著者
井良沢 道也 馬場 潤 高橋 祐紀
出版者
[岩手大学農学部]
雑誌
岩手大学農学部演習林報告 (ISSN:02864339)
巻号頁・発行日
no.42, pp.79-95, 2011-06

岩手・宮城内陸地震被災流域において,気象・融雪観測を行った。気象・融雪観測を行った5箇所(一関No.1~4,荒砥沢No.5) の気象・融雪観測の総括表を表-3に示す。 岩手・宮城内陸地震被災流域における気象・融雪観測によって,以下の課題が得られた。融雪水量の観測より磐井川No4地点は標高が260mと低く,12月から3月にかけて気温がプラスとなる日も多く,融雪だけでなく,降雨が積雪中を浸透する現象も考慮する必要がある。磐井川支川の産女川で2009年4月21日から22日に小規模な泥流が発生した。設置していた監視カメラにその画像を捉えることができた。近傍の一関No.2では2009年4月21日に簡易熱収支法から求めた積雪層底面からの排出水量110.2mm/day,22日は74.1mm/dayであり,融雪期間中最大の値であった。降雨と融雲水により不安定な河道堆積物層が流動化したものと推定される。なお,本流域では厳冬期にも降雨を記録する日があり,ライシメータ実測値には表面発生融雪量の他に降雨量を考慮{する必要がある。地温計の分析により気温の高くなる融雪末期では0℃に近くなり,0℃の融雪水が地表に活発に供給されている様子が伺えた。積雪が無くなると地温は急上昇しはじめる。気温と地温の変動から根雪及び消雪の期間の推定,及び融雪の活発な時期をある程度推定することが可能となる。山地災害の発生した流域全体に,地震発生以降は融雪や降雨によって全般に大きなニ次災害は発生していない。しかし,岩手県一関総合支局の調査では厳美町市野々原地区において新規崩壊や拡大崩壊箇所が51箇所確認されている。地震以後については,一関No.1~3地点では約2年分,一関No.4地点,荒砥沢No.5地点では約1年分のデータしかない。さらに様々な条件下での気象・融雪特性を把握していくためには,今後も継続的に観測及び解析を行う必要がある。さらに,多角的な視点から地震発生以降の土砂生産,土砂移動の挙動の対応など分析していく。これまで,融雪現象に関する研究例は小島(5)に代表されるように,北海道で盛んに行われてきた。本地域では厳冬期でも降雨を記録することが多いため,北海道とは気温などの気候条件と共に融雪現象にも違いが見られるとされる。そのため,今後,東北地方を中心とする積雪地帯において融雪と土砂災害との関連性を検討した研究事例(6-8)が増えることを期待する。
著者
村上 博哉 神谷 修平 柘植 政宏 葛谷 真美 森田 健太郎 酒井 忠雄 手嶋 紀雄
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.387-392, 2016

鉄鋼に含まれるリンは,冷間脆性を起こす原因物質となることから低含有量であることが望まれている.その一方で,切削性や耐候性の向上を目的として添加されることもある.そのため,リンの含有量は厳密な管理が必要不可欠である.しかし熟練者の一斉退職に伴い,化学分析の技術継承が危ぶまれており,視覚情報を取り入れた効率的な継承支援策の確立が喫緊の課題となっている.標準的な定量法として「JIS G 1214鉄及び鋼─りん定量方法」があるが,初心者がこの定量操作を行うと,過塩素酸白煙(蒸気)によるリンの酸化処理の開始の見きわめが早まる傾向が見られた.これはリンのオルトリン酸イオンへの酸化が不十分という好ましくない状況を招く.そこで本研究では技能伝承の一助として,適切な状態から過塩素酸白煙処理が行われるように,この操作を可視化した.また,鉄鋼試料分解後のモリブドリン酸青吸光光度法をスキルフリーなフローインジェクション分析(FIA)法によって自動化した.本法により2種類の認証標準物質中のリン濃度を定量した結果,両物質の定量値共に保証値と良く一致した.
著者
杉田 俊介
出版者
基督教研究会
雑誌
基督教研究 (ISSN:03873080)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.38-54, 2007-06

ヒックの宗教多元主義は、西洋キリスト教に対する問題提起となった。しかし、宗教多元主義は非西洋的な社会においても、批判的な役割をもちうるのか。本稿では、滝沢克己を宗教多元主義者として位置づけ、この疑問について考える。滝沢は、キリスト教だけでなく日本の諸宗教によっても救済が得られると論じ、キリスト教の排他性を批判した。しかし滝沢は、この多元主義的な思想にもとづいて、日本の国体にも真理が現れていると論じ、自己の相対性を認めないキリスト教を、国体に抵触するものとして批判している。日本においては、多元主義的な言説そのものが、異物を排除/同化する一種の「排他主義」としての意味をもちうる。論文(Article)
著者
松浦 悠人 藤本 英樹 古賀 義久 安野 富美子 坂井 友実
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.119-129, 2016-05-31 (Released:2016-07-04)
参考文献数
39

目的:肩こりは国民の多くが経験する症状であるが,肩こりに関する研究は非常に遅れているのが現状である.そこで本研究では,肩こりの特性を明らかにするため,肩こりを有する者と有しない者の比較検討を行った.方法:対象は自覚的な肩こりの有無により,肩こりを有する成人男性13名(NP群,平均年齢20.2±0.7歳)と肩こりを有しない成人男性10名(CON群,平均年齢21.2±1.5歳)とした.肩こりの評価にはVisual Analogue Scale(VAS),圧痛・硬結所見を用い,ストレスの評価には自覚的ストレスのVAS,State-Trait Anxiety Inventory(STAI),MOS 36-Item Short-Form Health Survey(SF-36),唾液コルチゾールを用いた.唾液コルチゾール濃度は,酵素免疫測定法(ELISA法)により求めた.また,唾液の採取時間は,午前9時から10時以内の採取とした.結果:NP群の肩こり感全体のVASは56.9±17.3mmであった.圧痛・硬結所見では,硬結所見に有意差は認められなかったが,左右僧帽筋上部線維,右頭板状筋の圧痛がNP群で有意に高かった(P<0.05).自覚的ストレスのVASではNP群59.1±23.7mm,CON群10.8±17.6mmで有意差が認められた(P<0.05).STAIでは,特性不安ではNP群52.7±9.1点,CON群44.6±9.9点で有意差は認められなかったが,状態不安においてNP群42.2±6.6点,CON群35.9±9.1点で有意差が認められた(P<0.05).SF-36では,下位尺度8項目のうち,身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的健康感,活力,心の健康に有意差が認められた(P<0.05).唾液コルチゾール濃度はNP群16.3±8.2nmol/L,CON群14.8±4.5nmol/Lで有意差は認められなかった.考察・結語:肩こりの心理・身体的な特性について検討した結果,唾液コルチゾール濃度では有意差は認められなかったが,肩こりを有する者は,自覚ストレス度や不安度が高く,精神的・身体的な健康度が低いことが示された.このことから,肩こりに身体的要因のみならず,心理社会的要因が関与している可能性が示唆された.
著者
室田 武
出版者
同志社大学
雑誌
經濟學論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.283-319, 2008-12

論説(Article)2007年現在、瀬戸内海北岸の山口県上関町において、複数の裁判が進行中である。問題は、入会地、神社有地、そして漁業者の生活に影響を及ぼす、中国電力株式会社による原子力発電所の建設計画が発端であった。本稿では、まず、原発は地球温暖化防止に寄与するという中国電力の宣伝が妥当かどうかを、温排水問題を中心に批判的に検討する。さらに、中国電力と地元関係者が争う裁判、ならびに神社本庁をめぐる裁判の過程を整理する。最後に、瀬戸内地方に環境破壊をもたらしかねない原発計画に関する司法判断の問題点を、上級審に着目しながら明らかにする。Fearing an impending environmental and social crisis, some commoners and fishermen in Kaminoseki Town have filed cases at various levels against the Chugoku Electric Power Company, which has announced the plan to build a nuclear power plant on the coast of the Seto Inland Sea. The purpose of this paper is threefold. First, by focusing on the issue of massive warm-water current, the paper inspects the advertisement of the company claiming that electric power generation by nuclear reactors contributes to the prevention of global warming. Second, the paper organizes the cases according to the plaintiffs against the corporation at each level of court, also taking up the problematic standpoints of the National Agency of the Shinto Shrines and a local shrine. Third, the paper attempts to critically examine the attitude of the judiciary toward the problem of nuclear power and shows that the judgments of the higher court have tended to be more in favor of nuclear power than those of the lower courts, at least until today.
著者
木村 幸恵
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.269, 2008

幼児が主体的に吸入に臨むための工夫人形を用いたプレパレーションを導入して木村幸恵・上岡めぐみ・吉宮倫子・川平民子〈緒言〉当病棟では喘息、肺炎などで吸入療法を必要とする患児が入院することが多い。しかし吸入を嫌がり、怖がって逃げようとする患児が多くみられる。保護者には吸入の方法・効果を説明していたが、患児には具体的に説明していなかったので吸入を怖がっていたのではないかと考えた。プレパレ-ションにより患児がこれから行う処置をその子なりに理解し、主体的に臨む行動がみられたとの報告があった。幼児には言語的説明で行うことより、年齢や発達段階に応じて視覚的、或いは体験を通したプレパレ-ションが有効であるといわれている。そこで当病棟でも幼児を対象とし、人形を用いた吸入のプレパレ-ションを行い、その子なりに吸入という治療を理解し、主体的に吸入に取り組めるよう援助しようと考えた。プレパレ-ションを行い、患児の吸入への取り組みを観察し、プレパレーションの効果を検証したので報告する。〈方法〉入院中の吸入療法を必要とする3~6歳の患児を対象に実施。プレパレーション実施方法1)場所:病室 2)ツール:ばい菌シール付きキワニスドール(キワニスドールはプレパレーション前に患児に自由に絵を描いてもらう)3)実施時期:入院して2回目の吸入時 4)実施時間:6分 5)プレパレーション実施にあたり、説明手順を作成し、実施中の言葉、時間を統一するようメンバーで練習を10回行った。プレパレーション実施前(付き添う親に吸入方法を説明し患児には説明していない)と実施中と実施後の患児の吸入への取り組みを独自の指標のチェックリストを用いて観察し、その行動を分析する。〈結果〉1.対象の属性A:3歳10ヶ月 男児吸入暦ありB:3歳 男児吸入暦ありC:3歳11ヶ月 女児吸入暦なしD:4歳4ヶ月 男児吸入暦なし2.疾患:肺炎2名、気管支喘息2名Cは1回目の吸入時、嫌がり泣いていたが、プレパレーション後実施できた。また、プレパレーション後、吸入の必要性を全員に質問したところその子なりの理解した言葉が聞かれ、必要性を理解できていた。B、Cは人形にも吸入を行い人形に「コンコンなくなるけえね。」「早く帰ろうね。」などと話しかけていた。プレパレーション後、全員嫌がることなく吸入を実施することができ、自分から吸入の電源を入れたり、吸入器を持ったり、「吸入する。」との言葉が聞かれ主体的に実施できた。人形を用いたごっこ遊びのプレパレーションを行い、患児は吸入を遊び感覚で日常的なものととらえることができた。遊び感覚で吸入を行い、主体的に取り組むことができた。またB、Cはプレパレーション後も、人形を使用しばい菌を剥がし「バイバイキーン!」と言って遊んだり、人形に吸入をしたりして何回も遊んでいた。Dもばい菌シールをつけたり剥いだりして遊んでいた。吸入後も、人形を用いて繰り返しごっこ遊びをすることで理解を深めていくことができた。

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著者
三木,五三郎
出版者
土質工学会
雑誌
土と基礎
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, 1974-09-25
著者
細井 淳 天野 一男
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.630-646, 2013-09-15 (Released:2014-02-07)
参考文献数
88
被引用文献数
4 5

グリーンタフの研究は1990年頃,層序に基づいて総括された.しかし近年,グリーンタフの模式地である男鹿半島の層序が大幅修正された.また,堆積学的研究があまり行われていないため,グリーンタフを形成した当時の具体的な火山活動や堆積環境は不明である.本研究は奥羽脊梁山脈に位置する岩手県西和賀町周辺のグリーンタフを対象とし,堆積相解析を行った.結果,具体的な堆積場とその変遷,古火山活動(非爆発的噴火を2タイプ,爆発的噴火を3タイプ)を解明した.これらの結果を総合して,本研究地域の堆積盆発達史を5つのステージに区分して議論した.本地域は約20 Ma頃にハーフグラーベンを形成し,堆積盆内では成層火山型の海底火山を形成した.その後泥岩が堆積する静穏な時期を挟み,約15~14 Ma頃にテクトニックな急激な沈降と連続的な爆発的噴火が起こり,最終的に溶岩ドームを形成した.
著者
吉村 尚久 藤田 至則 山岸 いくま
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集
巻号頁・発行日
no.9, pp.195-201, 1973
被引用文献数
2

Alteration of the Green tuff formation took place in regional scale and is characterized by green colored pyroclastic rocks. Relation between tectonic movement and alteration in the developing process of basin is summarized as the following table. [Table]
著者
鹿野 和彦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.10, pp.781-803, 2018
被引用文献数
28

<p>グリーンタフは主に本州の日本海沿岸に沿って分布する火山岩主体の地層群で,最近明らかになってきた特徴的な岩相の時空分布に基づけば,下位から順に上部始新統~下部漸新統(44~28Ma),上部漸新統(28~23Ma),下部中新統下部(23~20Ma),下部中新統中部(20~18Ma),下部中新統上部(18~15.3Ma),中部中新統下部(15.3~12.3Ma)に区分できる.これらの層序単元は,1)陸弧内リフティング,2)リフティングと火山活動を伴う地殻のドーム状隆起,3)背弧盆の拡大とリフティングの周辺地域への伝播,4)背弧盆拡大とリフティングの急速な進展,背弧側への暖流の本格的流入,5)日本海東縁での急激なリフティングと日本海盆などにおける熱的沈降の始まり,6)フィリピン海プレートの衝突と沈みこみ,火山前線の太平洋岸への移動,短縮変形の始まりを反映している.</p>
著者
中尾 幸道
出版者
一般社団法人 環境資源工学会
雑誌
資源処理技術 (ISSN:09124764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.155-158, 1997-10-08 (Released:2009-06-05)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1
著者
小野寺 博志 佐神 文郎
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.33, pp.44, 2006

「有用で安全な医薬品をより早く必要とする患者さんに届ける」ことは創薬に携わるヒトの目的でもあり使命と考える。新薬を開発する過程で初めてヒトに投与する場合に重要なのは安全性の確保である。そのために必要な非臨床試験の種類や実施時期については種々のガイドラインや通知がなされている。しかしながらそれらガイドラインは時代と共に改訂や追加を行っているが現在の全ての医薬品について有用な情報を得るには限度がある。特に新しい科学や技術で開発された、あるは今後開発されるであろう医薬品については問題が多い。本ワークショップでは始めに現行のガイドラインや通知の目的や内容が、安全性を確認する試験としての要点を述べる。続いて安全性を評価している立場からガイドラインに沿って行われた非臨床毒性試験で実際に問題となる事例や必要な情報とは何かについて考えてみたい。もちろん共通の考え方も含まれるが、全ての医薬品に適応するとは限らず現時点ではCase by case で対応することになる。<BR> 実際に新しい科学・技術を駆使した医薬品の開発を行っている立場から現在の状況と今後の動向について中澤先生から紹介いただき問題点や方向性を考えてみたい。川西先生からは今後主流となると思われるバイオ医薬品について研究サイドからの新しい生体メカニズムの発見や解析が創薬、毒性以外からの安全性評価について紹介いただきます。続いて小野先生からは医薬品の直接の毒性学とは違った方向から医薬品の安全性についての現状や考え方についてお話いただけると思います。<BR> 結論を出すのは困難ですが、今後の新しい医薬品の非臨床安全性評価のあり方について問題提起する場としたい。