著者
松本 耕二 北村 尚浩 國本 明徳
出版者
山口県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、体育・スポーツ領域におけるボランティアの多様性に着目し、これまで日常的な活動に携わる「コミュニティ・ボランティア」と、一時的に単発的にかかわる「イベントボランティア」の活動意識における類似点および相違点を明らかにすることを目的としている。平成14年度は、主に青少年スポーツ(健常・体育スポーツ領域)と障害者スポーツ(障害・福祉領域)の活動参加者を対象とした団体(NPO法人スペシャルオリンピックス日本)やイベント(第10回全国中学校駅伝大会、第3回山口県障害者スポーツ大会、2002スペシャルオリンピックス日本夏季ナショナルゲーム・東京大会)への質問紙調査を実施しデータ収集を実施した。平成15年度は、研究成果の公表(日本体育学会、山口県体育学会)と活動継続性に着目した調査(2004スペシャルオリンピックス日本冬季ナショナルゲーム・長野大会)を中心に実施した。これらの調査等で収集したデータは、逐次、集計・分析し、研究成果を下記の通り発表・公表している。(1)障害者スポーツ・ボランティアの活動継続に関する一考察-バーンアウト尺度の適用-(2)障害者スポーツイベントにおけるボランティアの参加動機-性別、年代別、活動経験別による比較-(3)動員型イベントボランティアの活動満足と継続性に関する考察(4)障害者スポーツイベントにおけるボランティアコーチの参加動機(5)スポーツ・ボランティアの参加動機と組織コミットメントと継続意欲-地域の障害者スポーツを支えるボランティア-本研究の目的とするボランティア参加者の没我度と活動継続性については組織コミットメントを中心に分析・公表したが、活動領域(活動内容レベル)、活動対象・内容別の比較検討が課題となっており未だ明らかになっていない。早急に進めたい。以後、実際に活動するボランティアの活動継続性への影響、所属団体の持つ活動の指向性(競技指向や社会的活動指向など)との類似・相違点さぐり、課題や問題点を明らかにすることとしたい。
著者
山本 教人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

2年度間に、「九州一周駅伝」を報じた西日本新聞の記事をテキストに、新聞がどのようなやり方で駅伝を社会的に意味ある出来事して物語ってきたのかの検討を行った。また、駅伝についてのメディア・テキストを物語としてとらえ、その構造を分析する研究を行った。結果として、今日の新聞の駅伝記事は、主張を明確に表明せず、結論を曖昧にするような書き方で構成されていることが明らかとなった。このような記事の有する曖昧さは、今日の駅伝記事が個人情報を中心に構成されているということとともに、多様な解釈を読み手にもたらすことになると考えられた。また、九州一周駅伝の物語は、語りの多様性を限りなく広げていくようなやり方と、逆にそれに制限を課すようなやり方、そして制限された語りにさらに多様性をもたらすようなやり方で構造化されていた。こうした駅伝記事の物語としての構造が、読み手の多様な関心を引きつけることのできるひとつの要因であると考えられた。このような結果から、読者の「能動的な読み」とは、実はテキストの構造自体が可能とするものであるということができ、近年必ずしも評判が芳しいとはいえないメディア・メッセージの内容分析の意義が改めて確認された。
著者
伊藤 圭子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

特別支援教育を成功させるために、応用行動分析学の理論を家庭科に導入する意義を検討し、家庭科と家庭とが連携した小学校家庭科における学習プログラムの開発を目的とする。応用行動分析学を用いた家庭科学習プログラムの枠組みの課題として、学校や行政機関による保護者を対象とした家庭科学習内容の実施、教師と保護者との連携強化の必要性、子どもの生活への主体的活用を促す学習教材の検討の3点が提起された。
著者
遠城 明雄
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、1910〜40年代の地方都市における地域住民組織の存立形態および再編成と、その組織を基盤とした民衆運動の特徴を明らかにすることにある。主なフィールドは福岡県の主要都市であるが、比較研究のため下関市と仙台市でも調査を実施した。得られた知見は以下の通りである。(1)1910年代初に、全国的に米価騰貴問題が発生した際に、既存の地域住民組織がその一時的救済に大きな役割を果した。またいくつかの都市では各種議員の選出に際して、住民組織が中心となって「予選」を実施しており、これらの点から、当該期では地域住民組織が社会秩序の維持において中心的役割を果したことが明らかとなった。(2)1920年代半に、地域住民組織をめぐって行政、政党・政派、住民の間で矛盾と葛藤が高まり、その再編成が生じた。その背景には、都市化に伴う住民の社会階層の変化、普選による民衆の政治参加の拡大、社会の不安定化への対策として行政による「都市共同体」の創出、といった複数の要因があったことが明らかになった。(3)この再編成によって生まれた地域住民組織が民衆運動の基盤となったことが明らかになった。特に、門司市が中心となった昭和初期の電灯・電車料金の値下げ運動において、市会議員や既成・無産政党と並んで、町総代を核とした地域住民が運動の担い手どなり、地域独占事業への批判を展開したことが明らかとなった。(4)1940年、地域住民組織は国家によって再構築されるが、本研究からも明らかなように、この組織を行政の末端組織としてのみ理解することは不十分である。本研究は、近代化と都市化という現象を、民衆の視点と経験、行動様式から明らかにした。これは歴史地理的事実の解明にとどまらず、都市住民を主体とした「公共性」および「共同性」のあり方を再考する上でも、多くの知見を提供するものである。
著者
鶴田 隆治
出版者
九州工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

物理現象の素過程を解明するに有効な解析ツールである分子動力学シミュレーションを用いて,準平衡状態にある単純分子アルゴンおよび多原子分子水のナノバブルの生成と消滅機構について検討した.まず,三次元計算系に対する分子動力学シミュレーションによりナノバブルを発生させ,その界面構造を観察するとともにYoung-Laplaceの式の適応について検討をした.その結果,Young-Laplaceの式ならびに古典的核生成理論はナノバブルへの適応は妥当ではないことが分かった.次いで,ナノバブルが存在できる気液界面の力学平衡条件を探るために,周囲流体,特に液体側の界面構造に着目し,気泡の生成過程または平衡状態において,気液界面における界面構造と圧力・温度挙動を解析した.また,極座標解析を行い,ナノバブルの半径方向における気泡周りの数密度分布と力分布を求めた.さらには,強制的に外圧を加えた際のナノバブルの消滅過程を調べた.以上の解析結果より,ナノバブルの気液界面層において,分子が平衡状態よりも周期的に変化する大きな力を受け,気泡界面層の位置の遷移とともに界面層近傍の構造が気泡挙動と強く関連していることが分かった.すなわち,気泡外部の液体分子からの分子間力によって気液界面をつくるためのエネルギーが供給され,球形の気泡界面が形成・維持されていると考えられる.また,水分子においては,ナノバブルの界面は配向により負に帯電することを見出した.
著者
大成 博文 田頭 昭二
出版者
徳山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

マイクロ・ナノバブル技術を用いて、大量微細生物の超高速粉砕・水処理システムの開発研究において、以下の主要な成果を得た。(1)マイクロバブルは、収縮して「マイクロナノバブル」へと変化する。その際、マイクロバブル内から気泡が噴出することによって気泡が動揺しながら上昇する。(2)マイクロバブルの収縮に伴って、負の電位が増加する。とくに、気泡サイズが40μmよりも小さくなると急速に負電位が増加し、そのピークは10〜30μm前後である。(3)マイクロバブルは収縮の最終過程で光熱反応を起こし、自発光する。その発光色は青白いことから、相当の高温で発光してしることが推測された。(4)マイクロバブルを生物に供給することによって、生物の体内では特別の生理活性作用が生まれる。この活性によって、生物の斃死防止、成長促進、抗加齢が可能となる。また、微生物においては、大量の増殖やその制御が可能となる。さらに、マイクロバブルの濃度を制御することによって、細菌の除去や洗浄、殺菌が可能となった。(5)マイクロバブルの発生装置を改良することによって、大量微細生物を瞬時に粉砕・切断することが可能となった。(6)マイクロバブルを排水内に供給することによって、排水処理槽内の微生物を約2倍に増加させることによって、アンモニア性窒素の硝化を大幅に促進させることが可能となった。以上の成果を踏まえ、マイクロバブル技術を利用した各種水処理システムの方法を新たに開発した。
著者
八木 栄一
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

金属中に重い稀ガス原子(Ar、Kr、Xe)を多量にイオン注入すると、室温でも高圧状態の稀ガズ原子固体が形成される。これは、しばしば固体バブルとも呼ばれる。面心立方および六方晶金属中では母体と同じ結晶構造を持ち、結晶方位は母体結晶と揃っている。このバブルが形成されると、電子顕微鏡、電子線回折法等で観察可能となり、その成長、移動、構造等が調べられているが、形成の初期段階(核形成)は観察できないため調べられていなかった。そこで、我々は、これまで、イオンチャネリング法により、面心立方金属につき、イオン注入後のここの稀ガズ原子の結晶格子内位置、および、それらの注入量に対する変化を調べることにより、バブル形成の初期段階(核形成の過程)を調べてきた。本研究では、体心立方結晶を取り上げ、イオンチャネリング法により、バブル形成の核形成の過程を調べ、面心立方金属についての結果と比較する。試料はFe単結晶で、これに150keVのXe^+を1×10^<14>、4×10^<14>、1×10^<15>、1×10^<16>Xe/cm^2の種々の量、イオン注入し、Xe原子の格子内位置を決定するため、1.5MeV He^+ビームを用い、後方散乱チャネリング実験を行った。Xe原子の大部分は格子置換(S)位置およびランダム(R)位置を占める。注入量が少ない時には、その割合は少ないが、格子間四面体(T)位置、格子点から<111>方向に0.085nmずれた(D)位置にも存在する。TおよびD位置占有はXe原子と注入の際形成された原子空孔(V)との相互作用の結果で、それぞれ、XeV_4複合体、および最近接格子点に空孔が存在する結果Xe原子が<111>方向にずれているXeV複合体と考えられる。R位置はさらに多くの空孔と複合体を形成しているXe原子に対応している。これまでに、メスバウアー効果の実験でもXe原子が内部磁場の異なる4種の位置に分布していることが報告されていたが、本実験結果を考慮すると、それらは内部磁場の小さくなる順にS,D,T,R位置に対応付られる。注入量の増加と共にS,TおよびD位置を占める割合は減少し、R位置を占める割合ば増加する。この結果は、注入の初期段階でXeV、XeV_4のようなXe原子と空孔との複合体が形成され、これが核となってXeバブルへと成長することを示唆している。Xeバブル形成のためにXe原子の移動が必要とされるが、その機構としてXeV_3の形での移動を提案した。一方、面心立方金属A1中のKrの場合は、体心立方金属の場合とは異なりKrV_4、KrV_6型の複合体が核となる。面心立方結晶中では稀ガス原子が母相と方位を揃えて結晶化するが、その機構を考慮すべく、現在、A1中のKrにつき注入量をさらに細かく変化させKr原子の格子内位置を調べている。
著者
伊藤 鉄也 伊井 春樹 鈴木 淳 入口 敦志 荒木 浩 海野 圭介 スティーヴン・G ネルソン 伊藤 鉄也
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本課題は、日本文学に関する情報を所有する海外の機関や研究者を確認し、どのような情報が収集・利用されているか、またはどのようなテーマで研究がなされているかを解明することにある。そのために、日本文学や文化に特化したものを集積・分析し、諸外国の研究者相互の連携を推進し、情報網を広げ、質の高い研究情報を蓄積し、国内外の研究者へ提供してきた。国際集会の開催、刊行物「日本文学研究ジャーナル」第1~4号の作成はその成果の具体的な証である。
著者
川人 貞史
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.今年度の作業として,1890年の第1回より1924年の第15回までの総選挙及び,1990年の第39回総選挙について,立候補者の得票及び選挙区の有権者に関するデ-タの作成を行った.これを一昨年度の奨励研究「日本における中選挙区制と政党制の通時的比較分析」で作成した1928年〜86年の総選挙デ-タと結合させて,日本における全総選挙の立候補者・選挙区デ-タの作成を完了した.さらに,約980人にのぼる補欠選挙の当選者デ-タも新たに作成した.上記のデ-タを将来他の研究者に公開するため,デ-タを利用する際のマニュアルとして,「衆議院総選挙候補者選挙区統計1890ー1990」を発表した.2.百年間の全立候補者の当落情報及び補欠選挙当選者デ-タを利用して,代議士のキャリア分析を行い,その成果の一部を『読売新聞』1990.12.5に発表した.戦前では,再選された現職議員の構成比は低く,また,議員の在職期間も比較的短い.これは,戦前の代議士が再選のために立候補する比率が低いこと,また,再選を望む代議士が必ずしも再選されないことによる.対照的に,戦後,再選のための立候補比率は急上昇し,24回総選挙以降つねに90%以上である.再選を望む代議士の再選率も,徐々に高くなって現在は80%程度である.自民党一党優位政党制下の議院内閣制において,政権を構成する役割を担う代議士は姿は,戦前とは大きく変化した.3.本研究の成果をまとめるため,日本の政党政治を,(1)衆議院における制度化の進行と議会政党の発展,(2)選挙民の中の政党の発展,(3)選挙制度の変化とそれが政党の発展にもたらした影響,という三つの視座から分析した研究書を執筆中である.今年度中に,1890年代から1910年代までの部分について執筆が完了する.
著者
坐間 朗 田村 勝
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.ラットC6神経膠腫細胞を継代培養し、ラットの大脳に移植し、ラット神経膠腫モデルを作成した。血管新生阻害剤TNP-470 (AGM-1470)は武田薬品から供与され、10%エタノールに溶解し移植後8日目から隔日で15回まで腹腔内注射した。コントロール群は10%エタノール液を同量注射した。2.移植後の平均生存日数はコントロール群で35.7日、TNP-470・10mg/kg投与群で26.3日、同30mg/kg投与群で29.1日。死亡時の脳腫瘍の体積はコントロール群で266.7mm^3、30mg/kg投与群で227.5mm^3。移植時から死亡時に至る体重は、コントロール群で149.4gから235.6gへ増加し、TNP-470・30mg/kg投与群で172.5gから190gまで増えたのち減少し死亡時178.7gであった。TNP-470の脳腫瘍増殖抑制効果は推測されたが、副作用で体重も減少し生存期間が短縮すると思われた。3.移植後経時的にラット神経膠腫モデルをヘパリン加生理食塩水とホルマリンで潅流固定し、proliferating cell unclear antigen (PCNA)免疫染色を行い、この陽性率で腫瘍細胞(以下「腫瘍」)と腫瘍血管内皮細胞(以下「内皮」)の増殖能を検索した。腫瘍の体積を[ ]内に、光顕百倍1視野当たりの腫瘍内血管数を( )内に記す。PCNA陽性率はコントロール群では移植後1-20日目に腫瘍19%[88.3^3]・内皮4.4% (19.6本)、21-30日目に腫瘍31.6%[255.2^3]・内皮11.6% (18.7本)、31-40日目に腫瘍35.3%[257.0^3]・内皮12.7% (20.6本)、41日目以後腫瘍25.6%[308.0^3]・内皮6.2% (10.0本)であり、TNP-470・30mg/kg投与群では、移植後1-20日目に腫瘍16.8%[64.7^3]・内皮6.0% (41.7本)、21-30日目に腫瘍14.6%[275.2^3]・内皮4.1% (19.2本)、31-40日目に腫瘍23.9%[160.0^3]・内皮5.2% (22.0本)、41日目以後腫瘍7.0%・内皮2.0%。TNP-470による増殖能の抑制は内皮に強く見られ、次いで腫瘍にも認められた。4.今回の脳腫瘍の透過電子顕微鏡標本および血管鋳型の走査電子顕微鏡標本を現在作成中である。
著者
成瀬 恵治 毛利 聡 中村 一文 竹居 孝二 山田 浩司 入部 玄太郎 片野坂 友紀
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

生体内では至るところで、重力・伸展や剪断応力といった物理的な機械刺激が生じている。細胞の機械受容システムを介して伝達されるこのような刺激は、単に生体にとって不利益なストレスではなく、発生過程や臓器機能発現に不可欠な生体情報であることが次第に明らかになってきた。本研究では、独自のメカニカルストレス負荷システムおよび評価系の開発を通して生体での機械受容環境を再現し、生体の巧みなメカニカルストレス応答機構を明らかにする。
著者
大野 茂男 平井 秀一 鈴木 厚 秋本 和憲 山下 暁朗 廣瀬 智威 中谷 雅明 佐々木 和教
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

上皮細胞を初めとする様々な細胞の極性制御の要として働いている普遍的な細胞極性シグナル経路、PAR-aPKC 系の新規構成員として ASPP2 を発見し、細胞極性の制御と細胞死の制御の間の関係を示唆した。PAR-aPKC 系の新たな制御機構として、aPKC 結合タンパク質 KIBRA が aPKCのキナーゼ活性を基質と競合的に抑制し Lgl とは異なる機構で aPKC を通じたアピカル膜ドメイン形成のプロセスを特異的に抑制することを見いだした。
著者
本間 さと 池田 真行
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

視床下部視交叉上核(SCN)に存在するほ乳類の中枢時計は、網膜からの光情報を受容し、内因性の周期を24時間の明暗サイクルに同調すると共に、SCN外脳内組織や末梢臓器の末梢時計を調節し、全身の時間的統合を行っている。しかし、そのメカニズムは不明である。夜行性齧歯類における行動リズムの季節変動は、これまで、夕日および朝日に同調し、活動の開始と終了を調節するEvening(E)とMorning(M)の二振動体によると考えられてきた。そこで、発光レポータートランスジェニックマウスを用い、SCN細胞のPerl発現リズム位相をSCN内で部位別に測定し、日長と行動リズム位相との相関を解析し、生体が行動や内分泌機能に季節変動を生じる機構について検討した。24時間明暗周期の明期を6〜18時間と変動させたところ、すべての明暗比において、吻側SCNのPerl発現リズムピークは夕方の活動開始位相にphase-lockしており、E振動体の局在が示された。一方、尾側SCNのPerl発現ピークは、測定したすべての明暗比で、朝の活動終了位相にPhase-lockしておりM振動体の局在が示された。尾側SCNのPerlピークのphase-lockingは、明期20および22時間という極端な長日周期でも確認された。明期18時間では吻側SCNのPerl発現が二峰性となり、さらに明期を延長すると吻側、尾側ともに二峰性ピークが観察された。発光イメージングによる細胞リズム解析の結果、すべてのSCN細胞の発光リズムは約24時間であり、二峰性リズムは、ほぼ180度位相が異なり、かつ、左右SCNにほぼ均等に混在する、2種の細胞群によることが分かった。以上の結果、日長によりSCN内で部位時的に遺伝子発現リズム位相を変位させるSCN細胞のダイナミズムが、行動リズムの季節変動を調節していることが分かった。
著者
中本 高道 長濱 雅彦 石田 寛
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

視嗅覚情報の同時記録再生システムは、ビデオカメラによる映像と匂いセンサによる匂い記録を同時に行い、ディスプレイで映像を再生するのと同時に匂い調合装置により映像に同期させて匂いを再生させる装置である。視嗅覚情報に嗅覚情報を加えることにより臨場感が増し、五感情報通信への可能性が広がる。画像に匂いをつける試みは数例あるが映像とともに匂いセンサで匂いを記録し両者ともに同時に再生するのは初めての試みである。本研究では、匂い調合装置の検討、水晶振動子ガスセンサの成膜手法、感応膜材料の検討、ロバスト匂いセンシングの検討、オートサンプラを用いた匂いの記録再生等を研究した。本研究では水晶振動子ガスセンサを用いたが、素子間バラツキの問題を霧化器を用いた方法で低減し、リポポリマ及び自己組織化リポポリマにスペーサ分子を導入しその上に物理吸着層を設ける方法を用いて数十ppbの匂いを検出できるセンサを開発した。また、濃度変動、温度、湿度変化等環境変化にロバストな匂いセンシングシステムを実現するために、短時間フーリエ変換導入し特徴的な周波数を複数選択してそれをパターン認識する方法を開発しロバスト性の向上を確認した。さらに、匂いの記録再生システムの記録範囲を拡大するためにオートサンプラを用いて大規模な匂い調合を行うシステムを開発し、りんご、バナナ等の果実臭の記録再生に成功した。最後に動画と同時に匂いセンシングを行い、映像と共に匂いを再生するシステムを実現した。ジュース缶にセンシングプローブを近づける様子を視嗅覚の同時記録再生することに成功した。そしてインターネットを介して遠隔地で視嗅覚のリアルタイム同時再生実験を展示会で実演し、センシングした匂いが遠隔地で正しく認識できることがわかった。
著者
木庭 亮二
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

学校教育において放射線に関する教育はほぼ皆無であるが,実際には様々な分野で使用され,生活の向上に役立っている。それについて啓発活動を行おうとしても,大学の施設教職員では少人数のため,通常の業務の合間に準備を行うのは難しい。啓発活動の開催についてある程度のシステム化がなされれば,大学の施設職員等の少人数で対応が可能と考え本研究を開始した。一般向けに広島大学自然科学研究支援開発センターアイソトープ総合部門主催の実習「目で見る放射線実習」(以下「実習」)を平成19年8月1日に,公開実験「霧箱で放射線・宇宙線を見てみよう」(以下「公開実験」)を同年11月3日に開催した。実習では広島県及び東広島市教育委員会の後援を得て,周辺の中学校,高校へ開催のポスターを配布し,実験や測定に興味のある参加者を募った。参加者は幼児から一般までの16名で身の回りの放射線についての講義を行った後に霧箱を利用した放射線の観察とγ線測定器を利用した身の回りの放射線の測定を行った。内容について参加者からは概ね好評を得たが,主催者としては募集の際の広報の見直しが今後の課題となった。今後は市の広報誌等の活用を考える。公開実験は広島大学大学祭の参加事業として開催した。来場グループごとにスタッフが一人付き,放射線についてポスターを使い説明を行った後,霧箱の観察,γ線測定器を利用した身の回りの放射線の測定を行った。来場者数は乳幼児を除き77名で,概ね好評を得た。スタッフ側の問題点して随時訪れる来場者への対応のために多くの職員の必要数となることが挙げられるが,説明を開始する時間を固定する等で対応は可能と考える。今後はさらに内容や形態を検討し,少人数での効率的な啓発活動の開催を模索する予定である。
著者
沼田 徳重
出版者
岩手大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

[研究目的]小、中、高生の理科離れの対策として、これまで岩手大学技術部及びINS「岩手・ネットワーク・システム」等との共同で子供科学教室、ショッピングセンターでの科学展並びに大学祭での技術展に参加してきた。本研究では、次の段階として「理科」と「もの作り」は楽しいもの作るよろこびをより多くの人に体験して貰うために創意工夫した出前教室に取り組み、理科離れ対策に貢献した。[研究方法・実施結果]平成19年度は次の会場で以下の通り実施した。1.7月北上市で開催された、北上工業匠祭に「台所は電池でいっぱいのテーマで」飲料水・野菜・果物・調味料など身近にあるものを用いて出店した。子供からお年寄りまで多くの参加者から好評を得た。2.8月岩手県矢巾町煙山地区の小学生を対象に夏休み自由研究の参考として「どんなものが電池になるか試してみよう」家庭で身近にあるものを持ってきてもらい、電圧の測定を行った。同時に、電気回路は電子ブロックを用いた「うそ発見器」、「ラジオの製作」、指導者が作ったゲルマニウムラジオを農示した。楽しかったので、次回も開催して欲しいと要望があった。3.10月岩手大学祭に「台所は電池でいっぱい」並びに「電子ブロックを用いた回路作り」と「レゴブロック」を用いたおもちゃ作りを実施し子供だけでなく、大人も夢中になって作った。「実施して感じたこと」子供たちは興味を持って参加した、次に繋がる可能性があることを感じた。また、北上工業匠祭ではロボコンの全国大会に参加した小学生にモーターのこと、プログラムのことなどを質問された。どの会場でも親が子供達より興味を示し、色々な質問が出され楽しい一時であった。最後に出前教室は対象者を絞ること創意工夫に時間をかけ余裕を持つことが必要であると痛感し、次回の参考にしたい。
著者
清水 かおり 高良剛 ロベルト 金城 俊昭 安慶 名洋克
出版者
沖縄県立看護大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

離島住民参加型の災害医療対策啓蒙活動として「命どぅ宝・ユイマールプロジェクト」に参加し、離島講習会の開催による離島住民への知識・技術提供を行った。3年間の沖縄県遠隔離島における講習会受講実績は約1,160名(19カ所28回)である。講習会の都度、指導者である保健医療従事者への学習会を実施し、各離島の特徴・対象者を考慮した指導内容、指導方法についての討議、およびフィードバックを行った。内容はプロジェクトのメーリングリスト上でも公開し共有した。平成19年9月には、この講習会を受講した離島住民3人によって、目の前で心肺停止に陥った同僚に対しAEDを用いた心肺蘇生法を実施して救命し、後遺症無く社会復帰を果たした。
著者
角皆 宏 都築 正男 梅垣 敦紀 森山 知則 陸名 雄一 星 明考 小松 亨
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ガロア理論とは一言で言えば数の対称性の理論であり、中でも構成的ガロア理論は、狙った対称性を具体的明示的に作ることを主眼とする研究である。特に本研究課題では、非可換な対称性(ガロア群)を持つ場合を取り扱い、幾何的な対称性を利用する手法を中心として、主に5次・6次の多項式に関わる場合に対し、様々な特色ある対称性を持つ多項式を具体的に構成した。得られた多項式が簡潔な表示を持つことも意味があり、それにより幾らかの数論的性質も明らかにすることが出来た。
著者
増田 隆一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

北海道および環オホーツク海地域に分布するヒグマについてミトコンドリアDNA(mtDNA)の分子系統地理的解析を行った。その結果、北海道集団の三重構造(異なる3集団が道南、道央-道北、道東に分かれて分布)が他地域には見られない特異的な分布パターンであることが明らかとなった。さらに、極東の広い地域において道央-道北型のmtDNAが分布することが判明した。一方、ヒグマ考古標本の古代DNA分析法を開発し、オホーツク文化(紀元5〜12世紀)遺跡の北海道礼文島香深井A遺跡から発掘されたヒグマ頭骨の起源地を推定した。礼文島ヒグマ骨から解読された古代mtDNAは道央-道北型と道南型に分類された。さらに、道南型DNAをもつ礼文島ヒグマはすべて秋に死亡した1歳未満の幼獣であったのに対し、道央-道北型DNAをもつ古代ヒグマは春に死亡した成獣であった。道南型DNAをもつ幼獣はおそらく道南における続縄文または擦文文化人の春グマ猟で捕獲され半年余り飼育された後に礼文島にてクマ送り儀礼に用いられたと考えられる。また、道東サロマ湖周辺の遺跡出土のヒグマ骨からは、現生の道北-道央型DNA、および、このグループに含まれるが新しいDNAタイプも見出された。これらの古代道東ヒグマは、遺跡地点より北部の比較的近隣の地域で捕獲されたものであろうと推定された。また、現在見られないDNAタイプの発見は、当時のヒグマ集団がより豊富な遺伝的多様性を有していたことを示している。一方、道南の奥尻島遺跡から出土したヒグマ骨2例は現在の道南に分布する2つのDNAタイプと一致した。これは、奥尻島の遺跡から発掘された骨群が、少なくとも2個体のヒグマから成り、奥尻島の対岸地域(北海道本島)から持ち込まれたことを示唆している。
著者
東野 達 山本 浩平 南齋 規介 小南 裕志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

化学輸送モデルを用いた人為起源二次粒子生成量の評価には、人為起源のみならず植物起源VOC発生量の正確な推定が必要であるが、東アジアにおける実測例は極めて少ない。前年度はコナラ個葉のイソプレン放出速度を計測したが、森林全体からの放出量推定精度を検証するため、簡易渦集積(REA)法を用いてコナラ群落からのイソプレン放出フラックスを夏〜冬に実測した。その結果、イソプレンの放出は気温と日射量に相関があり、紅葉により葉が黄色に変色するとイソプレン放出がなくなること、盛夏時のイソプレンフラックスはアマゾンの実測値を凌ぐことが初めて明らかとなった。一方、個葉の実測値とモデル式に基づく積み上げ法による森林全体のイソプレン推定放出量と、REA法による正味のイソプレンフラックスとの間には約1〜3割の差があり、イソプレンの森林内での分解や再吸収について観測する必要性が分かった。これらのデータはわが国で初めて得られた成果である。大気化学輸送モデルを用いて、わが国三地域への二次汚染物質沈着量の寄与度を日中韓の4部門について評価した。その結果、夏・冬に中国、建築・製造部門からの硫酸塩の寄与が大きいことが示された。二次粒子影響ポテンシャルによる経済部門の相互依存性解明の前段として、日本、中国などのアジア諸国と米国を含む10ヶ国のアジア国際産業連関表をもとに、各国の76経済部門におけるエネルギー消費量を各種統計データから推計し、さらにCO_2排出量に変換して部門別内包型原単位を求めた。対象10ヶ国の内包CO_2排出量のうち中国、米国が突出しているが、米国は他国への誘発量が最も多く、逆に中国は他国への誘発量は少なく他国からの誘発量が最大であることが明らかとなった。また、日本の最終需要による海外誘発量は、電力部門が最大で次いで輸送部門であることが分かった。