著者
吉田 健一 橋本 光靖 伊山 修 藤野 修 寺井 直樹 寺井 直樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

研究代表者は、以前の研究で原伸生氏と共に、一般化された密着閉包の概念を導入し、乗数イデアルを可換環論の言葉で定義することに成功した。具体的には、乗数イデアルは、密着閉包のテストイデアルの標数に関する極限として得られる。本研究では、小さな標数のテストイデアルの振る舞いと乗数イデアルの振る舞いとの違いを明らかにした。さらに、可換環論におけるさまざまな不変量の研究を行うために、密着閉包の理論を整備した。
著者
山田 肖子 森下 稔 服部 美奈 黒田 一雄 日下部 達哉 大塚 豊 北村 友人 西村 幹子 小松 太郎 乾 美紀 鴨川 明子 澤村 信英
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、実践や学問観が多様化する比較教育学に関し、学問観を整理、マッピングするとともに、異なる研究アプローチを持つ者がチームでフィールドワークを行った。成果として、「比較教育学の地平を拓く:多様な学問観と知の共働」という本(分担者の森下稔氏と共編)を刊行した(平成25年3月、東信堂)。また、共同フィールドワークは、モルディブ国で4回にわたって行われ、その成果は平成25年2月に、モルディブ国における成果報告会で発表された。この報告会は、教育省主催で行われ、強い関心を集めた。モルディブ調査に関係した研究者が個別に論文を投稿したほか、25年度に繰り越した予算で和文での報告書も作成した。
著者
西澤 由輔
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は始めに,ヘテロ次元接触を含むヘテロ次元サイクルをもつ微分同相写像について,ヘテロ次元接触の近くでどのような力学系が存在するかを考えた。研究代表者は二つの不動点の固有値が複素数の場合に元の微分同相写像にC^1摂動を加えることにより,ヘテロ次元接触の近くに馬蹄が存在することを示し,その馬蹄を用いてwild hyperbolic strange attractorsをもつ微分同相写像が,ある条件下では元の微分同相写像のC^1位相で近いところに存在することを証明した。詳細については[西澤由輔,Heterodimensional tangencies leading to hyperbolic sets and wild hyperbolic strange attractors,数理解析研究所講究録(掲載決定)]に記されている。また,この研究の発表を[RIMS共同研究マクロ経済動学の非線形数理(京都大学,数理研),2010年9月8日],[日本数学会総合分科会(名古屋大学),2010年9月22日],[2010年度冬の力学系研究集会(東京工業大学),2011年1月9日]で行い,論文[Y.Nishizawa,Heterodimensional tangencies leading to hyperbolic sets and wild hyperbolic strange attractors,preprint]としてまとめた。本年度は次に,ヘテロ次元接触を含むヘテロ次元サイクルをもつ微分同相写像でそのサイクルを作るインデックスが2の不動点を含むブレンダーをもつものを考え,ブレンダーのdistinctive propertyを用いてインデックスが2の不動点の安定多様体の極限から葉層構造が構成できること示した。この研究の発表を[第7回数学総合若手研究集会(北海道大学),2011年3月2日]で行った。この研究については,この葉層構造がロバストであるか,現在も研究中である。本年度は次に,点分岐と呼ばれる分岐について考えた。研究代表者は首都大学東京の満倉氏との共同研究として,3次多項式の2パラメータ族を考え,2つのパラメータで同時に点分岐をもつ3周期点が存在し,分岐図中にバブルが現れる初めての具体例を構成した。この研究の発表を[力学系セミナー(首都大学東京),2010年12月17日]で行い,論文[Y.Nishizawa and E.Mitsukura,Simultaneous point bifurcations and bubbles for two parameter family of cubic polynomials,preprint]としてまとめた。
著者
西尾 敦史
出版者
沖縄大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

2005年に改正された介護保険法により創設された地域密着型サービスの中で特に小規模多機能ケアに焦点をあて自治体を基盤にした調査を行った。その結果、全国一給付費が高い沖縄の特徴の中から、小規模ケアの機能として、1)利用者のエンパワメント、2)家族サポート(支援)、3)地域社会とのつながりをつくることが重要であり、それが介護を必要とする高齢者の尊厳を高め、その人の人生を尊重したケアが文化として充実・深化する可能性があることが見出された。また、制度の理念を実現するためにも市町村自治体の位置づけと政策が重要であることを明らかにした。
著者
高橋 洋子
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

〈目的〉家庭における調理が減少している今日において、料理を手作りすることにどのような教育的意義があるか、心理学的アプローチに重点をおいた検討を試みた。すなわち、調理という行為が単に「生きていくための生活技術」にとどまらず、「自信をもって生きていくための精神力の形成に寄与するもの」であることを示し、心身共に健全な次世代の育成に寄与しうる提言を行うことを目的として、本研究を行った。〈方法〉子どもの精神的発達を量る指標として、バンデュラが提唱した自己効力感という概念に着目し、アンケートの項目に特性的自己効力感尺度(成田ら1995)を取り入れた。2008年以降に3回実施したアンケート調査(対象は小学生・小学生の保護者・大学生、合計n=388)の回答をもとに、調理に関する因子間の関連、ならびに調理に関する諸因子と自己効力感との関連を分析した。さらに、共分散構造分析を用いて、調理が自己効力感の形成に寄与している状況をモデル化して示すことを試みた。〈結果〉調理行動・調理意識・調理の現状という潜在変数を設定し、アンケートから実際に観測された幾つかの変数も用いて様々なパス図を試作して共分散構造分析を行い、調理に関する諸因子と自己効力感との関連を構造的に説明しうるモデルを模索したものの、GFI(適合度指標)が0.9以上となるモデルを構築するには至らなかった。引き続き、有用なモデルを構築することを目指して、テキストマイニングの手法を用いてアンケートの自由記述回答を分析し、モデルを構成する要素(変数)となる概念を抽出する試みを継続することとした。
著者
佐藤 博 滝野 隆久 中田 光俊
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

がんの浸潤・転移に重要な役割を果たすMT1-MMPの新規基質の探索を行い、その生理・病理的意義を解明した。その結果、膜タンパクの切断・シェディングに特にユニークな活性を見出した。例えば、MT1-MMPによるセリンプロテアーゼ阻害因子Hepatocyte Growth Factor Activator Inhibitor-1の切断はプロテアーゼ活性化カスケイドを始動させ組織破壊を引き起こす。我々はその状態をプロテアーゼストームと名付けた。
著者
高橋 均 豊島 靖子 山田 光則 小野寺 理
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

臨床的、病理組織学的にこれまで報告のない小脳変性症の3家系、3剖検例について臨床症状、および病理組織学的所見を検討した結果、それぞれが独自の臨床症状を呈し、中枢神経系の障害部位が明らかに異なり、1C2免疫染色によって陽性となる多数の核内封入体もまた、それぞれ特徴ある分布で存在していることを確認した。そのうち、1家系1剖検例でSCA17のホモ接合体であることが判明した。SCA17ホモ接合体の報告はこれまで全くなく、臨床病理学的所見と併せ、報告した。当研究所ではすでに、胎児脳cDNAライブラリーより単離された300個以上の新規クローンに基づく、増大CAG繰り返し配列を持つcDNAシークエンスとプライマーセットを開発しており、これを用いた未解明神経変性疾患の大規模スクリーニングシステムが確立している。未知の2家系についてはこれらのヒト脳で発現している増大ポリグルタミン鎖について増大の有無を確認したが、その異常伸長を認めたものはない。さらに未知の2家系中の1家系では通常のウエスタンブロッティング法により、1C2により染色される蛋白の存在を確認していたが、同サンプルの2次元電気泳動と2次元のウェスタンブロッティングを行うことで、原因蛋白(ポリグルタミンを有する)と考えられるスポットを複数同定するに至った。同定したいくつかのスポットを単離し、MALDI-TOF MS(当研究所備品)を用いてポリグルタミン鎖を持つペプチドの周辺アミノ酸配列を決定した。単離したスポットには短いポリグルタミン鎖を有する蛋白が含まれていた。
著者
杉山 寿美
出版者
広島文教女子大学短期大学部
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

植物プロテアーゼの結合組織蛋白質への作用機序が(1)コラーゲン分子が分散する酸性条件下でのテロペプタイド部位への作用であること(2)ゼラチンに対するゼラチナーゼ活性であること(3)三重らせん部位に対するコラゲナーゼ活性は認められないことを13年度に明らかとした。14年度は調理過程におけるキウイフルーツ果汁の食肉への物理的、嗜好的(官能評価)、栄養的特性への影響について検討した。キウイフルーツ果汁処理を施した牛肉(果汁添加量10-40%、10℃、20-120分)を加熱調理(乾式加熱:焼き)後、レオメーターで剪断力を測定した結果、軟化していることが認められた。また、脂質量をBligh and Dyer法、GCによって検討した結果、脂肪酸・コレステロール溶出量は未処理肉よりもキウイフルーツ果汁処理肉で有意に多くなった。これは脂肪組織が結合組織に沈着しているために、コラーゲンのテロペプタイド部位分解に伴って脂質溶出量が増加したものと考えられた。しかし、キウイフルーツ果汁の蛋白質分解作用は筋原繊維蛋白質にもおよぶために、キウイフルーツ果汁処理肉の食味はレバー様となり嗜好的に有意に好まれなかった。また、加熱調理過程(湿式加熱:ゆで)におけるコラーゲンの可溶化を、ハイドロキシプロリン量の定量(ボスナー法)により検討した結果、未処理肉と比較してキウイフルーツ果汁処理肉では有意に可溶化(溶出)が進行していた。しかし、熱拠理キウイフルーツ果汁処理肉、酸性緩衝液(pH3.0)処理肉でも未処理肉と比較してコラーゲン可溶化量は増し、さらに加熱時間を長くするとキウイフルーツ果汁処理肉との差は小さくなった。すなわち、加熱調理過程におけるキウイフルーツ果汁処理肉のコラーゲン可溶化促進は(1)コラーゲンの限定的な分解によるもの、(2)果汁が低pHであるためのコラーゲンの構造変化によるものであると考えられた。
著者
片山 寛則 植松 千代美 菅原 悦子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【フィールド調査(イワテヤマナシは自生種それとも導入種?)】未調査地域の青森県、秋田県の全市町村、山形県北部での調査が終了した。秋田県にて95個体、青森県で80個体のナシ属植物が見つかった。岩手県と比べて青森県、秋田県ではナシ属の出現頻度は低かった。またニホンナシの在来系統と思われる大果系ナシやイワテヤマナシとニホンナシとの雑種と思われる果実を有する個体(逸出型)は多く見つかったが、イワテヤマナシの野生個体(果実直径が3cm以下、有蒂、山中または放牧地に自生)はほとんど確認できなかった。北東北のほぼ全域にわたるナシ属探索が終了し、合計840本が見つかった。白神山系ではナシ属植物は全く見つからなかった。奥羽山系では街道沿いや人家の周辺、畑の縁などで現存していたが野生個体はなかった。北上山系ではイワテヤマナシの群落こそ見つからなかったが北は階上岳より南は早池峰山までの高地で野生個体が見つかった。北上山系の高地で現存する野生個体は自生種である可能性が高い。【保全事業】探索で見つかったナシ約550本を野生ナシジーンバンクとして神戸大学にて保存した。また保存後に現地で伐採された個体の返還事業として岩手県九戸村、遠野市にて苗木を植裁した。【DNA分析によるイワテヤマナシの起源】世界のナシ属植物の葉緑体DNAのrps16-trnQとaccD-psaI遺伝子間領域における欠失変異の有無を調査し3タイプ(A, B, C)のゲノムを識別するDNAマーカーを作製した。収集個体の320個体中の約2割とアオナシ、マメナシ類はA型のゲノムタイプであり原始型だった。収集個体の他の約8割とニホンナシ栽培品種のほとんどはB型だった。セイヨウナシ、アフリカ、中央アジア、ロシア由来のC型は収集系統では数個体のみ見つかった。この結果は約8割のイワテヤマナシ収集個体はニホンナシとの雑種であり、残りの2割に真のイワテヤマナシが含まれる可能性を示す。また岩手県全域から抽出した58個体を用いて5種類の核SSRマーカーにより個体識別と系統学的解析を行った。遺伝的多様性が大きく、ほとんどの個体が実生繁殖であることが確認された。今後は北上山系由来の集団数を増やして、集団遺伝学的手法(STRUCTURE解析)により真のイワテヤマナシを推定し起源を明らかにしたい。【芳香性物質の同定】果実に芳香を持つイワテヤマナシ収集個体のうち、ナツナシ、サネナシ、系統番号i830の3系統の果実の香気寄与成分を官能試験、TenaX-TAカラム濃縮法を用いたGC-O分析、AEDA法、GC-MS分析により香りの特徴づけと成分を同定した。ナツナシは官能試験では甘く爽やかな香りであり、ethyl 2-methylbutyrateが最も寄与度が高かった。またサネナシは官能的には強い甘さを持っておりethyl 2-methylbutyrateとethyl hexanoateの寄与度が最も高かった。i830系統ではグリーンな花様の甘さを持つ高沸点の未同定物質とethyl 2-methylbutyrateが最も高かった。ナツナシとサネナシには共通の寄与度の高い成分が多く、2系統の香りは似ていることが明らかになった。またethyl 2-methylbutyrateはニホンナシ‘幸水'では比較的寄与度が高かったが、セイヨウナシ‘ラフランス'ではほとんど寄与しておらずアジアのナシに特徴的な成分かも知れない。今後はより多くの収集系統の香気成分を調べて分類し、イワテヤマナシに特徴的な香気成分を明らかにする予定である。
著者
小柳 武和 笹谷 康之 山形 耕一 三村 信男
出版者
茨城大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では、地域社会の海岸に関わる開発計画、特に観光レクリェーション計画、景観計画の見地から、茨城県北部の海岸を対象に、海岸部の都市化による影響と海岸域の有する環境的資質を把握することを試みた。その結果、以下の成果を得ることができた。(1)茨城県の海岸保全施設の設置状況を調査し、自然海岸の景観タイプ、人工海岸の形態の類型化を行い、海岸景観の状況を把握することができた。(2)海水浴場、港湾等における現地調査とアンケート調査により、海岸部のレクリェーション利用特性を把握するとともに、釣り、磯遊び、バードウオッチング等の観点から、レクリェーション資源としての生物の分布と地形特性等との関連性を把握することができた。(3)民俗学的調査やアンケート等の調査から住民やレジャー活動をする人々の海岸環境の認識とイメージ把握、更に、海岸環境の保全・活用への意識を探ることができた。(4)日立市域の海岸を含めた地形、土地利用等に関する細密データシステムを構築し、海岸環境の表現および評価支援システムを開発した。以上の成果に基づき、海岸環境計画に資する知見をまとめると以下のようになる。(1)海岸のレクリェーション活動の多くは、海岸の自然環境をベースとしており、その開発計画において自然環境を重視した海岸域の保全・活用計画が不可欠である。(2)住民の日常生活や漁業の場あるいは港湾施設等がレクリェーション活動の場となっており、今後、複合的利用のためのルールづくりやゾーニング等の方策づくりが重要である。(3)沿岸域には、神磯など民俗学的に重要な磯や魚介類の生息する漁場として重要な磯場が多数存在する。沿岸域の環境計画策定のためには、現在情報の不足している海中(干潟も含めて)の詳細調査が必要である。
著者
新野 宏 伊賀 啓太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

塵旋風・蒸気旋風・竜巻の発生機構・構造・力学の理解を多様な手法で進め、以下のことがわかった。塵旋風は、対流混合層の中層で作られる循環が下降流で地表面近くに運ばれ、これが上昇流域に角運動量保存的に収束することにより発生する。湿潤対流混合層で生ずる蒸気旋風は降水の無い場合には塵旋風と似た機構で発生するが、降水がある場合は、隣接する降水域からの冷気プールの衝突が重要な役割を果たす。これら強い渦の接線速度分布には2つのレジームがあり、回転境界層が重要な役割を果たす。
著者
細川 貴之
出版者
財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

我々は日常生活において、コンテスト、スポーツ、ビジネスなど他人と競争しなければならない場面に遭遇する。そして、それらの競争に勝てば喜びを、負ければくやしさを感じるといったように、競争場面はしばしば我々に情動を引き起こす。また同じ報酬であっても、競争で相手に勝って得た場合と競争なしで単に得た場合では感じ方が違う。通常、前者の場合のほうがより大きな喜びを感じるだろう。逆に、単に報酬がもらえないときよりも、競争で負けて報酬がもらえないときのほうがフラストレーションを強く感じる。つまり、競争場面であるか、そうでないかによって、我々の物事に対する感じ方には違いが出てくる。このように競争に勝ったり負けたりすることは我々に様々な情動を引き起こすとともに、その競争場面は我々の認知様式に影響を与える。したがって、競争場面と非競争場面では、行動および脳活動に様々な違いがあると推定できる。我々はニホンザルに対戦ゲームをするように訓練し、ゲームで勝ったり負けたりしたときの行動および神経細胞活動を調べてきた。その結果、サルは競争時に動機づけが高まること、さらに前頭連合野の神経細胞は同じ報酬であっても競争に勝って得た報酬かどうかによって異なる活動を示すことを見出した。しかし、これまでの実験では、競争に勝てば必ず報酬が与えられたため、「競争に勝つこと」と「報酬をもらう」に対して前頭連合野の神経細胞がどのような活動を示すのかということを別々に調べることができなかった。この問題を解決するため、我々は「競争における勝ち・負け」と「報酬のあり・なし」を分離した課題を導入することにした。本年度(平成23年度)は必要なデータをすべて記録し、そのデータの解析を済ませた。得られたデータを論文としてまとめ国際的なジャーナルに投稿した(今現在審査中)。
著者
中島 大賢
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

過去2年間の研究で,葉内ベタシアニンは青緑色光を吸収することで葉緑体による余剰な光吸収を緩和する「遮光作用」があることを明らかにした.また,ベタシアニン蓄積の影響は葉の背軸側でより顕著であり,維管束鞘細胞および海綿状葉肉細胞でベタシアニンの光防御効果が特に高いことを見出した.一方,ベタシアニンには活性酸素種を消去する抗酸化能があることが報告されており,「抗酸化作用」により光阻害を緩和する可能性が示唆されている.そこで本年度の実験では,抗酸化作用による光防御効果の有無を確認するため,ベタシアニンによる吸収がほとんどない赤色LEDを光源とする強光を低二酸化炭素条件下で青葉および赤葉系統の葉に照射し,ベタシアニンの遮光作用を排除した際の光阻害程度を検討した.その結果,青葉・赤葉系統間には葉の向軸側および背軸側いずれにおいても光阻害程度に有意差は認められなかったことから,葉内ベタシアニンには抗酸化作用による光防御機能はなく,遮光作用によってのみ光阻害を軽減するものと結論付けられた.さらに,アマランサスの青葉系統と他の植物種の光阻害特性を比較したところ,青葉系統の葉は他の植物種に比べ光防御能力が低く,特に維管束鞘細胞および海綿状葉肉細胞における光阻害感受性が高いことが示唆された.ベタシアニンの遮光作用が維管束鞘細胞および海綿状葉肉に対して特に効果的であることを考慮すると,本色素の蓄積は光阻害を受け易いアマランサス葉内部を保護するうえで重要であると考えられた.このようなベタシアニンの光防御機能は赤葉系統の葉の老化を遅延し,個葉光合成能力の維持に寄与するものと考えられた.
著者
井上 英俊
出版者
明石工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、リスニングとしての写真描写問題に関して、1)問題項目間における特定の要因に基づく特性と2)各問題項目における特定の要因の操作に基づく特性を、学習者のリスニング能力に照らし合わせて明らかとすることであった。調査結果として、問題項目において使用された総語数と調査対象者の正答者率との間には相関関係があり、より低い聴解能力の学習者は容易な単語が多く含まれている錯乱肢を選ぶことが明らかとなった。また、TOEIC リスニングスコアが235点から360点である学習者には英文の再生スピードを遅すると聴解を促進したが、230点以下の学習者には効果がないことが明らかとなった。
著者
石川 剛郎 山口 佳三 泉屋 周一 斎藤 睦 待田 芳徳 田邊 晋 齋藤 幸子 高橋 雅朋 北川 友美子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

サブリーマン幾何やトロピカル幾何と関連する外微分式系の積分曲線に付随する特異曲面に関して,実代数幾何の見地から特異性の分類を実行し,ジェネリックな標準形を完成させた.ルジャンドル双対性と制御理論の見地から,枠付き曲線や曲面の接線ヴァライティーの特異性を分類し,写像のオープニング構成の概念を発展させ,一般の部分多様体の接線ヴァライティーの特異性の分類問題に応用した.また,G2サブリーマン幾何を非線形制御理論と実代数群の表現論の側面などから研究し,関連する特異性を分類した.さらにD4幾何の三対性とD型特異点論を進展させた.以上について論文を執筆し,国際的学術雑誌に発表済みまたは現在投稿中である.
著者
厚地 淳 田村 要造 鈴木 由紀 安田 公美 相原 義弘 田村 要造 鈴木 由紀 安田 公美 相原 義弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ネヴァンリンナ理論は、有理形関数の除外点の個数を評価するなどの有理形関数の値分布の研究に使われる基本的な理論である。古典的なネヴァンリンナ理論が確率論を使って記述できることは研究代表者などの研究により知られている。本研究は、この確率論との関係をより深く研究することにより、一般のケーラー多様体上で定義されている有理形関数に対するネヴァンリンナ型理論を構築する。さらにそれを応用して、ケーラー多様体上の有理形関数の値分布、特に除外点の個数の評価への応用を研究した。
著者
河村 篤男 藤本 博志 藤本 康孝 下野 誠通
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究の成果の特徴は次の2点に集約される。(1)SAZZチョッパのトポロジーで、50kW出力、電力密度100kw/〓を実現した。(2)可変速駆動系システムに直列チョッパを導入する時の省エネ効果は、そのシステム構成によって幅がある。特に、電気自動車に限れば、25kw試験装置において直列チョッパの高電力密度化、軽量化により、JC08モード走行において3%以上の省エネ効果が確認された。さらに、チョッパの軽量化と直流電圧の選択によっては、10%程度の省エネの可能性が示された。
著者
仲谷 満寿美
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度はレオン・バッティスタ・アルベルティ(1404-1472年)の恋愛小品群を中心に研究を進めた。『デイーフィラ』においては、失恋した若い男性がかつての恋人に病的なまでの執着を見せる。このような精神状態は西洋中世の医学では正真正銘の精神病と看做されていたことが、本年度の研究で明らかになった。当時の権威ある医学書のかずかずにおいて、仕事の精励や旅行などが恋の病の正式な療法として推奨されていた。この病気については、文学的トポスと医学的処方が交錯していたのである。『エカトンフィレ』では、女性の愚かさが再三話題にのぼる。『デイーフィラ』では女性の性悪さが、『エカトンフィレ』では女性の愚昧さが強調されており、両作品には強いミソジニー(女性に対する反感・蔑視)の傾向が認められる。ただし、アルベルティの作品におけるミソジニーは、一般的な男尊女卑とは異なっているように見受けられる。両作品を鑑みるに、作者自身の強い自意識、誰よりも優れているのを認めてほしい自尊心、自分の優秀さは女性(たち)からも称賛されるのが当然とする自負心、にもかかわらず認めてくれない女性(たち)にたいする不満、それでもなお女性(たち)から認めてもらえなければぐらついてしまう自信、といったものが言外に表明されている。『レオノーラとイッポーリトの愛の物語』は、ロミオとジュリエットの物語の原型の一つであるとされるが、この物語には、恋人を危機から救うために居並ぶ政府要人の前で滔々と演説する若い女性が登場する。この小品がアルベルティの真作かどうかは不明であるが、アルベルティと同時代に、このように主体的に行動する女性の物語が流行していたことは注目に値するだろう。建築家・思想家として有名なアルベルティが、表向きのミソジニーの下に複雑な人間心理を巧みに表現するこれらの文学作品を書いていたという事実は、きわめて興味深い。
著者
金谷 繁明
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

大脳皮質抑制性神経細胞は主に腹側終脳の基底核原基にて誕生し、接線方向移動(tangential migration)をして大脳皮質に到達する。基底核原基のうち、内側基底核原基(MGE)、尾側基底核原基(CGE)が大脳皮質抑制性神経細胞の主なソースであり、主にMGE細胞はLhx6、CGE細胞はCOUP-TFIIを発現する。近年、マウスモデルを用いた研究により、間脳の一部である視索前野(POa)からも抑制性神経細胞が由来することが報告されている(Gelman et al., 2009)。POaは遺伝子発現様式により背側POaと腹側POaに分けられるが、腹側POaに発現するDbx1転写因子に由来する抑制性神経細胞が、5層に由来する多くの抑制性神経細胞がDbx1由来であることが示され、それらは胎生11日目付近で産生されることが示された(Gelman et al., 2011)。しかしPOaに由来する大脳皮質抑制性神経細胞が移動中にどのような分子を発現し、どのような移動様式や移動メカニズムを取るかはほとんど知られていない。我々はMGEとCGEの両方のマーカーである(Lhx6、COUP-TFII)を発現する細胞群(M-CGE細胞)がPOaに由来していることを突き止めたことから、POa内でのM-CGE細胞の由来を詳細に解析した。局所遺伝子導入法にて腹側POaにのみ遺伝子導入をして腹側POa由来細胞を解析したところ、この領域から由来する細胞のほとんどがLhx6/COUP-TFII二重陽性であることを突き止めた。さらに背側POa由来の細胞ではLhx6/COUP-TFII二重陽性の割合が少ないことから、腹側POaがM-CGE細胞の主なソースと考えられた。
著者
山岡 哲二 斯波 真理子 馬原 淳
出版者
独立行政法人国立循環器病研究センター
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本プロジェクトでは、代謝のアンバランスからもたらされる様々な疾患を治療する"DNCS, Drug Navigated Clearance System"という新たな治療概念の実証に挑戦している。その基本的原理は、これまでのDDS研究には類を見ない「生体内病因物質を、生体が備えている別の分解・排泄機構へと誘導する」ことによる疾患の治療法である。まず、高脂血症治療を目指して、血中LDL分子を肝細胞アシアロオロソムコイドレセプターに誘導するシステムの構築を進め、モデルマウスを用いたin vivoでの効果の検証に成功してきた。昨年度は、拡張型心筋症の治療を目指した自己抗体の除去について同様の検討を実施した。その結果in vitroにおいては有効な幹細胞による体ゲット抗体の取り込みを確認したために、この治療効果を実証するための動物モデルの作成を進めてきた。すなわち、血中抗体価が低下することで、その症状の軽減をモニターできるシステムである。また、抗体を直接肝細胞へ誘導するシステムに加えて、体内のLDL分子をメディエータ分子として利用することで、単純な分子で目的抗体を肝細胞へ誘導することが可能となっており有望なシステムと考えている。現在、有効な動物モデルの作成には至っておらず、そのin vivo検証ができない状況である。しかしながら、特異的な抗体の幹細胞への誘導効率は飛躍的に向上しており、今後、他施設の動物モデルも検索した上で、in vivoにおける治療実験を進める。