著者
木島 由晶
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

ニューヨークでのフィールドワークをもとに、販売員の国際比較をおこなった。1.組織構造の逆転日米ともに、通説とは逆の組織構造を発見することができた。日本ではMLMは俗にネットワーク・ビジネスとも呼ばれ、知人を勧誘することでグループを成長・拡大させてゆく。したがってその組織構造は官僚制的なヒエラルヒーではなく、ゆるやかな横のつながりを基調としたものであるとされる。けれども実態は大きく異なり、微視的にみれば販売員は「友だちの輪」によって結びついているが、巨視的にみればピラミッド型の階層構造のなかでインフォーマルに職務の分担がおこなわれている。米国ではMLMはダイレクト・セリングと呼ばれ、直接、企業と消費者を取り結ぶ販売組織であると認知されている。代理店を通さない代わりに、販売組織の中では武道の段位制にも似た階級が設定されており、それに応じてバックマージンの給付率も変わる。だが、明確な階級が設定されていても、販売員の職務には反映されていない。上級クラスに権限は乏しく、販売員は各自の裁量に基づいた販売計画を実行している。2.文化的要因の格差米国の販売スタイルを踏襲した日本のMLMが異なる販売組織の形態をとるようになった背景には、地理的要因、歴史的要因などのさまざまな要因が絡みあっているが、最も重要なのは文化的要因と考えられる。元来MLMは、合理性を追求する米国の気風のなかで生まれた商法だったが、通常のビジネスとは異なる副業としての価値が認知されるにつれ、他に仕事をもつ人が自由におこなう余暇的側面を強めることになった。一方で、日本を中心とした諸外国では、高度経済成長期に流入することにより、旧来の職業的観念とは異なる外資系ビジネスとしての価値を獲得する。そのため筆者の類型でいえば、米国にはMLMに商売以上のものを求める<ディストリビューター>型が多く、日本には現世利益を追求する<ネットワーカー>型が多いということになる。
著者
西村 浩子
出版者
松山東雲女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

平成15年度は、愛媛県内の北宇和郡三間町毛利家および上浮穴郡久万高原町(旧美川村)土居家の調査、県外では、富山県立図書館・滋賀県野洲郡野洲町大篠原小澤家・岡山大学図書館において、大学・中庸・論語・孟子集註・詩経、三体詩など角筆文献発掘調査を行った。富山県立図書館蔵の「孟子」(1757年刊)には角筆の書入れよりも墨筆や朱筆で方言形が多く見られ、今後、詳細な調査が必要である。国外では大英図書館において敦煌文献調査を行った。今回は、吉沢康和氏による調査で角筆文字があるとされた「金剛般若波羅蜜多経宣演」(S.4052)の追調査(2枚目〜14枚目)を行った。以前報告された角筆の漢字は、1箇所を除き、確認が困難であった。その原因は、今回は角筆スコープの使用が許可されなかったことによると思われる。しかしながら、誤写を訂正する場合に漢字の上に角筆で斜線が引かれたり、朱点の下に小さなくぼみの点が見られる例を確認した。今後、角筆スコープを利用した調査でさらに発見できる可能性がある。平成16年度は、第6回「書物・出版と社会変容」研究会において、古文書や古書籍に見られる文字について発表した。これまでの調査の成果をもとに、これまでの角筆文献研究の流れとこれからの古文書調査においても角筆文字が発見される可能性があることを述べた。また、C/D班共催研究会において、正岡子規文庫の角筆文献を中心に明治期の角筆文献についての検討を報告した。口頭発表・論文は以下の通りである。(1)第6回「出版・書物と社会変容」研究会 4月10日 於 一橋大学「古文書・古書籍に見られる角筆文字と角筆文献研究-忘れられた書記活動が遺したもの-」(2)第3回角筆文献研究会 9月17日 於 鳴門教育大学「正岡子規と角筆文献」(3)「読書行為の痕跡として見た角筆文献 -法政大学図書館蔵正岡子規文庫の角筆文献を中心に-(特定領域研究成果論文)
著者
末廣 昭 中村 圭介 丸川 知雄 上村 泰裕 株本 千鶴 木崎 翠
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は東アジア7カ国・地域(中国、台湾、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア)における国家の社会保障制度の仕組みと企業内福祉の実態を比較することを目的とした。国家の社会保障制度については、(1)年金制度、(2)健康保険、(3)労災補償、(4)失業保険の4分野に注目し、企業内福祉については、(1)有給休暇、(2)社宅、食事手当、子弟の学資補助、退職金制度などの福利厚生の提供の有無、(3)労働総費用に占める法定福利と法定外福利の比率、(4)企業内福祉に対する経営側の方針、の4つを主な調査対象とした。企業内福祉に関する国際比較は初めての試みである。平成17年度は文献調査と予備的な現地調査を実施し、その成果として『東アジアの福祉システムの行方:論点の整理とデータ集』(2006年2月、398頁)を刊行した。次いで、平成18年度は企業アンケート調査を実施し、約800社について回答を得た。平成19年度には回収した企業アンケートの集計とデータ・べースを作成し、平成20年2月に、372ページの最終報告書『東アジアの社会保障制度と企業内福祉:7カ国・地域の国際比較』をとりまとめた。調査から得られた知見は以下のとおりである。(1)有給休暇については、各国・地域とも労働法が定める有給休暇の枠内で提供しているが、各国に固有の休暇が存在すること。(2)企業が提供する福利厚生については、モノ志向ではなく金銭志向(補助金の支出)が強いこと、韓国の場合には、子弟の学資補助が際立って高かったこと。(3)法定福利の現金支給に対する比率は、中国、シンガポール、韓国、台湾と続き、タイ・インドネシアが低かったこと。他方、法定外福利の比率は韓国・台湾が高く、シンガポール、中国が低かった。(4)企業内福祉への方針は、いずれの国・地域でも9割以上が重視する意見を示したが、賃金・ボーナスをより重視すべきという質問には国・地域でばらつきが見られた。
著者
岡部 鐵男
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では環境の変化に伴い企業競争が激しくなっている企業の組織編成に関してエージェンシー理論と取引費用理論の有効性について浮き彫りにし、理論的に明らかにした。これらの分析から次のようなことを解明した。(1)プリンシパルとエージェントの二層からなる内部組織において効率的な資源配分を行なうとき、強いインセンティブを与えられた組織ではエージェントの分権化や独立性が高まり組織の生産性も高まるが組織をコントロールするためのエージェンシー・コストや取引費用も高まる。エージェントを動機付けるための価格やボーナスと罰金、また割り当て等の採用による適切なインセンティブ・システムのデザインの仕方がある。シャーキングを避けるためモニタリング制度、インセンティブ・システム、内部監査により組織の非効率を避けることができる。(2)不完備契約によって取引費用が高くつくとき、企業は費用と便役のトレードオフを通じて、市場で取引することを止めて、統合した組織をつくり経済効率を上げようとする。所有権理論は機会主義的行動を抑制し取引費用を節約するので統合した組織をつくる論拠となる。組織のコーディネーション効率の観点からは取引費用とリスク・コスト、セットアップ・コストの和が最小になるところで組織の複雑性の程度が決められる。情報技術の発展は取引費用を節約するので組織の形態を変容させる。(3)取引費用理論とエージェンシー理論によってさまざまな組織構造を分析できる。活動の関連性と技術変化を考慮することによって戦略的に組織を選択できるし、取引費用と内部化を考慮することによって多様化の程度を決定できる。また内部化費用と時間を考慮することによって多国籍企業の組織構造を選択できる。市場と組織の中間に位置するネットワークにあっては取引費用の節約が効果的かつ効率的であるとき維持され、競争上の便役を得ることができる。
著者
東田 陽博 星 直人 橋井 美奈子 横山 茂
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

細胞内のCaをセカンドメッセンジャーとするCaシグナリングは、数多くの受容体の下流に存在する重要な信号伝達機構の一つである。最近、リアノジン感受性の細胞内Caプールを開く細胞内リガンドはサイクリックADPリボース(cADPR)であると考えられるようになってきた。この数年、我々はcADPRがIP3のようなセカンドメッセンジャーであるとするこの仮説を検証してきた。そしてNADからcADPRを産生する膜酵素が受容体によりコントロールされていることをムスカリン受容体を大量発現するNG108-15細胞(J.B.C.,1997)とβアドレナリン受容体を持つ心臓心室筋(J.B.C.,1999)を用いて始めて証明することができた。アメフラシのADPリボシルシクラーゼと相同性を持つことで知られるCD38をノックアウトしたマウスで測定したところ、ADPリボシールシウラーゼが全く測定できなかった。この結果は我々の予測と異なり、CD38以外に酵素活性を持つ、タンパク質が存在しないことを示している。そこで研究として、次の仮定を確かめるために研究を転開した。すなわちパーキンソン病脳におけるcADPリボースの役割を明確にするため、ラット脳線状体でのADPリボシルシクラーゼ活性を測定した。ドーパミン添加によりシクラーゼ活性が上昇することをはじめて見出し、現在この活性上昇のメカニズムを追求している。また、脳可塑性に重要な役割を果たす代謝型グルタミン酸受容体のADPリボシルシクラーゼヘのカップリングを研究し、興味あるサブタイプごとに異なる特異的な反応を見出した。
著者
笹島 芳雄
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

役員報酬が極めて高い要因はストック・オプションの普及、取締役会の内部委員会である報酬委員会の機能不全、役員報酬の世間相場情報の利用上での問題、外部コンサルタントの行動、国民の価値観などに根ざしている。高報酬の是正は、社内の報酬構造の見直し、世間相場水準の慣性、アメリカ国民の価値観との衝突などがあり容易ではない。他方、底辺労働者の賃金水準は低く、貧困水準すれすれの状況にあり「生活賃金運動」が活発である。また、公正な賃金の実現に向けて、同一価値労働同一賃金の法制化が推進されているが困難な状況にある。多くの企業で実質的には同一価値労働同一賃金が実現している。
著者
田中 敏光 杉江 昇
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

小学校低学年の児童を対象として,コンピュータ内の仮想空間における三次元造形教育を支援するため,バルーンアートを題材とした子供向けモデリングソフトの開発を行った.このシステムでは,細長い風船にねじる,曲げる,ひねるなどの操作を加えて形状を作成する.子供が理解しやすいように,主要な造形機能はその内容を図示した大型のアイコンで表示している.また,操作ごとに異なる効果音を出すことで,操作の識別を容易にし,かつ,作業に飽きが来ないように工夫している.風船モデリングを造形教育に使うには,作った形を評価してより良い形に導く仕組みが必要である.そこで,児童が作った作品をお手本と比較し,一定の値より差が大きければ修正を示す矢印を表示するモジュールを追加した.この指示に従うことで,作品をバランスのとれた形に整えることが出来る.作成した形状をアニメーション動作させるモジユールも追加した.児童が作った作品各部分の長さに応じてアニメーション用の形状と動作を修正することで,作品に対応したアニメーションを生成する.動作の種類は評価に連動して切り替えることができる.試用実験により,システムの使い方は5分程度の説明と数枚の図解で難なく理解できることが確認できた.また,アニメーションは好評で,動きを見るために形を何度も作り変える様子が観察された.しかし,造形操作で元に戻すことが難しい状況になると,困った挙句,始めから作り直す場面が見受けられた.そこで,undo/redo機能を追加し,任意の時点までモデリング作業を戻すことが出来るように改良した.undoバッファには作業開始からの全ての操作履歴を保存するので,これを利用して,お手本の作成過程をコマ送りで表示する機能も追加した.また,ウインドサイズを大きくし,不要な機能を削ることで,作業領域を約2倍に拡大した.これらの改良により,使い勝手が大幅に向上した.
著者
有村 俊秀
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

初めに、昨年度収集した情報をもとに、排出量取引の利点である排出削減費用の抑制効果が、米国二酸化硫黄(SO_2)排出承認証取引制度において発揮されているかどうかについて、実証的な観点から計量分析を行った。具体的には、企業の主な排出削減手段である排出承認証取得、低硫黄石炭への発電燃料の転換、脱硫装置の設置に焦点をあて、州ごとに行われている地元炭鉱の産業保護や排出承認証売買による費用や利益に関する規制などがこれらの選択に対して及ぼす影響を、1995年のデータをもとに多項選択モデルを用いて推定した。燃料購買の長期契約による影響についても分析を行った。結論として、主に3つのことが実証された。第一に、高硫黄石炭の産業保護が低硫黄石炭の選択を減少させることが示された。第二に、排出承認証取引で生じた費用/利益を消費者に転嫁/還元しなくてはならないとする規制によって、排出承認証の需給が減少したことが明らかになった。第三に、排出承認証取引で生じる費用や利益の取り扱いについて不確実性がある場合は、排出承認証の購入が減少することが確認された。次に、昨年度行った脱硫装置の技術・費用に関する情報収集および、パラメータ推計に関する情報収集をもとに、発電所における脱硫装置設置行動を離散的投資モデルとして定式化し、排出量取引の動学的市場均衡モデルを構築した。発電所の離散動学モデルを解析的に明らかにすることは困難なため、数値解析法により発電所の投資モデルを求めた。そして、それらをもとに排出承認証の均衡価格と、均衡下での発電所の行動モデルを明らかにした。最後に、これらの数値解のモデルを用いて、脱硫装置導入の補助金(承認証ボーナス)の効果を定量的に分析した。数値解により、承認証ボーナスの付与がなければ、脱硫装置の投資は行われなかったことが示された。
著者
大谷 真忠 石井 まこと 阿部 誠 幸 光善 本谷 るり
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、大分市内の企業にたいして人事・雇用管理に関するアンケート調査を実施し、雇用・人事管理の今日的特徴を分析するとともに、企業の人事担当者に人事管理の課題について聞き取りを行なった。また、地域の就業構造の特色と変化について統計的な分析を行なった。さらに地域の老舗企業の地域性についてアンケート調査にもとづいた分析を行なった。これらの研究を通じて、とくに雇用・人事管理の面で、次のような最近の特徴が明らかになった。対象企業のなかで職能資格制度があるのは約半数にすぎず、人事評価を定期的に行っている企業も3分の1にとどまる。人事評価で重視されている点は、「能力」がもっとも多く、「業績、成果」、「仕事の姿勢」がそれに続いている。評価結果は主に昇給・賃金の決定、ボーナスの査定に用いられている。最近の人事考課制度の変化として「処遇格差を大きくした」「業績・成果ウェートを上げた」「数量目標を活用」「評価結果を本人に説明」の4項目に集中している。採用管理の面では30歳以上の中途採用が拡大しているが、規模の大きな企業では新卒採用が中心であり、中途採用は補完的な役割にとどまる。他方、リストラの方法としては「パート・アルバイトや派遣社員の積極的活用」が3割ともっとも高い比率を示すほか、「人員削減」を行った企業も多い。100人以上規模の企業は全体的に事業再構築に積極的である。賃金では、賃金テーブルを用いない企業が半数以上を占める一方、一般職の定昇制度は56.4%の企業にある。賃金を決める要素としては、ほぼ半数の企業が「職務遂行能力」で、「仕事上の業績」は4分の1である。人事管理の課題としては「中核的人材・即戦力の採用」が半数を占め、重視されている。地域企業も、基本的には人事管理の全国的な傾向と同じ動きを示しているが、小規模企業を中心として体系的・制度的な整備が遅れているということができる。
著者
吉永 美香
出版者
名城大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

住宅建物の陸屋根上に水膜を形成し,夏期における最上階居室の暑熱環境を緩和させる手法について効果の検討を行った。H19年度に光透過型ルーフポンド(RP)試験体を用いた実測による熱収支分析を,H20年度に愛知県に実在するRC造集合住宅の最上階にある居室を対象に実験的検証を行った。いずれも高い屋根表面温度抑制効果が確認された。さらにRC造戸建住宅の屋根全体にRPを設置した場合の冷房熱負荷削減効果を計算により検証した。以上より,RPが効果的に冷房時熱環境を改善するとともに,冷房設備使用に伴うエネルギー消費量を抑制することが明らかとなった。
著者
三隅 二不二 ハフシ モハメッド 米谷 淳 橋口 捷久
出版者
奈良大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

災害時、もしくは災害警戒期における人々の対応や態度を社会的なネットワ-クの観点から分析することが本研究の課題である。昭和64年には、スモ-ルワ-ルド・メソッドというネットワ-ク調査手法で焼津市を予備的に実験調査することによって、市役所・消防署などの防災機関と一般市民との間に潜在するネットワ-クを実験調査した。その結果、防災関係者と一般市民との間には、平均2〜3ステップ程度の連鎖のリンクでもって双方を連結させてやることが可能であろうことや、防災→市民ル-トよりも、市民→防災ル-トの方が連鎖が完成しやすことなどを明らかにした。平成1年度には、伊東市で生じた海底噴火に対する住民の災害時の行動や態度と日常のネットワ-クについてヒアリング・郵送調査をもって検討した結果、ネットワ-クの密な地区と疎な地区とでは、防災訓練への参加度や防災意識の高低などが、密な地区のほうが疎な地区よりも高い傾向があることが見いだされた。本年度は、再び伊東市の自主防災組織のリ-ダ-や市役所・消防などの防災関係機関、特にガス・電気・電話等のライフライン組織の責任者などに、おもにアンケ-トの結果を評価してもらうヒアリングを実施するともに、様々な機関が公式・非公式に、海底噴火当時の対応を記録した資料などを収集・分析した。その結果、災害時情報を、時期別・地区別・ネットワ-クの質別(近隣・親類・役所関係者・町内会関係者・自分の仕事関係者など7項目)分析した結果、地域防災上の相談のような部分的・短期型の情報の場合は、近隣・仕事関係ネットワ-クが利用される割合が高いのに対して、観光が伊東市に及ぼす影響といった全体的・長期的情報の場合は、親類関係ネットワ-クが利用されていた。また、災害時に流れた様々な噂を分析したところ、噂の内容には、「〜が地割れしている・〜の人々が避難した」といった地域密着情報の場合は、近隣ネットワ-クが、「富士山が噴火する・津波がくる」といったマスコミ報道の反復的な情報の場合は、親類・近隣を中心として不特定なル-トが利用され、「魚が異常な行動や大漁だった」という特殊な情報な場合は、魚業関係者のル-トが利用されるという傾向などがあった。
著者
駒谷 真美
出版者
昭和女子大学短期大学部
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の内容本研究の背景として、博士論文(お茶の水女子大学大学院,2006,駒谷)で、幼児期と児童期それぞれの時期に適応したメディアリテラシー(以下MLと略す)教育を日本で初めて開発し、「ML教育と子どもの生態学的環境モデル」を構築した。更なる研究の萌芽を育成する視点から、幼児教育と小学校教育の場でのML教育の普及を期待し、その方略として、教育学的視点から幼稚園年長児から小学校1年生までを対象に、接続期を意識したML教育の幼小連携カリキュラムを開発した。平成19年度は、米国でのML教育のカリキュラムとレッスンスタディの技法を研修し、本研究のカリキュラム試案をまとめた。平成20年度は、【接続期前期】のカリキュラムを玉川学園幼稚部で実践した。平成21年度は、【接続期中期】と【接続期後期】のカリキュラムの継続実践を行った。本研究の意義と重要性国内外では初めてML教育において接続期を意識し、幼児期から児童期の統合性と継続性を持つ幼小連携カリキュラム「メディアであそぼ!」を開発した点に、本研究の意義を見出せる。具体的には、玉川学園幼稚部で【接続期前期】(年長児後半)プロジェクト「好きな遊びのCMを作ろう!」(グループで遊んでいるCMを作成し発表)、同学園初等部で【接続期中期】(小学1年入学~ゴールデンウィーク前)プロジェクト「自分CMを作ろう!」(各自自己紹介のCMを作成し発表)、【接続期後期】(ゴールデンウィーク後~1学期末)プロジェクト「クラスのニュース番組を作ろう!」(初めてのグループ活動で、入学以降クラスで体験した行事や勉強について、ニュースを作成し発表)を実践した。「メディアであそぼ!」は、幼稚園では「ことば」「表現」の領域、小学校では「国語科」に該当する。全実践をビデオカメラで記録しテープ起こしを行い、事前事後アンケートやインタビューを実施した分析結果から、時期を重ねるごとに、メディア活動の体験を通して「メディアは作られている」というML教育の基本概念に対する気づきが表出し、自己表現活動・グループ活動を通して「言語活動の充実」が認められるに至った。接続期におけるML教育の重要性が示唆された。
著者
藤善 眞澄 王 宝平 王 勇 内田 慶市 尾崎 實 宮下 三郎 籔田 貫 薗田 香融 大庭 脩 WAN Bao Ping WAN Yong 永井 規男 日下 恒夫
出版者
関西大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

研究テーマ「佛僧の往来」「江戸時代の日中関係」「漢籍と和書の相互交流」「浙江人の日本留学と中国近代文化」の四分野にわたって例会発表を行い、その一部は東西学術研究所々報等に掲載されている。さらに従来の成果をもとに本年度の調査研究を加味し<浙江と日本>のタイトルで業績発表を行うことが決定されており、すでに以下の論文15篇が提出されている。(1)藤善眞澄「入宋僧と杭州・越州」(2)大庭脩「浙江と日本-1684年より1728年に至る間の寧波船の動向」(3)宮下三郎「李仁山種痘書について」(4)籔田貫「寛政12年 遠灘漂着唐船萬勝号について」(5)松浦章「浙江と倭冦」(6)高橋隆博「浙江の漆芸-螺鈿器と識文漆器をめぐって-」(7)尾崎實「後浪推前浪-浙江人の場合-」(8)内田慶市「ヨーロッパ発〜日本経由〜中国行き-西学東漸のもう一つのみちすじ-」(9)毛紹晢「稲作の東伝と江南ルート」(10)王勇「鑑真渡日の動機について」(11)蕭瑞峰・徐萍飛「浙東の唐詩ルートと日本平安朝の漢詩」(12)屠承先・呉玲「呉越国の文化と日本」(13)王宝平「傅雲龍の日本研究の周辺」(14)呂順長「中国の省による留日学生派遣の事始め」(15)謝志宇「留日浙江人の夏馬尊について」これらは平成8年度中に出版し報告書にかえたい。今年度は王勇の漢籍・和書の調査を中心に置き、藤善眞澄による日中交通路の調査ならびに史蹟、資料の蒐集を併せ実施し、多大の成果を得ることができた。これらは逐次発表を行いつつ、次の目標につなげていきたいと思う。
著者
相田 洋
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

『点石斎画報』は、上海で『申報』を発行していた申報館から刊行された絵入りの旬刊誌である。当時の中国は、上海を中心として文明開化の波に覆われ始めていたが、まだ地方では旧文化・旧社会が色濃く残存していた。そのため、この画報は、それら文明開化の過程や旧社会の様々な諸相を活写していて、中国社会史・民俗史研究にとって、格好の史料といえる。このように『点石斎画報』の史料的価値は高いが、日本の学界(中国でも同様)ではこれまでほとんど利用されてこなかった。それは、この画報の揃いは、日本に存在しなかったからである。1983年6月に、広東人民出版社から、全5帙・34冊が刊行され、ようやく渇望を充たす事ができるようになった。しかし、この広東人民出版社本は、「丁酉9秋重印」つまり、光緒23年(1897)秋の重刊本を定本にしており、原本ではない。原本との大きな違いは、刊行年月旬や号数が欠けていることである。この点は、時事問題も多数掲載されている画報としては、相当のマイナスである。そこで本研究では、東京大学東洋文化研究所や東洋文庫、東京都立図書館実藤文庫等に飛び飛びに所蔵されている原本を調査して、刊行時期を確かめ、広東人民出版社本を定本に、データーを盛り込んだ目録(稿)を作成して今後の研究の基礎固めをすることをめざした。これらの原本の調査の結果、意外にスムーズに10日おきに刊行さたことや、数々の広人本の閉じ誤りや目次の疎漏等を発見した。ただ、本目録はまだ不十分な点が多いので、より充実させて、公刊して幅広い利用に供したいと思う。
著者
千田 稔 笠谷 和比古 頼富 本宏 池田 温 大庭 脩 上垣外 憲一 葛 剣勇 石井 紫郎 河合 隼雄
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本調査研究によって解明された主要な点を上げるならば、次のとおりである。1.明治維新後の日本において、中国人蒐書家によって系統的な典籍の蒐集がなされ、中国本土に移送されていた。ことに清国総領事黎庶昌や清国領事館駐在員であった楊守敬らによって系統的に蒐集されて、中国大陸に移送され、その後、各地を転々とするとともに、日中戦争から国共内線の時期における散逸、焼亡の危機をくぐりぬけて今日に伝来するにいたった各種図書・文献について、その所在を跡づけることができた。2.京都高山寺の寺院文書が、中国武漢の湖北省博物館において所蔵されていることをつきとめた。今回の発見成果の重要なものの一つが、この湖北省博物館所蔵の高山寺文書であった。これも楊守敬蒐集図書の一部をなしている。明治初年の日本社会では廃仏毀釈の嵐が吹き荒れており、寺院の什器や経巻の類が流出して古物市場にあふれていた。高山寺文書の流出も多岐にわたっているが、その一部が楊守敬の購入するところとなり、中国に伝存することとなったのである。3.今回の調査で、日本の仏典が中国各地の所蔵機関に少なからず伝存することを確認し得た。そして同時に次の点が問題であることが判明した。すなわちこれら日本から請来された仏書、写経の類は、中国人の目からは敦煌伝来の仏典と見なされる傾向があるという点である。明白に日本で書写された経巻であるにもかかわらず、それらがしばしば敦煌伝来の写経と混同して所蔵され、また目録上にもそのような配列記載がなされているという問題である。これは日本人研究者の考えの及ばなかった問題でもあり、日中双方の研究者・関係者の協議に基づいて、問題が早急に改善されることが望まれる。
著者
村井 章介 豊見山 和行 石井 正敏 佐伯 弘次 鶴田 啓 藤田 明良
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

研究代表者1名・研究分担者27名・海外共同研究者15名・研究協力者9名を5つの班に分け、基本的に各班ごとに、海外調査・国内調査・研究会・シンポジウム等の活動を行った。構成員全員を対象としたものも含め、研究会・シンポジウムの報告の多くは研究成果報告書に収録されており、現地調査の記録は本プロジェクトのホームページhttp://www.l.u-tokyo.ac.jp/~phase817/に掲載している。構成員全員で行った活動としては、(1)発足時の研究会、(2)秋田・青森両県調査、(3)中国石浙江省調査、(4)総括シンポジウム「海をかける人・モノ・情報」、(5)研究成果報告書の刊行、の5つがある。第1班「博多・対馬・三浦と日朝(韓日)関係」は、多島海域という特色をもつ日朝間の境界領域で活動する諸人間類型に着目し、(1)韓国慶尚南道・全羅南道調査、(2)九州大学・対馬調査、(3)シンポジウム「中世日韓交流史」、を実施した。第2班「使節・巡礼僧の旅」は、日中間を往来した旅人たちの足跡を文献研究と現地調査との両面からたどり、(1)中国江蘇省調査、(2)五島列島調査、(3)『参天台五台山記』研究報告会、を実施した。第3班「琉球ネットワーク論」は、福建地方との関係を軸に日本列島から東南アジアまでを結ぶネットワークとしての琉球の役割に注目し、(1)中国福建省調査、(2)久米島調査、(3)シンポジウム「朝鮮と琉球」、を実施した。第4班「倭寇ネットワーク論」は、東アジア・東南アジアの沿海民やヨーロッパ人までも含む倭寇という集団を対象に経済・政治・信仰などの諸側面から海域世界の成り立ちに迫り、(1)台湾調査、(2)薩摩半島・島嶼部調査、(3)五島列島・平戸調査、を実施した。第5班「世界観と異文化コミュニケーション」は、異なる文化や民族の相互間に生じるコミュニケーションのあり方を通訳と古地図に着目して追究し、(1)ポルトガル調査、(2)7回におよぶ地図・絵図調査(国内)、(3)シンポジウム「物・人・情報の動きから見たアジア諸地域の交流史」、(4)4回におよぶ研究会、を実施した。
著者
林 謙一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

今年度は8月に研究対象地域である中国雲南省において調査を行った。また調査期間中,雲南大学において中国歴史地理学会が開催されたため,中国西南地方を中心とする地域の多くの歴史地理・地方史研究者が同地を訪れており,それらの研究者に対して西南地方の地方史史料の収集・整理保存にして聞き取り行うことができた。特に重要なものとしては明代の雲南地方志二種が雲南大学歴史系によって校訂・出版されたこと(『雲南史料叢刊』所収),元代の地理志残本のうち西南地方を含む『混一方輿勝覧』の校訂が四川省で勧められていることなどがあり,前者については実物を入手することができた。古籍史料の所蔵調査は雲南大学図書館等について実施することができたが,もうひとつの重要目的地である雲南省図書館については,同館が改装工事に伴い長期閉館中であったため果たせなかった。前年度に複写を入手した明代地方志については電子化の作業が進行中であるが,上記の雲南大学による出版内容と重複するため,単なる画像入力の意義が薄らいだ。そこでさらにこれらの電子テキスト化を進めるべく,方法および使用文字コードなどについて検討を進めた。具体的には内外の研究者による利用を容易にするため,日本語(JIS)の文字コードではなく,国際規格であるunicodeによるテキスト化を行うこと,同時にそれをWEBページのかたちで公開すること,コード化されていない文字については画像を使用し,参照番号として『大漢和辞典』の親字番号を付することなどである。この作業は現在進行中であるが,その成果の一端として,元代雲南地方志史料の一つ『雲南史略』などを含むいくつかの中国西南地方の民族に関する史料を研究代表者のWEBページ(www.lit.nagoya-u.ac.jp/〜toyoshi/maruha/kanseki)において試験的に公開している。
著者
藤垣 裕子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

科学者の社会的責任の内実は時代とともに変容してきた。現代の責任論は、原爆を作った物理学者の責任論にとどまらず、生命科学、食品安全にかかわる諸科学、環境科学など範囲も多様化している。本研究では、まず専門主義の源泉について考え、次に現在科学と社会との間でおこっている公共的課題の特徴を整理した。さらに、責任概念と倫理との差を検討した。責任(responsibility)とは、他者と対峙したときのresponseとして生じ、応答(response)の能力・可能性(ability)に由来する。責任を「過去におこしてしまったものに対して生じるもの」ととらえる見方だけでなく、「応答可能性」「呼応可能性」といった形で解釈する必要がある。これに対応して、科学者の社会的責任論も、過去に科学技術が作ってしまったものに対して生じるものだけでなく、市民からの問いかけへの応答可能性として定義されうるものへの考察も必要である。これらをふまえた上で再整理すると、現代の科学者の社会的責任は、(1)科学者共同体内部を律する責任、(2)製造物責任、(3)市民からの問いへの呼応責任の3つに大きく分けられることが示唆された。
著者
藤垣 裕子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究課題の目的は、科学者の社会的責任の現代的課題について、責任論と科学コミュニケーション論の接点にあたる課題を中心に、事例分析をもとに分析をすすめることである。科学者の社会的責任の現代的課題は、(1)科学者共同体内部を律する責任(ResponsibleConductofResearch)、(2)製造物責任(ResponsibleProducts)、(3)市民の問いかけへの呼応責任(ResponseAbility)の3つにわけることができるが、科学者の社会的責任と科学コミュニケーションの重なりあう領域においては、この〓組みの1つには留まらない問いが喚起される。本研究ではこのような領域における事例分析をすすめ、科学者の社会的責任の現代的課題を考察した。
著者
伊規須 素子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

顕微赤外分光法を先カンブリア時代微化石試料と現生微生物試料に適用した結果、次のことが明らかになった。脂肪族炭化水素(CH_2とCH_3結合)に着目すると、現生原核生物細胞、脂質はそれぞれドメインレベルで区別される。そのため、本手法は迅速かつ簡便なドメイン識別法として有用であることが期待される。また、約5. 8億年前の微化石がこれまで形態的特徴によって決定されてきた分類以上に多様な生物を起源とする可能性がある。