著者
丸山 真人 中西 徹 遠藤 貢 永田 淳嗣 松葉口 玲子 中西 徹 遠藤 貢 永田 淳嗣 松葉口 玲子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

人間の安全保障は、人間が安心して生活できることを保障するものであるが、そのためには地域での経済活動が自立していなければならない。本研究は、その条件として、地域コミュニティが確立していること、経済生活の中に廃棄物の再利用システムが埋め込まれていること、希少な自然資源の利用者が相互の利益を尊重し調整し合う制度を有していること、女性に自立の機会が与えられていること、環境教育が充実していること、などを明らかにした。
著者
和田 進 二宮 厚美 山崎 健 岡田 章宏 浅野 慎一 澤 宗則 太田 和宏 橋本 直人 岩佐 卓也
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本国内のみならず、グローバル社会全般にわたって不平等、格差、秩序の崩壊などの社会矛盾が広がりつつある。その構造的な要因と打開の方向を検討するのが本研究の目的である。本研究にかかわる研究者はこれまで「人間発達と社会環境」の相互関係、つまり主体と環境の双方向作用に注目しながら共同研究を推進してきた。その成果に立ち、本研究においては現代世界の秩序の崩壊と再構築の現状分析、および、その対抗軸として人間発達human developmentと新しい公共性neo publicnessの分析を行った。国際連合の提唱する「人間開発」やA.K.センの「潜在能力論」の限界をこえる「人間発達」のありかた、J.ハバーマス、U.ペック等の掲げる公共性の内包する矛盾を再検討する形で、現代社会の秩序形成を探求した。なお、その成果は報告書「Human Developmentと新しい公共性を軸とした社会秩序の学際的研究」(総ページ数446頁)としてまとめた。
著者
稲場 圭信 櫻井 義秀 大谷 栄一 濱田 陽 ランジャナ ムコパディヤーヤ
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、海外との比較により、ソーシャル・キャピタルとして日本の宗教が担う社会的な役割の特徴を明らかにした。3割以下と宗教人口の少ない日本においても宗教の社会貢献活動が活発化している。その内容は、災害時救援活動、発展途上国支援活動、平和運動、環境への取り組み、地域での奉仕活動、医療・福祉活動、教育・文化振興など非常に多岐にわたり、日本の宗教がソーシャル・キャピタルとして機能する可能性が示唆された。
著者
榊原 秀訓 岡田 章宏 大田 直史 庄村 勇人 友岡 史仁 洞澤 秀雄 田中 孝和 上田 健介 萩原 聡央 和泉田 保一
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

行政組織だけではなく、サードセクターを含む民間組織が行政サービスの提供を行ってきている。また、目標設定・協定締結や検査・評価が多用されてきた。公益事業関係では消費者組織の権限が強化され、都市計画領域では住民参加も進んでいる。同時に、サービス提供主体間の協働、透明性・情報公開やアカウンタビリティの確保、サービス提供労働者の労働条件確保、利用者の人権保障を目指した改革がなされ、公務員の伝統的価値を守る規範も策定されている。
著者
冨田 爽子 水野 晶子
出版者
拓殖大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では1560年から1601年の間にJohn Wolfeがその出版に関わった書籍474冊のデータ収集と分析を行なった。データ収集に関しては、日本で収集可能なものは研究代表者と研究分担者と共同で行い、海外での収集は英国・イタリアで研究代表者が行った。エリザベス朝の作家、翻訳者、出版業者そしてパトロンや被献呈者、書物収集家などについての正確で詳細なデータベースを共同で作成した。
著者
岩槻 幸雄
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

フエダイ上科魚類は、大きく3つの生活史のパターンがあることが判明した。Aタイプの代表的なフエダイ亜科魚類は、沿岸浅所で成長して、そのまま沿岸の岩礁域や砂浜地帯で成長・産卵するものが多いが、成長と共に水深200mの深所に移動するものもいた。大部分のものは琉球列島以南に分布生息するが、種子島・屋久島以北にのみ生息・産卵しているのは、フエダイ、ヨコスジフエダイ及びクロホシフエダイの3種のみであり、産卵場所は3種ともすべて九州南岸及び北西岸であった。しかも、3種の主な産卵場所は一カ所しかなく、そこから産卵された稚魚は黒潮及び対馬暖流に乗り、太平洋岸では房総近辺、日本海側では新潟沿岸まで稚魚が運ばれ、接岸・成長していた。更にその後、成長と共に産卵場所である九州地区に南下回遊している可能性が強く強く示唆された。Bタイプの代表的なハマダイ亜科魚類は、具体的な調査ではなかったが、琉球列島以南に分布し、沿岸域で主に産卵し、その沿岸浅所で成長し、その後成長と共に深所に移動するという生活史をもっているものと推察された。種子島・屋久島以北に、分布・産卵する種は殆どいないと判断された。Cタイプのタカサゴ亜科魚類は、琉球列島の珊瑚礁周辺で生涯の大部分を主な生息域として持ち、そこで産卵して浮遊期を送った後、生涯沿岸浅所の珊瑚礁周辺に生活史を持つと判断された。本タイプは、種子島・屋久島以北で分布・産卵するものはいないと判断された。以上のことから、我が国の沿岸性魚類の資源管理や増殖対策の検討を加えるにあたり、フエダイ科3つの生活史パターンを考慮することが重要であり、更に種子島・屋久島近海でフエダイ科魚類群集が完全に変わることから、琉球列島以南に生息するものと種子島・屋久島以北に生息するものと区別して考える必要があることが強く示唆された。
著者
岩槻 幸雄
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

インド-西部太平洋におけるクロサギ科クロサギ属魚類(Gerres)の分類学的再検討を行った。それらの結果は、以下のようになる。47公称種のすべてのシノニム関係を明らかにして6類似種グループ(complex)と2種の有効種を認め、下記にようにまとめられる。1)The Gerres oyena complex : G.oyena, G.baconensisとG.equulus ; 2)The Gerres filamentosus complex : G.filamentosus, G.infasciatus, G.macracanthusとGerres sp. 1 ; 3)The Gerres setifer complex : G.chrysops, G.decacanthus, G.setiferとG.silaceus ; 4)The G.erythrourus complex : G.erythrourusとGerres phaiya ; 5)The Gerres longirostris complex : G.longirostrisとG.oblongus ; 6)The Gerres subfasciatus complex : G.japonicus, G.maldivensis, G.subfasciatus, Gerres sp. 2およびGerres sp. 3 ; 特異的な種が2種 : G.limbatusとG.methueni. 従って従来8種程度が有効とされてきたが、7末記載種を含む合計22種が認められた。
著者
木村 清志
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

琉球列島,インドネシア,タイ,フィリピンにおける現場採集と世界各国の博物館からの借用標本に基づいて,アフリカ東岸からハワイ海域に至るインド洋-太平洋全域におけるトウゴロウイワシ科魚類の分類学的再検討を行った.その結果,次のような知見が得られた.1.ヤクシマイワシ属各公称種のタイプ標本調査から,本属各種の異名関係を明らかにするとともに1新種を発表し,さらに1種の未記載種を確認した.その結果,本属には11有効種が含まれることを明らかにした.2.ギンイソイワシ属についても,各タイプ標本の調査から,本属には5有効種が含まれることを明らかにした.また,BleekerのAtherina japonicaは明らかにギンイソイワシと同種であるが,この名は一次同名であるため,本種の学名に変更はない.3.Stenatherina属については,従来の知見どおり,1種が含まれる.4.ムギイワシ属については,ムギイワシを除く他の種,亜種のタイプ標本を明らかにした.Shultzが記載したムギイワシの3亜種については,基亜種であるムギイワシと明瞭な差異が認められず,その有効性については疑問が残された.5.これらの知見に基づき,同定を容易にするため,これら4属,およびヤクシマイワシ属とギンイソイワシ属に含まれる各種の明解な図を添付した検索表を作成した.6.本研究と付随して行われたヒイラギ科魚類,およびクロサギ科魚類の研究では,前者で2新種と1日本初記録種を発表し,さらに後者では2新種を含む科内の分類学的再検討を行った.
著者
深見 公雄 山岡 耕作 西島 敏隆
出版者
高知大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

魚類の種苗生産における初期餌料として現在多用されているS型ワムシは、魚種によっては孵化後の摂餌開始時期の口径に比較して大きすぎるため仔魚は効率よく摂食することができず、その初期減耗の大きな原因になっている。このため本研究では、S型ワムシに代わるより小型でかつ安定大量培養が可能な餌料の開発を目的とし、原生動物(鞭毛虫・繊毛虫)の仔魚初期餌料としての可能性について検討した。また、天然海域に生息する仔魚の消化管内容物を調べ、原生動物プランクトンの消費者としての仔魚の役割について調べた。まず稚魚ネットにより土佐湾や伊予灘で採取された全長数mm程度の仔魚の消化管内容物を、微生物学的な手法を用いて詳細に観察した。その結果、大きさが10〜40μm程度の原生動物が仔魚によって捕食されているのが確認された。約47属319個体の仔魚について、その消化管内部を観察した結果、魚種によって、(1)観察した個体のほとんどすべてで原生動物が多量に観察されたもの、(2)観察されないかされても比較的少量であったもの、および(3)全く原生動物の捕食がみられなかったものの3群に分かれることが明らかとなった。(1)のグループにはカワハギ・アミメハギ・ヒメダラ等が、また(2)のグループにはシロギスやタチウオ等が、(3)のグループにはカタクチイワシ・マイワシ・クロサギ等が該当した。天然仔魚が原生動物を摂餌していることが明らかとなったため、種苗生産により得られた孵化後2〜3日の摂餌開始期にあたる仔魚を約24時間飢餓させたのち、海水中より分離した鞭毛虫および繊毛虫を与えた。その結果、孵化後3日齢のアユ仔魚や孵化後4日齢のヒラメ仔魚ではまったく繊毛虫を摂食していないことを示す結果しか得られなかった。またマダイにおいては、孵化後3日齢の仔魚はほとんど摂食しなかったものの6日齢仔魚ではわずかながら仔魚添加実験区での繊毛虫の密度が無添加対照区に比較して減少しており、マダイ仔魚による繊毛虫の摂餌が示唆された。また前記の魚種に比較してより口径の小さい2日齢のキジハタ仔魚では、繊毛虫を捕食していることを示唆する結果が得られた。以上の観察・実験結果から、魚種によっては孵化直後の初期餌料として繊毛虫等の原生動物プランクトンが有効であることが示唆された。
著者
木村 清志
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

日本国内やベトナム,タイ,インドネシアなどの東南アジアにおける現場採集,および世界各地の大学・博物館からの借用標本に基づいて,アフリカ東岸,紅海からミクロネシアに至るインド洋-太平洋の全域におけるヒイラギ科魚類の分類学的再検討を行った.その結果次のような結果が得られた.1.20世紀を通じて極めて分類学的混乱の激しかったヒイラギ属魚類について重点的に研究を進め,本属内に含まれる種を5種群23種と種群を構成しない3種の計26種に分類した.なお,このうち4種は現在のところ未記載種である(1種は近日公表される).また,本属に含まれる種の内,数種については,より正確な異名関係が明らかになり,従来使用されていた学名が変更される.2.上記種群の内,Leiognathus aureus種群,タイワンヒイラギ種群,Leiognathus decorus種群については,研究が終了あるいはほぼ終了した.しかし,シマヒイラギ種群,および最も激しい混乱状態に陥っているLeiognathus oblongus種群については,今回の研究で一応の結果が得られているが,詳細な研究が引き続き必要である.3.コバンヒイラギ属とウケグチヒイラギ属については,近年分類学的整理がほぼ完了しており,今回の再検討でも,ほぼこの研究成果の有効性が認められた.すなわち,両属ともにそれぞれ5種が含まれる.4.上記の結果,現状では本科魚類は3属36種に分類することができ,これらの簡潔な検索表とそれぞれの種の特徴,分布,および異名関係の証拠などを研究成果報告書で表した.5.本研究で導入したヒイラギ属の各種群は,形態的まとまりが強く,今後これらのほとんどが属に昇格する可能性が高く,属の再検討と属間の系統関係の解析が今後の課題である.6.本研究に付随して行った,トウゴロウイワシ科,クロサギ科などの魚類についても,数種の新種記載を行った.
著者
小林 正史 北野 博司 設楽 博巳 若林 邦彦 徳澤 啓一 鐘ケ江 賢二 北野 博司 鐘ヶ江 賢二 徳澤 啓一 若林 邦彦 設楽 博己 久世 建二 田畑 直彦 菊池 誠一
出版者
北陸学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

縄文から古代までの調理方法を復元し、土鍋の形・作りの機能的意味を明らかにする、という目的に沿って、ワークショップ形式による土器観察会、伝統的蒸し調理の民族調査(タイと雲南)、調理実験、を組み合わせた研究を行った。成果として、各時代の調理方法が解明されてきたこと、および、ワークショップを通じて土器使用痕分析を行う研究者が増え始めたことがあげられる。前者については、(1)縄文晩期の小型精製深鍋と中・大型素文深鍋の機能の違いの解明、(2)炊飯専用深鍋の確立程度から弥生時代の米食程度の高さを推定、(3)弥生・古墳時代の炊飯方法の復元、(4)古墳前期後半における深鍋の大型化に対応した「球胴鍋の高い浮き置き」から「長胴鍋の低い浮き置き」への変化の解明、(4)古代の竈掛けした長胴鍋と甑による蒸し調理の復元、などがあげられる。
著者
浅間 哲平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

マルセル・プルーストが1890年代から1900年頃までにどのような蒐集と関わりを持っていたのかを調査するにあたり、以下の二通りのアプローチを試みた。まずはロベール・ド・フザンサック=モンテスキウ(1855-1921)との交際について研究した。1895年には、ある批評家が「愛好家たち」という評論でモンテスキウを批判したことから論争が起き、詩人は「職業芸術家」という論考で反駁を試みた。1896年にはプルーストの処女作『楽しみと日々』が出版され、べつの批評家ジャン、ロランがこの作品はモンテスキウの影響下にある愛好家の作品であるという論評を発表している。このような事実に着目し、1893年から1896年におけるプルーストとモンテスキウの関係を二人の書簡、当時の新聞・雑誌などから詳細に追っていき、二人の作品がどのような関係を持っているのかを検証していった。プルーストと蒐集家モンテスキウの関係を具体的に調べることで、モンテスキウが発表する芸術コレクションに対する論評にプルーストが実際に関心をもって接していたことを示す証拠をいくつか発見することができた。次に、プルーストは1890年1900年頃までの間に残した実在する芸術家についての美術評論のなかで、蒐集(コレクション)がどのように描かれているのかについて総合的な見地から研究した。プルーストは、レンブラント(1606-1669)、シャルダン(1699-1799)、アントワーヌ・ヴァトー(1684-1721)、ギュスターヴ・モロー(1826-1898)、クロード・モネ(1840-1926)についての評論を残している。これらの評論でそのコレクションがどのように論じられているのか検討した。
著者
中嶋 琢也 長谷川 靖哉 湯浅 順平 河合 壯
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

電荷の局在状態の光制御を実現するシステムを目指し、ジアリールエテン、ターアリーレン(ジアリールアリーレン)へのイミダゾリウム環の導入を行った。光化学反応に伴い、導入されたイミダゾリウム環は正電荷が非局在化したイミダゾリウム型と局在化したイミダゾリニウム型に相互変換する。本年度は、この正電荷の局在構造変化によるソルバト、イオノクロミズムや反応性の発現など興味深い特徴を見出した。(1)イミダゾリウム置換ジアリールエテンはトルエンからピリジンまで幅広い極性の溶媒中においてフォトクロミック反応を示すことを見出した。閉環体における局在正電荷はルイス塩基結合サイトとして働き、高ドナー数を有する分子やアニオンと特異的に相互作用する。その結果、π共役構造を変化させ、マルチクロミック特性(光、溶媒、イオン応答)を示すことを見出した。(2)ジチアゾリルイミダゾリウムは種々の溶媒中で可逆的にフォトクロミック反応を示し、(1)と同様に、ソルバトクロミズムを示した。この場合、溶媒のドナー数ではなく誘電率に応答した吸収ピークシフトを示した。低極性溶媒中において局在カチオンはヨードアニオンと強く相互作用し、イミダゾリニウムのN(1)-C(2)-N(3)の二重結合性を低下させ、π共役系の縮小により低波長シフトを与えた。さらに、局在カチオンの高い反応性は、強い求核剤であるメトキシドとの求核付加反応によりphoto-gated reactivityとして実証された。
著者
三浦 秀一 中嶋 隆藏 熊本 崇 山田 勝芳 安田 二郎 花登 正宏 中嶋 隆蔵 寺田 隆信 村上 哲見 三浦 秀一
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

中世から近世にいたる旧中国の知識人が営んでいた知的活動の諸相を、文献実証額的手法に基づきつつ分析することにより、中国知識人の精神構造が歴史的にどう展開したかについて、総括的な理解と具体的な知見とを獲得することができた。成果の概略は、以下のとおりである。中国中世の仏教界を俯瞰すれば、有に執らわれず、無に陥らず、空有相即を旨とする理行二入の立場が、それに相対立する旧学の側からの、教学を軽んじ戒律を無みするものだとの激しい攻撃と、無なる心をつかみさえすれば形ある修道などどうでもよいとの甘い誘惑とを受けつつも、それらいずれにも屹然とした態度を堅持しつつ困難な歩みを踏み出した、といった構図にまとめることができる。そして、この対立の構図は、その後、一般知識人の精神生活に決定的な影響を与えたと考えられ、中国近世における知識人の精神構造の基本的な枠組みは、この構図を重層的に内面化することで形成されたと判断できる。例えば、北宋の士大夫は、みずからが如何に史に記録されるかについて並々ならぬ関心を抱き、その子孫をも巻き込んで、自身の「事迹」選述をめぐる自己保全運動を執拗につづけている。また、明末清初期の或る一族は、確証が竺少なるにもかかわらず北宋以来の名族との同宗を主張し、族譜の接合・系譜の行為を敢えておこなう。このほか、「封建」と「郡県」との是非をめぐる議論や、六経と史書とを表裏一体の関係で捉える主張が、時代をこえ飽くことなく蒸し返されるように、かれら知識人は、慥かに「有」としての命名・史書・祖法に固執する精神を把持してはいる。しかしながら、同時に、如上の議論が個々の時代社会に対する疑義ないし対案の提示としてなされている事実は、かかる「有」を越えつつそれを包み込む理論的装置をも、かれらがその精神構造の内部に確保していた証左であるとなせるのではないだろうか。
著者
今村 かほる
出版者
弘前学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

遠藤熊吉は昭和4年の著作の中で、既に「共通語」という用語を用いた。また、方言の存在や価値を認めた上で、国語教育の目指すべき対象は「標準語」であるとした。戦後の方言と共通語の教育は、遠藤熊吉が理論的背景となった昭和29年の「標準語教育論争」をきっかけに方言をなおしたり、なくしたりするものという位置づけに変化がおこった。これからの方言の教育は、コミュニケーションツールとしての方言に注目すべきである。
著者
飯田 文雄 月村 太郎 辻 康夫 網谷 龍介 早川 誠 渋谷 謙次郎 津田 由美子 淺野 博宣 浪岡 新太郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、世界各地で展開されつつある多文化共生社会形成のための多様な政策を巡って、2000年代以降に生じた新たな議論の特質について、教育政策・福祉政策・人権政策という具体的な3つの政策類型に即して、北米・西欧・東欧各国の事例を手がかりに詳細な国際比較を行い、多文化共生社会の在り方に関する体系的・総合的な知見を獲得することを目指すものである。
著者
月田 早智子 田村 淳
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本申請では、上皮細胞シートのparacellular経路による物質透過性の制御に焦点をあて、その機能異常により引き起こされる炎症などの生体反応の解析を目的とする。本年度は3点の解析を行った。(1) 上皮細胞シートのaracellularの経路による物質透過性の制御機構により引き起こされる炎症などの生体反応の解析;昨年度に確立した2チャンバーシステムを用いた電気生理学的解析により、胃では通常の上皮細胞シートとは異なったイオンの選択的な透過性制御があることが分かった。この特異的な透過性が、胃粘膜を胃酸から保護すると考えて矛盾しない結果である。NSAIDの投与によりこの選択性が変化するとのpreliminaryな結果が得られ、NSAID胃炎との相関が示唆された。プロトンの透過性、小腸での透過性変化も含めさらに詳細を検討中である。(2) 感染・炎症にかかわ生理活性物質のaracellularの経路による物質透過性の解析;慢性炎症性腸疾患のモデルであるDSS腸炎では腸管上皮のバリアーが脆弱になる。特にある種のクローディンノックアウトマウスでは、大きな反応を示すことが分かった。直接の原因を含め解析中である。DSSは投与方法によってはがんを誘発することが知られており、発がんと炎症との視点からも解析を進めている。(3) 外来性の物質の投与により、物質透過性を任意に操作できる方法の検討;物質の透過性について複数の試薬の検討を行ったが、大きな変化は見出せなかった。一方で、イオンの濃度がタイトジャンクションの物質透過性に、拡散電位を介して影響する可能性が示唆されるので、飲水中の電解質や錠剤を介した腸管内電解質濃度の調節が、上皮細胞シートの細胞間物質透過性を介した、NSAIDなどとは異なる経路の「消炎剤」として利用できる可能性についても検討を行いたい。
著者
近藤 和彦 西川 杉子 鶴島 博和 西沢 呆 小泉 徹 坂下 史 青木 康 秋田 茂 勝田 俊輔 秋田 茂 青木 康 金澤 周作 勝田 俊輔 小泉 徹 西沢 保 坂下 史 鶴島 博和 富田 理恵
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の成果は、ブリテン諸島(現イギリス・アイルランド)地域の歴史をヨーロッパおよび大西洋の関係のなかでとらえなおし、古代から今日までの期間について、自然環境から民族、宗教、秩序のなりたちまで含めて考察し、そこに政治社会をなした人々のアイデンティティが複合的で、かつ歴史的に変化した点に注目することによって、旧来のホウィグ史観・イングランド中心主義を一新した、総合的なブリテン諸島通史にむけて確かな礎を構築したことにある。
著者
出光 一哉 稲垣 八穂広 有馬 立身
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ベントナイト粘土中のイオンの移行挙動は、放射性廃棄物処分の安全評価のため重要であるが、地下の還元環境を模擬した実験は困難であった。また、イオンの中には移行の極めて遅いものがあり、その移行パラメータを現実的な期間で得るための手法が必要とされていた。提案者らは、電気化学的手法を用いて、ベントナイト粘土中に安定な還元環境を生み出し、粘土中のイオンの移動を加速して移行のパラメータを得る手法を開発した。本手法を用いることにより、ベントナイト中に安定した還元環境を生成することに成功し、その環境における鉄イオン、アルカリイオン、アルカリ土類イオンの拡散係数、分散係数を得た。
著者
光岡 真一 池添 博 西尾 勝久 チョン スンチャン 渡辺 裕
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

原子番号が104番より大きな超重元素は自然界には存在せず、加速器からの重イオンビームを標的原子核に照射して人工的に合成されおり、120番元素の合成候補であるニッケル64と変形したウラン238との反応において、入射エネルギーの微調整が容易でエミッタンスのよい重イオンビームを供給できる日本原子力機構のタンデムブースター加速器を用いて、融合障壁分布を測定し、重い元素合成への新たな道を拓く。