著者
宮野 佐年 安保 雅博 武原 格 殷 祥洙
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本での脳卒中後遺症者141名(平均年齢67.2±9.4才)、男性98名・女性43名、出血64名・梗塞77名で、在宅生活を送っている患者の下肢運動麻痺(Brunnstrom stage、以下Br. st.)・歩行距離(m)・床からの立ち上がり動作・浴槽への移乗の可否・トイレや浴槽の手すりの設置の有無・正座の可否・ベッドの使用を調査した。その結果、下肢Br. st.と歩行距離は比較的よく相関したが、下肢Br. st.が3,4でも500m以上歩行可能な患者も多くみられた。床からの立ち上がり動作は、歩行距離とBr. st.共に相関は見られたが、浴槽の出入りは歩行距離と相関は見られたがBr. st.との相関は見られなかった。トイレや浴槽の手すりの設置の有無と、歩行距離・Br. st.はどちらも相関は見られなかった。また正座や和式トイレの使用は殆ど全ての患者はできなかった。本題の国際比較は、韓国ソウル在宅の脳卒中患者52名と、目本の在宅脳卒中患者で、Br. st.と歩行距離をマッチさせた患者で国際比較を行ったと。対象患者は日本66名・韓国50名で、Br. st.日本3.8・韓国3.3。その結果、両国共にBr. st.と歩行距離は相関し、床からの立ち上がり動作もBr. st.や歩行距離と相関した。日韓の比較では、風呂やトイレに手すりをつける率は、韓国では20%・日本では85%であり、床からの立ち上がり動作、日本では54%・韓国では37%が可能で、正座は、日本では5%・韓国では70%が可能となっていた。また同居人数3人以上が、韓国では32%・日本では14%と違いが見られた。日本では脳卒中片麻痺に対して、家屋改造により介護力軽減を図るのに対し、韓国では人的介護に頼る傾向が見られた。正座は韓国の特有の坐り方で日本の正座とは異なっており、日韓でも床上の生活様式の違いが示唆された。要旨を第3回国際リハ医学会(2006.4)に発表した。
著者
須川 修身 今村 友彦
出版者
諏訪東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

区画火災時に火災室内でフラッシュオーバーやバックドラフトが起こると、800°C近い高温の火炎および熱気流が窓などの開口部から噴出する。このときの火炎は瞬間的には50~100m/s程度の比較的大きな初速度を持って火災室から水平に打ち出される。火炎高さに関して断片的な知見しか得られておらず、延焼危険性の評価も経験則に依っているところが多い。そこで本研究は、高速で噴出する拡散火炎の性状を把握することを目的として研究を行った。火炎噴射装置から発生させた火炎の高さ、温度および放射熱を計測した。燃料として、液体燃料を用いた。ノズル径と不活性ガスの圧力の組合せにより発熱速度を制御した。噴射装置架台は0°~90°(0°:噴射方向が水平方向)の範囲で任意に傾きを設定した。その結果、90°の場合、火炎高さは、Q*>106の範囲でも、無次元数RMの値が0.1より小さい場合は、火炎高さはQ*2/5に比例して高くなった。また火炎中心軸上の温度減衰を、McCaffreyモデル(低速拡散火炎)と比較すると、本実験では温度減衰の開始点がz/Q2/5=0.15~0.20付近であり、McCaffreyモデルよりも遠くなった。しかし、温度減衰が始まると、温度は距離に対してMcCaffreyモデルよりも急速に低下する傾向を示した。一方で、高速で噴出する拡散火炎の中心軸上の温度減衰、水平方向の温度分布、熱流束の水平分布は、いずれも発熱速度の変化に対して相似性が保存されていることが分かった。
著者
渡邊 達也
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

周氷河地形は、岩石・土壌中の水分の凍結融解作用、永久凍土の破壊や変形など寒冷地域特有のプロセスによって形成される.周氷河プロセスには気候・水文・地質条件など様々な要因が影響するため、未解決な問題が数多く残されおり、詳細な現地調査・観測が必要とされる。本研究では、代表的な周氷河地形の一つである構造土の内部構造、形成環境や変形が生じる条件を理解することを目的とし、特にローカルなスケール(同一気候条件下)で多様な構造土が形成される要因の解明を目指した。そこで、北極圏スピッツベルゲン島のスバルバール大学に長期滞在し、多様な構造土の内部構造調査や土層変形・破壊、地温、土壌水分、積雪深の観測を実施した。調査結果に基づいて、各構造土の分布と地盤・水文条件の関係や温度条件について調べた。その結果、円形土と大型多角形土の分布域では粘土含有量,飽和度,凍結構造に明瞭な違いがみられた。また、急冷による凍結クラックを形成プロセスとする大型多角形土は、円形土に比べて冬季の地温低下が著しい傾向があり、積雪深や地盤の熱的性質の違いがその分布に影響しているとみられる。また、円形土を取り巻くように発達する小型多角形土は、円形土の凍上・沈下に対応するように収縮・膨張する変形パターンを示しており、大型多角形土とは変形条件が異なる可能性が示唆された。研究経過に関して、スバルバール大学にて開催されたヨーロッパ永久凍土学会でポスター及び野外巡検コースでの発表を行った。
著者
川ノ上 帆
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

代数幾何学において重要であるが長年未解決である正標数の特異点解消の問題に向け、本研究者の提唱したIFPというプログラムを発展させる形で研究を進めた。IFPの枠組みで特異点解消の為の不変量を定義し、爆発を経ない状態ではこの不変量が理想的な形で機能することを示した。また爆発に際して不変量が適切に振舞う為の要件を解析することで、狭義変換を用いるより良い不変量の可能性を見出し関連する部分的結果を得た。
著者
福永 浩司 笠原 二郎 塩田 倫史
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

私達はこれまでに心臓型脂肪酸結合蛋白質(H-FABP)の欠損マウスにおいて常同行動と認知機能の異常、恐怖行動の亢進が起こることを見出した。脳内ドパミン神経はこれらの行動発現に関与すること、H-FABPはドパミンD2受容体との結合することから、H-FABP欠損マウスのドーパミン神経機能について解析した。最初にH-FABP欠損マウスにメタンフェタミンを投与し、ドパミンD2受容体の機能異常について調べた。また、ドパミンD2受容体拮抗薬であるハロペリドールによるカタレプシー現象を検討した。さらに、背側線条体におけるマイクロダイアリシス法を用いて、ハロペリドール刺激によるアセチルコリン(ACh)の放出を検討した。結果として、H-FABP欠損マウスではメタンフェタミンに対する感受性が有意に減弱した。さらに、H-FABP欠損マウスにおいてドパミンD2受容体拮抗薬の投与によるカタレプシー現象の有意な亢進が見られ、H-FABP欠損マウスではカタレプシーが亢進する同じ用量で、線条体でのハロペリドール誘発のACh遊離が顕著に亢進していた。免疫染色法によりH-FABPが背側線条体のACh神経細胞に強く発現することを確認した。さらに、培養神経様細胞を用いてH-FABPがドパミンD2受容体の機能を亢進させることを初めて証明した。これらの結果は、H-FABP欠損マウスに見られたカタレプシー現象の亢進には線条体におけるACh神経におけるD2受容体の機能異常が関わることを示唆している。
著者
伊藤 範明
出版者
朝日大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

低出力超音波パルス(LIPUS)刺激が,ラット破骨細胞の活性に与える機序の1つとして,細胞骨格に対する影響が考えられる.細胞骨格の重合を阻害してからLIPUS刺激を与えた.その結果、細胞骨格の再重合に対して,LIPUS照射群は非照射群よりも早い段階から再重合を促進していた.これは,LIPUSの刺激が細胞形態の変化に関与していることを示しており,メカニカルストレスとの関連が示唆された.しかし,LIPUS照射が細胞骨格の再重合のどの部分に作用しているかは検討が必要である.
著者
山下 恭弘 山岸 明浩
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は,長野市に位置する一戸建て住宅について,築後年数の経た住宅(I分類)と新築住宅(II分類)において経時的な室内温熱環境と居住者意識およびエネルギー消費量に関する調査をおこなった。本研究により得られた成果の概要は,以下の通りである。1.住宅の室内環境の測定結果より,室内温熱環境では,外界条件の影響もあり,冬季のみ他の季節とは異なる結果となった。室内環境に対する居住者意識では温熱環境に関わる項目で季節による違いが認められた。2.環境条件の測定値と居住者の評点について検定を行うことにより差を明らかにし,各々の温熱環境条件と居住者意識の季節変化および移転による変化について考察を行った結果,I,II分類の住宅とも室内温熱環境測定値および居住者意識において季節による有為な差が認められた。3.判別分析を用い季節変化が居住者の意識に与える影響について考察を行った。その結果,季節変化は室内温熱環境に関わる居住者意識への寄与が高く,他の環境に対する寄与は低いことが明らかとなった。4.温熱環境の物理環境測定値と居住者意識の対応について検討した結果,季節による変化は明確に捉えられた。5.筆者らの冬季における既往データとの比較を行った結果,気温の絶対値のみならず,気温の空間における分布性状や放射熱が温冷感に影響を与えていることが推察された。6.住宅の暖房器具については,I分類の住宅では,ストーブ,ファンヒ-タ,およびこたつを使用しており,II分類の住宅では,エアコンを使用しこたつの使用が減少傾向にあることが推測された。7.電気とガスの消費量についてみると,電気の消費量は1月に最も大きくなり,消費量で500〜600kwh程度,料金で13,000円前後となった。5月や10月の中間期では約6,000円程度の電気料金であった。
著者
宮島 朝子 堀田 佐知子 大島 理恵子 若村 智子 近田 敬子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,健康レベルの異なる在宅高齢者を対象に,生活環境と生活リズムの実態を把握し,それらの関係性を「人間-環境系」の視点から分析することを目的として,平成14〜16年度の3年間にわたって行った。調査は2つの方向で進めた。一方は病院から在宅への環境移行に伴い,「在宅療養者」の生活リズムや心理・社会的な側面がどのように変化していくかを追跡した調査である。対象者の選定はH県内のリハビリテーション系病院の回復期病棟に依頼し,同院を退院した男女4名を対象として調査を行った。その内1名については,月1回1週間のデータ収集を行い,退院後4ヶ月間にわたる経過を追うことができた。もう一方は「在宅高齢者」,即ち自宅で健康的な生活を送っている高齢者の,生活リズムの実態を把握した調査である。対象者はH県立看護大学の「まちの保健室」の来談者の内65歳以上の男女9名と,A町睡眠を通じた健康づくり支援事業において,睡眠に関する個別支援が必要とされた8名の計17名を対象とした。これらの調査をもとに,報告書冊子は「在宅療養者」では,以下の3つの方向からまとめた。第1は4ゲ月間にわたってデータ収集を行った在宅療養者1事例について,病院から在宅への環境移行に伴う生活リズムの実態を分析し考察した。第2は同じ対象者が遭遇した住宅改修に焦点を当て,看護の視点からの改修に対する提案をまとめた。第3は同じ対象者とその介護者の夜間睡眠と心身機能の実態を分析し考察した。これらの研究を「人間-環境系」の視点からまとめると,環境移行に伴う在宅高齢者の生活リズムは身体機能の回復により徐々に整ってはいくがばらつきがあること,障害受容など心理的な側面の回復には時間を要し療養生活の初期に継続した支援が必要であること,介護をする家族は療養者の生活リズムに影響を受け十分な睡眠がとれていないことなど,生活環境と生活リズムは相互に影響を受けあっていることが把握できた。本研究の成果から示唆された諸課題について,今後さらに研究を発展させていきたい。
著者
松原 斎樹 松原 小夜子 蔵澄 美仁 富田 道男 飯塚 英雄
出版者
京都府立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

5年度に行った冬季調査結果のまとめと反省をもとに夏季調査の項目を決定して昨年冬季と同じ住戸を対象にして夏季のヒアリング調査と熱環境測定を行った。また,吹き抜けを持つ住戸を5戸(内1件はソーラーハウス)を選定し6年度夏期.冬期のヒアリング調査および熱環境測定を行った。また,昨年度ヒアリング調査の対象住戸と同一構造の住戸約50件の郵送調査を夏季・冬季に行った。室温の実測データから実生活における体感温度の推定を行うためにはより正確な熱収支量を知る必要があるため,正座位人体と周囲壁面との有効放射面積と形態係数を求める実験を行い,姿勢の違いに体感温度の差を推定をした。一般住戸の夏期の調査結果ではクーラー使用を控えて通風によって生活したいという要求が満たされない住戸が多い。また冬期調査では30m^2を上回る広いLDK空間でも直接的な寒さの不満は少ないが,こたつ・ホットカーペットで足元寒さに対処する住戸は多く,開放式器具による空気汚染の問題も予想されるが今回は空気質の測定は行っていない。吹き抜け住戸では夏の通風は有利であるが設計によってはあまり涼しく住めていない。また冬期は電気床暖房により採暖的に生活している2例,かなり寒い1例など十分に寒さを意識した計画はなされているとはいない。空気集熱式のソーラーハウスでは床暖房方式であり,足元の冷えがないために起居様式の季節差も少ない。今回の知見では初歩的な配慮によって熱環境を改善する手段が見いだされる例が多いので,そのような設計指針を設計者に啓蒙することによる改善が重要であると考えられる。
著者
岡本 新 前田 芳實
出版者
鹿児島大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究では、染色体顕微切断技術をニワトリのNo.1染色体に応用することにより、染色体より採取したDNAをPCR増幅後、FISH(fluorescence in situ hybridization)法によるマッピングまでの一連の操作を検討し、さらにNo.1染色体特異的DNAのサブクローニングを行い塩基配列を決定した。顕微切断は、ガラスナイフの先端にいかに染色体断片を付着させるかが回収のポイントであった。1本の染色体より回収した断片は、タンパク質とDNAの複合体であるためにProteinnase K処理によりタンパク質を除去した。PCR増幅に関しては、2回増幅を繰り返すことにより100bpから600bpまでの範囲の増幅産物を確認できた。このことから1つの染色体断片でも十分に増幅可能であることが明らかとなった。得られたPCR産物をビオチン標識しFISHを実施したところ、増幅産物の由来するNo.1染色体上にシグナルを検出することはできたが十分な再現性は得られなかった。さらにこのDNAを挿入断片とするサブクローニングを行いシークエンス反応に供したところ、480bpの塩基配列を決定することができた。以上の研究結果をもとに家禽における今後の顕微切断法を応用したペインティングマーカーの課題について考察してみると、(1)FISH法におけるシグナルの再現性、(2)複製Rバンドを併用したハイブリポジッションの同定、(3)塩基配列にが決定されたPCR産物の利用、(4)他の大型染色体への応用、および(5)微小染色体識別マーカーの作出などがあげられる。
著者
岡崎 敏雄 嶺井 明子 一二三 朋子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、持続可能性の内容重視日本語教育における学習者意識の変容を分析する。持続可能性とは、グローバル化のもとで加速化する環境危機、開発、貧困、雇用・社会保障不安等の諸困難により持続不可能な、個人・社会の転換を目指すライフスタイル、社会経済のあり方を指す。従来の内容重視の言語教育は、専門学習の準備として行われてきた。国内外でグローバル化への対応に向け、教育の専門化・細分化による産業界即戦力養成が急である。このような専門化・細分化に対して個人のライフスタイル、社会経済の転換など人としての生き方に関わるジェネラルな教育を横断的カリキュラムで行う教育システムの形成が必要である。本研究の対象となる日本語教育は、そのようなリベラルアーツ教育を目指す場として実現する点に独創的な価値がある。本研究では、従来取り上げられなかった学習者が持続可能性と自分との関連(レラヴァンス)を見出す切り口を多面的に設定する日本語教育により促される意識の変容を取り上げる一例(グローバル化に対応するための構造改革による雇用・社会保障上の不安等)持続可能性の社会レベルでの揺らぎに対する(「就職・子育ての選択」「就職と直結する専門学習など」学習者が迫られる切実な問題に対する「問い」(自分はどんな生き方をしていくのか(行動基準)など)の切り口。その問いを考える手がかりとして、日本語による資料・文献の読み、ビデオ視聴、タスク活動、内省レボート記録を実施し、分析結果を公刊した。
著者
一二三 恵美
出版者
広島県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

「スーパー抗体酵素」とは、抗体として抗原に特異的に結合するだけでなく、単独で抗原を特異的に破壊する能力をもつ画期的な抗体分子を言う。病原微生物が生育するのに必須な領域(保存領域)を破壊する「スーパー抗体酵素」を作製すれば、薬剤耐性を招くことなく病原微生物を死滅させることが期待出来る。本研究では流行が世界的な問題となっているインフルエンザウィルスの表面タンパクを標的とする「スーパー抗体酵素」の作製を進めた。1.A型インフルエンザのH1N1およびH2N2では、表面糖タンパク質であるHemagglutinin (HA)に2箇所(TGLRNおよびGITNKVNSVIEK)の保存領域が存在する。この配列を直鎖状に繋いだものと環状化したペプチドを合成し、これらを免疫原としてモノクローナル抗体の取得を試みた。直鎖状抗原を用いた系でH1型とH2型のHAを持つ不活化ウィルスと反応する2種類のモノクローナル抗体(HA1-1およびHA1-2)を得た。2.酵素活性部位の存在の有無を調べるために、これらの抗体産生細胞から抽出したmRNAを使って可変領域の塩基配列を決定した。これらの配列から推定したgermline geneは両抗体ともにVk germline geneが8-21,Vh germline geneがJ558.46であった。3.塩基配列より推定したアミノ酸配列を使って、分子モデリングによる立体構造解析を実施した。その結果、両抗体の可変領域部分にはSer-His-Aspによる触媒三ツ組残基様構造は存在しなかった。しかし、Ser-Glu-Aspによる類似の構造がH鎖,L鎖のそれぞれに存在していたことから、これらの抗体は酵素作用を示すと推定した。4.現在は、精製抗体からH鎖およびL鎖を調製して、ペプチド基質を使った酵素活性の有無を調べている。予備的な段階ではあるが、ペプチド抗原に対する分解活性を検出している。
著者
田中 朝雄 田中 真奈美 村上 博 三井 洋司 田中 真奈実 田中 真奈美 田中 朝雄
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

宿主寄生体間情報伝達物質の検出のため、ヒト脳神経系及び寄生原虫クルーズ・トリパノソーマを等しく認識する単クローン抗体(Wood,J.N.et al.,Nature,1982)を用い、ヒト臓器別およびトリパノソーマのcDNAライブラリーを精査し、多数の新規遺伝子を得た。ノザンブロット解析により、元来この抗体が認識する神経や心筋細胞、クルーズ・トリパノソーマのみに発現が認められるBradeion遺伝子が選別され、その後の生体機能解析へと進んだ。現在までにこの新規生理活性物質の生体機能解明・情報整備をほぼ完備することが出来た。即ち、1.成人脳の神経細胞での発現が認められ、2種のタイプが存在する(α及びβと呼称)。アミノ酸配列の特徴として、成長ホルモンやサイトカイン受容体特異的配列が認められ、膜貫通部分やATP/GTP結合部位も含めてオーファン受容体としての特徴的配列を有する。2.ノザンブロット解析でヒト成人脳、心臓(脳の10%以下)でのみ検知可能であり、他臓器・胎児期では検出感度以下の発現しか示さない。3.マウス脳でβ型相同遺伝子配列が存在する(94%の相同性)。マウス第11番染色体に位置し、3エクソン、2イントロンの構成で約17kb領域にコードされる。4.細胞内局在部位は、αはミトコンドリア、βは核周囲細胞質である。5.培養ヒト癌細胞に過剰発現させると、アポトーシスを誘導する。6.ヒト培養大腸癌・メラノーマ細胞株で強度遺伝子発現を示す。大腸癌の患者検体でもこの強度発現は確認された。7.アンチセンス・リボザイムで大腸癌細胞で発現を抑制すると、細胞増殖速度に顕著な影響が現れ、増殖抑制及び癌細胞の形質転換が起こる。脳神経系細胞の寿命制御・脱落防止に関しては、遺伝子病としての脳神経退行性疾患やアルツハイマー病、ハンチントン病で疾病の分子基盤解明とそれを応用した医薬品・医療機器開発が世界規模で推進されている。また、C.elegansやマウス等モデル生物系を含めた物質解明及びヒトへの応用が試みられているが、これは脳神経系という臓器・細胞の持つ種特異性や個体差というものが研究の限界となり、ヒト細胞を用いた方法論の整備が叫ばれている。Bradeionは、このような従来型のアプローチでは決して抽出されることのできないヒトの生物共進化や「寄生」という環境適合から焦点を当ててのみ得られるヒト脳神経生存(脱落)に関わる新規物質である。従って、本研究は、このような細胞寿命制御因子Bradeionの発見と機能解明を行った。この知見から現在、老化・癌化等の細胞変異制御のために、1.有用生理活性物質としてのヒト脳オーファン受容体の生体機能解明、2.脳内高次機能構築・細胞脱落の機構解析、3.脳神経細胞死、癌早期診断及び遺伝子治療に向けての技術開発、医療機器開発、を行っており、広範な新規産業創造シーズへ活用することを目指してさらなる研究が展開されている。
著者
中山 謙二 平野 晃宏
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1)オーバーコンプリート形ブラインド信号源分離(OC-BSS)平成17年度に提案した,フィードバック形BSSにおいて,フィードバックにより信号源を相殺するための好しい学習法を提案した。混合過程に関する情報を使う方法と信号のヒストグラムを使う2つの方法を提案した。さらに,ヒストグラムを使う方法に関して,信号歪みを低減する方法を提案した。信号歪みを雑音と見なして,スペクトルサプレッション法により雑音スペクトルを抑制する方法である。音声の信号源を3個,センサーを2個としたときのシミュレーションを行い,従来法に比べて,信号対干渉比が約10dB改善された。2)非線形混合過程に対するブラインド信号源分離信号源のグループ分離と線形化を縦続接続する方式を以前に提案したが,その学習法に関して改良を行った。特に,線形化に関して,「初期値の設定法」及び「パラメータの学習法」に関して新しい方法を提案し,信号源の分離特性を大幅に改善した。また,信号源とセンサーの位置関係と必要なセンサー数の関係についても解析し,実用化における指針を与えた。3)ブラインド信号源分離における信号歪みの低減フィードフォワード形(FF-)BSSに対して,信号歪みを抑制する新しい学習法を提案した。従来の学習法に信号歪みを抑制する制約条件を課す方法である。2チャネルと3チャネルについてシミュレーションを行い,分離特性と信号歪みを評価した。その結果,従来の信号歪み抑制形学習法に比べて大幅な特性改善を実現した。さらに,フィードバック形(FB-)BSSとFF-BSSが各々有効に使用できる条件を明らかにした。
著者
小泉 一二三
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

現在、日本を含め北半球の温帯部には100種以上のトリカブト属が分布している。トリカブトは古来より、食中毒事故を起こす毒草としても有名であり、その葉部でも誤食すれば、嘔吐、下痢、呼吸困難などを起こし、摂取量によっては死に至る。この中毒を起こす成分は、いわゆるトリカブトアルカロイドと呼ばれ、その量はブシあるいはウズと呼ばれるトリカブトの塊根部に多量に含まれている。レペニンは1991年キンポウゲ科トリカブト属ホナガウズより単離、構造決定されたジテルペンアルカロイドである。本化合物は高度に酸素官能基化された六環性化合物であり、3つの不斉四級炭素を含んでいる。その構造の複雑さから未だに全合成は報告されていない。今回、7位の立体化学のみを利用することで四級炭素を含む全ての立体化学を制御することを目的に合成研究を開始した。その結果、分子内ディールスアルダー反応を二度用いることで、4位および8位の四級不斉中心の立体制御に成功した。残る10位の四級炭素構築に関して、ニトリルオキシドおよびニトロンの分子内環化付加反応を用いた構築を検討したが、目的とする化合物は得られなかった。その他種々検討を行い、分子内1位10位に相当する二重結合の酸素官能基化に成功し、これを足掛かりとする10位四級不斉炭素の構築への可能性を示した。
著者
菅原 文子 吉沢 晋 諸岡 信久 角野 猛
出版者
郡山女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

東北地方の中部の郡山市において,集合住宅,一戸建住宅の床麈埃の収集を行い,麈埃中のカビコロニー数,ダニアレルゲン量を測定した。測定対象建物の一年間の季節的変動,両者の比較,カビコロニー数とダニアレルゲン量との関係,温湿度とカビコロニー数,ダニアレルゲン量との関係を求めた.平成三年度の二月,九月の集合住宅のアレルゲン量の測定では,二月に比して九月は,非常に大きな値を示すが,DerI,DerIIにその特徴が著るしく,DerpIは,ばらつきが大きく,九月が必らずしも大きな値を示していない。同時に行ったカビコロニー数の測定に関しては,特に大きな特徴を示してはいない。平成四年度の一戸建住宅,平成五年度の集合住宅の測定では,年間消長は,ダニアレルゲン,カビコロニー数共に冬期に少なく,春季〜秋季特にカビでは夏季に,ダニアレルゲンでは,秋季に大きな値を示しているが,各戸必らずしも同一の傾向を示していない。ダニとカビは,その増殖の温湿度の範囲が似ていることから,平成三年,四年,五年度の測定結果を用いて両者の相関関係を求めたが,いづれの場合にも,相関関係は認められなかった。また,室内の温湿度,床面温湿度と,ダニアレルゲン量,カビコロニー数との関係も明らかな結果は,認められなかった。床仕上材とダニアレルゲン量,カビコロニー数との比較では,一戸建住宅の中では,差は認められないが,集合住宅と一戸建の比較では,一戸建の畳,集合住宅のカーペットにアレルゲン量が多く,住い方の相異によるものと思われる.韓国ソウル近郊の住宅での同一の測定では,ダニアレルゲン量は,郡山市より低く,建物の構造,暮し方の相異によると思われる.
著者
磯田 則生
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究では,実際の住宅における居住者の日常生活(家事,団欒,睡眠など)時の温熱境条件の生理的・心理的反応への影響を測定すると共に,人工気候室を用いて温熱環境の人体影響に関する基礎的実験を行い,主に冷暖房時の至適温度条件に関するデ-タを収集し,住居の高齢者や幼児を考慮した冷暖房設備および室別の設定室温を検討した。住宅の実態調査では,冬期および梅雨期に,戸建住宅における室内温熱環境条件の実態を測定し,温熱環境条件温熱的快適性に及ぼす影響を検討した。また,住居に関する特性(構造・断熱性態・平面図),居住者の生活行動,冷暖房器具に関する使用方法,住居や生活環境に関する評価などをアンケ-ト調査した。その結果,冬期の使用暖房具はエアコンが最も多く,居間ではエアコンやファンヒ-タと共に電気カ-ペット・こたつの併用が75%を占め,平均室温は約20℃となる。梅雨期では室温が30℃近くになるとエアコンのドライ運転での使用がみられ,室内温湿度は25〜28℃,60〜70℃になることを明らかにした。人工気候室での基礎実験では,高齢者や青年を対象に冷暖房時の室温や床暖房温度の人体影響について測定し,至適温熱条件を検討した。冬期床暖房実験では,床座の場合は床温の影響が大きく,室温20〜24℃で床温26〜32℃が快適な温度であり,椅子座では気温の影響大きい。また,高齢者では末梢部皮膚温の変動が青年に較べ遅く,温度適応能力が低下している。夏期の床暖・床冷却実験では,室温30℃床温23℃より室温26℃床温31℃の方が満足度が高く,快適温度条件は黒球温度25〜29℃で床温25〜32℃であり,頭寒足熱の考えは夏期でも有効と言える。さらに,睡眠実験では、夏期の睡眠快適室温は26〜28℃であり,30℃では部分冷却設備が必要となり,前額・末梢部皮膚温が睡眠と関係することなどを明らかにした。
著者
中塚 晴夫 渡辺 孝男 池田 正之
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

一般家屋に於ける空気の汚染源としては、暖房装置と炊事用熱源が挙げられるが、本研究では前者に注目し、その種類によって自覚症状に変化が見られるか否かを調査した。対象は宮城県仙台市・涌谷および田尻町の3地区40歳以上の男女32124人(男14383人、女17741人)とし、この人達にアンケート調査をした結果の解析を行うとともに、これに同県白石市の8千人の対象者を加えるための調査を行った。暖房に関する質問として、(1)暖房しない(2)電気ストーブまたは電気ごたつ(3)エアコン、セントラルヒーティングまたはスチーム(4)クリーンヒータ(5)煙突付きのストーブ(6)煙突無しストーブ(7)炭や煉炭の火鉢やこたつなど、のどれを使うかを回答してもらい、汚染源となる(6)(7)のいずれか一つでも用いる群(I)と、いずれも用いない群(II)とに対象者を分けて自覚症状に差が見られるか否かを検討した。その結果、撹乱因子の少ないと思われる非喫煙者を見ると、男子では涙が出やすい(Iで13%、IIで10%、値はいずれも年齢訂正有症率、以下同様)と疲れやすい(I16%、II13%)という自覚症状が汚染源を使用する群に有意(P<0.05)に多く、女子では鼻汁がよく出る(I11%、II10%)と不眠(I10%、II8%)に有意の差が現れていた。それ以外では統計的に有意とはならないが、男子では、せき、たん、眼の充血、眼がコロコロする、女子では眼の充血、眼がコロコロする、涙が出やすいなどが増加する傾向を示した。また、生活環境に影響を与える道路に面した家屋に住んでいるか否かについても解析したが、この影響は明確で、非喫煙女子では「症状無し」も含め17項目中9項目に有意差が認められた。以上のことから、暖房にともなう屋内汚染の人体に対する影響は若干認められるが、その程度は道路に代表される屋外環境の影響よりは少ないと推定される。
著者
生田 まちよ 宮里 邦子 野村 恵子 永田 千鶴 木村 重美
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

在宅人工呼吸療法の小児の介護を行う家族の介護負担は大きい。このため家族にとって、レスパイトケアが重要である。しかし、これまでのレスパイトケアの利用は、家族の行事や病気などでの緊急の利用がほとんどであった。さらに、小児はレスパイト施設の利用が困難な状況であった。そこで、定期的に子どもの自宅に訪問看護師が長時間滞在するホームベースレスパイトケアを実施した。そして、そのケアの有用性が示唆された。さらに、このホームベースレスパイトケアを実施するには、不可欠な訪問看護師が、安心して小児のレスパイト訪問ができるような、教育プログラムを開発して実施した。
著者
岩田 修永
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ネプリライシン(NEP)活性低下モデルマウス脳の神経病理を解析し、アルツハイマー病(AD)病理との類似点について検討した。NEP遺伝子を欠損したアミロイド前駆体蛋白質トランスジェニックマウス(NEP-KO×APPtg)脳ではAPPtgマウス脳に比較して加齢依存的に3pyroE型Aβの形成と蓄積が加速し、ヒトと類似するアミロイド病理を示した。NEP-KO×APP tgマウスにさらにアミノペプチダーゼ(AP)A-KOマウスを掛け合わせると、3pyroE型Aβの蓄積が30%抑制されることも明らかになった。また、NEP-KO×APP tg脳ではAPP tg脳に比較して、APNやDPP4の発現量が1.5~2倍近く上昇し、グルタミン酸の環化を触媒するグルタミニルシクラーゼ(QC)の発現量は4倍ほど増加し、上述のペプチダーゼの発現増加量を大きく上まわった。このように、3pyroE型Aβの産生はNEP依存的なAβの生理的分解経路が遮断された場合に促進し、AP/ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)やQCが関与する副経路を介して生じると推察される。QCはアストロサイトに局在することから、炎症過程や細胞の保護・修復等に関わる酵素であると考えられるので、脳内にカイニン酸を注入して炎症反応を惹起させると、QCタンパク量は野生型マウスで10倍、NEP-KOマウスで18倍増加した。同様に、APP tgマウス脳ヘカイニン酸を注入すると3pyroE型Aβの形成が促進することも明らかとなった。これらの結果は、NEP活性の低下は炎症応答の亢進を介してQC発現を増強することを示唆する。このように、アミロイド蓄積によって惹起された炎症反応はQC発現を増強し、NEPの活性低下はアミロイドの蓄積および炎症反応の惹起を異なる作用点で増強し、結果的に3pyroE型Aβの形成と蓄積を進行させると考えられる。