著者
本多 義昭 武田 美雄 木内 文之 飯田 彰 伊藤 美千穂 林 宏明 高石 善久
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

中央アジアにおけるトルコ系民族薬物に関する第3次調査研究として、現地調査として、2003年はウズベキスタンのアラル海沿岸部からブハラにかけての地域を、2004年にはイランのカスピ海沿岸部を、また2005年には中国の新疆ウイグル自治区を調査した。また、収集した薬用植物について、天然物化学的解析を行った。2003年の調査地のウズベキスタン西部は、アムダリア川流域の灌漑事業のために、アラル海周辺部の環境が悪化し、降雨量が少ないため砂漠化も進んでいる。この地域の薬草として目立つものはカンゾウで、分析用資料の収集をした。また、他の薬用植物数種類も収集した。この地域も含めて、ウズベキスタンでは、タビブと称される民間医が薬草の知識を伝えているが、その中身には、ロシア経由のヨーロッパのハーブの知識が多く見受けられた。2004年は、カスピ海に沿って東西に伸びるアルボルス山中に居住するトルクメンの調査をすることができたが、トルコとウズベキスタンの双方に共通するトルコ語系の呼称のものも認められ、更なる調査の必要性が明らかとなった。2005年はトルコ系のウイグル族が多い新疆省を調査した。省南部のホータンはウイグル医学が最もよく残っている地区であるが、この伝統医学はアラビア医学の系列に属するものであることが薬物とその呼称から明らかである。この3年間には、各地で収集した薬用植物に関する天然物化学的研究や品質評価研究についても解析を進め、これまでに13報を報告している。
著者
八木 孝司 荒谷 邦雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1.日本産アゲハチョウ科は単系統であり、ND5系統樹は形態による分類や食性から考えられる進化の道筋と矛盾しない。2.カラスアゲハ亜属各種は大きく2つの系統に分けられる。一方にはミヤマカラスアゲハ、シナカラスアゲハ、タカネクジャクアゲハ、オオクジャクアゲハ、ホッポアゲハ、ルリモンアゲハ、カルナルリモンアゲハが含まれる。他方にはカラスアゲハ、クジャクアゲハ、ルソンカラスアゲハ、ミンドロカラスアゲハ、タイワンカラスアゲハが含まれる。3.カラスアゲハとミヤマカラスアゲハ、ルリモンアゲハとクジャクアゲハ、ホッポアゲハ♀とフィリピンのルソンカラスアゲハ♀などはそれぞれ翅紋が良く似ているが、別の系統に属し平行進化現象を呈する。4.カラスアゲハは大きく4つの系統に分けられる。それらは台湾亜種・中国大陸南部亜種、八重山諸島亜種、奄美亜種・沖縄亜種、朝鮮・日本列島亜種、トカラ列島亜種、八丈島亜種であり、これら4系統の塩基配列の違いは、種差に匹敵するほど大きい。八重山諸島と奄美・沖縄のカラスアゲハは琉球列島が大陸から分離した時に隔離されたと考えられる。5.韓国・対馬・日本本土・サハリン産、トカラ列島産、八丈島産のカラスアゲハは別亜種とされるにもかかわらず、塩基配列が全く同じであり、最近(氷河時代)朝鮮半島からトカラ海峡以北に分布を広げたものと推測される。6.クジャクアゲハとカラスアゲハ、シナカラスアゲハとミヤマカラスアゲハは、塩基配列に違いがなく、それらは同種であることを強く示唆する。7.ヒメウスバシロチョウの北海道・サハリン産と大陸産とは塩基配列が大きく異なる。ウスバシロチョウの日本産と中国産とは大きく異なる。日本産の両種は日本列島成立時に隔離されたと考えられる。
著者
木戸 功 戸江 哲理 安達 正嗣 鈴木 富美子 阪井 裕一郎 松木 洋人
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

全国家族調査(NFRJ)18幹事会に代表の木戸が出席し、量的調査と連携して実査に臨むことを確認した(4/15)。その後、日本家族社会学会会員に本研究会(NFRJ18質的調査研究会)への参加を呼びかけ研究代表者と研究分担者を含む33名の研究会組織を編成し連絡用メーリングリストを作成した。本年度は3回の研究会を開催し、また小規模であるが量的調査チームと連携した予備調査も実施した。第1回研究会は学会大会終了後に大阪市立大学で開催し(9/11)、本調査の概要についてあらためて確認した上で、インタビュー調査班をサブテーマごとに4つ作り、班ごとに対象者と調査項目について検討した。フィールドワーク班についても対象選定の方法と、データ収集の方法について意見交換した。第2回および第3回研究会はそれぞれ2部構成として前半で招聘講師からのレクチャーと討論、後半で各研究班ごとの実査に向けた検討とその進捗状況の報告を実施した。第2回研究会はライフヒストリー研究およびそのアーカイヴ化についての専門家として小林多寿子氏(一橋大学大学院)を招き早稲田大学にて開催した(11/23)。第3回研究会は生活史研究の専門家として岸政彦氏(立命館大学大学院)を招き大阪市立大学にて開催した(1/27)。いずれの研究会においても専門的な知見の提供を受けるとともに本研究会が実施する調査に対しての実践的な助言をえた。並行して木戸がNFRJ 18の全体研究会に参加し(11/12)量的研究チームとの連携を保った。これらの研究会でのやりとりなどを通じて、対象選定の方針と調査項目の選定については具体的な案がそれぞれの班より示されるにいたった。また量的研究チームが実施した予備調査において、追加調査となるインタビュー調査への協力の可否をたずねる項目を追加するとともに、応諾者のうち9ケースの予備調査を実施した(3月)。
著者
関谷 一彦
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

リベルタン文学の中で最も重要と思われる『女哲学者テレーズ』の翻訳を人文書院から出版し、同書の「訳者解説」でリベルタン小説およびリベルタン版画について詳細に説明した。また、リベルタン小説はポルノ小説と混同されがちだが、両者は似て非なるものであることを明らかにした。『女哲学者テレーズ』を始めとするリベルタン小説やこれまであまり研究されてこなかったリベルタン版画を取り上げて、その意味と役割りについても解説した。そして18世紀フランスにおいて、フランス革命に向かう民衆の意識変革にリベルタン文学が果たした役割の重要性を読者に問題提起した。
著者
鶴田 幸恵
出版者
奈良女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、性同一性障害概念の広まりが、「性の多様性」の認知といかに結びついているかを、明らかした。そのために、(1)性同一性障害のカウンセリング場面における性別規範の使用に関する分析、(2)かつては批判の対象となっていたような、完全に性別越境を行わない女から男へのトランスジェンダーの語りの分析、(3)性別の越境を明らかにしながら行う就労の受け入れ側の語りの分析、という3つの視点から接近を試みた。
著者
清水 正宏
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

生物は,細胞単位であっても自己複製,自己修復,自己組み立てといった優れた機能を発現することが知られている.そこで申請者は,生体自体が本来有する優れた特性を誘導・発現させるバイオロボットの創成を試みた.具体的には,細胞力覚(機械刺激応答)を活用して成長する筋細胞アクチュエータを開発した.ここでは,マウス由来筋芽細胞C2C12に伸展機械刺激を印可することで,筋線維への分化が促進されることを確認し,筋細胞アクチュエータを自己組織的に設計・構築することが可能となった.
著者
谷 幸太郎 栗原 治 金 ウンジュ 酒井 一夫 明石 真言
出版者
国立研究開発法人放射線医学総合研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

原子力事故後の緊急作業等によって高線量の放射線被ばくを受けた場合には、個人データに基づく線量評価が必要となる。本研究では、甲状腺へ局所的な内部被ばくをもたらすI-131を対象として、人体を再現したボクセルファントムを使用した数値計算により、甲状腺前面の組織厚を考慮した甲状腺残留量の評価を可能とした。また、安定ヨウ素剤服用時の体内動態解析コードを開発し、個人の摂取シナリオを考慮した甲状腺線量の評価を可能とした。これらの手法について、福島第一原子力発電所事故への適用例を示し、有用性を確認した。本研究の成果は、I-131による高線量内部被ばく時の線量再構築に役立つものと期待される。
著者
中根 和昭 末松 信彦
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

癌組織・鉄(Fe-C鋼)などの鉱物組織・高分子化合物のように、組織構成が全体の性質を決めることはよく見られる。組織の状態判別は、観察者の主観に任せられているのが現実である。判定結果は観察者の技量に大きく左右されるため、客観的な数値に置き換える手段が必要とされている。今回、組織判別に対して位相幾何学的な判定手法を用いたアルゴリズムを提案した。これは「組織構成要素の肥大による位相幾何学的性質の変化」を単純化された画像から読み取る、という原理であるが、組織形成の仕組みが同じような構造物は他にも多くある。それらにこの判定法を適用したが、非常によい結果が得られた。
著者
原 研二 黒子 康弘
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ルネサンス以降の観念の図像化運動を解明するために,まず多種多様な図像をデータベース化した。このデータベース化されたものを有効活用する手がかりとして,人工洞窟の分析,オペラ座をめぐる言説に関する研究を展開した。また世紀末関連では,「宿命の女」のイメージ,「天使」のイメージが個性化するさまを追った。また,17世紀における道化の図像とオランダ静物画のリアリズムの同質性の分析に手を染めた。ここから西欧の広場の芸能と新世界との関わりを,図像的に展開する可能性を得た。またオペラ・トゥーランドット論「愛のグランド・オペラ2」では,ヤコブと天使が格闘する旧約聖書の不思議な場面と,主人公ふたりのなぞなぞのやり取りに共通性を見るために,ドラクロワ,ゴーギャンの図版とルネサンスの「タンクレディもの」の図版を組み合わせてみた。これを敷衍して,男と女の対決が基本的に天使との格闘による相互宿命の構造をもつことを,明らかにできた。一方,ワーグナー論「観光ロマン主義のリアル」においてもまた,19世紀の熱帯図版,グロッタ図版,パノラマ図版,遊園地図版,王侯の庭園図版を組み合わせる試みを行った。神話的な意味解釈の深みにはまってきた従来のワーグナー論とはまったく違う,光学上のワーグナーという新しい局面が図像研究によって開かれた。また「事物詩」というジャンルにおける「物」と「言葉」の関係を,ホメロス,バロックのエンブレム,リルケ,ヨゼフ・コススという長大なスパンで思考することによって,文芸学的メディア論という方向性を発掘した。かくして,これらの個別研究を質量とも充実することによって,価値観のパラダイムとしての図像研究へと展開する基礎を築いた。
著者
寺田 良一 舩橋 晴俊 平林 祐子 堀田 恭子 藤川 賢 堀畑 まなみ 原口 弥生 湯浅 陽一
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究においては、近年の急速な経済活動の国際化に伴い問題化しつつあるアジア太平洋地域における、環境負荷の移動、環境政策の相互影響、環境運動の交流などについて、一方で包括的にその時系列的、空間的な流れを解明する「環境総合年表」(すいれん舎刊)を作成し、もう一方で、その個別性と普遍性を考察する定性的比較研究(日本、韓国、中国、台湾、インド、米国等)を進め、研究成果報告書を刊行した。
著者
川道 武男
出版者
大阪市立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

浅間山中腹の標高1500mのミズナラ林で、240個設置した巣箱に入ったヤマネとヒメネズミにマイクロチップ(以下にチップと略す)を装着し、チップが野外研究にどの程度活用できるかを探った。獲得されたヤマネ75個体、ヒメネズミ25個体の捕獲全個体にチップを装着した。チップはチュープに入れて首輪状に装着するか、首背部に埋め込んだ。どちらの装着方法でも、チップのID番号は、巣箱の外側から容易に読みとれた。従って、巣箱を開けるなどの人為的な影響を与えずに、巣箱利用についてのデータが手に入った。2-3個体が巣箱内で同居している場合でも読み取り機を巣箱の各側壁にそって探査をすると、同居中の複数個体のID番号が読みとれた。首輪状に装着したチップは、チュープを噛んだり、首輪がはずれるなどが生じたので、調査期間後半は直接体内に埋め込んだが,埋め込みによる影響はほとんど認められなかった。この調査により、個体ごとの巣箱を結んだ行動圏が得られ、多くの個体の行動圏が重複していることがわかった。ヤマネでは、同時に同じ巣箱に血縁関係や非血縁関係の2-3個体が同居することも起こった。さらに、繁殖期のオスのヤマネは、ほぼ毎日泊まり場を変え、1つの巣に滞在する平均日数は1.17日であった。このような「風来坊」のような不安定な巣箱利用は、ヤマネがdaily torporするために、巣材という保湿材が不要であるからと推定された。これらの結果から、当初の目的どうりにチップが野外研究に有効であることが実証された。この研究はさらに2年間継続の予定である。研究成果は1997年10月の日本哺乳類学会で「ヤマネの自然巣・巣箱の利用パターンと奇妙な社会関係」、「マイクロチップを利用した小哺乳類の野外調査法」の2題を発表した。
著者
佐渡 忠洋
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は日本のロールシャッハ法(Rorschach's Inkblot Mehtod: RIM)の歴史、特にその輸入過程と発展過程を明らかにすることである。成果としては、1)1930年以前に導入がいくらか明確になった、2)研究論文は1959年までに273編も報告されていた、3)1930年代は精神科臨床の研究が多く、1950年代は犯罪学や人類学の研究が多かった、4)日本の研究者は11の新図版を制作してきた、5)スイスでのフィールド調査で若干の新事実が見いだされた、6)RIMはバウムテストや風景構成法とは異なる発展過程を経た、がある。今後の課題はRIM史から臨床心理学史の素描することである。
著者
堂免 隆浩
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、正当性認識に着目し、都市公共財におけるコミュニティガバナンスの成立条件を明らかにすることを目的とする。住民がコミュニティガバナンスに取り組むためには、取り組むことで得られる利益と負担するコストの差で単純に説明することが可能である。これに対し、コミュニティガバナンスに取り組む正当性は自らにあるという意識が、コミュニティガバナンスの取り組みを住民から引き出すことを確認した。そして、都市公共財を自ら所有している意識の高さ、管理のためのルールを自ら作ったという経験、そして、政府から管理運営組織として承認されているという事実が正当性認識を高めると考えられる。
著者
長峯 健太郎 矢島 秀伸 清水 一紘 青山 尚平 平下 博之 Hou Kuan-Chou Chen Li-Hsin Zhu Qirong Sadegh Khochfar Claudio Dalla Vecchia
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-06-27

宇宙論的銀河形成流体コードGADGET-3を用いて、早期宇宙から現在に至るまでの銀河形成と進化の統一的理解を推進した。具体的には、新たな超新星爆発モデルとダストの破壊・成長モデルをシミュレーションコードに組み込み、ダストとメタルを空間的・時間的に追うことに成功した。銀河の光度関数や質量関数、及びダストによるextinctionの空間分布も計算した。また、宇宙論的ズーム計算においては、矮小銀河の質量獲得史および星形成史を調べた。その結果、フィードバックが強いモデルにおいては、ガスが吹き飛ばされて銀河円盤が破壊され、より乱れたガス分布の初代銀河が形成されることがわかった。
著者
村上 謙
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

明治大正期以降の関西弁が「標準語」からどのような影響を受け、変容を遂げたかについて明らかにした。また、その延長線上にある近世期にまでさかのぼって、どうであったかについても検討した。それと同時に、関西を含めた全国で、当時、どのような標準語観が存在していたかについて考察した。また、近世語研究や日本語史研究における標準語史観についても考察を加えた。これらは国語意識史の解明につながるものである。
著者
辻内 琢也 増田 和高
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

原子力発電所事故広域避難者に対して、大規模アンケート調査、半構造化インタビュー調査、人類学的フィールド調査を行なった。その結果、避難者には極めて高い心的外傷後ストレス障害(PTSD)の可能性が見いだされ、その精神的被害には、原発事故によってもたらされた経済的問題、住宅問題、賠償格差の問題、家族やコミュニティ分断の問題、などの社会経済的問題が関与していることを統計学的に明らかにした。避難者のメンタルヘルスの問題は決して個人的なものではなく、社会のいわば「構造的暴力」が避難者の生活や人生を傷つけていると考えられた。避難者の自殺予防には、様々な社会経済的問題の解決といった「社会的ケア」が必要である。
著者
江頭 進
出版者
小樽商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、地方経済に投じられた補助金が地域内の資金循環に与える影響を、エージェントベースモデルで表し、その効果の事前評価を行うことを目的としたものである。本研究機関中に、地域経済における各経済主体の行動を表現可能なエージェントの一般モデルを完成した他、2016年度に実施されたプレミアム商品券の小樽市内での影響に関する実データを収集、分析した。現在、開発されたエージェントを用いて地域経済のモデルを構築し、その予測力と実際のデータの突き合わせを行い、シミュレーションモデルの改良を行い、より事前評価力の高い方法の開発を行っている。