著者
内山 秀樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、以下の4点について成果があった。1.「すざく」X線データの系統解析により、天の川銀河の熱的活動性の起源が、中心と銀河面で異なり、多成分を持つことを明らかにした。2.電波・ガンマ線と「すざく」X線の中性FeKα輝線データを組み合わせ、天の川銀河を満たす非熱的な高エネルギー宇宙線(光子を含む)の巨大分子雲との相互作用や、その加速源候補の調査を行った。3.「すざく」搭載X線CCDカメラXISを用いた新たな解析方法を開発し、系外活動銀河核から時間変動しない軟X線成分を発見した。上記の1-3の成果はいずれも査読付論文として受理・発行されている。特に1.の成果は重要であるため、詳細する。「すざく」が観測した天の川銀河の全データを系統解析し、銀河拡散X線における硫黄、アルゴン、カルシウムの高階電離イオンからの輝線強度の空間分布を世界で初めて得た。その結果、元素の電離温度が、鉄では銀河面より中心の方が高いのに対し、硫黄では逆に銀河面より中心の方が低いことを明らかにした。これは銀河拡散X線を放射する高温プラズマが鉄あるいは硫黄輝線を強く出す高温(~7千万K)と低温(~1千万K)の2成分からなり、それぞれの成分が中心と銀河面で異なる起源を持つことを強く示唆する、全く新しい観測事実である。また、4.次世代X線天文衛星ASTRO-Hに搭載予定の硬X線撮像検出器・軟ガンマ線検出器の地上試験・較正を行い、2015年の打ち上げに向け、計画を進めた。これはASTRO-Hを用いた将来の発展的研究につながる。
著者
金子 由芳 香川 孝三 駿河 輝和 角松 生史 川嶋 四郎 四本 健二 栗田 誠 草野 芳郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1990年代より活発化した援助機関によるアジア諸国への法整備支援においては、それぞれが持ち込む制度が当該国の法体系と不整合を来たし、またドナー相互の調整を欠いたまま無秩序に展開されるなど、アジアの法発展を歪める問題が浮上している。本研究では、体系自立的で予測可能性をもたらす法整備の方向性を探って、日本からアジア諸国への法整備支援の具体的実例を対象に、司法改革や土地法などの主要分野毎に研究班を組み、制度と現実の相互作用による法整備支援のプロセスを観察・評価した。方法的には、一方で実定的制度の正確な比較法的理解を深め、他方で制度が現実の法社会動態に及ぼす影響を観察する実証的手法を組み合わせた。このような検討を通じて、アジアの立法過程が有力ドナーの持ち込む新自由主義的な立法モデルに翻弄され、深刻な社会経済的影響をもたらしており、日本支援が対立に苦しむ事実、いっぽうで訴訟・和解といった司法過程による規範修正の兆しが皆無でなく、日本支援はこの側面で一定の支援成果を挙げつつあることが見出された。このような日本支援の成果は、日本自らの過去の法政策や司法観の変遷を内省する機会を与えるとともに、日本の近代化過程の制度経験をアジア諸国の問題解決に役立てるチャンスを示唆している。
著者
石村 真一 平野 聖
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究の対象は、電気扇風機、テレビの2機種とする。電気扇風機に関しては、明治期から昭和40年代初頭までの文献史料、特許及び意匠権資料調査、日本国内及びヨーロッパのフィールド調査、テレビに関しては、松下電器産業株式会社の社史編纂室等の社内資料を通して調査した結果、次の内容が明らかになった。(1)電気扇風機の開発と発達日本の電気扇風機は、従来主張されてきた芝浦製作所が第1号を製作したのではなく、別の小規模の会社が先に開発したことが、明治10年代の新聞広告より確認された。明治末期あたりから芝浦製作所が量産体制に入るが、モーターは輸入品であった。大正中期になると三菱等の他のメーカーも電機扇風機の開発に乗り出し、海外のメーカーと提携してモーターの国産化を進めていく。大正後期にはレンタルの電気扇風機も出現し、国産電機扇風機の割合が増加する。それでも海外からの輸入品の方が多かった。昭和初期からガードの意匠権申請が多くなり、戦後までこの傾向が続く。電気扇風機のカラー化は戦後間もない時期から始まり、昭和20年代後期には定番化する。昭和30年代前半には高さの調節できる機能が加わり、電気扇風機の基本的な機能はこの時代に確立される。(2)テレビの開発と発達日本のテレビは昭和20年代後半に開発され、当初はブラウン管を輸入して17インチから出発した。また全体の形態は台置き型であった。ところが、昭和30年代前半には、4本脚型で国産のブラウン管を使用した14インチのテレビが主流になる。昭和30年代中葉には、カラーテレビも開発される。しかし、高価であったため、昭和30年代後半になっても普及しなかった。昭和40年あたりからコンソールタイプの家具調テレビが開発され、昭秘40年中葉には和風のネーミングと共に、カラーテレビとして広く普及した。
著者
北原 啓司
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

前年度の先進事例の実態調査を受け、平成16年度には、大きく3つのアンケート調査を実施している。一つは東北地方に存在するすべての都市の都市計画担当者を対象とした、コンパクトシティ戦略および街なか居住施策に対するアンケートである。10万人以下の都市においては、依然として郊外拡大が継続されており、また、農業従事者による農地転用要求により、街なか居住施策の有効性が担保できない状況が明らかになった。また、10万人以上の都市においては、住宅マスタープランや中心市街地活性化基本計画と連動する形で、コンパクトな都市計画マスタープランが策定されてはいるものの、具体的な街なか居住施策がとられている自治体は非常に少なく、掲げる目標と実際の施策との整合性があまりとれていない現状がある。一方で、昭和40〜50年代に郊外に住宅地を求めた世帯の今後の住み替え需要と、街なか居住施策との関連性を探る目的で、現在、都市計画マスタープランにおいて、コンパクトなまちづくりを目指す八戸市郊外の住宅団地を対象とした住民アンケート調査を実施している。アンケートの冒頭では、特に将来的な危惧を抱いておらず住み替えをほとんど意識していない回答が大半であるものの、質問項目が進んで行くにつれて、将来に対する不安が増大していくこととなり、街なかの集合住宅居住を希望するものの、現在所有する住宅をどのような形で処分していくかが未知数であるために、現実的に住み替えを志向できない状況が明らかになった。また、郊外の市営住宅居住者に対して実施したアンケート調査に於いては、街なかの公営住宅の必要性と家賃との関連性についての意識を問うている。しかし、特に郊外の市営住宅階層は、長期的な居住を続ける高齢者層が多く、そのような郊外居住者の住み替え需要よりも、結婚や転勤等により新たに登場する若年層の需要に対応した公共住宅供給の必要性が明らかになった。
著者
王 晋民
出版者
千葉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、内部告発に対する態度と行動傾向の影響要因を明らかにすることを目的とした。「公益通報者保護法」の効果に関して同法施行の前と後にそれぞれ1回社会調査を行い(有効回答数それぞれ1089人、845人)、不正行為への態度や反対行動・通報行動の影響要因については前述の社会調査や場面想定法を用いた実験のデータに基づいて検討した。分析の結果、次のようなことが明らかになった。(1)「公益通報者保護法」施行後、内部告発者を保護する必要性がより強く認識された。しかし、内部告発や内部告発者に対する態度の他の側面においては同法の施行前後の顕著な違いが認められなかった。(2)内部告発、内部告発者に対する有職者の態度は基本的に肯定的なものであるが、組織コミットメント、職業満足感、集団主義傾向の強い人が、否定的な態度を持たなくても、肯定的な反応が比較的に弱い。(3)不正行為の被害者になっていない場合、内部告発がより容易になされる可能性が示された。また、正当世界信念が強ければ、自ら反対行動や通報行動をとる可能性が低くなる。(4)内部告発した場合、上司や家族の支持が得られるという認識が強ければ、また、不正行為の制止が職務と関連性が強ければ、通報行動をする可能性が高くなる。(5)「内部告発者」、「内部通報者」と「公益通報者」に対する有職者と大学生のイメージは概ね肯定的であるが、人間性の評価では否定的な側面もある。また、「公益通報者」に対して正義性や積極性、重厚さ、気長さでの評価が他の呼称より高い。これらの結果と従来の知見を整理することにより、内部告発に対する態度と通報行動に対する法律の施行という社会環境要因の効果が実証的に示され、また内部告発の心理的メカニズムも一層鮮明になった。
著者
櫻井 美代子 田代 和子
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的:認知症の親を施設に預ける決心をするまでの家族の心理的変化を明らかにする。対象:親の施設入所を決断した都市部と農村部に在住する子介護者10名(女性8名、男性2名)。半構造的面接調査を行い、分析には修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。結果:家族は自宅介護の限界を感じた時、社会規範による使命感と罪悪感に苦しみ葛藤する一方で、親との親密な時間を共有することにより親子関係が喚起されていた。この喚起体験が介護者の罪悪感を薄め、親の全てを受け入れ感謝する気持ちに変化していた。入所後も罪悪感を引きずらないためにも介護過程の中でこの気づきを体験できる家族支援の重要性が示唆された。
著者
三寺 史夫 大島 慶一郎 中村 知裕 小野 数也 小埜 恒夫
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

オホーツク海から北太平洋にかけての中層温暖化の実態を明らかにするとともに、熱塩(中層)循環の力学過程とその変動メカニズムの解明、および、その基礎となる高密度陸棚水(DSW)生成過程の解明を目的とした。北西陸棚域で生成されるDSWはここ50年間で約0.1PSU減少し軽くなっており、これが26.8-27.0σ_θでは温暖化シグナルとして現れている。数値実験の結果、DSWの塩分は、気温の上昇(海氷生成量の減少)、降水量の増加、風応力の変動の影響を受けて変動することが示された。一方、低緯度の亜熱帯循環中層では逆に低温化が顕著である。これは、70年代半ば以降、亜寒帯循環が強化され、親潮を通した亜寒帯から亜熱帯への低温水流入量が増加したためである。
著者
衣川 隆生
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、中上級レベルの日本語学習者の口頭発表におけるモニタリング能力を育成することを目標としてデザインされた教室活動の効果、妥当性を検証した。その結果、相互評価活動を繰り返し行うことで、モニタリングの基準の意識化が促進されることが示された。さらに目標設定、口頭発表、モニタリング、相互評価というメタ認知過程を繰り返すことにより、モニタリングの基準の精緻化、構造化が促進され、モニタリング能力も向上することが示された。
著者
新谷 尚紀 関沢 まゆみ 三橋 健 比嘉 政夫
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、ブルターニュとプロヴァンスという遠く離れた二つの地方の、聖人信仰と民俗行事の伝承、とくに復活祭前の二月に行われるカニヴァルと五月の春迎えを示す「五月の木」と呼ばれる祭礼行事、また夏の祭りとしてのサンテロワの馬祭りに注目した。かつて、A.V.ジェネップが調査した19世紀末から20世紀初頭のころには、「五月の木」はフランス各地にその伝承がみられたが、現在ではわずかにブルターニュのロクロナンとプロヴァンスのキュキュロンという二つの町のみに伝承されていることが判明した。そのキュキュロンの伝承で注目されたのは、まず「五月の木」という民間習俗が存在していたところに、後に聖人信仰が付着したという歴史であった。一方、カニヴァルについては、ニースの都市祭礼が有名だが、キュキュロンの2月の灰の水曜日に行われるサバやショバル・プランという村の2月の灰の水曜日に行われるベルとエルミットの祭りなどでは、より素朴な形態のカニヴァルの伝承の存在が明らかになった。そして、前回の科研調査で判明している敬虔な聖人信仰のブルターニュと比較して、プロヴァンスのカニヴァルにおいては聖人への信仰的要素が希薄で、娯楽的要素が強いという点が特徴的であった。また、夏の祭りとしての、サンテロワの馬祭りについて、ブルターニュのパルドン祭りと、プロヴァンスの馬祭りのパルドンなど聖人に因む民俗行事が一定地域ごとに特徴的な分布を見せている現状が明らかとなった。また、ブルターニュで最も主要な聖女とされているサンターヌへの信仰も、その本拠地であるサンターヌ・ドレーにおける熱心な信仰行事に対して、プロヴァンスの本拠地アプトという町のそれはやや世俗化の中にある。たがいに古い民俗行事を残し伝えているブルターニュとプロヴァンスの両者の関係について、さらに追跡すべき研究視点をえることができた。
著者
中山 満子 野村 晴夫 池田 曜子 東村 知子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ママ友関係について調査検討を行った。ママ友への役割期待では、自律性、類似性、支援性の因子が得られた。特に支援性への期待が高く、女子大生の友人関係と似ていることも示唆された。同時に自律性への期待が女子大生より有意に高いことも特徴であった。悩みの類型では、子ども関連群、ママ友パーソナリティ関連群、多様群が得られ、この類型により関係のとらえ方傾向、対処方略に差異が認められた。
著者
河西 瑛里子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、1)スピリチュアリティという宗教的実践の身体経験によって生じた人生に対する価値観の変容に着目し、スピリチュアリティのもつ癒しの機能について明らかにし、2)癒しの視点から、スピリチュアリティという実践を宗教と医療の両領域から総合的に考察することを目的としている。最終的には、心療内科系疾患の患者に対して、スピリチュアルな身体経験を通じた癒しの可能性を提唱することを目指している。本年度は以下のような活動を行った。1、研究成果の発表2008年度に実施した宗教的実践としてのスピリチュアリティに関する現地調査の結果を2本の論文にまとめ、出版された。さらに、現代英国におけるスピリチュアリティの実践について、日本文化人類学会で報告した。2、英国グラストンベリーでのフィールドワーク・2009年4月~5月:公的な医療制度の中でのスピリチュアリティの実践の調査のため、公的な医療従事者へのインタビューと、チャプレンなど病院における宗教的活動の実践に関して、観察を行った。・2009年6月:英国人のスピリチュアリティについてよりよく理解するため、英国の一般的な日常生活に関する調査を行った。具体的には、銀行・郵便局・定期市のしくみやサービスの種類、庭づくりに関する考え方などを調査した。・2009年7月~8月(科学研究費補助金使用):当地でおこなわれたヒーリング・ワークショップにおいて、参加者に対してスピリチュアリティ体験のインタビューと参与観察を行った。ヒーリング関係の雑誌の調査をおこなった。・2009年8月~:コミュニティと癒しについて探るため、二つの宗教的なグループ及び夏に参加したヒーリング・ワークショップの定期的な集まりに継続的に参加し、そこで交わされる会話について参与観察をおこなっている。また、文化人類学等の基本文献の精読、図書館において当地の歴史的資料の収集も実施している。また、調査を行いながら、データの整理と分析も同時に進めている。
著者
林 上
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は,近代以降における都市の発展過程を明らかにするさいに,交通基盤の建設や整備が果たした役割の重要性に着目し,交通発展と都市構造の形成の相互関係を明らかにする点にある。2年間にわたる研究の結果,名古屋市とその周辺地域において,鉄道敷設,港湾建設,道路建設など進められた結果,都市や地域の空間構造が段階的に変化していったことが明らかにされた。具体的には,東海道線をはじめとする幹線鉄道,これと連絡する私設鉄道が貨客輸送の面で重要な役割を担った。鉄道ルートの決定はその後の都市発展を左右するに十分であり,とくに名古屋駅の開設位置が市街地構造の形成に及ぼした影響は顕著である。鉄道交通とならんで特記されるのが港湾の建設・整備である。とりわけこの地域にとって重要なのは名古屋港の開港である。後背地域の経済発展に後押しされるかたちで開港したが,その後は港湾が産業発展の必須条件となり,両者は一体的に発展していった。さらに陸上部での道路建設は,名古屋市とその周辺地域を結ぶ役割を近世とは比べようもないレベルで果たすようになった。基本的には近世までの交通ルートを踏襲したといえるが,個々の道路が都市間の連絡や地域発展しに対して果たした役割は多様である。いずれにしても,近代都市・地域の空間的発展を考えるさいに交通が果たした役割の重要性は十分に検証されたといえる。
著者
杉山 敏子 丸山 良子 柏倉 栄子 小笠原 サキ子 田多 英興
出版者
東北福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,看護の諸場面におけるケアの効果を,種々の指標によって多面的に評価するための指標の開発をすることと,同時にさまざまなケアを行うことによって人の身体あるいは心にどのような変化が起こるのかの基礎研究である。看護場面での生理指標として,内因性瞬目の可能性を検討した。また,睡眠と活動量についての相関について検証を行った。内因性瞬目については,乳児から高齢者まで看護の指標となるよう基準値が得られるよう測定を行った。その結果,乳児は平均0~2回/分,成人~高齢者は20回/分前後であった。また,女性の瞬目率は40歳以降になると男性よりも有意に多かった。また,内因性瞬目は近年発達障害の指標としても使用されており,看護の中でも状態の観察の一項目として有用な指標と考えられた。睡眠については,夜間の病棟内の騒音と睡眠の程度について調査を行った。夜間の音の大きさは外科病棟,内科病棟ともに40~47dBで,患者が目覚める原因となる音は大きさよりも,ナースコールや救急車の音であり,非日常的で病院特有な音が原因となっていた。また,患者の日中の活動量と睡眠状態の関連性については,療養高齢者の睡眠は,睡眠時間が長く,睡眠型は良好で,睡眠習慣が規則的である。療養高齢者の睡眠習慣と活動状況には,負の相関がある。療養高齢者の睡眠の質に対する主観的な評価と客観的な評価は異なっていて,客観的には悪いのだが,主観的には良好としている。
著者
井田 哲雄 MARIN Mircea
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

●折紙の理論を構築し,国際雑誌Journal of Symbolic Computationで発表した.この理論では,面の集合と面同士の隣接関係と重なり関係からなる構造により,抽象折紙を定義し,抽象折紙の折り操作を抽象書換え系の書換え操作でモデル化する.さらに,コンピュータの実装に向けて,抽象折紙をラベル付きハイパーグラフで表現し,抽象書換え系をグラフ書き換え系で実現する.さらに,この理論を実装し,本研究の前年度までに構築されているEos(E-Origami System)に組み込んだ.グラフ書き換えのアルゴリズムについても,新たに開発するとともに,アルゴリズムの正当性の基礎になるいくつかの定理を証明した.グラフ書き換えによる折紙の構築過程を可視化することに成功するとともに,折紙をグラフとして見たときの構造の特徴をも明らかにした.●折紙定理のコンピュータによる自動証明の高速化のために,Eosの定理証明モジュールに様々な方法を組み込んだ.たとえば,証明で用いるグレブナ基底の計算に折紙構築履歴に依存した単項式順序を組み込むこと,折紙幾何に特化した証明ドキュメントの自動生成がある.これらの改良により,折紙定理証明の効率は著しく向上した.たとえば,Morleyの定理の自動証明には当初17時間もかかったが,10分程度で完了するようになった.●上記EOSシステムのウェブ・インタフェイスの構築研究を継続して行い,ウェブ・インタフェイスの改良をおこなった.●藤田による折紙の公理をウー・リットの方法で代数的に解釈し直し,折紙の構築の基本操作を与える藤田の公理の代数的な性質を解析した.ウー・リットの手法で用いる特性集合を調べることにより,藤田の公理が記述する幾何の縮退条件を代数的に求めることができた.
著者
保福 一郎 大島 邦夫
出版者
東京都立産業技術高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の最終目的は、研究代表者が今までに開発し提案してきたランキング法の総括を行うことであるが、そのためには3年間の研究期間内に以下の3つの未解決な問題を解決しなければならない.(1)多岐選択問題におけるランキングの決定法について(2)多群間における混合ランキングの決定法について(3)今までに開発したランキングの特性研究について課題(1)〜(3)については平成16年度,平成17年度にある程度完成させることができ,今年度の主な研究目的は,代表者らが今までに開発し,提案してきたランキング法の総括を行い,様々な学会での発表を行うことである.総括を行うためには,代表者らの提案してきた多種多様なランキングを下の(1)〜(3)の項目に基づいて大域的にまとめる必要がある.(1)構成集合の数を確定する.(2)あらゆる現象から導かれる通常ランキングを類別し,多数の同値類を作成する.(3)同値類1つに対し,競技・試技の特性及びデータの種類を類別する.この手法により今までに代表者らが提案してきた様々な独自の特性を持つランキングを系統的にまとめることが可能となり,ランキング生成に至るアルゴリズムの効率化に成功した.外部機関への報告として学会発表では,国際会議「INFORMATION」で発表し(1件),国内では,4つの学会において発表することができた.論文においては,掲載された論文が1本,投稿論文が2本となり,多くの研究者に対し,研究代表者らの研究成果を周知することができたと確信する.
著者
松山 秀人 島津 彰
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)/ジエチルフタレート系について、膜中に有機化クレイを添加し、有機-無機コンポジット膜の作製を試みた。得られた構造は二層連続構造であり、液-液相分離による構造の可能性が示唆されたが、DSCによる詳細な検討の結果、相分離機構はあくまで固-液型であり、溶液中のクレイが結晶核となって構造が形成されることがわかった。得られた中空糸膜が、従来の2倍程度の引っ張り強度と伸度を有することが明らかとなった。TiO_2を含む膜では主に光触媒反応による膜表面付着物の分解について検討されてきたが、ここではTiO_2の超親水化に着目し、ポリサルホン(PS f)/TiO_2コンポジット膜の作製と膜特性評価を行った。用いたTiO_2は粒子径180nmのナノ粒子である。TiO_2をPS fに対して2倍量添加した場合にも良好な中空糸膜が得られた。XPS測定により表面には有効にTiO_2が存在することが確認された。また、TiO_2の添加により、膜の弾性率は向上したものの、透水量はほとんど影響を受けなかった。得られた中空糸膜にUV照射後、その膜表面接触角を測定したところ、TiO_2添加による膜の親水性化は16日以上に渡って維持されることが明らかとなった。さらにUV照射TiO_2含有膜をブラックライト照射下で保存したところ、7日後には接触角は約10°と顕著な親水性を示した。中空糸膜をタンパク質(BSA)溶液に浸漬することにより、膜の劣化特性の評価を行った。UVを照射しない場合においてもPSf/TiO_2コンポジット膜は、PS f膜と比べ低劣化性を示した。UV照射後ではコンポジット膜の劣化特性はさらに抑制されることを見出した。従って、低ファウリング特性を有する膜の開発に成功したと言える。
著者
佐々井 祐二
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、大島インターネット天文台を用いて、大島商船高専学生に対する物理科目の実験授業実施、近郊小学校児童に対する公開講座実施による科学教育を行っていた。引き続き、インターネット天文台計画を津山から発言できるよう最善を尽くしたい。本研究のもう1つの柱である計算機シミュレーションの科学教育への応用については、数回実験授業を行った。具体的には以下の通りである。1「インターネット天文台」計画第2ステージ津山において「超小型インターネット天文台」の構築作業を行っている。ドーム開閉を伴わないシンプルな構造とするため、球面収差を考慮した1辺80cmの透明アクリル四角錐を載せたアルミケースの中に、口径12.5cmマクストフカセグレン式望遠鏡、小型ファンレスpc(Linux)などを装備している。本科研費による計画内容を噛矢として、今後は、断熱対策や公開へ向けた作業と教育的応用を目指したい。2計算機シミュレーションによる物理現象視覚化コンテンツの作成Flashによる視覚化コンテンツe-Physicsについて、大島商船高専と呉高専で行った実験授業をまとめた。最新の計算機シミュレーションを用いたプログラム開発はこれからであるが、そのための科学的知見を得るため、宇宙初期や中性子星内部で実現される高密度状態に関連する計算機シミュレ「ションをスーパーコンピュータ上で行い、幾つかの研究成果を得ることができた。学生と共に可視化コンテンツ作成を続ける予定である。
著者
横尾 武夫 福江 純
出版者
大阪教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究の目的は,理科教育特に天文学分野に関する教育用ソフトの改善と開発であり,その具体的な研究内容は(1)天文学を教材とする新しい教育用ソフトの開発(2)天文学教育用データベースの構築(3)教育現場で使用されている天文学関係の教育用ソフトの調査と分析である。この3年間の研究において,(1)については,地球や宇宙における現象をコンピュータ・シミュレーションで再現して,児童や生徒の学習と理解を助けることを目指している。この研究で開発したソフトの中に,コレオリカのシミュレーションがある。これは,シミュレーションを教具として位置付け,理解を難しい力学との問題について新しい観点にもとづいて開発したソフトであり,特に高等学級での活用を期待している。(2)については,特に,画像データベースの構築と,学術用データベースの教育的利用に重点をおいた。前者については,天体画像のデータベースの構築と検索システムの開発を行った。また本学における天体観測設備を用いた天体画像のア-カイブの構築を始めた。後者については,天文学のコミュニティーで流通している膨大なデータベースが,現在ではCD-ROMで利用できるので,これを教育の場で活用する先進的な実践的研究を行った。(3)についは,現段階では充分な成果を得ていない。なぜならば,この数年間で,マルティメディア等,コンピュータをとりまく環境が大きく変動し,教育用ソフトの改訂が急がれている状況が生まれた為であり今後,特にインターネットの発達と普及を教育の場でどのように位置づけるかが,大きな課題となっている。
著者
吉田 晋一
出版者
(独)農研機構
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、農産物直売所における需給ミスマッチを改善するため、定量的に需給の動向を把握し、需要予測を行うことを試みた。結果として、1.対象とした直売所では出荷点数の45%が残品となる一方で、平均25%の品目が欠品していた。2.欠品時の需要量は時間帯別販売点数に着目することで推測できる。3.需要量の日次変動は、(1)曜日などその日の特徴、(2)天候、(3)品目数、(4)経済指標などによって、ある程度説明可能であるといえる。
著者
古田 一雄 吉村 忍 中田 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

原子力安全規制を例に、わが国及び欧米の安全規制システムの現状と動向について調査した。米国では安全規制に関する連邦法や規制指針は性能規定化されており、具体的な仕様規定は民間技術基準を連邦法や規制指針で引用して用いている。欧州(フランス)においても規制に関する法令はほとんど性能規定化されており、具体的な技術基準を定めるのは事業者の責任であるとされている。これに対し、わが国では法律の下位に省令や告示があってこれらが細かな技術基準を定めており、性能規定化はまだ進んでいない。技術進歩に安全規制が機動的に適応して行くためには、法令の性能規定化と民間技術基準を引用するための制度の整備が必要である。また、事業者の保安活動が技術基準を満たしているかどうかを検査する体制についても、米国では第三者機関が検査機関や検査員の認定・認証を行っており、規制機関の検査官に対する教育訓練、資格認定のプロセスはよく公開されている。欧州においても、EU指令に基く検査機関、検査員の認定・認証制度が整備されている。これに対して、わが国では認定・認証制度が十分に確立されておらず、規制行政当局やその担当者の技術的能力に対する認定・認証も曖昧である。つぎに、安全規制システムの評価を行うための社会シミュレーションを提案した。シミュレーションモデルは企業を単位とするマルチエージェントシステムであり、多数の企業が与えられた条件下で進化しながら生産活動を行う。各企業は事業リソースを生産活動と安全管理に分配し、その結果によって設備の稼働率と信頼性(事故確率)が決る。さまざまな安全規制スタイルを環境条件としてシミュレーションを実施したところ、事後制裁は生産効率向上を促進することがあること、仕様規定型規制は意図と逆の結果を生む可能性があること、途中で規制を撤廃すると信頼性は劣化すること、間隔の長い定期検査よりも抜き打ち検査の方が効果的であることなどがわかった。