著者
山本 純子
出版者
日本武道学会
雑誌
武道学研究 (ISSN:02879700)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.24-34, 1991-07-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
28

“BUGEI-ZUFU-TSUUSHI” (in Korean, Muye-Tobo-Tongji) was published in 1790. SOUSYUTOU (Shangusudo) can be seen in this book. SOUSYUTOU was affected by KOUWA (Japanese prisoners of the Invasion of Korea by Toyotomi Hideyoshi) and the drillmasters of Ming China army in the process of its formation. This study attempted to analyze the political situation of a sword arts in Japanese Invasion of Korea from 1592 to 1598. The purpose of this study was to clarify the relationship of SOUSYUTOU with KOUWA and Ming China army.The results can be summarized as follows.1. In those days, a sword arts in Korea was less developed than Japan and China.2. The sword arts was introduced into Korea from Japan and China by KOUWA and Ming China army in KUNRENTOKAN (HullyonTogan).3. SOUSYUTOU was affected by KOUWA and Ming China army through the medium of KANKYO (a man of public functionary in Korea).
著者
小林 めぐみ 水野 大 吉田 宗平 佐々木 秀策 有末 篤弘 若林 剛
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.267-272, 2014-04-20 (Released:2014-04-20)
参考文献数
16

開腹手術を要した菓子昆布による食餌性イレウスの2 小児例を経験したので報告する.〈症例1〉1 歳11 か月女児.嘔吐と腹痛のため来院.身体所見で脱水を認め,腹部CT で腹水の貯留と広範な小腸の拡張からイレウスと診断した.保存的治療を行うも腹部症状の改善がみられず,開腹手術を行った.手術では広範な小腸の拡張の先端部に鶏卵大の内容物を認め,小切開にて昆布塊を回収した.〈症例2〉14 歳女児.嘔吐と腹痛のため来院.腹部CT でbubbly mass and impaction, small bowel feces sign を認めた.腹膜刺激症状を伴い,絞扼の危険性も危惧されたため緊急手術を行った.手術では回腸末端までの腸管拡張とメッケル憩室を認めた.憩室を切除する際に内容物である昆布を大量に回収した.2 例とも発症前に菓子昆布を食べたことが確認された.食餌性イレウスは,頻度が低いものの小児外科医が周知しておくべき疾患である.
著者
服部 倫卓
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.2_21-2_32, 2015 (Released:2015-07-07)
参考文献数
28

ウクライナ・ロシア危機を解明するための新たな分析視角として,両国の基幹産業である鉄鋼業を取り上げ,図表を駆使し比較検討する.世界の鉄鋼業界では,中国発の生産過剰・価格軟化が生じている.近代化が遅れ,コスト面での優位も失いつつあるロシア・ウクライナ鉄鋼業の立ち位置は,困難となっている.とりわけ,技術力が世界最低水準の上に,集積地ドンバスで内戦が起きたウクライナ鉄鋼業の行く末は,悲観せざるをえない.
著者
永田 賢二 杉田 靖司 佐々木 岳彦 岡田 真人
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.876-880, 2014-12-05 (Released:2018-09-30)

あらゆる物理学の分野において,実験データから必要な情報を抜き出す作業は日常的に行われることである.特にデータの中から複数のピークを探し出し,その位置や広がりを評価することは,実に多くの場面で重要となる.実験データからピーク位置の情報をフィッティングなどで取り出すこと自体は,グラフソフトなどを使えばそれほど難しいことではない.ところが「いったい何個のピークがあるのか」ということを判断することは難しい.ほとんどの場合,何個のピークがあるかを判断するのは解析者の直感に委ねられる.しかし,時に何個のピークがあるか迷うデータに遭遇することもあるだろう.例えば,右下の図は複数のガウス関数の和にノイズを加えて生成した,人工的な実験データである.果たして何個のピーク(ガウス関数)があるのか,判断できるであろうか.データのみからピークの個数を決定することは,理論的にも難しい問題である.例えば,データとフィッティング関数の差(誤差関数)を最小化してピークの個数を決定しようとすると,ピークの数を増やすことでいくらでも誤差を下げることができてしまう.このようなノイズまでフィットしてしまう「オーバーフィッティング」の問題を避けるためには,誤差関数だけでなく,モデルの複雑さとのトレードオフを兼ね備えた関数を考える必要がある.また同様の問題として,実験データを多項式でフィットする問題を挙げることができる.n点のデータに対して,n-1次の多項式でフィットさせると,誤差なくすべてのデータをフィットさせることができるが,意味のないデータ解析であることは明らかであろう.このような,ピークの個数の決定や多項式の次数の決定の問題は,統計学の分野において「モデル選択」と呼ばれている.モデル選択の問題に対しては,赤池情報量規準やベイズ情報量規準といった情報科学の分野で開発されたモデル選択規準が広く使われており,多項式フィッティングの問題をはじめとして,様々なモデル選択で一定の成功を収めている.しかし,ピーク個数の決定については,モデルに内在する数理的な構造の複雑さにより,これらのモデル選択基準の適用により決定することが困難である.最近になって,ベイズ推定とモンテカルロ法を組み合わせた新しい手法が開発され,ピーク個数の決定に応用されるようになった.この手法は,ベイズ推定で記述される評価関数に現れる量を「分配関数」「自由エネルギー」などに読みかえることで,モンテカルロ法を適用するといった特徴を持っている.本稿では,なるべく専門性の高い内容は避け,ベイズ推定によるモデル選択の枠組みを概説し,実際に「右図は3つのピークが合成されている」と考えるのが最も自然であることを示す.
著者
洪 繁
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.125-139, 2017-04-25 (Released:2017-05-02)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

ヒトは,自身で栄養を作ることができない.生命を維持するためには,植物や他の動物を摂取し,消化管から体内に吸収できるレベルまで消化する必要がある.膵疾患では,消化酵素分泌機能が多かれ少なかれ障害されているため,補充療法が必要であることが多い.消化酵素製剤は,ブタ膵臓抽出酵素であるパンクレアチンと様々な微生物消化酵素の複合である.パンクレアチンは,アルカリ域でのみ活性を示すが,微生物由来酵素は酸性から中性,アルカリまで至適pH域が広く胃でも消化が期待できる.製剤に配合される酵素の種類により製剤間で消化活性に違いがあるが,これまで消化活性の違いに着目した報告は殆どない.そこで本稿では,日本と海外の消化力測定法の違いと,これまで殆ど顧みられることのなかった各々の医療用消化酵素製剤の特長,およびそれに応じた使い分けについて紹介する.
著者
妻木 勇一 小寺 真司 ネンチェフ D.N. 内山 勝
出版者
The Robotics Society of Japan
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.195-204, 1998-03-15 (Released:2010-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

In our previous work we proposed two approaches to singularity treatment: one is based on a null space notation, and the other on an adjoint Jacobian. We call these approaches as the singularity-consistent approach. Both meth-ods guarantee the direction of motion in the whole work space, without producing an infeasible joint velocity. The performance has been experimentally verified with 3-DOF manipulators. In this paper, we apply the method to a real telerobot system with a non-redundant 6-DOF manipulator as the slave. We analyze the velocity relation at the singularities of this manipulator, and discuss several important implementation issues. The experimental results show that the 6-DOF manipulator can be operated safely with feasible joint velocity and without any error in the direction of motion.

12 0 0 0 OA 心の闇の側面

著者
大隅 尚広 大平 英樹
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.2-14, 2010-07-31 (Released:2011-09-01)
参考文献数
94
被引用文献数
1

This review summarizes empirical findings that have shown affective deficits of psychopathy. Previous studies have accounted for a failure of moral socialization in individuals with psychopathy in terms of low levels of fearfulness and empathy that may lead to an attenuated ability to inhibit deviant behaviors in response to punishments and distress cues from others. Both low-fear and low-empathy hypotheses have implied that a neural basis of psychopathy is a dysfunction of amygdala, a brain region of the center in affective processing. However, the affective dysfunction of psychopathy can also be associated with adaptive behaviors to maximize gains and minimize losses in some situations. Hence, we propose that psychopathy is one side of humans to shape a selfish strategy if necessary.
著者
林 凌
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.107-124, 2018 (Released:2019-06-30)
参考文献数
23

1960年代日本においては, チェーンストアの急拡大という小売業界の構造変化が生じた. この時期ダイエーや西友などの小売企業は, 全国各地に相次いで店舗を立地した. その結果「安売り」を基盤とした大量販売体制が日本においても生起したのである.流通史研究はこうした小売業界の構造変化において, 商業コンサルタントとでも呼びうる職能集団が重大な役割を有していたことを指摘している. だがなぜ彼らは, それまで否定されていた様々な経営施策を肯定的な形で取り上げたのか. この点について, 既往研究は充分な説明を加えているとは言い難い.本稿では消費社会研究の知見を分析の手がかりとして, 当時「商業近代化運動」に取り組んでいた商業コンサルタントの「安売り」をめぐる言説に着目し, 以下のことを解明する. 第1に, 商業コンサルタントが「商業近代化運動」において「安売り」を肯定的に取り上げた際に, 「安売り」と「乱売」が「大量生産―大量消費」の枠組みから弁別されていたということを説明する. 第2に, こうした「安売り」という施策の重要性を訴える主張が, 当時の経営学の導入と密接に結びついていたということを説明する. そして第3に, こうした「安売り」をめぐる彼らの実践が「消費社会」の到来という予期を原動力にしており, そのため「消費者」への貢献という規範が, 「安売り」という具体的施策と結びつく形で当時強く示されていたことを明らかにする.
著者
榊原 充隆
出版者
北日本病害虫研究会
雑誌
北日本病害虫研究会報 (ISSN:0368623X)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.67, pp.1-23, 2016-12-20 (Released:2018-02-10)
参考文献数
105

カメムシ亜目は半翅で,口吻をもつことが最大の特徴だが,このほかにも臭くて集合性をもつ等の一般的なイメージがある.害虫管理の面から考察すると,吸収口を持ち,外部消化をおこなう性質は動植物の収量・品質に悪影響をもたらすことを意味する.嗅覚を情報交換や防除手段の基礎とする性質は,そのにおいを嫌うものには不快害虫になり,群れていればさらに嫌われる.そして,カメムシが半翅を持つことはその多様性,すなわちヒトにとっての害虫種群の豊富さ・防除手法の煩雑さにつながる.カメムシ類には同翅亜目同様,音響交信する種が多いことはあまり知られていないカメムシ亜目の特徴だが,音響や視覚,触覚接触といった情報交換が求愛行動に組み込まれているカメムシの性質は,フェロモン利用によるカメムシ類防除を困難にしている一因と思われる.
著者
大谷 真理子 大谷 道輝 野澤 茜 松元 美香 山村 喜一 小茂田 昌代 江藤 隆史
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.39-43, 2012-01-20 (Released:2014-11-13)
被引用文献数
3

塗布量および塗布回数の違いによる保湿剤の効果を客観的に評価するために,人工乾燥皮膚を用いて検討した.ヒルドイド®ローションおよびヒルドイド®ソフト軟膏を1日1回朝0.5,2および3 mg/cm2あるいは1日2回朝および夜の入浴後2 mg/cm2を14日間アセトン/エーテルおよび水で処理した前腕部の屈側の人工乾燥皮膚に塗布した.角層水分量は塗布1,2,5,6,7,8,9,12,13および14日後に経時的に測定した.塗布量による比較では,ローション・軟膏とも電導度に有意差はなかった.塗布回数による比較では,1日2回はローション・軟膏ともにほとんどの測定時点で1日1回と比較して電導度が有意に高かった.本研究により,ヒルドイド®製剤では1日1回よりも2回塗布した方がより効果的であることが示唆された.
著者
角甲 純 中村 陽一 西 智弘 高木 雄亮 松田 能宣 渡邊 紘章 笠原 庸子 合屋 将 小原 弘之 森 雅紀 山口 崇
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.33-42, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
44
被引用文献数
1

【目的】慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対する送風療法の有効性について検討する.【方法】医中誌,Cochrane Library, EMBASE, MEDLINEを用いて,2019年10月23日までの期間に報告されたすべての文献について検索を行った.また,2020年6月30日と2021年12月7日に,PubMedを用いてハンドサーチを行った.適格基準は,1)送風療法を扱う無作為化比較試験,2)対象者の年齢が18歳以上,とした.除外基準は,1)重複文献,2)学会発表,とした.【結果】110件中10件が採用され,そのうち5件についてメタ解析を行った.送風療法は標準化平均値差−1.43(95%信頼区間−2.70~−0.17; I2=94%;異質性のp値<0.0001)であり,呼吸困難を有意に改善した.【結論】慢性進行性疾患患者の呼吸困難に対して送風療法は有効であることが示された.
著者
櫻井 一美
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.21-28, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

The ice cream, also known as King of Sweets, gives you deliciousness, fun and peace of mind. Ice cream market size in Japan expanded steadily during the late Showa period, supported by the expansion of the population and the high growth of the economy. However, it had shrunk significantly over the past 10 years in the Heisei period, and then it has expanded again and still continues the present day. This V-shaped recovery is explained by factors in fields such as logistics, sales, production, marketing, and research and development. We also introduce big hit ice cream products in the Heisei period and discussed the challenges of the ice cream industry in the Reiwa period.
著者
高橋 勅徳
出版者
東京都立大学大学院経営学研究科経済経営学会
雑誌
経済経営研究 (ISSN:2434690X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-31, 2021-03-20

The purpose of this paper is to approach the formation, maintenance andexpansion of emerging markets, the process by which people are socially formed as market participants, using auto-ethnographic methods. In previous research, the formation, maintenance and expansion of emerging markets have been viewed as a type of transaction involving the emergence of new values, such as populations, networks and clusters, on the one hand, and on the other hand, from legitimizing activities, such as entrepreneurs' alliance with industry standards and institutional authorities. In this paper, therefore, I use autoethnography, in which researchers themselves register with marriage counseling agencies, to clarify the marriage activity market, which was formed as an emerging market in the 2000s.
著者
片岡 佑介
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.44-64, 2017-01-25 (Released:2017-03-03)
参考文献数
40

【要旨】本稿の目的は、新藤兼人監督作『原爆の子』(1952)と関川秀雄監督作『ひろしま』(1953)のテクスト分析を通じ、両作品がいかに「無垢なる被害者」の像を生み出しているのかを明らかにすることにある。両作品はGHQ/ SCAPによる映画検閲の解除後、間もなく同一著書から製作された原爆映画であるために、これまでも比較考察がなされてきたが、従来研究は主題や製作過程、受容の観点から両作品を対照的なものと位置づけてきた。これに対し本稿は、両作品に共通する演出方法とジェンダー化された無垢の表象とに着目する。より具体的には、宝塚少女歌劇団の同期であった乙羽信子と月丘夢路がそれぞれ演じる白いブラウス姿の女教師による歌唱シーン、及び音楽のサウンドブリッジを契機に過去を想起する白血病の少女によるフラッシュバックシーンなどの場面を精査し、両作品の差異をこれらの場面での演出上の差異に由来するものとして新たに意味づける。そして両作品の語りの構造において、それぞれ画面に繋留されない女教師の歌声と沈黙する白血病の少女が主要な役割を果たしていることを浮き彫りにする。本稿では、明治以降の国民国家形成期における音楽の社会的機能にも目を配りつつ、両作品が映像と音声で構成される映画の媒体的特質に依拠した対照的な演出方法を用いながらも、しかし、共に原爆の「無垢なる被害者」と戦後の理想的な国民国家像とを構築していることを解き明かす。
著者
藤岡 祐介 安井 敬三 長谷川 康博 高橋 昭 祖父江 元
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.634-640, 2009 (Released:2009-12-07)
参考文献数
27
被引用文献数
9 8

意識障害と痙攣で発症した重症熱中症の47歳,男性症例.意識障害の改善後,高度の無為・無欲,体幹失調等の小脳性運動失調症候がみられた.急性期の頭部MRI拡散強調像(DWI)にて小脳皮質に,ADC値の低下をともなう異常高信号がみられた.発症約2カ月後,体幹失調,構音障害は改善したが,四肢の測定障害はむしろ悪化した.MRI(DWI)上の異常高信号は消失したが,小脳は萎縮傾向を示し,脳血流シンチグラフィでは小脳歯状核部の血流低下が増強した.DWIでの異常高信号は,高体温による小脳Purkinje細胞の細胞性浮腫を捉えた可能性があり,その後の小脳萎縮の出現や後遺症の有無について注意深く検討する必要があることを示している. 本症例では急性期に酒石酸プロチレリンを使用し,無為・無欲に対する有効性を確認した.熱中症後の無為・無欲の改善を期待し試みられるべき治療の一つであると考える.
著者
中井 誠一
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.67-75, 2019-10-01 (Released:2019-10-24)
参考文献数
22

人口動態統計では「熱中症」という用語を用いた死亡統計の分類はなく,「傷病および死亡の外因」の中に,1994年までは「過度の高温(E900)」,1995年以降では「自然の過度の高温への曝露(X30)」と「人工の過度の高温への曝露(W92)」の項目があり,これらが外因としての暑熱による死者数と考えられる.厚生労働省 の広報資料においても「自然の過度の高温への曝露(X30)」を熱中症による死亡数とすると掲載されている.しかし,「損傷,中毒およびその他の外因の影響」の中に,1994年までは「熱作用(N992)」と「熱および光の作用(992)」,1995年以降は「熱及び光線の作用(T67)」の小分類として,熱射病や日射病などの熱中症の具体的な症状が示されているので,T67が傷害の性質としての熱中症死者数に相当すると考えられる.本研究ではこれらの統計分類について熱中症に関連する死亡数を比較した.1994年までは統計分類による死亡数に顕著な差は認められなかったが,1995年から2017年まではT67がX30よりも高値で,X30にW92を加算するとT67と X30+W92との差は小さくなった.これらは外因のコードであるE900が1995年以降ではX30とW92に分割して表示されたことが原因と考えられる.暑熱による死亡数を示す場合,自然の過度の高温による死亡数(原因による分類)を示すよりも,傷害の性質による死亡数を用いることが妥当と考えられ,熱及び光線の作用(T67)による死亡数が我が国における熱中症死亡数を示していると考えられる.