著者
中森 裕毅 亀井 政孝
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.175-179, 2020 (Released:2020-11-15)
参考文献数
19

体外式膜型人工肺 (extra‐corporeal membrane oxygenation, ECMO) とは, 血液を一度体外に導き (脱血), 血液に酸素を与え二酸化炭素を除去するというガス交換を人工肺にて行い, 再度血液を体内に戻す (送血) 装置である. ECMO自体が敗血症のリスク因子でもあり, 敗血症へのECMOは従来禁忌とされてきた. 敗血症におけるショックは血管トーヌスの低下に由来するもののみではなく, 敗血症性心筋症 (sepsis‐induced cardiomyopathy, SICM) と呼ばれる心原性ショックが併発している場合がある. SICMは可逆性の心筋症であり, 心機能の回復までの期間の全身の細胞レベルでの血液還流維持としてのECMOの活用は大いに期待される. しかしながら, ECMOは感染, 出血, 臥床といった問題点があり, 多臓器不全を合併する敗血症患者での施行には特に難渋する. 事実, これまでの敗血症に対するVA‐ECMOの治療成績は, 生存退院率が20%程度にすぎないという報告が多い. より細径でより血栓を形成しないカニュレやECMO回路の開発を医工学には期待したい. 医工連携によりSICMの予後改善の余地は大いにあると考える.
著者
澤田 晶子 栗原 洋介 早川 卓志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第32回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.57, 2016-06-20 (Released:2016-09-21)

食物の消化吸収に密接に関連する腸内細菌叢は、長期の食事パターンの影響を強く受けることでも知られている。本研究では、季節に応じて様々な食物を食べる屋久島の野生ニホンザル(Macaca fuscata yakui)の腸内細菌叢が、葉食、果実・種子食、昆虫食といった採食パターンに応じてどのように変化するのか検証した。調査期間は2012年10月から2013年9月、調査対象であるオトナメス3個体から糞を採取し、次世代シークエンサーで網羅的に細菌種を同定した。エンテロタイプ(3種の細菌の比率に基づき区分される腸内細菌叢の型)に着目したところ、どの採食パターンにおいてもプレボテラタイプ(高炭水化物食と関連するエンテロタイプ)になり、採食時間の70%近くが昆虫食であった昆虫食期においても変化はみられなかった。一方、プレボテラタイプでは同じであっても、採食パターンによって細菌叢の構成が異なることがわかった。たとえば、葉食期にはセルロース分解菌を含むことで知られるトレポネーマ属の細菌種の増加がみられるが、これによりニホンザルは繊維含有量の高い葉を効率よく消化・吸収しているのではないかと推測する。
著者
望月 好子 佐久間 夕美子 石田 貞代 座波 ゆかり
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-14, 2021-04-30 (Released:2021-08-01)
参考文献数
23

目的:ジャカルタに住む日本人の母親の現地生活,育児とその支援への思いを滞在3・4年目の駐在員の妻に焦点をあてて明らかにする。方法:2018年9月に,ジャカルタに住む日本人の母親に半構造化面接を実施し,質的統合法を用いて分析した。結果:ジャカルタに住む日本人の母親たちは,①【特有の生活事情への懸念】をもっていた。加えて②【医療への不安感とその対応への変化】を経験し,③【子育て支援への期待感】や④【生活環境への適応感】をもつに至った。さらに母親たちは,⑤【本帰国への不安感】をもちながらも,その反面で⑥【密な人間関係に基づく情報伝達意欲】という肯定的な思いをもつに至った。結論:日本人の母親たちの現地生活,育児と支援への思いは上記の構造をもつことが明らかになった。母親たちは,現地生活が長引くにつれて生活に適応し,否定的な思いから徐々に肯定的な思いに移行していくことが示唆された。また母親たちは,本帰国が近づくにつれて帰国後の日本の生活に対する不安が高まりながらも,情報発信意欲をもち,情報の受け手から担い手へ徐々に移行していくことが示唆された。
著者
高木 明
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.18-23, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
6

我が国の新生児聴覚スクリーニング,精密聴力検査機関,療育・介入の現状,課題について延べ,今後の方策に言及した。新スクに関しては結果の全数の可及的即時把握が肝要となるのでそれらを集約,coordinateするセンターが必要であり,今後は新スクの受検率,精度向上のためには産科との協働は欠かせない。里帰り出産などの結果把握のためには新スクは国による義務化が望ましく,また,産科,精密聴力検査機関からデータはon line入力(電子化)されるべきである。精密聴力検査機関の質の均てん化を図り,3ヶ月以内の診断ができるような体制を整える必要がある。人工内耳術後の療育・介入については現状では特別聴覚支援学校が担うことが多いが,音声言語獲得をめざす療育として十分とは言えず,専門家の養成が待たれる。
著者
小宮山 美弘 原川 守 辻 政雄
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.522-529, 1985-07-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
30
被引用文献数
5 6

本邦産果実類14属17種類の成熟期や貯蔵中(20±3℃)における糖含量及び糖組成の変化をHPLCで分析調査し,主要構成糖に基づく果実類の分類と糖組成の変化に対する考察を行った。(1) 果実の主要構成糖はショ糖,ブドウ糖,果糖及びソルビトールであった。(2) 収穫適熟期の果実の糖組成から果実類を分類すると以下のようである。ショ糖型(全糖の50%以上を含む):カキ,モモ,ネクタリン,追熟後のバナナ,完熟期のスモモとメロン;還元糖型(全糖の50%以上を含む):(i) ブドウ糖型(果糖より25%以上多い):オウトウ,ウメ。(ii) 果糖型(ブドウ糖より25%以上多い):リンゴ,ナシ。(iii) 等量型(両者の差が25%以内):イチゴ,ナシ,ウンシュウミカン,トマト;平衝型(ショ糖,ブドウ糖,果糖含量の比が25%以内):イチゴ,スモモ;ソルビトール型:リンゴを除いたバラ科果実全てに含まれ,0.2~1.45%の含量を示す。(3) 成熟期ではイチゴを除いて顕著な全糖分の増加がみられ,なかでもショ糖の増加率が大きいが,完熟期になると減少する果実もみられた。スモモとメロンは他の果実に比較してショ糖の増加は特に顕著であった。(4) 貯蔵中の全糖分は,ウメ,スモモ,メロンのように減少率の大きい果実を除くとその変化は少なかった。構成糖の変化はショ糖の加水分解と思われるブドウ糖と果糖の増加がみられる果実が多く,カキは特に貯蔵後期に顕著であった。ナシ('長十郎')はブドウ糖のみが増加した。ウンシュウミカンではショ糖の著しい増加がみられた。一方ウメは還元糖,スモモとメロンは構成糖の全てが減少した。(5) ソルビトールは成熟期に増加し,貯蔵中で減少した。
著者
佐藤 健太郎
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、教科書の編纂や検定とそれを規定した政治状況に注目し、1930年代から1950年代における学校教育での政治教育の展開を、日本政治外交史的手法により実証的に解明することを目的とする。主として、①この間の政治教育をめぐる過程を、政治教育の発展・変質・再興の過程として長期的視野から分析すること ② 検定教科書を、知識人の言論と、国家の規制との対立が集約されるものと位置づけ、教科書の内容や検定の状況を分析すること、等を通して、55年体制下における「教育と政治」の淵源を明らかにし、戦後民主主義の基盤を問いたい。
著者
戸塚 真里奈 早川 潤 青木 謙治 稲山 正弘
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.87, no.798, pp.770-779, 2022-08-01 (Released:2022-08-01)
参考文献数
12
被引用文献数
2

In this paper, assuming that the embedding deformations under steel plates and dowels were almost equal to the deformations of damage zone in these joints, the evaluation methods of stiffness of tensile-bolted joints and dowel-types joints based on Strongest link model were proposed. To inspect the proposed methods, we compared and verified experimental and calculated results. The experimental and calculated values by the proposed methods were in good agreement and the effectiveness of the proposed methods was shown.
著者
松本 みゆき 金井 篤子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PQ-010, 2021 (Released:2022-03-30)

異文化適応は,海外で生活する人びとが現地生活にどれくらい馴染んでいるかを示す概念であり,彼らの精神的健康や行動のパフォーマンスを促進することが示されている。海外派遣者の女性配偶者は,その多くが海外帯同のため仕事を辞めたり,帰国後も就職をためらったりするなど,キャリア意識の構築が難しい。一方,異文化適応がキャリア意識に影響を及ぼす可能性が指摘されている。しかし,彼女らの異文化適応が帰国後のキャリア意識に影響を及ぼし,キャリア意識がどのように変化するかについて着目した研究はこれまでにない。本研究はこれらについて明らかにするため,帰国した海外派遣者の女性配偶者に対してインタビュー調査を実施した。分析の結果,直近の帯同で滞在していた国における異文化適応が高い人は低い人に比べて,ポジティブなキャリア意識を持っていることが明らかになった。また帯同前と比べて,キャリア意識が変化したと考えていることが示された。異文化適応は帰国後のキャリア意識に影響を及ぼすことが明らかになった。
著者
松本 みゆき ゴパル バイジュ
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PQ-005, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

海外駐在員配偶者は,配偶者の海外赴任に伴って海外で生活する海外駐在員の家族のことで,その大半が女性であり,現在の状況ではその多くが海外転居に伴い,仕事を辞めている。そこでキャリアの分断を経験するため,帰国後復職する者が少ないことが指摘されている。このような状況のなか,海外駐在員配偶者は海外滞在中や帰国後に,自らのキャリアについて悩むことが多く,彼らの異文化適応にも影響を及ぼすことが考えられる。海外駐在員配偶者ついての先行研究はいくつかあるが,その問題は海外駐在員配偶者が持つライフキャリアに対する視点が欠けていることである。異文化適応は仕事や家庭,社会でどう生きるかという人生の見通しである「ライフキャリア観」にも大きな影響を及ぼすと考えられるが,それについて扱った先行研究は国内外でもほとんどない。このことは海外駐在員配偶者の異文化適応を把握する上では問題が大きい。そこで本研究では,海外駐在員配偶者の異文化適応について,仕事や家庭,社会でどう生きるかという人生の見通しである「ライフキャリア観」の観点から検討する。
著者
Yuki SUNAGUCHI Takashi TOMURA Jiro HIROKAWA
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE TRANSACTIONS on Communications (ISSN:09168516)
巻号頁・発行日
vol.E105-B, no.8, pp.906-912, 2022-08-01

This paper details the design of a plate that controls the beam direction in an aperture array excited by a waveguide 2-plane hybrid coupler. The beam direction can be controlled in the range of ±15-32deg. in the quasi H-plane, and ±26-54deg. in the quasi E-plane at the design frequency of 66.425GHz. Inductive irises are introduced into tapered waveguides in the plate and the reflection is suppressed by narrow apertures. A plate that has a larger tilt angle in the quasi E-plane and another plate with conventional rectangular waveguide ports as a reference are fabricated and measured. The measured values agree well with the simulation results.
著者
森 正人
出版者
熊本大学
雑誌
文学部論叢 (ISSN:03887073)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.151-161, 2014-03-17

本論文は事実と虚構という問題意識にかかわって、古代の説話と作り物語、近代の小説における転生譚をめぐり表現の方法を検討するものである。はじめに現代の事実および虚構の概念に相当する古代・中世の言葉に関して一般的な検討を行い、この問題をめぐる作り物語の批評基準および同時代の説話の表現方法を整理し分析する。そのうえで、浜松中納言物語、この物語を典拠としたと作家が明言している「豊饒の海」における転生の証拠と転生者の記憶の問題を取り上げ、その構想と表現方法を読み解く。浜松中納言物語は当時の説話を踏まえながら、その言説に見られる事実性を強調する方法に倣わず、「まことらしさ」を満たせば十分としている。「豊饒の海」は、浜松中納言物語を典拠としたと三島由紀夫自身明言しつつ、そこからさらに古代日本の転生をめぐる説話や浜松中納言物語のプレテクストである竹取物語をも導き入れて構成されている。そのことによって、小説は「典拠」からずらされ、小説自体をも相対化する。

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著者
新光社 [編]
出版者
新光社
巻号頁・発行日
vol.第1輯, 1923
著者
佐藤 英一 山田 智康 田中 寿宗 神保 至
出版者
一般社団法人 軽金属学会
雑誌
軽金属 (ISSN:04515994)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.604-609, 2005 (Released:2006-02-24)
参考文献数
11
被引用文献数
26 20

The creep behavior at ambient temperature of typical h.c.p., b.c.c. and f.c.c. metals and alloys of annealed state were surveyed. Cubic metals and alloys demonstrated negligible creep strain under all stress ranges. In contrast, h.c.p. metals and alloys demonstrated significant primary creep behavior. In particular, Ti-6Al-4V alloy and CP-Ti metal showed significant creep behavior and accumulated large creep strain more than 1% in 90 s and 1600 s, respectively under 0.9 of 0.2% proof stress. After being cold-rolled, Ti-6Al-4V alloy and CP-Ti metal showed less significant creep behavior.