著者
南 伸昌 伊東 明彦 堀田 直巳
出版者
宇都宮大学
雑誌
宇都宮大学教育学部教育実践総合センター紀要 (ISSN:13452495)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.153-160, 2006-07-01

理科離れの象徴ともいえる物理の力学分野の理解を助けるために,運動方程式の導出までを指導する教室レベルの実験プログラムを検討した。方法としては,力学台車をバネばかりで一定のカが加わるように押すもの,軽量台車を扇風機の風力で自走させるもの,の二つを用い,それぞれサイエンス・パートナーシップ・プログラムの高校生講座において実施した。
著者
吉田 治典 上谷 芳明 梅宮 典子 王 福林
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

都市のヒートアイランドなどに代表される熱的環境悪化の改善と都市の省エネルギーを、都市街区と建築をリンクした熱環境評価をベースにして研究し、次の5つのサブテーマに分けてまとめた。1.都市街区の熱的環境分析と環境改善種々の街区構成や地表面状態の異なる都市上空で顕熱・潜熱流を計測し、その特性を分析するとともに、街区の3次元CFDシミュレーションを建物や道路の表面温度と緑化の蒸散モデルを与えることにより行って熱環境の改善や開発の指針を示した。2.都市と建築のインターフェイス空間としての街路における熱的快適性評価自然の影響を受けて形成される内外空間の体感評価を、申告調査と物理的温熱環境要素の測定結果の両方を基にして行った。また、町家の多様な住まい方や工夫を,環境の物理測定、主観申告調査、行動様式調査などの総合的な視点から調査分析し、住み手が主観的に快適な環境と感じるのはどういう環境かを明らかにした。3.樹木からの蒸散量推定のためのモデル化樹木の蒸散現象を気孔コンダクタンスによってモデル化し、そのパラメーターを推定する手法と実在の樹木の葉面積を算定する手法を確立して、街区の熱環境予測に利用できる樹木の蒸散量を見出す手法を開発した。4.全天空輝度分布の推定法と応用天空放射分布をモデル化し熱負荷への影響を一様分布の場合と比較し、その差を分析した。また、人工衛星で得られるリモートセンシングデータを用いて特定の室の照度をシミュレーションで推定し照明設備を制御する手法を確立した。5.都市への熱負荷を減少するための季間蓄熱システム季間蓄熱システムを備えたビルの蓄熱エネルギー最適制御法を開発し、このシステムの性能をシミュレーションで再現して検証を行った。また、このモデルを用い最適な運転制御方法を開発し、それを実システムで確認した。以上の成果を、33編の査読付き論文と、99編の口頭発表論文に報告した。
著者
大住 晃 大瀬 長門 澤田 祐一 井嶋 博
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,超高層ビルの不規則外乱(地震動や風など)による振動の抑制に対するアクティブ制御問題について,高層ビルに加えた入力とその出力である振動データに基づいてアクティブ制御方式を確立することを目的としている.制御対象となる構造物のダイナミクスのモデリングは本研究代表者がすでに確立している連続時間部分空間システム同定法を用い,また制御法としては,すでに確立している地震動と風外乱それぞれを分離して制御する機能分担(Functionally Assigned Control)方式を用いた.縮尺1/200の実験模型を製作し,実験を実施してモデリングと制御が理論どおりに行なわれていることを確認した.(i)平成16年度:入出力データを用いてモデリングを行う部分空間システム同定アルゴリズムの構築と,アクティブ制御方式(FAC制御方式)のコンピュータアルゴリズムの確立およびコンピュータシミュレーションによる確認を行なった.またスケールモデルとして地上200m,50階建て,一辺が40mの高層ビルを想定し,その1/200の模型を製作し実験を実施した.(ii)平成17年度:カルマンゲインを含めたシステムの部分空間同定アルゴリズムを構築し,初年度に製作した実験モデルを用いて制御実験を実施した.(iii)平成18年度:FAC制御方式を予測制御アルゴリズムに組み込み,構造物の縮尺モデルでは偏心によるねじりを考慮し,x, y-2軸のアクチュエータにより制御が可能であることを確認した.
著者
塩野 正明
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.LDE法によりリボヌクレアーゼAp1の直接構造決定を試みた。分解能8Aの反射にランダムな位相を与え、実測データの上限である分解能1.17A(23853反射)まで位相を拡張及び精密化を行ったところ、平均位相誤差81.7°、規格化構造因子と修正後の電子密度から得られた構造因子の大きさにより重みを付けた平均位相誤差76.5°が得られた。この位相により計算された電子密度から主なピークを拾ってみると、大きなものから順に、1、4、5、8番目のピークがS原子のものであることが判明した。ちなみにリボヌクレアーゼAp1の分子は5つのS原子を含む。2.リボヌクレアーゼAp1の空間群はP2_1であり、b軸に垂直にハーカーセクションが現れる。ハーカーセクションが現れるピークがすべて自己ベクトルに起因するものと仮定し、電子密度にフィルターをかけてみた。これを用い、全反射にランダムな位相を与えて初期値とし、位相精密化を行ったところ、20回の試行のうち18回、1.で得られた位相と同等のものが得られた。3.リボヌクレアーゼAp1の5つのS原子の位置より計算した位相を初期値として精密化を行ったところ正しい構造が得られた。LDE法は部分構造から全体構造を導出する能力に優れており、1.と2.で得られた電子密度から正しい構造が得られる可能性は十分にある。これについては現在計算中である。4.LDE法とヒストグラムマッチング法の比較検討を行った。ヒストグラムマッチング法は低分解能から高分解能のデータまで適用出来、ある程度は位相精密化可能である。LDE法は、低分解能領域においてはヒストグラムマッチング法に劣るものの、高分解能領域では位相拡張及び精密化の能力は非常に優れていることが判明した。5.LDE法を、実測データが手元にある2‐Zn‐pig‐insulinとリボヌクレアーゼSaに適用した結果、どちらの構造でも平均位相誤差70°からはじめて、重み付き位相誤差55°程度まで精密化することに成功した。
著者
安岡 則武 安岡 則武
出版者
姫路工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

硫酸還元菌Desulfovibrio vulgaris Miyazaki F 株のヒドロゲナ-ゼは膜結合性の酵素で、2個あるいは3個の鉄ーイオウ・クラスタ-のみを活性部位としている。このヒドロゲナ-ゼ結晶(分子量89000)の鉄原子の異常分散を利用して、その活性部位の位置を決定するため5波長のX線を用いて回折実験を行い、活性中心を同定することができた。X線の光源には高エネルギ-物理学研究所のSR光を使い、測定装置は坂部らの開発した巨大分子用ワイセンベルグカメラを利用した。反射デ-タは富士フィルム社のイメ-ジングプレ-トに記録させ、BA100で読み取った。回折強度の結晶間のスケ-リング時に導入される誤差を除くため、5波長の回折デ-タを1個の結晶から収集した。X線の波長は1.75(Δf'=5.34,Δf''=0.47)、1.74(Δf'=ー6.1,Δf''=3.94)、1.73(Δf'=ー4.49,Δf''=3.89)、1.49(Δf'=0.89,Δf''=3.03)、1.00A(Δf'=0.236,Δf''=1.56)を用いた。測定した回析強度パタ-ンを指数づけした後、ロ-カルスケ-リングなどを施し一連のデ-タセットとした。スケ-リングのR値(Rscale)は全てのデ-タセットについて4〜5%前後であり、測定時に大きな系統的誤差が導入されていないことがわかった。各波長のデ-タ間のRmergeに着目すると、Δf'やΔf''の差が大きい波長において、Rmergeの値が大きくなっている。これは予想通り異常散乱効果が観測されたことを示している。得られたFーデ-タについて、(F(1.74)ーF(1.00))^2,(F(1.75)ーF(1.00))^2,(F^+(1.74)ーF^ー(1.73))^2などを係数とするパタ-ソン関数を計算した。それぞれのハ-カ-セクションにおいてつじつまの合うピ-クが現れている。しかもこのピ-クが異なったパタ-ソン関数に共通して見られる。このようにして 2つの鉄ーイオウ・クラスタ-の位置を同定することができた。
著者
志水 勝好 小村 繭子 曹 衛東 石川 尚人
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.314-320, 2003-09-05
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

ケナフ2品種(粤豊1号および農研センター維持系統)を1999年と2001年に圃場で栽培し,1999年は1回(10月18日〜11月5日),2001年は生育時期別に4回(粤豊1号:茎葉生長初期(7月3日,播種後57日目),茎葉生長中期(8月9日,播種後94日目),茎葉生長後期(9月7日,播種後123日目),開花初期(10月11日,播種後157日目),農研センター維持系統:茎葉生長初期(7月3日,播種後57日目),茎葉生長中期(7月25日,播種後79日目),開花期(9月7日,播種後123日目),種子登熟期(10月11日,播種後157日目),部位別の生体重と乾物重を調査した.また,2001年には主茎上位葉の光合成速度および全葉の粗蛋白質含有率と無機成分含有率を測定した.さらに,両年とも栽培期間中の地上部形態の推移を測定した.農研センター維持系統では両年とも播種後120日頃から主茎の節数と草高の増加が緩慢となり,主茎残存葉数は減少した.しかし粤豊1号では,4回目の調査期まで節数,主茎残存葉数とも増加した.光強度1600μmolm^<-2>s^<-1>下で測定した光合成速度は両品種とも第3回の調査期まではC_3植物としては高い値を示し,農研センター維持系統の最高値(第2回目の調査時期)は平均39.4μmol CO_2 m^<-2> s^<-1>であった.粗蛋白質含有率は両品種とも生育が進むにつれて減少する傾向を示したが,農研センター維持系統では播種後約80日目の開花後に急減した.Ca含有率は,Na,KおよびMg含有率に比較し,生育が進むにつれて著しく高くなった.これは葉を飼料に利用する場合に有利な特性と考えられる.
著者
桐畑 哲也
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本の大学発ベンチャーの知的財産マネジメントにおける外部資源活用実態として,(1)事業計画策定にあたって外部資源から助言を受入れていない割合がイギリスの2倍以上に上る,(2)経営人材獲得において個人的ネットワークが中心となっている,(3)資金調達において自己資本,公的補助が中心となっている,(4)大学への依存が高いこと等が明らかとなった.日本の大学発ベンチャーは,個人的ネットワーク,自己資本への高い依存等,外部資源の活用が十分ではない.また,大学への依存が高く,他の外部資源との連携が十分ではないことが課題である.
著者
桐原 和大
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、測定対象の分子に強電界などのストレスをかけずにその伝導性や電子構造を知る新しい分子デバイスとして、有機分子の熱起電力を測定する素子を構築することを目的とする。ミクロンからサブミクロンに至るスケールの微小領域の熱起電力測定システムを開発し、その信頼性の評価として、ボロンナノベルト1本の熱起電力の測定に成功した。サブミクロンギャップの微細電極間に、有機分子を架橋するためのAuナノ粒子とAl_2O_3マトリクスのナノコンポジットを製膜した。その結果、約5nmの粒径のAuナノ粒子が最小2nm程度の粒子間隔で分散した薄膜を堆積出来た。しかしながら、測定ターゲットであるビピリジン誘導体を固定化しても、電流電圧特性に変化があるものの、再現性が見られなかった。ナノ粒子間隔をさらに小さくする必要があることを示している。
著者
堀畑 正臣
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

室町前期の古記録(中原師守『師守記』(記録1339~74)、三条公忠『後愚昧記』(記録1361~83)、伏見宮貞成親王『看聞日記』(記録1416~48)に於ける記録語・記録語法の調査と研究を行い、(1)記録語「計會」、「秘計」の意味の変遷をまとめ、(2)『看聞日記』の記録語「生涯」についての先学の記述の訂正と意味を論じ、(3)記録語法の「有御~(御~あり)」について『覚一本平家物語』と古記録資料の関係を究明し、(4)これらを収めた研究成果報告書を作成した。(5)また、多くの記録語・記録語法の用例をカードに取り、今後の研究に利用できるようにした
著者
松本 峰哲
出版者
種智院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は、『カーラチャクラ・タントラ』及び、『ウィマラフラバー』の翻訳研究と平行して、特に『カーラチャクラ・タントラ』の成立に重要な影響を与えたとされる『ナーマサンギーティ』の注釈書『アムリタカニカー』のテキスト再校訂及びコンピューター入力、そして翻訳研究を行った。再校訂作業が難航し、翻訳が進まなかったため、成果を外部に発表するまで至らなかった。しかし、従来指摘されてきた『カーラチャクラ・タントラ』と『ナーマサンギーティ』の関係について、特に本初仏に関する論議があまり行われていないなど、従来指摘されていた両教典の密接な関係性について、疑問を提示する箇所がいくつか見つかっており、この点に関しては、今後なるべく早い段階で発表したいと考えている。また、本年度は『ヴィマァプラバー』が、『カーラチャクラ・タントラ』の説かれた場所であると説明するインドのアマラヴァティーの遺跡を実際に調査し、許可を得て、博物館の収蔵物を写真撮影した。遺跡から発掘された遺品には、密教に関するもの非常に少なく、また、アマラヴァティーの遺跡自体も『ヴィマラプラバー』に説かれる仏塔のイメージとはかなり異なっていることから、なぜ『ヴィマラプラバー』に説かれるアマラバディーの異名とされるダーニヤタカタの仏塔が、現存するアマラバディーの仏塔と同一のものなのか、新たな疑問が浮かび上がった。
著者
湯川 恭敏 BESHA Ruth M 加賀谷 良平
出版者
東京外国語大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1988

今年度は、前年度の現地調査によって得られた以下のタンザニア諸言語(部族語)のデータについて、できる限り多くのものの整理と分析を目標とした。チャガ語マチャメ方言、同ヴンジョ方言、同キボソ方言、パレ語、ズィグア語、ザラモ語、ゴゴ語、ベナ語、マトゥンビ語、マコンデ語、マンダ語、ニャキュサ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ニャムウェズィ語、ハヤ語、サンダウェ語また、タンザニアからの参加者ルス・Mベシャは、シャンバラ語(サンバー語)についての研究を整理した。その結果、以下の諸言語に関してかなりの水準の分析ができた。チャガ語マチャメ方言、パレ語、ザラモ語、ゴゴ語、マコンデ語、ニハ語、ニャトゥル語、ランギ語、ニランバ語、スクマ語、ハヤ語それらの分析結果の多くは、科学研究費補助金による出版『Studies in Tanzanian Languages』に、ベシャの論文とともに収録されている。バントゥ諸語のように互いに似通った文法構造を有し、かつ、欧米諸国の研究者によってある程度の研究がなされている言語については、個別言語の文法等についての初歩的事実を記述するのでは(仮にその言語についての研究としては初めてであったとしても)言語学的意味がほとんどないので、我々は各言語について、その全体的な音韻・文法構造を把握すると同時に、従来バントゥ諸語研究全体としてみて不十分であった分野のつっこんだ分析をめざした。その分野とは、主にアクセントの領域であり、日本語とよく似た高低アクセントを有するバントゥ諸語のアクセントの解明は、その言語そのものの研究にとって重要なものであるとともに、一般言語学的にも極めて重要なものである。その中でも、動詞のアクセントは、バントゥ諸語の動司の文法的複雑さ(動詞語幹にさまざまな接辞がくっついて数多くの活用形ができあがるという特徴)のために、その解明に特別の努力を要するものであり、また、それを解明するには、その言語の動詞にいかなる活用形が存在するのかを前もって知っている必要がある。すなわち、その言語の文法に関する総合的知識を必要とするため、各言語の全体的な構造の紹介と言語学的に高度な分析とを統一的に遂行するには恰好の領域といえる。我々の努力がこの線に沿ってなされたのは、こうした理由による。なお、タンザニアのバントゥ諸語には、チャガ語やスクマ語のようにかなり複雑なアクセント体系を有する言語がある一方、ザラモ語のようにアクセント対立がなくなっているもの、あるいはかなり簡単化しているものも相当ある。そのような言語についても、動詞組織の解明に意味がないわけではないので、そうした論文も発表した。また、ベシャの研究は、シャンバラ語の話し手としての言語感覚を生かした研究を行ってほしいという我々の要望に応えたものとなっている。こうした面での努力と同時に、我々は、二つの言語を選んで、その語彙集を同じく科学研究費補助金によって編纂し出版した(ニランバ語、パレ語)。これらは、従来この種の辞書類にはあまり見られないアクセント表記を付したものであるとともに、タンザニアの国語であるスワヒリ語の単語をも(今後のスワヒリ語と部族語との比較・対照研究の便宜をはかるために)つけ加えたものである。以上の研究は、タンザニア124部族のうちの約1割の言語を扱ったにすぎないという点では初歩的といわざるをえないし、今後の一層の研究(既存データの分析と新たな調査)を必要とするけれども、少数の研究者による短期の調査によるものとしては質量ともにおそらく世界的にも他に類を見ないものであり、これによって、タンザニアのバントゥ諸語の研究の発展に重要な寄与をなしたといえるのみならず、広くはバントゥ諸語の記述・比較研究にも一定の寄与をなしえたといえよう。バントゥ諸語比較研究との関連でいえば、そうした研究のレベルは個別言語の記述がどこまで正確であるかによって規定されるものであり、個別言語の言語学的分析を中心とした我々の今回の研究は、その小さな部分にすぎないけれども、それなりに極めて重要な意義を将来にわたって持ち続けることになろう。
著者
御子柴 道夫 長縄 光夫 松原 広志 白倉 克文 清水 昭雄 大矢 温 加藤 史朗 清水 俊行 下里 俊行 根村 亮 坂本 博
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

18世紀後半から19世紀前半までのロシア思想史を、従来の社会思想史、政治思想史に偏る研究視点から脱し、それらを踏まえたうえで、狭義の哲学思想、宗教思想、文学思想、芸術思想の多岐にわたる面で多面的に研究してきた。その結果、従来わが国ではもっぱら思想家としてしか扱われてこなかったレオンチェフの小説にスポット・ライトが当てられ、逆に小説家としてしか論じてこられなかったプラトーノブやチェーホラが思想面からアプローチされた。またロシア正教会内の一事件としてわが国ではほとんど手つかずだった賛名派の騒動が思想ないし哲学面から解釈された。さらに象徴派の画家やアヴァンギャルド画家が哲学あるいは社会思想史の視点からの考察の対象となった。と同時に、これらの作業の結果、ロシアでは文学、芸術、宗教儀礼、あるいは社会的事件さえもが思想と有機的に密接に結びついているのではないかとの以前からの感触が具体的に実証されることとなった。また、文化のあらゆる領域を思想の問題としてとらえた結果、当該時期のロシア思想史をほとんど遺漏なく網羅することが可能になった。この基本作業をふまえて、いくつかのテーマ--近代化の問題、ナショナリズムとグローバリズムないしユニヴァーサリズムの問題、認識論や存在論の問題などが浮上してきた。分担者、協力者各自の研究の中で当然それらのテーマは咀嚼され発展させられてきたが、今後はこれらのテーマを核に、この4年間で蓄積された膨大な素材を通史的に整理し止揚する作業を継続してゆき、書籍として刊行して世に問うことを目指す。
著者
山下 暁美
出版者
常磐大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

「お」・「ご」の使用、「丁寧語の異なる動詞」の使用とともに「性差」、「年齢」と相関関係が見られないことが明らかになった。いいかえれば、「老若男女」に関係なく、言葉が使われている。しかし、「世代」と「母語」については「丁寧度の異なる動詞」の使用との間に強い相関関係が認められた。「世代」をさかのぼるほど丁寧度の高い表現が選択される傾向がある。戦前の国語教育の歴史が垣間見られる。3世のほうに5段階のぞんざいな表現を使用する傾向が見られる。しかし、ぞんざいな表現を使用するからといって、3世には相手に対する顧慮がないということは言えない。親愛の気持ちを表現している可能性は十分にあり、「ね」の使用が見られる。3世に近づけば近づくほど、階層差をわきまえることより、親愛の関係を協調することが人間関係にとって重要であると認識されているように思われる。「コロニア在住経験のある人」のほうが丁寧な段階の表現を使用している。コロニアにおいては戦前から皇民化教育として国語教育がしっかりと行われていた。家庭内で学習された日本語とコロニア内の学校における国語教育の影響が見られる。両親のどちらかが西日本出身である場合は「レル・ラレル」形の使用率が高い傾向があるが、日系ブラジル人全体としても「レル・ラレル」形は今もよく使われ、共通語家の様子がうかがわれる。西日本、なかでも中国、九州地方を中心とした方言が生きていることからもこのことが裏付けられた。