著者
野島 博 木村 信也 鍋島 建太郎 田中 誠司
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、哺乳動物細胞および酵母より、以下に列挙するような細胞増殖を制御する新しい遺伝子を単離し、機能解析することで以下の諸点を明らかにした。l.細胞増殖を制御する新しい遺伝子を効率良く単離するために、高品質な差分化cDNAライブラリーを作製できる技術を開発した。それを用いてマウスのMITFの転写標的遺伝子を包括的に多数単離した。その中の一つであるGranzymeB遺伝子が実際にMITF転写標的であることを多方面から証明した。2.哺乳動物細胞のG1/S期での転写誘導に重要な役割を果たすE2F蛋白質の転写制御機構について、cdc2遺伝子とHsMCM遺伝子を用いて解析した。3.マウスのメラノーマの間(BL6-F10)の差分化cDNAライブラリーから単離したコネキシン26がfF10に筋肉注射によってさえ肺に転移するBL6レベルの強い浸潤・転移能を付与することを見出した。4.初代培養細胞でのみ発現している遺伝子群を差分化cDNAライブラリー作製により多数単離し、そのうちルミカンが実際にK-rasとv-srcの癌化に対する抑制機能を有することを証明した。5.出芽酵母のNIKIは発現がGIIS期でピークを持つ細胞周期性振動を繰り返すが、これがG2/M期遷移の制御のみでなく、S期開始制御も行うことを我々は新たに見出したので、その分子制御機構を詳しく解析した。6.分裂酵母のrfc3+遺伝子の温度感受性変異株を数株単離し、それらの一つであるrfc3-1変異を用いて詳細な解析を行った結果、Rfc3はDNA複製だけでなく、DNA複製チェックポイントとDNA損傷チェックポイントにおいても重要な機能を持つことを明らかにすることができた。
著者
乾 健太郎 岡崎 直観 楠見 孝 渡邉 陽太郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

(i) Web上の様々な医療・健康情報の間に潜在的に存在する同意、対立、根拠等の隠れた論理的関係を同定する言論間関係認識技術を研究開発した。(ii) (i)の要素技術として、大規模言語データからの知識獲得、述語項構造解析の洗練、仮説推論の高速化と機械学習に関する研究に取り組んだ。(iii) (i)(ii)の技術をソーシャルメディア上の情報に対する信頼性分析に応用し、ソーシャルメディア分析のケーススタディを行った。(iv) ネット調査を行い、批判的思考態度や教育歴がヘルスリテラシーを高め、適切なネット上の医療・健康、食品安全性に関する情報の利活用を促進していることを明らかにした。
著者
山中 英生 滑川 達 真田 純子 松浦 正浩
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

公共事業の社会的合意形成において涵養とされる「中立的第三者」を制度的に成立するため、本研究では,(1)那賀川流域フォーラム(2002-2004)(那賀川の河川整備計画策定に当たって形成された参加型検討会)、(2)沖洲マリンピア整備手法検討委員会(2002) (高速道路ICの海浜埋立事業の見直しを行った委員会)(3)月見が丘海浜公園ワークショップ(2003-2005)(海浜埋立地の大規模公園設計ワークショップ)(4)北常三島交差点安全施策検討会(2005-2006)(幹線道路交差点安全施策,地域及び沿道住民,利用者,関係行政機関によって、コンセンサスビルディングの手法を忠実に実施した事例)(5)吉野川河川整備計画「住民の意見を聴く会」(2006-2008)(流域委員会に代わる方式として2006年度より始められた会。国土交通省が中立的ファシリテータとしてNPOを選定。NPOは行動規範,中立性確保のための条件を公表し、運営に当たった。)の5事例を対象として、多様な参加形態における「中立的第三者」が成立する上で必要な要件を分析した,平成21年度は,平成20年度までに実施した,以下の徳島県内の5事例に関するヒアリング,アンケート調査をもとに,我が国のPIにおける中立的第三者の成立性を明らかにした.また,吉野川河川整備計画「住民の意見を聴く会」のファシリテータグループのファシリテーションの行為言動を記録したビデオを用いて,ファシリテータの行為・言動が中立性に及ぼす影響について分析して、中立的第三者としての職能,倫理,契約、中立的第三者を社会的な役割として構成するためのロスターの試行と課題を整理した。
著者
酒井 寿郎 川村 猛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

エピゲノム修飾酵素であるJMJD1A、SETDB1、および活性未同定のSET蛋白の抗原となるタンパクを昆虫細胞Sf9および大腸菌から精製し、免疫を開始した。また全長のタンパクを精製し、in vitroにおけるアッセイを開始した。活性未同定のSET蛋白はmesenchymal stem cellで発現させFLAGタグで免疫沈降を行い、これをヒストンメチル化アッセイに供し、活性を新規に同定することができたため、どのヒストンテールにメチル化を入れるか、質量分析器で解析することとした。さらに、このSET蛋白の発現量が骨分化に関与するという知見を得て、トランスクリプトームを細かい時間分解能で解析することとした。本研究は現在、基盤S (課題番号22229009) にて継続進行中である。
著者
岡本 賢吾
出版者
山形大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1.[本研究の主題]近世期の形而上学(ライプニッツ、ヴォルフ派、カント等)と現代の論理学(とりわけフレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタイン等の論理哲学的考察)においては、「無限」「関係(秩序、順序)」「様相(必然性、可能性)」の概念が重要な共通の主題となっている。こうした共通性の背後にどのような哲学史的・概念的連関が含まれているかを、特に「可能性」の概念について検討した。2.[可能性と命題]ライプニッツからヴォルフ派に到る形而上学では「可能なもの(possibile)」の概念が体系全体の基礎となるが、これは〈矛盾律・排中律・同一律という伝統的な形式論理の諸原理を満たす限りの任意のもの〉として特徴付けられ、現実的なものをもその一部として含む包括的な領域を成すとされている。この「可能なもの」は、論理的原理によって形式的に規定され構造化されている限りで、実は、真偽の決定を受け入れうる客観的な判断内容(命題)に、あるいはそうした命題によって表象される「事態」に相当するものだと考えられる。この点は、既にB・ボルツァーノが「命題自体」の概念を提起する際にライプニッツに即して示唆したことであり、それ以降、フッサール、フレーゲ、ラッセル等を通じて様々に展開され、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』において完成した形で叙述されることとなっている。以上は、拙論『「可能なもの」の形而上学の意義』で詳述した。3.[今後の課題]以上との関わりで見ると、命題(とりわけ、概念記法の言語における「文(Satz)」によって表現された思想ないし判断)を分析することによって「概念の形成」が行われるとするフレーゲの議論が重要性を持ってくる。このような分析こそが、論理的シンタクスに適合した(従って、まさに強い意味で「可能」な)概念を与えるとされるからである。拙論『概念形成の媒体としての「文」』参照。
著者
直田 健
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本課題では、世界初の「超音波を合図に分子集合・発光する分子」の開発に関する研究を行った。分子内π-スタッキングで安定化している洗濯ばさみ形状を有するtrans-ビス(サリチルアルジミナト)2核白金錯体が、超音波照射で分子内、分子間のπ-スタッキングのスイッチングを起こすことによって超音波応答怪の分子集合を起こすことが明らかとなった。さらに、集合現象による白金錯体どうしの著しいネットワーク化によって発光強度が増大することを見出した。例えば、白金錯体の有機溶媒の希薄溶液に数秒程度の短い超音波を照射して瞬時に得られるゲルが、溶液状態ではほとんど観測されない550nm付近での緑色のりん光(λex=420nm)を示すことを明らかにした。環状2核白金錯体の構造について詳細な検討を行った結果、2枚の平面間の距離によって、それぞれが異なる超音波応答性分子集合挙動を示すこと、金属錯体どうしの規則正しい配列制御が可能になることが明らかとなった。量子化学計算による分子論的・構造化学的・電子論的観点から系統的に検討することで、分子集合様式と発光特性の相関を精密に理解した。これによって次世代の発光性機能分子の一分野として、音響応答性発光素子の新たな分子設計指針を確立することができた。
著者
BOYD James Patrick
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

研究成果として、1)戦後日本のナショナリズムの要素となる40個のコードを記載するコーディング・マニュアルの作成、2)戦後首相の所信表明・施政方針演説、そしてこの演説に対する最大野党代表の質疑と大手新聞社3社の社説のデータベース化(収集・電子化・整理)、3)コーダー間の信頼性を確認するデータベースのコーディング結果などがあげられる。
著者
種市 淳子
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1. 研究目的本研究は、短期大学図書館における利用者のOPACを用いた情報探索過程を調査し、得られた知見をもとに、実証的観点から現状のOPACの評価と改善策を検討することを目的とした。2. 研究方法(1)ログ分析と(2)検索実験を用いた。(1)ログ分析:2004年〜2007年の各年の6月1日〜7月31日におけるOPACアクセスログを採取して分析した。なお実験対象としたOPACには検索のアクセスポイントに目次情報が付加されていた。(2)検索実験:短期大学生44名を被験者に、課題を用いた検索実験を行った。その際、探索前に、検索に使用する「情報源」及び「キーワード」の明確化を促す群と促さない群を設定し、収集されたデータ(検索画面の操作履歴、ヘッドカメラの映像、利用された情報源、発話プロトコル)から行動比較と分析を行った。3. 研究成果調査の結果、以下の3点が明らかとなった。1) OPACで実行される検索語は下位語と自然語が多用される傾向にあり、目次にヒットする割合が高い、また検索語にフレーズを使用する割合が年々増加している。2) 検索インタフェースに使用される用語(例:件名、分類コード)の認知度は著しく低い傾向にある。3) 探索前に「キーワード」を明確にした群は、「キーワード」を明確にしなかった群と比較して、OPACの検索実行数及び収集された資料数により高い数値を示した。以上の結果から、現状のOPACシステムについて、目次情報による検索アクセスポイントは利用者アクセスを促進する効果が認められること、OPACのインタフェースでは、短期大学生の検索リテラシーを考慮し検索用語の表記や説明方法に改善を要する点があることが示された。また探索前に探索目標(「情報源」「キーワード」)を明確化させる行為は情報収集活動に影響を与えることが明らかとなった。
著者
占部 城太郎 日野 修次 伴 修平 千葉 聡
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、1)集水域の土地利用と湖沼生態系の二酸化炭素分圧(pCO2)との関係を把握し、2)pCO2変化に伴う種間相互作用や物質転換効率の変質過程を生態化学量論の視点から明らかにすることで、3)地球・地域環境変化に伴う湖沼生物群集の応答予測を行うことを目的としている。この目的のため、前年度に引き続き湖沼調査を実施し、調査結果を強化するとともにGISを用いて集水域を解析し、湖沼pCO2への被覆・土地利用の影響を解析した。主成分分析により各湖沼の集水域の被覆・土地利用特性を数量化し、湖沼の物理・化学・生物パラメータとともに共分散構造分析を行ったところ、集水域に針葉樹林が広がる湖沼では溶存有機態炭素の流入が相対的に多く、これを従属栄養生物が直接・間接的に利用して無機化するためpCO2が増加することがわかった。しかし、集水域に田畑・市街地を多く含む湖沼では、栄養塩流入が相対的に高くなるため一次生産が活発となってCO2を吸収するため、pCO2は大気よりも低くなる。すなわち、湖沼の炭素代謝は栄養塩と溶存有機態炭素の流入バランス(化学量)に強く依存し、それらは集水域の被覆・土地利用を反映していることが示唆された。また、このような湖沼のpCO2変動に対する生物群集への応答を調べる、CO2濃度を操作したマイクロコズム実験を実施した。その結果、pCO2の変化に対する藻類の応答やその藻食プランクトンへの化学量効果は、藻類分類群によって異なることが示された。すなわち、ラン藻類ではpCO2の変化に応答は小さく、藻食プランクトンの餌としての価値も小さいものであったが、緑藻や珪藻類ではpCO2の変化に成長速度や化学量が鋭敏に応答し、藻食プランクトンの餌としての価値はpCO2濃度によって大きく変わることが明らかとなった。湖沼のpCO2の挙動はこれまで殆ど注目されてこなかったが、集水域の土地利用を指標する一方、湖沼の食物網にも強く栄養を及ぼすものであることが、本研究により示唆された。
著者
横山 芳博
出版者
福井県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまで魚類コラーゲンの架橋に関する研究は少なく、その架橋形成機構は不明である。リジルオキシダーゼ(LOX)およびその関連タンパク質[リジルオキシターゼ様タンパク質:LOX-like(LOXL)、LOXL2、LOXL3およびLOXL4]は、コラーゲンのリジンおよびヒドロキシリジン残基の酸化的脱アミノ反応を触媒することにより、コラーゲン分子間架橋形成の初発反応を担うと考えられている。本研究では、トラフグを用いて、9つのLOXファミリー分子が存在することおよびそれらの一次構造を明らかにするとともに、それらの発現・機能特性を解明した。
著者
佐々木 ゆり
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究においては、これまで実践が先行しがちであった小学校英語活動について、実践の基盤となる理論と併せて、コミュニケーション中心の英語活動を実現するための教員養成のプロセスを考察した。「コミュニケーション能力」については、必要性と目的を伴った相互作用の中で言語を使用するということが、また「子どもの(言語)学習過程」については、子どもが(1)自分がおかれた環境と関わる方法を自ら活発に探り、(2)環境との相互作用の中で状況を把握し、(3)自分の学習可能領域の範疇にある事柄を学び、その学びは(4)環境の中で利用できる手助けによって支援・促進されるという特徴が文献の分析から浮かび上がった。つまり、小学校英語活動はコミュニケーション中心という英語教育の構造的改革と、その実践のための教員の役割の再定義との双方を同時に進めていかなければならない状況にある。そのためには、英語活動の内容に関しては(特に導入期において)学習者に潤沢な音声インプットを与え、学習者が目標言語を使用する機会をできるだけ増やし、言語使用が自然に起こるような場面設定が必要となり、英語活動を担う次世代の小学校教員にはこれらのことを実現するための実践的なトレーニングが必要となる。本研究ではカリキュラム作成にプロジェクト形式を採用し、プロジェクト中の小テーマをそれぞれ3段階(歌やチャンツでの導入、小グループでの練習、アクティビティやゲームなどによる強化)で構成し、また指導には学生をアシスタントとして参加させた。これにより、学習者にとっては必要性と目的をもった学習場面を、また学生には新しい構造の英語教育を体験的なトレーニングの形で提供することができた。
著者
太田 亨 小島 聡 廣瀬 幸夫 古城 紀雄 村岡 貴子 菊池 和徳 門倉 正美 安 龍洙 門倉 正美 村岡 貴子 西村 謙一 安 龍洙 菊池 和徳 藤田 清士 酒勾 康裕 古城 紀雄 金 重燮 趙 顯龍 真貴志 順子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,(1)日韓プログラムにおける「通年予備教育」用活動型シラバス試案を公表し,(2)日本の大学教員が韓国における前半期予備教育の現場に直接入って教育する「教育参画」を行いシラバス試案の教育的な効果を検証すること,の2点を目指した。また,『研究成果報告書』を刊行し,その結論部において,日本語教育,数学教育,物理教育,化学教育に分け表形式で簡潔に纏めた形で上記シラバス試案を提示した。
著者
今 一義
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度の研究では、インスリン抵抗性のモデルマウスであるKK-A^yマウスを用いて、アセトアミノフェン誘導肝障害がインスリン抵抗性マウスで増悪し、肝細胞におけるROSの産生増強がその増悪メカニズムに深く関与していることを示した。そこで、今年度ではアセトアミノフェン肝障害増悪メカニズムの詳細な解析と、肝細胞の脂肪沈着とアセトアミノフェン肝障害増悪の関連についての研究を行った。in vivoの検討では、KK-A^yマウスの肝臓ではアセトアミノフェン処置後のJNK-2の活性化が著明に亢進しており、肝細胞壊死の亢進に関与したことが明らかになった。肝細胞の脂肪沈着については遊離脂肪酸の影響に注目し、初代培養肝細胞に遊離脂肪酸を添加してROSの産生メカニズムに対する影響を調べた。その結果、遊離脂肪酸によって前処置を行うと肝細胞の細胞質内に脂肪滴が沈着し、tert-butyl hydroperoxide添加による肝細胞壊死およびROS産生が増悪した。今回の研究により薬物性肝障害の発症・増悪におけるインスリン抵抗性の関与とそのメカニズムの一端が解明され、ひいては薬物性肝障害の発症予防・早期治療におけるターゲットとしてインスリン抵抗性に伴うシグナルの変化が重要であることが示された。また、肝細胞脂肪沈着によるROS産生刺激に対する感受性の亢進は非アルコール性脂肪性肝炎の発症・進展にも関与している可能性があり、メタボリックシンドローム関連の肝障害全般のメカニズム解明にも関連しうる結果と考えられた。
著者
狩野 方伸 崎村 建司 少作 隆子 岸本 泰司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

これまでの研究を継続・発展させ、平成25年度に以下の研究を行った。脳スライス及びin vivoの個体脳の解析は狩野が、培養海馬ニューロンの解析は少作が、行動学的解析は岸本と狩野が担当した。また、遺伝子改変マウスの維持は崎村が担当した。1. 内因性カンナビノイド(eCB)系によるNMDA受容体機能調節のメカニズム: 逆行性シナプス伝達を担うeCBである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の合成酵素DGLαの欠損マウスと、2-AGの受容体であるCB1の欠損マウスの側坐核中型有棘ニューロンの興奮性シナプスにおいて、NMDA受容体機能の低下が認められた。その原因として、NR2Bサブユニットを含むNMDA受容体の寄与が低下していることを示す電気生理学的所見を得た。2.大脳基底核の運動学習におけるeCB系の役割: 3レバーオペラント課題のマウスへの適用について、平成24年度に引き続き検討した。3.分界条床核の抑制性シナプス伝達の2-AGによる逆行性伝達抑圧のメカニズム:分界条床核の抑制性シナプスの逆行性伝達抑圧が、eCB系遺伝子改変マウスにおいてどのように変化しているかについて、継続して電気生理学的解析を行った。4.eCB系の海馬機能における役割: eCB系遺伝子改変マウスにおいて、瞬目反射条件付けのLI (latent inhibition)課題に関する解析を継続した。5.eCB系の抗炎症作用:U87-MGヒト悪性グリオーマ細胞における、NF-kBシグナルを介する炎症作用に注目し、グリアのeCB系による抗炎症作用のメカニズムを調べるための条件検討を行った。
著者
藤田 喜久
出版者
国立大学法人琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では,沖縄県下の離島地域に生息するヤシガニ資源の保全を目的として,1)離島地域におけるヤシガニの生息状況調査,2)野外調査機会を利用したヤシガニ資源保全に関する教育啓発,を行った.1) 沖縄県下の離島地域におけるヤシガニの生息状況調査沖縄県下の各島におけるヤシガニの生息状況を解明するため,南大東島,宮古島,多良間島,波照間島において,(1)海岸部におけるヤシガニ小型個体の生息状況調査と,(2)夜間踏査によるヤシガニの生息状況調査を行った.宮古島,多良間島,波照間島の3島におけるヤシガニの個体数は,宮古島では南部および北西部の海岸,多良間島では北部海岸,波照間島では北部および南西部の海岸で,それぞれ多く見られ,今後,これらの地域で特に資源の保全を図る必要があると思われた.特に,多良間島での個体数は極めて多く,夏期の調査では2kgを超える大型個体も複数観察された.また,宮古島と多良間島の海岸において,飛沫転石帯の転石下より甲長2cm未満の小型ヤシガニを複数個体(宮古島1個体,多良間島3個体)発見した.一方,南大東島では,ヤシガニ個体は洞穴内にてわずか1個体しか発見できず,資源量が激減している可能性が示唆された.2) 野外調査機会を利用したヤシガニ資源保全に関する教育啓発野外調査のために離島地域を訪れた際に,地域の博物館や公民館等(南大東島島まるごと館,宮古島市総博物館,多良間村ふるさと民俗学習館,波照間公民館)において,ヤシガニについての聞き取り調査を兼ねた談話を行った.特筆すべきは,宮古島市総合博物館との2度の協議により,2009年7月21日~8月30目に「ヤシガニと人の暮らし展」が開催されることが決定したことである.本研究の過程でヤシガニの様々な生態資料(写真,動画)が集まったので,それらを有効に活用することができると思われる.
著者
小池 和彦 森屋 恭爾 新谷 良澄
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

C型慢性肝炎患者においては、いくつかの肝細胞内機能異常が見出さている。核を介した遺伝情報システム異常、小胞体や核における蛋白合成・輸送・分解の異常、そしてミトコンドリアにおけるエネルギー代謝の異常である。私たちはこれまで、主にC型肝炎ウイルス(HCV)コア遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを用いて、HCVの肝発癌への直接的な作用を明らかにしてきた。発癌前の肝ではMAPKシグナル伝達経路が活性化され、HCVは細胞内の遺伝情報システムの異常をもたらすことが明らかとなった。一方、コア蛋白は肝において炎症不在下に酸化ストレス(ROS)発生を亢進させている。コア蛋白を発現している肝細胞ではミトコンドリア機能の異常が存在し、それが酸化ストレス産生に関与していることが明らかにされた。これまでのデータでは、ミトコンドリアのコンプレックス1が主な障害箇所であったが、今回、ミトコンドリア・シャペロンであるプロヒビチンを介してコンプレックス4の機能障害も引き起こし、酸化ストレスの増加へ繋がることも明らかとなった。今回、免疫抑制剤であるタクロリムスがコア蛋白によって引き起こされている肝細胞ミトコンドリア電子伝達系機能障害の改善を介して、脂肪酸増加→PPARα活性化→酸化ストレス増加→ミトコンドリア機能障害→脂肪酸増加という負のスパイラルを改善することが明らかになった。HCVを排除できないC型慢性肝炎患者における肝疾患進行抑制へ向けて重要な意義をもつと考えられる。
著者
芦野 訓和
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

現代社会においては、直接の契約当事者以外の者が関連しながら、複雑で立体的な法律関係を作り出していることは少なくない。本研究では、請負契約におけるそのような関与者である「下請負人」に焦点を当て、その者の法的地位について検討を行った。下請負人は、元請負契約においては直接の当事者ではなく、立法過程においても必ずしも意識はされていなかったが、多角的法律関係の関与者として、一定の要件を満たした場合には、法的地位を認めるべきである。
著者
塚本 昌彦 寺田 努 義久 智樹 義久 智樹
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、実世界に多数散らばるユビキタスデバイスをそれらのトポロジを用いてプログラミングする(群コンピューティング)枠組みを構築した。特に、ネットワークのトポロジを用いてうまくコーディングしていくこと(トポロジコーディング)を考えた。まず最初に、格子状のネットワーク上でグローバル通信とローカル通信を組み合わせて全体制御をする枠組みGlocalGridを設計し、デバイス、システムを実装した。さらに、主としてセンシングデータ収集を行うことを想定して、さまざまな効率的なアルゴリズムを検討した。応用分野としてはダンス、演劇、スポーツなどのアート・エンターテインメント分野を考え、システム展開を図った。
著者
加藤 國安
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

子規文庫の漢籍や自編漢詩集の調査から、子規が生涯を通して深く漢文と関わり、その豊富な漢詩理解から自作の漢詩が創作され、また近代俳句が醸成されたことが明確となった。また『中等教科漢文読本』を中心に調査した結果、明清の散文を入り口とするという基本的な方針のもとに編集されていることが分かった。それは齋藤拙堂-三島中洲-簡野道明という、江戸後期から明治期へという一連の人脈を通して踏襲されていること。また時代が明治に変わっても、高い学識でもって古今の漢文を厳選し、これにより近代的な国民教育を実践し、すぐれた人材の育成に資せんとする顕著な意図があったこと等を論証した。以上を総合して、明治の社会が観念的な近代西洋文学の直輸入に覆い尽くされたわけではなく、長年にわたり培ってきた豊富な漢文力の土壌の上に、東洋の豊かな人間観や調和的な自然観と親密な関係性を保ちながら、三千年の言語的文化遺産に深く.がっていたこと。そしてそこから生まれてきた東西文化の高度な融合文芸や、国際的な運用にかなう道義・見識の形成に大きく寄与したこと、またそれゆえに文化的様性のもつ資源力のきわめて重要なことについて述べた。