著者
松永 和人 中西 裕二 片多 順
出版者
福岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

松永は,仏教が定着していない鹿児島県徳之島において,死の儀礼にかかわって「神葬祭」の研究調査を実施し,死者が死後神となるプロセスを分析した。当地において家内部には先祖神のみが祭られ,死者と先祖神とのかかわりにおいて死の観念上よくいわれている死の穢れということはいえず,死の穢れの概念は,本土と比較するとき,ムラの氏神に祭られている神その他外来神とのかかわりで認められるということがいえそうである。そのために,死の穢れの観念を神の種類との関係において分析的にみる必要があるということが研究調査の一つの結果である。片多は,人口100万人以上の社会としては世界一長寿である沖縄を調査地に,長寿の社会文化的要点を分析し,とくに健康と長寿を祝う沖縄に独特の儀礼を焦点に研究した。その結果,数え年85歳,97歳に行われる儀礼が,天寿を全うし安らかに死を迎える準備として機能していることが判明した。また,このような長寿儀礼は沖縄の伝統文化が生みだした人生終末期の儀礼であり,(1)仮葬儀の意味合いをもつ,(2)この機会に人々のつながりが再確認,再強化される,(3)長寿者の死への移行をスムースにする,などから長寿から死への通過儀礼としてとらえられることを提起した。中西は,沖縄において数え年の13歳から97歳まで12年毎に行われるトゥシビ-と呼ばれる年祝いの儀礼に注目し,中でも88歳のトウカチ,97歳のカジマヤ-の現地調査を行った。具体的には沖縄県北部の名護市と本部市をフィールドに,長寿を祝う儀礼についての民俗知識や観念についての聞き取り調査と参与観察を実施した。その結果,長寿儀礼の中に高齢者をめぐるコミュニティーの紐帯の強さを確認できた。しかし,その伝統が儀礼を家単位で行う傾向とともに弱体化する可能性を示唆した。また,長寿者に「アヤカル」という観念と行為を長寿以外の文脈でみていくことが今後の課題として残された。
著者
石崎 昌夫 本多 隆文 山田 裕一 中川 秀昭 櫻井 勝 櫻井 勝
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

欠勤日数・回数は低職位群が高職位群より多く、この職位による傾斜は強固なものであった。また、短期間欠勤はその内容によってはストレスコーピングの役割を果たしていると思われた。自己評価による仕事パフォーマンスは職位よりも仕事要求度といった職場環境に強く影響されると考えられる。
著者
谷村 晋
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

いわゆる小児科医不足は深刻な社会問題であるが、小児科医総数で見るとむしろ微増傾向にあり、地理的偏在などにより小児科医への受療機会が不均等になっていることが問題の本質であると考えられる。我々は、街区面積に対する小児人口密度と小見科医療機関の分布は非常によく一致していた一方で、小児人口が多いが近隣に小見科医がいない地域がいくつかあることを示した。しかし、医療機関には診察時間があり、常にアクセスできるわけではない。そこで、診察時間に基づく時間帯別アクセシビリテイマップを作成し、アクセシビリティの曜日別時間的変動を検討した結果、月火水金の診察パターンはほぼ同様であったが木土日は他の曜日とは異なるパターンを示した。月曜日の受療可能な小児医療機関の数は、0:00-6:00は1、6:30-7:30は0、8:00は2、10:00は83、12:00は30、14:00は71、16:00は79、18:00は8、18:30-19:30は0、20:00-24:00は1であった。アクセシビリティ指標が高い(アクセスが悪い)地域は、朝と夕方ではパターンが異なったが、一日を通じでアクセスの悪い地域も見られた。少数の医療機関が診察している時間帯では、その医療機関の地理的分布によつてアクセシビリティの分布が大きく異なるため、近隣の医療機関において診療時間を相互に調整することにより全体のアクセシビリティが向上する可能性が示唆された。6:30-7:30及び18:30-19:30は、どこも診察をしていないため、共働きの家庭が子供を診察に連れて行く際には困難が伴うことが予測された。本研究は、住民側の受療機会に着目した医療計画評価手段を提案するものであり、今後の小見科医不足問題に貢献するものと考えられる。
著者
牛尾 禮子 郷間 英世
出版者
吉備国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

在宅重症心身障害児(者)の療育を行う中で、母親のストレスに注目した「療育相談モデル」の開発研究に取り組んだ。方法 : (1)全国の主な通園拠点事業施設を訪問し、療育内容について聞き取り調査を行った。(2)通園施設の母親から療育に対する満足度についてアンケート調査を行った。(3)重症心身障害児施設を有する全国の国立療養所に対して、在宅支援および養育者への支援状況などに関するアンケート調査を行った。(4)国立療養所A病院に療育外来を開設した。(5)母親支援として個別相談・グループカウンセリング・ノート交換などを試みた。成果 : アンケート調査結果ではスタッフの在宅支援に対する意識の高まりが見られるが、母親支援を重視し、実際的に機能している施設は皆無であった。また母親自身の満足度は低い。本研究者らが母親支援を重視した療育外来を行った成果として、母親が自覚した変化は、(1)精神的な安定感(明るくいきいきとしてきた・気分が軽くなった・楽しみができた・安心感がある・子どもと離れることができるようになった・子どもに余裕をもって接することができるようになった、など(2)身体的な変化(体調がよくなった)(3)福祉サービスが気軽に利用できるようになった。さらに、母親たちの協力体制の確立、自己の生き方や養育姿勢、および社会に関心を示すようになり、主体的な生き方が志向できるようになってきた。結論 : 養育者である母親の心身の安定は、子どもの養育に決定的な影響を与え、QOLを高めることになる。療育は、具体的な母親支援を機能させ、療育に包括させなければならない。
著者
細田 亜津子 左海 冬彦 左海 冬彦 細田 亜津子 高橋 彰夫
出版者
長崎国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

研究成果の概要(和文):「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の一つである五島列島は、美しい景観と文化的景観を有している。しかし島の過疎化と高齢化は進んでいる。今後世界遺産登録後に予想される交流人口の増加は、この問題の解決になる一方、保全については島の人たちが将来担っていく必要がある。そのため島の異分野の老若男女の人々が交流しネットワークを作ることができた。島の景観と世界遺産を保護しながら自分たちで島の将来と町づくりを担っていく基礎を、島と島の地域間、人と人が協力してつくることができた。
著者
江口 一久
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

フィールドワークの前後、国内においては、現地で収集された資料を文字化した。文字化されたものは、そのモチーフ、話型などの比較をおこなった。同時に、すでに出版されているマンダラ山地民の社会・文化にかかわる書籍、研究論文などをよみ、今後の問題点をあきらかにした。そのうち資料としてまとまりのあるマタカム族の民間説話の「コイネー・フルフルデ語」のテキストを完成し、その英文のレジュメを作成した。この資料に関しては、北部カメルーンのフルベ族の民間説話との比較研究をおこなった。また、このテキストをもって、フィールドにのぞんだ。フィールド調査は、二度、雨期明けの一月から二月にかけておこなった。フィールド調査では、西部のマンダラ山地民、すなわち、マンダラ、マダ、ムヤン、ズルゴ族などの資料もあつめた。トコンベレ、モラ、マルアなどで、インフォーマントから直接民間説話の収集をおこなった。かれらのフルフルデ語学習歴をしるために、民間説話と同時に語り手たちのライフストーリーもあつめた。北部カメルーンの都市だけでなく、マンダラ山地民の出身地の村落なども、物質文化や精神文化をしるために、訪問調査をおこなった。とくに、イスラム化されていないかれらの村落には、さまざまな民間信仰につかわれる事物があるので、そういったものには、注意をはらった。帰国後、ある種のものに関しては、内容を理解するのが困難だから、収集した民間説話は、現地において、文字化の一歩手前の状態、すなわち、外部のものには、わからない表現、とくに、歌などの徹底的な聞き取りをおこなった。いままで、収集整理された資料を方向所としてまとめて、国立民族学博物館調査報告として、出版の準備をすすめている。この研究で得られた資料は、データ・ベースとして、インターネットで公開する予定である。
著者
杉戸 清樹 塚田 実知代 尾崎 喜光 吉岡 泰夫
出版者
国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 日常の言語場面における談話のまとまり(質問・要求・あいさつなど)が言語行動として実現される際,どのような「構え」のもとに生成され受容されるかについて,言語行動論・社会言語学の枠組みで検討することを目的として,次の研究を進めた。(1) 前年度までに行った愛知県岡崎市,東京都内などでの探索的な臨地調査の結果,及び国語研究所の従来蓄積した敬語意識調査の結果などについて,「構え」という視点から整理・分析し,より具体的な分析の手がかりとして「メタ言語行動表現」という表現類型の有効性を検討した。(2) これらの検討に基づき,「メタ言語行動表現」「構え」「ととのえる」などという研究上の観点・方法論的枠組みについて,その有効性を主張しうる見通しを得て,その内容を提案・議論する研究論文を執筆した(裏面第11項参照)。2. 本研究の最終年度にあたるため,上記の研究論文等を中心にして「研究成果報告書」をとりまとめ印刷した(A4判全75ページ)。
著者
篠崎 和弘 武田 雅俊 鵜飼 聡 西川 隆 山下 仰
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

並列分散処理の画像研究を統合失調症(幻聴有群となし群)と健常者について、脳磁図の空間フィルタ解析(SAM)をつかって行った。色・単語ストループ課題では刺激提示から運動反応までの650msを時間窓200msで解析した。賦活領域は左頭頂・後頭(刺激後150-250ms)に始まり右前頭極部(250-350ms)、左背外側前頭前野DLPFC(250-400ms)、一次運動野の中部・下部(350-400ms)に終った。複数の領域が重なりながら連続して活動する様子を時間窓200msでとらえることができたが、MEG・SAM解析のこのような高い時間分解能はPETやfMRIに勝る特徴である。左DLPFCの賦活は幻聴のない患者では健常者では低く、幻聴のある患者で賦活がみられなかった。これらの結果は統合失調症の前頭葉低活性仮説に一致しており、さらに幻聴の有る群でDLPFCの賦活が強く障害されていることを示唆する。単語産生課題(しりとり)ではDLPFCの賦活が患者群でみられ健常群では見られなかったのに対して、左上側頭回の賦活は健常群でみられ患者群では見られなかった。まとめると患者群では言語関連領域の機能障害があるために代償的にDLPFCが過剰に賦活されるが(しりとり課題)、DLPFCにも機能低下があるため(スツループ課題)、実行機能が遂行できないと推論される。このような神経ネットワークの機能障害が統合失調症の幻聴などの成因となっているのであろう。今後はネットワークの結びつきを定量的に評価する方法の開発を進めたい。
著者
班目 春樹 木村 浩 古田 一雄 田邉 朋行 長野 浩司 鈴木 達治郎 谷口 武俊 中村 進 高嶋 隆太 稲村 智昌 西脇 由弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

わが国における原子力開発利用の歴史はおよそ半世紀になる。この間、わが国における原子力規制はその規制構造を殆ど変えることなく今日にいたっている。このため、現在の原子力規制は合理性・実効性を欠き、信頼醸成を阻害する原子力システムをもたらしている。そこで、本研究では、原子力安全規制に関する知的インフラに関連する論点に焦点をあてて分析を実施し、原子力規制に関する適切なガバナンスを実現するためのフィールドの創出と論点の整理・政策提言を行った。
著者
小林 傳司 山脇 直司 木原 英逸 藤垣 裕子 平川 秀幸 横山 輝雄 副田 隆重 服部 裕幸 沢登 文治
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

現代社会における科学技術が、知的、物質的威力としてのみではなく、権力や権威を伴う政治的威力として機能していることの分析を行い、科学者共同体において確保される知的「正当性」と、科学技術が関連する社会的意思決定において科学知識が果たす「正統性」提供機能の錯綜した関係を解明し、論文集を出版した。また、このような状況における科学技術のガバナンスのあり方として、科学技術の専門家や行政関係者のみならず、広く一般人を含む多様なステークホルダーの参加の元での合意形成や意思決定様式の可能性を探求した。特に、科学者共同体内部で作動する合意形成様式の社会学的分析に関する著作、幅広いステークホルダー参加の元手の合意形成の試みのひとつであるコンセンサス会議の分析に関する著作が、その成果である。さらに具体的な事例分析のために、参加型のテクノロジーアセスメントにおける多様な試みを集約するワークショップを開催し、現状の成果と今後の課題を明らかにした。課題としては、全国的なテーマと地域的なテーマで参加手法はどういう違いがあるべきか、参加型手法の成果を政策決定とどのように接続する課などである。同時に、「もんじゅ裁判」を事例に、科学技術的思考と法的思考、そして一般市民の視点のずれと相克を記述分析し、社会的紛争処理一般にかかわる問題点や課題を明らかにした。本研究の結果到達した結論は、人々の現在及び将来の生活に大きな影響を与える科学技術のあり方に関しては、政治的な捕捉と検討という意味での公共的討議が必要であり、そのための社会的仕組みを構想していく必要があるということである。こういった活動の成果は、最終年度にパリで開催された4S(Society for Social Studies of Science)国際大会でセッションを組んで報告された。
著者
大島 慶一郎 若土 正曉 江淵 直人 三寺 史夫 深町 康
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

海水・海氷・油の流動予測の基盤となる3次元海洋モデルを開発・高精度化した。最終的には、分解能1/12度で、日本海と太平洋の海水交換も含み、日々の風応力と月平均の海面熱フラックスによって駆動されるモデルを開発した。係留系及び海洋レーダーより取得した測流データとモデルとの比較・検討により、東樺太海流・宗谷暖流に関しては非常に再現性のよいモデルを開発することができた。このモデルに粒子追跡法を取り入れて、サハリン油田起源の海水の漂流拡散を調べた。水平拡散の効果は、Markov-chain modelを仮定したランダムウォークを用いて取り入れた。表面下15mでは粒子の漂流はほとんど海流(東樺太海流)で決まり、粒子は東樺太海流に乗って樺太東を南下しあまり拡散せずに北海道沖に達する。表層(0m)では、風による漂流効果も受けるので、サハリン沖の粒子の漂流は卓越風の風向に大きく依存する。沖向き成分の風が強い年は、表面の粒子は東樺太海流の主流からはずれ、北海道沖まで到達する粒子の割合は大きく減じる。アムール川起源の汚染物質の流動予測も同様に行い、東樺太海流による輸送効果の重要性が示された。2006年2・3月に起こった知床沿岸への油まみれ海鳥の漂着問題に、後方粒子追跡実験を適用し、死骸は11-12月のサハリン沿岸から流れてきた可能性が高いことを示した。潮流による拡散効果を正しく評価するために、主要4分潮のオホーツク海の3次元海洋潮流モデルを、観測との比較・検討に基づいて作成した。この潮汐モデルと上記の風成駆動モデルを組み合わせて粒子追跡実験を行うことで、より正確な流動予測モデルとなる。オホーツク海の海氷予測に関しては、その最大面積を予測するモデルを提出した。秋の北西部の気温とカムチャッカ沖の海面水温を用いることで、3ヶ月前の時点で、高い確度で最大海氷面積を予測できることを示した。
著者
大西 一也 堀越 哲美
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

近年の住宅設計においては、過度にエネルギーに依存した建築計画、設備計画が主体となっており、自然の恩恵を享受する新たな現代的手法を目指すことが課題となっている。本研究は、昭和戦前期における中小住宅の平面型が確立していく過程で、住宅の洋風化、独立性の確保とともに、通風環境や日照環境が置かれた状況を分析し、住宅デザインに及ぼす環境的な配慮と気候設計理論を考察し、現代的展開の可能性を探ることを目的とした。昭和戦前期に『朝日住宅図案集』及び雑誌『住宅』に掲載された文化住宅において、居間の通風環境を、住宅の規模や平面形状と関係づけて分析を行った。また、大正から現代までの住宅の通風環境の史的変容についても、住宅図案集をもとに比較分析した。調査方法として、開口部の関係により居間の通風状況を簡易に算定できる指標として「通風可能面積率」を開発し、住宅の平面形状と関係づけて居間の通風環境や通風輪道を分析した。気候風土や現代の生活様式に適応した住宅を設計する上で、この通風状況を簡易に算定する指標は有効になると考えられる。『朝日住宅図案集』に掲載された住宅を対象に、断面図と平面図に基づき、住宅の採光環境を日照到達距離という断面的な簡易指標で検討し、夏季の日射遮蔽と冬季の日照確保に最適な断面形状を得た。昭和戦前期において展開した気候設計理論についてまとめることを目的として、昭和戦前期に研究者や建築家により単行本として刊行された文献や雑誌記事を対象として、室内気候設計手法を抽出整理し、当時のパッシブ手法を分析した。また雑誌『住宅』に掲載された住宅事例を対象として、室内気候設計手法の実践及び通風環境の状況を検証した。
著者
高橋 正明 黒田 剛史 門脇 正尚 山下 陽介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

地球大気の大気大循環モデルをベースにして、火星ダストの巻き上げ、およびダスト輸送を陽に表現する火星大気モデルを作成し、ダストストーム発生に関しての問題を考察し、定性的に再現可能な大気モデルを作成した。また、火星大気に生起するいくつかの現象である、傾圧波動性擾乱、火星大気における北極振動、赤道域成層圏における半年周期振動の問題を研究した。地球大気との様々な違いを示し、いくつかの興味ある結果を得た。
著者
重田 眞義 ベル アサンテ
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2009年度は、博士学位論文「地域住民による文化遺産管理の取り組み-エチオピアのハラールとアジスアベバにおける博物館活動の事例-」に関する研究成果の公刊とその準備に精力を集中した。研究分担者(特別研究員)が日本ナイル・エチオピア学会誌(Nilo-Ethiopian Studies)(1報)および、UCLAの発行するAfrican Art誌に論文2報を投稿し掲載された。また、2008年度にエチオピアのハラールで主催した国際ワークショップの成果をまとめて、京都大学アフリカ地域研究資料センターが出版する国際学術雑誌African Study Monographsの特集号を代表者と分担者が共同で編集出版した。分担者の受け入れ先である京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科においては、在来知研究グループを主催する受け入れ研究者(研究代表者)と協力してアフリカにおける文化遺産保全に関する研究会を2回開催した。11月にはアジスアベバ大学にて開催された国際エチオピア研究学会に参加し、地元アジスアベバ大学における同分野の研究者との意見交換をおこなった。あわせて受け入れ先の大学院アジア・アフリカ地域研究研究科が運営するエチオピア・フィールドステーション主催の国際ワークショップをアジスアベバで組織し、ケニア、イギリス、日本から10人の研究者、実践者を招いて研究発表をおこなった(発表題目:Communities and Cultural Heritage Centers in East Africa : A call for collaboration.)。また、これらと並行してこれまでの成果をまとめた単著の出版準備をすすめた。以上の活動を展開して、2010年5月にナイロビにおいて開催される国際学会Shaping the Heritage Landscape : Perspectives from East and southern Africa British Institute in Eastern Africaにも参加発表することが決まっている。国内では京都大学アフリカ地域研究資料センター公開講座「創る」アフリカの人びとが創りだす美と技の世界で講師をつとめたほか、JSPSサイエンスダイアログに協力して奈良と福井の高校において2回講演をおこなった。
著者
三村 秀典 青木 徹 根尾 陽一郎
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、X線入射によりCdTeダイオード内で発生する正孔によるイメージパターンをマトリクス駆動微小電子源アレイからの電子ビームで読み出すことにより、微小電子源アレイの画素ピッチで解像度が決まる、超高精細の微小電子源アレイ駆動CdTe X線イメージセンサを開発することである。本年度は、イオン注入プロセスを用いた薄膜誘起立体化により直立薄膜微小電子源からなる5×5と10×10のマトリクス駆動直立薄膜微小電子源アレイを開発した。イオン注入プロセスを用いた薄膜誘起立体化は比較的歩留まりよく、ほぼ全ての画素が動作するマトリクス駆動直立薄膜微小電子源アレイを製作できることがわかった。そこで、CdTeショットキーダイオードとマトリクス駆動直立薄膜微小電子源アレイを組み合わせ、微小電子源アレイからの電子ビームでX線照射により発生するCdTeダイオードの正孔イメージパターンを読み出すX線センサを製作した。X線センサ特性として、X線管電流とX線管電圧を変化させ、CdTeダイオード上に置いた銅版の有無とによる信号電流の変化を読み取った。その結果、この微小電子源アレイ駆動CdTeショットキーダイオードは、CdTeダイオードに入射するX線量に比例した信号を出力できるX線センサとして動作することを確認した。以上、薄膜誘起立体化によるマトリクス駆動直立薄膜微小電子源アレイとCdTeダイオードで超高精細の微小電子源アレイ駆動CdTe X線イメージセンサの開発の基盤技術を確立した。
著者
有竹 清夏
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

一部の不眠症患者は、実際の睡眠時間は質・量ともに正常であるにもかかわらず、主観的には眠れないと苦痛を訴える(主観的および客観的睡眠時間の乖離)という睡眠状態誤認に陥っている。本研究では、健常成人を対象に、主観的及び客観的睡眠時間の乖離メカニズムに関する基盤データを取得することを目的に、主に客観的睡眠パラメータが睡眠中の主観的経過時間にどのように影響するか、6ブロック評価プロトコルを用いて明らかにした。睡眠中の主観的経過時間は一日の中で睡眠をとる時間帯には関係せず、睡眠構造とくに先行する徐波睡眠量に依存することを明らかにした。
著者
五十嵐 敦 福田 一彦
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,勤労者のメンタルヘルス問題のメカニズムについて,交代制勤務による睡眠問題と職場適応の問題について実証的なアプローチを試みたものである。特に,3交代制から2交代制に移行を予定している病院の看護職の調査をメインに,地方自治体職員や一般企業との比較調査を行った。結果,初回調査では2交代制が3交代制の看護職者よりよい状況であった。しかし,3交代者が2交代に変更した後の状況については良好な状況になっていることは確認できたが,縦断調査への協力者の数が少なかったことで統計分析に十分耐えるものではなかった。3交代からの変更者が少なかったこと,交代制自体が状況によってサイクルが不安定に変更されている状況があったと見られる。自治体においては労働時間よりも作業遂行の問題や日中の眠気・入眠の問題などが精神的健康には有意に関連していることが明らかとなった。また,人材育成としての研修への積極的態度も重要な要因であった。一般企業では抑うつ傾向に対して休日の眠気や希望的態度が抑制要因となっており,Karasek(1979)のコントロール感の重要性が確認された。
著者
伊藤 博明
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

イタリア・ルネサンスに発展したシビュラの表象は、古代の『シビュラの託宣』や中世後期のテクスト的な伝統を継承したうえに、15世紀の人文主義者や新プラトン主義的哲学者の議論を背景に産み出された。その図像的総決算と言うべき、システィーナ礼拝堂天井にミケランジェロが描いた6体のシビュラ像は、8体の旧約の預言者像とともに置かれて、古典古代におけるキリスト教の普遍性を示している。
著者
井上 純一
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題最終年度のである今年度は,今まで3年間にわたり取り組んできた経路積分の方法を用いた市場履歴を含むマイノリティゲームのダイナミックスに関する解析を完成させた(プレプリント:Generating functional analysis of Minority Game with Inner Product Strategy Definitions, J.Inoue and A.C.C.Coolen).解析結果は簡単な計算機シミュレーション結果と一致した.ここでの結果は複数のトレーダーが過去まで遡る市場の履歴を情報源として共有し,自分の「売り」「買い」に関する意思決定に用いる場合,過去に履歴を遡って使うことで市場の揺らぎ(ボラティリティ)を小さくすることができるが,ボラテイリィティを最小にする履歴数が存在し,この臨界履歴数を越えると,より過去に遡った履歴を用いることによっては市場を安定化することはできないこと(ボラティリティをいくらでも小さくすることはできないこと)が明らかになった.さらに,当初の予定にあった[経済物理への展開]であるが,今年度は上記のゲーム理論に関する結果の他に,Sony bankに代表されるネットバンクの円ドル為替レートの変動メカニズムが自然界に現れるFirst Passage Timeの問題と等価であることを見出し,その統計的性質を調べるための解析手法を考案した.また,待ち行列の理論を用いることにより,顧客がネットワークにログインしてから,レートが変動するまでの平均待ち時間,及び,平均レート変動幅を評価する方法論を提示し,Sony bankの所有する実データの解析結果と一致した(Sony佐塚直也氏との共同研究).さらに,所得分布の冪則(いわゆるパレート則)をミクロなモデルから導出する試みとして,「壺モデル」と呼ばれるモデルを用いて,人々の間のお金の流れを数理モデル化し,それを解析することで,パレート則が出現する条件を詳細に議論することができた.これらの結果はいずれも今年6月にイタリアで開催される国際会議で発表予定である.プレプリント,掲載状況はhttp://chaosweb.complex.eng.hokudai.ac.jp/~J_inoue/で逐次報告していくので参照されたい.
著者
次山 淳
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本列島の弥生時代終末から古墳時代前期にあたる3・4世紀において、中国大陸・朝鮮半島をはじめとする東アジア諸地域との間にさまざまなかたちの交流があったことは、彼我の多様な考古資料と、『魏志倭人伝』等の文献史料の記載からうかがい知ることができる。本研究では、考古資料、なかでも土器を主たる材料として、当時の日本列島と朝鮮半島の交流のありかたを考察した。日韓双方の土器の分布状況の分析から、当該期には遺構の密集度の高い大規模な集落群を結ぶ交通路が形成され、対外交渉の場を博多湾沿岸におく極めて方向性の明確な通交体制が形成されていた様子が理解された。