著者
白尾 智明 関野 祐子 安田 浩樹
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

初代培養神経細胞系と遺伝子変異動物を用いて、神経細胞樹状突起スパイン内のアクチン結合タンパクの変化はシナプス機能変化に直接結びつくことを明らかとした。次いで、アクチン結合タンパクのスパイン内集積動態を測定することにより、グルタミン酸作動精神系繊維は、グルタミン酸受容体の二つのサブタイプを使って、両方向性にアクチン結合タンパクのスパイン内集積を制御していることが明らかとなった。
著者
金兼 弘和
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中国上海市の復旦大学小児科学のDr. Xiaochuan Wangと韓国太田市の忠南大学微生物学のDr. Eun-Kyeong Joを研究協力者として、本研究を行った。以前に復旦大学においてフローサイトメトリーならびに遺伝子解析によるX連鎖無γグロブリン血症(XLA)の診断の技術指導を行い、すでにXLAの遺伝子解析については報告済みであるが、その後診断された症例数も増えている。またJeffery Modell Foundationからの基金も得て、中国における先天性免疫不全症(PID)のレファランスラボとして整備されつつある。また以前に私たちが同定したXLAの責任遺伝子BTKの非翻訳領域であるイントロン1の点変異例(IVS1-5G→T)の解析を忠南大学で以前に同定された同様の症例と比較検討して、レポーターアッセイを行い、活性が低下していることを報告した(Pediatr Int, in press)。PIDは疾患によっては多様な臨床表現型を有したり、非典型的表現型を有したりするものが少なからず存在することもあれば、複数の原因遺伝子により同様な臨床表現型をとることもあり、遺伝子診断による確定診断の重要性が増している。しかしPIDの原因遺伝子は100以上が知られ、網羅的遺伝子解析が必要と思われるが、大変な労力を要する。そこで理化学研究所免疫アレルギーセンター(RCAT)とかずさDNA研究所の協力で、PIDの既知遺伝子を網羅的に遺伝子解析するシステムを立ち上げた。これまでのわが国のPIDのデータベースは紙媒体によるものであったが、RCAI内にWeb入力にヨルデータベース(PIDJ)を立ち上げた。さらにPIDの責任遺伝子と他の分子との相互作用ならびにPIDの候補遺伝子検索に有用なデータベース(RAPID)についても立ち上げた。今後はこれらのデータベースをアジア全体の患者を対象となるものに広げ、欧米のデータベースとリンクさせ、アジアはもちろんのこと世界に発信できるものとしたい。
著者
小田 尚也
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は米国同時テロ事件以降大きく変化した海外からパキスタンへの送金パターンを分析し、その要因と送金の経済的役割を分析した。特に米国からの送金に焦点を当てた。米国からの送金が急増した要因として、インフォーマルな送金への規制、米国に資産を持ち続けることへの不安、パキスタン経済の成長などを指摘した。中東からの送金が受け取り家計の日々の消費ニーズに使用される一方、米国からの送金は経済的な利益を追求する目的として利用されていることを議論した。
著者
小嶋 章吾 嶌末 憲子
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の主目的は、2001-2003年度科学研究費補助金基盤研究C(2)による在宅の高齢者分野の「生活場面面接技法の体系化(試案)」をもとに、生活場面面接技法の検証及び教育訓練プログラムを開発することである。そのため、第1に、社会福祉実践・教育・研究における生活場面面接の意義と活用の方向性をまとめた。第2に、民生委員・児童委員、地域福祉権利擁護事業・生活支援員、ホームヘルパー、社会福祉士を対象とする生活場面面接研修を実施し、その評価を得た。生活場面面接ワークシートを用いることにより、生活場面面接を意図的に活用する意義の理解について高い教育効果を得た。第3に、「生活場面面接技法の体系(試案)」にもとづき、46項目にわたる生活場面面接技法を抽出・整理しアンケート調査を実施した。調査対象は、東京都及び栃木県の在宅介護支援センター438カ所全数に所属するそれぞれ2名ずつのソーシャルワーカーと、全国ホームヘルパー協議会の会員が所属する訪問介護事業所2500カ所の十分の1にあたる249カ所をランダムサンプリングし、それぞれ3名ずつのホームヘルパーを対象とし、前者で308票(回収率35.2%)、後者で307票(回収率41.1%)の回収を得た。調査内容は、まず「うまくいった事例」と「悔いの残った事例」のそれぞれについて46項目の実施頻度をたずねた。その結果、生活場面面接技法は後者よりも前者で多く使用されており、生活場面面接技法の有効性を示唆している。
著者
三橋 弘宗 内藤 和明 江崎 保男 大迫 義人 池田 啓 池田 啓
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、国内で最後のコウノトリ生息地となった豊岡盆地の生態系の特性を明らかにするため、生態学的方法と博物館学的方法を用いて、データ解析と分析を行った。生態学的な方法として、円山川の河川高水敷きにおける湿地の再創造に関する操作実験や、行動追跡および冬季における利用実態について市民からの情報を集積して解析を行った。その結果、ワンドを再創造した場所では、魚類個体数は2~5倍に増加するほか、円山川流域全体の約40%の種が生息できることが確認できた。また、野外での詳細な行動追跡データの解析結果では、1)水深15cm以下で畦近くの湿田に集中すること、2)季節によってホームレンジが変化し、夏場が最も広く、冬場が狭いこと、3)河川本流では、潮位の変動によって水深が約40cm以下になると集団利用し、絶対的な水深ではなく、潮位の低下に呼応する傾向があった。博物館学的方法では、全国のコウノトリ標本の把握と分布記録の集積を行い、412地点(721記録)を収集し、生息適地モデルによる解析を行った。その結果、海岸近くの低地および河口干潟の存在が立地の好適性に寄与することが分かった。次に、コウノトリ標本の安定同位体による海起源寄与についての分析を行うために、豊岡市河口域および内陸部においてアオサギ類の羽の炭素・窒素・硫黄の安定同位体分析を行った。しかし、これらの結果では、データ分散があまりに大きく、残念ながら評価には至っていない。これらのアプローチを統合する形で、コウノトリが頻繁に利用する地区において、地域住民の参加による小規模な自然再生を実施した結果、簡便な方法でも両生類の生息密度を回復できることを示し、ツーリズムとしての自然再生への参画可能性について検討した。最後に、こうした取り組みについて、人と自然の博物館において、企画展「コウノトリがいる風景」を開催し、市民から提供を受けた写真資料や収集資料の公開、研究成果の発信を行った。
著者
園井 千音 園井 英秀
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

イギリス文学においては、歴史的に思想、宗教、政治等の社会的変革をその近代化の過程において経験し、いくたびかの国家的危機及び精神的危機にこの間直面する。イギリス文学はこの状況において、時代の文学的記述として、文学本来の芸術的機能を果たすのみならず重要な社会的批評を行い、イギリス文学自体の維持はもとより、国民精神を支えまた国家意識の構築に重要な役割を果たしてきた。本研究はこのような公共的性質が特に17世紀以降のイギリス文学固有の道徳的社会的特質であること、特にその構築的性質の重要性を証明することを主たる目的とした。17世紀においてイギリス文学は、イギリス国民精神の道徳的混迷に対する危機意識を文学的メッセージとして表明した。18世紀におけるロマン派文学においては、フランス革命後の国内外の思想的変化の影響を受け、例えば、ロマンティックヒューマニズムあるいは人間の平等についての社会的認識の高まりはロマン派詩人の意識を先鋭化する。同時に、この傾向はイギリス文学の公共的性質を受け継ぐものであり、その重要な社会的機能を維持する動きであると理解することができる。19世紀後半から20世紀初頭においてイギリスは近代化に伴う国内外の政治的、宗教的、思想的変革を経験する中で、その文学的思潮は、世紀末の終末的思想やデカダンス芸術への逃避、それ以降のモダニズム出現とその思想的揺れなどを経験する。20世紀後半においては例えばフィリップ・ラーキンの主題に見られるように、イギリス文学の伝統的価値である道徳的性質がイギリス国民意識の形成と深い関連を維持することを証明した。これらの分析を通しイギリス文学における道徳的性質が国民及び国家意識の形成においてすぐれて構築的役割を果たすこと、またイギリス文学の公共的性質はその道徳的主題により特徴づけられることを明らかにした。本研はイギリス文学の社会的性質を明らかにしようとする今後の研究の一部として位置づけるものである。
著者
塩崎 麻里子
出版者
近畿大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

終末期の治療選択に際するがん患者と家族に対する心理的支援プログラムを開発するにあたっての基礎的な知見を得ることを目的に,一般成人を対象とした意向調査とがん患者の家族を対象にしたインタビュー調査を実施した.結果から,従来までの意思決定モデルを終末期の治療選択に応用する上で,以下の3点を考慮する必要があることが示唆された.第一に,患者と家族の未来展望が判断の枠組みに影響すること,第二に,延命治療に対する信念は直感的な意思決定を促すこと,第三に納得できる意思決定の判断基準は患者と家族で異なることである.今後,終末期の意思決定に関するモデルを実証的に検討し,より実態に沿うよう改良していく必要がある.
著者
酒井 一博
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

Anosov-Bowen以来,擬軌道尾行性(shadowing property)の概念は力学系理論の研究において様々な場面で現れ,力学系の研究において常に重要な役割を担ってきた。近年,SP理論の発展には特に目覚しいものがあり,力学系の数値計算的研究の基盤を固めるだけでなく,多くの興味深い定性論的研究結果も生み出されている。本研究の目的は,SPをもつ力学系あるいは部分力学系を微分幾何学的力学系理論の立場から特徴付けることである。
著者
住吉 和子
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.食事摂取量を把握するための質問項目と、認識を把握するための質問項目の抽出医学中央雑誌、Medlineを用いて「食事調査」「認識」について検索を行い、食事摂取量を簡単に把握するための質問紙の検討を行った。使い捨てカメラを用いて1週間分の食事をすべて撮影してもらい、終了時に作成した質問用紙に答えてもらい、質問紙の精度を確認した。認識については、文献の自尊感情など既存の尺度と昨年のインタビューの結果から検討し、糖尿病性腎症に特有な項目を加えて質問項目を抽出した。2.糖尿病外来における糖尿病性腎症患者の事例検討O大学附属病院の糖尿病外来に通院している糖尿病性腎症と診断された3名について、昨年のインタビューから得られた結果をもとに、介入を行った。認識について共通していたのは、この先どうなるのかという将来への不安、「不確かさ」であり、このことについては、医療者にも家族にも相談できないで一人で抱えていた。この不確かさが、内服を中止したり、食事を今までどおりの内容で摂取したりという行動に繋がっていることが明らかになった。3名のうち1名は、「不安はあるけどできるだけ生活を楽しみたい」と前向きに考えているため、病院で指導されたとおりでなく、まず食べたいものを少しは食べて、平均的に塩分の摂取量や蛋白質の摂取量を調節するなど工夫をしており、結果として病状は安定していた。糖尿病教室など患者間の交流が自己管理行動を継続するための大きな要素となるが、糖尿病性腎症を合併した人には患者がお互いに交流する機会がないことも自己管理行動の継続を困難にしている要因であると考えられる。また食事療法については、既存の報告と同様に、患者自身が受け入れて生活に取り入れるまで約3年の月日が必要であることが確認できた。3.今後の課題今後の課題として、保存期にある腎不全患者が、健康を維持するために医療者や患者間で気軽に悩みを話すことができる場が必要である。蛋白制限に変更になった患者に医療者の関わり方についても検討する必要が示唆された。
著者
野瀬 宰 三木 和典 木村 三郎 小川 實
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

昭和55年濾紙血によるクレチン症のマススクリーニングが全国的に行なわれるようになって多数の新生児クレチン症が発見されている一方今までわからなかった新生児一過性甲状腺機能低下症や、乳児一過性高TST血症、先天性高TSH血症、などの周辺疾患も多数発見されるようになった。しかしこれらの疾患の原因や病態は、一部をのぞいて、現在の所まったくわかっていない。そこで我々は、まず一過性乳児高TSHB症患者16例についての長期臨床予後を追跡すると共に、その下垂体ー甲状腺軸のネガティブフィードバック機構について調べた。その結果この病態は、この機構の、下垂体、又は甲状腺における感受性の未熟性がその本態をなしているのではないかと考え新生児期、乳児期、学童期にわたって、TRH負荷テストを行い、TSHの反応性を調べた。その結果、幼若な時期ほどTSHは過剰遅延反応を示し加齢と共に正常化していく事がわかった。一方日本人はヨード摂取が多いと云われており、これが新生児一過性甲状腺機能低下症や、乳児一過性高TSH血症の病態発生に関係があると思われ新生児の、尿中ヨード排泄を調べた。その結果人工栄養児では平均8.6μmol/lのヨード排泄がみられたが、母乳栄養児では平均16.4±11.5μmol/lと、人工栄養児より高い値をました。次いでマススクリーニングで発見された新生児クレチン症の尿中ヨード排泄は正常児と差がなかった。今後一過性高TSH血症児の尿中ヨード排泄を測定してその発症との関連を調べていく予定である。
著者
猪上 淳 A. CURRY
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

急速に変化する北極圏を機動的かつ安価に観測するためのシステムとして自律型無人小型飛行機(UAV)を導入した。観測・データ解析の結果、(1)衛星観測による夏季海氷密接度は海氷の表面融解の影響を受けて7%過小評価していること、(2)陸面の植生分布等の差異によって表面温度の変動が3度〜7度も幅がありその影響が大気境界層内にも及ぶこと、(3)海面水温の空間分布の変化に伴い大気境界層が変質することなど、大気・海氷・海洋・陸域の各分野においてUAVが有効な観測システムであることが示された。
著者
川島 隆太
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

疲労やストレスによるパフォーマンスの低下が、脳のどの領域の働きの変化と関連するのかを、非侵襲的脳機能イメージング手法を用いた基礎研究によって明らかにし、さらに、認知心理学的研究を追加することによって、健常成人の疲労やストレスによる認知機能の変化を定量的に評価可能なシステムを開発することが本研究の目指す最終的な目的である。平成20年度は、機能的NIRsを用いて、健康な右利き大学生6名を対象として、連続単純計算による精神疲労負荷時の前頭前野活動を計測したが、疲労に伴う変化を計測できなかった。このため、精神疲労モデルを再構築することが必要であると判断し、心理学研究を展開した。健康な右利き大学生30名を対象として、内田クレペリンテスト(連続単純計算)による精神疲労の状態を、認知心理学的手法によって経時的に観察した。その際に、バランス栄養流動食を摂った場合と、水のみ摂取した場合の2条件を設定した。水のみ摂取した場合には、VAS法による精神疲労の内観が時間と共に増加し、単純計算の作業量も減少する傾向にあったが、流動食を摂った場合には、開始後1時間半までは、精神疲労の内観も単純計算の作業量も減少しないこと、1時間半以降は、水のみ摂取群と同様に精神疲労度の内観も、作業量も低下することがわかった。先行研究では、ブドウ糖のみ摂取した場合には、水のみ摂取と同じ疲労傾向を示すこともわかっており、朝食の摂取パターンによって、精神疲労とそれに伴うパフォーマンスの低下の程度に差が出ることがわかった。
著者
藤澤 由和 斉藤 和巳 大久保 誠也 小籔 明生 武藤 伸明 石田 祐
出版者
静岡県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究においては、ソーシャル・キャピタルの構造的側面を把握する新たな手法を検討すると同時に、その手法により構築されたデータの解析を実施し、さらにその結果を踏まえ、当該研究課題の今後の展開に関する検討を行った。具体的にはRespondent-Driven Samplingと呼ばれる手法を、当該集団におけるネットワーク把握に応用し、ソーシャル・キャピタルの構造的側面の把握を試みた。またデータ構築に際しては、いわゆるディバイスを用いてより効率的かつ効果的な対象把握とデータ構築に関する検討を試みた。
著者
須田 力 河口 明人 森田 勲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

豪雪地住民は、冬季に雪道歩行や除雪のようなきつい作業があるにもかかわらず冬季間不活動になり勝ちとなる。本研究は、(1)身体活動の運動強度の測定、(2)中・高年の人たちの生活機能を高める在宅トレーニングの介入研究、(3)筋力トレーニングと有酸素運動のための簡易で安価な在宅トレーニング用具の開発、を行った。主な知見は以下の通りである。1.雪上路面の歩行や除雪のような冬季の身体活動の酸素需要量は、無雪期よりも多くなる。2.運動介入は、栗沢町、三笠市、士別市の中・高年者110名に対して、積雪期入りの第一回の測定時における運動ガイダンス、参加者へのダイレクト・メールによる運動の奨励、カレンダーによる運動と健康づくりの情報提供によるものであった。冬季明けの第2回目の測定に参加した男性25名において、握力、上体起こし、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行およびADL得点に、女性20名において6分間歩行に有意な向上を示した。しかしながら、安静時血圧は収縮期、拡張期とも冬季間で上昇する傾向が見られた。3.ステップエクササイズ用にステップ数がカウントされる装置を、スイッチング・センサーと安価な電卓を利用して試作した。ゴムチューブ、座椅子、ディジタル体重計を使用して簡易な脚筋力用具を試作した。これらの用具は、運動実施者が歩行距離、ステップ昇降高さ、発揮した筋力をモニターできるため、冬季の在宅トレーニングに有用と考える。
著者
岩田 修二 松山 洋 篠田 雅人 中山 大地 上田 豊 青木 賢人
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.空中写真・衛星画像・地図などを利用して衛星画像の判読,マッピングなどの作業を行った.モンゴルアルタイ・インドヒマラヤ・カラコラム.天山山脈などで情報収集を行った.2.それらを総合して氷河変動・氷河湖変動・気候変動を解明した.3.モンスーンアジア地域:ブータンでは,最近50年間の氷河縮小・氷河湖拡大などの変化をまとめ,災害の危険を警告した.インドヒマラヤ地域については,Lahul Himalayaで現地調査をおこない,近年は継続的に氷河末端が後退傾向にあることを確認した.4.乾燥アジア地域:パキスタン北部では,小規模氷河の最近の縮小と,対照的に大きな氷河が拡大傾向にあることが明らかになった.モンゴルモンゴル西部地域(モンゴル・アルタイ)では,1950年前後撮影の航空写真を基にした地形図と2000年前後取得された衛星画像(Landsat7ETM+)の画像を用いて氷河面積変化を明らかにした。氷河面積は1940年代から2000年までに10〜30%減少し,この縮小は遅くとも1980年代後半までに起こり,それ以降2000年まで氷河形状に目立った変化は認められないことが明らかになった.5.気候変化:最近1960〜2001年のモンゴルにおける気温・降水量・積雪変動を解析した結果,1960,70年代は寒冷多雪であるのに対して,90年代は温暖化に伴って温暖多雪が出現したことが明らかになった.天山山脈周辺の中央アジアでは,既存の地点降水量データ(Global Historical Climatology Network, GHCN Ver.2)に関する基本的な情報をまとめた.GHCNVer.2には,生データと不均質性を補正したデータの2種類あり,中央アジア(特に旧ソ連の国々)の場合,これら2種類のデータが利用可能なため,まず,両者を比較してデータの品質管理を行なう必要があることが分かった.6.まとめ:以上の結果,モンスーンアジアと乾燥アジアでの氷河変動の様相が異なっており,それと対応する気候変化が存在することが明らかになった.
著者
王 道洪 渡邉 貞司 高木 伸之 王 道洪
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

石川県内灘町の大型風車を対象に平成17年度から19年度にかけて雷総合観測実験を行った。観測したデータ総合的に解析し、以下の研究成果を得ることができた。1.風車・鉄塔への落雷はトリガー形態別に二つの種類に分け、タイプ別の特徴をいくつか発見した。タイプ別の発生割合はタイプ1が4割、タイプ2は6割となった。鉄塔と比較した場合、風車がタイプ1の雷を発生しやい。この結果から、風車の防雷対策の一つとして、雷雲が風車上空に来たときに風車を停止したほうが良いと分かった。ビデオカメラの映像から落雷の持続時間にはタイプ別で大きな違いが確認でき、タイプ1は平均約452ミリ秒と長いのに対し、タイプ2は299ミリ秒と短かった。また、落雷の進展角度を調べた結果、風車の避雷鉄塔側には防雷効果が確認できた。しかし、3割の雷は風車に落ちているのでまだその効果は十分とは言えない。それぞれのタイプの落雷について別々の対策を取るべきであることも分かった。2.発電施設への落雷直前の地上電界は全て±4.5[kV/m]あったことから、発電施設への雷撃開始条件を地上電界値のしきい値によって設定した結果、±5.0kV/m以下に設定した場合には、発電施設への落雷時、落雷前に必ずしきい値を超えていることが分かった。一方、しきい値を超えた場合において、発電施設へ落雷する確率は、設定値を下げれば減少していくが、±5.0kV/mで90%程度である。雷撃開始条件を地上電界値で設定し、何らかの防雷対策を行う場合、雷撃をなるべく避けつつも、成功率もある程度高くなければならない。よって、雷撃開始条件のしきい値は、±5.0kV/mが一番望ましいと思われる。3.風車に対する落雷電流に、落雷時前数秒前から、数十Aレベルの電流上昇を確認した。このような報告例は現在まで一例もない。一方、20m離れて隣接する避雷鉄塔に対する落雷電流には、このような現象がないことを確認した。
著者
横串 算敏 成田 寛志 山越 憲一 内山 英一
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,車輪内臓型モータと水素イオン電池を使った軽量・コンパクトで車載可能かつ高機能な6輪構造電動車椅子(6W-NProto)を設計・製作した.この試作モデルのベースとなったYamahaJW3との比較走行試験を行った結果,6W-NProtoは良好な雪路走破性をしめした.[新型電動車いす(6W-NProto)の仕様]重量:48.5[kg].駆動方式:前輪フリーキャスター,センター駆動輪に内蔵モータ[90W×2],後輪に内蔵補助モータ[70W×2]を採用.タイヤサイズ:[直径]は前輪150,センター輪350,後輸200[mm].座席:障害者の安定した座位環境を可能にする調節可能なシート構造.フレーム:路面の変化に対応するフレキシブルなフレーム構造.通常走行はセンター輸駆動による2輪走行であり,後輪の補助モータは段差を乗り越えるとか雪道などの悪路でセンター駆動輪のパワーをアシストをするいわゆるパートタイム4輸駆動である[比較走行試験結果]平坦路(乾燥)では両機種とも良好な走行性能を示した.平坦路(雪)ではYamahaJW3は走行可能,6W-NProtoは良好なそう高性能を示した.4.1°の軽スロープでは6W-NProtoは良好な走行性能を示し,YamahaJW3も走行可能であった.6.6°のスロープでは6W-NPrtoは良好な走行性能を示し,YamahaJW3は左右に振られ不安定であったがなんとか走行可能であった.120mmの段差(乾燥)は6W-NProtoはクリアーしたが,YamahaJW3は走行不能であった.120mmの段差(雪)は6W-Nprotoは不安定であったがクリアーした.YamahaJW3はクリアーできなかった.雪の状態はアイスバーンに30mmのシャーべット状雪路である.電動車いすにとって、最も条件の悪いシャーベット状雪路{平坦路,スロープ,段差}で、制御しやすかったのは荷重が駆動輪に集中するパートタイム4輪駆動6輪構造の6W-NProtoであった.パワーウェイトレシオ,駆動輪への荷重割合で不利なYamahaJW3は平坦路,軽スロープ以外では走行困難または不能であった.
著者
杉万 俊夫 米谷 淳 佐古 秀一 三隅 二不二
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

災害時の避難誘導方法として, 指差誘導法, 吸着誘導法という2つの対照的な誘導法をとりあげ, それらの誘導法によって引き起こされる群集全体の行動パターンを解析した. 指差誘導法とは, 誘導者が, 大きな声と動作で避難方向を指示して誘導する方法で, 従来, 避難訓練の場で最も広く用いられてきた代表的誘導法である. 一方, 吸着誘導法とは, 各誘導者が, 自分のすぐ近辺にいる1名ないし2名の少数の避難者に対し, 自分についてくるよう働きかけ, それら少数の避難者を実際に引きつれて避難するという方法である. したがって, 吸着誘導法においては, 誘導者が出口の方向を具体的に指示したり, 多数の避難者に対して大声で働きかけるようなことはしない. 第1に, 現場実験により, 吸着誘導法の方が, より迅速な避難誘導を達成できる場合があることが見いだされた. しかし, いかなる場合にも, 吸着誘導法が有効であるわけではない. 特に, 誘導者と避難者の人数比を操作した実験を行なったところ, 誘導者対避難者の人数比が比較的小さいときには, 吸着誘導法がきわめて有効であるが, 人数比が大きくなりすぎると, 吸着誘導法では十分な避難誘導を実現できなくなり, むしろ, 指差誘導法の方が有効であった. 第2に, 2つの誘導法を比べると, 誘導によって生起する群集全体の行動パターンに著しい違いが見いだされた. すなわち, 吸着誘導法が成功する場合には, まず, 誘導者, および, その直接的働きかけを受けた1名ないし2名の避難者から成る即時的小集団が形成され, その即時的小集団が「雪だるま式」に周辺の避難者を巻き込むことによって, 出口に向かう一本の群集流が形成された. 一方, 指差誘導法においては, 吸着誘導法の即時的小集団に相当するような特定の核が形成されることなく, 個々の避難者が, ばらばらのまま, 均質的に出口方向に移動した.
著者
山本 教人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

マーシャル・マクルーハンのメディア論をもとに,スポーツがメディア・コンテンツとしてだけでなくメディアそのものとして機能している可能性の検討を行った.具体的には,「メディアとしてのスポーツ」が我々の社会,人間関係,感性などに及ぼす影響を検討するために,解釈学的な研究方法から「Jリーグ公式戦」,「ゴールデンゲームズ in のべおか」,「第53回西日本各県対抗九州一周駅伝競走大会」,それに「第87回全国高等学校野球選手権福岡県大会」の観察と記録を行った.その結果,以下のことが明らかとなった。高度情報環境の出現は,あらゆる物事に対する人々の信頼感や現実感を希薄化させ,現代人のアイデンティティを寄る辺ないものとし,人とひととの直接的なコミュニケーションの崩壊を引き起こしていると問題視されている.このように社会全体が仕組みとして身体性の脱落を加速化させる中,スポーツが「メンバーシップ」,「相互のつながり」,「社会参加」,「確信や信念」,「他者への影響力」を介して人々の関心を引きつけていると解釈できる現象が,サッカーや陸上競技,そして野球の試合観戦を行っている人々の観察から明らかとなった.これらのことから現代社会におけるスポーツは,新聞,テレビ,インターネットといった一般にいわれるメディアの内容であるばかりでなく,それ自体人とひととを媒介し結びつける「コミュニケーション・メディア」として機能していると解釈された.現代社会においてスポーツが重要なのは,スポーツが「する,極める,見る,支える」といった多様な参与形態により人とひととを瞬時に結びつけ,交流を促し,彼らの住まう地域の活性化に貢献し得るからである.つまりスポーツは,「情動的なコミュニケーション」を介して集団のメンバー間に多様な関係を生み出すことで,彼らに「実存の感覚」をもたらすよう機能していると考えることができる.