著者
窪野 高徳 市原 優 阪上 宏樹
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

子のう菌類、Sydowia japonica 菌を用いて、都市圏の住民に問題となっているカバノキ科樹木及びマツ科樹木の花粉症を防止するため、本菌を用いた接種試験を実施した。米ぬか・ふすま培地に培養した活性の高い本菌の菌糸塊を用いた接種試験では、クロマツ及びアカマツの雄花では感染しなかった。一方、カバノキ科樹木においては「有傷接種」で開花しない雄花が発生し、シラカバ、ヤマハンノキ及びカワラハンノキから本菌が再分離されて、病原性が確認された。そこで、防止液の散布による実用化を目指して、カバノキ科の上記3種に対して胞子体懸濁液の散布試験を実施したが、雄花には異常は見られず、花粉は正常に飛散した。
著者
浜島 良吉 勝山 邦久 橋本 学 金折 祐司 長尾 年恭 早川 正士 勝山 国久 呉 智深 鈴木 隆次 古宇田 亮一 竹村 友之 西村 進
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

不連続体場での弾性、弾塑性、粘弾性の進行性破棄に応用できる解析法が浜島により開発された。本解析手法は熱・流体・応力の連成解析にも適用された。本解析手法は結晶構造のような多角形要素にも適用可能である。変位関数として3角形要素の定ひずみ要素を用いているため、そのままでは結晶構造モデルに対しては変形を十分表現することができない。ハイブリット仮想仕事の原理は、弱形式のつり合い式と弱形式の変形の連続条件となるが、本研究では、変形の連続条件に関して、要素内と要素間の剛性にそれぞれα、βをかけ、これらの値がつり合い式を満足し、かつ変形の誤差が最小となるように定められた。ただし、α、βの間にはα=β/(β-1)の関係がある。1995年1月17日に兵庫県南部地震が発生し、多くの人名が失われた。地殻変動解析の重要性が再認識されたが、本研究では、日本列島をブロック構造に分割し、本研究で開発された不連続体解析手法を用いて解析が行われた。その結果、本解析手法により、日本列島内陸の断層の動きを比較的良く表現できることを明らかにした。本解析ではせん断破壊と引張り破壊を同時に考慮しているが、引張り破壊時には断層面上の応力を全て解放している。引張り破壊領域は危険断層とされている部分に良く対応していることが明らかとなった。本研究では、種々の方法により地殻変動解析がなされたが、目的によりそれらを使い分けて利用することが必要である。今後はこれらの解析手法をうまく融合して、地球規模の地殻変動解析まで適用可能とするようにしたい。
著者
石神 靖弘
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、近年拡大しつつある大規模温室での安定的な周年生産における複合環境制御技術の確立のために、園芸施設の環境制御に必要なコスト、具体的には夏季に蒸発冷却法の一種である細霧冷房を用いた場合の冷房効果、および冬季における暖房にかかるコストを推定するモデルを開発し、年間を通じた運用コストの推定をおこなった。その結果、年間の環境制御にかかるコストを地域ごとに推定することが可能となった。
著者
杉岡 直人 森本 佳樹
出版者
北星学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.現地調査の結果をまとめると、現状の公私協働の展開は、きわめて無原則的に取り組まれており、とくに行政職員にとまどいを与えながら、行政だけが公共を担ってきた時代から市民自身による公共の実践や市民と行政の協働としての公共へシフトするという合理的、歴史的過程において、検証を必要としながらも後戻りはできない現実を迎えている。2.ステイクホルダー理論からみた公私協働モデルは、行政と市民のパートナーシップを基調とする自治体経営のなかで、新たな公共を創造するものとして実践されているが、行政の相手となる市民は多様であり、代表性も担保されているわけではない。多くはNPOや市民活動として登場しているものをパートナーとしている。これはコミュニティを守る自覚を有する市民のエンパワメントが行政にとっての課題となる以上、ある程度は避けられない問題である。しかし、行政について市民=パートナーを具体的に特定化しようとしても取り上げるテーマが多様である以上、特定セクションのスタッフに裁量がゆだねられる。そこに議会の位置づけがあいまいになり、議会制度の逆機能がパートナーシップを生み出す一方で、パートナーシップの形成と展開および実施に対するモニタリングが不可欠のプロセスが必要となる。3.海外調査の結果(フィンランド)をみると行政は専門職としての市長(マネジャー)が議会によって招かれ、実務上の成果をあげることを求められている。議会メンバーも報酬を受けとる要素が少ないボランティアとしての性格が強いために、相互にチェック機能が働く構造となっている。この点からみると日本の公私協働モデルは、議会機能の形骸化と行政の硬直化を克服する妥協の産物といえる。
著者
片岡 達彦
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、重金属耐性遺伝子の単離と機能解析を目的として研究を実施した。重金属汚染土壌の環境回復の実現に対する貢献が強く期待されている植物特有の有用遺伝子の単離を試み、機能解析を行った。特に、硫酸イオントランスポーターによる吸収が認められているセレンやクロム毒耐性に着目して、代謝およびトランスポーターを介した、新規の重金属耐性メカニズムの解析を行った。有用遺伝子の単離は、モデル植物であるシロイヌナズナの発現ライブラリーを、酵母で発現される系を用いて実施した。植物由来のcDNAライブラリーを形質転換した組み換え体の酵母について、硫酸イオンのアナログであるセレン酸(SeO_4^<2->)やクロム酸(CrO_4^<2->)を含む培地上で、スクリーニングを行った。選抜された遺伝子については、配列を確認後、新たに完全長cDNAを有するプラスミドを作成して、再度形質転換を行うことにより、形質の確認を行った。その結果、膜タンパク局在が予想される遺伝子が選抜された。本遺伝子が属するファミリーは現在まで、機能が明らかにされていない。ファミリーに属する複数の遺伝子について、発現様式の解析を行ったところ、目的の遺伝子のみが硫黄欠乏により発現が誘導され、根及び地上部のいずれの組織においても発現が認められた。また、プロモーターとレポーター遺伝子の融合タンパクを用いた解析より、本遺伝子は根、葉のいずれの組織においても表皮細胞で強く発現されることが示された。酵母では、高親和性の硫酸イオントランスポーターとの共発現により、硫酸イオンの吸収が抑制されていることが示されたことから、吸収活性の制御あるいは硫酸イオンの排出に関わる遺伝子である可能性が示された。
著者
所 道彦
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、家族政策の国際比較研究におけるウェルビーイングのインデックスを設定するための基盤研究である。「チャイルドウェルビーイング」という概念に焦点を当てて国際比較研究を行うための手法に焦点を当てることとし、文献研究と海外におけるヒアリング調査を行った。その結果、「主観的ウェルビーイング」の尺度の用い方、各領域別のウエイトの置き方について依然として課題が残っていることが明らかになった。
著者
田中 正文 毛利 元彦 水村 和枝
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

今回の一連の実験では、長期間閉鎖・隔離された環境(海洋科学技術センター設置の潜水シミュレーターを使用)にお互いに未知である20代の男性5人を被験者とし、そこでの人間関係を中心とした行動パターンやそれに伴う心身両面でのストレス度について研究した。測定項目は共同生活中の人間関係を含む行動分析、精神的ストレスの知覚への影響や計画立案などの精神集中度の変化、対人関係の距離などであった。さらに、閉鎖・隔離環境への隔離前後、隔離中の血液分析により、内分泌系ストレス因子やNK活性の測定を行うとともにアクティグラム使用による行動量の測定、睡眠時の脳波や心電図解析により自律神経機能の変化をも検討した。結果の概要:5人で開始した実験であったが、開始2日目に1人の被験者が脱落し、以降は4人で行った。今回もリーダーの役割を果たす者の存在は認められず、結果的に2-1-1の集団構造に落ち着いた。このような構造の中で、他の成員から排斥されていると感じていた2人の被験者において内分泌系ストレス因子の顕著な上昇が観察され、閉鎖・隔離終了まで他の2人の被験者とは有意な差が認められた。閉鎖・隔離環境は刺激が少ない環境である。そこでストレスを最小限に押さえ、出来るだけ快適な生活を送ろうとすれば、自分たちで刺激を減少させる方向に彼らの行動を制御した。それは、例えば、被験者間のコミュニケーションの減少や環境内での行動量の減少であった。このような現象は現代社会において顕著に観察されていることであり、現代の人々、特に若者たちが新しい状況に直面したとき、人間関係も含む状況への適応能力において劣っていることを再証明したことになる。
著者
石田 功
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

東京証券取引所1部上場全銘柄の月次株価収益率(リターン)と個別企業財務諸表データを用いて、日本株式市場におけるコントラリアン戦略(様々な期間の過去リターンに基づき、過去低パフォーマンス銘柄を買い、高パフォーマンス銘柄を売る戦略)とモメンタム戦略(過去高パフォーマンス銘柄を買い、低パフォーマンス銘柄を売る戦略)の収益性についての実証分析を行った。結果は、行動ファイナンス理論が説くように市場での株価形成が非合理的である可能性を示唆するものもあったが、少なくとも部分的には日本の個別銘柄株価は理的資産価格モデルの予測と整合的なものであった。
著者
野田 公夫 足立 泰紀 足立 芳宏 伊藤 淳史 大田 伊久雄 岡田 知弘 坂根 嘉弘 白木沢 旭児
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

1930年代日本において、経済的価値を生み出す源として「資源」という言葉がクローズアップされたが、とくに戦争準備の過程に強く規定されたところに大きな特徴があった。農林業は持続性を犠牲にして戦争に総動員されるとともに、工業原料にめぐまれない日本では「あらゆる農産物の軍需資源化」という特異な事態をうんだ。これは、アメリカはもちろん、同じ敗戦国であるドイツとも異なる現象であり、当時の日本経済が巨大寡占企業を生み出しながら就業人口の半ばを農業が占める農業国家であるという奇形的構造をとっていたことの反映であると考えられる。
著者
相良 雅史
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、遺伝子の発現を人為的に抑制することによってそれらの遺伝子の機能を調べる方法として、近年新しく開発された手法であるRNA干渉法を利用して、目的とする癌関連遺伝子BRCA1および14-3-3σ遺伝子の発現を抑制することで、その細胞が相同組換え修復能あるいはG2/Mチェックポイントを喪失し、放射線高感受性になることを確認することである。そこで、Elbashirらの方法を参考にして、ヒト正常乳腺由来細胞MCF10においてBRCA1または14-3-3σ遺伝子の発現を抑制できるdsRNAを作製した。その際、以下の点について検討を行った。1.それぞれの遺伝子の発現抑制に有効なdsRNAの配列を検討するため、3種類ずつのdsRNAを合成して細胞に導入後、mRNAの発現レベルを調べたところ、それぞれ70〜90%の減少が認められた。2.発現抑制に最適なdsRNAの導入濃度を検討したところ、100nMで導入した際に最も発現レベルの抑制が認められた。3.細胞へのdsRNAの導入法を検討したところ、Oligofectamineを用いた導入法が最も適していた。4.発現抑制の持続期間を測定した結果、導入後72時間で最も発現レベルの抑制が認められた。5.各遺伝子の発現を抑制した細胞において、他の遺伝子発現がどのように変化しているかをマイクロアレイを用いて解析した。それぞれの遺伝子の発現を抑制した場合において、発現が抑制された遺伝子群および活性化された遺伝子群、また挙動が共通した遺伝子群に分類した。6.各遺伝子をターゲッテイングした細胞に種々の線量の放射線を照射したところ、BRCA1および14-3-3σ遺伝子のどちらの場合でも発現を抑制した細胞は放射線に対して高感受性となっていることが明らかとなった。
著者
西谷 修 中山 智香子 真島 一郎 土佐 弘之 崎山 政毅 森元 庸介
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

折からの東日本大震災と福島第一原発事故は研究課題を先鋭化するかたちで起こり、これを受けて、グローバル化した世界における〈オイコス〉再検討という課題を、 現代の文明的ともいうべき災害や核技術の諸問題、さらに近年注目されている「脱成長」のヴィジョンに結び付け、主としてフランスの論者たちとの交流を通じて〈技術・産業・経済〉システムの飽和の問題として明らかにした。その内容や、そこから引き出される展望については、下に列記した雑誌諸論文や以下の刊行物に示した。『〈経済〉を審問する』(せりか書房)、報告書『核のある世界』(A5、100p.)『自発的隷従を撃つ』(A5、121p.)
著者
米虫 正巳
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

20世紀以降のフランスにおける現象学と科学認識論という二つの哲学的系譜が交差する地点で、主に生命と認識についての問いをめぐってこれまでなされてきた探究に考察の焦点を当て、両系譜の対立によって隠蔽されてきた様々な事柄を明らかにすることを試みた。そのことから、生命/技術/科学を包括すると共に、人間/機械/自然を包括することのできる新たな自然哲学の構築が今日において可能であり、また必要であるという帰結が得られた。
著者
西井 龍映 小西 貞則 坂田 年男 秦 攀 二宮 嘉行 増田 弘毅 田中 章司郎 二宮 嘉行 増田 弘毅 田中 章司郎 清水 邦夫 江口 真透 内田 雅之
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

超高次元データにも適応可能な分類手法が近年求められている.そこで柔軟な判別境界を表現できて過学習となりにくいbagging型AdaBoostを提案した.また地球環境空間データの解析のため,空間依存性をマルコフ確率場でモデル化し,森林被覆率の判別問題や回帰問題,土地被覆割合の推定手法を考察した.なお統計モデル選択のための情報量基準についての専門書を出版した.
著者
竹沢 尚一郎 坂井 信三 仲谷 英夫 中野 尚夫
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は、本研究の最終年度でもあり、夏に研究会を開催して、本年度の研究計画と研究報告書についての打ち合わせをおこなった。本年度は、竹沢と仲谷の二人が、西アフリカ・マリ共和国での現地調査をおこなった。これには、現地研究協力者であるマリ文化省文化財保護局の局長テレバ・トゴラと、同文化財保護課長ママドゥ・シセも参加し、マリ東部のガオ地区で、2003年11月下旬から2004年1月下旬まで約72日間考古学発掘調査に従事した。これにより、西アフリカのサバンナ地帯で初めて、総石造りの建造物が出土した。規模については、20mX28mまで拡大して発掘をおこなったが、全容を解明するには程遠いほど巨大な建造物である。また時代的には、2年前におこなったガオ地区のサネ遺跡の土器との比較により、西暦7世紀から11世紀と推測される。この建造物に用いられた石については、いまだ特定はできていないが、ガオ近郊には産出されないものであることは確実であり、遠方より運ばれたものであることは確実である。ガオ地区は、中世のアラビア語文献によれば、ガーナ王国と並んで最初の黒人王国が成立した土地であり、今回の発見は、規模や材料、時代などの点から、西アフリカで発掘された最古の王宮の跡である可能性がきわめて高い。今回の成果は、規模、材料、時期のいずれの点においても、これまで西アフリカで実施された考古学発掘の成果としては類を見ないものであり、これまで謎とされていた時代の西アフリカ史の解明に大きく貢献するはずである。また、社会組織の成層化という社会人類学の重要な課題に対しても、大きな貢献をなすものと考えられる。
著者
熊谷 敦史 メイルマノフ セリック 大津留 晶 高村 昇 柴田 義貞 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現地で得られたセミパラチンスク周辺地域での検診結果情報をもとに、検診結果と精密検査・治療の現状把握を行った。平成22年には、甲状腺結節が認められた場合に治療にあたるセメイ州立がんセンターから病理医を招へいし、同時に同センターで切除された甲状腺腫瘍標本を用いて、病理組織解析、53BP1蛋白の発現解析を行った。平成23年には、セメイ州立がんセンターから病理医、診断センターからデータベース担当者を招へいし、標本追加して病理解析による放射線発がん影響の解析を進め、甲状腺精密検査結果データと、疫学センターからのカザフスタン全土の癌疫学データを合わせ旧セミパラチンスク核実験場周辺地域の発がん傾向分析をまとめる予定であった。しかしながら、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に引き続く東京電力福島第1原子力発電所事故のため、研究代表者ならびにメイルマノフ・セリックをのぞく研究分担者は全て被ばく医療専門家として福島県に繰り返し派遣され支援にあたってきたため、研究期間内に予定された研究完遂が困難となった。
著者
橘 治国
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

北国においては、降雪や積雪の汚染とその自然環境への影響が深刻な社会問題となりつつある。雨と同様に、大気を降下する雪(降雪)にも大気中の微量な有害物質が混入し、さらに地上に積もった雪(積雪)には人間活動によって廃棄されるゴミをはじめさまざまな有害物質が混入し、汚染はさらに進行する。このような汚染した雪は、春先に一度に溶けて、水や土壌環境に影響を及ぼすことになる。実際、雪の汚染による山地湖沼・小河川の富栄養化や都市近郊水域での有機汚濁や微量金属汚染が観察されている。本研究は、上記の認識のもと、水域環境の汚染制御あるいは水資源としての降雪利用という立場から、降雪と積雪の汚染の実態と汚染機構、そして汚染物質の融雪水への輸送(流出)機構を明らかにすることを目的とした。さらに、積雪の汚染制御方法についても検討を試みたものである。結果として、積雪は、大気経由のほか、道路粉塵や生活関連の廃棄物が多量に混入して著しく汚染していること、これらの汚染物質は主に固形物質からなり、これには有機物質、栄養塩そして重金属元素がかなりの濃度で含まれ、環境への影響を無視できない範囲にあることがわかった。汚染機構の特徴として、積雪はそのトラップ機能によって汚染物質が高濃度になること、局所的には道路粉塵の飛散の影響が大きいが、広域的な微細粉塵の拡散による影響も大きいことがわかった。また家庭系の廃棄物の積雪への投棄を無視できないことがわかった。このような汚染した降雪や積雪の融解による水系汚染制御に関しては、汚染物質発生源での発生量削減の努力のほか、除雪対策が密接に関連していることがわかった。汚染雪の分別除雪と処理、雪捨て場での汚染物質の流出防止対策などが望まれる。研究はまだ緒についたばかりである。個々の汚染物質の挙動と環境影響、発生源防止対策の具体化、除雪の効果的な方法などをについて継続して調査する必要がある。
著者
新 隆志 村尾 澤夫
出版者
熊本工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

診断用酵素として現在実用化されているアスコルビン酸オキシダーゼはキュウリ等の高等植物由来のものであるが.これら酵素は保存安定性が極めて悪いという分析酵素として致命的な欠点がある。そこで.研究代表者らは.より安定な酵素を微生物に求めてスクリーニングし.カビH1-25株の分離に成功した。本研究課題では.微生物で始めて得られた新規なアスコルビン酸オキシダーゼを研究材料にして.酵素の諸性質の解明.分析酵素としての実用性の検討などを目的にした。酵素生産菌株の分類学上の位置について調べた結果.Acremonium Sp.と同定した。本菌の培養上漬から酵素の分取を行い.各種クロマト操査によって.本酵素を電気泳動的.HPLC的に均一なものとして得た(収率8.8%.比活性上昇850倍)。この精製標品を用いて諸性質を調べた。本酵素の至適pHは4.至適温度は45℃.安定pH6〜10.熱安定性60℃であり.植物由来のものに比べて.極めて安定な酵素であることを明らかにした。また分子量8.0万(SDS-PAGE).7.6万(ゲルロ過).等電点4.0.銅約4グラム原子/モルを含み.糖を14.1%含むことなどの性質を明らかにした。L-アスコルビン酸に対するKmは0.19mM.分子状酸素を電子受容体として反応産物デヒドロアスコルビン酸を生成することからEC1.10.3.3に分類できる酵素であることを明らかにした。次いで応用面について検討を進め.アスコルビン酸の酸化に伴う溶存酸素消費速度を測定することによってアスコルビン酸の定量ができることを明確にした。臨床分析酵素としての実用性について検討し、コレステロール測定糸などで、本酵素の実用性が高い事を明確にした。
著者
村上 征勝 古瀬 順一
出版者
統計数理研究所
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

川端康成のノーベル賞受賞作品「雪国」の代筆疑惑を解明するため、同作品と他の複数の川端作品との比較及び三島由紀夫の作品との比較を試みた。そのため川端と三島の作品の文章を単語分割し、品詞コードをつけたデータベースの構築を行い、品詞や読点などの情報を手がかりに同作品の文体特徴を明らかにする作業を行った。川端作品としては「雪国」、「みづうみ」、「山の音」、「伊豆の踊り子」、「虹」、「母の初恋」、「女の夢」、「ほくろの手紙」、「夜のさいころ」、「燕の童女」、「夫唱婦和」、「子供一人」、「ゆく人」、「年の暮」の14作品を,三島の作品としては「潮騒」、「金閣寺」、「眞夏の死」、「愛の渇き」の4作品の全文をまず入力した。この内,川端の「雪国」、「みづうみ」、「山の音」、「伊豆の踊り子」、「虹」の5作品と,三島作品の「潮騒」、「金閣寺」の2作品に関しては,文章を単語に分割し,品詞情報を付加したデータベースを構築した。このデータベースを用いて計量分析を試み以下のような結果を得た。これまでの研究から現代作家の文章において、読点のつけ方に作家の特徴が出やすいことを明らかにしていたので,読点のつけ方を中心に行った。川端の作品は,戦後の作品「みづうみ」から作風が変わったというのが従来の通説であるが,読点のつけ方の数量的分析からは,戦後の作品であっても著述年代がもっと遡る「山の音」から変わったと考えた方が妥当であるという結論を得た。また三島と川端との関係をみるため「潮騒」と川端作品を一緒に分析した結果、川端作品と「潮騒」では読点のつけ方に違いがあることも明らかとなった。現状では、一部の情報にとどまっており、明確な結論を出すまでには至っていないが、川端の文体の数量的研究に基盤はできたように思われる。
著者
河野 裕康
出版者
金城学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1920年代半ばにドイツでR.ヒルファディング(1877年-1941年)は、1925/26年恐慌時に、産業部門間の不均衡や技術的後進性など原因を分析し、財政通貨状況を考慮しつつ、金融緩和や公共事業など景気雇用政策を積極的に提起した。また彼は内政では、産業構造の変化に伴う企業家の協調的態度や、他党派の動向等も見すえながら、連立協議に尽力し、「社会的共和国」の理念と、組織された資本主義の民主的変革を説いた。同時に彼は経済調査のために、アンケート委員会の設置運営と聴取に中心的に参画し、企業経営の公開性やカルテルなど産業組織の利点と問題点、中央銀行による景気調整など重要な論点を提示し、総じて新たな注目すべき思想展開を示した。
著者
木村 幹 浅羽 祐樹 金 世徳 田中 悟 酒井 亨
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究が明らかにしたのは、全斗煥政権が当時の状況に対して、如何なる主観的認識を持ち、どう対処しようとしたか、それが結果として、当時の韓国社会におけるどのようなイデオロギー的変化を齎したか、である。その結果は次のように要約する事が出来る。1)同政権は1980年代初頭における政治的弾圧をも駆使した結果得られた、政治的安定を大きく評価し、ゆえに多少の民主化運動の許容は、政権の基盤を揺るがさないものと考えた。2)政権内部にではこのような理解には大きな対立はなかった。3)しかしながら、実際にはこの結果行われた民主化運動は政権側の予想を超えて拡大した。4)この誤算が韓国の民主化実現に大きく貢献した。