著者
綿田 辰吾 西田 究 関口 渉次 関口 渉二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

2003年9月26日に発生した十勝沖地震時に江ノ島津波観測所(宮城県)、地震研究所の筑波地震観測所(茨城県)と、鋸山地殻変動観測所(千葉県)、霧島火山観測所(宮崎県)、海洋開発機構室戸ケーブル陸揚局(高知県)、防災科学技術研究所が管理する広帯域地震計観測点の菅野(山梨県)、中伊豆(静岡県)で地震動に伴う気圧変動を観測した。筑波観測所、中伊豆、菅野では微気圧と地動の同時観測により、地動と大気圧の音響結合データを取得することができた。地動は最大振幅5mm/secの15〜20秒のレイリー波が卓越している。群速度はほぼ3.2km/secであった。微気圧記録は50秒以下の短周期成分では最大振幅約2パスカルの変動が見られ、地動と同様の群速度で伝播している。50秒以下で大気圧変動と地動の周波数領域の応答特性が得られた。大気圧変動は地動面上下速度にほぼ比例し、位相も同一である(上向き速度で圧力増加)。比例定数は、(大気密度)(大気音速)をかけあわせた量である。また密度成層した大気中の長周期音波が地面の運動により発生する問題を解析的に扱い応答特性を理論的に導出した。理論応答特性は音波遮断周波数付近(約300秒)では音波は地動変位に比例し比例定数が約半分となることが示された。50秒以下でほぼ観測どおりの位相と振幅となることが確かめられた。微気圧・地動同時観測と理論予測の比較から、十勝沖地震から伝播した表面波がローカルに音波を発生させたことが明瞭に示すことができた。50秒より長周期側では大気圧ノイズが大きくなり地動と大気圧変動の明確な応答特性を得られなかった。このように放出された音波は大気中を伝播し高層にある電離層まで、エネルギー保存のため、振幅を増大させながら到達する。過去いくつかの研究で報告されている地震にともなう電離層擾乱もこのように地表で発生した圧力変動に起因していると推定される。
著者
国武 貞克
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

旧石器時代の行動領域分析を行うために、主に石刃製の大形刺突具の石材を関東地方全体にわたって検討した。分析の方法は、2段階にわたっている。まず、関東地方北部から東北地方南部にかけての石器石材の産地の現地踏査を詳細に行った。前年度は栃木県北部の高原山周辺地域と会津盆地周縁地域で重要な石材産地を発見したが、今年度は新潟地域の珪質頁岩の調査を詳細に行った。その結果、従来判然としなかった信濃川流域の珪質頁岩の産地が判明した。これにより関東地方から東北地方南部の石器石材環境に関する基礎データが整備された。次に、後期旧石器時代初頭から後半期にかけて、9つの細分時期の資料を関東地方全体にわたって抽出し、その石刃石器に利用されている石材を調査した。関東地方全体の資料を対象としたが、主に東部関東の資料を中心に検討した。その石材を現地踏査による石材と照合して、主たる狩猟具を調達するための移動領域の範囲を検討した。その結果以下のような移動領域が判明した。東部関東に遺跡を残した集団の移動領域は、後期旧石器時代初頭には南北100キロメートル程度の比較的狭い範囲の往還領域が抽出された。具体的には、房総半島南部から宇都宮丘陵周辺を南北方向に往還移動していた。石刃生産が顕著に発達するIX層中部移行の時期になると、特定石材産地を結節するV字形の移動領域が成立している。具体的には利根川上流の三国山地と高原山周辺を両極端の石材産地に配置し、その中間に下総地域や下野地域を挟み込んだ領域が成立している。西武関東も特定石材産地を2〜3箇所結節した回廊領域が成立している。この回廊領域は、後期旧石器時代前半期を通じて維持され最終氷期まで継続している。この回廊領域が崩壊して新たな領域配置が見られるのが、後半期の両面体調整石器群の発生期である。この時期に、社会的な集団間の再編成が起きていると推定された。
著者
瀬戸 直彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題は,2005年9月に開催されるボルドー大学での「第8回国際オック語オック文学研究集会」(AEIO)で行なう発表に向けて,「写本テクスト学」の実践として,テクスト設定に問題をはらむトルバドゥールの1作品の研究を,収集したマイクロフィルムをもとに試みるものであった。具体的には,ラインバウト・ダウレンガの,Non chantで始まる作品について,とくにその27行目にひそむ問題をテクスト校訂の立場から,各写本の読みを検討し,従来提出されることのなかった私なりの読みを行なったのである。いくつかの写本によればla amorと,母音接続(イアチュス)を容認せざるをえなかった部分を,あらたにトルヴェールのコーパスをも含めた他の作品のコンテクストを徹底的に探索することによって,cel amor que…という読みを導き出したのであった。この内容を実際にボルドー大学において発表したところ,これを傍聴していたローマ大学のエンリコ・ジメイ氏より,同氏の母音接続にかんする詳細な研究の一端を知ることができた。それによると,私の例では,定冠詞laと,アクセントのない母音a-morとの母音接続であったが,この場合は,やはりイアチュスを認めるには不自然であり,写本伝承の過程でテクストが変質したものと考えることができる。ジメイ氏の調査はある程度は徹底的なものではあるが,コーパスとしてデ・リケールのアンソロジーを用いているために,各写本の読みの違いは考慮されていない。私のいう「写本テクスト学」の必要性をあらためて痛感している。この立場から,ラインバウトの同作品におけるセニャル(仮の名)の研究を,トルヴェールのクレテイアン・ド・トロワの一作品と比較し,写本間におけるテクストの異動の重要性に着目した(大学院研究紀要における日本語論文)。また,ラインバウト・ダウレンガの作品とは別に,ペイレ・カルデナルの「寓話」一篇のあたらしいテクストと解釈を提示してみた(リケッツ教授献呈記念論文集)。ここでは,従来検討されてこなかった,アルスナル写本の読みをも考慮したテクスト設定を試みた。
著者
日置 幸介 齋藤 昭則
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

地震や火山噴火に伴う電離圏擾乱はドップラー観測などによって以前から知られていたが、我が国の稠密GPS観測網であるGEONETによって電離圏全電子数(TEC)として手軽かつ高時間空間分解能で観測できるようになり、多くの知見が得られた。その一つが2003年9月26日の十勝沖地震に伴う電離圏擾乱で、震源から上方に伝搬してきた音波が、電子の運動と地球磁場の相互作用であるローレンツ力を受けて生じる擾乱伝搬の方位依存性が明らかになった。また正確な伝搬速度が初めて求められ、この擾乱が地表を伝わるレーリー波や大気の内部重力波ではなく、音波によるものであることが明快に示された。これらの知見を基礎に、スマトラ地震による電離圏擾乱から震源過程を推定するという世界初の試みを行った。その結果地震計では捕らえられないゆっくりしたすべりがアンダマン諸島下の断層で生じたことを見出した。その論文は米国の専門誌JGRで出版された。また2004年9月1日の浅間山の噴火に伴う電離圏擾乱が確認された。これは火山噴火に伴う電離圏擾乱の初めてのGPSによる観測である。アメリカの炭坑でエネルギー既知の発破を行った際に生じた電離圏擾乱が過去に報告されているが、それとの比較により2004年浅間山噴火のエネルギーを推定することができた。この研究は米国の速報誌GRLに掲載された。さらに太陽面爆発現象に伴って生じる電離圏全電子数の突発的上昇のGPSによる観測結果をまとめたものを測地学会誌で報告した。今年度は、2006年1月に種子島から打ち上げられたH-IIAロケットの排気ガスの影響による電離圏の局地的消失現象をGEONETで観測した結果およびそのモデルをEPS誌に発表した。電離圏の穴は電波天文学に応用可能であるだけでなく、GPS-TEC法による穴の探査は地球に衝突する彗星の発見にも応用できる将来性のある技術である。また地震学会の広報誌である「なゐふる」に地震時電離圏擾乱の解説文を掲載して、その普及に努めた。
著者
入佐 俊幸 川畑 秋馬
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

火山降灰地域でこれまでに,火山灰汚損によるがいしの漏れ電流の増大が原因と思われる配電線路事故が発生している。本研究では,火山降灰による配電線路事故を軽減させる為に,火山灰汚損がいしの漏れ電流の増加並びにその変動を減少させる為の知見を得ることを試みた。その為にまず火山灰の成分および比電導度,イオン濃度,pHなどの電気的性質を詳細に測定した。次にこの基礎データをもとに,火山灰による種々の汚損条件下において,がいし及び高圧カットアウト、アレスタの汚損状態と漏れ電流の関係について実験的に調べた。その結果,1.漏れ電流はがいし内側のひだ部分にたまった火山灰が湿潤したときのみ増大し,さらにコロナの発生を伴い,その変動は増大する。2.耐張がいしに耐塩用がいしを組合せることにより、火山灰汚損時でもコロナの発生を抑さえられる。これにより、零相電圧の変動を小さくでき、遮断器の動作による停電事故を軽減できる。3.火山降灰により耐張がいしや高圧カットアウト、アレスタの漏れ電流は増大するが、中実ピンがいしの漏れ電流はほとんど増加しない。4.コロナ観測から、耐張がいしの内側ひだ部分の電位傾度が大きいことが予測される。よって、漏れ電流を減少させるために、高圧耐張がいしの形状は耐塩耐張がいしと同様に内側の内筒長を長くしてがいしの沿面距離を長くすることが適している。ことなどが明らかになった。また,漏れ電流を小さくするための最適ながいしの取り付け方向や連結長など事故軽減の為の対策指針が得られた。
著者
神山 伸弘 石川 伊織 板橋 勇仁 栗原 裕次 柴田 隆行 田中 智彦 東長 靖 橋本 敬司 早瀬 明 久間 泰賢 権左 武志
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ヘーゲルの世界史哲学講義(1822/23)については、本邦では、その世界像を結ぶための文化接触資料が必ずしも明確でなく、そのオリエント論に対する評価も低い。この事情を批判しながら、本邦ではじめてその資料源泉を探求しつつ本講義を翻訳し訳註を付するなかで、ヘーゲルのオリエント世界像は、ヨーロッパに映った近代オリエント世界像として反歴史的な空間的併存を示すとともに、ヨーロッパ的普遍史を脱却する歴史的理解も示しており、これらを通じて-ロマン派批判も込められたかたちでの-オリエントとヨーロッパの相互承認関係を展望していることが明らかになった。
著者
渡邉 浩崇 養老 真一 外山 勝彦 小塚 荘一郎 佐藤 靖
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、「冷戦終結が日本宇宙政策にどのような影響を与えたか」を明らかにするために、政治外交史を主としながらも、国際法、科学技術史、法情報学などの学際融合的アプローチによって、冷戦期、冷戦終結前後、冷戦後の日本宇宙政策を再検証するものである。日米両国の一次資料(政府内部文書等)を徹底して収集・分析・整理することで、日本宇宙政策の歴史と資料の一つの総括を行う。その成果を発表・共有し発展させる場として、国際研究会を開催するとともに、収集資料の内容・属性や資料間の関係を分析・整理した「宇宙政策法文書データベース(リンクド・オープン・データ、LOD)」の構築と公開を試みる。
著者
山本 浩貴
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

【研究目的】ワルファリンは、ビタミンKと拮抗することで抗凝固作用を示す薬剤であり、相互作用する薬剤が多く、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR値)を用いた維持投与量の調節が推奨されている。脂肪乳剤は、効率の良いエネルギー補給の目的でしばしば臨床使用されているが、近年、脂肪乳剤とワルファリンの併用は、ワルファリンの抗凝固能に影響を与えるという症例が報告されている。そこで、ワルファリン抗凝固能に対する脂肪乳剤の影響についての詳細を検討するため、カルテ情報に基づいた後方視的調査を行った。【研究方法】2011年10月1日から2014年3月31日の2.5年間に京都大学医学部附属病院にてワルファリンと脂肪乳剤を併用した症例をカルテから抽出した。なお、本調査は本院医の倫理委員会の承認を得て行った。【研究成果】解析対象となった7症例のうち、脂肪乳剤との併用によりPT-INR値が減少傾向を示した症例は3症例であった。この3症例のPT-INR値について詳細に解析すると、ワルファリン単独投与時は1.82-2.78であり、脂肪乳剤併用時は1.18-1.29であった。さらに、併用前後でワルファリン投与量が変更されている例もあるため、PT-INR値をワルファリン投与量で補正したWarfarin Sensitivity Index(WSI)値で評価した。その結果、WSI値は脂肪乳剤を併用することで減少傾向を示した。一方、併用の影響を示さなかった4症例においては、WSI値についても併用前後の値で変動は認められなかった。以上、ワルファリンの抗凝固能は、脂肪乳剤との併用により減弱する可能性が示唆された。脂肪乳剤の併用による影響を受けない症例も見られるものの、ワルファリン使用時には、脂肪乳剤に含まれるビタミンKの影響も考慮する必要があると考える。
著者
河合 慶親
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ミトコンドリア品質管理に重要なオートファジーに作用する食品成分を見出すことを目的とした。HeLaにおいてp62発現を指標としたスクリーニングを実施したところ、ルテオリン誘導体の顕著なオートファジー誘導活性を見出した。一方、マクロファージJ774.1においては、ケルセチンなどフラボノール類において顕著なp62遺伝子発現促進が認められたが、ルテオリン誘導体の効果は認められなかった。よって、食品成分のオートファジー誘導活性は細胞株によって異なることが示された。J774.1では転写因子Nrf2を介してp62発現を亢進することで、サイトカインIL-1βのオートファジー分解に寄与することが示唆された。
著者
都竹 茂樹 平岡 斉士 長岡 千香子
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

働く世代の心身の健康増進を目的に、国はメタボ健診・保健指導やストレスチェックを義務化してきたが、心身に問題を抱える人たちは増加する一方である。一因として、心身の健康状態、健康への意識や実践状況、業務内容などが各人で異なるため、画一的かつ一方通行的な支援では、大多数の層は興味を示さず、行動変容にもつながらないことが挙げられる。本研究では、応募者が遠隔支援してきた2,000名分のデータを分析、ARCS動機付けモデルを活用して各人の行動や心身の状況に応じた、個別の健康支援策を自動選択、適切なタイミングで遠隔配信するプログラムを開発し、働く世代の生活習慣病やメンタルヘルスの発症予防・改善をめざす。
著者
田坂 健
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

研究目的本研究は抗菌薬によるせん妄メカニズムを解明し手術後あるいは感染症患者におけるせん妄管理に資する基盤データの構築を目的とした。方法実験にはICR系雄性マウスを用いた。マウスにLPS(300μg/kg)を腹腔内投与し、その24時間後に行動薬理学的検討を行う。行動薬理学的検討は、ジアゼパム(0.3mg/kg, DZP)およびペントバルビタール(40mg/kg, PB)を腹腔内投与し、PB誘発睡眠の睡眠潜時および睡眠持続時間を評価した。本研究では抗菌薬としてミノサイクリン(50mg/kg, MINO)を用い、LPS投与前および投与後にMINOを投与することによる睡眠潜時および睡眠持続時間への影響を評価した。なお、本研究は申請者所属施設の動物実験委員会の承認を得て行った。主要な研究成果LPS投与マウスに単独で無作用量のDZPおよびPBを投与した場合、DZP非投与マウスあるいはLPS非投与マウスと比較して有意に睡眠持続時間が延長した。このLPS、DZPおよびPB投与マウスの睡眠潜時および睡眠持続時間に対するMINOの影響を評価した。まず、MINO後投与としてLPS投与直後、1、2および4時間後にMINOを投与した場合、ペントバルビタールによるマウスの睡眠潜時に影響はなかったが睡眠持続時間は有意に短縮した。一方、前投与としてLPS投与48, 36, 24, 12時間前、投与直前およびLPS投与12時間後にMINOを投与した場合、睡眠持続時間が有意に延長した。MINOは中枢および末梢神経に存在するグリア細胞のうち、ミクログリアの活性化を抑制することが知られている。ミクログリアは神経の炎症にも深く関与することから、現在ミクログリアの活性化に着目して行動実験後の摘出脳サンプルを用いて検討中である。
著者
小泉 真理子 濱野 保樹 萩野 正昭 佐伯 知紀 櫻井 英里子
出版者
京都精華大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

戦後、連合国総司令部(GHQ)は日本を統治する手段として文化を用いた。映画演劇を通じて日本人の民主主義の意識形成に関わった人物に、民間情報教育局の映画班長であったデヴィッド・コンデがいるが、その人生については明らかになっていないことが多かった。本研究では、彼がカナダのブリティッシュ・コロンビア大学図書館に自己の大量の記録を寄贈していることを発見したため、本資料を入手、整理し、デジタル化して公開した。本研究は、米国による対日文化政策の全貌解明に寄与することが期待される。
著者
布施 賢治
出版者
山形県立米沢女子短期大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

近代に士族が設立した士族会・旧藩奨学金団体が、地域の教育・尚武意識・士族意識の形成に果たした役割について研究した。現地の図書館・文書館に赴き諸会が発行した雑誌の分析等の実地調査を行った。その結果、諸会の基本的な存在形態、明治・大正・昭和期の各段階における組織の変化、資金の調達方法の変化、人材観の変化、育英事業に対する会員・地域の人々の認識の変化等を明らかにした。そして、地域社会の教育の発展・人材育成に重要な役割を果たした点を確認した。
著者
和田 真 小早川 達
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

「スイカに塩をかけると、甘くなる」といった味覚の増強は、万人に通用するとはいえない。これまでの調査研究からも、自閉スペクトラム症者は、「味がまざるのを嫌う」とされており、塩味・甘味等の知覚の分離がうまくいかないことが、偏食に結びつく可能性がある。本研究では「基本味間の時間的に過剰な統合が、味覚の問題に起因した偏食を引き起こす」という仮説のもと、発達障害者における偏食の背景にある神経メカニズムの理解と、解決策の提案を目指す。
著者
牧 勝弘 石川 智治
出版者
愛知淑徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

42ch球状マイクロホンアレイを使用した音響計測により、ストラディバリウスに固有の音響的特徴は、放射方向の揺らぎや聴衆方向への放射の強さなどのバイオリン音の空間放射特性に現れることを明らかにした。また、多面体スピーカを利用した心理学的実験により、音の放射方向の時間的な揺らぎが演奏音の音色評価の向上に寄与することを示し、放射方向の時間的な揺らぎがストラディバリウスの特徴的な音色の一要因になり得る可能性を示した。さらに、奏者の熟練度がバイオリン音の空間放射特性へ与える影響を明らかにし、表板全域に渡るタップ音の周波数分析によりオールドバイオリン表板の特徴を示した。
著者
児島 清秀 元木 悟
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

アスパラガスではジベレリンの特にジベレリン1(GA1)の方が休眠打破の役割を持っているようである。ABAが休眠誘導の作用をしている根拠は本実験では得られなかったが、GA1を除いてもABA、ジャスモン酸(JA)、ジャスモン酸メチル(MeJA)、トランスゼアチン(Z)の4種類もの植物ホルモンが萌芽において最も高い濃度で存在していた。これは養分の転流や細胞分裂促進、頂芽優勢など、萌芽の急成長のために必要な機能を発現させるためだと考えられる。また、植物の変化が激しい部位で多種多量の植物ホルモンが作用しているとも言える。IAA、ABA、Z、ジベレリン4(GA4)がこれに該当するだろうと推察できた。
著者
中村 孝司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

リンパ節へ優れた移行性を示す微小サイズの脂質ナノ粒子、リンパ節内のT細胞へ効率的に取り込まれる微小サイズ負電荷脂質ナノ粒子、抑制性樹状細胞の抑制性遺伝子IDO1をノックダウン可能なsiRNA搭載脂質ナノ粒子、免疫細胞への毒性を軽減する戦略に関する知見を得ることができた。特に、マイクロ流路デバイスを用いて調製した脂質ナノ粒子によるリンパ節デリバリーに関する成果は世界初である。これらの成果は、リンパ節を標的とした脂質ナノ粒子によるがん免疫療法の開発に有用な知見を与える。
著者
浪岡 新太郎
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度はコロナ禍のために現地調査ができなかったので、これまでの調査のまとめと比較のための日本での調査を行なった。具体的には、フランスにおけるムスリムの経験する、人種差別と宗教上の差別という差別の経験を、フランスの法律、政策、制度がどのように対応しているのかを検討した。その際に、これまでは別々に扱われることが多かった、人種差別と宗教上の差別を、同じレイシズムの異なった現れとして検討することで、両者の関連性を明らかにした。また、日本との比較においては、フランスのムスリムの依拠する社会保障制度との比較の観点から、日本の生活困窮者自立支援法の成立過程について検討した。その際に、特に、2008年の派遣村に注目することで、いわゆる生活困窮者がどのように社会運動の当事者として政治的に自分たちを表現することができたのか、その際の政治的、社会的、経済的条件とはどのようなものかを論じた。
著者
中村 和彦 秋穂 裕唯 牟田 浩実
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

炎症性腸疾患は腸に慢性の炎症を起こす難病で、腸での免疫応答の制御に異常があるとされる。制御性T細胞は免疫応答を抑制する細胞で炎症性腸疾患治療への応用が期待されている。近年、炎症性腸疾患ではT細胞を介した免疫応答の中でTh1型とTh17型反応の関与が示唆されている。制御性T細胞はTh1型大腸炎は抑制するが、Th17型大腸炎を抑制できるかどうか不明であった。本研究では、制御性T細胞がTh1型に加えてTh17型大腸炎を抑制できる事を示し、炎症性腸疾患にTh17型反応が関与していたとしても制御性T細胞が治療に応用できる事を示した。
著者
河口 和也 釜野 さおり 鈴木 秀洋 石田 仁 風間 孝 堀江 有里 谷口 洋幸
出版者
広島修道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究チームは、SOGI意識調査グループとSOGI施策調査グループからなる。計画としては、二つの調査グループが並行して調査実施を行う予定であったが、2019年度においては、SOGI意識調査の全国大規模意識調査を中心に実施していくこととした。施策チームのメンバーの在外派遣研究などにより人的資源の確保が難しくなったこと、さらに意識調査の調査費用を再試算した結果、回答の回収数を確保するためには当初の調査予算では実施することが難しいことが明らかになった。(大きな要因としては調査実施時期の年度内に消費増税が実施されたこと。)したがって、2019年度には、施策調査の実施を縮小することにした。2019年度においては、SOGI意識調査グループでは、全国規模の意識調査に向けて、調査票の最終確定を行い、前年度までに候補が挙げられていたなかから、依頼する調査委託業者を選定した。その後、調査実施に向けた諸手続きに関して、調査委託業者と科研研究チームおよび大学所管事務のあいだで進めた。本調査は、全国市町村区に在住する20歳~79歳の男女5500名(国籍は問わない)に対して、住民基本台帳を用いた層化2段無作為抽出(全国275地点)方法を用いてサンプリングを行い、2019年6月から7月(6月27日~7月15日:予備期間~7月22日)にかけての調査時期をもうけて行った。質問数は、120も程度でA4版16頁の質問票を対象に配布し、調査員による訪問留置訪問回収法(郵送回収、ウェブ併用)で回収した。回収数は2,703名で、回収率は49.1%となった。回収方法の内訳は次の通りである。訪問回収2,231、郵送返送305、WEB回答167。(回収数には30の代理回答を含んでいる)。意識調査は、予定通り遂行され、分析のためのデータクリーニングなどの作業を行った。