著者
橋本 公雄 徳永 幹雄
出版者
九州大学
雑誌
健康科学 (ISSN:03877175)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.121-128, 2000-02-10

本研究はスポーツ競技のパフォーマンスを予測するための分析的枠組みを検討するため,筆者ら(1988a)のスポーツ競技不安モデルに準拠し,競技特性不安,競技状態不安,心理的競技能力,認知的評定,不安対応策などの主要な変数を用い,重回帰分析法によって検証したものである。調査対象は平成2年度第72回高校野球選手権地方大会決勝戦に出場した優秀な高校野球選手284名であった。主な結果を要約すると,つぎに示すとおりである。1) 10項目からなる心理的パフォーマンス尺度得点は実力発揮度と有意な関係がみられたことから,実力発揮度を測定していることが示唆された。2) 心理的パフォーマンスを予測するとき,競技状態不安独自に有意な説明力を持っていたが,これに不安対応策の実施数を加味すると,さらに説明力が高くなり12.2%を説明した。また,心理的パフォーマンスを心理的特性変数から予測するとき,競技特性不安の有効性は認められず,心理的競技能力のほうが高い説明力(24.9%)を持っていることが明らかにされた。3) 競技状態不安尺度得点はあがりの自己評価と有意な関係がみられ,いわゆる「あがり」の状態を測定していることが示唆された。また,その競技状態不安を予測するのに競技特性不安が極めて高い説明力(43.5%)を持っていることが分かった。しかし,認知的評価は期待に反してその有効性は確認されなかった。
著者
北村 琴美 無藤 隆
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.46-57, 2001-04-20
被引用文献数
4

本研究では,母娘関係が成人の娘の適応状態を規定する度合いを検証するとともに,娘の結婚や出産といったライフイベントによって母娘関係がどのような発達的移行を経るのかを探索的に調べるために,成人女性415名を対象とした横断的データに基づいて,独身女性,既婚で子どもがいない女性,既婚で子どもがいる女性間での比較検討を行った。その結果,母親との親密性は独身の娘の心理的適応と関連していると同時に,既婚で無職の娘の心理的適応に対してもある程度の効果を持つという結果が得られた。一方,母親への過剰な依存・接触は,職業の有無に関わらず,既婚で子どもがいない女性の心理的適応と負の関連を示していた。また,ライフイベントによる成人期の母娘関係の発達的移行に関しては,独身あるいは有職の娘と比較して,既婚で無職の娘は,母親との親密性が高く,サポートを求める気持ちが強いことが見出された。
著者
森本 泰貴 藤本 典幸 長屋 務 出原 博 萩原 兼一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.245-256, 2007-02-01
参考文献数
20
被引用文献数
2

近年,インターネットの普及とともに,飲食店などの様々な施設をWeb上で検索する機会が多くなつた.しかし現在の施設検索サイトは,事前に登録されている施設の情報を返すもの(登録型サイト)であり,登録されていない情報は得られないという問題点がある.特に,探したい種別の施設を扱う登録型サイトが全く存在しない場合,既存の登録型サイトでは探したい施設はそもそも検索不可能である.そこで我々は,ロボット型施設検索システムを開発した.本システムは施設の種別などのと地名の一部を入力とし,Webをクロールして,指定された地域内にあり(地名の指定がない場合は日本全国を対象とする),かつに適合する住所とその関連情報を自動抽出する.そしてユーザに,検索した住所の位置と抽出した情報を記載した地図を提示する.本システムを用いれば,既存の施設検索サイトが扱わない情報も含めて,様々な住所関連情報をその地理的分布とともに提示することが可能である.
著者
佐藤 敏彦 清水 宏昭
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 (ISSN:00303674)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.159-162, 2005-03-01

弊社ではサプライチェーンマネジメント改革の推進により, 旧来の押出し(プッシュ)型の生産方式を需要の変動に即応できる引っ張り型(プル)型の生産方式に革新し, 主力製品の市場競争優位性の維持と基盤強化を達成することができた.また, この改革の推進により製品の納入リードタイムの短縮, および仕掛りの圧縮と継続的な適正維持による棚卸し資産の回転率向上を実現し, キャッシュフローの改善に貢献できた.
著者
新津 洋司郎 佐藤 康史 瀧本 理修 加藤 淳二
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

組織線維症は現在全く治療法のない病態である。その責任細胞は星細胞であり、組織が傷害を受けると、それが活性化しコラーゲンを分泌するようになる。この分泌過程にはコラーゲンに特異的なシャペロン蛋白HSP47が補助的に関与する。本研究ではsiRNAHSP47を用いる事により活性化星細胞からのコラーゲン分泌を抑制する事を意図し、ラット肝星細胞での効果を検討したところ、明確に抑制効果が確認された。次いで星細胞がVitamin A(VA)を取り込み貯蔵するという性質を利用して、liposomeにVAを結合させその中に、siRNAHSP47(ラットではsiRNAgp46)を含ませてComplexを作製し、3種類(DMN,CCL4,DBL)の肝硬変ラットモデルでその抗線維活性を調べたところ、いづれのモデルにおいても明確な効果が見られた。また致死的なDMN モデルでは100%の生存率も確保できた。さらに同様な抗線維効果はDBTC膵炎ラットモデルに於いても確認された。本治療効果の機序としてはsiRNAHSP47によりコラーゲン分泌が抑制されると同時に組織中のコラゲナーゼ(一部は活性化星細胞からも分泌される)により既沈着のコラーゲンが分解される事によると考えられる。以上により本研究での開発された臓器線維症の治療法は、今後臨床への展開が多いに期待されるところである。
著者
中辻 史好 林 美樹 橋本 雅善 丸山 良夫 馬場谷 勝廣 平尾 佳彦 岡島 英五郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.1914-1918, 1985-12-20

膀胱原発のMalignant fibrous histiocytoma(以下MFHと略す)は極めてまれであり,本邦では現在までに1例のみ報告されているにすぎない.本症例は排尿困難を主訴として1982年6月4日当科を受診し,膀胱鏡にて頂部右側に直径約2cmの表面平滑な腫瘍と三角部に小豆大の乳頭状腫瘍を認めた.入院時諸検査に異常を認めなかった.膀胱二重造影,膀胱エコー,膀胱CT及び骨盤動脈造影にて頂部の腫瘍は臨床的深達度T_3a,三角部の腫瘍は臨床的深達度T_1の診断のもとに7月28日TURBtを施行した.病理組織学的に頂部の腫瘍はMFH,三角部の腫瘍はInverted papillomaと診断され,頂部の腫瘍に対しては8月10日膀胱部分切除術を施行した.術後vincristine 1mg,peplomycin 10mg,adriamycin 30mgによる多剤併用化学療法を3コース施行し,liniac 4,200radを照射した.術後28カ月現在,再発転移を認めず,経過観察中である.
著者
津田 健治 寺内 正己
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

われわれが独自に開発してきた収束電子回折法による結晶構造解析法をベースとして, 試料のナノメーター領域から静電ポテンシャル分布を求める手法を新たに開発することに成功した. この方法をLiNbO_3等の強誘電体に適用して静電ポテンシャルを決定して強誘電分極を検出した. また, この方法を応用して強相関電子系物質の3d電子軌道の秩序の可視化にも成功した.
著者
石本 淳 大平 勝秀
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

従来型電子冷却システムの限界を打破するため, 本研究では, 超高熱流束冷却が可能な高機能性冷媒としてマイクロスラッシュ二相流利用型超高熱流束電子冷却システムを提案する.マイクロスラッシュ噴霧の有する超高熱流束効果に関し, PIA粒子計測・非定常冷却熱流束のデータベース化とCFD計算条件取り込みによる融合計算を用いた総合的アプローチを行った.その結果, マイクロスラッシュ噴霧は液体窒素噴霧と比較して, 1. 5倍程度の限界冷却熱流束を得ることが可能であり, 新型電子冷却法開発の基盤となる成果を得た.
著者
岡村 久道
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.501-509, 1997

近時,インターネットは飛躍的な発展を経験してきた。現在,サイバースペースにおける最も重大かつ有名な問題の一つは,ドメイン名と登録された商標との対立である。ドメインネームは,申請順に割り当てられることになっているので,しばしば無関係な第三者が著名な商標を勝手にドメイン名として登録してしまう。この問題に対処するため,NSIは,1995年7月28日,ドメインネームの紛争に関する指針を公表した。しかし,この試みも失敗に終わっている。NSIの意に反して,それは単にNSIを多くの訴訟に引きずり込んだというだけであった。今日,IAHCとWIPOとは,gTLD(generic top-level domain name)という新たな試みを行っている。
著者
河本 和子
出版者
岩波書店
雑誌
思想 (ISSN:03862755)
巻号頁・発行日
no.1025, pp.72-95, 2009-09
著者
嶋本 利彦 MITCHELL Thomas Matthew MITCELL Thomas Matthew
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,断層帯の内部構造,力学的性質,浸透率のような水理学的性質に関する構造などを調べて,地震の発生過程および地下深部における流体移動の定量的な解析に必要な断層モデルを提示することである.南米チリのアタカマ断層では,断層帯の内部構造と断層帯に接する母岩中のダメージ分布をより詳細に解析して論文で報告した(Mitchell & Faulkner,2009)。この研究では,顕微鏡スケールの微小クラックから地質断層に至る5桁におよぶ規模で,ダメージ分布が定量的に解析された.その結果,ダメージの程度を示すクラック密度は断層コアからの距離のべき乗に比例して減少することが明らかになった.断層帯のダメージ分布がこのように詳細に調べられたのは初めてである.今後クラック密度と浸透率,弾性波速度などの関係を決めることによって,断層帯全体の浸透率・速度構造モデルを決める道が開けた.有馬-高槻構造線と米国カリフォルニアのサンアンドレアス断層では,衝撃粉砕岩の野外調査と変形組織の解析をおこなって,結果を国際会議で報告した(論文は現在執筆中).衝撃粉砕岩(pulverized rock)とは,著しく粉砕しているものの,母岩の組織(花崗岩の等粒状組織など)を残していて,通常の断層のような著しい変形をうけていない岩石のことである.最近命名されて何故そのような岩石が断層沿いに形成されるかが議論されている.本研究では,両断層とも,断層コアの両側で断層帯の幅が著しく違うこと,破砕物の粒径分布で共通性が認められることなどを見いだした.その他,蛇紋岩断層ガウジ',無水石膏とドロマイトからなる断層ガウジの高速摩擦実験を共同でおこない,断層は高速時に大きな強度低下を起こすこと,摩擦熱で層状鉱物からなる断層ガウジは脱水・脱ガス分解をして天然の組織とよく似た剪断組織が形成されることを見いだした(学会で発表).
著者
岡本 美樹
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
no.21, pp.367-371, 2005-06-20

The purpose of this research is to classify the contents of "The E. T. Blacket Plans" which are kept in the archives of the State Library of NSW (Mitchell Library). The Total 4745 sheets of original materials include not only drawings of Edmund Blacket but those of his sons' office, sketches and letters. 1963 sheets of total materials became an object of this research. I made through investigation of seal and stamp of each drawings, and checked the characteristics of title logo. The following facts were found out as that result; 1. Six architects offices of Blackets have 12 types of seals. 2. 235 sheets of total 1963 drawings were stamped with the seal of Edmund Blacket's office, and 366 sheets were stamped with the seal of his sons' offices. 3. The project which Edmund Blacket dealt with to the end are only 22 of total 114 projects.
著者
齋藤 宏之
出版者
日本大学
雑誌
日本大学経済学部経済科学研究所紀要 (ISSN:03859983)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.87-104, 1991-03-20

Wesley Clair Mitchell, while analyzing the evolving stage of capitalism after the 1870's, when concern about monopoly, poverty, depression, and waste increased and institutional contradictions of the U.S. intensified, at the same time raised objections to the unrealistic assumptions of orthodox economics and the conclusions derived from them. Many orthodox economists, however, still adhered to the classical school dating back to Adam Smith, and subscribed to the view that the laissez-faire system was satisfactory. They were unable to propose an effective prescription against the above mentioned unexpected harms which had resulted from the Smith-derived laissez-faire policy. Under these circumstances, Mitchell attempted to propose national economic planning from the standpoint of advancing social control and reform. This gave him an important opportunity to thoroughly criticize the Smith's economics. In view of this, I will mainly focus my consideration on Chapter 2 "Adam Smith and How Political Economy Came to be Systematized in England" in Mitchell's Types of Economic Theory: From Mercantilism to Institutionalism. I would also like to find out how much Mitchell revealed, in his statement taken up in this article of mine, form the social reformist viewpoint of advocating the achievement of social change through government intervention in the economy, the relationship between laissez-faire and self interest derived from Smith's hypothesis on the characteristics of human nature, which was his answer to its central issue. Then Mitchell detected that Smith's belief in laissez-faire had derived not from observations but from a syllogism developed around his conception of human nature, i.e. it was conclusions through a series of reflections and reasoning. Mitchell further perceived the historical limitation of Smith's theory in the sense that his faith in individual initiative embodied a new practice, which was becoming a mass phenomenon in the 18th century England. Taking account of these points, we can essentially and comprehensively understand the ineivtability that Mitchell, when he was faced with the institutional contradictions of the American monopolistic capitalism, chose the economic theory of Smith as the object of his criticism and the conclusions he reached in the relatively late stage of his scholarly life.
著者
牧野 俊郎 若林 英信
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,熱工学の立場から人間の生活環境と地球の自然環境のほどよい共生を図ることをめざす萌芽的な研究である.人間の生活環境の改善はわれわれの当然の希望であり,とりわけ日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすための努力はあってよい.ところが,その生活環境の快適さを実現するために空気調和機器(エアコン)をもってすれば,その使用電力分が地球大気に熱として放出され,さらにその電力生産にともなう熱が大気に放出されて,地球の温暖化を促進する.すなわち,エアコンに頼って快適さを追求しつづける限り,生活環境と地球環境との共生は難しい.本研究の要点は,(1)壁によるふく射冷却と(2)水蒸気を呼吸する壁である.電力よりは自然の自律制御機能に依存して人間の快適さを追及することである.本研究では,夏に涼しく冬に暖かい生活・暮らしの実現に貢献できる技術の開発のために,ふく射伝熱と水蒸気を呼吸する高熱伝導性の多孔質体に注目する.自律的な生活環境制御機能をもつ生活空間の壁をバイオマスの暖かさをもって実現することをめざす.このような人間生活と自然現象を見つめる熱工学研究の萌芽が育つことの社会的意義は大きいと考える.平成19年度(初年度)は,室内の生活空間における伝導伝熱・対流伝熱・ふく射伝熱・相変化をともなう熱・ふく射・物質輸送(heat, radiation and mass transfer)現象を考察し,その現象をよりよく制御するための生活環境自律制御型の高熱伝導性・高吸湿性の室内壁ユニット(第一壁)の開発を行った.すなわち,まず,計10種の第一壁の試料を作製した.次に,測定装置を作製し,第一壁の(有効)熱伝導率・(全垂直)放射率・平衡(質量)含水率を測定した.
著者
K・H Feuerherd 中野 加都子
出版者
神戸山手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

人間が何を重視するか、何を好むかといった問題は、それぞれの国の文化や自然的な条件、歴史によるものである。日独のライフスタイルを比較した結果、日本では便利さを追いかけることが目立つ。例えば、日本にある自動販売機の総数は世界一であり、自動販売機による消費電力は、出力110万キロワットの原発1基の年間発電量の8割に相当する。日独が比較される場合に必ず引き合いに出される例が容器包装ごみの問題である。ドイツでは、デュアルシステムという民間が主体となって行う容器包装ゴミのリサイクルシステムを整備したため、ゴミ問題は解決できたということが非難されている。しかし、日本では、家庭の主婦は夕食のために毎日のように買い物に行き、主食以外に何種類もの料理を準備する。内容も和食、洋食、中華など様々なものが取り入れられる。食材の調達方法も街の市場、スーパーマーケット、24時間営業のコンビニエンスストアから通信販売まで多様である。おまけに翌日配達の宅配便の普及や冷凍技術、真空包装の急速な進展のおかげで、日本のすみずみから産地直送の食材を手に入れることもできる。したがって、日々の消耗品に関わるごみが多く排出され、そのことが日本の環境問題を特徴づけている。ドイツでは消耗品が大量に排出されるようなライフスタイルを受け入れておらず、そのことがドイツの環境との接し方を特徴づけている。故に、日本とドイツとの決定的な違いは「出口」ではなく、「入口」である。しかし、一度獲得した便利さを失った時の不自由さは耐えがたい。ドイツから学ぶことは、「出口」対策としてのリサイクル方法や法律より、「入口」で一人一人が自分にとって必要かどうかを冷静に判断し、不必要なことを拒否できる主体性である。これは、日本での循環型社会形成推進基本法で明確にされたリデュースを最も優先する基本的考え方と非常にマッチすることが、この研究で明らかになった。