著者
岩本 晃明 佐藤 三佐子 古市 泰宏 野澤 資亜利
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

当研究は当初「国際学術研究」として申請・採択されたものであり、国外研究協力者のMcGill大学・Gagnon教授との共同研究により、精子運動抑制因子(SPMl)およびその前駆体のSemenogelin(Sg)を中心として研究を行い以下の知見を得た。(1)従来より精漿蛋白は精子のcapacitationに関与すると言われており、ヒト精子capacitationに対するSgの影響を検討した。ヒト臍帯血に含まれる分子量3KDa以下の低分子成分(FCSu)を用いてcapadtationを誘発した。Sgの存在によりヒト精子のhyperactivationが抑制されるのが観察されたが、運動精子を用いたアッセイ系の不安定さや、精子自動分析機による解析が困難で、明らかな濃度依存性は見いだせなかった。つぎにacrosome reactionを指標とした検討で、Sgは濃度依存性にヒト精子のcapacitationを抑制することが判明した。Xantine oxidaseを用いたケミルミネッセンスの測定から、その作用機序はO_2^-の生成抑制であることが明らかになった。また、Sgは精製精子とインキュベーションすることで分解を受け、その分解産物も同様にヒト精子のcapacitationを抑制することをも見いだした。この結果より、SgおよびSPMlは精子のcapacitationに関与していることが示唆された。(2)男子不妊症および正常男性の一部にSg遺伝子の欠失が見られたことから、この変異型蛋白の機能を解析中である。また、DNA二次元電気泳動法によりSg遺伝子のSNP検索を行っているが、現在のところSNPは確認されていない。(3)組換え型Sg(r-Sg)蛋白の発現に成功し、多量の高純度・高活性r-Sg蛋白の精製が可能になった。このr-Sgを抗原として作製した抗体は、天然型SgやSPMlとも特異的に反応した。
著者
前田 雅英 星 周一郎 亀井 源太郎 木村 光江
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、不正アクセス禁止法、児童買春等処罰法、ストーカー規制法などの近時の新設刑事立法につき、立法過程や立法趣旨を解明し、これらの特別法の射程を解明することを目的とした。平成13年度に、これらの特別立法の運用状況の実際を検証するため、北海道警察本部、福岡県警察本部をはじめとする関係官庁にヒアリング調査を行ったが、平成14年度はそこで得られた調査結果並びに、統計資料を整理・検討し、具体的分析を行った。また、インターネットをはじめとする諸通信手段の法規制とその実効性について検討を加えたが、その過程で、新たに導入が始まった防犯カメラシステムについても、その運用状況についての検討を行った。以上の成果として、第1に、児童買春等処罰法、ストーカー規制法、DV防止法は、いずれも、従来は「犯罪」として認知されて来なかった領域であるが、分析の結果、極めて積極的に活用されていることが分かり、さらに法適用を積極的に進めるための法改正、運用の改善が必要であることが明らかとなった(前田「犯罪の増加と刑事司法の変質」罪と罰39巻1号5〜12頁)。さらに主要国との比較から見ても、児童ポルノに画像データを含めること、児童ポルノの単純所持・保有を処罰対象とすること、実在の児童に見せかけたCGなどについて、処罰範囲を拡大する必要性があることが判明した(木村「児童買春等処罰法、ストーカー規制法、DV防止法の運用状況と課題」都法43巻1号)。第2に、防犯カメラシステムにつき、新宿、ニューヨーク等の検討の結果、犯罪抑止に絶大の効果があることが実証されつつあることが示されたが、さらに一層具体性・詳細な分析を行い、いかに効率的にカメラを配置するかを検討する必要があることが明らかとなった(亀井「防犯カメラ設置・使用の法律問題-刑事法の視点から」、都法43巻2号)。
著者
田中 佐知
出版者
神奈川県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】犬は、ヒトの生活の中でペットとして飼われているだけでなく、盲導犬や救助犬をはじめ、様々な場面で使役犬として活躍しでいる。いろいろな使役に適するように品種改良を重ねられてきた結果、現在は400種以上の犬種が存在している。しかし同一犬種内でも使役犬になれる個体と、なれない個体がいるのが事実であり、ヒトのニーズに応えていない。そこで、犬の気質(個性)に関連しているとされている脳内神経伝達物質であるドーパミン受容体D4 (DRD4)及び5-Hydroxytriptamine Receptor (5-HTR)の1Bの各遺伝子と個体の行動との関連を調べることで、使役に適した個体の選別につながると考えた。【方法】牧羊犬として品種改良されたボーダーコリー種を用いた。一般家庭で飼われ、牧羊犬の訓練を受けている個体の行動を一定時間観察し、羊に対する集中力(注視率)を調べた。また、DRD4遺伝子については、nested-PCR法により遺伝子型を調べ、シークエンスによる塩基配列分析を行った。5-HTR1B遺伝子については、SNaPshot法を用いてSNPsを調べた。これらの結果から、注視率と各遺伝子型及びSNPsの関係を統計学的に解析した。【成果】ボーダーコリー種において、DRD4遺伝子では、3種類の対立遺伝子(435, 447a, 498bp)が検出された。それらから得られた遺伝子型はいずれも注視率との間に有意差が認められなかった。447aアレルでは、本来存在する2つの塩基置換のうち1つが存在していなかったが、アミノ酸の置換は認められなかった(非同義置換)。5-HTR1B遺伝子では、既報のとおり6つのSNPsが確認され、そのうち2つ(G246A, C660G)において、注視率との有意差が認められた。また、羊に初めて対面した年齢が1歳未満の個体は、1歳を過ぎてから初めて羊に対面した個体よりも高い注視率を示した。以上のことから、牧羊犬の気質に影響を与えるものとして、遺伝学的な素養も加味されるが、できるだけ早い時期に羊に対面させることも必要であると考えられた。
著者
上野 和之 神山 新一 MASSART R. BACRI J.ーC. 小池 和雄 中塚 勝人 神山 新一 上野 和之
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

平成9年4月から平成11年3月までの2年の研究期間中に2回の日仏共同研究セミナーを開催し、研究成果の発表と討議を通して共同研究の進展が図られた。2年間の共同研究の成果をまとめれば、以下のようになる。1. 高機能磁性流体の開発とその物性超微粒子の表面改質や各種ベース液への安定分散の成功により、磁性流体の高機能化が進み、知能流体としての特性の解明が進められた。特に、超微粒子の磁化特性や超微粒子を含む磁性流体の光学特性(Soret effect)の解明が、測定法の開発も含めて進められた。また、液体金属を母液とする磁性流体の開発も進められた。2. 管内流動特性の解明高機能磁性流体を用いて、管内振動流や気液二相流の流動特性に及ぼす磁場の影響が詳細に解明された。特に、非一様磁場下での磁性流体の加熱沸騰を伴う気液二相流の熱・流動特性の解明が進められた。3. 応用研究磁性流体の応用研究としては、ダンパ、アクチュエータ、ヒートパイプ、エネルギー変換システムの開発に関する基礎研究が進められた。
著者
嶋矢 貴之
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

マネーロンダリングへの刑事法的対応、非刑事法的対応、専門家の責任につき、下記のような成果を得た。【刑事的対応】わが国はマネーロンダリングにつき、組織犯罪等処罰法などにおいて、原則故意犯の処罰を定めているが、ドイツにおいては犯罪行為等に由来する財産であることを注意に認識せずマネーロンダリングを行った者も2年以下の自由刑若しくは罰金(故意の場合は3月以上5年以下の自由刑)を定め、これは故意犯(財産の由来の点以外の構成要件メルクマール)と過失犯の混合形態の犯罪であると理解されている。もっとも政策的必要性は理解可能だが、罪刑均衡やわが国の刑罰体系からすれば、慎重な対応が必要であると考える。【非刑事的対応と専門家の責任】平成18年度、わが国では犯罪収益流通防止法案が検討され、法律会計の専門家のマネーロンダリングに関する責任、届出義務が問題となった。ここでは弁護士が受ける対価が不法収益に当たるかという問題と、守秘義務との関係で届出を義務付けるべきかという問題がある。弁護士顧問料などは不法収益の規律に従うと考えることが可能と思われるが、具体的な刑事事件での弁護士費用の場合にはどのように考えるべきかは、ドイツなどでも問題となっている。差し当たり、被告人の弁護人依頼権、その政策的な保護という側面が否定方向に働き、不法収益は自由な処分は一切出来ない財産であるという理論的側面、不法収益を利用して高額な弁護士費用を正当化することになる帰結が肯定の方向に働くとの分析を行った。いずれにせよ、それらの調整を図った明確なルールが存在することが望ましいものを思われる。同じく専門家の責任については、イギリスでも一定の場合には、疑わしい取引の届出義務につき、弁護士に免責を与える判例があるが、それがどの段階から始まるかについては争いがあり、さらに検討を要する。
著者
住 明正 車 恩貞
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は大気大循環モデルプログラムを用いて、モデルの長期積分を行い、そこに生じる年々変動の解析を行うことである。特に、各種観測データの統計分析やモデル実験の結果の解析を通じてエルニーニョの気候システムへの影響やメカニズムの解明を行うことが中心である。平成17年は顕著な異常気象をもたらした年(たとえば、2004年猛暑)を選び、大気大循環モデル(T106)を用いて季節予報を行い、再現できるかどうかを確認した。研究の開始が平成17年10月からであり、現在は、時間積分を継続しているところである。今までの大気海洋結合モデルの結果では、エルニーニョの振幅が弱いことが示されえている。この主たる理由は、温度主躍層が拡散することであるが、その理由を探ることを行っている。さらに、分解能を高くしたT213の大気大循環モデルを用いて再現を試みている。近年季節予報における結合モデルの重要性が指摘されているので、共生プロジェクトで開発された気候モデルを用いて季節予報を行い、結合モデルと単独の大気モデルの結果を比較している。とりわけ大気海洋相互作用の意味について考察中である。
著者
浪越 通夫 永井 宏史
出版者
東北薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

日本に棲息するヒトデ類の中には、捕食者に襲われたり物理的に傷付いた時に、障害を受けた腕を切り離す能力をもつものがいる。マヒトデ(Asterias amurensis、キヒトデとも言う)はその代表的な例である。本研究では東京湾と陸奥湾のマヒトデを対象に、自切誘導の刺激が加えられてから腕が切り離されるまでの経過の観察、自切中のヒトデの切片標本の作成と光学顕微鏡観察、および自切を誘起する生体成分(自切誘導因子、APF)の分離を行った。東京湾のマヒトデは陸奥湾のものよりも自切しやすい。マヒトデをオートクレープバックに入れ、加熱して自切させて得られる体腔液を正常なマヒトデの腕に注射すると自切が誘導されるので、これを生物検定法に用いて研究を行った。マヒトデの腕にAPFを含む溶液を注射し、口側と反口側の両方からビデオ撮影して外部変化を観察した。また、開裂部の組織切片の顕微鏡観察を行った。外部観察より、自切の始めに反口側の体表のコラーゲン組織の軟化が起こり、次に口側の歩帯板が断裂することが分かった。この時、ヒトデは自切させる足を固定し、表皮のコラーゲン組織を引きちぎる行動を示した。組織切片の観察では、歩帯板をつなぐ筋肉の異常な収縮が観察された。このことから、歩帯板の断裂は、歩帯板間をつなぐ筋組織の逆向収縮により、コラーゲン組織からなるじん帯が引き割かれることによって起こると考えられる。加熱処理した体腔中に放出されるAPFの分離を行った。自切を観察する生物検定試験を指標にして、ゲルろ過クロマトグラフィー、次いで高速液体クロマトグラフィーを繰返すことによりAPFを分離した。ほぼ単一のピークを示すHPLCフラクションが自切を誘導することを突き止めた。この物質は超微量しか含まれていないため、HPLC分取を繰り返して^1H及び^<13>C NMRスペクトルを測定した。最終構造の決定は現在なお進行中であるが、この物質はニコチンアミドの誘導体と考えられる。
著者
大竹 秀男 遠藤 征彦 井上 達志
出版者
宮城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

有機廃棄物資材としての間伐材等のチップと家畜糞(牛糞)に土着の微生物を混入した区(M区)、土壌動物を混入した区(A区)、両者を混入した区(MA区)、チップと牛糞のみの区(C区)を作り堆肥化を試み、できた堆肥を用いコマツナと飼料作物(ソルガムとオーチャードグラス)の生育への影響について調査した。コマツナおよびソルガムの生育はM区とMA区で若干高かった。オーチャードグラスの生育は虫堆肥区より化学肥料区の方が良く、虫堆肥間ではM区の生育が良かった。4種の糞(牛糞、鹿糞、豚糞および鶏の糞尿)を材料として切返しの間隔を3日にしたもの(短区)と1ヵ月にしたもの(長区)とで出現する土壌動物を比較した。3ヵ月後についてみると、短区ではすべての堆肥でダニ類が90%以上を占めていたのに対し、長区の牛堆肥と鹿堆肥ではトビムシ類が20〜30%を占めていた。虫堆肥の効果については、レタス圃場におけるセンチュウ密度との関係から検討した。土壌動物とセンチュウの移植前と収穫後の個体数の間には負の相関関係(r=0.695)がみられ、土壌動物個体数の増加した区ほどセンチュウ個体数は少なくなる傾向を示した。また、市販堆肥より虫堆肥や落葉堆肥を施用した区の方が、土壌動物個体数が多く、センチュウ個体数は少なくなる傾向が認められ、センチュウ密度を抑制するためには堆肥の質と量を考慮する必要がある。土壌動物のトビムシ類とダニ類(ササラダニ類とトゲダニ類)はセンチュウを抑制している可能性が示唆された。以上のことから、虫堆肥を畑地に施用することにより土壌動物の多様性が増し、センチュウの多発を抑制できるものと考える。
著者
小木 雅世
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

北半球の気候変動を支配する大気現象として、北極振動(AO)が存在する。これまでAOに関する研究は冬季に限られており、夏季AOに関する研究はほとんど存在しない。そこで、本研究では夏季AOの存在と、冬季AOと夏季AOや夏季の大気循環の関係を研究することを目的とした。本年度は、大気大循環モデルや大気海洋結合モデルにより再現された、夏季AOのモデルでの統計的再現性を調べた。その結果、モデルの中でも夏季AOが存在することがわかった。さらに、今後地球温暖化した場合の夏季AOはどのように変化していくのかも解析するために、温暖化実験結果における夏季AOの存在を調べた結果、温暖化実験においても夏季AOが再現されていることがわかった。また、データ解析の中でも、2003年にヨーロッパを襲った猛暑や日本の冷夏について解析し、夏季AOが卓越したことによりヨーロッパの猛暑と日本の冷夏が同時に起こっていたという事実を明らかにすることができた。さらに、冬季AOと夏季大気循環との関係を調べた結果、冬季AOの変動が積雪や海氷などに影響し、その影響が春から夏へと待続し、夏季の大気循環と関係があることもわかった。特に日本に関していえば、日本の気候に影響を与える夏季オホーツク海高気圧と冬季AOが関係していることがわかった。なお、上記の研究結果を効率的に行うために、AOを発見した気候変動研究の世界の第一人者であるワシントン大学のProf.Wallace氏と議論するためにWallace氏の所へ訪問することができ、これまでの夏季AOの存在についての研究結果報告と今後の研究についての打ち合わせもすることができた。
著者
大石 親男 吉本 玲子
出版者
石川県農業短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

石川県能登地方における本病の伝染経路は、黒根立枯病による枯死クリ樹枝幹上に形成された本菌の柄胞子、或は子のう胞子による肥大期のイガへの風媒伝搬であることがわかった。従って本病の防除対策は、伝染源としての黒根立枯病による枯死クリ樹の撲滅と、肥大期のイガへの薬剤散布の実施にあると考えられる。本菌は28〜32℃の高温での生育が良好であり、感染後の果実の腐敗の進展も高温条件下で著しい。従って感染後の8〜9月に高温が予想される異常残暑の年には特に感染防止のための薬剤防除に留意する必要がある。本菌に対する有効薬剤の第1次スクリーニングの結果、供試した45種類の薬剤のなかからベンレート,トップジンM,ダイホルタン,オキシン銅などが有効薬剤として選抜された。本菌の106分離菌株を供試して有効薬剤に対する耐性菌の検出を行ったところ、ベンレート,トップジンMは感性菌に対する最低生育阻止濃度(MIC)が低い反面耐性菌の数も多く、これに対してダイホルタンはMICはより高いが耐性菌の数は少ないことがわかった。しかもベンレート或はトップジンM耐性菌はおおむねダイホルタンに対して感性であることから、ベンレート或はトップジンMとダイホルタンの混用散布が、薬剤防除上最も有効な手段であると考えられる。このことは実際の圃場試験においても確かめられ、トップジンMとダイホルタンの混用がそれぞれの薬剤の単用よりも高い防除効果を示した。収穫果並びに貯蔵果の被害調査並びに接種試験の結果、本病に対するクリの抵抗性品種は有磨であることが確認された。従って本病の激発地では栽培品種として有磨の導入が被害回避のための有効な手段であると考えられる。
著者
頼富 本宏 森 雅秀 野口 圭也 立川 武蔵 山田 奨治 内藤 榮
出版者
種智院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、研究代表者が平成9年に北京市の首都博物館を訪れた際、隋・唐代から清代に至る膨大な数量の金銅仏像が未整理のままに保管されている実態を確認したことから、国際学術研究として出発した。初年度では、比較的良質の数十点の作例を調査・撮影し、かつ妙応寺・意珠心境殿に整理・展示されている六千余点の金銅仏像群の報告を行なった。しかし、同年末に展示館新築が始まり、首都博物館蔵の他の資料についての調査続行が困難となった。そこで、当館所蔵の資料とも関わりを持つ中国金銅仏を多数保管する機関として、河北省の避暑山荘博物院・外八廟、遼寧省の遼寧省博物館の助力を得て、主に清朝金銅仏像を調査・撮影し、法量・尊格名などの文字データと画像データを収集して、データベースの構築に着手した。第二年次の平成14年には、当初の調査対象であった首都博物館所蔵品の調査研究が引き続き困難であるため、中国内外の個人収蔵家の協力も得て、百点を超える中国金銅仏の調査・撮影を行ない、比較研究資料の蓄積に努めた。そこで、従来の明・清代のチベット仏教系の鋳造仏だけではなく、北魏・隋・唐代のより古い時代の多数の鋳造仏の資料が得られることになり、それらを体系的に配列することで、仮説的ではあるものの、様式的展開を概観できるようになった。第三年次の平成15年には、SARSの流行によって現地調査の機会が阻まれたが、終息後に雲南省へ渡航し、雲南省博物館と大理市博物館の協力もあって、中国金銅仏でも特異な様式と内容を持つ金銅仏群の調査資料を採取することができた。さらに、静岡県三島市の佐野美術館の中国金銅仏像を調査・撮影した。三年間の研究期間中、海外現地調査と副次的な国内調査を重ねることによって、579点の資料(うち参考資料268点)を収集し、データを集積した。また、故宮から流出したと推測される「宝相楼仏像群」についても、簡略ながら復元を試みることができた。以上の諸資料の画像と採取データのうち、掲載許可を得た資料を収録した成果報告書を最終年度に刊行し、研究者に情報提供を行なっている。
著者
梶浦 晋
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

東アジアにおける仏典開版の歴史や流布の研究のため、国内外で調査をおこなった。日本においては、京都大学人文科学研究所、京都国立博物館、大谷大学図書館、東京大学東洋文化研究所、国立国会図書館、静嘉堂文庫、大東急記念文庫、お茶の水図書館成簣堂文庫、根津美術館、建仁寺、北京の中国国家図書館、北京大学図書館、台北の国家図書館、故宮博物院文献館等収蔵の宋元版等の調査をおこなった。日本における金版大蔵経の収蔵情況および流通についてあきらかにした。お茶の水図書館所蔵の高麗刊『大般若波羅蜜多経』巻第巻第第二十一第二百七十六は、元官版大蔵経と密接な関係があり、漢訳大蔵経刊行史上重要な遺品であることを確認し報告した。京都大学人文科学研究所所蔵の宋・金・元版仏書は、調査を完了し、目録および主要な典籍の解題の作製中である。中国国家図書館、国家図書館、故宮博物院文献館等では、『妙法蓮華経』『金剛般若経』など、主として単刻の仏典を調査おこない、日本伝存の宋元刊本との相異点などについて研究を進めた。上記調査を行った機関の所蔵本や各種目録を参考にして、内外の図書館や研究機関あるいは寺院所蔵の、中国および朝鮮半島開版の古版仏典所在リストの作成し、本科研の報告書に「日本現存宋金元版仏典リスト(暫定版)」として収録した。
著者
荒川 慎太郎
出版者
東京外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度も昨年度に引き続き、ロシア所蔵西夏語文献の調査、マイクロフィッシュで得たデータの分析と入力作業を行い、研究成果の一部を国際学会で発表した。チベット語文献から訳された西夏語仏典が、本研究のテキストデータの基礎となる。ロシア科学アカデミー東方学研究所サンクト・ペテルブルグ支所において西夏語資料の閲覧・調査を行った。本研究の中心対象は、西夏語訳『聖勝慧彼岸到集頒』上・中・下巻である。本年度はチベット語から翻訳された西夏文の言語学的特徴に関して取り纏めを行い、特に「チベット語風」西夏文の文法的特徴を明らかにした。2006年11月、ロシア、サンクト・ペテルブルグ大学で開催された国際西夏学会("Tangut civilization : scientific traditions and perspective of research")において、"On the "Tibetan-style" Tangut sentences in some Buddhist materials"と題して研究成果の一部を発表した。これは本研究の集成となる、西夏語訳『聖勝慧彼岸到集頒』のテキスト・訳注・研究のプレ・ワークの一つである。本研究の課題の一つは、チベット語がどのように西夏語に翻訳されるかを考察することにあり、その目的のための、西夏語-チベット語逐語訳・対照資料の作成作業は公開に向けてデータを整理中である。本年度は、この他、一般向けの雑誌などに西夏語学、西夏史、考古などの視点から寄稿した。
著者
斉藤 明 末木 文美士 高橋 孝信 土田 龍太郎 丸井 浩 下田 正弘 渡辺 章悟 石井 公成
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、H15年5月に開催された第48回ICES(国際東方学者会議、東方学会主催)におけるシンポジウム(「大乗仏教、その起源と実態-近年の論争と最新の研究成果から」)を皮切りに、総計10名の研究分担者がそれぞれの分担テーマに取り組み、これまでに12回の研究会、8回の講演会、印度学仏教学会等の国内学会、IAHR(国際宗教学宗教史学会)、ICANAS(国際アジア北アフリカ研究会議)、IABS(国際仏教学会)、ICES(国際東方学者会議)他の国際学会等を通して研究発表を重ね、'ここに研究成果をとりまとめるに至った。また、研究成果の一部は、H18年度の第51回ICESにおいて「大乗仏教、その虚像と実像-経典から論書へ」と題するシンポジウムにおいて公開した。本シンポジウムでの発表内容の一部は、H20年に刊行されるActa Asiatica,The Institute of Eastern Cultureの特集号(vol.96,"What is Mahayana Buddhism")に掲載予定である。本研究により、在家者による参拝という信仰形態をふまえ、新たなブッダ観・菩薩観のもとに経典運動として-既存の諸部派の中から-スタートした大乗仏教運動は、時期的には仏像の誕生とも呼応して、起源後から次第に影響力を増し、3世紀以降には最初期の経典をもとに多くの論書(大乗戒の思想を含む)を成立させるに至ったという大乗仏教の起源と実態に関する経緯の一端が明らかとなった。大乗仏教徒(mahayanika,mahayanayayin)とは、こうして成立した『般若経』『華厳経』『法華経』『阿弥陀経』等の大乗経典をも仏説として受け入れる出家、在家双方の支持者であり、これらの経典はいずれもそれぞれを支持するグループ(菩薩集団)独自のブッダ観あるいは菩薩観を、宗教文学にふさわしい物語性とともに、空や智慧、仏身論や菩薩の階梯などを論じる論書としての性格を帯びながら表明している。本研究では、これらの詳細を各研究分担者がそれぞれの専門を通して解明するという貴重な研究成果を得ることに成功した。本研究成果報告書は、いずれもこの研究期間内に研究代表者、研究分担者、および上記ICES,IAHRにおけるシンポジウムへの招聴研究者がもたらした研究成果の一端である。
著者
庄垣内 正弘 熊本 裕 吉田 豊 藤代 節 荒川 慎太郎 白井 聡子 間野 英二 梅村 坦 樋口 康一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、ロシア科学アカデミー東方学研究所サンクトペテルブルグ支所に保管されている中央アジア古文献の調査と整理、未解明文献の解明であった。この目的を遂行するために研究代表者あるいは分担者は度々ロシアに出向いて調査し、また、ロシアから専門家を招いて共同研究をおこなった。また中01央アジア古文献研究に携わるロシア以外の国へも出向き、当該国の研究者を招聘して研究の推進に役立てることもした。研究代表者庄垣内はロシア所蔵の未解明ウイグル語断片について研究し、『ロシア所蔵ウイグル語文献の研究』(2003,374p.+LXXVII)を出版した。ロシア科学アカデミー東方学研究所E.クチャーノフ教授は荒川慎太郎の協力を得て、『西夏語辞典(夏露英中語対照)』(2006,800p.)を出版した。語彙を扱った世界初の西夏語辞典である。一方、同研究所上級研究員A.サズィキンは、樋口康一の協力も得て、『モンゴル文「聖妙吉祥真実名経」』(2006,280p.)、『モンゴル語仏典カタログ』(2004,172p.)を出版した。吉田豊と熊本裕はそれぞれソグド文献、コータン語文献研究に従事した。また梅村坦等はロシア所蔵文献カタログ作成に取り組んだ。間野英二はチャガタイ語文献『バーブルナーマ』ロシア所蔵写本を、藤代は同じくシベリア言語資料を、白井聡子はハラホト出土のチベット語仏教仏典をそれぞれ研究し、解説とテキストを出版した。研究成果の詳細についてはメンバーによる論文集CSEL vol.10、及び報告書冊子を参照されたい。古文献の研究には膨大な時間と労力を必要とする。本研究も予定の計画を完遂できたとはいえないが、とりわけロシア人研究者の協力をえて、一般に公開できる程度の質を保持したかなりの量の成果をあげたものと満足している。
著者
志賀 永嗣
出版者
東北大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

炎症性腸疾患を対象としたGenome wide association study (GWAS)のメタ解析によって、NKX2. 3が潰瘍性大腸炎感受性遺伝子候補であることが示された。NKX2. 3が感受性遺伝子であることを確定するために(1)NKX2. 3遺伝子領域のTag SNPを用いて、日本人潰瘍性大腸炎と相関するハプロタイプを同定した。(2)同定したリスクハプロタイプは、潰瘍性大腸炎炎症局所において非リスクハプロタイプと比較し高発現していることが確認された。(3)NKX2. 3は少なくとも、血管内皮培養細胞にて発現していた。
著者
緒方 知美
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

1)平安時代に制作された紺紙金字経典((2)〜(5)、(7)〜(9))、および料紙装飾経典((1)(6))の調査を行った。東京・浅草寺本法華経并開結(11世紀)、(2)中尊寺交書一切経のうち賢劫経巻第十一・阿毘曇心経巻第二(3)神護寺一切経のうち諸法最上王経(4)伝藤原頼通筆無量義経断簡(11世紀)((2)〜(4)は兵庫・黒川古文化研究所所蔵)、(5)兵庫県歴史博物館保管中尊寺交書一切経のうち大般若経巻第二百九十八、(6)和泉市久保惣記念美術館本法華経方便品第二、(7)山口・遍明院本法華経、(8)静岡・妙立寺本藤原基衡発願法華経并開結(保延4年)、(9)福島・松山寺本紺紙金字法華経。(特に表記のない作品は12世紀)2)中国の蘇州・瑞光寺塔発見紺紙金字法華経に関する実地見学・資料収集を行なった。3)平安時代の紺紙金字経典制作に関する文献記録を収集した。作品調査の結果、(1)や(6)の料紙装飾経では、遠視点による細密画風という特殊描法が共通し、それ以外の紺紙金字経とは明らかに異なる系譜にあり、作者も別系統のものを推定すべきであること、本文書体は、11世紀((1)(4))の温雅なものから12世紀の扁平な典型的写経体へと変化すること、紺紙金字経典見返し絵の絵画様式としての完成期が12世紀にあること、が確認された。調査によって明らかとなった、書体と見返し絵の様式展開の並行現象、材質・技法上の共通性、そして当時の記録から考察して、書写をおこなう筆者と見返し絵や表紙絵を描く画家は別個の存在ではなく、経典制作を専門的に行う僧侶として共に活動し、院政期に僧綱位を与えられ社会的地位を確立される「経師」集団の一員として、作善業としての経典書写に自主的な意識をも持って参加していたという仮説を導いた。作者の自主的参与を可能にする経典制作環境が、平安時代の経絵様式の成立を導いた原因となったと結論した。
著者
須沢 かおり ユエルグ マウツ
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ユダヤ・キリスト教の霊性の古典的テキストを東洋の宗教である禅仏教の古典文献と比較し、そのテクストの源泉となる宗教体験がどのように類似し、交わるか、その接点を探った。特にユダヤ教のヘブライ聖書、キリスト教の旧約聖書のなかから神についての理解とその啓示をあらわすテキストを詳しく分析・解釈し、禅仏教の古典(道元、日蓮、臨済禅の公案集)と比較検討した。聖書に見られる定義の困難な神秘的意味をもつ句の背景には一神教独自の神体験、宗教体験があり、神についての表現、神体験を表わす記述の構成、動詞の態、頻出する隠喩ならびにイメージにおいては、二元的な分別認識の構造を打破するという点、あるいは時間性と歴史性の理解において禅の古典文献(道元、日蓮、臨済禅の公集)と類似するものがあることがわかった。また、神との霊的な交わりと宗教体験を深めたキリスト教神秘家(ゾイゼ、タウラー、ルドルフ・フォン・ザクセン、十字架のヨハネ、アピラのテレサ)の作品においても宗教的な言語表現の特徴が客観的で論理的な言語を越える次元のものを探求している点に注目し、ヨーロッパ中世から近代にかけてのキリスト教霊性の紺的にある宗教意識が東洋の禅の霊性とどのようなところで交わるか、を検討した。神の超越性という点はユダヤ・キリスト教の特徴をなすが、その超越性は日常的なもののなかに内在するという点においては禅的な理解との接点が見られた。この研究により、定式化された教義、理性主義的な神学、体系化しえない霊性というユダヤ・キリスト教の霊性の脈々とした源流が、まったく伝統を異にする禅仏教の思想と接点をもちうることを示すことができた。これらの研究成果は論文と書物にまとめ、発表した。
著者
北村 正敬 前田 秀一郎
出版者
山梨大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

センサー配列DRE(dioxin-responsive elemen;ダイオキシン応答配列)の下流にレポータータンパクSEAP(secreted alkaline phosphatas;分泌型アルカリフォスファターゼ)をコードする遺伝子を挿入した遺伝子構造を作製し、芳香族炭化氷素群に属する有害化学物質に反応するトランスジェニックセンサーマウスを作製した。樹立したDRE-based sensing via secreted alkaline phosohatase(DRESSA)マウスに5μg/kg体重の2,3,7,8-TCDDを強制経口投与したところ、血中のSEAP活性はべ一スの100倍以上に増加した。DRESSAマウスにおけるダイオキシンの検出限界は、2,3,7,8-TCDDを指標にした揚合、0.5μg/kg体重(強制経口投与)であった。また、雌雄差を比較検討したところ、雄のDRESSAマウスは雌のそれに比し高い反応性を示した。タバコ煙にはダイオキシンをはじめとするハロゲン化芳香族炭化水素や多環芳香族炭化水素など、ダイオキシン受容体を活性化する物質が数多く含まれる。われわれはまず遺伝子組換えセンサー細胞を用い、タバコ煙が極めて高レベルのダイオキシン受容体活性可能を有することを明らかにした。次に樹立したDRESSAマウスに能動喫煙の形でタバコ煙を曝露し、その後血中のSEAP活性を測定した。その結果、喫煙により有意かつ持続的な血中SEAP活性の上昇を認めた。同様の結果は、受動喫煙のモデルにおいても得られた。これらの検討結果は、樹立したセンサーマウスが環境モニタリングにおいて有用であること、すなわち有害化学物質を含む外気や室内空気に反応してSEAPを発現産生することを強く示唆するものであり、現在実験的喫煙環境および市中幹線道路近傍大気を用い、センサーマウスによる大気汚染検出の試みを継続中である。