著者
北野 幸子
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

幼児教育は遊びを見守るだけの子守ではない。本研究では幼児の遊び場面の分析、学びの内容の抽出、保育者の判断の根拠と援助の特徴を検討した。結果、(1)遊びには小学校の教育内容が多く埋め込まれており、その援助は(2)子どもの相互作用に関わりながら臨機応変な判断を要し、(3)気持ちの育ちや結果よりも過程を重視していることが分かった。保育者の専門性は独特であり、遊びの援助を科学的根拠に基づき説明する方法の探求と、援助に必要な知識・技術・その活用力の養成方法の開発の必要性が示唆された。
著者
有田 清子
出版者
東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、(1)栄養代謝のアセスメントをするための臨床シミュレーション型CAI教材を開発する。(2)開発した教材の評価し、その結果から教材の修正と活用方法を検討するであった。今年度は、教材を作成し千葉県立衛生短期大学看護学科において、看護学科の学生70名を対象にCAI教材を使用した。教材使用後にアンケート調査(N=71)およびインタビュー調査(N=7)をおこなった。アンケー調査項目は、CAIを使用した学習に関連する11項目とした.調査項目で最も平均得点が高かったものは「CAIを使用した学習は楽しかった」であり4.5±0.6であった.また、最も平均得点が低かったのは、「学習した知識を看護実践の場面でどのように活用したらよいかわかった」3.5±0.8であった.インタビュー調査の項目は、「教材のよいところ」「改善したほうがよいとこと」「その他」の質問項目を準備し、半構成面接をおこなった.この結果、教材のよいところとして、質問の仕方がていねいなのでわかりやすい,自分がキーボードに入力しないとすすまないので自分のペースで学習できる,臨床の場面でこんな風に患者さんに質問すればよいのかということがわかった,答えを間違えても何度でもできるところがよいなどがあった.改善した方がよいところとして、自分が戻りたいと思った画面に戻れるようにしてほしい、文字が多く読みにくい部分があった,またその他としては、グループでディスカッションする時間が増えたことにより他の人の考えや意見が聞けてよかった,もっといろいろ調べたいと思った,インターネットなどでこの教材が公開されていれば自分で学習できるなどがあった.以上のことから、(1)臨床シミュレーション型CAIを使用して学習することは自分のペースで学習が進められること,実践のイメージがつきやすいということから楽しく学習できる(2)学習した知識を実践の場面で活用することに関しては限界がある(3)画面の文字の多さを改善すること(4)インターネット上での公開の必要性などが示唆された.今後は、ソフトウェアの修正をおこない、インターネット上で本教材を公開し、学生・教員ともに開発した教材を広く使用できるようにしていく予定である.
著者
戸北 凱惟 西川 純 根本 和成
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、理科教材改善の手法として、客観的評価方法を開発することを目的としている。特に、従来行われていなかった、生理反応等を利用した認知的評価方法に注目した。本研究では、認知的評価方法の成立根拠をあきらかにし、さらに実態調査によって、その具体的な方法を開発した。実態研究においては、情意領域における象徴的距離効果を中心に調査した。距離効果とは、ある一対を選択する時間は、その選択する次元における距離に逆比例する現象である。その次元は抽象的な場合、象徴的距離効果と呼ばれる。この現象を用いることによって、本来測定できない心的な次元を、反応時間によって客観的に測定することが可能となる。本研究における被験者は小学生である。事前調査によって、児童が一般的に知っており、かつ、好嫌度において特徴的な動物(ゴキブリ、鳥等)を選択した。第一調査において、彼に一対の動物を提示する。そして彼らは、その一対の中でより好きな方の動物を選択するよう指示された。その選択は、一対のボタンを押すことによって行われる。好きな方の動物を選択する反応時間は、その一対の動物の好嫌度の違い(ステップ)の逆比例した。第二調査においては、彼らの反応時間を2回測定した。1回目は解剖実験の前に測定した。2回目は解剖実験の後に測定した。実験を経験したことによる好嫌度の変化は、反応時間の変化として現れた。その結果、一般的には、一度解剖実験を行った対象に対しては興味を失う。しかし、一部児童は逆に興味を持つようになり、多様性が見られた。
著者
大垣 真一郎 松尾 友矩 味埜 俊 山本 和夫 花木 啓祐 滝沢 智 古米 弘明 大垣 眞一郎
出版者
東京大学
雑誌
COE形成基礎研究費
巻号頁・発行日
1996

本研究は6つのサブテーマを設けて進めている。1.各研究課題の成果(1)生物学的栄養塩除去プロセス:有機物として酢酸またはプロピオン酸のみを基質として嫌気好気式活性汚泥プロセスを運転し、微生物相の変化をPCR-DGGE法で追跡した。リン除去の良好な運転期間におけるバンドのうちいくつかはRhodocyclus属のものとして同定された。また、脱窒性脱リン細菌を積極的に用いた水処理プロセスを開発し、脱窒性脱リンの活性を60%程度にまで高めることができた。(2)地球温暖化ガス排出の抑制:実下水を用いた循環プロセスにおいて、前年度観察された脱窒時の突発的な亜酸化窒素の多量発生について、更に検討した。連続的な亜酸化窒素と酸化還元電位の測定結果から、このような発生は、例外なく酸化還元電位が300mV以上の水準にまで高くなっている場合に生じることが明らかになった。これらのことから、酸化還元電位が多量な亜酸化窒素の生成を警告する指標になることがわかった。ただし、酸化還元電位が高い場合に常に亜酸化窒素が生成するわけではなかった。多量の下水を意図的に希釈して流入させる実験を行ったところ比較的多量の亜酸化窒素発生が見られたことから、合流式下水道において降雨時に希薄な下水が流入することが亜酸化窒素の大量発生に繋がる恐れがあることが示唆された。(3)資源回収型水処理プロセスの開発:余剰汚泥を用いたPHA生産では、実下水を用いたパイロットプラントを運転し、プロセスの運転条件やPHA生産の反応条件が活性汚泥によるPHA生産に与える影響について検討した。特に生産反応におけるpHと有機酸の濃度が大きな影響を及ぼすこと、影響の程度は水中の非解離の酢酸の濃度に依存するらしいことがわかった。(4)余剰汚泥排出抑制型水処理システム:活性汚泥法で生じる余剰汚泥を可溶化して曝気槽に戻すことにより、発生汚泥量を削減するシステムの実現可能性について検討した。可溶化法として、熱処理・酸またはアルカリ処理・中温消化を検討し、消化汚泥循環率制御により最大85%の発生汚泥量削減に成功した。また汚泥発生のないプロセスができる可能性も確認できた。メンブレンバイオリアクターでは、SRTを長くすれば余剰汚泥をゼロにできるが、高負荷運転時における膜ファウリングの問題を微生物生態系を利用して制御する方法を実験的に検討し、微小後生動物を安定して維持する運転条件を明らかにした。膜面に棲息する貧毛類は、膜面付着汚泥量を顕著に減少させ、膜ファウリングの進行を抑制することを定量的に明らかにした。(5)新しい浄水技術の評価および健康関連微生物の挙動解明:陰電荷膜を用いたウイルス濃縮法を開発し、海水から高い回収率でウイルスを回収することができた。夏の海水浴場からエンテロウイルス、冬の東京湾からノーウォークウイルスを検出した。紫外線照射によって、藻類の増殖抑制の効果が残存していることを明らかにした。その主要因子として、紫外線強度、有機物、金属イオンの影響を調べた。玉川パイロットプラントにおいて、生物濾過を導入することによって膜の閉塞が抑制できることを実験的に検証した。また、二酸化チタン光触媒を用いた高度酸化処理において、光強度、触媒面積、撹拌強度、pHなどによる反応速度への影響を定量的に解明した。(6)複合微生物系解析技術の開発:複合微生物系解析の基礎技術の開発:活性汚泥中微生物群集のもつ亜硝酸還元酵素をコードするnirSおよびnirKの多様性を解析するために、PCR-DGGE法の適用を試みた。混合プライマーの使用をさけることにより、PCR-DGGE法を機能遺伝子の解析に適用することができることが示された。フローサイトメトリーを用いて貧栄養の付着性微生物を測定する手法を開発した。染色剤の選定、超音波による前処理方法の確立、およびフローサイトにおける蛍光波長のみを計測の対象とした。ウイルスの精製法として、ゲル濾過法を適用し、塩素消費物質を除去してウイルスを80%以上回収する方法を開発した。また、ウイルスを限外濾過膜によって効率的に脱塩する手法を開発した。2.研究拠点の形成本年度は、内外の研究者との学術的交流を深め本研究の成果を発表するために、国際シンポジウム(招聘外国講師5名、招聘国内講師14名、参加者計266名)を行った。
著者
乾 賢
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

飲食物の摂取後に下痢や嘔吐を経験すると、その飲食物の味を嫌うようになる。これを味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion, CTA)という。この学習は味刺激を条件刺激(conditioned stimulus, CS)、内臓不快感を無条件刺激(unconditioned stimulus,US)とする連合学習である。CTAの脳内メカニズムは十分に解明されていない。近年、脳内報酬系といわれる神経系が味覚嗜好性(味のおいしさ・まずさ)に関与することが明らかになりつつある。そこで本研究では脳内報酬系の一部位である腹側淡蒼球のCTAにおける役割について検討した。平成18年度までに、サッカリン溶液(甘味)に対するCTAを獲得させたラットの腹側淡蒼球にGABAA受容体阻害薬であるbicucullineを局所注入すると、CSに対する嗜好性が嫌悪性から嗜好性へと変化し(味覚反応性テスト)、CSの摂取量が増加する(一ビン法)ことを明らかにした。そこで今年度は、動物が生得的に嫌う苦味(キニーネ溶液)をCSとして同様の手続きで実験を行った。その結果、腹側淡蒼球へのbicucullineの局所注入は苦味CSに対する嫌悪に影響を及ぼさなかった。したがって、腹側淡蒼球のGABA系はCTAの獲得による「好き」から「嫌い」への嗜好性の変化に関与するが、「嫌い」から「非常に嫌い」という変化には関与しないことが明らかとなった。
著者
池田 正浩
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

Aquaporin (AQP)分子種とは、疎水性の脂質二重膜である生体膜を水分子が透過する通路として同定されたタンパク質分子種で、現在では、200以上のAQP分子種が、微生物から脊椎動物に渡って存在することが明らかにされ、生命を維持する上で根本的なタンパク質分子の一つであると見なされるようになった。申請者のグループは、最近新しいAQP分子種であるAQP11を世界に先駆けて発見した。しかしながらAQP11が細胞のどこに局在するのか、どのような分子形態で存在するのか、AQP11の生理学的意義付けは何かなどについては、全く明らかにされていない。本研究では、これらの点を明らかにすることを目的とした。(1)AQP11の細胞内局在GFPやmycなどのタグをAQP11に融合させて細胞に発現させ、イメージング法により細胞内の局在を調べた。その結果AQP11は主として小胞体に局在すること、そして少ないながら一部は核膜および細胞膜にも局在することを観察した。次に、小胞体局在に関係するアミノ酸配列について部位特異的突然変異法などの手法を用いて検討した結果、AQP11のC末端側に存在しているNKKEモチーフ、およびCys-101は、AQP11の小胞体局在には関係していないことが明らかとなった。また、AQP11のC末端側に存在しているNKKEモチーフが、ER exitシグナルとして働いている可能性を見出した。(2)AQP11の分子構造現在までに分子構造が明らかにされているAQP分子種は4量体を形成して、細胞膜に存在することが知られている。この点について、pull-downアッセイ法やタンパク質架橋法などを用いて検討した結果、AQP11が4量体を形成すること、この多量体形成にCys-101が関わっていることなどを見出した。(3)小胞体ストレスが生じた場合のAQP11の役割についてAQP11発現量が減少したマウスに、虚血再灌流による小胞体ストレスを負荷したところ、そのマウスの表現型には、変化は認められなかった。しかし、今回の系は、AQP11の発現を完全に抑えた系ではなかったため、小胞体ストレスが生じた場合のAQP11の役割については、今後も検討する必要がある。以上の成果の一部は論文としてまとめ、現在投稿中である。
著者
荻野 博 谷口 功 松村 竹子 田中 晃二 佐藤 弦 佐々木 陽一
出版者
東北大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

本研究を推進する上で基本となる単核、二核および多核錯体ならびにクラスターの合成について大きな進歩が見られた。特に二核錯体については系統的な錯体の合理的な合成がいくつかの系で可能となった。これらの成果にもとずき、錯体の電子状態と酸化還元電位との関連および混合原子価状態の理解を深めることができた。ゼロ次反応速度則に従う電子移動反応系、プロトン移動と共役した電子移動やCO_2還元を触媒する錯体の発見など、興味ある種々の電子移動反応系が発見された。金属タンパク質の電極上における酸化還元挙動の研究の歴史は極めて浅いが、本研究においても大きな進展が見られた。金属錯体の光誘起電子移動反応が理論および実験の両面から研究された。走査トンネル顕微鏡(STM)の発明とその後の急速な発展は、これまでほとんど推測の域をでなかった固体界面の研究状況を一変させつつある。電極と溶液界面における電子移動との関連から、本研究においてもSTMを使った表面化学種の構造解析が行われ、大きな発展があった。以上述べた研究は研究者間の相互の連絡のもとに進められた。平成3年11月11日および12日の両日にわたって東工大において、さらにまた平成4年11月11日および12日の両日にわたって分子科学研究所でそれぞれ公開シンポジウムを開催し、総括的な検討を行った。なお1992年のノーベル化学賞は「化学系における電子移動理論への貢献」を行った米国カリフォルニア工学大学のマーカス教授が受賞した。我々の研究提案がいかに緊急性があったか、また時宜を得たものであったかを証明したものと自負している。
著者
俣野 博 舟木 直久 山本 昌宏 ヴァイス ゲオグ 栄 伸一郎 谷口 雅治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

俣野は,ベキ型および指数関数型の非線形性をもつ非線形熱方程式の解の爆発後の振る舞いを調べ,爆発の際に生じた特異点が一瞬にして消滅し,解が滑らかになることを証明した(文献1).また,ベキ型の場合の解の爆発のオーダーを調べ,これまで未解明であった中間的な超臨界指数の範囲では,球対称解の爆発のオーダーが必ずタイプ1になることを示した(文献2).山本は,2次元の楕円型方程式における2つの未知の移流項を決定する逆問題を考え,広義解析関数の理論などを用いて,Dirichlet-Neumann写像から2つの移流項の係数が決定できることを示した(文献3).ヴァイスは,二相障害物問題及び燃焼理論に応用が可能な放物型方程式の特異極限問題を研究し,単調性公式と平均振動数の性質を用いることにより,自由境界のハウスドルフ次元の評価の導出に成功した(文献4).栄は,帯状領域上の反応拡散方程式系の解でパルス状プロファイルを持つものの挙動を解析し,速度の十分遅い進行パルス状局在解が存在するとき,それらの相互作用を記述する方程式を導出した.その結果,進行パルス解が互いに反発しあうことを理論的に証明した(文献5).谷口は,反応拡散系における特異摂動問題の定常解の安定性を調べるのに有効な手法である「特異極限固有値問題法」(SLEP法)を,非有界領域上の問題にも適用できるように拡張し,その成果を双安定型反応拡散系の平面状進行波の安定性解析に応用した(文献6).
著者
齊藤 伸
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、「マイクロメートル領域内の局所的な磁化ベクトルの方向を可視化表現できる磁区観察顕微鏡」を実現した。磁化方向の特定のためには、対物レンズ入射瞳の直交方向の辺縁部に微小径の直線偏光を入射させて、磁化ベクトルの各軸方向成分像を得、それらを合成することが有効であった。各軸からの照明タイミングをずらす方法(時分割法)に加え、高周波掃引磁界と同期を取って撮像する方法(ストロボ法)を組み合わせた。これらにより局所領域の磁化ベクトルのダイナミクスの可視化も可能となった。本装置は永久磁石やトランス鉄芯材料、スピントロニクスデバイスの研究開発に大いに役立っている。
著者
住 斉
出版者
筑波大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

化学反応の速度に関する標準理論は遷移状態理論(TST)である。ところが80年代に入って、種々の溶液反応においては溶媒のゆらぎが遅いためにTSTの基本仮定が成立しないことが明らかになり、非常な注目を集めてきた。これを記述するため二つの異なる理論の流れが生じた。一つはGrote-Hynesの理論(1980年)である。他は住と(1992年度ノ-ベル化学賞受賞者)Marcusの理論(1986年)であり、住は1991年この住・Marcus模型の与える反応速度定数の一般形を明らかにした。実験においては1992年浅野(大分大工)は、圧力により溶媒粘性率を大幅に変え、TSTが成り立つ領域から非TST領域までを覆う光異性化反応の速度定数のデータを提出した。1994年住は浅野と協同して、このデータが住理論の与える光異性化反応速度の一般式を検証することを明らかにした。今年度は、このデータとGrote-Hynes理論との対応を調べた。溶媒中における溶質分子の溶媒和構造は、溶媒の熱ゆらぎにつれてブラウン運動ゆらぎをする。この揺らぎが遅いことがTSTが成立しない原因である。このブラウン運動ゆらぎの動力学は、ゆらぎを励起する乱雑な力とそれを減衰させる摩擦力によって規定されている。Grote-Hynes理論では、摩擦力の相関時間が基本的に重要な役割を演ずる。もしこの理論が適用できるならば、観測データを再現するのに必要な摩擦力の相関時間が観測データ自身から得られることを明らかにした。一方、揺動・散逸定理により摩擦力の相関時間は乱雑力の相関時間に等しい。従ってそれは、理論的に、溶質分子の異性化部分と同程度の波長をもつ溶媒励起のエネルギーの広がりに関係している筈であり、これも他の実験から推定できる。このことを基礎に、Grote-Hynes理論は実験データを記述できず、その適応性には基本的問題点があることを明確にした。
著者
木村 朝子
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

操作デバイスの形状を日頃使い慣れた道具の形にすることで,その道具に対するユーザの過去の使用経験を利用し(メタファ),操作デバイスの使い方をよりスムーズに理解することが可能となると考えられる.そこで,本研究では道具の形状をした入出力デバイスシステムとその操作環境を構築し,その有用性,道具型入力インタフェースにおける触覚提示の効果などについて調査することを目的とする.最終度は,以下の研究を行い,対外発表を行った.・道具の形状および使用時の触感を利用する道具型入力インタフェースにおいて,どの程度現実に即した触覚が必要なのか,触覚のリアリティとユーザの操作感覚との関係について調査した.具体的には,現実に近い重力感,実物の触覚を連想できる衝撃感といった触覚,振動のような実物を連想しない信号的な触覚を提示し,どの程度リアリティのある触覚を提示する場合に,データを道具型入力インタフェースに取り込んだ瞬間,およびデータがインタフェースに入っている状態を,自然に知覚することができるのかを調査した.・道具型入力インタフェースに触覚を付加することの有効性を評価する実験を行った.操作内容に即した触覚が提示されることで,初めて利用するユーザがその形状・触覚ゆえにインタフェースに興味を持ち,ユーザ自身の過去の経験を当てはめながら試行錯誤することを確認した.・一方,携帯端末のような一般的な携帯機器の操作に,現実のメタファを利用した触覚を適用する試みを行った.姿勢入力と現実触覚提示を組み合わせたインタフェースを構築し,ユーザが端末を傾けると,画面上に表示されているデータがスクロールされ,データが端に達したときに「衝突感」を提示し,データが携帯端末の壁に当たってそれ以上進まないことを,ユーザが触覚として実感できるようにした.
著者
高木 裕 鈴木 孝庸 佐々木 充 番場 俊 平野 幸彦 佐々木 充 鈴木 孝庸 番場 俊 平野 幸彦
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

「声とテクストに関する比較総合的研究」グループは、フランスのボルドー第3大学との共同研究を推進し、平成19年度には、エリック・ブノワ教授による講演会を開催し、研究の打ち合わせを行った。平成20年度には、国際シンポジウムを開催し、フランスのボルドー第3大学の研究グループ「モデルニテ」から、エリック・ブノワ教授とドミニク・ジャラセ教授が参加し、共同研究の成果を確認した。最終的に研究成果を国内に問いかけるために、平成21年3月に、公開シンポジウム「声とテクスト論」を開催し、日本で声とテクストの問題をさまざまな角度から研究している明治学院大学の工藤進教授の基調講演とともに、同時に「<声>と身体の日本文学」と題して、ワークショップも開催し、日本文学をテーマにプロジェクトメンバーによる研究報告が行われ、活発な質疑応答があった。
著者
大久保 功子 百瀬 由美子 玉井 真理子 麻原 きよみ 湯本 敦子
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

看護への示唆を得るためCohenらの解釈学的現象学を用い、当事者の視点から遺伝子診断による選択的中絶の意味を記述した。浮かび上がった主テーマである「つながりの破壊と障害者の存在に対する相反する価値との直面」をもとに物語を再構成した。I.知るということ、「1.夫婦の心のすれちがい、2.不幸の上にもっと不幸:障害の差異化、3.家族の中での犯人探し、4.自己疎外」II.選ぶということ、「1.身ごもった子どもの存在を宙吊りにしておく辛さ、2.障害者の存在の肯定と否定に引き裂かれて、3.中絶した子どもを忘れてしまうことの罪悪感と、亡くしたことを悲しむことへの嫌悪感というジレンマ、4.内なる優生思想との遭遇」III.つながりへの希求、「1.夫婦と家族の絆、2.必要なうそ、3.子どもに受け継がれ再現される苦悩への懸念」出生前遺伝子診断では、遺伝病という衝撃が生んだ夫婦の心のすれ違いと、障害の差異化によって人とのつながりが破壊され、家族の中での犯人探し、自己疎外、障害者の存在の肯定と否定とに直面化を招いた。選択的中絶によって自分の中での合い入れない価値観に自らが引き裂かれ、内なる優生思想が自分や家族の中に露呈するのを目の当たりにしていた。どのように生きるかを選ぶことは当時者の実存的問題であり、医療が決めることではない。しかし未来の中に苦悩が再現される可能性が出生前遺伝診断の特徴であり、その人の生き方ならびに人とのつながりを診断が破壊、支配もしくは介入しかねない危険性をはらんでいる。生きていくのを支えていたのもまた、人とのつながりでありであった。医療者自身が障害と選択的中絶に対する価値観を問われずにはおかないが、同時に中立的立場と判断の止揚を求められている。世代を超えた継続的なケアと、人と人とのつながりへの細心の配慮と、看護者自身がその人とのあらたなつながりとなることが必要とされていることが示唆された。
著者
岩崎 正弥 三原 容子 伊藤 淳史 舩戸 修一
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

農本思想とは、農に特別の価値を認め、その価値を社会の中で追求・実現しようとする思想である。本研究を通して以下のことを明らかにした。1)農本思想は1945年で終息したのではなく、戦後の農村教育や農政にその一部が継承され、帰農や地域づくりにおいて現代にもその影響がみられる。2)日本固有の思考様式だったのではなく、中国の村治運動やアメリカのアグラリアニズムにも認められるように、一種の普遍性をもつ哲学であった。また「社稷」概念は現代においてこそ再評価されるべきである。
著者
武田 健
出版者
東京理科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

ナノマテリアルは電子材料や化粧品、塗料等様々な製品に汎用されており、今や現代の生活に欠かせないものとなっている。本研究では化粧品に用いられているナノマテリアルの皮膚透過性に関して、信頼性の高い知見を加えることを目的とし、酸化チタン微粒子と単分散モデルである金ナノ粒子を用い、in vivoでマウスにおける皮膚透過性を検証した。健常皮膚だけでなく、炎症皮膚、アトピー性皮膚炎発症皮膚を作成し、その皮膚に対して酸化チタン微粒子および分散性の高い金ナノ粒子、蛍光物質(FITC)を結合させた金ナノ粒子を24時間曝露した。粒子を曝露した皮膚組織の電子顕微鏡観察結果から、酸化チタン微粒子および金ナノ粒子は角質層内部に局在することが明らかになった。また、FITCが結合した金ナノ粒子を曝露した皮膚組織に関しては蛍光顕微鏡観察し、粒子が皮膚表層や毛包内部に局在すること、炎症により表皮を欠損した皮膚部位においては粒子が真皮層内部に侵入することを捉えた。また、真皮層内への粒子透過が確認された炎症皮膚に対して金ナノ粒子を24時間曝露し、その個体の血液内金質量をICP-MSによって測定したが、検出可能範囲内での粒子透過は見られなかった。これらのことからナノ粒子が健常皮膚を透過し、全身循環へ移行する可能性は極めて低いことが示唆された。角質層が剥がれるような皮膚の状態では、ナノ粒子が皮内に透過することが認められた。以上の結果、化粧品中のナノ粒子は健常人の皮膚では健康影響はほとんどないと考えられるが、損傷した皮膚への塗布には注意が必要でることが示唆された。定量的な研究が残されているが、妊娠期に皮下投与した酸化チタンナノ粒子が産仔脳神経系に影響を及ぼす結果を得ており、社会的に極めて意義の高い研究となった。
著者
川住 隆一 早坂 方志 石川 政孝
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、重い運動障害と知的障害を併せ有し、家庭や施設で訪問教育を受けている児童生徒のためのコミュニケーション手段と探索手段(移動手段)の開発を行うことを目的とした。本研究で取り上げた対象児は、国立特殊教育総合研究所教育相談センターへの来談児5名と、重症心身障害児施設において訪問教育を受けている重度・重複障害児9名であった。いずれの子どもに対しても、継続的な教育指導を通して、個々に応じたコミュニケーション補助・代替手段が考え出されたり、市販の音声表出補助装置(商品名「ビックマック」「ステップバイステップ・コミュニケーター」等)を利用するための工夫が行なわれた。また、探索のための移動手段として、電動式スクーターボードの有効性も検討された。さらに、運動障害が重い子どもが機器を操作し易くするための入力支援装置や姿勢介助の工夫も重要な課題となった。最終報告書においては、教育相談来談児に対する取り組みとして、(1)探索活動の促進がコミュニケーション内容を豊かにした事例、(2)コミュニケーションの意欲と伝達手段の向上が図られた事例、(3)人の動きを選択的に見ることから探索活動を促した事例、(4)探索活動の促進に電動式スクーターボードの活用を図った3事例が紹介された。また、2つの養護学校の訪問教育の場での取り組みについても、グループ活動場面(「朝のつどい」)と個別指導場面を取り上げ、上記の検討課題の観点から教育実践経過を整理した。
著者
掛谷 英紀
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2003

昨年度までに、多視点高解像度立体ディスプレイの基本は完成したが、今年度は、画質の向上、視野角の拡大、輻輳調節矛盾の解消による目の疲労の低減の3点について、改善を試みた。まず、画質の向上については、昨年度までのシステムで使っていたフライアイレンズを使わないシステムの構築を試みた。この場合、頭を動かしたとき、画像が不連続に切り替わるような違和感が生じていたが、それを取り除くためのレンズ光学系を設計した。この設計で、不連続感が低減されるとともに、視野角の拡大も同時に解決された。ただし、このレンズ光学系だけで、完全に不連続感が取り除かれるわけではない。この不連続感を取り除く方法として、多層にわたる弱拡散を行う方法を試み、一定の効果を上げた。この方法は、同時に輻輳調節矛盾による目の疲労を緩和する効果も確認された。輻輳調節矛盾の解決方法としては、昨年度まで行っていたシリンダーレンズと高周波縞状パターンの組み合わせ方法について、より詳細な解析を行い、その理論はほぼ完成された。ただし、この方法は上述の多視点方式に組み合わせることは難しい。そこで、多視点方式に組み合わせが可能な方法として、多視点立体ディスプレイとボリュームエッジを組み合わせる方法を昨年度提案したが、今年度はその実装を行った。アグティブなエッジ提示方法としてはモノクロ液晶パネルを多層に重ねる方法を試み、一定の成果をあげた。また、より廉価な方法として、メッシュテクスチャを多層にばらまく方法を新たに提案し、レフラクトメータを使った目の測定実験で、この方法でも輻輳調節矛盾の解消が期待できることが確かめらた。この3年間の研究成果により、提案する多視点立体ディスプレイは商品化できるレベルのシステムを達成したということができよう。
著者
大角 玉樹 多賀 寿史
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

わが国の産学官連携政策の焦点は、単なる技術移転から総合的な知的財産マネジメントに移行しており、沖縄においても、沖縄TLOの設立や沖縄地域知的財産戦略本部の設置など、数多くの施策が実施されている。しかし、本土と比較して、高度知財人材が不足しており、今後、沖縄の地域特性である亜熱帯島嶼資源及びIT施策の戦略的マネジメントを迅速に確立し、地域イノベーションを創出することが期待されている。
著者
中野 敦
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

ゲームプレイヤーがモーションを自由にクリエイションできるようになるとゲームの話の展開が変化するため,その変化した展開に対してキャラクタが柔軟に対処することが求められています.そのため,基盤システムの重要な機能として,ゲームプレイヤーからの自由なタイミングでのインタラクションに対してキャラクタが人間のように知的に振る舞い,かつそれらのキャラクタの能動的な行動によって長期的な話の展開を生成する行動制御技術が必要となっていました.そこで,話の流れを保ちつつ,状況に合わせて豊富で能動的な反応を生成するために,エピソードツリーと名付けた統一的な制御構造を用いて反応行動を生成するシステムを提案しました.このシステムでは,各キャラクタが状況に合わせて断片的なエピソードを表すエピソードツリーを取捨選択していくことで,全体の話の流れを構成します.また,キャラクタが干渉された場合には,エピソードツリーに付随された中断処理を挿入し,反応行動へ移り,反応行動が終了した際には復帰処理を挟み,元の行動に復帰することでキャラクタの行動の連続性を保ちます.ユーザが自由なタイミングでアニメーションに干渉するためのインタフェースとして,「触る」,「掴む」,「オブジェクトを追加する」の3つの異なる特徴を備えたゲームコンテンツを実際に制作しました.このコンテンツ上で,これらのインタフェースを用いて,自由なタイミングで相互作用できるキャラクタアニメーションを生成できることを,インタラクティブ東京やDiva展といった複数の会場で展示し,示しました.その結果,芸術科学会論文誌で論文賞をいただくといった学術的な成果に加えて,芸術科学会展のデジタルシネマ部門で優秀賞,そして国内の優秀なコンテンツが展示されるインタラクティブ東京に推薦されるなど,展示作品としても大きな成果を得られました.
著者
谷 昌親
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ロジェ・ジルべール=ルコントとアンドレ・ブルトンは、合理主義に支えられた西洋の近代文明に対して異化作用をもたらす〈他者〉の働きに敏感であったが、この2 人の詩人=思想家についての研究を主におこない、前者については、日本では初めてとなる著作を上梓してその全貌を明らかにしようと試み、後者については、特にマルチニック、ハイチ、そしてアメリカのインディアンから受けた影響についての論文を継続的に発表した。その他、ミシェル・レリスとレーモン・ルーセルについては、その著作の翻訳に取り組みつつ、それぞれの作品に見られる独特の異化作用のメカニズムの解明についての研究を進めた。また視覚芸術、とりわけ映画や写真といったメディア特有の異化作用にも注目し、一方、以上の研究の理論的基盤を作るべく、精神分析や文化人類学の観点からも異化作用について考察した。