に投稿中である。
著者
鹿毛 雅治
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、教師の授業中における評価的な思考 (「教育的瞬間」 の把握・判断) を取り上げ、それを支える心理的メカニズムについて主に動機づけ研究の立場から検討を行った。質問紙調査、談話分析、協同的アクションリサーチを実施した結果、授業中におけるひとり一人の子どもの具体的な学習、授業者である教師の意図や考えを重視してそれを同僚が共有するような「当事者主体型授業研究」が、教師の意欲を高めると同時に「教育的瞬間」の把握、判断の基盤となる教師の態度を培う可能性が示唆された。
著者
佐野 可寸志 ウイスニー ウイセットジンダワット
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

事業所の立地においては、立地場所固有の属性だけでなく、空間効果の影響も大きいが、これまで十分な研究の蓄積されていない。本研究ではまず、独自の調査データに、因子分析と強分散構造分析を適用し、事業所の移転要因を抽出した。次に、Mixed Logit Modelを用いて空間効果を考慮した事業所の立地選択モデルを構築し、空間効果の影響を定量的に把握した。東京都市圏物資流動調査データを用いてモデルのパラメータを推定した結果、通常の立地選択モデルで用いられる地価や交通のアクセスビリティーの要因に加えて、確定項における企業立地相関や、誤差項におけるゾーン間の空間相関が、立地選択に影響を与えていることが分かり、空間効果を考慮することの重要性を示すことができた。
著者
林 良博 小川 健司 九郎丸 正道
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

まず、ハタネズミ精子がマウスとハムスターの卵子以外の異種動物の卵子透明帯を通過できるか否かを検討した結果、ラット、マストミス、スナネズミの卵子透明帯は通過できないことが明らかとなった。一方、同種であるハタネズミの卵子透明帯への通過率は、マウスやハムスターに比べ、明らかに低率であった。しかもそれらの卵子はハタネズミ精子が侵入しているにもかかわらず受精していなかった。以上の事実から、この実験系では精子が受精能を獲得していないことが明白となった。次なる実験としてハタネズミの体外受精(IVF;in vitro fertilization)を試みた。精子の前培養時間を30分〜2時間、精子の濃度を前培養時1×10^7cell/ml、媒精時1×10^6cell/mlの設定条件でIVFに成功した。また培養液に1mMのハイポタウリンを加えることによって受精率は高率となり、ハイポタウリンは精子の前培養よりも媒精時に効果があることが示された。それらのIVF卵は培養してもほとんど胚盤胞期まで発生しなかったが、偽妊娠状態になった雌の卵管に移植したところ、正常な産子が作出できた。以上の一連の実験によってハタネズミの最適なIVF条件が確立でき、またこの方法によって作出したIVF卵は正常であることが判明した。さらに、ハタネズミ精子が先体酵素を利用して異種卵子透明帯を通過しているのか否かを確認するため、精子の先体酵素を不活性化して、受精を阻害する酵素(proteinase/hyaluronidase inhibitor)を培地に加えたところ、ハタネズミ同士の体外受精はほぼ完全にブロックされたが、ハタネズミ精子のマウス卵子透明帯通過はブロックされなかった。またカルシウムイオノフォアで先体反応を誘起し、先体内の酵素を放出させたハタネズミ精子であっても、マウス卵子透明帯を高率に通過することができた。したがってハタネズミ精子は、先体酵素を利用しないでマウス透明帯を通過していることが推測された。
著者
塩谷 光彦 三宅 亮介 田代 省平 宇部 仁士 竹澤 悠典
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、自己集合情報を内包した有機分子を合理設計し、金属イオンの特性を駆使した10 nmサイズの多成分系超分子の構築法を確立し、これらを「エネルギー変換」・「運動変換・伝播」・「物質変換・輸送」といった複合機能を有する超分子錯体システムに発展させることを目指した。その結果、複数の異なる基質分子(反応性有機分子、金属錯体等)の精密配列や変換反応を可能とする超分子反応場を構築し、分子配列の動的過程を世界で初めて観察することに成功した。また、金属イオンの自在配列、光エネルギーを用いた回転運動伝播制御、光駆動型多電子反応のための新しい超分子構造・機能モチーフの創出を達成した。