著者
林 京子 林 利光 李 貞範
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

3年間の研究期間中に、300種類を超える合成化合物、植物及び藻類に由来する天然物質を対象にして、抗ヒトコロナウイルス(HCoV)活性試験を実施した。その結果、藻類由来酸性多糖体の中に、きわめて高い阻害活性を示す物質を見い出した。また、幾つかの低分子物質についても高い活性を示すものが存在した。これらの物質について抗HCoV作用標的を解明するため、種々の条件下で検定を行い、以下の結果を得た。1)吸着阻害効果:ウイルスの感染・増殖の初期段階である宿主細胞レセプターとウイルスとの吸着に対する阻害効果を評価した。高い抗HCoV活性を示したラムナン硫酸、デキストラン硫酸、ジギトキシン、ジゴキシン、ブファリンなどはいずれも、ウイルス増殖阻害効果を示す濃度範囲では、HCoVと宿主細胞との吸着を阻害しなかった。2)侵入阻害効果:宿主細胞に吸着したウイルスは、短時間のうちに細胞内へ侵入する。この段階に対する阻害効果を検討したところ、上記1)に挙げた物質はいずれも、侵入阻害作用を示した。ラムナン硫酸は最も強力な抗HCoV活性を示したが、その主たる作用標的が侵入段階であることを特定できた。3)殺ウイルス活性:直接的にウイルスを不活化させる効果(=殺ウイルス活性)は、HCoVの増殖の場である呼吸器において、外部から入る病原体の感染力を消失させうると期待できる。そこで、この活性を検討したところ、phenoxazinesの一種に強力な殺HCoV作用を確認できた。現在、そのメカニズムを検討中である。4)ウイルス蛋白合成阻害効果:HCoVのモノクローナル抗体を利用して、イムノブロット法によってウイルス特異的蛋白を検出した。これまでに、ラムナン硫酸が、ウイルス感染時に存在すれば、濃度依存的にHCoV蛋白合成を阻害することが明らかになっている。
著者
大宮 眞弓
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ディラック型微分作用素に関する準可換微分作用素の構造を明らかにした。特に、ソリトン理論の原点とも言えるミウラ変換が、定常KdV 階層の全てで成立することを明らかにし, 極めて興味深い恒等式が発見された。他方、KdV 階層とは異なったタイプの力学系として保存系でないSIR モデルを研究した。さらに跡公式を応用して定常KdV 階層の全ての第一積分を系統的に構成するスキームを構成した。第一積分を用いて定常KdV 階層の線形化作用素に対する固有値問題の方程式をリーマン球上の確定特異点型微分方程式に変換して、それを用いて定常KdV 階層の解の解析的性質を調べる方法を開発した。
著者
長谷川 慎
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

野川流地歌三味線についての研究。大阪を中心に伝承されている地歌・野川流でかつて使用された三味線の特徴を明らかにした。この研究は①文献に見る野川流地歌三味線の特徴を整理②古楽器の現物調査の実施③昭和初めまでに録音された当時の音源の収集と分析④古楽器の復原を通じてその独特な音色が水張りという皮張りによるものであることを突き止め⑤復原演奏を行ったものである。まとめとして復原楽器の倍音特性を調べることで現在の地歌三味線との違いを科学的に証明し、水張りが廃れた理由、改良の経緯が義太夫三味線との関連にあることを指摘し、野川流地歌三味線に見られる外観的な特徴は義太夫三味線の影響をうけた事を結論付けた。
著者
神野 恵
出版者
独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

律令制下の土器生産は、国家主導のもとで行われ、諸国で作られた土器は、一定の規格で製作され、都城への貢納品として運ばれた。一定規格が要求されるため、製作技法や形態から、土器の生産地を特定することが難しい場合もあり、当該時期の土器生産の生産と消費の実態把握を難しくしている。一定規格で生産とはいえ、都城に集まる土器は、生産地に起因するであろう胎土、形態、法量に微妙に差異が認められ、生産地ごとの分類が必須条件となるとの研究視座から、生産地を念頭においた群別分類をおこなってきた。本研究では、とくに広域に流通する須恵器の群別分類を見直し、より正確にするための化学分析データの蓄積と分析を進めてきた。平城京への須恵器供給が確実な、和泉陶邑窯、奈良山の諸窯、生駒東麓の諸窯の窯出土資料あるいは表採資料について、蛍光X線分析のデータを蓄積するとともに、「延喜式」において須恵器の調納が義務付けられている備前寒風窯をはじめ、考古学的観察によって一定量、消費されていることが明らかな尾張猿投窯、遠江湖西窯などの須恵器についても化学分析のデータを蓄積してきた。このデータは、胎土の粘土成分を削って粉末にしたうえで、エネルギー分散型の蛍光エックス線を用いる方法で測定をおこなってきた。昨年度より、これらデータの再現性、信頼性を確認するため、JIS規格にのった方法であるガラスビード法を波長分散型蛍光X線で測定したデータを追加し、分析値の偏りや信頼性の確認を進め、既発表のデータについても、精度を検証するとともに、データを追加し、7~8世紀の須恵器生産地ごとの基礎的データを網羅的にまとめることを目指す。さらに、考古学的手法による観察結果とこれらデータを対象させながら、律令期における土器の群別分類を再構築する。
著者
小松 丈晃
出版者
北海道教育大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

(1)過去2年間の社会学的リスク研究の研完成果をまとめた、著書『リスク論のルーマン』(勁草書房、2003年7月)を刊行した。ここでは、環境リスクを主たるテーマに据えつつ、ルーマンの社会システム理論の有する「批判力」を、「ありそうになさの公理」を基軸として描き出し、「開かれた対話」の可能性と限界を明らかにした。また、これまで大きく取り上げられることのなかったルーマンの抗議運動論にも立ち入った検討を加え、60年代から一貫して見られるルーマンの抗議運動への(かなりの程度ポジティブな)基礎的視角を浮き彫りにしている。(2)また、こうした理論研究に基づいて、グリーン・ツーリズムの日独比較研究の最終年度となる今年度は、2004年2月に、ドイツ・バイエルン州の農家民宿ならびに農家レストランにヒアリングを実施した。個別的活動として捉えられがちなバイエルン州の農家民宿だが、本調査では地域の「マシーネンリング組織」(オーバーバイエリッシェ・ヴァルド地区)との関係に焦点をあてることによって、地域の中での農家民宿の位置づけを明らかにした。3年間の研究により、昨年度の旧東ドイツ地域におけるグリーン・ツーリズム調査をもふまえて、ドイツの「農家で休暇を」事業における東西ドイツ比較研究の足がかりを固めることができた。(3)最後に、宮城県田尻町・小野田町における過去3年間の研究成果もふまえて、地域環境保全活動に関する日独比較研究の研究レポートを現在、まとめている最中である。(成果については、本年夏頃に刊行予定である。)
著者
山城 貢司
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

1 イスラーム伝統において、アラビア語の単語mi‘rajが預言者ムハンマドの神秘的天界上昇を表すのに用いられる理由が、(a) 天国と地上が宇宙的階梯によって結ばれているという世界観 (b) 預言者ムハンマドによるvisio Deiの可能性、という二つの神学的トポスを背景にしてのみ理解可能であることを示した。また、これらの神学的トポスがクルアーン自体に反映されている最初期のイスラーム思想に由来することを文献学的分析によって明らかにした上で、類似のユダヤ教伝承との比較考察を行なった。最後に、以上の議論に基づき、ミウラージュ伝承の発達について新たな見地を提示することを試みた。2 まず初めに『アダムの黙示録』の成立史を文献学的な手法によって解明した。これによって、『アダムの黙示録』が、「アダムとイブの生涯」と「セトの黙示録」という二つの資料と最終編纂者による加筆部分から構成されていることが判明した。続いて、この知見に照らして、『アダムの黙示録』におけるアイオーン論・救済史観・神話的構造(及びそれらのユダヤ的背景)について詳細に分析した。その際、セト派グノーシス主義における洗礼儀礼の位置付けに特に注意を払った。最後に、最終編纂者の手になると見られるグノーシス的救世主の由来についての従来ほぼ未解明だった謎歌(「13の王国の讃歌」)について、シンクレティズム的観点から体系的な説明を与えた。3 身体の延長としての道具の使用によって可能となった現象学的意味での時間抱握は、同時に神話生成と暴力の起源でもある。このテーゼの根拠づけと展開のうちにおいてこそ、アブラハム的一神教における身体性と救済思想の関係は考察されねばならない。このようにして、西洋キリスト教思想の終着点を、技術文明に内包された終末論の問題として論じることが可能となるであろう。
著者
中妻 彩
出版者
徳島文理大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

ビタミンA欠乏マウスの腸間膜リンパ節樹状細胞(MLN-DC)は、IL-13を高産生する炎症性T細胞を誘導することを見出した。ビタミンA欠乏マウスでは経口抗原に対する抗体産生がIL-13依存的に亢進していた。そこで、ビタミンA欠乏状態によって、MLN-DCに機能変化をもたらす腸管環境因子を探索したところ、近位結腸粘膜組織でTNF-αが高発現していることを見出した。以上の結果から、ビタミンAは腸管環境とDCの機能発現を制御し、腸管粘膜における免疫寛容の誘導に極めて重要であることが示唆された。
著者
野杁 由一郎 恵比須 繁之 薮根 敏晃 朝日 陽子 阿座上 弘行
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は,ヒトのデンタルバイオフィルムに対する化学的制御・抑制法の確立を最終的な目標して行われた。クオラムセンシング(QS)誘導物質であるオートインデューサーの1種であるアシルホモセリンラクトン(AHL)の類似化合物をターゲットにしたが, 10種のAHL類似化合物は検出限界(6. 32~7. 33ng/ ml)以上の濃度では検出されず,デンタルバイオフィルム中にはほとんど存在しないことが明らかとなった。一方, QSを撹乱し抗バイオフィルム作用を示していると推察されるAHL類似化合物や抗菌剤を発見し,これらによる化学的なバイオフィルム抑制法の臨床適用に向けた緒を築いた。この研究成果は,バイオフィルム感染症の新たな治療戦略の開発に有意義な示唆を与えるものであると自負している。
著者
大崎 敬子 春木 宏介
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究代表者の大崎はセファランチンのマラリアに対する薬剤排出機能に関して薬剤排出ポンプの相同性に着目し、薬剤排出機構を持つ緑膿菌を用いた実験を行った。結果:セファランチンは緑膿菌のポンプを抑制しなかった。研究分担者の春木の行った主な実験内容および結果は以下のとおりである。1 クロロキン感受性変化とマラリア細胞内への蓄積に関する研究。結果:各種アルカロイドによるマラリアのクロロキン感受性変化とクロロキンの細胞内蓄積は正の相関を示し、クロロキンの作用は薬剤蓄積量に依存することが確認された。2 セファランチン存在下でのマラリア原虫へのクロロキン蓄積の経時間的変化。結果:コントロールに比べ明らかにクロロキンの蓄積量が増加した。3 セファランチン存在下でのマラリア原虫からのクロロキン排出量の経時間的変化。結果:マラリア原虫からのクロロキン排出量はコントロールに比べ明らかに減少した。4 セファランチンの膜電位に対する影響。結果:セファランチンによりマラリア原虫の膜電位はコントロールに比べ低下した。5 これらより膜電位に影響を与える物質としてTTP(tetraphenylphosphonium)を選出して同様の実験を行った。結果:TPPによってセファランチンがマラリア原虫に示した結果と類似した結果が得られた。6:薬剤のスクリーニング結果:既存薬であるH203が抗マラリア作用を示した。まとめ これらの結果よりセファランチンはマラリア原虫からの薬剤排泄を抑制し、蓄積を増加させた。TPPをモデルとした実験より、膜電位変化とクロロキン排出抑制の関連が示唆された。本研究の経過中既存化合物のなかで抗マラリア作用を示す物質を見出した。
著者
河田 浩 細井 昌子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

慢性の広範囲痛および慢性の限局痛と家族機能の関係における差異を検討した。慢性の限局痛患者に比べ、慢性の広範囲痛患者は「役割」と「情緒的関与」における機能が低かった。本研究で慢性の広範囲痛患者の家族機能は慢性の限局痛患者くらべより適応的でない家族機能を有していることを示した。幼少期の養育と成人後の慢性疼痛の重症度の間の関係について検討した。1)慢性疼痛のない一般住民、2)慢性疼痛のある一般住民、3)外来慢性疼痛患者、4)入院慢性疼痛患者の4つの群において両親のケアと過干渉を比較した。両親とも望ましくない養育スタイル(低ケアと過干渉)の頻度は1)群から4)群まで段階的に優位に増加した。
著者
坂上 和弘
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、近現代日本人およびアメリカ人集団の全身骨における左右差の変異幅や左右差の出現場所を調べることである。過去の左右差研究では極めて限られた資料および骨しか扱われていないため、全身骨における左右差を調べた本研究は極めて独創的である。資料としては1890年から1970年の間に死亡した年齢、性別既知の近現代日本人、近現代アメリカ人を資料に用いた。その内訳は日本人男性50個体、日本人女性43個体、アメリカ白人男性50個体、アメリカ白人女性50個体、アメリカ黒人男性50個体、アメリカ黒人女性50個体の計293個体である。年齢は鎖骨胸骨端癒合〜50歳まで、対象となる骨が完形で保存されており、病変が見られないものを資料として用いた。対象となる骨は、頭蓋骨、下顎骨、鎖骨、肩甲骨、上腕骨、橈骨、尺骨、第一中手骨、第三中手骨、寛骨、大腿骨、脛骨、腓骨、第一中足骨、第三中足骨であり、各骨の長さ、骨幹中央の径や太さ、両骨端の大きさを中心に112項目について左右の計測を行なった。結果としては、どの集団においても、頭蓋骨、鎖骨、肩甲骨、寛骨といった体幹部の骨は左が統計的に有意に大きい傾向にあり、特に鎖骨の長さは全集団で左が有意に長く、全体の約80%の個体で左が長かった。上肢骨はほとんどの変数で右の方が有意に大きく、全体の約70%以上の個体で右が大きい。また、下肢骨はほとんどの変数で有意な左右差は見られなかった。これらの結果は、「体幹部の発生では左右軸が決定された後、細胞の分化に左右の偏りが見られるのに対して、四肢の発生では右肢と左肢の偏りは見られない。こういったことから、体幹部と四肢部での左右差が異なる傾向を示すと予想される。」という予測を支持するものであり、体幹部の左右差は神経系や循環器系などの左右差に影響され、上肢の左右差は利き腕に影響され、下肢の左右差の無さは運動器としての必然性に影響されると考えられた。
著者
豊田 剛己
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

もやし残渣の土壌施用がダイズシストセンチュウ(SCN, Heterodera glycines)に及ぼす影響をポット試験で評価した。もやし残渣を土壌に対して重量で1%施用すると、土壌中のSCNの二期幼虫の密度が2週間後には顕著に増加し、35日後には急激に減少していた。この結果から、SCN卵の孵化がもやし残渣中に含まれる孵化促進物質により促進され、孵化した二期幼虫が宿主植物不在下で餓死したと考えられた。もやし残渣を4回施用し、7週間後にSCN密度をリアルタイムPCR法で評価したところ、対照区ではSCNの密度が変化しなかったのに対し、もやし残渣施用区では施用前と比べて70%以上減少した。SCNの孵化促進効果はもやしの水抽出液でも見られ、部位別では根の部分に高い孵化促進効果が認められた。これらの結果から、もやし残渣の土壌施用は環境負荷の少ないSCN防除法であることが明らかにされた。もやし残渣をエダマメ移植の3週間前に土壌施用すると、効果的にSCN被害を軽減できることを圃場試験で確認した。問題点として、孵化促進は土壌温度25℃前後の時に限り見られるため、もやし残渣施用のタイミングが限定されることが挙げられた。
著者
堀井 洋一郎 野中 成晃
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

西日本各地でイノシシ猟犬の血液中抗体検査と、糞便内虫卵検査を行ない、肺吸虫感染状況を調査した。国内の犬に感染する肺吸虫は、ウェステルマン肺吸虫、宮崎肺吸虫および大平肺吸虫の3種であり、前2者は人へも感染する人獣共通寄生虫である。中国、四国および近畿の各県で131人のオーナーにより飼育されていた441頭のイノシシ猟犬の抗体検査の結果、195頭(44. 2%)が陽性であり、肺吸虫に感染していることが示唆された。
著者
進藤 宗洋 西間 三馨 田中 守 田中 宏暁
出版者
福岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

運動誘発性喘息(EIB)は、喘息児の身体活動を制限する大きな障害である。このため、喘息児のEIBを軽減してやることは、発育発達途上にある児の身体的・社会的な成熟を促すと思われる。この一連の研究では、喘息児を対象にし、いくつかの有酸素性運動の強度に対する生理的反応に基づいてEIBの重症度に関係する、危険因子と運動条件とを明確にし運動療法の至適運動強度を決定した。そして、持久的トレーニングがEIBに及ぼす影響を検討した。初年度には、EIBに及ぼす運動強度の影響について観察し、喘息児の運動療法における至適運動強度の検討を行った。その結果EIBの程度は運動強度に依存して増加することが確認され、乳酸闘値の125%に相当する強度は、有酸素性作業能の向上が期待でき、尚かつ、重症なEIBを起こすことなく安全に行える運動強度として上限であると考えられた。そこで次年度には、自転車エルゴメーターを用い、125%LT強度で1回30分、週6回、4週間のトレーニングを施行したところ、有酸素性作業能の向上、トレーニング前と同一強度でのEIBの改善が認められ、EIBの改善は有酸素性作業能の向上によるものであることが示唆された。また、トレーニング期間を延長し、2ケ月間行ったところ、同一強度だけでなく、相対強度においてもEIBが改善され、何らかの病理的変化が起こったと思われた。最終年度には、3週間の脱トレーニングが、有酸素性作業能とEIBや気道過敏性などの6週間のトレーニング効果に及ぼす影響を検討した。その結果、脱トレーニングによるトレーニング効果の消失は、EIBや気道過敏性における力が有酸素性作業能におけるより遅く、トレーニングは、EIBに及ぼす何等かの病理的改善にも関与することが示唆された。以上の結果から、持久的トレーニングは、喘息児の体力を向上させるだけでなく、EIB、気道過敏性を改善させ、臨床症状の改善にも十分期待できる治療法の一つであると考えられた。
著者
喜納 育江
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度は、前年度に調査、収集した資料をもとに、19世紀アメリカにおけるアメリカ先住民女性の作家として、いかにして当時の白人中心的イデオロギーと折衝する言説を作り出しているかという点を検証の中心課題とした。特に、本年度においては、米国国会図書館の特別資料閲覧室で収集した19世紀から20世紀にかけてアメリカの大衆文化の中心的役割を果たしたダイムノベル(Dime Novels)に関する資料から、ダイムノベルが、モーニングドーブの文学的創造性にどのように関わっているかに着目した論文を作成することに専念した。ダイムノベルとは、印刷と流通のシステムの近代化による文化の物質的な変容によって誕生したいわゆる三文の大衆小説であるが、量産され、大衆化される文学の中で作り出される言説は、同時に、そこで好んで描かれた西部やアメリカ先住民などのイメージをステレオタイプ化する大衆の意識を形成するプロセスにも加担していた。白人文化の優勢の結果として形成された大衆意識に対し、拙論文では、まず、ダイムノベルによって作り出されたアメリカ先住民の大衆的イメージとは具体的にどのようなものであったかを示し、次に、社会的他者の作家であるモーニングドーブにとって、そのようなステレオタイプに抵抗する意識が、小説の定義する問題とヒロイン像決定の重要な背景になっていたことを究明した。以上の成果を、「ダイムノベルと20世紀初頭の大衆的イメージへのモーニングドーブの文学的抵抗(“Dime Novels and Mourning Dove's Literary Resistance to Turn-of-the-Century Mass Images")」と題し、1998年10月にカナダ、アルバータ州で開催された西部文学会(米国)とカナダアメリカ研究学会の合同学会で口頭発表した。
著者
西藤 清秀 青柳 泰介 中橋 孝博 篠田 謙一 濱崎 一志 石川 慎治 花里 利一 吉村 和久 佐藤 亜聖 宮下 佐江子
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

シリア・パルミラにおける葬制に関わる研究を目的として、パルミラ遺跡北墓地に所在する129-b家屋墓の発掘調査をシリア内戦の激化で中断する2010年まで実施した。しかし、内戦の激化はその後の現地調査を不可能にさせたたが、129-b号の内外部の復元を図上でおこなった。また、出土した頭骨の顔を復顔し、その頭骨が収められていた棺に嵌め込まれていた胸像の顔との比較をおこなった。その結果、胸像は死者の肖像と言えることがわかった。さらにヨーロッパや日本の博物館や美術館に所蔵されているパルミラの葬送用胸像を中心にパルミラ由来の彫像を3次元計測した結果、顔の部位の配置にある一定のルールが存在することが判明した。
著者
福島 真実
出版者
女子栄養大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

食品中の葉酸は、結合しているグルタミン酸が1つのモノグルタミン酸型と数個結合したポリグルタミン酸型があり、吸収過程が異なっているため、それぞれBioavailability(生体利用率)が異なる。葉酸供給源となる主な食品17品と通常の献立5種類中の両者を微生物法にて分別定量した。その数値を基に、健康な女子大学生および高齢者施設入居者の食事調査からモノとポリグルタミン酸型葉酸の摂取比率を求めたところ、平均してそれぞれ17%と83%であった。
著者
中山 留美
出版者
東北医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

末梢組織における痒み伝達機構は解明されていることから、塗布薬としての痒み治療薬は一般的に普及している。しかしながら、アトピー性皮膚炎といった、難治で全身性の痒みに対する有効な治療薬がないことが、臨床における問題点である。そこで、中枢神経系に作用する痒み治療薬の開発が望まれていることから、中枢神経系における痒み関連分子について研究がされているが、病態との機能的関連性の全容は明らかとされていない。そこで、本研究により、痒み伝達経路の一端を解明する。
著者
中村 美詠子 尾島 俊之 野田 龍也 亀山 良子 福川 康之
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

フード・インセキュリティは物理的、社会的、経済的に食料アクセスが阻害された状態であり、近年、非伝染性疾患との関連が注目されている。本研究は日本におけるフード・インセキュリティの構成要素、該当状況、栄養状態、関連疾患について調査した。観察研究の結果 (1)多忙、遅いあるいは不規則な夕食等の時間的要因が主要な構成要素の一つであること、(2)日本人一般労働者や大学生に少なからず存在すること、(3)栄養摂取の乏しさやメンタルヘルスの低さに関連していることが明らかにされた。食環境対策推進においてはライフスタイルにおける時間的要素の変革が必要だろう。