著者
青木 由直 棚橋 真
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究は遺跡の音響特性を調べることにより、その遺跡が音響的にどのような目的で造られたかを推定する新しい音響考古学の学問分野を開拓する基礎技術として、音場の可視化を行なう技術の開発を目的として行なった。遺跡として残されている岩板が声の反射板であると予想されるので、この反射板からの音の反射を計算し、可視化する方法として、記録した音場データを最大エントロピー(MEM)法により再回折を行なって岩板による音の反射点を計算する方法を開発し、計算機シミュレーションでその妥当性を確かめた。この方法は、音の進行方向に垂直な断面での音場分布を可視化する方法で、これに対して音の伝播の状況の可視化の目的で、音の伝播を音線を用いて追跡し、これを可視化する方法を開発した。この方法では、記録した音場のデータを基に、音場の強度の微分により得られる局所的な空間周波数成分に音線の傾きを対応させて、音線の伝播をCGにおける2次元の光線追跡法と同様にして求め、音の収束していく様子を可視化する方法である。この音線追跡法はMATLABおよびC言語により開発を行ない、3次元空間での音線追跡法にも対応できるようにした。音線の可視化のためのGUI(Graphical User's Interface)の機能を強化してシステムの利用が容易になるよう改良を加えた。開発した音線追跡法によるシミュレーション結果をインターネットで公開する目的で、音線可視化システムをJava言語で記述し、実際にインターネットでの公開実験を行ない、将来的に音響考古学に関するインターネットを利用した仮想実験室の構築に基礎データを得た。計算機シミュレーションを実験と対応させるため、スピーカで造り出される音場の記録データを処理して、これからの音線追跡を行ない、簡単な音源であれば本研究で即発した音線追跡の可視化が行なえることを明らかにした。
著者
藤野 正寛
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

マインドフルネスとは、今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づくことである。この能力を高めるための実践法は、特定の対象に意図的に注意を集中する集中瞑想と、経験に対して抑制することなくありのままに気づいている洞察瞑想の2種類の瞑想技法から構成されている。近年、この実践法が人々のウェルビーイングの改善・向上に貢献することが多くの研究で示されている一方で、対象者によってはネガティブな経験を抑制してしまうことで有害事象が生じる事例も示されている。そこで、安全かつ効果的な実践法の適用・開発のために、マインドフルネスの中核的な機能を育む洞察瞑想の心理・神経基盤を解明することが求められている。本年度は、瞑想未経験者72名を対象として、昨年度に開発した介入用教示を用いて、集中瞑想と洞察瞑想の30分の短期介入が、妨害刺激の対処方法に与える影響の違いを検討した。実験では、妨害刺激としての表情顔の中央に呈示された文字の向きを解答する弁別課題を用いた。その後、弁別課題時に呈示した顔と呈示しなかった顔を用いて選好度判断課題を実施した。その結果、対照群では表情顔に対する単純接触効果が見られなかった。しかし集中瞑想群と洞察瞑想群では単純接触効果が見られた。さらに集中瞑想群でのみ介入後のリラックス状態と単純接触効果の間に有意な正の相関が見られた。これらの結果は、統制群では弁別課題で呈示された顔を抑制したために、呈示顔の魅力度が低下したことを示している。また集中瞑想や洞察瞑想の短期介入が、注意制御機能や情動調整機能に影響を与えることを示すとともに、洞察瞑想が集中瞑想による選択的注意を強めることとは異なる心理メカニズムに影響を与えていることを示している。これによって、従来確認されていなかった、瞑想未経験者でも洞察瞑想による情動調整を実施できるということの傍証をえることができた。
著者
川上 潔 池田 啓子 尾仲 達史
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ジストニアは自分の意思に反して、筋肉の収縮や硬直が持続する病気である。遺伝性ジストニアであるDYT12はナトリウムポンプα3サブユニット遺伝子(ATP1A3)の機能喪失変異が原因である。DYT12の病態解明を目的にAtp1a3遺伝子欠損マウスを解析した。当該マウスはジストニアを引き起こしやすく、小脳の抑制性神経の伝達効率亢進が観察された。この結果から、Atp1a3の機能喪失が抑制性神経の機能に影響し、ジストニアを引き起こすと考えられた。
著者
小松 和彦 板橋 作美 常光 徹 小馬 徹 徳田 和夫 關 一敏 内田 忠賢 高田 衛
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

三年計画の研究は以下の四つのテーマに従って展開され、成果がまとめられた。(1)怪談・妖怪関係資料の収集及び民俗調査:全国各地(青森・東京・福島・千葉・石川・富山・新潟・愛知・京都・香川・愛媛・高知・福岡・長崎・沖縄等)でおこない、報告書(冊子体)に各分担者が三年間の調査・研究をまとめた。(2)怪異伝承データベース構築のための事例収業とカード化:民俗学関係雑誌さらには近世の随筆から妖怪・怪異関連の記事を抜き出し、情報カードの作成を行なった。作成した情報カードの件数は13,364件にのぼり、それらの書誌情報のコンピュータ入力を終了した。一般公開をみこした怪異伝承データベースの利用方法についての議論は今後の課題であるが、民俗学における妖怪・怪異研究の動向把握など現時点でも幅広い活用が期待できる。(3)怪異・妖怪研究の研究動向調査:網羅的な文献リストを作成した。また追加で妖怪・怪異研究に従事している外国人研究者のリストを調査可能な限りにおいて作成した。今回の調査で、日本の妖怪・怪異は近年関心を集め続けてきたことがわかった。.今後予定しているインターネットを通じた怪異伝承データベースの公開は国際的に価値の高い情報発信となることが予想される。(4)一般公開:本研究の成果の一部は、国立歴史民俗博物館の企画展「異界万華鏡」に生かされた。またSCS討論会「異界ルネッサンス」を催した。これは国際日本文化研究センターと国立歴史民俗博物館の間で衛星中継による公開テレビ討諭会である。いずれも一般入場者からの高い関心を得た。
著者
木村 淳夫 WONGCHAWALIT Jintanart
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

単量体アロステリック酵素、すなわちモノマー酵素が示す協同性(基質活性化)の現象例は極めて稀である。我々は、3種類の同酵素(α-グルコシダーゼ・β-グルコシダーゼ・キチン分解酵素)の取得に成功している。従って3酵素が示す協同性の分子機構を究明することは学問上において興味深い。本研究の目的は、単量体アロステリック酵素の分子機構を解明し、応用研究に結び付けることにある。本年度は次の研究成果を得た。アロステリック部位の決定1)X線結晶構造解析:3酵素について結晶作製を継続してきた。キチン分解酵素に関し、X線構造解析が可能な結晶の作製に成功した。2)活性化部位の確認:キチン分解酵素とβ-グルコシダーゼの触媒部位周辺に可動性ループがあり、基質の取り込みにより大きな構造変化の発生が予想された。キチン分解酵素に関し、本ループにある1アミノ酸をTrpに置換し基質分子を与えると、Trp由来の大きな構造変化が観察された。従って基質分子に起因する本ループの構造変化が解明された。またβ-グルコシダーゼに関しては、可動性ループにあるアミノ酸で特に触媒ポケットの入口付近に位置する残基に注目し点置換体を構築した。本変異酵素の解析から可動性ループがアロステリック作用に関わることが判明した。アロステリック酵素の作製ショ糖分解酵素とβ-グルコシダーゼに関し、高い相同性を持つがアロステリック現象を示さない酵素を対象に、アロステリック現象に関与すると予想される構造因子の移植を試みた。ショ糖分解酵素の場合、構造因子の移植によりアロステリックな性質を与えることができた。β-グルコシダーゼは可動性ループ移植を行ったが、酵素活性は大きく減少した。移植位置が触媒部位近傍であるためと考えられ、ループサイズを小さくする工夫が必要と考えられた。なおβ-グルコシダーゼを用いた構造解析で新規なβ-グルカンの取得が明らかになった。
著者
田中 光一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

中枢神経系の興奮性シナプス伝達は主にグルタミン酸により担われており、グルタミン酸シグナル伝達の解明は脳機能解明の基礎となる。我々の分野では、神経回路網の形成・脳高次機能におけるグルタミン酸シグナリングの機能的役割を分子、細胞、個体レベルで明らかにすることを目指す。また、過剰なグルタミン酸は神経毒性を示し、様々な精神神経疾患の原因と考えられている。精神神経疾患におけるグルタミン酸シグナル伝達の病態生理学的役割を解明し、それら疾患の新しい治療法の開発を目指す。グルタミン酸トランスポーターは、神経終末から放出されたグルタミン酸を取り込み、神経伝達物質としての作用を終わらせ、細胞外グルタミン酸濃度を低く保つ機能的分子である。現在まで脳のグルタミン酸トランスポーターには、グリア型2種類(GLT1, GLAST)と神経型2種類(EAAC1, EAAT4)の計4種類のサブタイプが知られている。本年度は、グルタミン酸トランスポーターのうち、GLASTまたはEAAC1をノックアウトしたマウスでは眼内圧の上昇を伴うことなく網膜神経節細胞が脱落し視神経が変性するという、正常眼圧緑内障と同様な症状が生ずることを見出した。GLAST欠損マウスではミューラー細胞内のグルタチオン含量が減少しており、グルタミン酸受容体阻害薬を与えると神経節細胞の減少が抑えられた。一方、EAAC1欠損マウスでは神経節細胞の酸化ストレスに対してさらに脆弱化していた。これらの事実からこれらのグルタミン酸トランスポーターはグルタミン酸による興奮毒性の抑制に加えてグルタチオンの合成にも必要であることが示唆される。このマウスは正常眼圧緑内障の始めてのモデルであり、今後のこの種の疾患の治療法の探索に有望なモデルであるとしている。
著者
中村 泰介 中村 公美子 松原 英樹 ANTONIO Solana SEVILLA FC
出版者
聖トマス大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の調査を終えて、フランス(フランス国立サッカー学院(I.N.F.))、スペイン(SevillaFC)のサッカー指導現場における「パスアンドゴー」のプレーのトレーニング及びコーチングは常に「技術」と「戦術」が〓がったもの、或いは一つとして捉えられており、さらにスペインではそこに「フィジカル」「メンタル」の要素が包含されているものであった。日本においても同様の認識はなされてはいるものの、「戦術」へ〓がる「技術」の習得、或いは「戦術」の中で必要となる「技術」、といった指導者のコーチングの認識レベルをさらに高めていく必要性があり、そのことが選手のプレーを世界水準へと飛躍させる一つの手がかりになると考える。
著者
横山 秀克
出版者
(財)山形県テクノポリス財団(生物ラジカル研究所)
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

ドパミン神経は脳内で重要な役割を果たす神経細胞である。ドパミンはモノアミン酸化酵素代謝を受けるが、その代謝過程で活性酸素である過酸化水素が発生することが知られでいる。こうした活性酸素による細胞障害とドパミン神経障害との関連性が指摘されている(ドパミン神経障害の活性酸素仮説)。このようなドパミン神経障害には、いまなお原因が不明で難治な疾患が少なくない。従って、これらの疾患と活性酸素との関連を解明することは、その治療戦略を考えるうえで極めて重要である。本研究では、前年度で確立した白金円盤微小電極による脳内過酸化水素計測法の応用として、ドパミン神経障害の一つである遅発性ジスキネジアの疾患モデル動物の脳内における過酸化水素計測を行ない、抗精神病薬投与後の過酸化水素濃度上昇が抑制されているという知見を得た。これは遅発性ジスキネジアを引き起こす抗精神病薬の長期投与がドパミン代謝回転の低下させるという報告に合致する。さらに同モデル動物における脳内の脂肪酸ラジカルを電子スピン共鳴法を用いて検出した。これらの結果は、遅発性ジスキネジアではドパミン代謝回転低下がおこり過酸化水素の生成は抑制されているが、脂肪酸ラジカルの発生、つまり神経細胞膜脂質の過酸化障害は活発に進行していることを示すものといえる。ドパミン神経障害の活性酸素仮説においては、ドパミン代謝亢進と過酸化水素産生は密接な関係にある。そこで、この仮説の検証のためには、ドパミンと過酸化水素の同時計測が必要となる。そこで、本研究では、白金円盤微小電極を用いた脳内の過酸化水素とドパミンの時間経過を同時計測する手法の開発も行なった。そしてこの手法を用いて、ドパミン代謝亢進をもたらす薬物であるメタンフェタミンを投与した実験動物の脳内のドパミンと過酸化水素濃度の経時的変化の同時計測を行い、ほぼ同時に両者が上昇することを確認した。以上の所見は全てドパミン神経障害の活性酸素仮説を強く裏付けるものとなった。
著者
山中 敏彰 和田 佳郎
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

姿勢や歩行機能の障害が存続する難治化した慢性平衡障害者に対して前庭覚代行装(Vestibular Substitution Tongue Device: VSTD)を用いるリハビリテーション治療を試みて、長期効果を検討した。期間延長の理由により、2018年度は症例確保が進まず、1例のみの追加で合計11例に対して中期の評価を行なった。頭位の傾きを感知する加速度計からの情報を電気信号に変換して舌に設置したインタフェースに伝達する、VSTDのシステムを使用して、バランストレーニングを8週間行った。評価項目として、重心動揺検査から得られる30秒間の動揺軌跡長と歩行条件から点数化した歩行機能視標(30点満点)を用いた。重心動揺総軌長は237.5 ± 22.4 cm/30 s から 85.4 ± 15.4 cm/30 s に、歩行機能スコアは、13.5 ± 1.5から23.5± 1.6にそれぞれ変化し 両者ともに治療直後より著明な改善を示した。VSTDを取り外した後の効果を追跡観察したところ、12か月以上の時点で、重心動揺総軌長88.6± 18.9、歩行機能スコアは23.8±3.0となり、改善は、最短12か月でほぼ変動なく、効果は維持された。現在は、短期間ではあるがトレーニング効果は持ち越され維持できる傾向が示されている。
著者
今居 譲 井下 強 柴 佳保里 柴 佳保里 井下 強 服部 信孝 孟 紅蕊 荒野 拓 石濱 泰
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

若年性パーキンソン病原因遺伝子PINK1とParkinは、協働してミトコンドリアの品質管理に関与することが示唆されていた。一方、新規に同定された晩発性パーキンソン病原因遺伝子CHCHD2は、機能未知のミトコンドリアタンパク質であった。本研究では、ショウジョウバエモデル、iPS細胞、哺乳類培養細胞を組み合わせ、PINK1-Parkinシグナル分子機構の解明と、CHCHD2の機能解析、PINK1-ParkinシグナルとCHCHD2との分子関係の解明を進めた。
著者
鬼頭 宏 上山 隆大 鬼頭 宏
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究『医療市場の誕生とその規制に関する歴史的・実証的研究:大衆消費社会における「市場と国家」のケーススタディ』は13年度中に、その調査を終えた。本研究の基本的な目的は、世紀末のイギリスがいかに多様かつ「モダーン」な消費社会の時代に突入していたかを、とりわけ医療の現場におけるコンシューマリズムの浸透を示すいくつかのケース・スタディーを通して明らかにすることにある。これまで多くの経済史家・社会史家は19世紀とくに後期ヴィクトリア朝期のイギリスを、individualismの時代からやがてくるcollectivismの時代への過渡期と捉えてきた。古くはA.V.DiceyからDerek Fraserまで多くの歴史家が、19世紀末には肥大化し始める官僚制と中央政府の役割の増大を背景に、社会はレッセ・フェールと個人主義の気運を徐々に失い個人の福祉まで国家による規制と統制に委ねようとし始めたと論じてきたし、あるいはHarold Perkinのように、19世紀は医学や法律などの専門家集団がrespectable societyの中心を担うプロフェッショナライゼーションの時代であり、そこでもライセンスの発行や医師法・弁護士法などを通した行政の強い管理と規制が大きな役割を果たすようになったと考えてきた。後者の議論は、伝統的なジェントルマンの理念とモラルがこうしたプロフェッション社会の確立に大きく寄与したとする点で、最近のP.J.Cain+A.G.Hopkinsのジェントルマン資本主義の議論とも相通じるものがあるだろう。これらの通説をすべて否定するものではないけれども、19世紀末には医療、教育、法制度、レジャーなど様々な分野で、行政のレギュレーションの効力はむしろ急速に浸透する「市場の力」によって弱められていた。本研究は、とくに医療の分野に焦点を当て、(1)強まる消費社会の圧力が、健康を医者の権威の管理下に置くことに満足せず、市場に出回る数知れない健康器具・滋養強壮薬で買おうとする消費者を生んだこと、(2)営利目的の医療会社が生まれマーケットでの医療活動を始めたこと、(3)こうした医療の市場化が伝統的な医者たちとの摩擦を生んだこと、(4)健康を買おうとする消費者をターゲットにニセ医者が群がりでたこと、(5)多くの保険会社が医者を雇い医療検査を施して健康市場に参入しようとしていたこと、を明らかにした。
著者
小林 澄貴
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

研究デザインは、出生前向きコホート内症例対照研究である。2003-2007年に生まれた8歳児のうちADHD-RS得点が得られた3,263名のうち、児の性別と母の出産年齢でマッチングさせ1,491名抽出したところ、非喫煙群552名、受動喫煙群812名、喫煙群127名となった。ロジスティック回帰分析で検討したところ、非喫煙群と比較して、受動喫煙群から生まれた8歳児のADHD疑いになるオッズ比は1.17倍高かったものの有意ではなかった(95%CI; 0.84-1.63)。妊娠中の母の受動喫煙曝露が8歳児のADHDのリスク増加に影響を及ぼさず、そして遺伝環境交互作用も関与しないと考えられた。
著者
渋谷 謙次郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ソ連解体後のロシアは、周辺の旧ソ連諸国に集住するロシア語系住民の庇護および保護を「同胞支援」の名のもとで、国策の次元にまで高めてきた。とりわけソ連解体後、ウクライナ領であったクリミア州はロシア語系住民が多く居住し、1954年以前は当地がロシア領であったという事実を追い風に、当地の住民がロシアとの再統合を望んでいるという「自決権」の言説をもとに2014年にロシアへの編入に乗り出した。西側諸国からは「国際法違反」が指摘されるクリミア併合について、ロシア国内の言説は正反対で、むしろ国際法と民主的手続きに乗っ取ったものという認識のギャップが深刻であることに注意を向ける必要がある。
著者
乾 博
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

漢方薬として知られるラカンカには、その果実に強い甘味物質であるトリテルペノイド配糖体(モグロシドV)が含まれ、肥満者や糖尿病患者向け低カロリー甘味料として市販されている。本研究では、ラカンカの抗糖尿病作用について検討し、インスリン分泌促進活性を見いだした。また、動脈硬化症予防の観点から、コレステロール誘導性酸化的ストレスに対する抑制効果を明らかにした。さらに、モグロシドV とそのアグリコンであるモグロールの消化・吸収・体内動態を検討した。
著者
遠山 濶志 吉田 善章 小川 雄一 井上 信幸 篠原 俊二郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1993

球状トカマク、TST(Tokyo Spherical Tokamakの略)が設計、製作された。球状トカマクでは、プラズマの断面形状が自動的に楕円形に変形し、プラズマの体積が大きくなる、高いベータ値のプラズマを安定に閉じ込めできる、電磁流体力学的(MHD)不安定性に対して強い抑制効果を持ち、放電停止に至るようなプラズマの主崩壊を起こしにくくなるなどの通常のトカマク装置よりも優れた点が理論的に予想されている。本研究では、以下の結果を得た。1)球状トカマクTSTを設計、製作した。直径1.8m、高さ1.6mの円筒形の真空容器内にトロイダルコイルの一部とオーミックコイルを設置している。2)トロイダル、オーミック、垂直磁場コイルを設計、製作した。トロイダル磁場は真空容器中心で0.2T、リップルは2%である。オーミックコイルのFlux swingは15mVsである。3)最大プラズマ電流、45kAのプラズマ放電に成功した。プラズマ電流は、オーミックコイル充電電圧、トロイダル磁場に比例する。4)PINダイオードアレイによるプラズマからの放射計測によってプラズマ形状の時間発展を調べた。放電開始から70μsでアスペクト比1.3に達していることがわかった。楕円度は90μsで1.8になっている。5)電流銃による電流駆動の初期実験を行った。電子銃からは1.7kA、1.5msの電子ビームがとれることがわかった。この電子銃をTSTに取り付けた結果ブレークダウンに必要なFlux swingが7分の1に減ることがわかった。
著者
鷲巣 力 加國 尚志 小関 素明 中川 成美 樋口 陽一 三浦 信孝 桜井 均 湯浅 俊彦 渡辺 公三
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の課題は戦後日本を代表する国際的知識人加藤周一の思想を戦後思想史のなかに位置づけることである。本研究の基礎作業が加藤の「手稿ノート」の研究とその成果としてデジタルアーカイブ化して公表することである。本年度は《Journal Intime 1948-1949》《Journal Intime 1950-1951》の二冊について、デジタルアーカイブ化して公開した。昨年公開した8冊の「青春ノート」の抄録を刊行するべく、編集校閲作業を進めた。さらに『加藤周一 その青春と戦争』(共著)の編集執筆も進めた。加藤と丸山眞男との比較研究は、東京女子大学の丸山眞男記念比較思想研究センターと本研究を支える加藤周一現代思想研究センターとの間で研究提携の協定書を締結した。丸山研究センターの川口雄一氏は加藤研究センターの客員協力研究員についてもらい、研究会にて丸山眞男研究の推移について報告した。また『丸山記念研究センター報告』(第13号)に「加藤周一文庫と加藤周一の方法」を寄稿した。さらに山口昌男文庫をもつ札幌大学の公開講座に、本研究の研究者代表である鷲巣と川口雄一氏が参加して、研究報告を行なった。加藤と林達夫との比較研究では、鷲巣が中心となり林達夫研究を進め、成果として『イタリア図書』に「林達夫への精神史的逍遥」の連載を続けた。加藤は生涯を通して反戦を貫き、反戦小説も著わしたが、研究分担者の中川成美は他の戦争文学との比較のために『戦争を読む』(岩波新書)を刊行した。加藤周一記念講演会には、フランス哲学の浅田彰氏を招聘して「普遍的知識人の時代は終わったのか」と題した講演を行なって、加藤がもつ現代的意義について論じてもらった。研究会では、上記の川口氏の報告のほか、猪原透協力研究員の「科学し研究と加藤周一」と題した報告、石塚純一協力研究員の「網野善彦、山口昌男、加藤周一」と題した報告を受けた。
著者
岡本 晃充
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

励起子相互作用による蛍光消光を効果的に使用した新しい発想のオン-オフ蛍光核酸プローブ(近赤外)を設計・作成した。このプローブは、プローブだけのときには色素の二量化によってほとんど蛍光を示さないが、標的配列(DNA・RNA)とハイブリダイゼーションしたとき二量体構造が崩れ、強い蛍光発光を与えた。
著者
見学 美根子 (2011) 岡本 晃充 (2010) WANG D. オウ タン
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

神経細胞内のmRNA動態観察において、RNA配列の染め分け、つまりマルチカラー核酸解析は、mRNAのライブセルイメージングの原点としてどうしても確立したい技術である。それが可能になれば、アメフラシの神経細胞の中でのmRNAのトラフィックスのモニタリングへ応用できるようになる。本年度は、まずモデル系として、励起子制御機構にのっとった新規蛍光プローブ群を用いて、ヒトガン細胞(HeLa細胞)およびマウス神経細胞(海馬から取り出す)における新規mRNA蛍光検出法へと展開した。ここで検討されたプローブは、チアゾールオレンジ色素の色素間励起子結合効果を利用しており、標的のmRNAと結合した場合にだけ488nm励起により強い蛍光を発する。われわれは、まず細胞内mRNA分布の静的観察のために、このプローブを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション法を確立した。この方法は、ガラスプレート上に固定化した細胞に対し、新規蛍光プローブを含む溶液を加えるだけである。これにより、従来までの蛍光in situハイブリダイゼーション法で用いられてきた工程を大きく簡便化することができた。この新規観察法を通じて、mRNAが細胞内でどのように分布しているかを蛍光発光によって確認することができた。この方法は、次の段階として目指すべきである神経細胞内のmRNAのトラフィックの観察に有用であると思われ、引き続き研究を進めることによって、新たな蛍光観察法の確立を目指したい。
著者
佐藤 知己
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

現存するアイヌ語の古文献を17世紀前半、18世紀前半、18世紀後半、19世紀前半に区分し、代表的なものを分析し、各時期の特徴を明らかにした上で、400年間にわたるアイヌ語の通史について一応の見通しを与えた。概略的には、17世紀初頭の文献にみられる音韻、文法、語彙の特徴が、18世紀初頭では失われる傾向があり、18世紀後半では急激な変化が起きたということを文献を用いて実証的に明らかにした。
著者
平 智
出版者
山形大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

カキの香気成分の分析法として,果実から揮発する成分をポーラスポリマービーズに吸着させたのちにキャピラリガスクロマトグラフに加熱導入する方法,吸着物質をエーテルで再抽出してガスクロで分析する方法,果肉を直接アセトン中で磨砕して得た抽出液をガスクロに導入する方法などを種々検討したが,カキ果実の揮発性成分は種類,量ともにほかの果実に比べてきわめて少なく,分析が困難であった。しかながら,果肉切片を水蒸気蒸留して得たサンプルからは十数種類の揮発性成分が分離・同定された。しかもそれらの物質は,品種によっても,また,脱渋処理の前後でも量的あるいは質的に異なっていた。ただし,これらの成分の量的・質的変化とカキ果実自身の香りの品種間差異あるいは香りの変化との関連は明らかではなかった。果実の形質および成分の調査・測定,ならびに官能検査による果実の食味評価によって,同一品種の果実でも脱渋の方法や脱渋後の貯蔵日数が異なると,果実の品質や食味の評価がかなり異なってくることがわかった。すなわち,‘平核無'果実では「果肉が適度にやわらかい」果実が高い評価を得ることが明らかとなった。さらに,渋ガキ10品種,甘ガキ8品種を対象として食味検査を行った結果,渋ガキでは「甘味が強く,好ましくない香りが少ない」ことが,甘ガキでは「カキ特有のうま味が強く,好ましくない香りが少ない」ことが高い評価を得るために重要であることがわかった。以上の結果から,カキ果実の良食味には総じて,甘味の強さが最も大切な重要であると考えられた。また,カキのような香りの弱い果実でも香りのよしあしは果実の食味の評価を左右する重要な要因のひとつであるものと考えられた。