著者
伊藤 佐枝
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.19-30, 2004-02-10 (Released:2017-08-01)

有島武郎『石にひしがれた雑草』は、<愛>という最も私秘的な感情が、既にその愛する相手自身との関係性によって介入され構築される場合を、<誘惑>というモデルケースで追究した作品である。この小説は三角関係を扱ったものとして「欲望の三角形」図式やホモソーシャリティと関連づけて論じられるが、男主人公「僕」は実はどの男に嫉妬するよりも自分を<誘惑>した女主人公M子自身に嫉妬しており、彼女をめぐってホモソーシャリティや「世間」に執着するのも<誘惑>の結果としてである。本稿は改めて「欲望の三角形」図式にこの事態を位置づけ直す一方、<誘惑される主体>というキーワードを用い、<誘惑>が個人の独立した行為というよりも関係性を表す概念であり、しかし或る行為を<誘惑>と決定するのは受け手個人の主観であるという<誘惑>のパラドックスから、『石にひしがれた雑草』の特質の一端を読み解く事を目指した。
著者
稲葉 洋子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.64-70, 2008-02-01 (Released:2017-04-28)
参考文献数
8

世界の文化を比較研究するファイル資料としてアメリカ・イェール大学で開発され,現在も世界中で利用されているHuman Relations Area Files (HRAF)がある。国立民族学博物館は1976年HRAFの正会員となり,大学共同利用機関としてファイル情報の提供や利用法の研修会を開催し,利用促進や広報に努めてきた。また,館内においてはHRAFを研究に活かしていくだけでなく,標本資料や文献図書資料等所蔵資料の分類にHRAFの分類法の一つであるOWC分類を付与している。紙ファイルからWeb版に媒体変更しつつあるHRAFは会員数を着実に増やしているが,民博でもより研究に活かしてもらう方法を考える時期にきていると考える。
著者
雨貝 孝
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.13-31, 2008 (Released:2008-05-27)
参考文献数
8

日常的なスポーツ:運動はその生理的効果としての循環系の活性化、 代謝系の活性化、 ストレスの解消を通して、 免疫系に対して(1)バリアーシステムの強化、 (2)防御系細胞の増加、 (3)細胞移動能力の亢進、 (4)サイトカイン産生能の亢進などにより増強効果を示す。 その結果として、 スポーツの感染症予防効果、 体質改善効果、 老化に伴う免疫低下の改善が示されている。 他方、 強度の運動ことにオーバー・トレーニングの免疫系への急性障害として、 過度の運動や無酸素運動がストレスとなり視床下部―下垂体―副腎軸の活性化にともなう副腎皮質ホルモンの効果として免疫抑制作用を示すこと、 運動に伴う組織障害による炎症性サイトカインの産生により急性炎症が起こること、 局所での疲労に伴う障害因子による粘膜等のバリアーシステムへの障害などがある。 体調に合った適度の運動の持続が免疫系にもプラスの効果を示すといえよう。
著者
Yuki TOYOSAKA Hideo HIROSE
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences (ISSN:09168508)
巻号頁・発行日
vol.E92.A, no.7, pp.1558-1562, 2009-07-01 (Released:2009-07-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

There are two main methods for pandemic simulations: the SEIR model and the MAS model. The SEIR model can deal with simulations quickly for many homogeneous populations with simple ordinary differential equations; however, the model cannot accommodate many detailed conditions. The MAS model, the multi-agent simulation, can deal with detailed simulations under the many kinds of initial and boundary conditions with simple social network models. However, the computing cost will grow exponentially as the population size becomes larger. Thus, simulations in the large-scale model would hardly be realized unless supercomputers are available. By combining these two methods, we may perform the pandemic simulations in the large-scale model with lower costs. That is, the MAS model is used in the early stage of a pandemic simulation to determine the appropriate parameters to be used in the SEIR model. With these obtained parameters, the SEIR model may then be used. To investigate the validity of this combined method, we first compare the simulation results between the SEIR model and the MAS model. Simulation results of the MAS model and the SEIR model that uses the parameters obtained by the MAS model simulation are found to be close to each other.
著者
大江 亮介 鈴木 育男 山本 雅人 古川 正志
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2010年度精密工学会秋季大会
巻号頁・発行日
pp.699-700, 2010 (Released:2011-03-10)

従来よりも現実感の高い蝶の飛行を表現するため,物理法則に基づく飛行シミュレーションを行う.剛体力学の処理には物理エンジンを利用し,抗力による高速な流体力学を新たに追加実装する.蝶の羽は,フラッピング(羽ばたき)とフェザリング(ひねり)が可能である.実際の蝶の測定データを基にフラッピングを行い,人工ニューラルネットワークと最適化手法を組み合わせることでフェザリング角度を適切に制御させる.
著者
小合 彬生
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究論文集 (ISSN:13495712)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.97-106, 2007-06-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
24

The centuries long studies have not defined the palace location of the lady ruler Himiko. The author wishes to propose a physical solution here, thmugh a series of civil engineering considemtions following as close as possible to the original Gishi Wajinden wrote in the third century China.This study concludes that a) Yamataikoku consists of 27 allied coimtries, b) the capital is Ito- no-Kuni where the male king dominates and c) the lady ruler Himiko is in the Fumi no-Kuni sanctuary.Attached map shows the geography ofthe whole country in the third century, inhabited by 70, 000 Wa-Jin families.
著者
竹島 敏正
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
資源と素材 (ISSN:09161740)
巻号頁・発行日
vol.110, no.13, pp.1011-1016, 1994-11-20 (Released:2011-01-27)
参考文献数
12
被引用文献数
2
著者
前川 理子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.79-105, 1998-07-06 (Released:2017-07-18)

本稿は、現代日本で「精神世界」や「ニューエイジ」と呼ばれているような宗教現象の思想的系譜を探る試みの一環として、1960年代末からの青年達の異議申し立て運動との連続性をうかがわせる「ニューエイジ」類似運動を対象とした一事例研究である。本稿の主題は、国内外の社会運動研究者らが70年代にたびたび指摘してきた「新左翼から新宗教へ」と呼ばれる現象に関わるが、日本の宗教学が「ニューエイジ」研究のなかで彼らの指摘を取り上げることはこれまでほとんどなかった。本稿では具体事例として、青年期に学生運動にコミットした経験をもち、現在、気功普及運動を推進しているある人物を取り上げ、その運動の軌跡を、とくにその思想内容に注目しながら明らかにし、彼の中で両運動がどのように連続し展開していったのかを論じる。また、60年代以降の社会運動史の全体的動向の中にこの運動を位置づけ、運動がたどった連続と変容の軌跡に対する理解を深めてみたい。
著者
志水 宏吉
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.558-570, 2015 (Released:2016-05-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本稿では、「教育の公共性」という問題を考える際の切り口として「学校選び」という現象を取り上げる。近年「ペアレントクラシー」という言葉が生みだされるほどに、「教育を選ぶ」人の存在が際立つようになっている。それと軌を一にするように、公教育内部の「差異化」を推し進める新自由主義が日本では主流となり、公教育の実質的な解体が進行しつつあるように思われる。特定の階層・集団のみを利することのなき、オープンかつコモンな公教育制度の再構築がのぞまれる。
著者
谷田貝 雅典 坂井 滋和
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.69-78, 2006-09-20 (Released:2016-08-03)
参考文献数
10
被引用文献数
3

教授者と学習者の視線が一致する一斉講義における遠隔教育の研究事例はない.本研究では,視線一致型テレビ会議システム,従来型(視線不一致)テレビ会議システムを利用した授業と,対面授業における教育効果の比較分析を行った.各授業では質問紙調査と学習効果測定試験を実施した.試験成績を分散分析した結果,各授業間の成績差は見出されなかった.質問紙評価を分散分析および多重比較により評価した後,主観学習評価として理解感と学習意欲に関する項目を省き,因子分析をした結果,「ノンバーバルコミュニケーション」「飽き」「緊張」「視線・姿欲求」「疲労・不満」「弛緩」の6因子が抽出された.各因子を独立変数,試験成績(客観学習評価)および主観学習評価を従属変数として,単回帰分析および重回帰分析を行った.結果,以下のことが明らかとなった.「ノンバーバルコミュニケーション」は,主観学習評価および客観学習評価に対し正の影響を与える.視線が合わない学習環境では,学習者に学習活動の負荷を与える.視線が一致する遠隔教育は,対面一斉講義の教授方略が適用できるが,「飽き」に関する対策が必要である.
著者
柏木 惠子 平山 順子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.122-130, 2003-06-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
48
被引用文献数
4 5

The purpose of this study was to investigate recent changes in marital norm and reality in middle-aged couples, and how marital reality, as perceived by oneself, was associated with their demographic variables, as well as their marital satisfaction. A questionnaire was administered, and 277 pairs of middle-aged, nuclear-family couples participated. Main findings were as follows. First, factor analysis of marital reality variables extracted three factors: love each other, respect for the husband's life style, and respect for wife's life style. Second, concerning the wife's education and income, ‘respect for the wife's life style’ was highest among highly educated double income couples. Third, ‘love each other’ was the most important predictor of marital satisfaction for both husbands and wives. Finally, ‘respect for the husband's the life style’ was associated with husband's satisfaction, while that for the wife's was not with wife's marital satisfaction.
著者
山口 猛
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.21-34, 1995-02-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

鼻閉及び鼻閉感の原因を追求する目的で, 諸条件の許に乾燥空気を鼻腔内に与えることにより, 鼻腔内湿度変化に伴う鼻腔抵抗値の変化から双方の関与を検索し, また, 高齢者における鼻腔機能を青壮年者と比較検討し, 加えて高齢者における鼻閉感と鼻腔内乾燥との関連をも併せて検討した。(1) 青壮年群における鼻内の乾燥化は, 鼻腔内湿度の低下・鼻腔抵抗値の増大・粘液繊毛機能の低下を惹起し, 自覚的には鼻閉感を生じさせる。その原因と推察できるものとして, 粘膜表面の摩擦抵抗の増大あるいは乱流の発生を推定した。(2) 高齢者においては, 青壮年群と比較し, 鼻腔内湿度の低下・鼻腔抵抗値の減少が確認された。また鼻腔内湿度が増加すると抵抗値が減少することを認め, 同時に鼻閉感といった症状の改善が認められた。(3) 高齢者における加湿後の鼻腔抵抗値の減少の要因として, 粘膜表面の摩擦抵抗の減少および乱流発生の抑制などが推察された。(4) 鼻腔形態不良を伴わない高齢者の鼻閉,鼻閉感の治療にあたっては, 鼻粘膜の乾燥を是正することが有用と認められた。
著者
Akiko MIZOTE Mika YAMADA Chiyo YOSHIZANE Norie ARAI Kazuhiko MARUTA Shigeyuki ARAI Shin ENDO Rieko OGAWA Hitoshi MITSUZUMI Toshio ARIYASU Shigeharu FUKUDA
出版者
Center for Academic Publications Japan
雑誌
Journal of Nutritional Science and Vitaminology (ISSN:03014800)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.380-387, 2016 (Released:2017-02-16)
参考文献数
22
被引用文献数
13 33

We previously performed animal studies that suggested that trehalose potentially prevents the development of metabolic syndrome in humans. To evaluate this possibility, we examined whether trehalose suppressed the progression of insulin resistance in a placebo-controlled, double-blind trial in 34 subjects with a body mass index (BMI) ≥23. The subjects were divided into two groups and were assigned to ingest either 10 g/d of trehalose or sucrose with meals for 12 wk. During the study, body composition and blood biochemical parameters were measured at week 0, 8, and 12. These parameters were also measured 4 wk after the end of intake to confirm the washout of test substances. In the trehalose group, blood glucose concentrations after a 2-h oral glucose tolerance test significantly decreased following 12 wk of intake in comparison with baseline values (0 wk). When a stratified analysis was performed in the subjects whose percentage of truncal fat approached the high end of the normal range, the change in body weight, waist circumference, and systolic blood pressure were significantly lower in the trehalose group than in the sucrose group. Our data indicated that a daily intake of 10 g of trehalose improved glucose tolerance and progress to insulin resistance. Furthermore, these results suggested that trehalose can potentially reduce the development of metabolic syndrome and associated lifestyle-related diseases, such as type 2 diabetes.
著者
大原 弘子 赤塚 朋子 友田 薫 萩原 葉子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第56回大会・2013例会
巻号頁・発行日
pp.18, 2013 (Released:2014-01-25)

<目的> 高等学校家庭科の学びが、高等学校の基礎学力の総体というシチズンシップ教育と関連が深く、「将来の多様な選択肢を提示し、その土台をつくり、踏み出す1歩を支える教科」という位置づけを提案してきた観点から、本研究では、高等学校家庭科と大学入試センター試験問題とのかかわりをさらに探り、高等学校家庭科の学びが高等学校の基礎学力の総体とどのような関係にあるのかを明らかにすることを目的とした。<方法> 2008年~2013年における大学入試センター試験問題のうち、2012年を基準に、国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語の各教科のうち、1000人以上の受験者があった24科目の問題を対象とし、高等学校家庭科教科書との関係に注目して、キーワード検索を行い、分析検討した。教科書は、栃木県の履修率が65.9%(「高等学校家庭科の履修単位数をめぐる現状と課題」日本家庭科教育学会誌 第54巻第3号)を占める「家庭基礎」を用い、教科書出版社の教育図書、大修館、実教出版、開隆堂、東京書籍、第一学習社の各社1冊ずつの計6冊を対象とした。<結果> 前回の大会で「高等学校家庭科の位置づけの再検討―大学入試センター試験問題とのかかわりから―」を研究発表した後、反響が大きく、年数を5年間として再度調査することとした。大学入試センター試験問題は、高等学校段階における基礎学力をはかる手段となる。そのため、実際に、センター試験問題と家庭科教科書を照らし合わせてみたところ、家庭科の学びが、24科目のうち平均9.6科目と関係があり、センター試験問題を解く際には、かなりの頻度で思考の助けになっていることが明らかとなった。 試験問題に関係するキーワードを、教科書の該当ページに領域別に色分けした付箋で貼っていく作業を行った。各社の教科書の編集方針によって、その違いはあるものの、概ねどの教科書にも領域別に色分けした付箋が貼られた。 キーワードの5年間の平均数は、65であった。そのうち、毎年出てきたキーワードは、「遺伝子組み換え」、「食の安全」、「世界の食生活」、「子育て」、「介護」、「社会保障」、「地球環境問題」、また「環境」、「家族」、「男女平等」に関することであった。4年間出てきたキーワードは、「消費者」、「少子高齢化」、「トレーサビリティ」、「年金」、「フェアトレード」、「ワークシェアリング」であった。近年の傾向としては、「NPO」、「世界の衣服」、「待機児童」があがってきた。今回の英語の試験問題には「まちづくり」が登場している。 教科としては、現代社会、地理、歴史、政治経済などの社会科や理科総合、化学などの理科について予想通り多く見られた。新学習指導要領から登場する理科の「科学と人間生活」とのマッチングが今後予想される。高校生に他教科と家庭科の関係が深いことを知ってもらうことで、家庭科に対する印象がかわることを示唆している。 高等学校家庭科の現状は、「家庭基礎」2単位履修を選択する傾向も否めず、高等学校の1学年のみの時間数という厳しさもみられる。教員配置も各学校に1名のところが多く、「受験に関係ない」教科という意識が大多数の学校では、家庭科の学びの意識そのものが停滞する雰囲気が学校全体を覆っているといわざるをえない。 本研究の結果をふまえ、家庭科の学びが、高等学校の基礎学力の総体と関連が深く、大学入試センター試験問題を解くうえで、総合的なヒントになることがわかった。高等学校家庭科の授業は、実は、大学入試センター試験問題を解くうえで、これまでの学びの総復習になるともとらえることができる。また、1学年より2学年や3学年での履修や、2単位よりも4単位の履修の方がより確実に学びが生かされるのではないだろうか。大学入試センター試験問題が、高等学校家庭科の学びと関係が深いことが明らかになったことで、この両者が現代生活に資するものであることも確認できた。