著者
小柳 仁
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.22-35, 1989-12-15

国際心臓移植学会(ISHT)のInternational Registryによると,1987年の1年間で2200例の心移植が行われ,米国にかぎっても109施設で1441例が施行された。1987年末までに登録された6500人の患者の年齢は0〜68歳(平均42.5歳)で男83%,女17%である。全症例の10年生存率をみると,1年生存率79%,5年生存率75%,10年生存率73%ときわめて良好な結果が得られている。免疫抑制療法が三者併用療法になった最近の2500例にかぎると,1年生存率は86%とさらに向上し5年生存率も実に85%に達している。Recipientの年齢制限が変化し,55歳までを適応とする施設が増加しactiveな患者であれば60歳までを適応にいれる。また新生児にも適応が広げられている。Recipientの原疾患では心筋症,冠状動脈疾患が二大グループである。当初は冠状動脈疾患が多かったが最近は特発性心筋症の占める割合が多くなっている。提供心臓の保存時間は,単純冷却浸漬保存で安全許容限界4時間とされており,ISHTの統計によると自病院内でのドナー調達は約20%なのにくらべ,ジェット機などを使用した遠隔地からの転送が60%を占めている。心臓移植が初めて臨床応用されて以来,"beating heart"が用いられてきた。しかしすべての国で脳死が法的に認められているわけではない。米国50州の約半分の州では,臓器請求法,すなわちドナーの基準をみたしている患者を診ている医師に,家族に臓器提供を促すことを義務づける法律が制定されている。世界的にみてUNOS(United Network of Organ Sharing),Eurotransplant,Skandiatransplantなどの機構が有効に機能し遠隔のドナーを地理的,時間的にRecipient poolに結びつける作業が日夜行われている。免疫抑制療法は現在はサイクロスボリン,イムラン,プレドニンの三者併用療法が主流をなしている。免疫抑制療法別の成績でも三者併用療法群は1年生存率86%,5年生存率84.5%,またミネソタ大学では2年生存が96%まで向上した。また最近モノクロナール抗体であるOKT3が脚光をあびており,とくにその予防的投与の有効性に関心が集まっている。驚くべきことは生存率のみでなく,移植をうけた患者のquality of lifeであり,実に73%の患者が完全に社会復帰をなしとげている。
著者
渡邊 千尋 大和田 聡子 伊藤 吏 村上 信五 欠畑 誠治
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.178-184, 2019-06-30 (Released:2019-08-02)
参考文献数
15

Herein, we present a patient with superior semicircular canal dehiscence syndrome (SCDS) manifesting as convergence spasms, which were alleviated by canal plugging surgery. SCDS is described in the literature by Minor as “a condition characterized by vertigo and oscillopsia induced by loud sounds or changes in the pressure of the external auditory canal or middle ear due to the dehiscence of the bone overlying the superior semicircular canal.” Convergence spasms are characterized by intermittent sustained convergence, accommodative spasms and miosis, and are likely to be caused by a functional disease, although in some cases, it is a manifestation of an organic disease. A 49-year-old male patient visited our department with a 2-year history of intermittent sudden vertigo and cloudy vision. The vertigo attacks had gradually increased in frequency and could last all day. Pure-tone audiometry showed bilateral conductive hearing impairment with air-bone gap at low frequencies from 125Hz to 500Hz. A head CT showed bone dehiscence above the bilateral superior semicircular canals and tegmen of the epitympani. Initial equilibrium testing did not reveal any abnormal findings. Initial sono-ocular testing of the right ear indicated upbeat nystagmus. However, after multiple outpatient visits, the upbeat nystagmus disappeared during the sono-ocular test and was replaced by paradoxical convergence. The eye tracking test also revealed paradoxical convergence, which became frequent and was accompanied by pupillary miosis. This paradoxical convergence was ultimately diagnosed as convergence spasms. No improvement of symptoms was achieved through non-surgical treatments over an extended period of time, therefore, canal plugging surgery was recommended. The surgery was performed through a middle fossa approach, and it completely eliminated the cochlear and vestibular symptoms associated with SCDS and the convergence spasms. Finally, we suspected that the convergence spasms were caused by ocular dysfunction as well as neurological factors related to the SCDS.
著者
早坂 菊子 千本 恵子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.182-189, 1997-04-20
参考文献数
14

一卵性双生児の不一致症例を対象として, 吃音に関する母子間のD-Cモデル (要求一許容性モデル) によるスピーチの関係性を検討した.スピーチの速度はOSR (音節/60sec.) , スピーチの長さはMLU (文節/発話数) で算出した.母子のOSRとMLUの差が小さい程, 要求と許容性は一致し, 子供に無理な負担がかかっていないと判断した.治療期間を大きく3期に分け, それぞれ1, II, III期間とした.MLUでは1期では差が大きかったが, II期, III期となるに従って母親のMLUは減少し, 子供は増加してきた.OSRでは1期においては両者ともに速度が速すぎ, 子供に負担がかかっていたが, II期には, ゆっくり話すように母親に要請したため, 母親の速度が減少し, 子供もそれにともなって減少した.MLU, OSRともに, I期からIII期に進むに従ってその差が減少し, 要求と許容量の調和がとれてきていることが示されている.非流暢性も消失し, 安定しているため, 追跡期での両者の差の拡大は問題とならないように考えられる.
著者
井坂 真紀子
出版者
日経BP社 ; 2002-
雑誌
日経ビジネスassocie (ISSN:13472844)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.70-72, 2017-05

新年度から資格取得などを目指して、新たに勉強を始めたビジネスパーソンも多いだろう。参考になるのが、50歳で東京大学合格を果たした主婦の「勉強手帳術」だ。中だるみや挫折を防ぎ、必ず結果を出すための「手帳活用のポイント」を聞いた。
著者
堀江 真太郎 中谷 岳史 リジャル H.B. 高木 直樹
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.87, no.793, pp.211-221, 2022-03-01 (Released:2022-03-01)
参考文献数
58

The purpose of this study was to conduct a winter indoor thermal environment measurement and a subjective thermal comfort survey on detached houses in Nagano City. In addition, we estimated the neutral temperature and acceptable temperature range from the obtained data and explored the incidence of cold stress. The neutral temperature calculated using Griffiths’ method was 18.0 ºC and regression analysis was 21.5℃ in operative temperature. The lower limit of the acceptable range was 6.6℃. Occupants adapted strongly to the indoor environment. However, care must be taken because occupants also accepted the cold stress environment.
著者
土屋 礼子
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
no.56, pp.25-43, 2005-03

第二次世界大戦において連合国軍は日本軍に対し、心理戦と呼ばれる宣伝ビラを主力としたプロパガンダを行った。本稿では国立公文書館蔵の第十軍諜報部心理戦班の報告書に基づき、その全体的経緯と当事者が行った評価方法を明らかにした。沖縄戦で用いられた宣伝ビラには三系統あり、一つはハワイ州オアフ島の米海軍太平洋艦隊司令部で作成されたナンバーシリーズ11種、二つ目は沖縄現地で作成されたXシリーズ17種で、これらの内容は日本軍将兵向けと沖細住民向けふたつに大別された。三つ目はやはり沖縄で作成された「琉球週報」と題する新聞形態のXNシリーズ6種である。1945年3月末から7月初めまでに総計八百万枚散布されたこれら宣伝ビラの効果については、日本側から投降した捕域の数、あるいは死者の数に対する捕虜数の比といった数値が評価基準として挙げられた他に、捕虜に対するアンケート調査や尋問による調査も行われた。その結果、日本軍や沖細住民に最も読まれた新聞形態の宣伝ビラが高く評価された。また、ビラのメッセージが心理的に与えた影響は明確ではなかったが、捕虜の数はそれまでの太平洋戦からは予想できなかったほど多く、沖縄における心理戦は成功であったと評価され、今後の戦闘においても心理戦が有効で必要であるとの結論が導き出された。一方、日本軍のプロパガンダは比較にならないほど貧弱なものであった。その後の日本本土攻撃および沖縄占領と日本の戦後統治を考える上でも、また朝鮮戦争などのそれ以降のアジアにおける戦争での心理戦を考える上でも、これらの心理戦の分析は重要な意味を持っている。
著者
磯村 尚子 渡邊 謙太 西原 千尋 安部 真理子 山城 秀之
出版者
The Japanese Coral Reef Society
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.41-48, 2010

沖縄県名護市大浦湾のアオサンゴ群集は,その大きさと特異な形状から保全が求められており,大浦湾のサンゴ礁生態系を代表する存在である。2009年に見られたアオサンゴの白化は,オオギケイソウがサンゴ表面に繁茂することでサンゴにダメージを与え,健康な状態を阻害された結果起きたものと考えられている。今回,アオサンゴ上にオオギケイソウとは異なる藻体が発見された。慶良間諸島で確認されたアミメヒラヤギにからむクダモの状況と類似していたことから,藻体はシアノバクテリアであると考えた。サンゴ礁域では,栄養塩の増加によって大発生したシアノバクテリアがサンゴにからみついてサンゴが死亡した例や,複数属のシアノバクテリアが引き起こす致死性の病気が知られている。そこで本研究では,大浦湾のアオサンゴ群体表面とその周辺の岩盤から採集した藻体の形態を顕微鏡で観察し,また16SrDNA配列を調べて,既知のシアノバクテリアの配列と比較して藻体の正体を明らかにし,さらにシアノバクテリアがアオサンゴへ及ぼす影響について検討することを目的とした。解析の結果,アオサンゴと岩盤から得られた藻体は,レプトリングビア属を始めとした複数属および複数種からなるシアノバクテリアのコンソーシアムであることがわかった。この中には,海水中の栄養塩濃度が高まると大量発生することもある<I>Lyngbya majuscula</I>や<I>Hydrocoleum lyngbyaceum</I>が含まれていた。今回確認されたシアノバクテリアがアオサンゴ群体に与えている影響は現段階では小さいと考えられるが,微少な生物ながらその繁茂については警戒が必要である。

1 0 0 0 OA Cover

出版者
Japanese Society of Breeding
雑誌
Breeding Science (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.cover, 2022 (Released:2022-03-08)

On the coverPhenotyping is a critical process in plant breeding, especially with the increasing demand for streamlining the selection process. However, manual phenotyping is inefficient and high-throughput phenotyping methods are often difficult to introduce in size-limited fields. We have developed a high-throughput field phenotyping rover optimized for size-limited breeding fields as open-source hardware, and demonstrated its capability to efficiently measure the wheat heading process using deep-learning image analysis (This issue, p. 66–74).(W. GUO: Field Phenomics Laboratory, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo)
著者
土師,岳
出版者
園藝學會
雑誌
園藝學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, 2001-07-15

モモの溶質品種'白鳳', 不溶質品種'アーリーゴールド', および硬肉品種'有明'を供試し, 収穫後における果肉硬度とエチレン生成量の推移を調査した.溶質品種と不溶質品種では程度の違いはあるものの, 果肉硬度の低下とエチレン生成量の増加が認められるのに対して, 硬肉品種では果肉硬度の低下とエチレン生成が認められず, 溶質および不溶質品種とは明確に異なる成熟特性を示すことが明らかになった.このように硬肉品種はエチレン生成に関する変異体であり, 生食用モモ品種の日持ち性向上育種を進める上で有用な形質と考えられる.

1 0 0 0 OA 6.肥満

著者
河合 俊英 島田 朗 及川 洋一 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.916-921, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
7

近年,肥満,ことに内臓脂肪蓄積型の肥満はlow gradeの慢性炎症として捉えられるようになっている.肥満は,高血圧,糖代謝異常などの代謝障害の基盤となり腎障害をきたしうる.一方,肥満そのものによる腎障害が明らかとなり,肥満関連糸球体障害(症)(obesity-related glomerulopathy(ORG))という疾患概念が提唱されている.本稿では,肥満と腎障害との関連について概説する.
著者
長尾 幸徳 佐藤 裕樹 阿部 芳首 御園 生尭久
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.8, pp.1088-1093, 1991-08-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7
被引用文献数
1

8-プロモメチル-1-メチルイソキノリン臭化水素酸塩1と水酸化ナトリウムおよびナトリウムアルコキシド(アルコキシド=メトキシド,エトキシド,プロポキシド,およびイソプロポキシド)の反応により8-ヒドロキシメチルおよび各8-アルコキシメチル置換の1-メチルイソキノリン類(3aおよび3b-e)を合成した。また,1,8-ビス(プロモメチル)イソキノリン臭化水素酸塩2とナトリウムアルコキシドとの反応では1,8-ビス(アルコキシメチル)イソキノリン類4a-dが得られた。一方,化合物1とアンモニアおよびアルキルアミン類(アルキル=メチル,エチル,プロピル,およびイソプロピル)との反応では8-アミノメチルおよび8-アルキルアミノメチル置換の1-メチルイソキノリン類(5aおよび5b-e)がそれぞれ合成されたが,化合物2とアミン類との反応では閉環が起こり1H-ベンゾ[de][1,7]ナフチリジン誘導体6a-eが得られた。
著者
藤田 直也 山田 拓司 野村 孝泰 牧野 泰子 村田 水紀 竹中 学 村田 浩章 竹内 幸 長崎 理香 金子 幸栄 伊藤 剛 柴田 麻千子 小山 典久 鈴木 賀巳
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.27-31, 2004 (Released:2006-12-15)
参考文献数
12

新生児の急性腎不全に対する腹膜透析 (PD) ではしばしば除水が困難である。我々は過去に, 腹腔内に少量の腹膜灌流液を貯留した状態を維持しつつ持続的に注排液を行う手法で, 新生児の急性腎不全例を良好に管理できる可能性があることを報告してきた。しかし注液側も排液側も流量を機械的に調節する手法では, 腹腔内に常時適当な量の腹膜灌流液を貯留しておくことが困難であった。今回は新たな試みとして, 排液側の回路をやや挙上することによって腹腔内に常時一定量の腹膜灌流液を貯留した状態を維持しつつ, 持続的に灌流する方法でPDを施行した。すべて既存の物品を用いて実施が可能であり, より簡便に一定の貯留液量を保ちながら持続灌流が可能で, しかも大量の透析液を灌流しても, 全く問題なく治療が可能であった。新生児のPDは, その手法にまだ改善の余地があり, 改良することで, より良好な治療ができる可能性があるものと考えられた。
著者
青山 安宏
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1991, no.8, pp.1041-1049, 1991-08-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
31
被引用文献数
3

非極性有機溶媒中での多点水素結合に基づくホストーゲスト相互作用について検討した。用いたホストは2-ヒドロキシ-1-ナフチル基をもつポルフィリン誘導体および四つのアルキリデン基で橋かけした環状テトラキス(レゾルシノール)誘導体であるが,これらはいずれもフェノール性ヒドロキシル基(対)を単位水素結合部位としてもっている。ゲストはアミノ酸,キノン,ジカルボン酸,ジオール,糖,ヌクレオチドなどの生体関連物質である。多点相互作用に組み込まれた「分子内」水素結合は最適ゲストの捕捉に大きな選択性を与えるのみならず,いちじるしい鎖長選択性・立体選択性をもたらす。また,「分子内」水素結合の分子間水素結合に対する優i位性は約1 .5kcal/molである。このような相互作用を利用して糖類を有機溶媒に可溶化することができる。この場合,アノマー位に関して大きな立体選択性が認められる。一方,どのような糖が有効に抽出されるかについての選択性は糖分子全体の疎水性(脂溶性)に支配されている。多点相互作用の応用についてもいくつかの例で検討を加えた。最も重要なのは,非共有結合に基づくホスト-ゲスト相互作用が,機能性分子錯体の自発的な構築や光学活性ゲストの立体化学の決定に利用できる点である。その他,糖の合成化学にユニークな方法論をもたらし,多官能性有機触媒の開発にも新たなみちを拓いた。
著者
碓井 健寛
出版者
基礎教育保障学会
雑誌
基礎教育保障学研究 (ISSN:24333921)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.49-60, 2017 (Released:2019-07-05)

Individuals with incomplete basic education have existed for decades, although few studies have clarified their characteristics. Using district-level data from the 2010 Population Census of Japan, this study applied the count data analysis to investigate the characteristics of 128,187 individuals who did not complete basic education. The estimation results suggest that individuals who did not complete basic education have a high probability of remaining unmarried, living on the welfare facility or public housing, or being women of foreign origin. These results have significant policy implications for the national government, suggesting a strong need to gather additional statistical information with regard to individuals who did not complete basic education when the 2020 Population Census of Japan is conducted.
著者
伊庭 孝∥訳詩
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1930-08