- 著者
-
隅田 陽介
- 出版者
- 日本比較法研究所
- 雑誌
- 比較法雑誌 (ISSN:00104116)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.4, pp.103-144, 2017-03-30
近時,匿名性(anonymity)や利便性(availability)等を特徴とするインターネットが地球規模で発達・普及している。そして,児童ポルノ犯罪者は,インターネット上の様々な手段を駆使して,自らの行為が捜査機関に発覚しないようにしている。こうしたこともあり,児童ポルノに関連する犯罪の様相は一変し,捜査は困難を来している。この点,アメリカ合衆国では,児童ポルノ所持が児童に対する性的いたずら(child molestation)に関する捜査との関係で議論されていることが注目される。すなわち,児童ポルノに関する捜査を進め,これを捜索・押収するとした場合,児童ポルノに向けられた捜索令状が必要となるが,その際には,アメリカ合衆国憲法第4修正に基づいて「相当な理由(probable cause)」が求められる。そこで,児童に対する性的いたずらに関する証拠のみでこの場合の「相当な理由」を構成するのかどうかというのである。本稿は,この問題を取り上げ,若干の検討をしたものである。 本号では,まず,一において,第4修正の内容・骨子を概観し,併せて,これに関連する判例を取り上げた。そして,現在の合衆国の捜査実務はIllinois v. Gatesに基づいた「諸事情の総合判断(totality of the circumstances)」テストによっていることに触れた。 その上で,二において,児童に対する性的いたずらに関する証拠のみで児童ポルノ所持に関する捜索令状の「相当な理由」を構成するのかどうかについて争われたいくつかの事例を紹介し,各巡回区連邦控訴裁判所の考え方が分かれていることを明らかにした。すなわち,前者に関する証拠のみで後者の「相当な理由」を構成することを認めた事例として,第8巡回区裁判所によるUnited States v. Colbert等,また,これを認めなかった事例として,第6巡回区裁判所によるUnited States v. Hodson等,そして,ケース・バイ・ケースで判断するとした事例として,第9巡回区裁判所によるDougherty v. City of Covinaである。