著者
和崎 春日 松田 素二 鈴木 裕之 佐々木 重洋 田渕 六郎 松本 尚之 上田 冨士子 三島 禎子 若林 チヒロ 田中 重好 嶋田 義仁
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

科研共同研究の最終年度にあたり、報告書に向けての総括的なまとめ討論をおこなった。とくに、日本における第1位人口をしめるナイジェリア人と第2位人口のガーナ人の生活動態については、この分野の熟成した研究を共同討論のなかから育てることができた。日本への来住ガーナ人のアフリカ-日本-アフリカという、今まであまり報告されていない新しい移民動態の理論化(若林ちひろ)や、日本に来住したナイジェリア人の大企業従業員になろうとするのではない、起業活動に向かう個人的・野心的なアントルプルヌーシップについての新規な理論化(川田薫)と、まったく情報のなかった、その日本における協力扶助と文化維持のアソシエーション活動の詳細な記述報告(松本尚之)、さらには、アフリカ-日本-アメリカという地球規模のネットワーク形成がナイジェリア人によってなされている動態を、アフリカ移民論のまったく新しい指摘として提示しえた。また、アフリカ人の芸能活動についても、ギニア、マリ、セネガルといった西アフリカ・グリオ音楽文化の「本場」とされる地域からの日本への来住アフリカ人の活動調査と、そのアフリカの母村での活動状況の調査の両方を行い、それをめぐる、やはり新規性に富む、日本ーアフリカ間の何層からもなる往来活動を抽出し、指摘・一般化することができた(鈴木裕之、菅野淑)。こうしたポジティブな活動側面のほかに、ネガティブなHIVをはじめとする病気の実情とそれにむけるホスト社会側からの協力の可能性についても重要な研究糸口を提案している(若林ちひろ)。1年後に『来住アフリカ人の相互扶助と日本人との共生に関する都市人類学的研究』と題して報告書を出版し、この共同研究の成果と今後の継続的発展について、アフリカ学会における集中発表でも熱い期待と高い評価を得た(2008年5月於・龍谷大学)。
著者
林 薫平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

農村共同体における土地利用・土地配分の構造およびその人口圧力下における変容過程を明らかにするために,以下の通りに研究を実施した。まず準備として,資源一般の配分・利用を規制する共同体的メカニズムに関する事例研究を,主に文化人類学の領域を対象として広く渉猟した。成果として,灌概コモンズと漁場コモンズにおけるローテーションや細分化といった様々な共同体的アレンジメントを包括し比較分析することのできる理論フレームを構築した。第二に,上の理論フレームを共同体的土地制度の事例研究に応用した。具体的には,鹿児島県下甑村において極めて人口圧力が高かった昭和20年代の共有田制度を取り上げた。その結果,共有田利用権の配分のさいに細分化とローテーションの組み合わせ方が決定される集合的選択のメカニズムを解明することができた。第三に,以上の知見を東西の土地制度史と照らし合わせ,共同体的土地保有の理論モデルを構築した。具体的には,土地の配分・利用における共同体の規制と各メンバーの個人性の対立関係を描いた。土地資源の利用をめぐる共同体的なメカニズムについては従来の経済学は正面から分析して来なかった。むしろ共同体の影響が除去され土地が私有化されたあかつきの効率性分析に主眼がおかれて来た。本研究の意義は,共同体メンバーの集合的選択によって,個々人への土地配分と各々の土地利用に対して強力な共同体的規制が課される仕組みを,理論的かつ実証的に明らかにした点にある。特に,人口圧力のもとでは,メンバーを養うために規制が強化されることがあるが,従来の理論では説明されなかったこの実態に合理的説明を与えることに成功した。この成果は,政策への含意として,現在発展途上農村地域において広範に行われている土地私有化改革について,推進派と反対派の対立点をクリアにする意義を持つ。
著者
片岡 郁雄 別府 賢治 田尾 龍太郎 久保田 尚浩
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

モモの低温要求性の発現段階を中心に,覚醒段階での人為的調節および低温要求性の遺伝的制御を含め,以下の点について検討を行った.1)環境と樹体要因が低温要求性の発現時期と量に及ぼす影響.多低温要求性品種では、7月上旬より新梢基部のえき芽は休眠に移行し、9月には深い休眠状態に達すること、導入期においても石灰窒素の発芽促進効果が得られること、気温、日長は休眠導入の開始に影響しないことが明らかとなった。2)低温要求性の異なる品種の発芽・開花特性の比較.少低温要求性品種においては、低温遭遇350時間の早期加温でも高い発芽率が得られ、正常な開花がみられた。これらの品種では、休眠完了後、温度感応性が増大し、より早い開花がもたらされるものとみられた。3)低温要求性の異なる穂木,台木を組み合わせた樹の生長様相 発芽・開花は穂木の低温要求量に大きく依存すること、葉芽の発芽には台木の低温要求性が影響することが示された。4)雌性器官生育育に及ぼす休眠覚醒後の温度環境の影響 休眠完了後の雌性器官の退化は、高温により助長され、結実率の低下の一因となっていることが示された。5)各種の休眠覚醒物質処理が低温要求性の異なる品種の発芽に及ぼす影響 シアナミド、石灰窒素は、二硫化アリルに比べ休眠打破効果が大きいが、休眠最深期には効果が小さいことが示された。6)芽の休眠過程における関連遺伝子の発現 休眠期ならびに休眠覚醒期の花芽と葉芽からmRNAを抽出し,サブトラクション法により解析したところ,休眠期と休眠覚醒期で転写量の異なる遺伝子がいくつか見出され,その中にcell cycleの制御に関わっている遺伝子が含まれていた.7)多低温要求性品種と少低温要求性品種の交雑個体の低温要求性 '白鳳'と少ない低温要求性品種の交雑後代において、'白鳳'に比べ、低温要求量は低減した。
著者
野村 幸世
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

Hcmizygote F1マウスは50頭しかそろえられず、50頭にメチルニトロソウレアを投与した。そのうち、投与開始より1年間生存したものは36頭であった。メチルニトロソウレア投与により、その投与濃度にかかわらず、ほぼ100%胃癌の形成が認められた。また、100%に胃以外の臓器にも癌が認められた。担癌臓器はリンパ節、肝臓、肺、脾臓であった。肺以外は胃癌の転移と考えられた。採取した胃はまだすべての解析が終わっていない。すでに解析が終了した5頭においては、すべて組織学的にも担癌であった。5頭のうち2頭は癌が多発していた。これを含む9病変のうち4病変はポリクローナルであった。しかし、これが衝突癌である可能性は否定できるものではない。以上のすでに解析済みのものは、凍結切片にて施行したが、凍結切片では、HE染色像もあまりクリアでない。クローナリテイの解析に使用しているX-gal法そのものは凍結切片でないと不可能であるが、β-galactosidascの免疫染色であれば、パラフィン切片でも可能である可能性があり、今後、これによる解析を検討中である。現在のところ、パラフィン切片に対するβ-galactosidascの免疫染色自体の条件が確率できていない。また、ポリクローナルに見える腫瘍において、真に上皮細胞がポリクローナルであることを証明するために、連続切片におけるケラチンの免疫染色を検討中である。また、発癌剤投与により、X染色体不活化そのものに影響が出た可能性も否定できないため、現在、Homozygousのマウスを作成中であるが、これは出生率が低いため、今だにいる。これが得られたあかつきには、再び、これらにMNUを投与する予定である。
著者
鈴木 宏二郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

太陽光や太陽風を利用するセイル型宇宙機を惑星大気圏飛行させ、その際に発生する空気力を併用することで燃料不要のままセイル型宇宙機の航行能力を向上させる可能性について、高速気体力学の観点から研究を行い、以下のことを明らかにした。1.FullPIC法による磁気セイルまわりの太陽風プラズマ流れ数値解析を行い、磁場生成コイルの姿勢や太陽風条件の影響を明らかにした。姿勢によっては軌道面外を向く力がセイルに働くこと、発生する推力は同じ大きさのソーラーセイルと比較して著しく小さいことなどから、ソーラーセイルの方が実現は容易と考えられる。2.ソーラーセイル機では、セイルを惑星周回軌道投入用の空気ブレーキとして2次利用することで燃料がほとんど必要ない低コスト惑星探査機が実現できることを示した。このような低弾道係数大気突入では、許容突入条件幅、空力加熱、空力荷重が大幅に緩和されるメリットがある。3.フープ支持の膜構造大気圏突入飛行体が極超音速流中で機能することを風洞実験で実証した。フープを形状記憶合金で製作すると空力加熱で自動展開する飛行体が実現でき、小型低コスト大気突入プローブへの応用が期待される。また、複数のフープを組み合わせてデルタ翼とし形状最適化すれば、5程度の揚抗比が期待される。4.外惑星大気飛行模擬希薄水素プラズマ風洞を開発して各種膜材料の空力加熱実験を行った。高強度材と高耐熱材をコーティングや接着で組み合わせるものが有望であることがわかった。5.ソーラーセイルと大気圏飛行時の揚力利用によるエアログラビティアシストの組合せを検討した。全長約220m、総重量410kgの機体に対し軌道最適化の結果、30km/sの太陽系脱出速度が得られることを示した。これはカイパーベルトまで約30年で達する速度であり、第1世代の恒星間領域探査機として有望と考えられる。
著者
伊藤 真之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

X線天文衛星「あすか」の位置検出型ガス蛍光比例計数管GISのデータを用いて、太陽X線の地球大気アルベドのスペクトルおよび長期変動を調べた。この結果、太陽活動の極小期から極大期をほぼカバーして、太陽X線とその地球大気アルベドのスペクトルが、0.5-5keVのエネルギー範囲で、いくつかの元素のK輝線を識別できる程度のエネルギー分解能で得られた。スペクトルは、(a)2温度成分の高温プラズマの熱放射、(b)これに対する中性ガスによる反射・吸収の補正、(c)付加的輝線成分から成るモデルで記述された。主として成分(a)が太陽コロナX線の太陽全面にわたる観測期間内の平均スペクトルに相当する。太陽X線に関する主な結果は次のようにまとめられる。1.得られた太陽X線スペクトルは、温度3×10^6K程度および(5-10)×10^6K程度の熱放射としてほぼ記述できる。高温成分は主とし太陽フレアで生成される高温プラズマの放射であり、低温成分は主としてフレア以外のコロナの放射であると考えられる。2. 2成分の温度には、太陽活動周期にともなう大きな変化はみられなかった。3. 2成分の強度は太陽活動周期と同期した変化を示した。変化の割合は高温成分の方が大きく、太陽活動極大期において高温成分の占める割合が大きくなる。付加的輝線(c)には、地球大気のOおよびAr以外に、Mg、SiなどのK輝線が含まれ、これらは(a)の熱放射から期待される輝線に対してエネルギーが低く、強度が大きい。一つの可能性として、太陽コロナにおける電離非平衡の効果が考えられる。なお、研究の構想段階ではASTRO-E衛星も視野に入れていたが、軌道投入失敗のためこれは実現しなかった。ほぼ同じ設計の衛星ASTRO-EIIの打ち上げが予定されており、X線カロリメータによる高分解能のデータを用いて、本研究の方法による展開が期待できる。
著者
米森 敬三 山根 久代
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度も昨年度同様、単一柔細胞からの細胞液採取方法を確立することを主たる目的として実験を行った。まず、カキ果実でヘタ片除去処理によって果実肥大を抑制することによって、果実の単一柔細胞中で誘導される糖組成の変化を再調査した。その結果、昨年度の結果同様、単一柔細胞の細胞液中の糖組成が変化し、還元糖含量が有意に減少し、全糖含量に占めるショ糖の割合が増加していることを確認した。さらに、本年度は様々の果実を用いて、それらの果実での単一細胞からの細胞液採取が可能であるかどうかを調査した。すなわち、ニホンナシ‘二十世紀'、リンゴ‘フジ'、モモ‘あかつき'および‘清水白桃'を収穫期に採取し、単一柔細胞からの細胞液の採取し、その糖含量を顕微鏡での酵素反応を用いた蛍光分析により、また、その浸透圧をピコリッターオズモメーターにより測定することを試みた。その結果、それぞれの樹種において細胞液の採取が可能であり、また、その糖含量および浸透圧を測定することが可能であることが明らかとなった。さらに、ニホンナシ‘二十世紀'とリンゴ‘フジ'から採取した細胞液については、その無機成分をSEMに装着したX線分析装置を用いることで測定することを試み、細胞液中のカリウム含量の測定が可能であることが明らかとなった。以上、マイクロマニピュレーターを用いた単一柔細胞からの細胞液採取およびその糖含量、浸透圧、無機成分などの分析は様々な樹種において可能であることが明らかとなったが、当初目的とした、単一柔細胞から採取した細胞液を用いてのmRNA分析による遺伝子発現の解析については非常に困難であり、発表出来るだけのデータを得ることが出来なかった。ただ、これまで本研究で得られた単一柔細胞から採取した細胞液の糖分析等のデータに関しては現在学会誌への投稿を準備中である。
著者
筧 文生 野村 鮎子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本の宋代文学研究は、一部の古文家や詞の作者を除いて質・量ともに唐代のそれに及ばないのが現状である。この原因の一つには、別集に関する基礎研究の不足があげられる。そこで、我々は清朝考証学の精髄というべき『四庫全書總目提要』宋代別集の部の研究に着手した。『四庫全書』は北宋別集として115家122種の別集を著録している。平成10年度には、この122種の別集の解題すべてについて訳注をつけるという作業を行った。平成11年度は、その中でも特に重要な文学者50家56種の別集提要を選んで整理分析を行い、その成果をまとめた『四庫提要北宋五十家研究』(筧文生・野村鮎子著 汲古書院 2000. 2)を上梓した。また、野村鮎子はこれに関する論文「『四庫提要』にみる北宋文学史観」(立命館文学563号 2000. 2)を発表した。『四庫提要北宋五十家研究』は、日本学術振興会の研究成果公開促進費の助成を受けて出版したものであり、今後、宋代文学研究に必備の文献となるものと確信している。また、版本の研究については、平成10年度は国内の研究機関・所蔵機関を中心に調査し、平成11年度夏には、中国における宋代文学研究の中心である四川大学古籍整理研究所に赴き、日本国内では見ることのできない版本を閲覧する機会を得た。これらの版本研究の成果は上記の本と論文に結実している。ただ、南宋別集は北宋別集の数倍の量があるため、作業が思うように進捗せず、出版に至らなかったことは残念である。数年のうちにはこれを整理し、南宋編の出版をめざしたい。
著者
朝倉 政典
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

昨年度より代数的サイクルと混合モチーフについて研究している。混合モチーフは数論的代数幾何学における壮大な構想であり、理論として確立されたあかつきには、代数幾何学のみならず整数論へも数多くの深い応用をもつことが期待されている重要な分野である。しかし多くの優れた研究者の努力にも関わらず、混合モチーフはいまだ定義すらない極めて研究の困難な分野でもある。私は特に複素数体上の混合モチーフの理論を確立することを目的として研究してきた。これまでに、数論的ホッジ構造という概念を導入し、代数曲面上の0-サイクルや、代数曲線のK群についてのブロック予想について研究してきた。本年度の研究では、代数曲線のK群に関して更なる研究結果を得ることに成功した。より詳しく説明すると、これまでK群の元を扱うときにその元のサポートに条件がついていたのであるが、その条件を弱めることができた。鍵となるのはベイリンソン予想であるが、これについてネーター・レフシェッツ型の定理を、斎藤秀司氏と共同で証明することができた。これらの研究結果は、論文として執筆中である。また多くの研究集会、セミナー等においても講演した。特に本年度は、フランスのフーリエ研究所における研究集会において講演する機会を得た。
著者
江頭 良明
出版者
同志社大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究課題では、自閉症患者から見つかったシナプス接着因子neuroliginの1アミノ酸変異を再現したノックインマウス、及び野生型マウスにおいてRNA干渉によりneuroliginをノックダウンした神経細胞で、シナプス機能を電気生理学的に解析した。体性感覚野での解析から、neuroliginの点変異とノックダウンのいずれにおいても、興奮性シナプス入力と抑制性シナプス入力のバランスが崩れることが明らかとなった。また、海馬での解析からは、ノックインマウスにおいて長期増強現象の後期相が選択的に消失していることが明らかとなった。
著者
松井 富美男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

当初の目的に従って、アングロサクソンの生命倫理との相違点を際立たせながら、ドイツ生命倫理の特徴を明らかにした。ドイツの生命倫理は現在二つの根本問題で揺れている。一つは安楽死問題、もう一つはヒト胚問題である。これらは別問題のように見えるが、生命操作への可能性を含む点で共通しナチズムを髣髴させる。安楽死はオランダやベルギーで合法化され、フランスもこれに同調する勢いである。このような隣国の動きは少なからずドイツにも影響を与えている。しかし自己決定権を拠り所にした安楽死容認論は必ずしもドイツ生命倫理の趨勢ではない。ドイツでは安楽死問題に関しても、「生命」の意味を根源的に問い直すことから議論が開始される。他方、ヒト胚研究に関しては、国益と理念の板挟みになっているというのが実情である。「人間の尊厳」は、ドイツ国民の歴史的誓いとしてドイツ憲法にしっかりと根を張っている。そしてこの理念をより具体化したものが「胚保護法」である。このようにドイツの生命倫理は、アングロサクソンのように生命功利主義に偏ることなく、「人間の尊厳」の理念に立ち返りながら生死問題を論じている。本研究においては、こうしたドイツ生命倫理の実情を明らかにするために、初年度はドイツの生命倫理研究所やセンターに赴いて資料収集にあたり、主要文献を訳出して図書や雑誌等々で紹介した。次年度以降は、各種の学会や研究会において「人間の尊厳」の原理的根拠について自らの考えを披露しそれを論文にまとめた。
著者
眞嶋 亜有
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

平成18年度の研究実施状況としては、次の通りである。前年度において論文発表し高い評価を得た、近代日本における身体の「西洋化」研究の一つである"水虫"を巡る近現代日本社会・文化史的研究に、英米との比較史を加えたものを精力的に調査研究発表した。その成果を所属機関である国際日本文化研究センター主催の国際シンポジウム(香港)に参加発表した際の論文として提出した「20世紀初頭における米国有閑階級とathlete's footの成立」が、同センター論文集に受理され現在編集作業中である。同時に、本研究課題の主軸でもある、其の人種的自己認識を巡る社会・文化史研究についても発表を続けており、近代日本エリート層における身体の「西洋化」の象徴であった洋装と髭に関する調査研究を、同センター主催国際シンポジウム(於・エジプト)にて口頭発表し、その論文として「明治期洋行エリートの身体文化と人種的自己認識の形成-洋装と髭を中心に-」を提出、上記論文集に受理され現在編集作業中である。同テーマに含まれる身体文化として、日本のテレビCM史における「髪の色」を巡る自己認識の現代史的側面を「"黒髪の金髪好き"のゆくえ」と題し発表した。加えて、本テーマの基盤となっている身体の「西洋化」と食事、殊に肉食との歴史的関連に関して、「牛肉心酔という身体文化」を発表し、近々に「"牛肉=精力"幻想の成立-近代日本における肉食志向・菜食志向をめぐって-」も関連学会誌に投稿予定である。上記からも明らかなように、本研究課題に関しては肉食、人種、水虫という斬新な切り口からこれまでの「西洋化」研究に見逃されていた盲点並びに新境地を着実に開拓している。そして平成18年度の海外調査としてハーバード大学にて調査研究が出来たお陰で、本年は単著出版として本研究を世に問う時期が漸く訪れた。このような機会と環境を与えられた幸運に心から感謝すると共に精力的な成果発表に精進する次第である。
著者
長澤 泰 山下 哲郎 岡 ゆかり BARUA Sanji
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

初年度には途上国型「癒しの環境」研究として、バングラデッシュ農村部での伝統助産婦による分娩と都市部産科病院での病院分娩を比較した。また、スリランカではその殆どが施設分娩であることから、病院の大小や 病院へのアクセス、療養環境が施設選択に与える影響を調べた。第2年度は先進国医療施設型のフィンランドを事例として、先進国でも分娩の環境には家庭回帰が見られることを、病院のしつらえを限りなく家庭に近づける事例を用いることにより実証した。最終年度の今年はオランダにおいて、助産婦の活動を追跡することを中心に、家庭分娩が望まれる理由、その環境、社会的背景を調査・分析した。全分娩の1/3が家庭分娩であり、その背景に助産婦の社会的地位が高いこと、オランダの地理的条件が、緊急時に患者を早急に病院へ搬送することができることなどがある。それだけではなく、サービスを受ける側の意識に分娩は病気ではないので病院は必要なしとの判断が働いていることも確認された。今年度は同時に、周辺のヨーロッパ諸国の状況を示し、何故似たような地理的・文化的背景を持ちながらオランダが特異な例であるかを証明した。3年間に途上国および先進国の自宅型・施設型分娩の比較を行った。出産の場の選択にあたっての行動様式は、地域の社会や文化に依拠しながら、お産は「家庭的な」雰囲気のなかで行われることを最良とする文化の多いことがわかった。同時に社会の発展段階により、「安全」に対する要求が高まり、その「安全」の確保が充分な段階になると再び「家庭的な」環境を求めることとなる。今後の日本を始めとする先進国型医療施設の技術進歩に伴い、医療技術の優先度はある程度弱まり、より患者の療養環境を重視する声が高まることと思われる。分娩環境のこのような文化・社会・経済状況の違いの中での相違は、産科の療養環境を越えて広く一般医療の患者環境に示唆を与えるものである。
著者
松本 博志
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

アルコール性急死および大腿骨頭壊死において自然免疫機構のシグナリングが関与していることを明らかにし、特にIRF7およびIFN-αの活性が影響を及ぼしている可能性が明らかとなった。
著者
田中 敬一 立木 美保
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

負イオンとオゾン混合ガスを併用した高湿度条件下で果実を貯蔵すると、従来の貯蔵法と比較して長期間、高品質に果実を貯蔵できるが、モモの場合は、冷温高湿庫で長期に貯蔵すると香りの消失が認められ、その消失機構の解明が求められている。そこで、液-液抽出ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)法、ヘッドスペースGCMS法、分析試料の量が少なく再現性の優れた分析法であるMicro Purge & Trap法及び匂いセンサーを用いてモモの貯蔵中の香りの変化を解析した。液液抽出GCMS分析の結果、冷温高湿庫に貯蔵したモモでは、貯蔵初期にエステル類(特にethyl acetate)が増加し、貯蔵期間が長くなると減少した。ヘッドスペースGCMS分析の結果では、‘あかつき'を冷温高湿庫で貯蔵するとラクトン類は、3週間を過ぎると急速に減少した。Micro Purge & Trap分析の結果、‘あかつき'を冷温高湿庫で貯蔵するとエステル類、C6化合物の組成が単純化し、benzaldehydeがそのほとんどを占めるようになった。ラクトン類では、貯蔵期間が長くなるに従いγ-decalactoneの量が増大した。水分含量の多いモモを測定する場合、におい識別装置のセンサは様々な影響を受けやすい。そのため、貯蔵したモモの香りをにおい識別装置で時間を追って評価することは難しかったが、測定日を同じにしてにおい識別装置で測定したところ非破壊で、モモの鮮度と香りとの関係を明らかにできた。以上の結果より、モモを冷温高湿庫で長期に貯蔵すると、香りの量が減少するだけでなく、香気成分が単純化するため、全体としてモモ特有の香りが失われるものと考えられた。
著者
水谷 房雄
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

果樹の主幹部に幅数mmの連結用樹皮を残し、部分的環状剥皮を施し、連結用樹皮の再生を種々の方法で抑制することによって、果樹の小樹化を図ったところ、樹体成長が抑制された。連結用の樹皮を定期的に元の幅に切り戻すと新梢の成長が抑制された。また、植物成長抑制剤のABA, ヒノキチール、トロポロンなどを連結樹皮に処理すると、樹皮の再生と樹体成長の抑制に効果があった。これらの化学物質を連結樹皮部位にのみ処理するので環境にも優しい技術といえる。また、全樹種に適応できる技術であると思われる。
著者
菊池 洋 田中 照通 梅影 創
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

遺伝子発現が関連する難病の治療薬として人工的な小分子RNAなどが期待されている。しかし、現在のRNA合成法は、手間やコストがかかり、創薬という点で問題がある。本研究は、意図したとおりの配列をもつ人工RNAを微生物により生産させることを目指し、圧倒的な低コストでの高機能RNA医薬の製造法を開発しようとするものである。本研究では、自然界で自身のRNAやDNAを培地に放出する性質をもつ海洋性光合成細菌、Rhodovulum sulfidophilumを操作し、機能をもつ人工RNAアプタマーをこの菌の培地中に生産させることに世界で初めて成功した。
著者
芦田 淳
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

安全・安心・安価で環境親和性の高い全水溶液プロセスによる ZnO/Cu2O 系太陽電池の実現を目指し、両層の薄膜を作製した。ZnO はロッドなどになりやすく連続膜を得にくい問題があったが、核形成と初期成長の詳細な解析を行い、成長初期の水酸化亜鉛の生成を回避することでこれを解決した。また Cu2O では酸素源である電解液中の水酸基濃度と溶存酸素濃度を制御することでキャリアの起源となる Cu 欠損量を変化させうる可能性を見出した。
著者
橋本 征也 田口 雅登 能澤 孝 藤木 明 萱野 勇一郎
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

医薬品を適正に使用するためには、薬物動態特性と個体間変動機構を明らかにし、患者個々に投与設計を行う事が必要である。しかし、一人の患者から速度論的解析に耐えるほど数多くの血中薬物濃度データを得ることは多くの場合困難であることに加え、市販後に一施設で行う臨床薬物動態試験では、対象患者が多くても数十人に限られるため、従来の薬物速度論的解析法は適用が困難である。本研究では、症例数および採血点数が少ない探索的な臨床試験データの解析法として、最近申請者らが考案した三段階の解析法が有用であることを検証するとともに、臨床試験のデザインとデータ解析の発展を目指した。
著者
加藤 徹 倉島 栄一
出版者
宮城県農業短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、地球温暖化が積雪地河川の融雪流出へ及ぼす影響の予測を試みたものである。研究対象流域としては、東北地方の名取川水系大倉ダム流域(宮城県)と北陸地方の小矢部川水系刀利ダム流域(富山県)である。地球温暖化が融雪流出へ及ぼす影響をみるため、気温上昇による両ダムにおける月別総流出高、月別融雪流出高、月別融雪水依存度、旬別総流出高、旬別融雪流出高、流域の積雪水量および消雪日等の変化によって検討した。なお、地球温暖化シナリオとしては、気温上昇に伴う降水量増加を考慮したものをシナリオI、気温上昇を全く見込まないものをシナリオIIと設定した。その結果の概要は、下記のとおりである。"(1)"気温上昇に伴い、降水のうち降雪となる割合が小さくなり、積雪水量が小さくなる。また、融雪時期や流域の消雪日も早まる。そのため、融雪流出の早期化と減少化が顕著となる。"(2)"月別総流出高、月別融雪流出高、月別融雪水依存度、旬別総流出高、旬別融雪流出等はいずれも融雪最盛期の4月、5月には減少し、逆に3月、2月にやや増加して平滑化される。"(3)"気温上昇に伴う降水量増加を見込んでいるシナリオIよりも降水量増加を見込まないシナリオIIの総流出高、融雪流出高等が大きく減少する。"(4)"大倉ダムと刀利ダムとの比較では、気温上昇に伴う総流出高、融雪流出高の減少割合には大きな差異が認められないが、流出高そのものの減少は刀利ダムの方が大きく、大倉ダムの2〜3倍となる。"(5)"以上のように、地球温暖化は、積雪地河川の融雪流出へ大きな影響を及ぼすことが予測される。