著者
藤井 聖子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、日本語と英語の話しことば談話における心的態度表意メカニズムを、実際の談話データの分析を通して明らかにし、その機能と表意手段の文法を、「談話と文法」「語用標識化」の観点から動的に探究することを目的として行った。本研究課題が特に着目したのは、文法的機能語が、本来の統語的特質を多少薄め、語用論的機能を強化し(また主観化・間主観化し)、話者の談話における命題態度および発話態度の表意手段として使用される現象である(藤井2008東京大学出版会)。本研究で、この言語現象を「語用標識化」とよび、その事例研究として、特に(1)接続形態素・節接続構文(Fujii 2009, 2008,藤井2010, 2009、etc.),(2)「と」や「みたいな」で標識される引用節(句)構文(Fujii 2009a, 2009b ; Fujii 2006)に焦点をあてて分析した。
著者
仁科 喜久子 五味 政信 田中 穂積 柏崎 秀子
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

3年間の成果は次に示す通りである.1.データ作成3年間にわたり外国人留学生が参加しているセミナーのビデオ収録をし,20件各60分のデータを収集した.初年度は10件分を書き起こしたものを中間報告書として印刷,発行した.2年度以後のものも一部論文発表時に書き起資料として発表した.また,留学生を対象とする電気電子系大学院講義「科学技術日本語」における講義の書き起こしデータを作成した.2.分析 1のセミナービデオ資料あるいは書き起こしデータを語レベル,文レベル,ディスコースレベルの各レベルで被験者の日本語能力別に観察し次の知見を得た.(1)初級・中級では語のレベルでの問題と運用上の問題からコミュニケーションブレークダウンが多く見られた.上級ではディスコース上の問題が見られるようになり,発話機能の分類とディスコースマーカーのレベル付けをすることで指導上有効なシラバスを作成することができる.本研究では特に学術的な対話の場で用いられるディスコース構造のモデル化と発話機能とディスコースマーカーを整理し,新たなラベル付けをした.(2)専門知識と社会言語学的な運用法を含む言語知識との両者がそろったときコミュニケーションは円滑に進むが,言語知識が少なくても専門知識に関する概念知識が十分にあれば様々な言語的な方略を用いることで,相互理解に到達することは可能となる.以上の分析と講義データの観察から理工系知識をもつ成人の日本語学習者にとって専門に関する概念知識を利用して目標言語習得計画を作成することが理工系におけるコミュニケーションという目標に到達する早道であることを認識し,そのためのシラバスを提案した.3.成果のまとめ(1)平成5年度に中間報告書をまとめ印刷発行した.(2)平成9年3月に最終報告書をまとめ印刷発行した.(3)平成8年9月に研究代表者は学位論文「科学技術日本語学習システム開発のための基礎的研究」を発表し,本研究に関する内容を第7章としてまとめ,平成9年2月に学位授与とともに印刷発行した.
著者
大場 浩正
出版者
北海道医療大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

第2言語習得研究において現在議論されている問題の一つは,第2言語文法の発達初期段階において機能範疇が存在するか否かに関するものである。Lakshmanan and Selinker(1994)は子供の第2言語としての英語文法の縦断的な発話データを分析し,(1)第2言語文法の発達初期段階における(機能範疇の)補文標識thatは,時制を持つ埋め込み平叙文において義務的に空(すなわち,音形を持たず,語彙的に具現化されない)として扱われ,(2)時制を持つ補文標識thatは,関係節の領域において初めてthatとして現れる,と主張した。本研究では,Lakshmanan and Selinker(1994)の時制を持つ補文標識thatに対するこのような主張の正当性を,授業環境だけで英語を学習してきた成人の日本人学習者101名(CELTを用いて英語の習熟度を測定し,29名の初級グループと28名の上級グループに分けた)を対象に,2つのタスク(Written Production TaskとElicited Translation Task)を用いた実験によって調査した。実験結果によると,日本人英語学習者は,埋め込み平叙文における時制を持つ補文標識thatを,初級グループから高い割合で使用していた。空(ゼロ)補文標識に関しては,上級グループの方が,初級グループよりも,使用する割合が高かった。この結果は,Lakshmana and Selinker(1994)の結果とは正反対であり,授業環境のみの成人の日本人英語学習者の場合には,埋め込み平叙文における時制を持つ補文標識thatに関して,異なる発達段階が存在するようである。また,関係節の領域における補文標識thatは,初級グループから用いられていたが,上級グループの方がその使用率は低かった。このような結果となったのは,本研究の初級グループが英語文法の発達初期段階を既に過ぎてしまっていた,ということが理由の一つとして考えられるであろう。
著者
大竹 孝司
出版者
獨協大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成13年度の研究成果は以下の通りである。第1点は、心内辞書における語彙に接近する際のモーラの役割を検証した。この研究は音声の連続体の中から単語を切り出すことが可能となる分節のメカニズムに関わる研究で、これまでの研究では言語のリズムと関連する音韻単位によって分節が行われるとしてきたが、語彙内においては語境界をモーラの音韻単位が担うことを明らかにした。西欧の言語によって検証が行われているPWC (Possible-word constraints)が日本語においても適用できることを明らかにした。第2点は、「音素の活性化に基づく語彙選択」がモーラ言語である日本語においても観察されるか否かを検証した。本研究では、まず日本語の伝統的な言語遊戯である「語呂合わせ」に着目して、モーラに加えて子音及び母音の交替が存在する事実を明らかにした。次に、「語彙の再構築」という実験手法を用い、日本語話者でも音素レベルで活性化が起こる可能性を明らかにした。第3点は、第2点を更に進展させたもので、現代の言語遊戯の代表とも言える「駄洒落」に着目して、その構造を語彙認識の観点から明らかにしたものである。インターネット上の駄洒落データベースの分析を行い、基本的には「語呂合わせ」と同様な構造が存在することを明らかにした。つまり、現代日本人が日常に楽しむ言語遊戯は、音素レベルで起こる可能性が存在する。第4点は、心内辞書内における音韻表示の普遍性の問題である。モーラ言語とされる日本語話者の心内辞書においてモーラ以外の音韻単位である音節と音素の2つの単位に着目して、幼児、児童、成人、バイリンガル話者などを対象に検証を行い、(1)音節構造内における音節とモーラの発達の順序は、音節からモーラへ移行する可能性と(2)ローマ字を認識する以前の段階で、日本語話者の児童は、音素認識が存在する可能性を明らかにした。
著者
長友 和彦 森山 新
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

・多言語併用環境,特に三言語併用環境にある幼児,年少者,成人の日本語およびその他の言語の発達を文法やコミュニケーション能力の発達という観点から解明した。・5班に分かれた約20名の研究者で月1回公開研究会を行いながら,タガログ語,ベンガル語,スペイン語,中国語,台湾語,韓国語,日本語によるデータの分析とその分析結果の検討を行った。・数回にわたって研究成果の中間発表会および最終発表会を公開で行った。・平成15年9月にアイルランドで開催されたThird International Conference on Third Language Acquisition and Trilingnalismで研究成果を発表するとともにInternational Association of Multilingualismの発足式に参加した。・研究成果を報告書(pp.1-199)にまとめ,約400部を関係機関・研究者に送付した。・本研究を基礎として「マルチリンガリズム研究会」が創設された。
著者
小林 忠雄 篠原 徹 福田 アジオ
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

2ヵ年間にわたる調査研究を通じて、近代化とともに変容しつつある日本の農村社会、特に都市近郊の農村などにおいては、いくつかの特徴的な事象をあげることができる。まず、大きな変化は衣食住であり、ほとんどの地域で都市社会と変わらない均質化がみられること。しかし、近隣や親類関係がともなった人生儀礼に関しては、とりあえず旧習俗を踏襲しているが、その具体的内容には変化がある。例えば誕生儀礼は以前に比べると簡素化され、それにこれまで無かった七五三習俗が新たに導入され、近くの大きな神社に晴れ着を着飾って、ほとんど全国的に同じ習俗として定着しつつある。しかも、熊本県人吉市の場合、嫁の実家から贈られる鯉幟や名旗が初節句の折には庭先に掲げられ、これは以前より増加する傾向にある。すなわち、これまで家のステータスを象徴してきた儀礼(結婚式や葬式など)は、むしろそれを強調する傾向にあり、そうでないものは簡素化の傾向にある。かつて小さな在郷町であったマチが都市化するなかでは、マチの行事が衰退する一方で、自治体が援助する形でのイベントが創出される。しかし、それはバブル経済のなかでの傾向であって、現在の情況ではより土に根ざしたものが好まれ、同時に趣味者の集まり、すなわちグルーピング化が図られ、約縁集団化の傾向にあることを確認した。
著者
小田 福男 佐古田 彰 山本 充 李 濟民 小柳 貢 桑原 康行 瀬戸 篤
出版者
小樽商科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度〜平成13年度にかけて、「極東ロシアにおける資源開発に伴う北東アジア経済の変化に関する地域学的研究」をテーマに、北東アジア経済と北海道経済の連携可能性について検討を行ってきた。そして、そうした研究の成果は、主に平成13年度の内容を中心に述べるとすれば、以下のように整理される。まず、マクロ経済的見地からは、「サハリンプロジェクトの動向」として、近年のプロジェクトの実態に関して検討を行っている。また、より大局的見地から、「ロシア連邦における極東サハリン州の経済的位置づけ」として、ロシア経済全体から見たサハリン経済の実態に関して検討を行っている。次に、ミクロ経済的見地からは、「ウラジオストックの住宅建築」として住宅産業にテーマを絞り、北海道企業のサハリン・ロシア極東進出の可能性について検討を行っている。また、こうした流れから、北海道企業の海外進出に関するテーマとして、「グローバル時代における日本企業の国際競争力-北海道企業のグローバル対応-」についても詳しく検討を行っている。さらには、「北海道企業の知的財産権戦略モデル」として、北海道企業の特許戦略による体力強化の可能性についても検討を行っている。そして、最後に法的見地からは、「海底石油資源開発の際の油流出事故により生じる損害についての国際賠償責任」として、国際法的見地からロシアとの国際ビジネスに関する実態について検討を行っている。また、「ロシア法における共同事業形態」として、ロシアにおける具体的な企業法の実態について検討を行っている。以上の複眼的見地から、「極東ロシアにおける資源開発に伴う北東アジア経済の変化に関する地域学的研究」を進め、様々な内容に関してその実態が明らかにされた。北東アジア経済と北海道経済との連携可能性を探る上で、こうした研究成果の有効活用が望まれる。
著者
鍋島 祥郎
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

同和地区住民の学歴構成は一般的水準と比較して著しく低い。学歴構成上の格差は地区児童・生徒の教育達成水準の著しい低さによって再生産され、同和問題の解決の大きな障壁となっている。地区住民の生活過程で発生する問題に対処するものとして従来より隣保館が設置され、青少年向けに児童館・青少年会館等も設置されている地区も少なくない。本研究ではこれらの施設における教育施策について、1)生涯学習体系への移行、2)同和行政の一般施策への移行、3)「地区住民の自律精神の涵養」という視点から実証的な再評価を、大阪府・鳥取県・福岡県下において観察・インタビューを中心とするフィールドワークによって行った。その結果得られた知見は以下の通りである。1)隣保館の施設・設備、職員配置、事業運営費は必ずしも地区の人口・就労・生活実態に応じたものではない。とりわけ財政規模の小さい市町村において遅滞が目立つ。2)都市型部落の一部を除いて、生涯学習体系への移行を視野に入れた事業展開を試みているところは皆無である。成人教育事業として着付け・書道・茶道などが大部分の隣保館で行われているが、住民の学習ニーズと合致しておらず参加社の減少が続いている。同和地区の学習ニーズに応じた生涯学習事業の展開は、自治体にも隣保館職員にも重要だとは認識されていない。3)青少年向け学習事業は、算盤・習字などの隣保館事業、学校教職員の手による学力補充事業、都市部を中心に子ども会が組織されているところもあるが、地区によるばらつきが大きい。低学力や家庭の教育力の脆弱さを鑑みた事業展開とはなっていない。4)地区住民は学歴・教育達成上の大きな格差に危機感は持っているが、その解決方法については、家庭教育・社会教育・学校教育のいずれのレベルについてもノウハウも情報も持っていない。5)一般の生涯学習(社会教育)施策水準の低さと、同和対策という特別施策の中で行いうる事業の限界が、地区の教育水準の上昇を促す行政施策に必要な質と柔軟性を損なっている。
著者
寶月 拓三
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1991年6月3日の大火砕流の発生以来,雲仙普賢岳の東向き斜面には引き続き火砕流および土石流が襲い,8,000人以上が被災者した。被災者は自治体の指導による長期の避難生活の結果,転居を余儀なくされ,被災者は散在し,地域の住民の再構成が成されることになった。被災地域内の各地域では,民間住宅,公営住宅あるいは仮設住宅などの特徴を持つ住宅への入居の状況が異なっていた。これらの状況の類似性から,地域性を指摘できるが,この地域性は被災の時期や程度の地域性,被災者用の公営住宅等の設置場所によって生じていると判断した。多くの被災者は被災前の住居付近に転居することを望んでいたが,実際には,離れた場所に設置された被災者用住宅であっても転居する傾向が認められた。家屋を含め財産の多くを失った被災者にとって,経済的負担を軽減することが第一義的に重要であったと判断できる。被災者世帯のほぼ3分の1は避難の過程で分離した。世帯の分離は,一般の世帯でも観られるように,世帯内での世代構成に依存しているようである。即ち,老親・未成年の扶養・養育や,成人した子供の独立に依存する。ただ,被災地域内の地域によっては,このような世帯の分離が促進されたようである。それに加えて,被災前に比較して,被災後は世帯から分離した人々が被災地である島原市の外へ出ていく傾向が強まったようである。また,就業者のうち,農業従事者が被災後に転職あるいは無職になっている例が多数認められ,生産基盤である農地を失うことにより,離農が加速されていることが窺えた。結局,被災世帯の分裂および都市近郊農村社会における就業構造の変貌が恐らく不可逆的に加速し,さらには居住地の分散移動の結果,地域社会が質的および空間的に再編成され,新たな地域社会が形成されてきた。地域社会の再編を促す触媒として,今回の火山災害を位置付けることができると現時点では考えている。
著者
李 墨
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

2005年度に引き続き、本年度も北京と天津の実地調査を行った。調査は2005年12月11日から2006年1月3日まで集中的に行った。調査の実施については、景栄慶氏、王鳴仲氏、劉曽復氏、張宝華氏、蒋連啓氏への取材を重点的に行った。具体的な取材内容は、景栄慶氏より1930年代に創立された中国初の国立演劇学校である中華戯曲学校の演劇教育様子、尚小雲によって創立された栄春社の教育様子について詳しく語り、栄春社での修行期において範宝亭に伝授された「通天犀」を実演した。王鳴仲氏は楊小楼派の昆曲「夜奔」の演技について詳しい説明され、七段の昆曲及び全段の演技を実演した。劉曽復氏は嘗て程長庚より汪桂芬に伝わり、王鳳卿に継承された「文昭関」の唄を実演した。銭宝森に師事した張宝華氏は「金沙灘」の"下場"、「艶陽楼」の"下場"、「挑滑車」の"閙帳"を実演した。蒋連啓氏による歴代名優の着付けに関する工夫、氏の従祖父の侯喜瑞、祖父の蒋少奎の演技について詳しく紹介された。その他に、羅喜均氏による栄春社での修行期間の様子、張春華氏による葉盛章の芸、董文華氏による天津劇壇の様子などについても取材が出来た。しかし、今年度の取材対象となる名優茹元俊が10月に急死し、賀永華氏、侯少奎氏の健康状態が悪くなったため、その取材を断念した。調査成果としては、<I民国期の京劇俳優養成>に関しては清代に創立された三慶班の芸術的手法が本日の京劇舞台芸における本流たるものと判明し、<II民国期の京劇興行法>に関しては嘗ての国営演劇学校、旧式京劇教育機関の科班、劇団である"社"の運営法及び興行法について貴重な情報を得た。そして最重要な部分である<III舞台芸>に関しては名優達の協力を得て、失われつつある数々の名人芸を記録した。
著者
佐藤 豊
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

申請者はta-siRNA経路によるmiR166の発現調節についてta-siRNA経路により作られる未知の低分子RNAによる転写後制御の可能性、クロマチン制御を介した転写レベルでの調節の可能性、あるいはta-siRNAにより制御される既知の転写因子を介した転写レベルでの制御の可能性を考えた。本年度は、これらの可能性の内1番目と2番目についての検証を目的として、野生型とイネのta-siRNA経路の突然変異体(shl/sho変異体)において、低分子RNAの大量解析を行い、ゲノム全体に散在する低分子RNA産出座位を同定すると共にその発現比較を計画した。これまでに、野生型・shol-1・shol (o-282)・shll-3・shl4について、低分子RNA画分の回収並びに、cDNAライブラリーの作成を行った。続いて、SOLiDシークエンサーによる配列の解析を基礎生物学研究所の長谷部グループの協力により行った。その結果、計5580万リードを回収することができた。このうち、約2000万リードについてイネゲノム上にマップすることができた。現在、配列データをゲノムブラウザー上で、リード数を可視的に表示できる状態にデータの移行を行っている。また、野生型と変異体間でのリード数の大きく異なる座位などの抽出も続いて行いたい。さらに今年度は、3番目の可能性についても一部検討を行った。これまで、シュート領域においてmiR166により負の制御を受けるHD-ZIPIII発現を胚形成の初期過程で解析してきたが、ta-siRNAの制御を受けるETT/ARF転写因子の胚発生初期の発現も詳細に解析した。その結果、イネの胚発生初期過程において、HD-ZIPIIIとETT/ARFはシュート構築以前の球状胚期においてすでに排他的な発現をしていることが明らかになった。このことから、当初、私には否定的に思えた3番目の可能性についても十分な検討の余地があることが判明した。
著者
大平 誠也
出版者
尼崎市立中央公民館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、小学校6年生児童を対象にセルフモニタリング機能を有する体育の宿題(セルフチェック)を実施し、健康増進行動に与える影響を検討することを目的とした。健康増進行動については、体と心の両面から捉え、身体活動量の指標は歩数、精神面は運動有能感を取り上げた。本調査は、平成19年9月〜11月に調査した。歩数は、装着した歩数計で休み時間の行動記録を1日ごと求めた。まず、ベースライン期(1週間)、次に、体育の宿題(セルフチェック)用紙を用いて、1週間ごと4回(4週間)記録し、さらに終了1ケ月後(1週間)再調査した。精神面の変容の測定は、身体的有能感、統制感、受容感の3因子で構成された運動有能感測定尺度(岡澤、1998)で宿題実施前後、終了1ケ月後を実施した。求めたデータの処理は、Excel統計2004for windowsで行った。その結果、全体の平均歩数では、ベースライン期を基準に比較したとき、宿題開始第1週目は減少するが、第2週目は有意な増加に転じた。その後、有意差はないが終了まで安定した増加傾向であった。宿題終了後1ケ月の調査では減少し、ベースライン時への逆戻りを示唆する傾向が認められた。運動有能感は、実施後有意に3要因とも高まった。しかしながら、実施1カ月後では、差がなくなり逆戻りの傾向を示した。同様の男女別比較で男子の歩数は、1週目にやや低下するが、2週目以降増加する傾向を示し、4週目、1ケ月後に有意な増加が認められた。女子も1週目にやや低下し、2週目上昇するが、男子と異なり3週目以降は減少傾向を示した。運動有能感は、男子では、統制感、受容感が運動後有意に高まり、統制感は1ケ月後も高まった状況を持ち越した。一方、女子では、統制感、受容感ともに運動後に高まるにとどまった。男子では、歩数、統制感の持ち越し効果が期待できるが、女子は逆戻り傾向であった。
著者
植田 一博
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

昨年度は,人間のサッカープレイヤに類似した学習方法によって,他プレイヤの行動の予測と状況のリスク計算の最適化を行うサッカーエージェントを構築したが,本年度は,構築した学習エージェントが,(1)チームプレーに関する学習を行わない既存のRoboCupチーム以上のパフォーマンスを示せるかどうかを実験的に検証した上で,(2)適切なパスの受渡しにとって重要なファクターである,パスの強さとプレイヤの移動速度のバランスをシステマティックに設定する方法を提案するための予備実験を行った。(1)に関しては,学習の課題として,1.味方間でパスが通れば報酬がもらえる課題(ボール支配課題),2.エンドラインを突破すれば報酬がもらえる課題(防御突破課題),3.11対11形式のゲームによる学習結果の確認,の3種類のシミュレーション実験を行った。比較対象は,申請者らがペースとして用いた,かつてのNo.1チームYowAIである。その結果,ボール支配課題に関しては,申請者の学習エージェントのボール支配時間がYowAIエージェントのそれを有意に上回り,防御突破課題に関しては,学習エージェントのアタッカチームがYowAIエージェントに比較して高い防御突破課題の達成率を示し,11対11のゲームに関しては,申請者のチームが30戦中16勝8敗6引き分けであった。したがって,申請者が提案した学習方法が動的環境下におけるマルチエージェント学習の方法として優れていることが,サッカーエージェントにおけるパフォーマンスの比較から示された。(2)に関しては,まず,3対2の中盤におけるボール支配を課題としたシミュレーションを行い,グリッドサイズとダッシュ時のプレイヤ移動速度を一定とし,パスの強さのみを変化させた.その変化に応じてボール支配時間が変化することを確認した。さらに,パスの強さに応じたパスの受渡しの変化を調べた結果,近距離パスが通りやすいパラメータ設定と,遠距離パスが通りやすいパラメータ設定があることが明らかとなった。
著者
西村 秀樹 清原 泰治 岡田 守方
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

戦前から嶺北地域でおこなわれてきた相撲大会の運営資金は、地区の総代が集めた寄付金による。当日に向けての練習指導も、土俵づくり、桟敷づくりもすべて地区総ぐるみでなされる。戦前も現在も、行政の側とは無関係に、地区の熱意によって脈々と続けられる"フォーク・ゲーム"なのである。社会体育とかコミュニティ・スポーツの原点として見直すべき姿であろう。強い力士には、ひいき連中すなわち地縁・血縁を媒介とした後援会によって「しこ名」がつけられ、また「化粧まわし」が贈られた。ひいき連中は熱烈な応援を繰り広げ、喧嘩沙汰になることもたびたびあった。ここには、各集落の「ローカリズム」といったものがうかがえる。しかし、そうした緊張を緩和させる集落間の対外的調和機能をも宮相撲は有していた。「勧進元預り」といった勝負を引き分けにする裁定があったこと、大会には出店が並び、各集落の特産物が集められ、集落間の交流がなされたこと、集落を越えての男女交際・婚姻の契機となったことなどは、そうした意味をもっている。宮相撲は、こうして地域的共同性の再生産をもたらしていたと考えられる。相撲という力くらべの大会を通して老若男女が共通の時空間へ参加した。人々は、そうした共通の体験を通じて、日常生活における利害を超越した共同性の感情を確認していったのである。その共同性は、各集落を核としながらも、他集落を含んだより広域のものへとなっていったと考えられる。地域社会はこうして編成されていくのである。
著者
溝口 広一 櫻田 忍
出版者
東北薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

行動薬理学的実験の結果から新規内因性μオピオイドペプチドTyr-Pro-Phe-X-NH_2を想定し、マウス脊髄・脳からの単離・同定を試みた。残念ながら、HPLC-ECD、HPLC-LC-MS、HPLC-TOF-MSの何れのシステムを用いても、上記ペプチドは検出されなかった。その為、上記ペプチド(あるいはその前駆体)を産生しうる遺伝子の検索を試みた。全マウス遺伝子からの検索となる為、該当する遺伝子は未だ発見できていない。しかしその検索過程において、未だその産生遺伝子が発見されていない内因性μオピオイドペプチド、endomorphin-1およびendomorphin-2の産生遺伝子を発見した。
著者
櫻田 忍 溝口 広一 渡辺 千寿子
出版者
東北薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

Morphineの鎮痛作用が神経障害性疼痛において著しく低下する原因を解明すると共に、神経障害性疼痛に対しても極めて有効な新規鎮痛薬としてamidino-TAPAを開発し、その鎮痛作用が神経障害性疼痛においても維持されるメカニズムを解明した。また、神経障害性疼痛発症時に特異的に低下するμ受容体スプライスバリアントを一過性に補充することによる、神経障害性疼痛に対するジーンセラピーの確立を試みた。
著者
田中 重好 中村 良二 柄沢 行雄
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

「都市は社会的生活の中心的機能の所在地である」という視点から、鈴木栄太郎の都市結節機関説、矢崎武夫の統合機関説などによって、都市が具備する機能が議論されてきた。こうした理論からは、どの地域においても妥当する、中心都市と各地域との序列的な機能分担のあり方が提示される。しかし、弘前の広域市町村圏の地域づくりの調査から導き出された結論は、地方都市の機能は実に「個性的であり」、個性を生かした形で、地方中心都市の機能と整備のあり方を構想して行くべきであるという点にある。したがって、地方都市の整備のあり方を、個性を無視して一律に議論することはできない。地方中心都市の都市機能や都市基盤は基本的に、周辺の各市町村の「地域づくりの志向性」を尊重しながら、整備されるべきである。いいかえれば、各市町村のこれまでの地域づくりの方向性・地域づくりのベクトルを尊重し、各地域の個性を生かしながら、それに連動・共振しうる弘前市の都市づくりがされなければならない。岩手県県南地域の三つの都市、一関市、水沢市、江刺市を事例とした調査からは、中心都市の政策的な判断および条件によって、地方都市の整備方針が異なることを見てきた。三つの都市ごとに、高速交通体系の整備にともなう地域社会の変化の仕方が異なっていた。その差異は、各都市が選択した施策によってもたらされたものである。
著者
原田 淳 宇佐美 繁 野見山 敏雄 谷口 吉光 久野 秀二 中島 紀一 大木 茂 細川 允史 原田 淳
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では対象とした事例はいずれもWTO体制下にあっても確実な成長を実現してきた産直産地組織と総称される農家グループである。その特徴は、新政策がサブ戦略として打ち出した環境保全型農業を早い時期から経営の基本戦略に位置づけ、主として生協との産直という形で、卸売市場への無条件委託販売ではなく、産地組織自身の手で消費をつかみ、継続的な事業システムを構築してきたという点にあった。産直産地組織は環境と安全性重視の農業生産体制の確立と戦略的マーケティングによる農産物販売を機軸とした農家の連合組織であり、法人形態としては農事組合法人、有限会社、株式会社、系統農協、法人格のない任意組織などさまざまである。既存の農業組織のなかでは組織形態や活動内容は農協に類似している。本来ならば系統農協が果たすことを期待された諸機能を、現実には多くの農協が果たし得ていないなかで、意志のある生産者たちが自ら農協類似の組織を作り上げ、時代を生き抜く道を拓いてきたと理解できる。マーケティングを軸とした戦略的経営についてのこれまでの議論は個別経営に視点をあてたものが多かったが、本報告の事例は意志のある農家によるグループとしての組織的な経営展開である。環境・安全など新時代農業のポリシーが確立されているという点、先端的マーケティングを展開する活力ある集団的経営構造が構築されているという点、地域における幅広い農家の結集などの諸点に際だった特色があり、個別経営主義に傾斜しがちだった戦略的経営論と農業を面として集団として捉えようとする地域農業論・産地形成論との断絶を埋める方向としても注目すべき取り組みである。
著者
小川 正晴 仲嶋 一範
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

リーラーミュ-タントマウスの原因遺伝子産物Reelinを特異的に認識し、かつその機能を阻害する効果をもつ抗体CR-50を分取し、皮質ニューロンの配置がReelinによって制御されていることを明らかにしてきた。Reelinは分泌性のタンパク質で、Reelin同士がCR-50認識部位を介して会合体を作ること、この会合体形成がReelinの機能に重要であることを示した。突然変異マウスヨタリの解析からDab1遺伝子の変異によってもリーラーとほぼ同じ表現型を示し、L1レトロトランスポゾンがDab1遺伝子内に挿入された結果スプライシング異常がおこってDab1蛋白質が完全に欠損することを明らかにした。ReelinがCajal-Retzius細胞で作られ分泌されるのに対して、Dab1はこの細胞に隣接するニューロンに発現し、非受容体型のチロシンリン酸化酵素に結合してシグナル伝達に関係する蛋白質である。同じ表現型を示すことから、Dab1はReelinシグナル伝達の下流の要として細胞移動/配置に直接に関係している。細胞外分子のReelinを感知し、細胞内のDab1のリン酸化に連結するような機能をもつReelin受容体の存在が予想された。先にチロシンリン酸化酵素Fynと結合する新規カドヘリン型受容体(CNRs)が八木らによって見い出されていた。またFynの欠損マウスにおいても皮質構造に異常が認められていた。そこで、CNRsがReelinの受容体に該当する可能性が予想され、この点を検討した結果、CNRsが、Reeinの受容体であること、またその結合サイトを明らかにした。CNRsに加えて、膜蛋白質であるapoER2およびVLDLRもReelin受容体であることが明らかにされている。このような複数のReelin受容体がどのように協調して機能しているのか、またDab1の下流において、細胞の移動/配置に関わる要因について現在検討している。
著者
田中 義久 常木 暎生 藤原 功達 小川 文弥 小林 直毅 伊藤 守
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

高度情報化の進展に伴い、コミュニケーション行為およびメディア環境の変容は、対人関係、マス・コミュニケーション、メディエイティッド・コミュニケーションなどと、重層的な連関を通して進行してきている。本研究では、こうした状況を、地域社会におけるコミュニケーションとの関わりの中で捉えることを目標として研究会を開催し、10年前に実施した調査研究(文部省科学研究費・総合研究A・平成3-4年度「コミュニケーション行為と高度情報化社会」)をふまえ、埼玉県川越市で調査研究を行った。1997年度は、地域作りのリーダー層、行政関係者などを中心にヒアリングを行い、1998年度と1999年度には、川越市の旧市街地と郊外住宅地とで、情報機器利用や地域コミュニケーションなどに関する意識や行動について、質問紙による数量調査を実施した。2000年度は、当該地域の住民に対して、ヒアリング、グループ・インタビューを実施した。4年間の調査研究によって、情報化の進展する地域社会の実態を把握するとともに、高度情報化に即応した、コミュニケーションに積極的な層の存在が明らかになった。その上で、地域住民の側からのヴォランタリスティックな「地域社会」形成の行為は、いかに展開されていくのだろうか。コミュニティとコミュニケーションとの連関を、情報化と地域社会の双方に影響するグローバリゼーションの社会変動のなかで注目していくことの重要性は高い。2000年6月には日本マス・コミュニケーション学会において、「情報化の展開と地域における生活」というテーマで研究発表をおこない、11月には日本社会情報学会において「情報関連機器の利用とコミュニケーション行動に関する実証的研究」というテーマで研究発表をおこなった。また年度末には、本研究成果として、文部省科学研究費報告書(冊子)をまとめた。