著者
平岡 昌和 古川 哲史 平野 裕司
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

HERG Kチャネルは心筋の再分極に重要な役割を果たすIkr電流をコードし、また最近QT延長症候群の一つ・LQT2の原因遺伝子であることが判明した。さらに、多くの薬物によっても抑制されることから薬物誘発性QT延長の原因ともなりやすい。そこで、我が国のLQT2家系に認められたHERG Kチャネル遺伝子の機能解析を中心にその抑制機序を検討した。T474I(I-II linker),A614V,V630L(チャネル外孔部)について卵母細胞にて発現実験を行うと、変異種単独では電流を発現せず、野生型との共発現でその機能を抑制するdominant negative suppression(DNS)を認め、A614VとV630Lではさらに不活性化の促進から強い電流抑制を呈した。電位センサーに位置するS4のR534C変異では、単独では小さな電流しか発現しなかったが、野生型との共発現ではDNSを示さなかった。発現電流では活性化曲線のシフトが見られ、S4が電位センサーとして働くことを始めて明らかにした。この変位での電流抑制機序は脱活性化の促進のみでQT延長を来す十分な説明とはならず、未知の抑制機序の関与が考えられたが、調節因子との会合不全を示す所見は得られなかった。HERGのC端側のS818L変異は、単独では電流を発現せず、野生型と変異型cRNAを1:1で混合注入による共発現では電流を発現し、しかもDNSを示さなかった。ところが、変異種を増量した割合で共発現させると、明らかなをDNSが見られ、電流活性化曲線はマイナス側にシフトし、活性化・脱活性化が促進された。これらの結果から、S818L変異は野生型と会合して膜に到達して機能的なチャネルを形成すること、HERGのC端側が一部電流の活性化にも関与しうることが示唆された。このようにHERGの変異部位によって異なる電流抑制機序を発揮し、それはこのチャネルの機能-構造相関にも有意義な情報をもたらした。これいがいに、アシドージスやエストロゲン、抗不整脈薬のシベンゾリンによるこのチャネル抑制機序を明らかにした。
著者
大堀 淳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

直観主義的論理学の自然演繹証明システムとラムダ計算との同型関係を拡張・一般化し, 機械語コードの証明論を完成し, コードの最適化やコードの検証をより体系的に行う基礎を構築した。この証明論では, 機械語コードは, 左規則のみからなるある種のシーケント計算として表現され, その操作的意味, すなわち, コードを実行する機械の状態遷移規則は, シーケント計算のカット除去定理の証明から系統的に抽出することができる。さらに, この証明システムは, 低レベルコードのアクセス権限の検証や制御フロー遷移の最適化などの基礎となることが示された。
著者
長弘 千恵 樗木 晶子 馬場園 明 堀田 昇 高杉 紳一郎
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

【経過】本年度は高齢者に対する事前調査の結果について検討した。【目的】看護職による転倒予防のための個別訪問指導行い、転倒予防のための個別訪問指導運動プログラムの評価を明らかにする。また高齢者の転倒体験と身体的精神的状況、居住環境、福祉制度および社会資源の活用状況との関連を明らかにすることを目的とした。【対象・方法】農村地域に住む75歳以上の在宅女性高齢者136名を対象に、看護師による家庭訪問調査を行った。調査内容は最近5年間の転倒状況、身体的状況、居住環境、福祉制度および社会資源の活用状況等であった。分析には転倒歴に欠損値のない131名を使用し、転倒要因では該当するものに1、該当なしを0として加算した。解析には対応のないt-検定、x^2検定、ピアソンの相関係数を使用した。【結果】(1)転倒体験者と非転倒体験者では年齢、介護度、寝たきり度、身体的状況、住居環境において差はなく、家族数では転倒体験者より非転倒体験者の方が多かった(2)転倒回数と自覚症状数には相関がみられ、転倒回数と排尿回数では負の相関がみられた(3)寝室の障害物で転倒体験者は非転倒体験者より多く、転倒回数との間に相関がみられた(5)社会資源の利用では差はないが、訪問介護の利用では転倒体験者が非転倒体験者より多かった(6)介入郡コントロール郡共に監察期間中に転倒が少なく、比較することはできなかった【考察】在宅の後期女性高齢者においては転倒体験者では転倒に関する自覚症状数が多いことから、介護者による転倒予測の可能性考えられた。また、寝室に障害物が多いことから住居環境の改善指導の必要が示唆された。
著者
小野田 拓也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

3年度目にあたる平成24年度は、前年度後半に浮上したECにおける経済介入と規制政治との関係にかかわる課題に力を入れた。本研究課題が追跡してきた雇用政策・産業政策・地域政策の境界画定は、同時に配分政策と規制政策のあいだの政策手段の組み合わせや比重をめぐる調整をもたらすことになった。70年代~80年代前半におけるこの政策領域間の調整をめぐる政治が、のちのECにおける「規制国家」化とも呼ばれる発展にいかなるインパクトを与えたか、本研究が発展させてきた視角を引き継いで、欧州委員会・加盟国政府・私的アクター間に形成された異なる政策手段の採用・変更を担う支持連合の管理に着目しつつ、二次文献の渉猟を進めた。その結果、(A)「規制国家」理論とは裏腹に、80年代後半~90年代前半時点での規制・財政手段の組み合わせ、そしてそれぞれの政策手段における決定・執行の構造は、対象となる産業セクター毎に相当のヴァリエーションをみせた。この産業セクター間の財政手段の有無をめぐるヴァリエーションは、部分的には70年代における財政手段を通じた改革の挫折に由来しており、政策領域の構造は機能的要請のみに還元されないとする本研究のこれまでの成果を裏付けるものである。(B)しかし同時に、転換のタイミングを説明するためには、委員会主導の産業政策を支持する加盟国政府の国内統治戦略をも考慮に入れなければならないことも判明した。とりわけ、委員会の産業政策への主たる支持者であったフランスにおける70年代の競争政策をめぐる制度改革は、国内においては十分に貫徹されなかったものの、のちの超国家レヴェルの競争政策の改革においては政策・制度上のインフラを提供することになり、加盟国・超国家レヴェル間における相互作用への着目を改めて浮き彫りにしたといえる。
著者
鈴木 一郎
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ヒドラジン、ヒドラジド型不斉有機触媒を用いた不斉Biginelli反応に関して検討を行った。ピラゾリジン塩酸塩が高活性を示したことから、これを元にアザプロリン型不斉触媒を合成し、Biginelli反応に応用した。しかしながら、ピラゾリジンに比べ、触媒活性が大きく低下したほか、不斉収率は低いことが解った。このほかにジアミイミダゾリジノン、アミノオキサゾリジノン型触媒を検討した。これらの触媒はDiels-Alder反応においては高活性を示し、不斉収率も極めて高かった。
著者
田中 克史 米竹 孝一郎 木村 浩
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.(1)球状のシリカ粒子、板状のベントナイト粒子/水系コロイド分散系に関して、レオロジー挙動を検討した。板状粒子系の場合、塩添加にともなって粘度が減少し、さらに高塩濃度では増加する結果が得られ、球状粒子系との相異が認められた。(2)徹底的な脱塩・脱水処理を施した板状のベントナイト、ヘクトライト/有機溶媒コロイド分散系では、粒子分散は分散媒の誘電率増大によって安定化する傾向が得られ、電気二重層が水系と比較して極めて薄いことが考察された。2.(1)フラーレン混合物/ポリスチレンプレス複合膜では、極めて良好な粒子分散、熱安定が得られた。(2)酸化チタン/セルロース誘導体等方水溶液系では、溶媒除去による固定化の初期過程が偏光顕微鏡観察及び動的粘弾性計測により高感度で検出された。後者では、測定治具端部の局所的な挙動を反映したと考えられる。また、電気特性計測によって固定化の後期過程が良好に検出された。大振幅正弦波電場下での固定化試料では、セルロース誘導体のらせん軸は、電場方向と垂直な方向に一軸的に配向する傾向が得られ、粒子の分散は良好である結果が得られた。3.(1)反応性シリコーン、カーボンナノファイバー分散系等について、熱特性、レオロジー特性等を検討した。シリコーン系の硬化過程は、電気的測定よりはレオロジー測定によって、より良く検出される結果が得られた。(2)上記分散系における電場配列を行った結果、分散系における見かけの電気特性との間に相関関係が得られ、その場でのモニタリングに有効である結果が得られた。(3)セルロース誘導体異方性水溶液、多層カーボンナノチュ-ブ分散系において、せん断及び正弦波電場印加を行い、電場配向挙動を検討した。観察初期に与えるせん断方向と電場方向の関係によって、電気的な特性に差異が認められたが、より詳細な検討を行う必要があると考えられる。
著者
青木 幹喜 水谷 正大 山田 敏之 石井 昌宏 松崎 友世
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、チーム・エンパワーメントの概念を明らかにするとともに、チーム・エンパワーメントの先行要因やその諸効果を明らかにした。チーム・エンパワーメントは、チームに有意味感や自己決定感、効力感、到達感のある状態のことである。そして、こうした状態に至るには、外部チームリーダーの行動等が関係していることが明らかになった。さらに、チーム・エンパワーメントにより、チームの創造性発揮も促進されることが予測されている。
著者
徳永 幹雄 高柳 茂美 磯貝 浩久 橋本 公雄 多々納 秀雄 金崎 良三 菊 幸一
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、スポ-ツ選手に必要な「精神力」の内容を明らかにし、その診断法とトレ-ニング法を明らかにすることであった。3年間の研究成果は、次のとおりである。1「心理的競技能力診断検査」および「心理的パフォ-マンス診断検査」の作成スポ-ツ選手に必要な精神力の内容は、競技意欲を高める能力(忍耐力,闘争心,自己実現,勝利志向性),精神を安定・集中させる能力(自己コントロ-ル,リラックス,集中力),自信をもつ能力(自信,決断力),作戦能力(予測力,判断力)および協調性の5因子(12尺度)であることが明らかにされた。これらの結果、52の質問項目から構成される心理的競技能力診断検査と10項目から構成され、試合中の心理状態をみる心理的パフォ-マンス診断検査を作成した。いずれの調査も精神力の自己評価、実力発揮度の自己評価、競技成積などと高い相関が認められ、その有効性が証明された。また、2つの検査法には高い相関が認められ、心理的競技能力診断検査で高い得点を示す者ほど試合中に望ましい心理状態が作れることが予測された。今後、スポ-ツ選手の心理面のトレ-ニングに活用されるであろう。2心理的競技能力のトレ-ニング心理的競技能力診断検査の結果にもとづいて、それぞれの内容をトレ-ニングする方法をカセット・テ-プにまとめた。その一部は平成2年度国民体育大会福岡県選手に適用した。また、一般のスポ-ツ選手を対象としたメンタル・トレ-ニングの「手引き書」も作成した。3報告書の作成過去3年間の研究成果を報告書としてまとめた。
著者
吉川 玄逸
出版者
滋賀医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

研究対象は当初予定の32チーム約100名の投手から、最終的に22チーム80名の投手に変更され、調査を実施した。調査方法のうち(1)アンケート調査および全員の診察・レントゲン検査は対象80名に対して施行し得た。(2)投球動作の三次元解析については現在、対象者を順次呼び出しあるいは訪問によって解析を続行中である。現在までの結果は主に(1)によるものである。投球時の肩痛の既往がある選手は38.8%,現在投球時痛がある選手は12.5%であった。Relocation testは肩の痛みや痛みの既往と有意な関連があったが、個々の病態との特異性はなかった。全身関節過可動性と肩関節動揺性は肩の痛みや、理学検査上の異常とは関連がなく、投球障害には無関係であるように思われた。肩峰の形態と肩の痛みやimpingement signはとくに関連性はなかった。但し,type II群には有意に肩甲上腕関節後面の圧痛が少ないことが判明した。以上の概要を第12回日本肩関節学会で報告した。
著者
吉川 玄逸
出版者
滋賀医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

研究対象は以前に調査した22チーム80名を再度対象にして施行した。今回は肩に加えて肘関節の解析にも重点を置いた。アンケート調査の結果、肘痛の既往がある者は38名、現在肘に痛みのある者は15名であった。肘の痛みがある群に偏って多いのは肘外反ストレス検査と内上顆、肘頭外側の圧痛であった。X線検査上、肘に異常を認めたは12名(15%)であり、その殆どは上腕骨内上顆下方の異常であった。投球動作解析は今回から肩回旋運動、肘運動に対してねじりゴニオメーターを応用することを試みた。試験的運用において、データの正確な採取にいくつかの改良を要する点が見つかり、現在、改良を加えて解析方法の信頼性向上に努めている。
著者
平井 肇 天野 郡寿 佐川 哲也 深澤 宏 金 恵子 松田 恵示 沢田 和明
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、スポーツのグローバル化の流れが、アジアの諸国においてどのように受容され、その結果、社会・経済システムや文化形態全体にどのような形で波及し、影響を及ぼしているのかについて分析・考察することを主たる目的として調査研究を行ってきた。「個別の地域研究」(平成11年度)と「特定のスポーツ社会制度に関する比較研究」(平成12年度)に関して、各自がサブテーマをそれぞれ担当して、研究調査を行ってきた。最終年度は、研究成果の統合化を図ると同時に、成果を広く公表して、本研究に関心のある研究者の国内外のネットワークづくりに努めた。研究分担者が取り上げた調査研究テーマは、「子ども労働とスポーツ」、「フィリピンのプロスポーツ興行」、「中国の少数民族政策と体育」、「中国の近代化と体育政策」、「韓日の高校野球組織の比較」、「スポーツ労働者の移動」、「タイの近代化と子どもの遊び」、「シンガポールの華人社会とスポーツ」、「日本植民地下の朝鮮半島のスポーツ」、「米占領下のフィリピンのスポーツ」などである。グループとしては、フィリピン、タイ、中国へ赴き、それぞれの国におけるスポーツとそれを取り巻く社会環境について調査研究を実施した。また、アジアのスポーツ研究者と交流を深めるべく、タイ・チェンマイ大学とチュラロンコーン大学、フィリピン・デラサール大学、韓国・梨花女子大学、中国・河北大学で研究会を実施し、現地の研究者と情報の交換を行うと同時に、今後の共同研究の可能性やネットワークづくりについて協議を行った。これらの結果は、各自が書籍や雑誌、学会などで公表すると同時に、『スポーツで読むアジア』(世界思想社2000年)としてまとめた。また、研究グループのホームページ(http://www.yone.ac.jp/asia-sports/)を開設し、研究成果の公開を行っている。
著者
丹羽 健市 浅井 武 長井 健二 大貫 義人 笹瀬 雅史 竹田 隆一 曽 広新 李 宏玉 修 傳風 揚 振東
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

これは平成9年度〜平成11年度の3年間にわたって山形大学教育学部と中国・吉林師範学院体育分院の共同で行われた「日中東北地域におけるスポーツ科学の比較研究」の報告書である。近年、スポーツ科学の発展はめざましく、その国際化と多彩な分野の総合化は急務な課題となっている。そこで山形大学と吉林師範学院の体育・スポーツ研究者が、同じ東北地方に位置するという地理的条件などを考慮し、上記テーマを設定し、共同研究を通じて学術交流をすすめることになった。3年間にわたり、両大学の研究者が2名ずつ相互に訪問し、共同研究を実施した。この報告書には共同研究で得られた成果をもとに発表された論文・資料等を掲載した。また、共同研究会での発表の要旨も収録した。そこであきらかなように、この研究はバイオメカニクス、運動生理学、体育科教育、武道論、体育社会学などスポーツ科学がカバーする広範な分野に及んでいる。ここには、丹羽健市による運動時の水分摂取と体温調節の生理学的研究、大貫義人による低体温者の運動に関するスポーツ医科学研究、浅井武によるサッカーのバイオメカニクス研究。長井健二の体育科教育研究、曽広新の太極拳の運動生理学研究、竹田隆一、宮煥生の武道教育研究、笹瀬雅史の体育社会学的考察、などがまとめられている。また日本および中国の東北部という冬季寒冷な地城におけるスポーツ活動やスポーツ科学的トレーニングに関する知見の交流、さらに学佼やスポーツ施設などの実地見聞も共同研究をすすめるうえで有益であった。資料収集と情報交換は継続して行われた。こうして、同じように東北地方に位置し、教員養成系大学である山形大学と吉林師範学院の体育・スポーツ研究者の共同研究ならびに学術交流は一定の成果をあげたものである。今後は、この基礎作業を土台として、さらに共同研究を継続していくことが必要である。なお、この共同研究の実施と報告書の刊行は、「科学研究費補助金基盤研究(B)(2)」を得て行われたものである。
著者
鈴木 啓之
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

研究成果の総括1) UVA照射による実験結果についてマウスの背部皮膚を用い、UVA照射群ならびにPUVA施行群の2群に分けて実験を行った。その結果、PUVA施行群の一部の表皮にヘマトキシリン・エオジン染色でエオジン好性の顆粒の出現が見られ,epidermolytic hyperkeratosis(EHと略す)によく似た所見が認められた。この好酸性顆粒の性状につき、ケラチンを主とした免疫組織学的検討を行ったが顆粒の性状を同定するには至らなかった。ケラチンの凝集塊と思われるが、その他の物質である可能性も否定できないといった段階である。2) Persistent actinic epidermolytic hyperkeratosis(PAEH)のケラチン凝集塊についてPAEHはケラチンの凝集塊の形成が特徴的である。病巣部のケラチン凝集塊につき、どのようなケラチンの凝集塊なのか光顕ならびに電顕レベルで免疫組織化学を用いて検討した。その結果、ケラチンの凝集塊はケラチン1とケラチン10から成ることが判った。3) PAEHの病因病態ならびに分類に関する考察PAEHの病巣部のケラチン凝集塊がケラチン1とケラチン10から成ることが判った。研究期間内には遺伝子レベルでの検討にまでは至らなかったが、PAEHも先天性のEHと同じくケラチン1とケラチン10の遺伝子のmutationによる可能性が考えられ、誘因は強い太陽光線の照射であろうと推測した。分類に関しては、PAEHは強い日光照射により発症すると考えられ、後天性のEHを来す疾患のなかで独立した位置に置かれるべきと考える。
著者
吉野 和芳
出版者
神奈川工科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ビデオ映像処理による球技のコーチング支援を目的として,本年度は,ハンドボールゲームにおける攻撃時のフォーメーションに主眼をおき,シューターへ最終パスを送った選手をラストパッサーと定義し,ラストパッサーの動きに注目して攻撃フォーメーションの分析と評価を行った.具体的には,本年度の成果は次の2点にまとめることができる.1.選手同士の位置関係によるフォーメーションのモデル化と分類ラストパッサーがボールを受けたときとパスを送ったときの2時刻におけるラストパッサーのコート上の位置の変化により,攻撃フォーメーションを分類した.位置の変化は,ハンドボールコートを19の領域に分割し,それら領域の変化として定性的に表した.また,それぞれの時刻におけるラストパッサーと敵チームの選手との距離の総和の比率を引きつけ率として定義することで求め,ラストパッサーの動きの有効性という観点から攻撃フォーメーションの評価を行った.チームレベルが異なる3チームを敵チームとして,それぞれ同様の評価を行ったところ,チームレベルと評価値において相関がみられたことから,チームのディフェンスレベルの評価への利用も期待できる.2.オフェンスのパスワークによる攻撃パターンの分類チームの攻撃パターン特徴を検出するため,ラストパッサーの位置とラストパッサーからシューターへのパスの方向によって攻撃パターンの分類を行った.得られた攻撃パターンの割合からチームの攻撃特徴を推測した結果,分析対象としたチームの特徴と一致したことから,本手法による分類の妥当性やチーム分析への有効性が確認できた.
著者
三浦 信孝 CHI LEE Pei-Wha SUNENDAR Dadang NGUYEN XUAN Tu Huyen
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

三浦が2004年7月に国際フランス語教授連合FIPFアジア太平洋委員会委員長になったのを契機に申請した研究課題である。台湾、インドネシア、ヴェトナムの同僚を研究協力者に、日本、タイ、台湾、パリ,などで開かれる国際学会で研究交流を積み重ねた。かつてフランスの植民地だったヴェトナムやインド洋のレユニオン、モーリシャス、南太平洋のニューカレドニアを旅行しフランス語の使用状況について調査した。研究成果は研究課題に直接間接にかかわる多くの論文にまとめて発表した。
著者
大場 清 横川 光司 橋本 義武
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

我々は,複素平面上のある種の図形である稲妻対というものを考え,その稲妻対からdipoleを持つリーマン面を構成する方法を利用して,リーマン面のモジュライ空間の位相的な性質を明らかにしていくことを目的として研究を進めた.稲妻対は,深度と呼ばれる非負整数と複素数のあるある条件を満たす列と対称群の対という組み合わせ的データにより与えられるものであり,そのデータからリーマン面の種数が如何に決まるかを決定した.また,リーマン面上の2次微分に關するStrebelの研究を通して,我々の研究がdipoleのみの状況から一般の第2種アーベル微分を持つリーマン面へと拡張できることがわかった.リーマン面は標数0の代数曲線であるが,正標数の代数曲線に関しても,前丹後構造という概念を導入して,小平の消滅定理が成立しない代数曲面をモジュライ空間の中で正の次元をもつほど多く構成することができた.数理物理的側面からは,最も基本的なリーマン面である2次元球面に関連して,5次元Ads Kerrブラックホールの2つの地平線を近づけrescaleして極限をとることにより,2次元球面上の3次元球面束上に可算無限個の新しいEinstein計量を構成することに成功した.また,Killingベクトル場のツイストにより,Gauntlettたちにより構成されたコンパクトな佐々木-Einstein多様体を再構成することも行った.一方,稲妻対のある種の高次元化として,6次元球面にsmoothに埋め込まれた3次元球面たちを考えた.これはHaefliger結び目と呼ばれる高次元結び目であり,我々は(6,3)-型のHaefliger結び目の結び目解消数を定義して,そのすべてを決定した.
著者
安原 望
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究により以下に示す結果を得た.1.p型Si基板上に作製したSiGe歪量子井戸を用いて逆バイアスにより電流注入を行うと,インパクトイオン化によりキャリアが生成される.このとき量子井戸からの発光が観測されない.本研究ではこの原因として,正孔は量子井戸に捕獲されるが,電子は伝導体のバンドオフセットが小さい為量子井戸に捕獲されずに表面近傍に分布することを明らかにした.このような電子と正孔が空間的に分離した状態を形成するための電圧には閾値が存在し,閾値電圧以下ではキャリア供給を抑えた状態で電子正孔分離状態を維持できることがわかった.これらの知見をもとに,閾値電圧以下において溜めておいたキャリアを,電圧を解除することにより任意の時間に発光させることが可能であるあることを示した.これはSiGe/Si歪量子井戸を用いた電気書き込み光読み取りのメモリー動作が可能であることを示しており,デバイス機能化にむけた大きな前進を得た.2.SiGe歪量子井戸では歪によりSiの6重縮退したΔ_1バレーが4重縮退と2重縮退に解けることにより,量子井戸に形成される励起子の結合エネルギーの縮退も解けることが知られている.通常量子井戸は面方向に圧縮歪を受けるため,4重縮退した励起子のみが形成されると考えられていたが,本研究では偏光測定により2重縮退した励起子も形成されていることを明らかにした.SiGe歪量子井戸に形成される間接励起子についての理解を深めた.3.GaSb・Si量子ドットでは光学利得が観測されている.本研究では光学利得の注入キャリア依存特性曲線に対し3準位モデルを仮定することによるフィッティングを行った.実験との比較によりGaSb・Si量子ドットの発光メカニズムは3準位系であることの証拠を示すことができた.
著者
荒木 兵一郎
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

精神障害者の自立生活と居住環境との関係について、一昨年度はグループホーム居住者を含む在宅精神障害者を、昨年度は自立度が最も低い入院患者と救護施設等の入所者を対象としたが、本年度はそれらと比較するため自立度が高い健常者(学生等38名、高齢者向け住宅居住者76名)を対象に同一の面接アンケート調査と行動観察調査を実施した。調査内容は、当該対象者の基本属性としてのとしての家族構成、障害程度、問題行動や特殊行動の種類と状況、日常生活動作能力(ADL)、生活歴(職歴、入院歴など)などをみたのち、各種の日常生活行為について、これに係わる空間構成との関係をみている。日常生活行為としては、就寝、食事、だんらん、接客、排泄、入浴、家事、および近隣や友人との交流状況や就労状況などについて、その自立度または介護度を3段階の評価基準を設定して尋ねている。平均自立度は想定通り、健常者・学生>高齢者向け住宅居住者>グループホーム居住者>外来患者>救護施設等入所者>入院患者(とくに高齢精神障害者)の順である。しかし健常者だからといっても満点の人はなく、それぞれの生活部面でそれぞれが役割分担したり、社会資源で補なったり、手抜きしたりしている。自分の意思で手抜きしたりするのはいいが、自立や社会参加をしたくても、それが心身の障害によってできない人たちの問題が改めて提起される。とくに高齢精神障害者の場合には、病院や施設内で無為無欲の状況に陥り、ただ死を待つような状況さえもが見られる。これに対応する環境整備の充実を痛感している。
著者
金子 勇 高野 和良 園部 雅久 森岡 清志
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

高齢化の研究では、高齢者の所得、健康、職業、定年退職などが主な分野として焦点を受けてきた。加えて、日常生活におけるQOL(生活の質)の重要性とコミュニケーション能力の荒廃についての解決策が問題になる。ミクロ社会学に強く志向してきた高齢化研究に、私たちはマクロ社会学のパラダイムを導入する時期だと考えて、それを実践した。現代日本には6種類の「高齢者神話恐怖症」があるように思われる。すなわちそれらは、(1)65歳以上はすべて老人である。(2)大部分の高齢者は健康を損ねている。(3)高齢者は若い人々に比べると理解がのろい。(4)高齢者は非生産的な存在である。(5)高齢者は魅力に欠け、性的な関係に乏しい。(6)すべての高齢者はほぼ同じである。しかしながら、これらの「神話」は私たちの具体的な調査結果では否定されている。ライフコース理論の観点からは、縮小する活動や相対的な責任の喪失に伴って高齢者の役割が僅かなものになることは否定されるわけではない。私たちの調査研究の諸データによれば、高齢者の主観的な生きがい満足感は、ほとんどが高齢者自身の集団選択に依存している。要するに、高齢者が友人、知り合い、諸集団への関係をもてばもつほど、60歳以降に惚けることはほとんどないのである。換言すれば、人間関係面への先行投資や社会システムそのものに参加することは、高齢者にとって健康という利息を確かなものにする。適切な関係を保つことは当然に重要であり、高齢者の健康を促進するためにも、毎日の生活において、ラジオ体操をしたり、ウオーキングやジョギングやカラオケで歌ったりしつつ、社会システムとの多方面での関連をもつように努力することが重要なのである。
著者
宮本 新吾 目加田 英輔 園田 顕三
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の一つで、タキサン系・プラチナ系抗癌剤によりQOLの改善を認めるものの、その予後は未だ不良である。新たな抗癌剤開発が困難な現状では、卵巣癌に対する標的治療薬の開発が切望されている。しかしながら、現在まで、EGFRを中心にして分子標的治療の開発が行われているが、有効な卵巣癌治療薬は開発されていない。そこで、我々は、卵巣癌への新たな分子標的治療の開発を目的に、本研究において標的分子の同定およびその特異的抑制剤を用いた治療開発を行った。卵巣癌腹水中にはLPA(Lysophosphatidic acid)が高値に存在し、癌増殖活性化因子として作用していることが報告されている。LPAはEGFRリガンドを分泌型に変換し卵巣癌細胞増殖の中心的役割を担うEGFRを活性化する。したがって、EGFRリガンドの標的分子の可能性について明かにする目的で、腹水中および卵巣癌組織中ではEGFRリガンドの発現を検討した。その結果、HB-EGFが他のEGFRリガンドに比較し著明に発現が亢進していることを明らかにした。また、1)HB-EGFの発現を抑制すること2)HB-EGF分泌型にすることを抑制することで卵巣癌細胞のヌードマウス上での腫瘍形成が著明に抑制されることを明らかにした。これらの結果から、HB-EGFは卵巣癌における標的分子であるあることを同定した。さらに、HB-EGFの特異的抑制剤であるCRM197投与がヌードマウス上での腫瘍形成を抑制することを証明した。このことから、無毒でありヒトへの投与可能であるCRM197は、卵巣癌分子標的治療薬として臨床応用可能であることを明らかにした。